有り得ない偶然 SideW
-だれかの短い日々-




貴方たちのことを知りたい
君のことをまた一つ知れた
の、裏側。
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"彼ら"と会うためには、誠凛のみんなに隠し事をしなければいけません。
だって彼らは、誠凛に嫌われているから。
それでも僕と火神君は、"彼ら"に会いにいくんです。

「勝つことが目的じゃない」
緑が一等似合う、眉毛の人がいつだか言っていました。

"彼ら"は、勝つためのバスケをあきらめた人たち。 頭がよすぎるがゆえに自分の限界を理解してしまった彼らは、かわりに楽しむためにバスケを続けている。

そんな"彼ら"がするバスケットは、いつも楽しそうで・・


――本当に 噂って、あてにならないですよね。


だって"彼ら"は、絶対悪なんてものではなかった。

ただのバスケが好きな・・・
好きでしょうがないだけの

バスケットプレイヤーでした。





【 side 黒子テツヤ 】





今日は火「先輩や、他の誠凛の仲間には秘密で、火神君と僕 黒子は、霧崎第一の花 宮字さんに会いに来ている。
誠凛バスケ部はなぜか霧崎第一を毛嫌いしているから、これはもちろん秘密のできごと。



誠凛バスケ部の二年生は、みんな霧崎第一バスケ部員が嫌いです。
木吉先輩の足の故障の原因を花 宮さんがやったと思い込んでいるせいでしょう。

彼らのなかで霧崎嫌いは、とくに徹野●●●先輩がぬきんでていてひどい。
彼女ははじめから、花 宮さんを異常なまでに毛嫌いしている。
あげくどんな自己暗示か、●●●先輩は花 宮さんのことを【花 宮真】と呼び、どれだけ彼が悪事を働いたか、あることないこと声高に日々うったえている。
あまりに詳しく花 宮さんのことを語るものだから、むしろ貴方がストーカーではないかと疑ってしまえるほどのレベルのしつこさで、●●●先輩は常に花 宮嫌いを訴えている。
ときにはどこで録ってきたのか、いままでの花 宮さんの試合映像を誠凛で流し、だれそれがそこで怪我をしたと・・・花 宮悪説をひろめているほど。

まぁ、かくいう僕も、本人と会うまでは彼らを毛嫌いしていたうちの一人ですが。
実際はラフプレーではなく、珍プレーをするひとで。
変な人で、別に“悪”くない人でした。

むしろ僕が花 宮さんに抱いたイメージは、“嫌いじゃない”というものです。
本の趣味は結構一致してるんですよね。えぇ、それはもう不思議なくらいに。
ただし花 宮さんは基本横文字 [原文] 派なので、「日本語を読めよ!てめぇも日本人だろうが!」と言いたくなるのは秘密です。問題はそこだけですね。
それにそばにいても別に嫌じゃないですし。


火神君いわく、僕らは●●●先輩によって洗脳されていて、それを解けるのは花 宮さんだけらしいです。
現に、花 宮さんに会った後に●●●先輩に見せられた映像を見れば、そこには直接接触した光景はなかった。 花 宮さんが映って、次の瞬間、カメラが動きそこで誰かが倒れてる光景が映し出されるという形なので。 花 宮さんがラフプレーをしていたという、確実な証拠にはなりえないものばかりでした。
気付けば、●●●先輩の言葉の矛盾、彼女の奇行に、だんだん目が行くようになってきたほどです。

恋人がいる土田先輩や、●●●先輩から少し距離を置いて日々を過ごしているバスケ部一年生などは、 彼女の洗脳にかかりにくいらしく、彼女の行動に微妙な違和感を覚える程度のようです。
ですが、それも●●●先輩が側にいると忘れてしまう。 なんだかすべてのことが些細なことに思えてしまい、しまいには●●●先輩の言うことが一番正しいように思えてしまうようになる。

抗いがたい存在感。それが洗脳の正体らしい。

ただし、それに対抗できうる要素がこの世には一つあるようで。
そのよい解決方法とは、ずばり花 宮さんとより仲良くなることです。
なぜか花 宮さんのそばにいると、“そういう現象”から解放されるのです。

意味が分からないでしょう?ええ、ぼくにもサッパリです。
ですが、火神君が言うのだから間違いないでしょう。

解せませんね。

本当にあのひと・・・いや、むしろ花 宮さんって、“ひと”なのでしょうか?
もうオタマ○卒業して、お花の妖精フラ○ッテと名乗ればいいと思いますよ。 あのポケモソは、眉毛もいいぐあいで強調されて似ていますし。
しかも〈ミストフィールド〉とか常時つかってんじゃないんですか?霧崎だけに!

それで絶対に特性持ちなんでしょうそのフ○エッテ。〈フラワーベル〉ですね、わかります。
きっと花 宮さんにとっての仲間って草タイプなんですよね、きっと。
げんに、はじめて僕と会った時の火神君とのポケモソバトルでも草タイプ使いまくってましたし。
ちなみに僕としては花 宮さん以外は、草タイプなんかじゃないと思いますよ。
霧崎チームは、どうみても悪かエスパータイプです。
植物名でくくられている無冠の五将だって、木吉先輩は、木は木でもウソッキーぽいですし。ちなみにウソッキーは岩タイプです。
他の人たちが草タイプにみえますか?ひとりなんかついたあだ名は“雷獣”ピカチュウですよ。無冠の人たちって、どの人も植物っぽくないひとたちですよね。
なので、実は草タイプっぽいのは花 宮さんだけです。


※〈ミストフィールド〉
5ターンの間、ミストフィールドにする。
地面にいるすべてのポケモンは状態異常にならず、また『ドラゴン』タイプの技の受けるダメージが半分になる。

※〈フラワーベル〉
特性。味方すべての『くさ』タイプのポケモンは、味方自身以外の技や特性によって『のうりょく』ランクを下げられず、状態異常にもならない。


むしろフェアリータイプって回復系の技多く持ってますよね。
●●●先輩の洗脳(状態異常)をとける花 宮さんは、やっぱり人じゃないのでしょう。
もうポケモソのフ○エッテだと思うことにします。

――とりあえず。
彼が、変な人だというのは理解しました。


火神君はそれがわかっていれば十分だと言っていました。
つまり花 宮字さんは、“そういうもの”だと思うのがいいのでしょう。
ナルホド。人外か。





そんなわけで、彼女の洗脳から完全に抜け出た(火神君から離れたとき●●●先輩に会うと僕も彼女が正しいような気がしてたまにくらっときますが)僕と火神君は、 たまに二人で誠凛のバスケ部のみなさんと帰らず、二人だけで寄り道することがある。

それが霧崎第一だ。

ストバスコートでもいいのですが、それだと花 宮さんがまんがいちにも誠凛の生徒(バスケ部以外にも●●●先輩の洗脳は広まっている)に見つかった時、 確実に騒動が起きてしまうので、それを回避するため、誠凛生が近づかない霧崎第一の近くで花 宮さんたちと遊ぶことが多い。

今日は、花 宮さんとストバスに行く予定だったのですが、委員会が長引いてしまったとかで連絡をもらったので、霧崎の校門前で待機していました。
そこへ霧崎のバスケ部の方が、とおりかかり、花 宮さんが戻るまで一緒にバスケしようと誘ってくれました。
僕たちは喜んで誘いに乗りました。
もともと洗脳が解けた今となっては、僕も火神君も彼らがラフプレーなどしていないとわかっているからです。



さてさて。
別に霧崎がどれだけ噂とは違っていいひとなのかを語りたい場ではないので、彼らの話はここまで。





黒「――っと、いうわけで」

山「いやいや!どんなわけだよ!!」
古「ああ、花 宮がどれだけ素晴らしいかって話だろ。では今日のはなみ」
瀬「うるさいよ古橋」
古「かぶせないでくれないか?やるなら山崎に」
原「そうそう。やるならザキでしょwww」
山「なんで俺!?」

マネ&松本「「・・・」」

山「何その沈黙!?」
マ「だって」
松「だな」
山「おいぃ!!」

古橋さんがいまにも熱いトークを始めようとしたのを、万年寝太郎さんがきってすて、 さわぐ山崎さんに原さんがじゃれつき、同情の視線を向けた坊主頭の12番(松本さんというらしい)とマネージャーさんが山崎さんの肩をたたいた。
みごとな連携です。
僕たち誠凛もチームプレーなら負けませんよ!

黒「ですよねっ?火神君!」
火『は?お前こそ何言ってんだよ黒子。さっきから自己完結やめろ。ってかお前、その手に持ってんの何?』

ばれてしまってはしかたありませんね。

山「かくせてねーよ!むしろ大々的に撮ってる!撮ってるから!」
黒「このデジカメは古橋さんからお古をいただきました!高性能ビデオカメラです!これで火神君の勇士を残すんです!!」
火『いま、伊月先輩がいたらいい顔してそうなダジャレが浮かんで俺のなかで消えたわ』

自重しろといわれましたが、いいじゃないですか!試合でもないし、もらいものですよ!ただですよ!
古橋さんだって今、カメラを片手に、体育館の隅で他の部員たちとなんらかの打ち合わせしてる花 宮さんを撮っている。
あ、どこからともなくチョコレートを取出し食べようとしていた顧問先生の手を花 宮さんがパシリとはたいている。 その光景をじぃーっと音がせんばかりに、古橋さんが凝視している。

古橋さんがいいなら、僕だって!!
僕だって撮りますよ!
誠凛にいたらいつも限界超えても練習につぐ練習で、カメラなんて構えているゆとりありませんからね。こういう時こそです!

そんなわけで、僕の掌にはハンディー○ム(笑)。古橋さんの手の上にもビ・デ・オ(最新)。

ええ。もうどんどん動いてください火神君。
君の耀きは僕がくまなく撮影し、後世に残して見せますから!

とりあえず火神君がらしくもなく、ダジャレをひらめいたシーンの目が死んだ魚の様になって遠くを見つめていた瞬間は、しっかりスマフォの方で撮影しました。
めったにみれない光景なので、これはもう連射しなければなりませんでしたが、影の薄さを利用して僕の手元に意識させないようにして、かわりに僕の指はうなりました。


火『お前、そんなキャラだっけ?』
松「まるで古橋が二人いるみたいだな」
山「黒子って…」
瀬「なんだ、ただの古橋二号か」


黒「とりあえずキリーズはだまれです!!」


松「キリーズ?」
山「霧崎第一ってながったらしくて言いづらいからだろ」
瀬「かわいい響きで」
原「キリーズwwwwブッフォ!なにそれ!おれたちのことなの?おれたちそんな可愛いくくりにされちゃうの!?ちょっとwwまじうけるwww」
マ「それ、私も入ってるのかしら」
松「愉快な仲間たちって意味だな。そして俺はそのメンバーにはいれないでくれ」

黒「全員そろってキリーズです。
そんでもって今日はカントクも先輩たちもいない!つまりは僕が僕の光のためだけにこの腕を振るえる特別な日!
だから霧崎の皆さんはどこか視界(という名のビデオカメラの領域)から消えてください。 貴方たちがしゃべると個性が強いので、僕の光が霞んでしまいます! ええ、そうですとも!霧崎だけに!霧が立ち込めるように僕の光がかすんでみえ!って本当に視界を遮るとか。原さん、邪魔です。ハウスですゴー!花 宮さんのとこまでハウス!」

山「霧崎って名前だけでよくそこまでいろいろ浮かぶなお前」
松「詩人だな。そして見事な猛獣使いだ」
黒「いえいえ、それほどでも」

原「ぶふっwwwwおれだけwwいろいろ理不尽wwwwww」
山「草刈れ」

古「黒子、ちゃんと花 宮の華麗な動きもそっちで録ってくれ。そしてあとでトレードしよう」
黒「いやです。僕のカメラが映すのは僕の光だけです!
ですがもしもたまたま映っていたらその画像トレードしてさしあげましょう」

松「俺達はあっちにいっていよう。花 宮より先に練習しておかないと後が怖いしな」

マ「そうね。じゃぁ山崎、瀬戸くん運んでー」
山「俺かよ!?松本でもよくね!?」
松「いや、お前の仕事だろ?」
山「原は!?」
松「あいつは笑いすぎて腹筋痛めて、そこで呻いてるから無理だろ」

黒「キリーズハウス!!」

原「またwwぶっふぉ!あっははは・・お、おなかいたい・・・キリー・・・あはははぶっふぉ・・・か、かわいい霧崎とか何それ? ぶっふっ!ヒー!!・・・た、たすけておなかいたいぶっふ」

マ「通称ひとはこの現象を思い出し笑いという。
これはもうだめね。笑い地獄の無限ループに突入したみたい」
山「・・・・・」
瀬「zzz」



僕と古橋さんがビデオをかまえて、みなさんの部活風景を撮影中。
ゲンナリしている火神君。
いまだ笑い転げている原さん。
笑い転げている原さんの横にしゃがみ込んで、つっついたりくすぐったりして、 さらに笑い殺そうとしているマネージャーさん(マネさんはズボンまでしっかりジャージだったので、 うちの学校のカントクや桃井さんとは違ったイメージをうけます)。
いびきをかいて寝ている瀬戸さん。
そんな瀬戸さんに「おきろ!」と罵声を浴びせながらも放置はせず、背負って移動させようとしているオカンな山崎さん。プライスレス。
愉快なメンツを放置して、さっさと他の部員たちのもとに声掛けをしている松本さん。

・・・・・・。
松本さん、クールですね。



花 宮さんが戻ってくるまで、松本さんを抜かしたレギュラー陣は行動をしておらず――


花『君たちは、なにをしているのかな?』


それはそれはさわやかな声が響きました。
いっそかわいいといえるようなちょっと高めのやわらかな声です。
ですが、その声にバっと全員が振り返れば・・・。
いつからそこにいたのでしょう。バインダーを手にした花 宮さんが。それはもうすてきな笑顔に、青筋を浮かべて、ニッコリと笑っていました。

山「やべっ」
原「おはなwwwきりってぶふっwww黒子が黒子がwwwwつぼにきたwwアハハwww」

花『火神たちがきてるからといって誰が遊んでいていいと言った?体慣らしとけって言っただろうが!!松本の爪の垢でも飲んで反省しやがれ!!
瀬「ふがっ!?」

花 宮さんのニッコリ笑顔は、次の瞬間にはきつく吊り上り、彼の罵声が体育館に響いた。
その声で瀬戸さんが飛び起きる。
奥の方でしっかり練習に励み、準備運動をしていた部員たちが、一瞬振り向いたもののいつものことだとばかりに笑いながら続きを始める。

花『さっさと外周いってこい!!』
古「理不尽だ」
山「くそぉ、松本の奴相変わらず逃げるのがうまい」
原「え。うそ!?ほんとだいつのまにかいない!まつもっちゃぁん!?ひどい!うらぎりものー!」
瀬「俺も松本の方に加わりたかった」
花『問答無用!お前もだ瀬戸!お前も今日は外周!!』

花 宮さんは般若の形相で眉と目を吊り上げています。
レギュラー陣は、笑顔で手を振るマネージャーさんに見送られ、外周に出されていた。
ちゃっかり松本さんは逃れてるとか。あのひとが、この部で一番やり手な気がした。
山崎さん以上の、ただのモブと思ってすみませんでした。



火『怒ると笑顔になるのか・・・じゃなくて、外周追加ってのはウチ(誠凛)と変わらないな』
黒「ですね。ですが、花 宮さんって結構あまいですよね」
火『あーっと。アザナ先輩、辛党っというか、甘いの嫌いだぜ?』
黒「いえ、そうではなくて」

たぶん相田カントクなら、遊びに来ているからといって、準備運動でさえ気を抜かないし、 きっと他校のやつが無断で撮影とかしていたら機械を没収して、あげくデータを削除するのだろう。
それはたぶんどこの学校でも同じだと思うけど。
けれど花 宮さんは、古橋さんからうばったビデオを精密機械だからという理由で、練習の邪魔にならない位置に、しかも丁寧にそっと置いていた。 なお、データはそのままである。
データ・・・消さなくていいのだろうか?花 宮アルバムとか古橋さんなら作っていそうだけど。そのことを指摘して聞いてみたところ、 『古橋は個人情報を外に流すようなまねはしないから、問題ない』とのことで。
自分に無害だからデータとか消さないらしい。
なんて信頼。
言われてみると、僕なんか、いまだにビデオを録画したままだ。
それに客だからと、ゆっくりしていろとは言うが。僕たちに練習を強要してはこない。
ん?
あれ?それって、つまり僕も信頼されてるってことですか?
・・・。
なんだ、このツンデレは。


黒「花 宮さんって・・・変人ですね」

――優しいですね。

本当に言いたかった言葉は飲み込んだ。
でもさすが僕の光です。火神君は僕を見て楽しそうに笑うと、わしゃわしゃと頭を撫でてくれた。

火『・・・身内だと認めたもん、すっげー大事にするから、あのひと。黒子も、もう身内かな?』



ちょっと火神君、なに照れて・・・・あ

火『どわっ!?』
花『ちげーしバァーカ!バーァカ!!百回人生経験積んでからやり直してこいカスが』

ふいに火神君が前のめりにたおれたから何事かと思えば、 先程まで火神君が立っていた場所に緑ジャージをしっかり着込んだままの花 宮さんが右足をあげた状態で立っていた。
その顔は怒っているというより、本当に相手をバカにしているような"悪童"そのもので。
顔の表情筋が感情についてこない僕としては、ああもコロコロ表情を変えられる花 宮さんがちょっとうらやましいと思ってしまいます。

黒「ゲスデレ万歳(棒読み)ひざかっくんしたんですか」
花『そう。膝、カックン』
黒「ワァーステキな発音。カックンのイントネーション、おもしろいところにつけますね」
花『照れてはいねぇからな?
ああ、そうだ。バスケやるならお前らも軽くアップしとけよ』

黒「了解です!」
火『ぅっす!バスケー!!』

花『準備運動はしっかりと!プールだって柔軟せずにはいったらよくないって言われてるだろ。ほら、お前らは松本たちとストレッチしてこい』


バインダーをあおぐようにして、しっしっと虫をはらうようにおいはらわれたが、本当にこの保護者ポイひと誰ですか?悪童ってどこにあるんですか?
僕たちは花 宮さんに元気よく返事を返して、手を振っているバスケ部員の人たちのもとへ駆けた。
なんでしょうね?
花 宮さんと話していると、つい自分がこどもに戻ったように、嬉しくなってそのままこどもっぽくテンションが上がります。
これはあれですね。
孫にかまうおじいちゃん!おっとしつれい。おじいちゃんにかまわれて、あげくおこずかいをもらってはしゃぐこどもの気分でしょうか。
まぁ、どちらでもいいです。

花 宮さんはまだやることがあるようで、皆さんと一緒に運動はせずマネージャーさんと一緒にあちこち動き回っては、指示などを出しています。

火『よろしくお願いしまっす!!』
黒「おねがいします」

火神君はバスケができる!とそれは嬉しそうに声も張り上げて、ブン!と音がしそうな勢いで霧崎のひとたちにお辞儀をしている。
僕もペコリとお辞儀をする。
僕たちをまねいてくれたのは、なんと三年生の先輩さんでした。
みなさん僕らが他校生で因縁があるはずの誠凛の生徒であるにもかかわらず、「今日はよろしく」「たのしんでけ」などと温かい言葉をかけてくれました。
学年による先輩後輩としての態度はあるものの、基本この霧崎第一のバスケ部員の皆さんは同好会という感じでとてもみなさんが仲良しです。
思わず先輩の方に、年下がレギュラーで文句はないのかと、思わず聞いてみたくなってしまい、それが顔に出ていたのか三年生方に笑われてしまいました。
どうやら僕は、古橋さんよりは表情筋が動いていてわかりやすいらしいです。

二年「そもそもバスケ部廃部になりかけてたし。バスケやれるだけでもうれしいかな俺は」
三年「俺達三年は、まぁ、受験勉強の生きぬきで参加してるだけだしな」
三年「だな。うちの学校進学校だから、二年の後半で大概部活はやめる。勉学の方に集中するためだな。ちなみに俺はすでに推薦で合格決まってるんで参加継続中の勝組みだw」
三年「嫌味だよなこいつwww」
三年「俺はだれがレギュラーでもきにならないかな。試合の時はレギュラーで組むけど、普段は俺らだって花 宮と相手させてもらえるし」
一年「でっすね♪花 宮先輩、ひいきとかしませんし」
一年「レギュラーだから特別メニューを組むとかってわけじゃなく、ちゃんと全員で試合とかするんですよぉ」
二年「あ、あと、あいつひとりひとりの実力が伸びるように、細かくメニュー組んでくれるんだよ」
三年「そうそう。っで、ハナミヤと言えばアレだ!」
三年「一番といえばアレだよな」
一年「アレですね!」
二年「ああ、アレな」

試合中でも本当に彼らは楽しそうにバスケをしますからね。
花 宮さんはよほどいい指導をしているのでしょう。慕われているのがよくわかります。

っと、思っていたのですが

黒「ん?“アレ”ってなんですか?」
霧「ああ、それは――」



霧「「「「花 宮の手作りケーキ!!」」」」



霧「これがまた美味いんだわ」
霧「しかも運動した後のことも考えてけっこうさっぱりしてるのとか、カロリー計算ばっちりさえた野菜のケーキだったり」
霧「ただお茶会するだけってこともあるよな」
霧「うん!うん!」


花 宮さんの指導のたまものではなく、食べ物で釣られていたようです。
なんかさっきまでのいい雰囲気が台無しですよ、霧崎の皆さん。

あ、火神君が、うらやましそうな顔をしています。

安心してください火神君!僕は貴方のお弁当で生かされています!!
花 宮さんの弁当ではいかされてないので!火神君の手料理の方がおいしいに決まってます!!この僕が保証します!
僕は火神君が作る料理の方が好きですよ!花 宮さんのよりも!!
とはいえ、花 宮さんの手の込んだ手料理までは食べたことないですね。せいぜいシロップ漬けレモンやオレンジなどのはいったクッキーくらいでしょうか。

・・・・・・今思うと、あれもけっこうこってましたね。





花 宮さんの料理の腕がどのようなものか、それはさておき。
霧崎の皆さんはどのような準備運動をするのでしょう?
せっかくだから見学させてもらいましょう。
他校の練習風景をまじまじと見れる機会なんて、そうはありませんからね。


っと、おもっていたら、ふいに火神君の悲鳴が上がりました。

火『だぁー!!!!もう無理っ!!』

声につられるように火神君をみやれば、霧崎の一年生が苦笑を浮かべて、火神君の背を押しています。
どうやら前屈をしているようなのですが。
僕はその光景を見て思わず目を見張りました。

なんと火神くんは身体が硬かったのです。

火神君の上半身は、床から遠いです。

あれ?いままで一緒に練習してきて、僕、全然気づかなかったのですが。
あ、そういえばこういう前屈とかはさすがにいつもさらっと流して他のばかり重点入れてましたね。
僕はよく準備運動のとき床とお友達になっていることが多いので、たぶんそのせいで見過ごしていたんですね。

それにしても固い。
他の霧崎のみなさんもあまりの火神君のかたさに、苦笑を浮かべていますよ。
爆笑しているかたはいないので、やはり彼らは優しいのか、あるいは進学校ならではの行儀のよさというべきなのでしょうね。

火『もう、だめ・・・だぁ』
一「じゃぁ、違う運動しよっか。さすがに無理やりやりつづけたら人体痛めちゃうしね。ふたりとも花 宮先輩の招待客なわけだし」
一「花 宮先輩、心配しちゃうから。怪我だけは勘弁してくれよ」

僕らと同じ一年生君たちはとてもいい人でした。
っが、しかし。

花『心配なんかしねーよ!










―――な、わけねぇだろ!!誠凛コンビだけじゃなく、ここにいる全員だ!怪我すんなっ!!処理が面倒だ!』



霧「「「ごちそーさまです!」」」


見事ないたわりの言葉をいただきました。
やだ、なんですかあのひと。
普通は「心配したよ。…な、わけねーだろ!」ってくるなら、わかるんですがね。
ツンデレでさえなかっただとぉ!?
しかもそれを照れることさえなく、真顔で「心配かけるな」と言うんですから。
なにこのひと。
面白い人ですねぇ。


霧崎のひとたちが花 宮さんのお言葉をかみしめて悶えている間に、火神君はこの後控えているバスケが楽しみで仕方ないのでしょう。さっさと準備運動に戻っていました。
僕もそちらにいこうとしたところで、僕は花 宮さんの表情が目に入り、思わずそちらに向けようとしていた足を止めました。
花 宮さんは、火神君の様子をとおくからみていたのですが、火神君の体がカタイと知るとニタァと怪しい笑みをうかべていました。
そのいたずらをしかけんとする子供のような表情をみてしまった僕は、何が起きるのでしょうと楽しみになって、ビデオをかまえました。

そして花 宮さんは気配を消して火神君に近づくと――

花『かーがーみーくーん。お手伝いしてあげるよ☆』

前かがみ状態の火神君の背後に回り込み、ジェスチャーだけで一年生君と場所を交換すると、それはもう思いきっり、 グッグッグッ!と火神君のまるまっていた背を押し始めたじゃぁありませんか。

火『うぎっっ!!!!』
花『お前、あんだけピョンピョンしなやかに飛ぶくせにどーしてこんなに身体が硬いんだよc(`・ω´・ c)』
火『痛い!アザナさんっ押さないでっ、イッテェェェェェ!!(´□`;)』
花『この体勢でも硬いのかー。フハッ』
火『黒子助けてっ』
花『オイオイ、ここで相棒にヘルプとは早いんじゃねーの?』

ギギギギとアニメなら鈍い音がしそうな感じです、ハイ。

助けたいんですがこの写メと動画録り終わるまで待っててください火神くん!
花 宮さんと火神くんの貴重な青春の一頁(日常編)なんですよ!

あ、本当に花 宮さんイイ笑顔ですね〜。
これはあとで古橋さんに高く売りましょう。花 宮さんのいたずらっ子顔なんて本当はめったにみれないらしいじゃないですか!
もちろん君の涙目勇士に関しては、永久保存版で保管しておきますので安心してください!


しかし、どうしたものでしょう。
僕が撮影に夢中になっている間に、気付けば、火神君は前屈だけでなくプロレス技をかけられています。
もうそれは柔軟ではありませんと言うべきですか?
そもそも火神くんは、“技”をかけられていることに気付いてるんでしょうか。





―――しばらくして――



花『ふぅ。………火神との新たな遊びを発見した(´・∀・` )』
黒「それ、遊ぶ(あそぶ)ではなく弄ぶ(もてあそぶ)の間違いではないですか?」
花『そうとも言いますね(ニッコリ)』
火『やだ、アザナさんがイキイキしてやがる!!(涙目)』

ほんと、キラキラさわやかな笑顔で身体が硬い人にとっては行っているのが鬼の所業ですよね。
そして花 宮さんは事の他火神くんを構うときに容赦ない。
後輩とはいえ、なぜ火神君だけに!?

とりあえず

黒「壊れない程度にお願いします。僕の光なので」

もちろんと頷かれたが、とてもさわやかな笑顔でした。
やりとげた感がハンパナイお顔でした。

火『どうして俺ばっか・・・』
花『いじくりがいがあるんだよ。というか、火神の反応がとても楽しいので大好きです』
黒「歪んだ愛情表現ですねー」
花『その光景を真顔で連写する黒子も相棒に対して愛情が歪んでんだろ』
火『流石に愛でろと言わないが、嫌われるより余程ありがたいと考えるべきか……』
黒「火神くんは花 宮さんにやり返すとか考えないんですか?」
火『ハッ!?俺が、やりかえす?思い浮かばなかった』
花『却下。その行為をすべて潰すだけだ』
火『そ、そんなに言うなら、字先輩こそ!』

黒花「『ん?』」

火『前屈できんのかよ!です!!』


火神君が珍しく言い返しました!
っがしかし。

花『フハッ!なんだ。そんなことか』

花 宮さんははなで笑うと、床にペタンと座り、そのまま前に上半身を曲げます。
しょせん前屈ですが・・・

花『どうだ。オレはお前と違う!』

花 宮さんはドヤ顔しながら地べたに座ると足を大きく広げて、まるで新体操かバレエのようにベタっと身体を倒したのです。
もののみごとに床に上半身がくっついています。
しまいには正座をしたままそのまま背後にブリッジとかしはじめた花 宮さん。
下手したら中国雑技団の妙技とか出来そうな軟らかさです。

ポケモンの趣味といい、なんと身体まで正反対の二人なんだ。



火『字さん身体軟らかすぎだろ!』
花『お前が身体硬すぎるんじゃね?』

言い争う二人をよそに、僕は録画のスイッチを切りました。
はぁー。満足いくものが取れました。十分です。



どうせです。
僕の意見を聞いて下さい。

思うに――



黒「花 宮さんのは、逆に軟らかすぎて気持ち悪いです」



花『orz』
火『ぶふっ』

言ってやりました。
僕はいま、とてもスッキリしています。
かわりに花 宮さんが撃沈していましたが、どうでもいいですね。

ただし、やりすぎは何事もよくないってのは、よくわかりました。

それにしても火神君まで爆笑して。
花 宮さん、やるじゃないですか。伊月先輩のダジャレよりおいしいようですよ。


やはり笑顔が一番です。
火神君も素敵な笑顔になっていますし、周囲の皆さんも楽しめたようで何よりです。





 


:: オマケ ::

火『うう…明日は絶対筋肉痛だ』
黒「今日は災難でしたね火神君」
火『もっと早く助けてくれよ黒子』
黒「ふふ、それは失礼しました」

黒「ねぇ、火神君」
火『んだよ?』



黒「僕、霧崎第一って嫌いじゃないです」



火『そっか』
黒「そうなんです」





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