有り得ない偶然 Side1



【桃組】
フライパンと鳥娘の不運




桜鬼との“記憶”の継承が桃太郎の生まれ変わりなのだと知っているから、オレは絶対に君たちが求める桃太郎ではないと思うんだよね。
自分は別の前世の記憶があるから。

あーでもこのやたらとマイナス思考になりたくないような“不運体質”って桃太郎の証明になっちゃうのかな。








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side [有得] 夢主1
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 引越しの都合で学校からは遠く離れ、さらには事故に巻き込まれて電車が遅れて、チカンに間違われて・・・

まじでどんだけだよこの体は!!

だってこのオレだよ。このオレがミスをするとでも!?
なにせサバイバルしかなさそうなハンターハンターの世界で、気違いの暗殺者として名高いヒソカを育て上げ、やっかい極まりないトラブルばかり持ち込む野生児ジン・フリークスや狸なネテロ会長をかわし・・・45年も生きたオレがチカン!?しかも誤認!!

ありえん。


 なんとこさ学校に着いたときには、なぜか夕日がみえていた。
あぁ、あのオレンジ色が眩しいな。
あと、叔父さんと名乗るこの人、の眼鏡が夕日に反射して、やっぱり眩しい。

「不動産屋のミスで隣町に転居…。
通学に一時間半…。
チカンに間違われたり、脱輪事故で転校初日から大遅刻…」

 ボロボロになりながらも、学園にたどり着いたオレは、叔父のステキな笑顔に、顔が引きつるのをやめられない。

「いや〜聞いてはいたケド、見事なトラブル吸引体質!!」
「ほっといてよ叔父さん。いや。むしろほっとかずにぜひオレの苦労を体験してみますか?」
「え、遠慮しておくよ」

 元は女。そのあと転生して男になった 、享年45歳。
 そのオレが生まれ変わって早十数年。
総合計百才近い爺様の域な精神年齢のオレが、チカンなんかするわけないだろう。
だってオレは自分が一番大事だし、なにより未来を愛する男。
未来に夢や希望をもって日々を生きているのに、こんなくだらないことで棒に振る真似はしないと断言出来る。
だから、こうも頻発するトラブルの原因がオレではなく、“成り代わり”ゆえだといわれれば納得できるのだ。
 転生して、今度は【桃園】と呼ばれている。
名前でわかるだろうが、あの《桃組+戦記》なる桃太郎転生漫画の成り代わりである。
 原作知識は、まぁ、微妙にあるが、あくまで曖昧ということだ。
そのオレだけど“だれ”に、成り代わったかぐらい分かってるつもりだ。
そしてここが、どんな世界かは知っている。
御伽噺の元となった者たちの転生者が集う世界だ。
そして成り代わったオレは――トラブル吸引体質というやっかいなものを背負わされた。

 おかげで友達ひとりできないし。
さらには普通な暮らしさえできない。
前世がまんまサバイバルと隣同士の人生だったので、今度こそゆっくりしたかったのに・・・。
これはないだろうと思う。

「そんな体質じゃあの田舎町では暮らしにくかったろ?」
「ええ。そりゃぁもうとっても。見晴らしがいいせいでやたらとそこらじゅうからボールとかとんでくるんだよ」

 あんな田舎にオレを預けたのはおじさんじゃないか。と、いう意味をこめて。
パンフレットを手渡されながら気遣わしげに聞かれた問いに、そんな裏を含ませてニッコリと告げたら、おじさんはオレから視線をそらして、話をそらすように明るい声で告げた。

「大丈夫!ここは大きな学園だから、きっと気の合う子が見つかるよ…?」

 その言葉によって脳裏に浮かぶのは、叫ばれた悲痛の声。


泣き顔。泣き声。



『この疫病神!!』
『あんたと居たから、うちの子までケガをしたんだ!!
もう、うちの子と―――町の子、皆と遊ばないで!!』

 生まれ変わって思い返すのは、周囲の恐怖にゆがんだ目と罵り。
なにがって、オレの子供らしくない口調や態度、強さが人じゃなく見せていたようだ。
そりゃぁ、しかたないだろ?だってオレは前世の記憶があるんだから。条件反射で攻撃とかよけちゃうんだよ。

だから幼い頃、オレのトラブル吸引体質により、ボールが飛んできたりとかよく怪我をしそうになった。
そのたびに周囲の子供たちも怪我をしそうになって、大人たちからは近寄るなといわれ続けた。

いや。でもね。誰も怪我してないだろ!?
だってオレ、いつも自分の身を犠牲にしてでも周囲に被害がいかないように頑張ったもんよ。フライパンで。

 一番初めの誕生日。血のつながった叔父さんだというひとに願ったプレゼントは防御用のマスクフライパンだ。
ちなみにマスクは、野球のキャッチャーがしているような、あるいは宇宙服か侍の鎧のごとき完全武装装備を願った。
さすがにマスクはもらえなかったけど、フライパンはもらえた。
その日からオレは常にフライパンをもち、オレを直にねらってくる数々の魔球やトラブルなどをなぎ払ってきたのだ。
オレをねらってきた魔球のせいで怪我をしそうになった子供には、ボールが届く前にフライパンで打ち返し、段差とか落ちそうになったら、オレがクッションになってやったり。
もちろんオレは受身を取るし、段差でこけても無事に着地できる。

 あぁ、思い返しただけで腹が立つ。
この体質って実は呪いらしいんだよね。
人生長く穏やかに生きたいだけのオレは、また呪いなんてものをそう何度もくらいたくもない。
しかもこれのせいで命を落とすなんて――鬼を見つけたらどうしてくれようかとおもってしまった。

そう。これもすべて、これのせいで

「トラブル吸引体質ですが・・・な、に、か!?

 オレのステキ笑顔に、おじさんの顔がひきつる。
そしておじさんは校内を案内すると廊下に――

「とっ、とりあえず一通り校内を案内するよ」

 廊下。
窓。

オレの側にいるのは・・・


 オレの横に人がいる。
最近ではトンと見ない光景に一瞬違和感を覚えたとき、ソレがなぜか思い出す。
オレが側にいるとき窓によると必ずトラブルがやってくる。
だからオレの側から人はいなくなった。

――つまり・・・

思い出したと同時に視界の端に物凄い速さで飛来してくる何かが目に入った。

「叔父さん、だめっ!!オレといる時は窓から離れて!」
「え?」

間に合わない。
ねらったようにボールが飛んできて・・・

バリンッ!!

オレはおじさんに覆いかぶさるように前にでて――


「やってられるかー!!!!」


 常に持っているフライパンで、窓を割って飛んできた野球ボールを投げ返す
前世の影響だとは思うんだけど、オレの感情によって目に朱金が混じる。
おじさんが、そんなオレをみて、すでに覚醒したのかとか呟いていたのを昔聞いたことがある。
覚醒?なんだそれは?
 それより窓ガラスの破片が凄いな〜。
全部フライパンで叩き落したけど・・・

 オレが一息つき、ふぅ〜といい汗をぬぐっていると、おじさんはわたわたして腰を抜かしていた。

!だいじょうぶ!?」
「オレの側は危ないっていつもいってるでしょ」
「ご、ごめん!!」

 叔父さんは腰が抜けているのか、しりもちをついたまま。
自分が今一番危険な目にあったのに、それでも一番にオレを心配してくれる叔父さんについ笑みがこぼれる。
たとえ血縁関係がなくとも、この人だけはオレを認めてくれるのに嬉しくなる。

「ありがとおじさん」
?」

意味が分からなくてもいい。お礼を言いたくて笑って礼を言ったら叔父さんは不思議そうにキョトンとした。
そんなおじさんに手を伸ばしてゆっくりたたせると、服についた硝子の破片をはらって、おじさんに怪我がないことを確認してほっとする。
それからしばらくしておじさんはハッと我に返ると慌てたように、「危ないからガラス片には触っちゃダメよ」と「怪我してるかもしれないから医者も呼んでくるから」と、オレを案じる言葉とともにここで待っててと言って走り去ってしまった。
その優しさに本当に嬉しくなる。


「さて」

 おじさんがみえなくなるまで見送ったあと、オレは自分の背後を振り返る。
そこには、いかにも飛び出しそうなカッコウ固まっているかわいい女の子がいる。
彼女はなにがしたいんだろうね。
もしかしてオレがフライパンをださなかったら、ガラスとオレの前に飛び出す気だったとか・・・は、さすがにないよね?

だって、まだ会話さえしたことないし。知らない子だし。

「・・・君、何してるの?」
「あ、あの・・・」

「・・・窓ガラスはなくなったけど、オレといると危ないよ」

「あ、あの・・・我が君、わ、わたし」
「わがぎみって何?オレ、そんな名前じゃなくて、っていうんだけど」
「あ、あの。ではわが・・・いえ、あ、あの…様」
「(なんで"さま"?)なに?」

「ずっと、貴方様をおまちして――」ゴイン

「あ・・・」

 ガラスが綺麗さっぱりなくなった窓から、本日二度目の野球ボールが飛んできた。
それはうるうると目を潤ませて何かを言おうとした彼女の頭を直撃した。
そのままばたりと倒れた彼女はどうやら気を失っているらしい。
なにげなく覗き込んだら、なにやら物凄くいい顔をして「わがきみ〜」と言いながら寝ていた。
あまりのことに呆然としていたけど、ふとこの燦燦たる状況を思い出して顔がひきつる。
このまま彼女をおいていくのはだめだろう。

 割れたガラス。
倒れる可憐な少女。
フライパンを片手に無傷オレ。

廊下の隅に転がって意識があまり向かないが、ふたつの野球ボール。


あぁ、これじゃぁオレがフライパンを振り回して窓を割ってさらには少女を殴ったようじゃないか。

とっさに叔父さんの足音が遠くから聞こえてきたのを境に、オレは気絶している少女を背負って廊下を走って誰もいなそうな屋上へとダッシュでのぼりつめた。





――こうしてオレの桃太郎人生は始まった。











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