有り得ない偶然
++ 花火乱舞 ++




花宮字と刀の出逢い (江雪編)
※時の政府事情。審神者について。刀剣男士と霊力について。などにいろいろ捏造設定あり!!

<こまかいこと>
花悲壮の花宮は複数の前世もちである!
※すでに二ケタ分は転生しているが、↓は必要な個所だけは抜粋
・【大神】チビテラス 成り代わり
・【銀魂】土方十四朗 成り代わり
・【家庭教師ヒットマンREBORN!】XANXAS 成り代わり
・【黒子のバスケ】花宮真 成り代わり
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<江雪左文字 の場合>



チリーン
 チリーン

演練の場所には不釣り合いな、澄んだ鈴の音が響く。
空気を震わす高い音は、その音色に“力”をのせて周囲に広がる。
刀剣男士をふくむ付喪神たちは、その広がる神気にさそわれるように、鈴が鳴るたびにその源をさがそうと視線を彷徨わせ、みつけると音に聞き入り、その空気中を満たす清浄な神気を内へ取り込もうとする。

チリーン
 チリーン

他の付喪神同様に、江雪左文字が鈴の音色に轢かれるように顔を上げると――


視界に花が、舞った。


「主!」
「やったよ主!」

羽織っている白い布に白い花飾りを付けた山姥切国広が、江雪左文字の前を駆け抜け、鈴の飾りをつけた審神者のもとへと向かう。
その後を追うように、誉桜を散らして堀川国広が嬉しそうにかけていく。

二振りの国広の声に、鈴のついた白い花飾りを髪にさし、面布で顔を覆った審神者がゆったりと振り返る。
ふわりと髪飾りが揺れ、それと同時にあの鈴の音色がシャンとはねる。
側にいるのは近侍なのだろう、山姥切国広と同じ花の飾りを紋の横につけた鶯丸が柔らかい表情でたたずんでいる。

伏「カカカ、帰ったぞ主よ」
月「うむ、もどったぞ主。しかし今日もまた堀川のに誉を奪われてしまったがな。ふふ。まぁこれもいつものことゆえ、いたしかたあるまい」
泉「主ぃ!!俺なんか赤疲労のまま頑張ったんだぜ!俺にもハ・・ぅぐっ!?」
狐「ハグなどさせぬ!主様、主様!この小狐め練度があがりましたぞ」

山姥切国広と堀川国広が勢いよく花飾りの主にとびつき、それからすぐにゆったりとした調子で山伏国広と三日月宗近がやってくる。
そのあとをお互いの髪を引っ張りあって牽制しつつ和泉守兼定と小狐丸がつづく。
そのどの刀剣男士たちもいづこかに、必ず白い花かざりをつけているのが目に留まる。
あれが彼らの本丸のシンボルなのかもしれない。

審『    』

鶯「ん、どうした主?・・・うん。ああ、そうだな」

江雪左文字のもとまでは、審神者の声は聞こえない。
側の鶯丸が身をかがめて審神者の面に耳を寄せては苦笑を浮かべている。

狐「鶯丸よ、主様はなんと?ハグか?ハグしてくださるとか!?」
泉「今日の晩飯のこととかだろ」
切「だが兼さん。夕飯なら、きちんと冷蔵庫の中に用意してきたぞ・・その・・・フシの兄弟が」
堀「もうキリちゃんってば!言うことがかわいい!大好き!!」
伏「しかり。拙僧にぬかりはない。不器用な岩殿らでもボタンピでできるようになっておる」
月「これこれ、主はさようなこと程度では焦らぬよ。しいていうのであれば・・・鶴のことであろう。のう、主?」

審『  』

鶯「チカの言うとおり。だ、そうだ。またおちかけてる気がすると」

鶯丸は審神者から聞いた内容を同じ部隊の面々に答えるようにつげれば、彼らの間から納得したような雰囲気がこぼれ出る。

“鶴”とは、鶴丸国永のことだろうか。
驚きといたずらが好きだと江雪左文字は聞いたことがあったが、己の本丸にはいないので彼らが何を心配しているか見当もつかない。

堀「そうだね。たしかにココさんも石切丸もしっかりしてるけど、それだけじゃぁ、鶴さんに関してはたしかに心もとないもんね」
伏「で、あるな」
月「・・・ううむ、すまなんだ。フタのやつがあのような育ち方をしてしまったがゆえに」
泉「いや、そういう問題じゃないだろ鶴さんの場合はよ。さすがの天下五剣でも分野違いだろうあの御刃のことはさ。
あー・・いい加減主離れできるようになるといいんだが。御神刀に無意識にくっつくのって“精神安定剤”みたいなものだろ?」
切「ならば主に鶴さんの安定剤になりそうな刀剣をたのんでみたらどうだ?他の本丸の鶴丸国永は燭台切光忠や大倶利伽羅と仲がいいらしいと聞くし」
狐「ううむ、どうであろう。主様が主様ゆえ。うまく狙い通りの者が鍛刀されればよいのじゃが・・・」
堀「小狐さんそれいっちゃだめ!」
狐「おっと、あい、すまぬ。ふらぐというのであったな。では石切丸あたりがくるようにと願っておこう」

鶯「注目!みな、さくっと帰るぞ。ここに大包平がいたらきっと同じように言っていただろうしな」
堀「ハーイ!ほら、いこうキリちゃん、兼さん!」
切「ああ」
泉「おう」
月「うう。天下五剣といわれようと、祓い事には役立たぬとは・・・この身が不甲斐ないなぁ」
伏「チカ殿、いつまでおちこんでおるのだ。主と鶴殿のためにもこの場は帰りましょうぞ」
狐「本丸に帰ってからフタの兄者に強く当たるではないぞ、チカの兄者」

鶯丸は審神者の手をとると、なかなかにぎやかな仲間をひきつれ、ゲートの方へと向かってしまう。

審神者の声は、最後まで聞くことはできなかった。
わいわいとにぎやかな声が、江雪左文字からとおざかっていく。



チリンと鈴の音が聞こえる限り、あの審神者のまとう神気の残り香がこちらまで届く。
江雪左文字はその心地よいまでの神気の主を音が聞こえなくなるまでみおくり、そこでふと横にいた自分の主が難しい顔をしていることに気づき首をかしげた。

「花の飾りの刀剣男士・・・そうか、いまのが」
「主は彼らのことを?」

「あれは“花の宮”だな」

「はなのみや・・あの方は本当に“ただの人”なのでしょうか?」
「それも含め、噂が絶えぬ御仁だ。・・・・・・なぁ、江雪よ。おまえ―――――」





* * * * *





その江雪左文字が顕現したのは、美濃国にある本丸であった。

本丸の初期刀は、山伏国広。
その初期鍛刀として顕現した。

江雪左文字の主は、引き継ぎ系審神者とよばれるものであった。



のちにブラック一掃事件と呼ばれるちょっとした大掛かりな物取りが数年前に行われた。
その発端となった事件が起きたのが、この江雪左文字が顕現する前の本丸でのこと。
正確には、この本丸の主が、今の審神者ではなく、その兄が任についていた時のことだ。

それはまだ江雪の審神者が、一般人であった頃。彼の兄が本丸を動かしていた頃のこと。
歴史修正者と手を組んでいた政府関係者の手によって、兄審神者の本丸が襲撃された。
兄審神者の本丸は、年数でいうのであればそれほど年数がたっていたわけではない、わずか数年という稼働年数であった。
しかし兄審神者は、審神者としては優秀で、その段階でほぼ全刀剣男士がそろっていた。

全刀剣男子を顕現。
そこを敵に目をつけられた。

稼働年数が低いということは、刀剣がたくさんいても練度が低い者が多いということ。
それこそが敵にとっての狙い。まさに好都合であったのだ。
歴史修正者からすると、強い刀剣を先にたたける絶好の機会であるともいえる。あるいは味方にひきこむことで戦力をアップするねらい。
人間からするとレア度が高い刀剣は、自分たちがいいように生きるための交渉の役に立つため、得れるものなら得たいといったところだろう。

これらが総じて襲撃へと相成り、兄審神者はそこで多くの刀剣男士と共に殉職した。
この件は決壊などのゆるみといった自然的な現象が原因ではなく、時の政府の中に犯人が存在し、恋的な犯行であると判明する。
時の政府の厳密な調査により襲撃の主犯格をとらえた後は、芋づる式に犯人にかかわっていたブラック役人、審神者などが摘発・捕縛された。


事件後、その本丸を訪れたのは、殉職した審神者の弟である。
この弟審神者こそ、江雪左文字の主となる男である。

レアの刀も多く、本丸を一から立てるより引き継いでもらったほうが戦場の急激な変化もない。
政府から用意せずとも引継ぎであれば、本丸にはすでに様々なものが整っている。
近しい霊力の者が本丸を引き継げば問題なく本丸は再稼働を始めるだろうと、話し合いの末つれてこられたのが、今の審神者である。

しかし弟審神者と、政府の間では大きな行き違いがあった。
そのため弟は、研修も何もないままに「マニュアル」とかかれた冊子だけをもたされ、彼は兄の本丸へと赴くこととなる。

弟は、兄と霊力の質は似ているが、まだ年齢も成人前ゆえ審神者がなにであるかもしらず、兄の職業も刀剣男士らの知識もなく、身内に政府に関係している職に就いている者がいるという認識しかなかったごく普通の学生にすぎなかった。
霊力の量などそこそこといったレベルの、どこにでもいるごく普通の審神者候補生ともいえる。
しかし「霊力があるのならば審神者になれる」と声をかけた政府の言葉にのせられ、タイミングとでもいえばいいのだろうか。 本来であればとある誰かによって時の政府が改革した後であったため、そのような適当な感じで引継ぎをしたり、審神者を本丸に放り込むという無茶は、やろうと思うものさえいなかったし、させない絶対の法があった。
しかし弟は兄の弔いを望み、本丸を一瞬でも停止させたくない者がおり、摘発された黒い輩どもの対処にと・・・政府がてんてこ舞いだったために、おこったスレチガイがここで発生している。
問題はこのだんかいで兄の本丸にこんのすけがいないことだ。

当時の本丸運営担当者は、兄審神者のこんのすけから救助信号を受け取った張本人であったことも加わり、兄弟間での引継ぎであること。担当者はそのまま連絡をしてきたあのこんのすけ(サポートロボ)も引き継がれると思い込んだ。
敵を討つために歴史修正者を許さない!ブラックも許さない!そう告げる弟が、いまだ研修前である若者の審神者就任を許した。

研修をうけず審神者になるものには、サポートロボであるこんのすけがつく。
今回もそうなるはずだった。

しかし担当官に通報したこんのすけは、本丸にはすでにいなかった。
あの襲撃による破損がひどく復帰が不可能となり、こんのすけは政府に返還されていた。
担当官に連絡はなかった。

一斉摘発といういそがしいなかで、一体のこんのすけが壊れたという連絡は、担当官まで伝えられることがなかったのだ。
誰もが、他の誰かが担当に連絡しているとおもったし、知っているのが周知の事実であったというのもある。
やがて本丸に審神者が就職したという連絡が政府に入り、だれかが新しい審神者を派遣したのだろうとなった。

忙しかったから。とは、いいわけにならない。
だが、この段階でいくつかのすれ違いがあった。

さらに、この就任したという審神者は、審神者ではなくたまたま兄の供養にと本丸を訪れていた弟であり、審神者でさえなかった。

状況をしらせてくれた担当官の許可を得て、本丸に通された弟は、兄の刀剣男士によって新しい審神者と勘違いされ、担当の許可した日数を超えて弟は本丸に居座った。
勘違いした刀剣たちは、戸惑う弟を「新人のため慣れていない」と新たな勘違いを起こし、そこで変な気遣いを見せ霊力の使い方を教え、兄審神者が残したマニュアルを手渡し、刀解やら、手入れなどをせた。
こうしてすれ違いと勘違いは広がっていく。

なお、この時のことはさにちゃんに、本人の手によって《【花束】審神者にされた【届けにきただけ】》と、実況中継で掲載されている。


これらの食い違いが重なり、弟は残った刀剣男士と一冊のマニュアルだけをたよりに運営することとなった。

まず弟審神者は、政府から本丸を引き継いでくれないか?と言われたとき、それが兄の供養となり、敵である歴史修正者にカタキが打てるならばと頷いた。
しかし政府からしたら、きちんと本丸を立て直し、弟の研修が終わった後に就任してもらう予定であった。
それが様々な行き違いの末、こんのすけはおらず、研修さえもしていない状況で就任である。

兄の死んだ場所をみたいと花束をたむけに弟が担当官に頼んで本丸にいかせてもらえば、 そのまま新しい審神者だと勝手に納得した刀剣男士たちが好き勝手に願いをつげ、刀解の仕方を支持してくるしまつ。
政府が本丸内に霊力を感知し、代理の審神者が到着したと勘違い。

結果として、弟審神者を案じ残った刀剣たちと荒れた本丸を手入れし、そうしている間に弟の霊力は本丸になじんでいった。
政府が襲撃後の本丸のの状況を確認に見やれば、だれかの霊力ですでに運営維持がなされ、襲撃の後片付けもすんでいたので、政府はここで弟を審神者と判断した。

掃除もすみ、本丸の片付けがすむののに数日。
その間に弟は、刀解を望む者、手入れと継続を望む者のおかげで、霊力の使い方には慣れた。
そんななかで、兄の山伏国広と数振りが、最後までこの戦の行く末を見ること、己の審神者の弟である新米審神者のことをきづかい、本丸に残ることを決めた。

弟審神者の初期刀は、残った刀の中で最も理性的と判断され山伏国広となった。

はじめ兄の刀剣男士たちはすべて顕現が解かれていたが、顕現しなおしたところ、弟審神者と刀剣たちは異様に馬があった。
兄を教訓に「守られてるだけじゃだめだ!」と弟審神者は想い、そのむねを刀剣たちに伝えると、山伏国広からは修行を共にしようと言われた。
その後、弟審神者は山伏と修行をし―――


なぜか筋肉の魅力に取りつかれることとなる。


弟審神者がすっかり筋肉マッチョもりもりになったころ、現状の勘違いに気付いた政府役人が本丸を訪れ、そのまま審神者につくか現世にもどるかとえば、「すでに親しくなったものを見捨てられない」という弟審神者の意見で、彼は審神者を続けることとなり、正式な引継ぎ審神者となった。
っが、しかし。
この審神者、基礎を知らなかったがゆえに、鍛刀をしたことがないし、やることといえば残った刀剣たちと修行をしたり戦場にとびでて暴れることばかり。
そのまま審神者みずから出陣しているしまつ。
もちろん鍛刀などしたことがないという。
そんな現状を知った政府からは、「いい加減に戦う以外のこともして!」と修行に明け暮れる弟審神者に政府から連絡が届いた。そのメッセージとともに送られてきたこんのすけが、戦闘系審神者の見事なマッチョ具合に唖然としたのは言うまでもないだろう。
いわく「政府よりいただいたお写真と審神者様が違うようなのですが・・・」としょっぱなおかしな問い合わせが政府にかかってくるほど。


「審神者様、まずは鍛刀をしてみましょう」

「そういえば修行のために山にこもりっぱなしだったゆえ鍛刀さえしておらなんだわ。かっかかか!これはうっかりうっかり」
「鍛刀?なんだそれ?」
「うむ。まずはそこからであったな」
「刀剣男子を顕現するための・・・ほうほう、そうか」

「資材?む。ならばテキトーでいいな」
「いいと思うぞ」
「だめだろそれ」

「だめですよぉ審神者様!あ、勝手になにを!!」

弟審神者は審神者についての基礎知識が乏しく、修行ばかりしていたのでマニュアルも必要最低限しか見ていない。
こんのすけのサポートなどきこないかのようにマチョたちは、わいわいとテキトウな量の資材を要請手渡していく。

そうして鍛刀されたのは、江雪左文字。和睦を愛する細身の繊細な容姿の刀剣男士である。
なお、それ以降、どれだけ数値や近侍をかえても、なぜかその本丸にはマッチョか戦闘狂しか出るこいとはなかった。

はっきりいおう。
むさい。
とにかくあつくるしく、むさい。

長曾祢虎徹、同田貫正国、蜻蛉切、山伏国広、岩融と、その本丸は江雪左文字以外は、みんなマッチョのムキムキしかおらず、審神者を含め彼らの思考回路は「戦闘」「修行」「筋肉」でいっぱいだった。
亡き兄より引き継がれ一新された弟の本丸は、いつしかマッチョ本丸となった。


そんな本丸のなかに、細く戦嫌いな刃物が一振り。江雪左文字である。
気が狂わないはずがない。

日々「筋肉をつけよ!」「食が細すぎではないか?」「筋肉が足らぬぞ」「ともに修行を」っと同じ単語がゲシュタルトしそうな会話ばかり投げつけてくる本丸の仲間たち。
うっかりすると脳みそが筋肉という単語で洗脳されそうになるしまつ。
江雪左文字がとった行動は、ストレス発散に戦場で敵を切りまくること。

もちろん本丸の筋肉ムキムキマッチョどもは、嬉々としてそんな江雪をほめたたえ、そしてともにいこうとさそう。

どこへ?
そんもなのきまっている。
愉快でむっちりんなマッチョの楽園へである。

「断固っ!!お断りいたします!!」



とある美濃国には、審神者さえもマッチョな、マッチョだけで構成されたマッチョ本丸がある。
その本丸唯一の細身、江雪左文字には人には言えない悩みがあった。

別に主が嫌いなわけでもない。
主のお運営方針もわるくない。
ブラックなんてとんでもない。
主が顕現したたくさんのムサイ・・・同じ顔した仲間たちでもない。

ただ彼は彼のポリシーというものがあり・・・

彼は思っていた。

プロテインばかりの食事もいかがなものかと思うし、 へたに出陣ばかりすると自分もいつしか彼らのようになるのではと・・・ 筋肉の呪いにそろそろ負けそうになっていた江雪左文字である。

もしへたにこの本丸に弟が顕現されて、もしそれが小夜左文字で。もし小夜左文字が上腕筋肉がモリモリの顔だけ小夜のままの超マッチョになったら・・・などと、新人の刀剣男士が来るたびに不安でしょうがないのも、ノイローゼの原因でもある。
もちろんその新人は上記でつげたすばらしきマッチョ(か戦闘狂)のだれかばかりなのだが。

もちろん弟審神者、いな、マッチョ審神者とて、ただの脳筋ではない。
日々、小夜や宗三のマッチョ姿などを勝手に想像してうなされて悪夢を見ているような江雪左文字にはきづいている。
そもそも江雪左文字というのは、争いを好まない。だというのに、自分の本丸の江雪はさすが初鍛刀とわんばかりに、出陣しまくってるのも。

しかしマッチョ審神者は、鍛刀しても兄のように望んだ刀剣男士を呼び寄せるような能力はなく、霊力も力量もなかった。
江雪のことを思ってドロップしてきてもらってもいつも同田貫しかみつからず。
ならば!と、鍛刀すれば、なぜかマッチョ代表虎徹兄弟の二番目がでてきたり。あとは山伏国広のこれまた見事な上腕筋肉がうなるだけであった。

霊力の性質だろうと政府には判断されているため、同じ刀剣男士同士での部隊を組む許可は得ている。
本人たちも二降り目が来ようと動じず、むしろ筋肉を鍛えるのにちょうどいいと、筋肉のつきぐあいの競争をするほどには仲がいい。

だが、仲がいいのはともかくとして、仲間(マッチョか戦闘狂)が増えるたびに、江雪左文字の元気がなくなっていくのだから、審神者や仲間の刀剣たちも心配になってくる。



そんなとき、江雪左文字はとある審神者と出会った。





* * * * *





「あれは“花の宮”だな」

「はなのみや・・あの方は本当に“ただの人”なのでしょうか?」
「それも含め、噂が絶えぬ御仁だ。・・・・・・なぁ、江雪よ。おまえ―――――」



あっちの本丸にいくか?



ある日、気晴らしにと演練にむかったときのことだ。
悲しいことにメンバーは山伏、江雪、同田貫、同田貫、虎徹、蜻蛉と、やはりムサイとしか言葉が出ない。
そんな中で出会ったのは、人の感じられない力を持つ審神者。
白い花を刀剣男士たちはつけていて。
とてもお互いがお互いを大切にしているのだろう。
刀剣男士からのびる縁がキラキラと七色に輝いて、花飾りの審神者につながっているのを江雪左文字は感じた。

あの審神者は“神”だ。
それも自分たち付喪神よりもはるか上の・・・。

ゆえにその審神者がまとう音に、かの神の“力”が宿り、音の届く範囲がふわりと優しい気で包まれる。
江雪左文字はだからかと、尋問自党で得た回答に納得する。あの審神者の声が聞こえないのではなく、あまり周囲に影響を与えないように話さないのだろと。

政府はこの世界とは別の次元からも審神者を招集しているときく。そのなかには人でないものや、人に似て非なる容姿を持つ審神者もいる。
そういった別次元から招待された審神者は、界異審神者と呼ばれる。
“花の宮”と呼ばれた審神者も“それ”なのは間違いないだろう。

マッチョ審神者はそんな“花の宮”に自分をあづけるのだという。
なぜと視線を向ければ、「お前は筋肉は嫌なのであろう?」としょんぼりとした己の主から視線が向けられる。
江雪左文字はそれには答えず、いくともいかないとも言わず、ただただ去っていく白い花の一行を見送った。





* * * * *





江「といっても、だれが筋肉をつけたいといいましたか!だれが好んでしゅぎょじゃなかった、戦場にひとりででるとおもいますか!筋肉をつけるための修行のわけないじゃないですかぁぁぁぁぁ!!!」

岩「いやいや、落ち着け江雪よ」
江「落ち着け!?あのあとやっぱり頷いておけばよかったと思ったわたしの気持ちがあなたにはわかりますか岩融殿ぉ!!あのあと一人で戦場でうさばらしにでて帰ってきたわたしをむかえたのは、本丸の仲間たち、いえ、ただの筋肉マッチョどもは練度が上がった祝いとして・・・・嬉しそうに・・・プロテインをすすめてくるんですよ!宴という名のプロテイン!!!!!」

鶯「まぁ落ち着け。茶でも飲むか?」
堀「ふふ。こうなった雪さんの話は、うぐさんの大包平の話より長いからねぇ〜」
兼「フッシー!俺も手伝うぜ!ここにいるよりましwww」
石「お茶よりも主から柑橘系のフルーツをもらってこようかな。青江ーちょっとお願いがあるんだけど」
青「まかせてよ。ジュースのことだよ?」
鶴「雪よ!胸なら貸すぞwww平らなこの俺の胸でよければなww」
二「いや、もっと飲ませてつぶそうぞ」
月「いいわけあるか!!!鶴!おぬしまで酔うまで飲むとは何事か!!フタもいい加減にせぬか!」
狐「兄者よ。すでにミイがつぶれておるぞ」

蛍「あ、また雪さんが悪い酔いしてるー」
愛「またかよ」
明「こうなるとそろそろ次は一期はんの雄たけびでも聞こえてくるんでっしゃろか」
太「残念ながら一期殿はいま、主へ呪を放ちながら近侍をしていますよ」


広間で月見酒よろしく花宮本丸では宴がひらかれている。
その料理をせっせと作っているのは、山伏国広である。
そして酒のつまみにと、昔話を始めたところ、江雪左文字のグチがだらだらと始まったのだ。
普段であれば、これに本丸唯一の粟田口である一期一振りが「なぜ弟たちは一人も来ないのですか!!」っという雄たけびが輪唱される。

これはこの本丸での日常の一つである。



あの演練の日。
マッチョ審神者は、噂の“花の宮”と接触し、連絡を交換していた。
これもすべて己が刀剣のため。
江雪左文字も筋肉に関してはストレスがあるものの、自分を顕現した審神者を主として慕っている。
主と思うのは彼だけだという思いは変わらない。
だから移動の時に頷かなかった。

けれどマッチョ審神者はきちんと、すべてをみていた。

結果、江雪左文字は、“花の宮”本丸に譲渡ではなく、養生という形であづけられることが決まった。
つまり江雪の意思があれば、いつでも元の本丸に戻れるという状態だ。
花の宮と江雪は本契約を結ばない。だからこの本丸で、彼の名は本来のものとは違う呼ばれ方をしている。
とはいえ、その段階で“花の宮”本丸の刀剣男士たちは、全員もれなく審神者からおもしろおかしい綽名をつけられていたりするが。

江雪左文字が“花の宮”本丸あづかりになった段階で、彼の刀剣男士は江雪をぬかしてたったの11振りしかいなかった。

山姥切国広、堀川国広、和泉守兼定、山伏国広、三日月宗近(1)、鶴丸国永、鶯丸、岩融、三日月宗近(2)、小狐丸(ココ)、石切丸、小狐丸(2)。

そこから今となっては22振りとなったが、それでも江雪左文字はいまだ花宮を主と呼ぶことはなく、けれど元のマッチョ本丸に戻ることもないままだ。
けれど江雪左文字には、キラキラと光を放つやさしい縁と、強く温かい縁が、伸びている。
それを嫌だと思うことはなく、のびる二つの光の糸を江雪は視界のはじにいれると、自慢するように背筋を正し、柔らかく目を細めて、酒のつまみに良いものを見たとばかりに笑みを浮かべた。















【オマケ】

「ようこそ江雪左文字!主とは仮契約だって?ふふ。じゃぁ、これからは雪さんってよばせてもらうね!」
「ああ、そうそう。うちの山伏国広は筋肉にこだわりはないし、他の本丸よりしっかりしていてね、あまり怒鳴ることもはしゃいで修業!とかいうこともほとんどないから、君でもきっと大丈夫だと思うよ」
『・・・・・』

「その、花の宮は口がきけないのでしょうか?それともわたしは・・・嫌われているのででしょうか?」

「ん?主?ああ、忘れてた!」
「すまんなコウセ、ではなく。うむ。では、ユキと俺もよばせてもらうとするか。すまんなユキ。我らが主は」
「主ってば昨日ちょっと説教しすぎてねwwww」
「一日中怒鳴なってたせいで喉をいためてしまったんだよ。なぁにすぐよくなるさ」


(演練で神力の影響を抑えるためとか思ったのに!!!そういう理由なのですか!!!!?)


江雪左文字が花宮本丸ついてそうそう、そのハイテンションな刀剣たちについていけず、さっそく帰りたいとかおもったとか。
帰ってマッチョに歓喜とともにおしつぶされるか。個性が豊かすぎる花宮本丸に無理やり慣れるか。
究極の選択に、江雪左文字は―――


「江雪左文字。仮ではありますが、これからどうぞよろしくお願いします」

後者を選んだのは言うまでもない。








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