04.子供×島×違和感 |
なんだろう? とほうもない違和感を感じたのは―― この手からこぼれ落ちていくのはなんだったんだろう? それはきっと・・・ 歯車が回り始めた音 :: side 夢主1 :: 時は流れた。 気がつけば、生まれてから三十年以上が過ぎている。 七つ違いの兄弟子は早々に托鉢、もといハゲにみがきをかけ、主と慕う者についていった。 そして侍の道を踏み外し、なぜか忍者の首領になった。 オレは転生の影響か成長が遅いらしく(とまったわけではない)、いまだに十代後半とまちがわれている。 それでも職に就けた。 水分があれば無尽蔵に墨が作り出せること、オーラを通わした墨をあやつれることで、刺青師になったのだ。 もともと絵を描くのは意外と好きだったので、それはオレにはピッタリの転職だった。 〈念能力〉 で墨をじかに肌にしみこませるので、痛みもない。 なのでそこそこオレは知名度をえて、彫師として名を上げていた。 そうそう。この年月の間に、オレにも子供ができたんだ。 とはいえ、血はつながってない。 ある日、職場にオレの名前入りで「あなたの子です」と書置きと一緒に赤ん坊が置いてあったのだ。 調べたところ、以前オレの客だった女がおいていったとわかったが、オレが彼女の存在にたどり着く前に女はすでにこの世をさっていた。 どうしようかと悩んだ挙句、両親に相談すれば、ふたりは嬉々としてひきとれと言ってきた。 その時の子供が、そのままオレの子として引き取ったのだ。 そんなわけで戸籍上はオレのこどもができたわけだ。 オレの子は、赤い髪に緑の瞳。 本当に偶然だが、オレと同じ色を持つ子供は、オレと両親にもよく似ていて、血の濃さを見せ付けられているようだと――保長を含めた知人たちには言われた。 何度も言うが、血は繋がっていない。のにだ。 そんなこんなでオレの両親のしごきに、遊び半分でついていけちゃう凄い我が子が誕生したわけである。 基本根無し草なオレは、子育てしつつ、あちこちで彫士の仕事をしたり、ハンターとしてネテロ会長にこき使われながら、旅をしつつの生活することが多かった。 あるとき、オレはネテロ会長に、ハンター試験の試験官にと任命された。 その時の試験は、結局オレのもとまで受験者は一名もたどり着かず、二つ前の試験で合格者が決まってしまった。 合格者は一人。 名をジン・フリークスという。 そう。あの原作においてとんでもないキーパーソンたりうる男の幼少時代である。 当時のオレは、用意していた試験がなくなったことで、気がゆるんでいたのだろう。 試験会場からの帰り道、うっかり飢えて死に掛けていた子供を踏んでしまった。 謝罪の代わりに食事をおごったところ、なつかれた。 そいつの名は、ジン。 これが今期唯一のハンター試験合格者にして、あのジン・フリークスとの腐れ縁の始まりだった。 ――あの衝撃の出会いから、さらに数年後。 ここは後にとあるゲームの舞台となるはずの島。 横にオレによく似た赤毛の子供が、ツンツンした黒髪の小さな子供をあやしている。 「たかいたかい」と、赤ん坊を持ち上げるオレの子、かわいい。 オレの子ももう12歳だ。今が一番かわいい盛りである。 そしてオレは、外見的にようやく二十代後半にみられるようになった。 これでようやく兄弟ぐらいいにはみられるようになったわけで、オレもはやく童顔を卒業して大人と思われたい。 さて、ここでひとつオレは目の前のヒゲ面に言わなければいけないことがある。 『このオレにこどもの面倒を見させるたぁどういう了見だ若造よ』 オレ、って怒ると笑顔になるんですね☆ しってました。 だからアルカイックスマイルなんです。 外見で侮ることなかれ。 たとえこのヒゲ面親父ことジン・フリークスより、年齢はこうみても上だ。 たぶん目前の青少年たちの二倍は生きている。 外見で笑われることが多いので最近笑うことで威嚇することを覚えたんですよ。 なにせオレはジン・フリークスやその横で正座しているバカどもの親世代の年齢ですからね。 よくなめられるので、いい加減飽き飽きしていたわけです。 そもそもなぜオレが怒っているかというと、こいつらがあまりにビックリなことをしていたからだ。 まず正座して縮こまる七人の 〈念能力〉 の実験を手伝うことになって、この島にきた当初のこと。 数十メートルはありそうな “たかいたかい” をしているヒゲ面男がいた。 そして笑顔で何かなぞの機械に子供を乗せようとしている双子の少女。 片手で赤ん坊の頭をわしづかみにしてぶんぶんとふりまわすでかぶつ筋肉マッチョ。 料理とはいいがたいみごとな焼いただけの謎の食材を子供に与えようとするやつ。 焦げは癌になります! ミルクをつくろうとして、ちがう物体を混入をしようとしているひと。 泣く赤ん坊をよろこんでいると勘違いして、喜んでいるひと。いや、おしめかえてやれよ。ぬれてるだろ! などなど。 なってねぇ。なってねぇよ! 子供、死ぬぞ普通! あげだらきりがないとんでもない子育て光景を見てしまい、思わずオレは彼らから赤ん坊を奪った。 そうして今に至る。 オレの前に七人を正座をさせ、説教中。 なお途中で足がしびれたとか、大の大人から悲鳴が聞こえたが無視した。 あれだけのことをされておきながら子供に怪我はなく、ジンの息子に対し、まじでこいつ人間かと思ってしまった。 オレの横で赤ん坊をあやしてるうちの子が、同じことをされたら間違いなく死んでる。 オレでも死んでる。 そのときのオレは、まさかあの赤ん坊が原作【H UNTER×H UNTER】の主人公になるとは思いもよらなかった。 まぁ、オレには知りうることもなかったのだけど。 と・り・え・あ・え・ず。 『なんで逃げ出してるのかな君たち?』 ジンはケロリってしてるし。 なぁ、一言いいか? 『てめぇらそこへなおれ!!』 ********** パチ 『・・・ん。静電気か?』 「どうしたのパパ?」 『あ、いや。なんでもない』 赤ん坊をあやしていると、ふと手にしびれのようなものを感じた。 おくるみとオレの服のせいで静電気が起きたのだろうと思い、すぐに感情に敏感な息子に笑顔をかえした。 もとからオレは静電気体質らしく、よく息子やネテロ会長ともバチっと触るたびにバチッと痛みが走っていた。 だから気にもしなかった。 『今日は乾燥してるみたいだな〜』 腕のなかで楽しそうに笑うジンの息子をあやしながら、オレは目の前のフィールドに苦笑する。 ジンは島一つ買い取って、ゲームをつくることにしたらしい。 『なにもこんな荒野までつくらなくてもいいのにな』 「パパ、むこうには大きな木とみたことない大きな虫や動物がいたよ!」 『ゲームの領域こえてるよなこれ』 本当の意味でこの島が完全にゲームとなるのは、いったいいつの日のことか。 でかすぎる計画だ。 けれどきっとジンという人間はそれを実行してしまうのだろうと思ったら、思わず苦笑がこぼれた。 自分の息子を返とせまってきたジンに、つきかえすように赤ん坊を渡し、自由になったオレは、その島の散策をすることにした。 オレの子はここが気に入ったのか、町にいったり、ジンたちゲームを作ろうとする七人に話を聞いては、楽しそうにこの島の不思議なものを堪能していた。 『ただの岩も、手で持つと・・・カードになるとか』 本当に不思議だ。 この島をまるっとゲームの舞台にするのだから、オレが思いついた自分の能力などかすっぺもいいところだ。 足元にあった花を摘んで花輪を作ったとしても子供たちのいる場所にまで持っていく前には、きっとカードになってしまうのだろう。 まぁ、もどすこともできたはずだから、腐らないという意味ではいいのかもしれないけど。 そのままなにげなく足元の白い花を手にとり―― 『!?・・・なんだ、これ・・』 のばした手が透けていた。 向こう側が見えた。 しかしそれは本当に一瞬のことで、もう一度花へと手を伸ばした時には、手の向こう側が見えることもなく、なんなくそれをつかむことができた。 わけもわからず形容しがたい恐怖にとらわれ、背筋にゾクリとした悪寒が走った。 その恐怖が手が透けたことへなのかもわからない。 ただ、その場にいるのがこわくなって、あわててジンたちのもとに戻った。 「おーアザナ!いいところに!ゴンが泣きやまないんだよ!助けてくれ」 気付けば肩で息をしている自分がいて。 オレでもわからない。なぜこうまで焦っているのか。なにをこわがっているのかなんて。 ジンはオレの様子がお子かしいのに気付いたようで若干不思議そうにしながらもこっちへこいと、片手にゴンを抱きながら大きく手を振ってきた。 オレはそんなジンに、なぜかホッとして肩の力がぬけるのがわかった。 ゴンの大きな泣き声が聞こえる。 ああ、はやく泣き止ましてやらなきゃ。 そう思って、駆け寄ろうとしたのだが。 『あ、ああ。いまい・・・』 今、行く。そう言おうとしたのに・・・。 ふいに ガクン 『え』 足に力が入らなくなって、その場に盛大にこけてしまった。 石にこけたわけでもない。 なにが・・・と思って振り返れば、オレの足があったであろう場所に、地面が―― 『なんだよこれ!!』 動けと念じても下半身に力が入らない。それどころか、感覚もない。 また足が透けていた。 向こう側が見える。 どこかで恨みを買った?だれかの〈念能力〉によるものだろうか。 それともこの島というゲームに、身体を消す能力があるポイントかイベントがあったのだろうか。 訳が分からなくて、パニックになったオレはとっさに、少し離れた場所にいるジンに助けを求めた。 『ジン!ちょっときてくれ!!』 しかし声をかけたとたん、ジンは驚いたように地面に倒れはいつくばるしかできないオレをみて―― 「あんた“誰だ”?」 『え。なに、言って・・・』 「いつからそこにいた? この島、そう簡単にはいってこれるわけないんだけどなぁ。どうやってこの島に?」 それはまるで初めて会う人間に対する態度で。 『ジン?オレだよ。オレ、ずっとここに』 怖くて怖くて、泣きそうになった。 必死に手を伸ばそうとして、手を伸ばしてほしくて、もう一度彼の名を呼んだ。 「なにしてるんだアザナ?」 『だって、いま――』 「ほら、地面と遊んでないでこっち手伝ってくれって」 さっきの発言などないかのように、ジンは「はやくゴンをみてくれよ」といつもどおりに笑う。 だから動けないんだ。そう言葉を続けようとして、ふと足に感覚が戻ってるのに気付く。 恐る恐る視線を向ければ、オレの身体はどこにも異常はなくて。 「おぎゃーーー!!!!!!!」 「うわっと!?もう怪獣だな!おい、アザナ!!こういうのお前の方が得意だろ!!」 いつもどおりのジン。 なにがなんだか本当にわけがわからなくて。 さっきのはきっと気のせいに違いないと、オレは呆然としつつも大声で泣き続ける赤ん坊のもとへとかけよった。 ジンから受け取った赤ん坊に触れる寸前、またパチンと何かが弾ける音が聞こえた気がした。 『っ!』 「おいおい静電気かぁ。まぁ、この町の外は荒野だしかたないな。あとで加湿器でも作るか」 『そうだなぁ。いっそ温泉でも作れば?』 「お。それいいな!」 笑って、いつもみたいに何気ない言葉を選んでジンに答えた。 オレはいつもどおりに、きちんと笑えているだろうか。 うけっとた赤ん坊は温かかった。 けれど花を摘んだ時に感じた寒気は消えず、オレ身体は凍えたまま。 ――あれは・・・なんだったんだろう。 今思えば。 あれが最初の予兆だったのだろう。 世話した赤ん坊がゴン(主人公)であろうと、オレには関係はなかったんだ だってオレは、これ以上彼と接触することはなかったから それに、なによりは――必要なのは今 オレの役目はこのバカな教育をしている奴らに子育ての何たるかを教えるだけ それだけだったよ オレがこの世界にいるのは、もうそろそろおしまい そろそろオレの、止まったままだった時計の針は動き出す |