有り得ない偶然 SideW
-だれかの短い日々-




温 泉 事 変
アニメでいうなら、第2期12話
漫画では13巻
霧崎VS誠凛の試合後 温泉にて。
----------------------------


誠凛高校は霧崎第一高校との試合を終えて、ウィンターカップの出場が決まった。
横で試合をしていたチームは秀徳高校が勝利をし、それによりウィンターカップの出場校が決まった。





【 side 日向 】





俺らが“花 宮真”ひきいる霧崎第一に勝ってから少しして、うちの学校の監督、相田リコ監督が、慰安旅行と称して温泉に連れて行ってくれた。
彼女の知人のやっている宿で、安くしてくれたらしい。

温泉につかっていると、気が緩む。
だけど明日からは戻って練習再開だというから嫌になる。

ほとんど貸切状態で、俺達しかいないからか、小金井がバタフライするし、他の奴らは腰にタオル巻くし、黒子が2号と一緒に泡まみれになってたし。

男はタオルなんてするもんじゃない!!
なのにあの火神までタオルを腰に巻いてるし!!

ツッコミどころは満載だ。

腹が立ったので、体をあらっていれば、柵の向こうから複数の女の子の声が聞こえてきた。

そっか。隣は女子風呂か。
うん。普通はそうだよな。
そっか。じょし、ぶろ・・・。
・・・・・・・。
・・・・

木「隣もずいぶんにぎやかだなぁ」
伊「そういえばさっき女子大生のグループがフロントにいたなぁ」

伊月の言葉に一番最初に反応したのは、小金井で、俺と入れ違えに背中を洗い始めた火神を無理やり引っ張って肩車をしてもらっていた。

金「火神、発進!」
伊「っておい!どこに発進する気だよ」
金「そんなのきまってるだろ!」

火神はというと「俺、怒られたくないっす」と渋い顔をして、肩車したはいいものの足をその場で止めている。

その手があったかと、俺は水戸部に頼んで肩車してもらう。
小金井。一緒に、あの向こうをのぞきにいこうではないか!

伊月につっこまれたが、お前はイーグルアイがあるから、肩車する必要うがないだろうが。
木吉はあの柵の楽園が気にならないのか、のんびり風呂に使ったままだ。

木「リコにみつかったら怒られるぞ」

大丈夫!こういうのはばれなきゃいいんだ!!


そこからはなんというか・・・。
黒子がのぼせて一抜け。
伊月の指示で火神が黒子を連れて二抜け。
せめて柵の穴から向こう側を見ようとしたら、カントクがきて、木吉以外がなぐられて――。


いつからいたのか、桐皇のやつらがいた。

今「たまたまやで。たまたま近くで練習試合やっとって。たまたま温泉にでもつかろうってことになって。たまたまや」

むこうのチームのうさんくさい口調のあの眼鏡主将が、真意を悟らせない笑顔のまま答えた。
それからなぜか裸の付き合いだ!やってやる!・・・やらで。まぁ、話の流れというやつだ。それで賭けをすることになった。
賭けの商品はジュース。
示されたのは、俺たち誠凛の残ったメンバーと桐皇のやつらが全員入っても問題なさそうな大きなそれ。

サ ウ ナ だ。

そうして俺たちの、熱血対決が始まった。
初めにサウナの暑さに耐え切れず飛び出ていったのは、桐皇の若松。
桜井が途中で倒れそうになっていたが、気力でこらえている。
その後、もどってきた若松は、本人は「復活!」なんて言ってたが・・・あれはもうアウトだろ。

今「そういえばこの前の試合みたで。あらためてWCへの出場オメデトーさん」

ふいに声をかけられた。
相手が相手だけに、正直に喜べず、思わず物調ズラに返事をしてしまう。

日「どうも」
今「夏からずいぶんレベルアップしたみたいやなぁ。見違えたで」
日「そんな話しにきたんじゃねぇだろ?こんなところでたまたま出くわすなんて偶然そうそうあるわけない。いったいどういうつもりだ」

心意をとえば、今吉さんはフッとおかしそうに笑った。

今「近くで練習試合ってとこまではホンマやで。ただ偶然やないってのもその通りや。
きみらがここにおるって知って、挨拶しとこ思ってな」

そうして今吉さんから一枚の紙を渡される。
受け取れば、そこには驚くものが書かれていた。

今「ウチのマネージャーが手に入れたウィンターカップの組み合わせや。ホンマは発表はもう少し後なんやけどな」

ぶっちゃけ、いままでどこに持っていたとか、発表前の情報どうやって手に入れた!?とか。 盛大に突っ込みたいところはあったが、状況が状況だけにそんな空気ではなかったので、その言葉は黙っておいた。

だけど表の中を読んで目を見張る。
ウィンターカップの初戦の相手が、誠凛と桐皇となっていた。
なんだ、これ。
これはおかしいだろう。
だって

日「なんで?一回戦で同じ県の代表高どうしはあたらないはずじゃ!?」
今「ふつうは、そうやけどな。
ただ、特別枠で出場する高校は例外なんやそうや」

特別枠――その言葉で納得する。

今「っちゅうわけで」

今吉さんがニィっとばかりに口端を持ち上げる。


今「よろしゅう、たのむわ」


みれば桐皇のやつらが挑むような目でこちらをみてきている。

今「ウィンターカップ初戦の相手はうちらや」



日「――首洗っても待ってろ!」

俺達だって負けてない。
負けるつもりはない。

今「はは。いさましいなホンマ。ただ――」

今吉さんの威圧感?そんなの関係ない!! 宣戦布告してやれば、今吉さんがおかしそうに笑う。
けれどそこには喜怒哀楽といった大きな感情は含まれていない。
かわりに冷たい物が混ざっている気がする。

今「関心はせんなぁ。
強なって、差をつめたような気になっとるみたいやが、なんか忘れてへんか」
伊「忘れてる?」
今「ちなみに今日の練習相手は丞成(じょうせい)やってんけどな」
伊「丞成・・・」

丞成といえば、予選で俺達が戦ったところだ。
スコアは・・・たしか61対108で、俺達が勝った。
その丞成がどうした。

そんな俺達の怪訝な態度で考えてることが読めたのだろう。
今吉さんは楽しげに

今「結果は170対39で、まったく相手にならんかったけどな」

あまりの点差に、俺以外のみんなも驚きを隠せない。
その様子さえ分かっていたように今吉さんは笑みを深めるだけで、とまることなく言葉は進む。

今「こどもでもわかる単純な話や。インターハイから半年たってる。その分、練習して強くなっとるのはどこも一緒や。
同じ全国大会でもウィンターカップはすべてのチームが数段レベルアップしてくる。わしらだけ、前回から何も変わってないわけないやろ」

細い目を見開いてニィっと笑う様に、思わずビビリそうになるが、こちとらびびってられるか!!
挑発じみたそれに気づけば誠凛の全員が立っていて、桐皇のやつらへ挑戦状をたたき返す勢いで睨みつけていた。

勝つのは俺たちだ。
言葉にしないままに睨み合う。


その途中で、今吉さんがパンと手をたたいて、その何とも言えない空気を壊した。

今「はい。この話はここまでや。
そろそろでよか。他のお客さんの迷惑になっとるかもしれへんしな」

あんまりにもサウナのなかに人がいすぎて、他の客が入りづらくて、だれもここに入ってこないのかもしれない。
そう言われれば、それもそうだ。と、一斉に外に向かう。


若「そうときまれば、さっさとでようぜ」
金「こんなあついところ長居したくないよ」
伊「ほんとにな」
諏「熱中症になられても困るからな。ほら、いくぞ」
桜「し、死ぬかとおもいました」
「「「同感」」」
木「え。まだまだいけるだろ?」
日「お前は黙っとれ」

さすがにこの暑さはきつかったのだろう。
桜井のほかにも数人、ほっと息をついていた。


伊「あ、え?じゃぁ賭けは」

扉により近かった桐皇のやつらが扉に手をかけた途端、思い出したように伊月が声を上げる。
それに全員の足がぴたりと止まる。

そうだった。

賭け。
その言葉に外に出る気満々だった全員が、意地でも出るかという雰囲気に逆戻りしてしまう。
しかしそこにため息が割って入る。
その微妙な空気を壊したのもまた今吉さんだった。

今「無粋やなぁ伊月君。せっかくわしが穏便に終わらそ思ったんに。
そもそもそちらさんの方が人数多いんやで?ま、はじめにルールを細かく決めなかったのがアカンかったわ。 とはいえ、こっちは若松がアウトやし。せやから、一度外出てから決めへん?さすがにこれ以上は体にもよくないやろし」

さすがは三年生といったところか。
まとめるのがうまい。
っが、俺はまだいける!そういう態度をとって、しぶしぶという風を装って、頷く。
だってこのままハイソーデスカと頷いてしまうと、負けたようで悔しいじゃねぇか。
伊月やあちらの三年方には見破られていた気がするが、この際どうでもいい。


それから、サウナをでればバラバラと散ったやつらから「あつかったねー」などと声がもれる。


そんな中、ふいに隣から鈴を鳴らしたような可愛い声が響いた。

『キョー兄さん、いる?』

それは女風呂から聞こえた。

見渡してもこの場には、俺達しかいない。
その場に一気にざわめきが走る。

諏「きょう?《りょう》ならここにいるが」
伊「いまのはどう聞いても《りょう》じゃなくて、《きょう》でしょ」
桜「ですよね?えっと、きょうさんとは、どなたでしょう?」
金「“にぃさん”ってことはこの中にお兄さんが!だれだ!!」
木「きょう・・・ってだれだ?」
日「バカ。客は俺らだけじゃないだろうが。たぶん」

今「ん?桃井やのうて?あ、ちがう?
なんかきこえたんか。気付かなかったわ。
ちゅうことは、けむっとってよぉわからへんけど、他にお客さんおんのかもな。後からくるにしても。他の方に迷惑にならんようになぁ」

降「声、かわいかった」
土「あれ?この声ってどこかで・・・」


“きょう”、このメンバーのなかでは、そう呼ばれる相手が思いつかない。
それいこうは声もかからず、今吉さんと話していた数人が、首をかしげている。

そこから話は発展し、向こう側にはリコたち以外にも女子がいると結論になれば、しまいには「おし!のぞくか」ということになるのは必然で。
では、さっそくと動き出そうとしたとこところで。

ガラリと脱衣所の扉があいた。

そこから見覚えのある人間が、腰にタオルを巻いて現れた。
現れたのは、金色に近い蜂蜜の色の髪に目つきの鋭い、俺達と同じ年ぐらいの男で。

日「・・・た、“たまたま”でここまで顔見知りが、そろうわけ、“そうそう”あるわけ・・・」
今「おん・・・あったな。“たまたま”も“そうそう”もあるもんやなぁ」

思わずあのいけすかない今吉さんと意見が一致してしまったのも仕方がないことだろう。
なにせはいってきた相手は見覚えがありすぎた。
明らかに知人である。

湯気越しにもわかる長身と、キラリと輝く髪。
見覚えのありすぎる容姿。
いるとは思ってなかった相手の登場に全員が度肝を抜かされた。
それは今吉さんも同じらしく、なんだか湯気で曇った眼鏡関係なく、なんともいえない雰囲気を漂わして、現実逃避するように一瞬空に視線を向けていた。

その曇り切った眼鏡では空どころか、何も見えないだろうに。
かくいう俺も同じ状況ではあるのだが。


「しゅ」

だれかが声を上げるよりさきに、また女風呂から、今度はさっきとは別の女性の声が降ってくる。

「ちょっときーよーしぃ!いるんでしょ!あの子もうお風呂でるって!」
「あ?なに言ってんだよ母さん!ちゃんとあったまってからでるように言えよ!あいつ冷え性の癖にすぐ出やがって。母さん、そいつに100は数えさせろよ!!」
「あらぁ清志。ようやくきたの遅いのよあんた!あの子なら20なら数えたわよ」
「みじけぇよ!!」
「ふふ。大丈夫よぉ清志君。私がしっかりつかまえたから」
「そっか。なら茹でて煮といてくれ」

複数の女性の声。そのやりとりと、ザバァっとお湯の音が柵を越えて聞こえてくる。
扉から入ってきた人物は、短く舌打ちすると何やら女風呂に向けて説教をしていた。あちらからも女性の声が返ってくる。
彼女たちの予備方で、さらに確信する。

ここにいるのは

日「宮地清志・・・」

なんでこうも知り合いばっかいるんだ。この温泉、バスケの神様あたりが憑いてんじゃネェの?

桜「秀徳の宮地清志、さん!?なんで!?」

桜井が思わずその名を叫んだとたん、当の宮地さんが「あぁ?」と不機嫌そうに振り返った。

桜「ひぃ!?ごめんなさいぃ!!!」
宮「だれだよ人を呼び捨てにしやがって。あ゛?なんだよ。誠凛と桐皇のやつらじゃねぇか」
日「なんであんたがここにいるんだ?」

不機嫌極まりないとばかりに、ドスのきいた雰囲気の宮地清志と視線が合う。
相手もこちらをようやく認識したようではげしく舌打ちされた。
その態度にいらっとくるものの相手は他校。しかも先輩であると自分の短気さを無理やり抑え込む。

日「あんたも桐皇同様に俺らの偵察ってことか?」

伊「え!?宮地さん!?なんで!?」
諏「秀徳の宮地か。こんな場所で会うとわな」
降「秀徳ぅ!?」
桜「なんでここに?」
若「はっ!?まさか秀徳のやつらまでここにきてやがんのか!?」
金「え。うそ。それ、なんて偶然?」

宮「秀徳は関係ない。俺は私用でいんだよ。いちゃわるいか。
つーか、おいそこの眼鏡。うぬぼれんのもほどほどにしろよ。 風呂までつけてまで偵察ってアホか?そこの糸目眼鏡じゃあるまいし。さっきから人をスパイ呼ばわりびしたり、何様だ。 他校だからって言葉遣いには気をつけろよ。 おまえは二年、俺は三年。 先輩には敬語だろ?あんまり常識なってないとこのままテメェら湯船に沈めんぞ」

宮「こちとらクジで温泉があたったから家族できてみれば。・・・んだよ。ついてねーな。
まじで、なんでお前らそろってるわけ?練習試合か合同合宿かなんかなわけ?あー、こいつら埋めてぇ」

そこまだ悪態をついたところで、宮地、さんは、ヘラリと笑う今吉、さん、をみて顔をさらにしかめた。

宮「笑ってんじゃネェよ今吉」
今「宮地がクジとか、あいつにまたひかせたんやろ?可愛そうに、あのこクジ運ないんやから」
宮「あいつなら大丈夫だ。代わりに俺がひいたタワシやったら喜んでたからいいんだよに、しても。お前相変わらず変わってねぇよなその糸目。みえてんのかよ?」
今「いまどきタワシやとぉ!?どないなクジひいたん?」

あまりにケンカ腰のような言葉づかいと発言に、さすがの俺も一瞬ひいた。
宮地さんの言葉にも今吉さんは、怒るでもなく苦笑をうかべるだけで軽く流したのでほっとする。
気の弱い者たちなどはギョッと目を見張っているし、桜井やウチの降旗なんかブルブルと体を震わせて、二人のやりとりを見守っている。

それよりも――

今「うっさいわジブン。 宮地こそその物騒なの中学のころと変わらへんなぁ。 お互い身長しか変わってへんってか?」

桜「あれ?」
若「ん?」
伊「えっと・・・お二人は知り合いだったんですか?」

二人の親しい態度とやり取りに疑問を覚えたなかで・・・勇者伊月が、みんなの代表となって二人に尋ねた。
見渡せばみんなが同じ疑問を持っていたようで、伊月の言葉に頷いている。

宮地さんは何を言ってるんだとばかりに顔をしかめ、今吉さんはおかしそうにケタケタ笑いながら――

今「なにいうとるんや。わしら同中やで」


「「「「えええええええぇぇぇ!?ど、どうちゅう!?」」」


今「なんや。そない驚くようなことやないやろ」
宮「そりゃぁ中学生のころは強くもなかったしなぁ俺。取材は無冠の五将“花 宮”に集中してた頃だし知らなくても当然だろう。 なにより俺は今吉みたいに個性強くないから、すぐに記憶の彼方にいってただろうよ」

いや、あんたも十分個性は強えぇよ。
たしかに一目見たら忘れられないような今吉さんよりはましだろうけど。

だけど。
それよりなによりも。
今吉さんと宮地さんが、同中だったということの方に、全員声を上げるほどに驚いたわけで。
そのことは今吉さんの友人らしい諏佐さんでさえしらなかったのか、あのひともまた驚いたような表情をしていた。

たしか、今吉さんとは花 宮が中学が一緒で、先輩後輩の間柄だと、この前火神から聞いたばかり。
ってことはあれか。
今吉さんと花 宮だけでもアレだなとおもっていたのに。
さらにはこの物騒が人型をして歩いているようなこの宮地さんまで同中って・・・。

悪童と妖怪と物騒。

ナニソレ。
ソンナチュウガクイキタクナイヨ。


俺たちが彼らの中学時代を想像して意識を飛ばしている間に、昔馴染み同士の会話は弾んでいる。
“アザナ”がどうのと会話が聞こえる。
それが人の名前なのかわからないものの、どうやら二人の共通の知り合いらしいとわかる。
こちらのわからない話が進む一方いつ突っ込めばいいのだろうと思うも、会話に入れるような隙はない。
というか、会話に入ろうなんてしたら何されるかわからないという恐怖から、誰も動けないのだ。



字『そっち騒がしいね。お客さん?』

そこに天の助けのように、声が降ってきた。
それにピタリと宮地さんと今吉さんの会話が止まる。

上級生二人のとまった会話につられるように、その場にいた奴らも口を閉ざし様子を窺うように動きさえ止める。

字『あ、キョー兄さん、わたしもうでるね』

今「っ!?」
宮「あー・・俺はこれからだ」

セイ「わたしたちもでるわー。清志?いるんでしょ?もうこの子ゆだってやばいから本当にでるわよ」
咲「ねぇ清子さん、喉渇かない?リナリーさんはどうかしら?」


今「っっっま、まさっっっっ・・・・・!!!!!」
宮「(黙ってろ今吉)」
今「(コクコクコク!!!)」


セイ「そういえば真咲の言うとおりね」
字『お金、ないよ』
宮「リナリー、母さんに頼めよ」
セイ「あっはは。大丈夫大丈夫。どうせ清志が持ってんでしょ。
清志ぃ、清志ぃってば」
宮「連呼すんな婆!」
セイ「お金貸してくれる?もってくるの忘れちゃったのよ」
宮「ったく。これだから油断ならねぇ」
セイ「いま入ったばっかならちょっと服着てきなさい。私たちもうでるから」
宮「あ゛ぁ?自分で買えよ」
セイ「あーだめだめ。真咲も私もあんたにたかるつもりでもってきてないもの」
宮「たかんじゃねぇ!腹黒婆どもが!!真咲さんもとか。なんだそれ!?っち。俺は300円以上は持ち合わせねぇよ!!」
セイ「自分の分とあっちゃんのぶんだけしっかりもってくるとか」
咲「ふふ。いやだわぁ清志くん。確信犯ね。でも――



うちの娘はやらないわ」

宮「・・・アホか。
アザナが一度でも財布を持って旅行に出たことがあったならもってこねぇよ」
セイ「あら、そうなの。
しかたない、いくわよまっくろサキ。さっさと部屋に戻って一度 お金をとりに行きましょう」
咲「そうねぇ、いきましょう。清子さん、リナリーさん」

字『兄さんがもってるならとりにいってこうか?』
宮「だからたかんじゃねーって・・・つーか、くんなっ!!!」

セイ「リナリーちゃん。だめよ!そのかっこうで男湯に突撃なんて!!真っ黒サキが暴れるじゃない!絶対だめよ!! 男どもにあんたの可愛い姿を見せる必要ないもの」
字『Non capisco un significato(意味が分からない)』
咲「いいのですわ。リナリーさんがしらなくていいことなのですから。
どうせならみせつけてやればいいわ。B〜Cが理想。みればわかるこのプロポーション。 理想がそのまま歩いているような・・・さすが私の娘。女の子になれるならもっと早く教えてくださいな。
そうして全員鼻血でも出して出血多量で※※※されればいいのですわ。清志君が埋めてくれるわ。
さ、せっかく温まったのに体を冷やしてしまうわ。いきましょう」
宮「見せるのはOKときたか」
セイ「真咲ぃ、あんたうちの子に死体隠ぺいさせるつもり?」
咲「あらぁなんのことかしらぁ。全員腹筋崩壊して笑いすぎればいいとか思ってませんわぁ」
セイ「・・・・・・なるほど、リナリー“じゃない”方の裸体を見せると。さすが愉快犯」
宮「ああ、さすが愉快犯」

咲「ではまいりましょう」



・・・・・・なんというか。
言葉をかけるなんて、無理だった。

会話がいちいちいろんな意味で怖い。


咲「ふふ。そこのかわいらしい御嬢さんがた。貴女達ももう少しつかっていなさい。体を冷やさないようになさってね」


ゆったりとした品のある口調。美人で風流な女性をイメージする。
明るくてさっぱりした感じの声は、たぶん宮地さんの母親だろう。そんな感じがする。
鈴のような可愛い声は、きっと宮地さんぐらいの、おれたちと同年代の女の子。たぶんC!・・・ぐらいあるBに違いない。

そんな女性陣が去ったのだろう。
風呂から上がる水音と扉が閉まる音が響いてしばらく。

だれもしゃべらなかった。

本当に彼女たちの気配がとことん遠ざかるまで、今吉さんでさえ声一つ立てず、むしろ全員で気配を消すように息をのんだままだった。
たぶんそれはあの今吉さんが、尋常じゃないぐらい青い顔して自分の口まで押えて、気配を絶つことに必死だったせいだろう。
“あの今吉さんが”ということで、よけいに男風呂には緊張感が漂っていた。

宮「はー。いったな」
今「・・・・・・み、みゃーじ。まさか、いま、隣におったの」
宮「おう。うちのやつがついに動物だけじゃなく性別まで変えてなぁ。あと真咲さんとうちの母さん」

今「あぶなっ!?あぶなぁ!!!わし、さっきのきかれてたらどないしよ!?っていうか真咲さんにここにいることばれたらころ・・・」
宮「いや、大丈夫だろ。さっきの様子だと、聞こえてなかったみたいだし。まぁぎりぎりだろ」
今「きかれてたら殺されててもおかしくなかったわ」
宮「だろうな。今吉、あいつに嫌われすぎじゃね?」
今「おかげで真咲さんにも嫌われてるから、わしの命がアブのうてアカン!」

今吉さんはまさきさんと言う人間が苦手らしい。
いや、たしかに会話の優雅さからかけ離れた腹黒さをあの会話だけでなんとかなく匂わしていたけど。

ガクガク震える今吉さんに、宮地さんは慣れたようにその背をさすっている。
いわく――

宮「あー真咲さんな。あれは・・・うん。慣れろ今吉」
今「無理や!」
宮「基本は愉快犯だから、人が驚く顔とか絶望してる顔とか見れればなにもしてこない。はずだ。
ただ自分が面白いと思えることのためなら、自分の子供でも使うからなあの人」



妖怪サトリ以上のすごいのいた。








なんだかいろいろ、しりたくなかったことを知った日。
温泉につかりに来たのに、なんか寒かった。

感想?
んなもん。

日「疲れた」

これいがいあるわけねぇだろ。
体は冷えるしよぉ。
もう一度みんなで入りなおしたのに、会話なく終わったし。

ほんと、なんだこれ。

伊「あ、ああ。うん。温泉に来たのに、なんでだろうね」
木「大丈夫か?日向も伊月も」
日「いや、むしろなんでお前だけピンピンしてんの?」





 









:: オマケ ::

今「なぁ、宮地。あのこはいつから性別変換までするようになったん?」
宮「高校入ってからだな。
それをこの前霧崎のやつらが指摘したことで、ようやく自分でコントロールできるようになったらしいぜ。
あとそのせいで身長が縮んだらしくて。身長分がほかの身体の肉に回るみたいだ。
ただでさえキセキとやりあってから完全に気が狂ってたのに、もはや今新調の話をすると狂犬だぜ」
今「・・・あのこの成長期、もう終わっとるしな」
宮「タイミングがわるかったんだよ。レイと出会ったこと。キセキと対戦したこと。それらすべてのタイミングが重なった結果があの身長コンプレックスだ。おい糸目。“身長のこと”あいつには言うなよ。たとえ女verのアザナの身長が小さくなっていようと。さっきはそういう発言してなかったからいいものの」
今「せやなぁ。夜道には気ぃつけるわ」
宮「・・・昼間でもあいつようしゃないぞ」
今「・・・おん。肝に銘じとくわ」





←BackUTOPUNext→U