有り得ない偶然 Side1



【桃組】
03.夢の中で君と出会う




<時間軸>

原作桃太郎が、前世桃太郎と出会い、鬼の名前を見つけるあの図書館での回。








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side [有得] 夢主1
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 たくさんのひとと出会って。
桃園 は、彼らに〈桃太郎〉と呼ばれた。
楽しかったよ。
色んなことで真剣に笑って泣いて怒って。
みんなで協力して。

 こんなオレにも友達ができたんだ。

 鬼も転生者も関係なく、たくさんの友達。
楽しいって、うれしいって思ったんだ。


 できれば“君”ともそういう関係になりたい。
でも――オレには勇気がなくて。
オレは結局自分自身を疑ってるんだ。
だってオレは<桃太郎>ではない前世の記憶があるんだ。
だからオレは“君”の探す<桃太郎>じゃないのかもしれない。
オレはオレに自信がなくて

 だから
  まだ“君”の名前だけを呼べない。

 ねぇ、でもお願いを聞いてくれるかな。
オレのこと、嫌いにならないで。
オレは君ともう一度友達になりたいんだ。





で も ―― ・・・



ホントウニ?

本当に・・・
オレなんかが、

しょせん成り代わりでしかないオレが、“君”の名前を呼んでもいいのだろうか?








**********








 “そのひと”のことを夢に見ながら 手渡された『想い』の欠片に
オレは・・・


どうしらいいのかな?





『オレはたぶん貴方が待っていた《桃太郎》ではないかもしれないよ』
「        」
『そう。貴方がそう言うならいいよ』
「     」
『……うん』

〈桃太郎〉の言葉に思わず頷いてしまう。
そうして彼の視線が、オレを促すように対岸へ向けられる。
愁いを帯びたその視線を追えば、川を挟んだ向こう側にも桃の樹は咲いていて――そこには綺麗で、哀しい『同一』の女性たちがいた。
容姿や服装はみんなバラバラだ。
けれど彼女たちはみんな同じ存在。
そしてみんな、“同じたった一人”をずっとずっと探して彷徨っている。
グルグル グルグル・・・
桃の樹の周囲を、何かを探すように歩いては立ち止まり、再び同じ場所へと戻る。
ぐるぐると。終わりが見えない輪廻のめぐりあわせと魂の約束の結果を――目に見える形にしたようで、自分とは関係ないはずなのに心がギュッと痛くなった。
そんな彼女たちの姿を見て、オレの傍らにたたずむ〈桃太郎〉は、スっと一つだけ川にかかった橋を指差した。

『橋?でも…オレは』
「          」


橋の前に立ち、向こう側で大きな目を涙で濡らしている少女を目のあたりにして驚く。

『・・・ぁ』

「      ?」
『でも…』
「    」

〈桃太郎〉はいつになく優しい表情で、ポンポンとオレの頭をなでた。
その際に告げられた言葉に、思わず唇をかみしめる。
無意識に力を込めた手が拳を握っていて、掌にじんわりとした痛みが走る。
でもオレは足を踏み出すことができないまま。

わかっている。

だってオレが、他でもないオレ自身が、この〈桃太郎〉の記憶を“見た”のだから。
彼は、間違いなくオレだった。
オレは桜鬼と出会って、〈桃太郎〉の記憶を受け取った。

だから桜鬼が探していた〈桃太郎〉が、“オレ”でいいのだとは分かる。

でも――それは本当に正しいのかわからない。

オレは転生者だ。
この“世界”のことは、漫画で少しかじったことがあるから、微妙とはいえ知識だってある。
ましてや、オレが覚えている“前世”が違いすぎる。
転生者ゆえに、前世は桃太郎なんて立場ではなく、【HUNTER×HUNTER】なる漫画の世界の住人で、とんでもない人殺し野郎の父親で・・・。

そんなオレが、この世界の〈桃太郎〉のわけないじゃないか。

本当に桃太郎としてふさわしいのは、原作の『桃園祐喜』みたいなやつで。
ただこの肉体が桃太郎のものなのであって、成り代わってしまったにすぎないオレの魂は…決して、みんなが望む《桃太郎》にはなりえない。
だから自分が桃太郎と呼ばれるたびに戸惑いが付いてまわった。

そんなオレが、本当の彼女の名を呼んでいいはずがない。
だから違うのだと思う。
だけど――


トンと軽く肩を押されて一歩端に踏み入れてしまった。
振り返れば、〈桃太郎〉がとても優しい笑顔で「行け」と笑った。


『オレが“彼女”の傍に行っていいのかな?』

コクリと頷き返される。
それに今度こそ自分の意志で足を踏み出した。
彼女との約束を果たすため――

背後でバサリと鳥の羽ばたきがしたが振り返らなかった。



―――――!!!


桃花のにおいが香るなか、月明かりの下で君の名を呼んだ。
名を呼ばれ振り返った彼女に、オレは手を伸ばした。










桜鬼と“名前”と前世。











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