有り得ない偶然
++ 花火乱舞 ++




花宮字と刀の出逢い5 (鶴丸編)
※時の政府事情。審神者について。刀剣男士と霊力について。などにいろいろ捏造設定あり!!

<こまかいこと>
花悲壮の花宮は複数の前世もちである!
※すでに二ケタ分は転生しているが、↓は必要な個所だけは抜粋
・【大神】チビテラス 成り代わり
・【銀魂】土方十四朗 成り代わり
・【家庭教師ヒットマンREBORN!】XANXAS 成り代わり
・【黒子のバスケ】花宮真 成り代わり
---------------





 


<鶴丸国永 の場合>



―――ぽた・・――ぽた--り―


光も差さず、ただ滴り落ちる水の音だけが広がる場所。

暗闇という意味であれば、幼き君の‥安達貞泰の安眠を俺が願い、ともにあった最後の・・・墓所の中に似ている。
けれどここはあそことは違って、不快にさせる空気しか漂ってない。

闇は闇でも、同じ・・・いや、比べるのが間違っている。
闇の性質も濃さも何もかもが、ここは違う。
安達貞泰の墓所は、哀しくも優しい場所だった。
静謐としたあの場所を、ここと同じだと思うなんて俺はなんて恥知らずだろう。
比べるなんて・・・
もしかして俺は、それほどまでに貞泰のもとに行きたいのだろうか?

俺は何を血迷ってるんだろう。

ここの闇は柩の中と同じように暗く、深いのに、居心地は最悪だ。
穏やかな眠りを呼ぶ暗闇とは違って、冷たい空気が漂い、昏くくらく・・・呼吸をするたびにむせ返りそうな鉄の錆びたようなにおいが鼻につく。


ああ、これが血か。


ふと己が刃を伝い落ちる赤に気付き、不快な気分になり眉をしかめる。
これほどまでに、己が血を吸ったのは、いったいいつ以来だろうか。

血を吸っ――殺すための道具だったのは遠の昔。





刀でしかない自分に、それを物心と呼んでいいのか。 刀にこの心が宿るよりも前の、ただの刀だった頃のことはいまいち覚えていないが、 刀に宿る者として物心つくころのこと。

まだ道具でしかなかった頃――。

そばには、君がいたな。安達貞泰。俺の小さき主。

君よ。俺の主。
君は幼きまま死んでしまい、俺はその棺に入れられた。
刀としての本懐をとげられずとも、暗闇の中、貞泰(きみ)の眠りを守っていられることが誇りだった。
この鶴丸国永は、君の墓守りでいさせてほしかった。
幼き君の眠りがやすらかなればと、この身が血を吸うことなくともかまわないと、ともに眠りついた―――はずだった。

しかし安達貞泰の墓所はあばかれ、刀でしかない俺は新しい主のもとにつれていかれた。
主と引きはがされた。

――幼き君の眠りさえ、俺は守れないのか。

なんて役立たずな刀だろうね。
主を守るための刀であるはずだったのに。
俺はまた血を吸う道具になった。

それからはいろんなところを転々とした。
けれど俺は、主と慕う者、自分の持ち主となった人物と、長く居ることはついぞ叶わなかった。
それは、幼き貞泰を守れなかった俺の業なのだろうか。

彷徨い続けたあげく、気が付けば竜の住処にまできていた。


どれもが短き期間。
まるで俺には主を持つ資格がないとばかりに、俺を望んだ人間たちのもとから離されるのはいつもあっという間。
数年も俺を側においておけたのなら、きっといい方だ。記録の中では長い方だと思う。





――今度の主も同じ。

「最短記録更新・・・・・な〜んてな」

やっぱり俺は誰かと長く居るなんてできないのだろうか。
ああ、でもこれでようやく・・・



『泣いているのは、お前だな?』


ふいに凛とした声が、闇を照らした。
泣いてなどいなかったはずだが、その声は泣き声に呼ばれたという。
おかしな話だ。

『オレのところへこい、鶴丸国永』

グイっと力強くひかれた手の温もりに、思わず抵抗することを忘れて、光へと一歩踏み出していた。





* * * * *





鶴「主との出会い・・・だって?」


“あの場所”とは違う。あたたかくて優しい、花の舞う本丸。

いつものように、なにか驚くようなことはないだろうかと思っていたら、笑上戸筆頭――堀川国広にひきとめられた。
あいつが集まれば、つられるようにゾロゾロと、この本丸の愉快な住人たちが集まってくる。
いまだ刀剣たちの人数も少ないせいもあって、全員が到着するのに時間はそうかからなかった。

堀「うん。鶴丸さんは神社にいたこともあったみたいだから、すぐに主の正体気付いたのかなって〜」
鶴「そうさなー」
堀「チカさんなんかはね、口上述べて、主を目にした途端気付いたみたいで、僕らの態度が悪いって怒鳴りつけてきたほどだよ」
月「あまりにそなたらが上位神への態度とはかけ離れていたゆえに、な」
堀「えー。なんかカッコよく言ってるけどね、実はチカさんってば、主の正体を聞いた後にあまりの格の違いに気絶しちゃったんだよwww」
月「これ堀川、それ以上言うでない」
堀「あはは怒っても怖くないよ本当のことじゃない」
月「堀川!」
伏「まぁまぁチカ殿」
月「だが・・・」
伏「ではチカ殿の好きな茶でも入れてこよう」
月「う、うむ」

鶴「ずっと思っていたがここの三日月と山伏は随分雰囲気が違うなぁ」
兼「まぁ、息が合うなら、こういうもんだろうよ」
堀「それより!チカさんであれだったんだから、鶴さんに主ってどう見えるのかなって思ってね。それでどうなの鶴さん?」

鶴「ああ、まぁ。大神とは気が付かなかったが、それなりに“自分達とは次元が違うもの”だってのはわかったぜ。はっきり言えば、君らはきっと驚くぞ」
兼「どうぞどうぞ。笑う準備はできている」
堀「そうそう、チカさんを兄弟が抑えてる間に思う存分ぶっちゃけちゃってよ!」

鶴「そうだな・・・俺には主が光に見えた」

兼「ひかり・・・」
堀「うん。わかる気がする」

鶴「そうか?ああ、でもさすがは天照大御神であらせられた方だ。初見でさえ分かる神々しいまでに輝く光のかたまりあの眩しさといったらさすがに君たちにもわかるか」

堀「え?眩しさ?んんん?」
兼「・・・なぁ、鶴丸。なんか、なにかニュアンスっと、えーっと現代語は通じないか。その、“なに”かが違うような気がするんだが錯覚だよな?あんたの言ってる“眩しい”って比喩、だよな?」
切「希望にみえたとか。そういう意味ではないのか?」

鶴「いや!違う!!“物理的”に、だっ!!――そう、それは初の驚き!
声をかけられたので俺が振り返れば、そこには人のような形にも見えたが、眩しすぎる塊があった。 なんといえばいいのか、温かいのに焼き尽くされそうな、まさに太陽のごとき光。
そしてはっきり言ってまぶしすぎた。
そのまばゆく輝く人型のなかで唯一眩しくない場所。それは顔!というか、顔だと思われる部分だな。
そこにはなんと――」


鶴「光の中に浮く二匹のおたまじゃくしがいた」


堀「ブッフォwwwwwww」
兼「(口を押えてぷるぷるぷるぷる)」
月「あなや、なんということだ・・・」
切「おたま、じゃく、し・・・・主がカエルカエルだとぉ・・・俺が写しだからか写しだから主がカエルに・・・(そのままうずくまって布の中に入って落ち込んでしまう)」
伏「カカカ!なんとも主らしいではないか!神格がもとから高かった鶴丸殿だからこそ、主の神気がそう見えたのであろうな。
キリはまずは顔を上げいぃ!落ち込むのは早いぞ!」

兼「う・・・ぶwww眉毛wwwwまゆ・・・ぶふぅ!!!!wwww」
切「いや、そうだ落ち込んでなんか・・・そういう主だってわかってたはずだろ俺。しっかりするんだ俺」
月「ところで兼よ。こらえきれておらぬぞ。主をそれ以上笑うでない!」
伏「で、あるな。兄弟も。二人とも口を押えていてももうそれは笑っておるのと変わらぬぞ」
堀「いや、だって兄弟wwwwまゆwwぶっふぁwwwwあははははははははははっははwwwぶふwど、どうしよ!www僕、もう主の、、、顔wwみれそうもないwwwwwおたまじゃwwww」

鶴「驚いたか?そうだろう。俺も振り返った時はその驚きに目を見張った!なにせ宙に浮くおたまじゃくしだ。捕まえようとしたら逆に捕まるし。
ああ、俺からみた主との馴れ初めはこんな感じだな」

楽しそうに花びら散らしてる彼らを見るだけで、その話をしてよかったと思えた。
驚かせられたのならより。
思わず俺の表情まで緩んでしまう。


けれど。
主の言葉を借りるなら

――んなわけねぇだーろ、バァーカ。

って、ところかな。


はは。実際に、彼は“光”だった。
だけどあんな面白ビックリ現象はどこにもなかったとだけ言っておこうか。

それに・・・

彼を光と思えるってことは、闇がどこかにあるってことだ。
俺はその闇にどっぷりつかってるわけで。
きっと俺は、その“光”を奪われたらきっと盲目になってしまう。
この本丸の刀剣たち(仲間)ならともかく。
外敵が、主を傷つけたら許さない。
俺から主を取ろうとなんて考えないことだよ。

俺は、君らが思うほど――


優しくはない。





* * * * *





――俺がいたのは、すべての底だ。
澱んだ空気で何もかもが圧迫され、付喪神達さえ狂い、怨霊に近しいものへとなり果てていた。そんな場所。


そこは真っ暗だった。

明かりはあってもないのと同じくらいに館内はいつも薄暗くて、たまに吹く風は生温くドロリとしていて、そこから見える空はいつも夜か、曇天で。
庭は荒れ果て、池は枯れ、泳いでいた魚は死骸となっている。
さらに館に一歩足を踏み込めば、中は異様な匂いがしていた。
こもりにこもった瘴気が、人の子の視覚・嗅覚にまでとどくほどに凝り固まっていたため、霊的なもので顕現しているこの空間自体が歪んでしまったのだ。
その空間を作り上げている人間、審神者というものが、刀剣に宿る付喪神にむたいをはたらくものだから、 屋敷の空気だけでなくそこに顕現した神たちまで病んでいた。

審神者いわく、自分のようなレア刀と呼ばれる刀を集めているらしく、そのために審神者は何十何百という数の刀剣たちを折り続けたという。

興味のない刀たちには、無理をさせ、手入れなどは審神者の気が向かなければしない。 痛んでも放置する。用がなければすぐに折る。あるいは折る寸前までいため、手入れをし、また傷つける。 手入れとはいっても、死なせいなためだけのもの。しっかり治癒されるわけではない。 殺さず、いたぶって、生かして・・・それの繰り返し。
刀を折るという行為は、自分達刀剣男士にとっては、まさに死を意味する。
その寸前までして、治療して、死ぬ寸前まで・・・それを繰り返される。
死んでしまったほうがましだと思えても、死ぬことさえかなわない。
死にたくないと願えば殺され、殺してくれと死を願っても生かされる。
正気でいられるわけがなかった。

殺してくれ。死にたくない。解放してくれ。死への恐怖。嘆き。
それら、死んでいった刀剣たちの怨嗟の声が響き続け、館をさらに軋ませていた。
実体なきそんな“声”を聞き続け、さらには現実でも同じ声が聞こえているときている。刀剣たちは、やがて審神者に逆らうことをしなくなった。
そしてその多くが精神を病んでいったのも必然だった。



俺がその場で顕現したとたん、この本丸に染みついた刀たちの声なき“声”が、いっきに流れこんできたのを今でも覚えている。

自分達刀剣男士はまがりなりにも付喪神だ。そのせいか幾人かは、人型を保てなくなった後の刀の声も聞こえていた。
俺もそのひとり。
俺は人型を取って始めて目覚めたその途端に、仲間たち“だった者”の悲鳴をきいた。

そんな場所に・・・俺は刀剣男士として生まれおちた。


初めて人型を取って顕現して、聞こえたのが魂たちの悲鳴とか・・・口上をのべはしても、すぐに顕現したくはなかったほど。
それでも審神者の術式に引き寄せられ仕方なく顕現すれば、なにをどう勘違いしたのか審神者は「さすがレア刀!じらしてくれる!」と、 遅れて登場した俺に愉快そうに笑った。
目の下に隈をつけたまま笑った審神者に、体中の毛がすべて逆立つようだった。
その目は、この本丸以上に濁っていた。

こんなでも主は主。はじめはただ「今度の主はどれくらい一緒に入れるだろうか」とそればかり考えていた。
空気が澱んでいるのには気づいていたが、それに微かに眉をしかめる程度だった。
見ないふりをするつもりだった。それ以外の術を思いつかなかったから。
けれど鍛刀場からでてみれば、いたるところについた嫌な赤黒い染みの痕が、いやに目についた。

本丸を取り囲む空気に、そのまま俺まで取り込まれてしまうんじゃないかと足取りが重くなる。
歩けばあるくほどに、“声”が大きくなる。
自分の中に、“何か”がゆっくり入り込んでくるような悪寒。ゾワリゾワリと末端から、染み込んでくる。

クラリ。

これが眩暈というものだろうか。
意識が、脳にあまたに響き続ける“声”に、もっていかれそうになり、一瞬だけ視界がぶれた。
それは本当に一瞬だったから、すぐに持ち直し、審神者や虚ろな目の刀剣たちには気づかれることはなかった。

そのまま審神者によって本丸を案内され、そこで通り過ぎぎわ、隠れるようにしてこちらうかがう刀たちの姿がみえた。
チラリと見えた短刀たちは、ボロボロの身なりで、いたるところを赤で汚し、こちらを・・・否、審神者を見て震えていた。
どの刀剣たちの目も負の感情ばかり写し、ほとんどのものが焦点が不安に揺れて入れていた。

そのなかに、小さな短刀がいるのを見た。
ぐったりして、身動き一つしない彼を周りの短刀たちがかばうように囲んでいる。


それをみて――カッ!と頭に血が上る。


“守れなかった”
側にいることさえもできなかった――そんな想いが湧き上がる。

俺なんかでいいのかい?
なら、ともに眠ろうか。

俺でよければ貞泰の墓守をしようと、亡き幼き君に・・・共に入った柩の中で誓った詞。

主。
あるじ・・・貞泰・・・幼き君よ・・・。

・・これは、いつのことだ。
ああ、こわいこわい。龍のきみがお怒りだ。


短刀たちのうち震える痛ましい姿に、 貞泰の、あの幼き主の姿が、かぶって見えた。

心の中が、いっきにどす黒く染まる。


そこからは立っているのか座っているのかもわからなくなった。
ただの刀だった時の記憶が、目まぐるしくまわる。

ま わ る
マワ・・ル・・

視界が黒く染まる。
体の中は赤く燃えたぎる炎が宿ったように熱い。

それと同時に


キィーーーーーーーーーーーン!!!!


耳鳴りがした。
頭が痛いというのはこういうことをいうのか。
とっさに耳を押さえてしゃがみこむ。

ひとつじゃない。数多の、刀剣“だったものたち”の悲鳴が聞こえた。
それと共に流れ込んでくる情報。
情報じょうほうじょうほうじょうほう・・・記憶。

みさせられた記憶で、自分がこの場に現れるまでに、壊された刀の数を知った。
自分が顕現しなかったがために。
そのせいで、折られていった刀剣たちの数を知った。


貞泰の墓守りなんぞをしていたから。それとも神社に奉納されたことがあったからか。


この身が、この本丸に染み込んだ魂に共鳴しているのだと、魂の欠片が俺に訴えてきているのだと、すぐに分かった。
その証拠に、審神者にも彼の近侍にも俺を案内してくれている刀剣男士にも、それらは聞こえていなかった。
幻聴というには、あまりにも鮮明。
あまりの音のひどさに、思わず苦痛の声がこぼれでて、審神者や刀剣たちに心配されるほど。
いまだこの耳に、過去の刀剣たちの悲鳴がこだましている。
そして彼らは本懐をとげろとささやいてくる。
耳鳴りは聞こえたまま。

もう。とめられない。

黒くてドロリとしたものが、勢いよく体の中に入り込んできた。
そのおぞましいまでの感覚に、意識が現実から引きはがされる。



それからのことは・・・あまりハッキリは覚えていない。
ただ、そのときはじめて人間が憎いという感情が生まれたのは確かだ。
刀であるがゆえに、人のような、深く大きな感情はなかった自分にだ。

彼らを。
刀剣たち(仲間)を守らなくちゃ――と思った。


「次は三日月だ!」

黒い霞がかかった向こう側、現実かそうでないのかもわからない感覚中で、わらう審神者の声が聞こえ、 仲間たちを守らなければと、先程よりも強く思ったことは、なんとなく覚えている。

我々刀剣男士の傷は、本体を手入れをしてもらわない限りどうしようもない。
それに審神者がいなくなれば鉄屑に戻るだけ。

それでもこの審神者を排除しなければいけないと思いが、この身の本体をふるわせる。
“声”が「ヤレ」とささやく。

なにを、やればいいのだろう?

やるとは・・・


ああ、そうだ。
主を。違う。チガウ・・ソウ。ソウダ。そうだ。トウ・・刀剣たちを守らねば。

守るのは、こんな人型をした肉体ではない。
彼らの心だ。
どうせこの人型の体は、人間と話すために、人間の代わりに戦うために、人間が作り出したまがい物の憑代。人工的に与えられたもの。
なら、心のためならば、もうこのまがいものの肉体はいらないだろう。

彼らの心さえ守れれば。
それでいい。



本丸で顕現してから、たかが一日目のこと。
たかがそれだけで、この本丸の状況を知りえた俺は――

横を歩いている審神者に声をかける。
振り向いた審神者に向かって、腕を振りおろしただけ。
それだけですべてがことたりた。

審神者を殺した。

なんてことはなかった。

呼びかけて、自分の本体を奴にあてただけ。
それだけで審神者が騒ぎ出す。
目の前の人間は、脆弱で。
なにか言っていたが、憎悪という感情を知ってからは、俺の耳は壊れてしまっていたらしい。審神者の声も・・・なにも聞こえなかった。
審神者はひとつきで悲鳴を上げた。
ひとつきで、歩けなくなった。
ひとつきで血が、流れた。
ひとつきで・・・
やがて動かなくなった。音もしなくなった。



審神者が消えたことで、人の姿に顕現していた刀剣たち男子たちの姿が崩れていく。
どうやらあまり霊力さえない審神者だったようだ。
審神者の意識を狩っただけで、刀剣男士たちの顕現がとけるとは。
よくそれでこの鶴丸国永を得れたものだ。

審神者の霊力がつきれば、付喪神は消え、ただの鉄に戻る。

仲間たちの肉体が消えていくが、それでも仲間(刀剣たち)を守るためだった。
悔いなどはなかった。





――パチン。


ふいに音とともに、風が吹いた。
音が響いた後、死臭しかしなかった本丸の中を一瞬澄んだ風が吹き抜けた・・・ような気がした。

パチンとまた音が響く。
たぶんそれは、指を鳴らす、なんてことはない仕草からでる音。
しかしその音が波紋となって空気を揺るがせば、それひとつで空気がガラリと変わる。

パチン。また指を鳴らす音が響いた後、カランコロンとゲタの音が聞こえて、 これらの音はどこからするのだろうと振り返れば、そこにはあっさりした模様のはいった黒い着流しを着た人間がいた。
黒いのに、この場にあふれる昏さとはまた違う黒・・・変な奴だ。
その人間がそこにいるだけで、空気が変わるのが分かった。
審神者の血で水たまりができたこの部屋でさえも、すっと息が吸いやすくなった。
自分の中からも少し黒い物が消え、霞んでいた視界がサーと晴れる。

『刀たち、心は置いて逝け。お前たちの来世には不要のものだ』

彼が手を伸ばせば、その掌に、青い光があちこちから集まってくる。
あの光は、何だろうと思ってみていて・・・気付いた。
俺のすぐそばで人型をしていた薬研が、光と共に崩れていく。
刀剣たちが崩れ残された鉄屑から、青い光が浮かび上がっている。その光が蛍のように本丸内を飛びかっているのだ。

消えていく同胞たち。
まだ顔合わせもしていない彼ら。
それでも彼らは、今日顕現したばかりの俺を見て、突如現れた人間を見て・・・ただただ嬉しそうに笑って――


―――あ り が と ・・ う  


礼を述べて、そうして消えていく。

俺がこのようなひとの姿でいるのは、目の前でこと切れている審神者の力によるもの。
自分が生まれたてのため、他の刀剣たちより比べ物にならないぐらい奴の霊力をまだ身に残していたが、 俺も彼らと同じように消えるのも時間の問題だろう。

だからこそわかった。

目の前の小柄な黒い人影が、この本丸に染み込んだ刀剣たちの魂の欠片を集めていることに。
“こころを置いていく”――それはきっと来世では今回の記憶をすべて忘れて真っ白になって生まれて来いという、彼の…願い。
彼の周囲を舞うように集まった光は、やがて一つに凝縮し、彼の伸ばした掌の上で蝶の姿になると、フワリと羽ばたき舞い上がる。

礼を言うように黒い人物の頭上を一周すると、そのまま宙に溶けるように徐々に序に消えてしまった。

キラキラと青い光を見ながら、限界を感じる。
俺も仲間たちと共に行けたなら。
今度こそ貞泰(幼き君)のいる場所までいけるのなら。
自分も彼らの様に、心を、嫌な記憶をここに置いて。
遠くへいけるだろうか。
仲間たちと共に向こう側へ行ければ、もう、長くそばにいてくれる相手を待たなくてもいいのだろうか。

『泣いていたのはお前だな。
ああ、生まれたばかりの付喪神か。フハッ、妙な産声だな』

白く霞がかかったような視界。
声が聞こえずらくなっている。
なぜか力が入らなくて、ゆらぐ視界に、そのまま身体が傾いているのだろうと判断する。
ああ、審神者の霊力が身体から離れていくのを感じる。これで本当にさいごか。

ならば、俺もあっちにいきたいなぁ。

今度こそ。目覚めぬ眠りにつきたい。
あのこたちのもとへ――。
きっと連れてってくれるだろう黒い彼に手を伸ばそうとして、その伸ばして手の先が真っ赤に染まっているのを見て諦めた。
霞んだ眼でもとらえられた赤は、足元にも広がっている。

まぁ、こんなに汚れてしまっては。あんな奴の血で汚れてしまっては、俺は彼らと君のいる場所にはいけないか。

そう思ってあきらめたら。
ふわりと
温かいぬくもりが俺の落ちかける手を握った。

そこで俺は限界に達し、重くなった瞼を重力に任せて閉じた。
体がかしいだとき、つかんでくれていた温もりが一瞬離れたが、すぐに全体を包み込むように触れられる。抱きしめられる。

ああ、あたたかいなぁ。


『よくやったな。もう墓守はいいんだ。
今は、ゆっくりお休み』

そっと頭を撫でられる感覚。
自分は泣いてなどいないし、声さえあげていない。
このひとは何を言っているのだろうと思っていれば、頬をなにかが伝う感覚がした。

涙。これが?

『最近泣いている子をよく拾うなぁ』

頬を温かい何かが触れ、頬を伝うものをぬぐいとる。
そのあとは優しい手が、ずっと髪やら頬を撫でてくれる気配に、こん ど こ そ・・・


『守役、ご苦労だったな』


俺の意識は、一度そこで途切れた。





――目が覚めると・・・

あ〜ら不思議☆
なぜか目の前でとんでもない量の桜が舞う本丸にいた。
しかも自分より背の低いあの小柄な黒い人物に、俺は俵田抱きして運ばれてるという謎の現象。

あの〜、俺、消えかけてませんでしたか?

思わず丁寧語がでてくるくらいにはびっくりした。





それが、この鶴丸国永にとって、主と呼べる存在と、はじめて長い間を過ごすこととなる存在との出会いだった。
なにげなく伸ばされた彼の手。
しかしその伸ばされた手は、己にとってはまさに天の救いそのもの。
堕ちた闇の底なから、光へと“すくわれた”。

地の底、暗闇の墓所にて墓を守り続けた墓守りは、こうして日の下へと足を踏み出した。





* * * * *





“その刀剣”を花宮がひろったのは、まさに気まぐれだった。
たまたまゲートの設定を間違ってたどりついた場所は、なんとどこかの本丸。 の広い廊下に、花宮はゲタをはいたまま立っていた。
どうしたものかと考えた花宮は、ふいにきこえた“泣き声”にさそわれるようにそちらにむかった。
その声は直接音として耳に響くものではなく、彼のなみなみならぬ直感が“そう”であると告げたに過ぎないもの。
その本丸はひどく淀み、悪臭と、負の感情に支配されていた。そこはひどく静かだった。

直感が告げるがままに花宮がたどりついたのは、血みどろ殺戮現場。
今まさに殺したてですとばかりに、血が滴る刀を持った白いひとかげをみて、花宮は眉をしかめてため息をついた。

白い人物の昏く濁った瞳が映すのは、彼の足元で倒れていることきれた審神者。
それを無表情にみつめるその白い頬を・・・ひとつの雫が伝いおちた。

花宮はバスケのときと同じように左の手を前へと掲げ、パチンとスナップを鳴らす。
広がる音に自分の“神力”をこめる。
それだけでただのスナップ音は、澱んでいた空間を切り裂くように、清浄な風となって本丸の中吹き抜ける。

再び指を鳴らせば、審神者との縁を切られた刀剣男士たちが人型を保てなくなって光となって崩れていく。

そんななかで花宮は、声一つあげず、泣いている人物を見やる。
濁った眼で審神者の死体を見つめる白い刀剣男士の目からは、涙が零れ続けているが、それに本人は気付いていないようだった。


そして花宮は、彼が誰であるとか気にもせず。
――――ロックオンした。

なぜならば、その白い刀剣男士は、その肩にフードつきの外套(血まみれ真っ黒)をはおっていて、それをかぶる様を脳内でイメージした花宮は自分の初期刀にそっくりではないかと判断した。そして「フード最高!」と考えていた花宮は、これは持ちかえらなければいけないと、おかしな思考に囚われていた。言葉を正すなら、愛着がわいた。否、しょせん一目ぼれである。
もはやその脳内に、迷い込んだ己を救ってもらうべく救援を呼ぶことも、政府にブラック案件本丸を報告する。といった思考はみじんもなかった。
そうして「フードっ子だー!よし捕獲!!」と、鶴間国永(闇堕ち済み)はフード衣装であったがために、彼の本丸へとお持ち帰りしてきたのだった。


花宮は、審神者の力が抜けたことで意識を失い顕現する力もなくし本体の刀の姿になったその白い刀をかかえると、意気揚々とゲートを起動した。
そうして花宮は、ついにフードっ子二号をゲットしたのであった。
花宮ファミリー五人目の刀剣男士は、ドロップでお持ち帰えりしたということになっている。
その名も鶴丸国永。

刀の中身は、はまだ本霊にはもどっていないのだろう。 花宮は白い憑代の刀の中にまだ魂が残っているのを察すると、そっと刀をなでる。
ひとがたの顕現が溶けた時点で鶴丸とここの審神者と縁が切れているため、花宮は応急処置のつなぎとして自分の霊力を眠る刀剣に注いだ。





「ん?これはどういう状況だ?」

彼、鶴丸国永が、再度目を覚ましたときめたとき、彼はなぜか俵抱きされていた。
そして目の前には、花で埋め尽くされた光景が広がっていた。
自分が知る本丸と違いすぎたせいだろう、鶴丸は、花宮の本丸に言葉をなくしていた。
花宮本丸――そこは笑い上戸な堀川のせいで、つねに桜の花びらであふれている。
そんな年がら年中、小春日和な本丸を目にして、鶴丸はキョトンと目をまん丸にし、理解が追い付かないとばかりに目をしばたいた。

なお、その本丸内では数少ない花宮の刀剣男士たちが、にぎやかにすごしている。

山姥切国広は山伏国広を手伝って、花宮ご所望のおはぎを作っている。 せっせともち米で歪ながらも団子をつくり、泥遊びしたこどものように 餡子をあちこちにつけては、それでも懸命におはぎらしく見えるようになると大皿に盛っていく。
その様子を母親のような表情で微笑ましそうに見やりながら山伏国広が、洗濯物駕籠を掲げて庭へと出ていく。
バサリとほされた白い洗濯物が、ここちよい。
シーツやら着物やらが干されていく少し離れた場所では、なにか鼻歌を楽しそうに歌いながら・・・・ 池のほとりで鯉を釣ろうとしては、鯉と目が合うたびに甲高い笑い声と共に桜の花びらを振りまいている堀川国広。
ひとり風流に縁側に腰を降ろして湯呑片手に空に浮かぶ七色の虹をほのぼのと眺めて誉桜を舞わせているのは、和泉守兼定。
その傍を「花びらが邪魔だから別の場所で休んではくれぬか」と、三日月宗近がモップがけをしながら本丸の廊下を内番姿でかけていく。
鶴丸のいた本丸とは、空気も人数も雰囲気も、何もかもが違いすぎた。

花『ただいまー。ちょっと土産の手入れしてくるから待ってろ』

兼「お、お帰り主。キリが頑張って主御所望のおはぎを作ってくれてるぜ」
堀「あ!主。お帰えりー!お土産!?やったー!今度はな・・・あれ?」
月「おや。ずいぶんと懐かしい顔ではないか。ふむ、では風呂でも焚いておくか」
切「血の、におい?主、怪我をしたのか?いったいどこへいって・・・ん?赤い・・・刀剣男士?」
伏「兄弟、頬に餡が。ほら手ぬぐい。お主は汚れをふいてからだ」
兼「フッシー、あんた本当におかんか。
ん?血の匂い?主が怪我したのか・・・って、ぇえー!?どこが土産だ主!そいつ血だらけだぞ! そもそも主よぉ、あんた散歩に行ったんじゃなかったのかよ。なにをどこで拾ってきてんだ!しかも五条派とは準レアっ子だろそいつ!? どこまで散歩に行けば、そんな大御所拾ってこれるんだ!!」
花『話はあとでな!ちょっと手入れしてくるわ!』

呆然とする鶴丸をそのままかついで、そのまま手入れ部屋へと駆けこむ花宮。
そのすぐあと、ドサリと山姥切国広の掌から作りかけのおはぎこぼれおち、山姥切がガックリと膝をつく。

切「あ・・・俺はやはり捨てられるのか」
伏「どうしたキリ?」
堀「あー・・・えっと、たぶん。キャラがかぶってるの気付いちゃったんじゃない?それで写しの方は捨てられるとか思ったとか」
伏「いや、似ておるか?」
兼「っというか、あれの類似点ってーと、せいぜいフードの色だけだろ」
切「う、類似点まであるというのか・・・|||orz」

真顔のままボロリと涙をこぼして落ち込む山姥切に、堀川は苦笑しつつ弟刀の頭をそっと撫でる。
山伏にいたっては、主を手伝ってくると、末弟の頭をわしわしとなでて励ますと、立ち上がる。
兼定が山伏の代わりをかってでて、山姥切の背を撫で、なぐさめる。
それでもおとなしくなでられたり抱きしめられている時点で、この山姥切は根っからの末っ子肌である。
けれど今回ばかりは上手く気持ちが浮上しないようで、落ち込む一方の山姥切は、うるうるとして、二回目以降の涙をこらえている。ただしもう決壊寸前だ。
その様子にさすがのこんのすけもそわそわオロオロ。
キュっと小さく鳴くと、そのフワフワな身体を山姥切に擦り付け、必至にモフモフして慰める。





花『またせたな。これから仲間になる鶴さんだ!』
鶴「あ、えっと。よ、よろしく?」
月「ふふ。よきかなよきかな」
兼「ああ、よろしく!それにしても主。よく鶴丸国永なんて珍しい刀を見つけたな」
切「主!なぜそいつなんです!俺はあなたの役に立っていませんか!?」
伏「おちつけぃ兄弟。それで、めずらしい拾い物をしたな主。主が生き物を拾うてくるとは」

花『え。だってフードはぎたい』

兼「そういえば前いた本丸に他にもフードのやついたな」
堀「そっか。じゃぁ、つぎの主のターゲットって、きっと岩融さんだね。彼も可愛そうに」
切「また、またフードなのか。フードなのか!?主ぃぃ!」



鶴「あははは・・・おかしな主に、おかしな仲間。本当におかしな場所だな。おかしくて、おかしくて・・」




――あたたかい本丸だ。





* * * * *





ゲートがひらく。

とある本丸でのこと。
ブラック本丸として匿名で通達のあった本丸である。
政府は、怨念をおそれ、優秀な審神者と刀剣男士も護衛に加え、本丸の調査に訪れた。

「な、なんだこれは」
「こんなことがありえるのか」

空気の汚染、堕ちて荒ぶる神となった刀剣男士。それらを警戒して慎重に踏み込んだ彼らだったが、彼らの目の前にはただただ“静寂”だけが存在していた。
予想外に空気は澄んでいる。ただし清浄すぎるわけでもなければ、澱みすぎているわけでもない。
ただただそこにある。そんな感じであった。
そこにあるのは血の跡や怨念のこびりついた空間はなく、生き物が存在した気配さえなにひとつ感じられない“無”の静寂が存在していた。
生き物の気配、魂の気配さえないそこは、ひどく人々、いや刀剣男士たちさえをも不安にさせた。
あまりに異様な空気に、政府の役人の背をゾクリと冷たいものが伝う。

調査の結果、報告されたとある本丸からは、一本の刀剣さえ見つからなかった。
あったのは屑鉄と、眠るように死んでいる審神者の遺体だけだったという。

異様な本丸を見て首をかしげる役人たちであったが、ただ、審神者の遺体に残る刃物傷だけが、“こと”があったのを証明していた。
ここはたしかにブラック案件の本丸であったのだろう。
しかし現状はどうだ。生命の息吹一つ感じさせない。“無”の空間と化している。

だれがこのようなことをしたのか。
本丸を浄化をして放置したものがいる。
そうでなければ、不自然なほどの生の気配がない空間ができるはずがない。

調査団は“それ”を行った者の片鱗におびえ、その場に長居する者はいなかった。



彼らの去り際、大きな黒い揚羽蝶が青い燐光を放ちながら庭を飛んでいたのをしるものは誰もいない。








←Back U TOP U Next→