【桃組】 02.戦闘放棄! |
<時間軸> 原作桃太郎が、赤鬼と出会った時の話。 前回のフライパン娘の続き。 ==================== side [有得] 夢主1 ==================== オレ、桃園 。 鼻血を流したイイ笑顔で気絶している女の子をひきずって屋上に辿り着くと、待ち構えていたように、なんかキャラが濃い子たちがいた。 なんとなく、二人がいる理由はわかるけど、モデル以上のキラキラとしたカッコイイふたりの少年に、うっとりと煌々とした表情で「我が君」と言いながら、「貴方をずっと待っていた」などのクサイ台詞にどっかの騎士か執事がするような恭しさ。 あまりのくささに思わず力が抜けて片腕で抱えていた少女を落としてしまった。 ドサリ。 目前の二人から「あ…」という声が聞こえたが、オレはしばらく呆然としていた。 むしろオレの脳内では先程の会話がリピートされていて、ここは笑うべきか寒いとつっこむべきか悩んでいたので、三人のことは目に入ってなかったし、足元で気絶していた少女が起きたことも気付かなかった。 それから曖昧な原作知識を引っ張りだしている間に、「貴方は桃太郎です」といわれてお伽噺や呪いの話をきかされて思わず顔がひきつった。 あれ? 原作は微妙に知ってるけど、鬼とおいかけっこする理由がまさかオレの命がかかってたからだとは――し、知らなかった。 「へぇ〜」 獣基三人の話を聞いてオレは愛刀とかしているフライパンを手に、ゆらりとその場から立ち上がると、鬼を退治すべくもうダッシュで屋上から飛び出した。 その時のオレには、桃太郎の生まれ変わりとか、獣基とか頭からぬけていた。 頭の中は鬼を全員ぶったおすことでいっぱいだった。 鬼の顔は実は全員知っている。 とにかく走って走って走った。 だってこの学校メチャクチャ広いんだもん。 目指せ芸能科! そんなことをしていたら勢い余って階段からおちかけた。 そこでまたオレの手の甲にあった桃の痣が浮かび上がったのをみて、こいつのせいかと激しく舌打ちした。 まぁ、このくらいなら落ちても大丈夫だけどね。 前世の方が過激な生活だったし、慣れてるし。 あ〜落ちるなぁ。 まるでスローモーションのようだった。 ふいに白い手がのばされ、ガシッと腕をつかまれた。 落ちる瞬間でさえ閉じず開いたままだったオレの視界を覆うように、“彼”の紅い髪が視界を緋で染める。 前世のオレと同じ懐かしい髪色に・・・・・思わず魅入ってしまう。 当時のオレ髪は赤くて黄緑の目をしていた、童顔だった。かなしくもそれがオレの前世の姿だ。 みいった先にあったステキなお顔をみて、前世とは程遠い美しい姿に・・・なんか世界の無情さを感じた。 また美形… 同じ髪色なのに。なに、あのサラサラな髪質とキラキラと周囲に光が当たっていそうな顔。 オレなんかチビでひたすら童顔で。殺人鬼の親で・・・。 ふぅーっと意識が飛び、そんなわけで、また、うっかりバランスを崩してしまい、今度は二人で階段から落ちた。 オレはともかく、このキラキラした赤鬼の顔だけは守らなくては!! たしかモデルだし!! 咄嗟にオレは、紅を階段とは逆の方へおしやり、慣れた仕草でくるんと宙で一回転してから軽く屈むように手が床に触れるよう足から着地し、スタンと小さな音しかさせずに見事な着地を決める。 「よっと。 それにしても美形って損だなお前。思わず見とれて巻き込みかけちゃったよ。ごめんね」 トラブル吸引体質は階段があればつまずき、水を盛ったウェイトレスがいればこけた店員により水が直撃する。 側で野球をされれば流れ弾が飛んでくる。 などなど・・・・・・流石に毎度毎度階段から落ちてられないからね。 因みに普段こういった身軽さをみせないのは、騒がれたくないし面倒だから。 とりあえず階段の上をみあげたところ、無傷の紅が目に入ってホッと息をつく。 やったぜ世界の皆さん!オレはトップモデルを守ったよ!! 「美人さん、怪我は?」 「すごぉ〜い!」 「はい?」 あれ?さっきとキャラが違うような・・・。 赤鬼さんは、オレの想像しないような子でした。 だって、さっきは凄くかっこよかったんだよ!これぞまさにクールビューティーって幹事で!! なのに階段の上にいるのは、おっとりした子。 普段は騒がれる側のはずの暮内紅が、「スタントマンみたい」とキャーキャー言って、手を叩いている姿には、先ほどとのギャップがありすぎて驚いた。 思わず見なかったことにして、一段下の踊り場だったのをいいことに、オレはなにごともなくかわいい赤色に背を向けた。 フライパンだけは忘れずに拾うと、オレは「あ、まって!」という声に耳をふさいでそくさくとその場から逃げた。 赤鬼との出会い。 オレ(桃太郎)が鬼を放置した――。 |