02.スプーンのような |
オレが生きているこの瞬間さえ、せまりくる消滅におびえる 空気を吸うことさえ怖がるのは・・・ きっと ひとつめの世界にとらわれすぎているのだろう けれど それよなによりも あんたがくれた言葉に オレは救われた その一言が 暗闇の中からオレを掬いあげた :: side 夢主1 :: 拾ってくれた医者に聞いたところ、ここにオレが生まれた大陸はないらしい。 かわりに告げられたのは、【0NE PIECE】の世界の特徴。 海が世界のほとんどをしめる世界。 そのとき、ここがまた“原作”の存在する世界だと知った。 それはオレに絶望を運んだ。 以前の世界では、オレが記憶している原作の時間が近づくごとに、ふれるものふれるものが徐々にオレを拒絶していった。 はじめは人間。次に場所。次に物。 そうして触れなくなるものが増えていった。 いつからか、大切だった息子にさえ触れることもできなくなった。 腐れ縁の親友にも師にも。 オレが触れるたびに、オレには全身を襲う痛みが走り、彼らはオレを忘れていった。 触れば身体に痛みが走り、その対象者からオレの記憶が薄れていく。 痛みをこらえつつ目を開けば、知人たちのオレを見る目は赤の他人を見るもの。 自分自身を見やれば、自分の身体が消えていくなんて―――あまりいいものではなかった。 そうしてなにもかもに諦めはじめ、自分から何かに触ろうという気もなくなっていった。 もうあまり家から出るのもきついなと思い始めていた頃、仕事の手伝いにと親友によばれていった先で――世界がうごいた。 世界は、大いなる意思だ。 その意思は、遺跡に仕掛けられていた古い罠を自分のいいようにいじくり、それを利用した。 そうして用意周到に仕掛けにひっかかったオレは、発動した罠に飲み込まれ、世界はその罠を利用してオレをあの世界から排除した。 あらがうオレにねっとりとまとわりつき、オレの進むべき方向から逆流する大きな力のうごめきをそのとき、オレは肌に感じた。 まさに世界は生きていた。巨大な自我を持つ蛇の腹の中にオレたちはいたのだろう。 ――いまでもあのときの恐怖を忘れられない。 孤独という暗闇のなかにたたき落とされる感覚。 体からなにかが奪われていく感覚。 すべてが絶望感へとつながった。 けれど、オレはなんとか生き延びることができ、別の世界にやってきた。 方法はわからない。 存在を丸ごと消されかけていたオレは、もうオレという存在ではなくただの記憶の残滓、欠片でしかなかったが、目を覚ますことができたときオレはたしかに生きていた。 しかし喜びもつかの間、そこは原作が存在する世界であることを知った。 原作が存在する世界。 それにオレは、また “あれ” を繰り返すのかと、全身に絶望が降りかかってきたようなあのときの恐怖を思い出した。 世界の全てが怖かった。 いつ自分が消されるのか。 いつあの “いたみ” がおとずれるのか。 この世界に来てから、いつもいつも・・・怖くて怖くてしょうがなかった。 恐怖と絶望。 光も存在しない暗闇。 そこらすくいあげてくれたのは、目つきの悪い医者だった。 『オレの名は “ ” っていうんだ。 なぁ、あんたなら、この名をいつまで呼んでくれる?』 「忘れねぇよ。そういう約束だ」 『・・・なら、代わりにオレは、あんたに・・・・・を贈ろう』 「ああ、充分だ。おまえも俺たちを忘れるな」 『忘れてほしくて、一緒にいるんじゃないよ。 オレは覚えてるんだ。〈あちら〉の世界のこと。すべて。 忘れるのはオレじゃない。・・・あんた達だよ』 「なら、それは俺の敵だ。世界だろうと、たたっきってやるさ」 |