有得 [花悲壮]
+ 花火の怪奇日記 +



03.こんなところでも通常運転!
※ペルソナが異空間により仲魔に近い物理的存在として出来てるアニメP4仕様(?)です。
※火神崎のペルソナ達は皆オチャメ。楽しいこと大好き。

※火神の両親ネタがはいりますが、この花悲壮はファンブックが出る前に執筆が始まった作品のため、 キャラの家族構成などは、ファンブックではなく花悲壮設定となります。
捏造注意!
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俺は秀徳高校一年 バスケ部。
高尾和成。
ポジションはポイントガード。
よろしくぅっ!





【 side 高尾 】





――っと、軽いノリで名乗っちゃったりしているけど、実は俺たちただいまダイピーンチ☆
なぜなら、合宿の肝試しの最中に、突然おかしな空間に連れ込まってしまったんだ。

連れてこられたのは、俺と真ちゃん、えっと緑間のことな。

気付いたらくたびれきった廃神社ではなく、黒い影がうごめく木造の校舎の中にいてびっくり。
一緒にいた宮地先輩と木村先輩の姿がなくて、探そうってことになったんだけど・・・黒い影に追いかけられ、さぁどうしよう!?っていう状況になった。
そこで影から逃げながら誠凛の黒子の話をしていたら、その黒子と同じ誠凛高校の火神がふってきた。
そこからは、火神がなぞの召喚術を使って無双www
手持無沙汰になった俺たちは、現状をなんとかしようと試みたところ、メールも電話もつながらないのに、なぜかくろちゃんに繋がった。
それでさっそくスレを立ててみたら、同じような現象で行方不明になった人が他にもいたとわかったんだよね。
そうこうしているうちに、途中で霧崎第一高校の古橋さんとであって、今度は塩でばったばった敵らしい影を倒していく。
そんなわけで、火神と古橋さんが加わってから、俺たちはとってもスムーズに進んでいた。


っが、しかし。


緑「火神、顔色悪いのだよ」
高「無理もないと思うよ〜。ペルソナ?だっけ?ソレ、どうみてもファンタジーだけど、その召喚術とかってやっぱHPとかなにか消費しないと発現しないものっしょ? ゲームと違ってなにを代価に具現化してるかわかんねーけど。疲労がたまらないはずないもん」
古「そうだな。火神はそれにくわえて、鉄パイプで幽霊を追い払っている。俺は塩を持ってはいても…基本進路開拓を一人でこなしているのは火神だ」

ペルソナとか鉄パイプで、活き活きと無双してたし、この廊下が異常にくらかったから、気付かなかったけど、火神にばかり負担をかけていることに気付く。
慌ててそちらをみれば、やっぱし顔色が悪い。
いったん休憩しようと声をかけようとしたところで、ピタリと火神が歩みを止め――

ぐきゅるるるる・・・・(盛大に鳴る空腹音)

火「腹、へった……」
「「「………」」」

火神の腹が盛大に大合唱をはじめた。

ああ、うん。
そうだよね。
火神って・・・燃費よさそうだもんね。うん。

高「あんだけ叫んで動けばそうだよなぁ」
緑「お前はよく人事を尽くしたのだよ」
古「ふむ。いくら“スキル”とやらで体力回復が出来ても空腹は別なのか」

火神は空腹の腹をさすりつつ、後衛でひたすら守ってもらう側だった俺と真ちゃんを振り返った。
っと、いうより視線がwwwww
火神の視線は俺達ではなく、俺達があづかっていた火神の夕飯の材料がはいった大量のビニール袋の方だった。

その視線に気づいたこの場の全員が、きっと同じことを思った。

古「どうやらここは学校のようだ。調理室ならば調理器具もあるはずだ」

助けを求めるように古橋先輩を見れば、なんてことはないとばかりに俺達を代表して言ってくれた。

俺と真ちゃんは言えなかった。
だって・・・本当はこんな場所の調理室なんて使いたくないから、その案さえ提案したくなかったんだ。

こんな怪異の塊のような場所で、それも調理室。
ガスや電気が通っているとは到底思えないから火が使えるかはあやしいし、へたすると出る水は色んな意味で赤いかもしれない。
鉄錆か、本物の血か。もしかすると液体じゃないものが出てくるかもしれない。
この建物の水道なんか、まっとうなものがあるとは思えなかったんだ。
使いたくないのもわかるだろ。


でも火神はそれに嬉しそうに顔を輝かせると、またペルソナとやらを発動して、教室をひとつひとつ破壊し始めた。
壁をまっすぐ突き抜けるって・・・どうなの?
たしかに廊下にでて、いちいち敵らしいものを蹴散らしていくより早いかもだけど。


火神について走りながら、チラリと真ちゃんをみれば、ずれてもいない眼鏡をせわしなくカチャカチャと何度もかけ直していた。
塩を片手に、後輩を守るのが先輩の務めだと、しんがりを務めると言った古橋さんは――

古「花 宮は無事だろうか。ああ花 宮花 宮花 宮花 宮」

周りの怪異より、あんたの方が怖いよ。



いろいろ、つっこむのはよそう。

ほら、ここっていわゆる異世界でしょ?もう何でもアリだと思うんだ。





◇ ◆ ◇





そうこうしているうちに、いくつもの教室を通り抜け、ついに調理室を発見した。
警戒しつつなかにはいるもそこは薄暗いのを除けば至って普通の調理室だった。

後を追ってきた影が入ってこれないようにと、念のために、部屋の四隅に塩を盛ったら、バンバン!と窓をたたく音がしたり影が窓の外でうごめいていたりするけど、やつらは入ってくることができずほっとする。
これで少しおちついて休憩もできそうだし、火神の腹も満たすことができそうだ。


みればコンロも水道もある。
ただやはりというか、ガス栓をあけてもコンロはウンともスンとも言わなかった。

これは生で野菜を食べるはめになるのかなぁ。
さすがにそれはちょっと。
ほら、周囲の窓に張り付く影とか超怖いし。
むしろ食欲なくなりそうなんだけど。

火神にコンロはダメみたいと横に振って、こっちに使えそうなものはないと合図する。

緑「流石にコンロがあってもガスが使えないと料理もできないのだよ」
火「あ、それは大丈夫っす。野菜も肉も調味料もあれば、あとは困らないんで。ここで買ってきた夕飯のやつ役に立つと思わなかったぜ」
古「火神、生で食べるのはあまりすすめられない」

光彩のない目をした古橋先輩が、若干眉をしかめて言った。
ですよねー。
俺もそれには賛同っす。

このまま食べない方向でお願いしたいぐらいだ。
だってへたにこんな異空間でものを食べたら、千と○のように、豚になったりしないだろうか?
その世界の食べ物を食べるとその世界の住人になっちゃうって話よくあるじゃん。

高「・・・・・・」

もう食べなくていいと思う。
きっとそうなるだろうとほっとしていた、まさにそのとき。

火神はニィっとなんでもないことのように、爽やかに笑った。

火「いやいや、こう使うんだ。です」

火神が蒼いカードを砕きペルソナを喚び出した。
え?カードで野菜きるの?
どこの漫画ですか?

そう思っていたら、俺の予想を裏切って火神は青いカードを握りつぶす。
パキンとカードが砕け、かわりに召喚陣が浮かび上がる。

なんだかもうこの光景もずいぶん見慣れたなぁ。


火「ジャックフロスト召喚!」
ジャ〔ヒホッ!〕

「「「雪ダルマ?」」」

出てきたのは大きなヌイグルミ程の雪だるまを模したペルソナ。
現れると同時に挨拶してきたので、俺達もつられてお辞儀をする。

っていうか、これがどう役立つのだろう?
マスコットとしては、可愛いと思うけど。
今までがゴツい重圧感じるペルソナばかり見てたから余計に可愛いとは思うけど。

火「ペルソナ2の罪と罰だったら《アクア(水)》のスキル存在するんだけどなぁ。仕方ない」

火神はなにやら呟きながら、今度は棚から寸胴鍋やフライパンや菜箸を取り出す。
いや、だからその雪ダルマ何に使うの?

火「ジャックフロスト、鍋の中に《ブフ》」
ジャ〔ヒホッ!〕

火神が「ぶふ」というのを指示したとたんジャックフロストは手を前につきだし、その先に氷が出現する。

「「「は?」」」

氷の塊はしばらく浮いていたが、火神がジャックフロストに鍋を見せてこれくらいと指示を出したことで、小さな氷が新たに生まれた。
小さい方の氷は重力に従い落下し、火神が用意した鍋に氷の塊が入った。

なにか・・・芸達者な雪ダルマ君だ。

ある程度鍋に氷が満たされると、火神は満足そうに指示を解除する。


火神はジャックフロストを待たせたままに、今度はジャックランタンというハロウィンのカボチャマスコットみたいなペルソナを出現させた。
なんかこの流れから、そのかぼちゃお化けが次に何をするか目に見えるように想像できた。

火「ジャックランタン、《アギ》」

火神の指示と同時に、今度はかぼちゃお化けの持っていたランタンの炎が生きているように揺らぎ、勢いよく燃え上がると火力のなかったコンロに火が飛び掛かる。
その上にのっていた氷入りの鍋が一気に熱っせられる。
ジュオッという音とともに氷が溶けて、次の瞬間には見事なお湯が完成した。

緑「氷を溶かせば水なのは・・・間違ってはないのだよ。間違っては」
高「ブフッ!!ま、まって、それアリなのwwww」
古「理論的には間違ってはいないが、そのやりかたが。な」
高「ヒーなにあれなんなのこれwwwwww物理的に間違ってるってwwwwww」

教室の窓の外の気持ち悪さなどすっかりわすれるぐらい、腹がよじれそうだった。
なんなのこれ。
ペルソナっていうのは、悪魔祓いの召喚術か何かじゃなかったの!
料理しちゃってるよ!


高「せめて切るぐらいは包丁使おうよ」

俺は笑いすぎで痛む腹筋を抑えながら、棚に備え付けられた引き出しの中から包丁を探し出す。

っが、しかし。
何故か引き出しを開けたら、まぁ、ビックリ。
まだ乾ききっていない血がどっぷりついた包丁が。

思わず引き出しをしめた。

血糊がこびりついているというお化け屋敷の小道具的な扱いだ。
これは幽霊式のどっきり的ななにかだったんだろうか?
もし包丁使おうと思わなければ誰も気づかないよって、ひそかにこれを仕込んだであろう幽霊に同情した。

高「ぐ、ふっ」

古「大丈夫か、高尾」
高「ぶっふぁ!!!!wwwwwも、もうだめぇwwwww」
古「?笑うような何かが入っていたのか?」
緑「驚かせるんじゃないのだよ高尾!突然膝をつくから何かあったのかと思って心配したのだよ」
火「ん?なんかあったのか?」

とても残念なビックリがありました。

引き出しをしめた俺は、さらなる腹筋への衝撃にたえきれず、その場で転がるようにして盛大に笑った。

だって、ほら。
引き出ししめたら、誰も気づかないじゃん。
まじで可愛そすぎるんですけどあの血みどろ。
せめて引き出しから血があふれ出るぐらいしないと、マジで気付かない。

そういう鉄さびくさい引き出しもあったけど、しめたらあふれ出なくなったから、放置した。
これもなんか死臭より、残念臭がただよっていた。

もちろん。幽霊サイドからしたらご立腹なことだろうが、そのほかの引き出しの中のびっくりとかにも、俺たちは誰一人として怯えなかった。
びびれない。
むしろ残念すぎて笑った。
理由は最初の包丁と同じだ。


そんなわけで包丁使用不可なんじゃぁ、食材はちぎるしかないかおもったのだが。やはりペルソナクンが頑張るということであっさり解決してしまった。
火神、ペルソナってそういう使い方して怒らないの?
みていると笑えてくるんだけど。


火「じゃぁ、よろしくジャックフロスト。《スラッシュ》で野菜と肉を切ってくれ」
ジャ〔ヒーホー♪〕

踊るように嬉しそうにうなずくジャックフロスト。
青い手袋をはめたその手がスイっとひとふりされると、風が起こり、火神が投げた野菜が空中で綺麗に切断される。
なにもしてないのに宙に浮いた野菜が細切れになる図なんて――

高「こんな大胆な調理なんて漫画かアニメでしか見たことないんだけどwwww」

野菜は下に用意されたザルにゴトゴト入っていく。
気付けば生肉のパックも、いつ用意したか分からないビニール袋に保冷剤用にと大小様々に砕けた氷と一緒に突っ込んであった。

高「準備がぁwwwwwww」
火「あぁ、《ブフ》で出来た氷に《ソニックパンチ》で砕いたんだ。あ、このトマトも《スラッシュ》だ」
緑「ソニックパンチが打撃ではないだとぉ!?」
古「火神。花 宮も空中に物を良く投げるんだ。包丁は危ないから投げるなとザキが言っているんだが。投げると野菜が切り刻まれて落ちてくるんだ。しかも均一でだっ。お前たちは古い昔馴染みだと言っていたな。どこでそんな修行をしてきたんだ?」
火「古橋さん、真顔やめてくれ、です。
そもそも俺、普段は食材をまな板の上でしか切らないんで。 一般的な包丁の扱いしか知らないんでアザナさんのようなアクロバティックな真似無理ッス」
高「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

ペルソナで料理なんて、やはり今回だけなんだ。やっぱり特殊調理法なのは当たり前か。

それにしても真顔な古橋さんしかり、顔をひきつらせた火神しかり。
もう俺の腹筋は限界だった。
笑いすぎて声も出なくなって、床をダンダンたたいて笑い転げる俺に、真ちゃんがやさしく背中をさすってくれた。

古「そうか。普通ではないのか。なら花 宮はさすがだな」

火神の言葉にドヤ顔をする古橋さんに、ぷらいすれすぅ。ぐふ。ぶwwwww



俺はしばらく酸素を求めて、苦しんだ。





◇ ◆ ◇





さぁ、ここからは火神の、火神によるペルソナクッキングの始まりだよ〜(笑)


火「肉を先に炒めてその油で野菜を。フランスパンはこの際、焼かなくて・・・いいよな?」

俺が笑っている間に着々と準備が整っていく。

夕飯の買い出しというらしく火神の食欲も知ってるだけに食糧は潤沢だ。
火神は、ジャックフロストやジャックランタンに次々と指示を出していく。


高「ずいぶん手際が良いけど火神って料理するんだなー」

ごめんね、てっきり食う専門だと思ってました。

リズミカルな音と食欲をそそる香り。
ペルソナを使っての調理故に包丁捌きは分からないが、 レシピもないのに慣れた手つきでフライパンを煽り調味料を目分量で整えるなどの様子は普段からしていると思われる。

思わず聞いてみれば、意外な返答が返ってきた。

火「家庭料理って範囲だけどな。 母さんは俺が小さいとき病気で亡くなってるし、父さんと日本で暮らす予定がアメリカ戻って仕事しなきゃならなくなって必然と一人暮らしなんだ。 俺の場合は自炊のが食費が安く済む。バスケやってる身としては栄養管理しなきゃだろ。ん、どしたんだお前ら?」
緑「いや、自分で栄養管理もするとは人事を尽くしているのだな、火神。参考になったのだよ」

暗くなりそうだったところに的確なフォローが入る。
ナイス発言、真ちゃん。

もちろん真ちゃんはフォローのためっていうより、それ以外に料理に関して何か思うところがあったみたいだけど。

俺、火神が大量に食材を持っていたのに対して「夕飯の買い出し頼まれたのかぁ。火神のお母さん料理作るの大変そう」としか考えていなかった。
まさか俺たちの歳で一人暮らしなんて、だれだってすぐに結び付かないだろ。
火神本人は気にしてないようだが、とんだ爆弾発言が来たものだ。

古「……火神、食器用意した」
火「Thank You、古橋さん」





◇ ◆ ◇





パキン。

高「ブフォッ!!!」

それが現れた瞬間。
俺は本当に死を覚悟した。

腹筋的な意味で――。





火「完成っ」

食事が出来上がり、こんな状況にも関わらずお腹が空く。
香りの力ってスゴい。

そう感動していたら、火神がまたペルソナを動かした。
全員が出来上がった料理を前に席につくと、火神がまた蒼いカードを砕いたのだ。
今度は何が出てくるのかなぁと思っていたら――

火「チェンジ、ハチマン」

高「ブフォォッ!!」
緑「・・・・・・」
古「・・・すまない。これは目にきつい」


そこに現れたのは――筋肉のついた光輝く男性


真ちゃんが固まった。
ここが漫画の世界なら、眼鏡が割れていたかもしれない。
古橋さんは、口元を覆って目をそむけていた。

火神だけが通常運転だ。


火「薄暗いから食べにくいよなぁ。いつ、Ghost現れるか判んないし、いただきまぁす」

「「「………い、いただきます」」」


確かに食事するのにこんなホラーテイストの部屋で、暗いのは嫌だけど。
火神の言うことは間違ってないけど。
だからといってこれはない。

オッサンのデコが照明がわりとか。


しかも・・・物凄くこっち見てる。
見られている感が、半端ないんだけどっっ!!!!


えっと、ハチマキマンだっけ?
喚び出されても照明役として浮いてるだけなのがよほど暇らしく、オッサンもといハチマキマンさんが、ボディービルポーズとってこちらの腹筋を殺しにかかってる!
顔が光で見えないけど、良い笑顔に違いない。
ご飯噴出さなかった俺をだれか褒めて!
それでもプルプル震える身体は止めらなかった。
俺は死にそうだったっていうのに、火神は普通に食事をしていた。強ぇな。
あの黒子とタメを張りそうな無表情具合がデフォの古橋さんでさえ、笑い堪えるのに必死だってのに。


高「!」

色んな意味で頑張ってご飯を食べ終え、御馳走様をしたところでハタと気づく。
いまさらだけど、こんなマッチョみながら食べるより、先程のジャックランタンのランプの方が幻想的ではなかっただろうかと。
うん。食べ終わった後だけどね。

それを告げたら、みんな苦笑してた。

そうだね。もっと早く気付けばよかったね。
火神だけが意味が分からそうなそうに、ほっぺをリスのようにふくらましてモキュモキュと飯を食らっていた。





◇ ◆ ◇





ひとしきり食べたり笑ったり、この後どうしようかとくろちゃんをひらいているうちに、ついまったりしてしまったらし。
くろちゃんをひらけば最後の投稿から1時間がたっていた。

でもこの安全圏から出る気にならない。
安価でもとろうかとおもったとところで、なんだか廊下が騒がしくなってきた。

はじめは廊下にいる怪異たちが、ついに襲ってきたのかと思ったけど、なにか違う。
結界の役割を果たしてくれた四隅の盛塩をみても、黒くなっているわけでもない。

なんだろうとみんなで耳を澄ましているうちに、遠くの方で「ギャー!!!」という悲鳴じみたものが聞こえてきた。

それにハッとする。
古橋さん、真ちゃん、火神の顔も真剣なものになる。
声が聞こえたってことは、一緒に巻き込まれた仲間の可能性もあるのだ。

だけど罠かもしれない。
息を殺すように誰もがしゃべるのをやめ、視線で頷きあう。
まずは状況を確認しようとそのまま俺が、窓に張り付くようにして廊下を覗く。
古橋さんはいつでも攻撃できるように塩水につけたモップを手に扉の横に立つ。

結界が途切れるかもしれないからと扉を開けないように、警戒を解かず窓から廊下をのぞいてみる。

驚いた。
なんと悲鳴はあのまがまがしい影からのものだったのだ。

影は今までにないほど、ザワザワと揺らぎ、廊下の奥の方からは悲鳴を上げた影たちが津波の様になって逃げ惑っている。
そのざわめきは徐々にこちらの影にまで広がり、俺たちのみているまえで、廊下の影たちが脱兎のごとく波が来た方の反対側へと逃げていく。

唖然としている俺たちの前で、ガラス一枚はさんだ向こう側は黒い津波であふれている。
いやちがう。黒い人影の群れが、背後を気にしつつもうダッシュで逃げ去っていくのだ。その数が尋常じゃなく、津波のように見えるのだ。

高「ねぇ、これどういう状況だろ」
火「なにかにおびえてる?」
緑「赤司でもきたか」
古「アカシ?誰だそれは。払い屋か何か?」

赤司というのは、どうやら真ちゃんと同中の魔王のようなひとのことらしい。
そのひとなら、こういう怪奇現象もなんなく突破しそうだと・・・

そんな話をしていたら、ふいにドタドタドタと、質量を伴った人間の足音が聞こえてきた。
それは影が逃げてきたほうから響いてきて


「きゃーーーー!!!いやー!!!黒いの触った!!いや!いや!きもちわるい!!! ぶよぶよが!ねっとりして!とって!とってよぉ!!ぬるって・・・いやぁぁ!!!!!きゃー!!!黒子君助けてぇ!!っていない!?」
「いえ、僕はここにいます」
『てっめぇ!ふざけんなよこのドカスがぁっ!!!人がかついでやってるっていうのに別の奴に助けを求めるんじゃネェよ!!』
「だったら離してよ!あんたなんかと一緒にいたくない!!木吉君を壊した癖に!!」
『あ゛。木吉滅べ。離したらさっきみたいにあのブヨブヨの影どもに飲み込まれんだろうが。
そもそもテメェが騒ぐたびにあいつら増えるんだよ!!いい加減だまれ。しゃべるな。動くな!息を止めろ!』
「私に死ねっていうの!最低ね!って!ちょ!早く逃げなさいよ花 宮!!また黒いのが!!」
「あ、僕またスルーされました。お化けにまで気付かれないなんて・・・いえ、悲しくなんかありませんよ!」
『一人突っ込みご苦労。お前は仲間だと思われてんだろ』
「そういう花 宮さんは逃げられてますよね」
「黒子くんこんな悪童としゃべる必要ないわ!」
『だからしゃべんなつってんだろカスが!』
「ふざけないでよ!!なに言ってんのよ!あんたみたいな根性腐ったような悪童がいるから黒い影来るんでしょうが!!」
『あ゛ぁ!?んだとゴラァ!!アレを呼びこんでるのはお前の体質だ。気付けこのドブス!!!』
「いやぁー!!離して!ゲスに触られてる!!悪がうつる!!いやいやいや!穢される!こんな奴に抱かれるぐらいなら黒子くんがいいー!!黒子くぅん!黒子くぅーん!」
「すいません、僕には●●●先輩を支えるような力瘤は・・・そろそろ僕つかれました。運んでくさい花 宮さん」
『てめぇらマジふざけんなぁ!!!くそがきどもぁぁぁぁ!!!!!!』





「「「「・・・・・・」」」」


なんか騒がしい集団が、というか眉毛が特徴的な小柄な少年が極悪人面で、金髪の女の子を脇に担いでいた。 その横を水色の、あれは誠凛の黒子だったよな。その黒子が、バニラシェイクを飲みながら速足で歩いている。
悲鳴と罵声とツッコミを繰り広げながら、その愉快な一行はダカダカと調理室の前を通り過ぎて行った。

っで、女の子の悲鳴があがるたびに、その三人を背後の影がザワリと動き、影は追いかけるように人影を産み出して、三人組を追いかけて行った。

あ、まじで女の子がしゃべると、怪異が寄ってくんだ。
みんなついていっちゃったよ。
黒子は黒子で、やっぱり怪異にもスルーされちゃったんだ。
あれ?ってことは、三人が通る前に脱兎のごとく逃げていった影たちは、黒子が言っていたように、あの黒髪の少年から逃げていたってこと?

怪異って、火神みたいな特殊な力がないと呼び寄せたり、蹴散らしたりできないものじゃ・・・。
あ、そういえば普通の塩効いたな。
つまり怪異って、普通の人間でもどうこうできるものなのか。

っていうか、ごめん。ちょっと待って。
展開が早くて、さすがの高尾ちゃんもそろそろついてけないよ。

え?あれ?今、何が通ったっけ?







あまりの急展開についていけず、調理室の中がしばらく静寂に包まれた。



高「あれ?教室の前にいた影が全部いなくなってる」

我に返った時には、なんだかものすごく遠くの方でさっきの女の子の声が聞こえていて、本当なら追いかけるべきだったんだろうけど、気付いた時にはもう三人組の影はなかった。
かわりに調理室の周囲には、怪異の気配一つしないほどの静寂に満ちていた。

古「はっ!?今の、花 宮だ!」
火「あ。そういえばあれ、●●●先輩か」
緑「黒子もいたのだよ」


俺達が気付いた時には、なんだかもういろいろ遅かった。





 





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※ペルソナ解説!

【法王】
▼ハチマン
新羅より九州に渡来して以降、数々の託宣を世に与えた神。その後、武家の守護神として各地で勧誘され多くの信仰を得た。ヤハタとも呼ばれ、その意味は「神の依り代」であるという

【魔術師】
▼ジャックフロスト
イングランドに伝わる冬と霜の妖精。
基本的には邪気のない存在だが怒らせると相手を氷漬けにして殺してしまう恐ろしい一面も持つ

【魔術師】
▼ジャックランタン
イングランドに伝わる鬼火のような存在。
生前に堕落した生涯を送った者の魂が死後の世界への立ち入りを拒まれさまよっている姿だとされる。


以上、ペルソナ全書による解説より








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