花宮字と刀の出逢い2 (堀兼編) |
時の政府事情。同種多重顕現。審神者ついて。契約。本丸とゲート。刀剣男士と霊力について。などなどいろいろ捏造設定あり!! <こまかいこと> 花悲壮の花宮は複数の前世もちである! ※すでに二ケタ分は転生しているが、↓は必要な個所だけは抜粋 ・【大神】チビテラス 成り代わり ・【銀魂】土方十四朗 成り代わり ・【家庭教師ヒットマンREBORN!】XANXAS 成り代わり ・【黒子のバスケ】花宮真 成り代わり --------------- <“イレギュラー” 堀川国広&和泉守兼定 の場合> 審神者一人につき、一種刀剣一振り。 重複した刀剣をそのまま持ち続けることは、基本的に許されていない。 ゆえに二振り目以降は、刀解か連結されるのが常だ。 僕らは、その本丸で互いに一振り目の“堀川国広”と“和泉守兼定”だった。 けれど僕らの場合は、本丸から消えるのは二振り目じゃない。僕らの方だ。 僕らは二振り目を置いて本丸から消える。 それに僕らはよくでる刀剣らしいから、きっと練度の低い僕らが消えても問題はない。 “その日”は意外と早く来た。 この本丸で顕現されてから、まだ練度も一けた台。そんな顕現からすぐに、念願の二振り目がやってきた。 僕と一振り目の兼さんは同じ日に同じタイミングで顕現されたから、練度も同じ。その日も同じ部隊だった。 運命の日、出陣先で突然青い炎をまとう今までと違う敵があらわれ、僕らは重傷を負った。 途中で僕らの部隊は、未顕現の“堀川国広”をひろっていた。 僕はこの世界の“堀川国広”としての感覚はよくわからないけれど、同じ存在である“堀川国広”に、どうかこの後の本丸を支えてくれと願いをこめ、そしてそして僕と兼さんは、僕らの部隊を逃がすための囮を買って出た。 「あとはまかせたよ“僕”」 絶対に本丸へのゲートはくぐらせない。先程まで仲間だった部隊を一人も傷つけるなんて真似させない。そのつもりで挑んだ。 もう“この世界の刀剣男士”でいるのがつらかったのもあり、折れる気だった。それは兼さんも同じ。 僕らは重症でボロボロになった。 それでも生き残った。 生き残ったからには意味があると思ったし、こうして二人同時に顕現し、“同じ記憶”を持って、この世界に来た――それこそに意味があると思っていたから、僕らはこの命が短かろうとかまわなかった。 やってみたいことがあった。 やりとげたいと、信じ続ける願いごとがあった。 だから、こうしてまだ自分たちは生きているのなら、っと。その生にすがった。 会いたい人がいた。会いたいと願う人がいた。そのひとのために、まだ生きたいと思ってしまった。 けれどそのためには、本丸との縁が邪魔だった。 僕らはこの世界の“堀川国広”でも“和泉守兼定”とも違う記憶を持った、“ちがうもの”だから。 自分自身でいるために、最期の気力をふり絞って、僕らを顕現してくれた主との縁を切った。 「ごめんね主。別にあなたがきらいなわけじゃなかったよ」 「すまねぇ主。だが俺たちはいかせてもらうぜ」 主と縁を切ったのに、哀しくも辛くもなかった。 たぶんこの段階で、僕らが折れたと。主は感じ取っただろう。 残した二振り目の“僕”から「一振り目は初めからこうするつもりだった」と伝言も聞くだろう。 そこから僕らは、残された時間が少ないとわかっていて、顕現してくれた優しいあの場所(本丸)から逃げ出したんだ。 * * * * * 僕は、自分達を顕現してくれた審神者に「僕らの主は土方さんだけだ」そう言い続けていた。 悪い審神者ではなかったけど。 それでも譲れなかった。 だって――。 この世界は、僕らが知っている世界とは少し違っていたから。 僕と兼さんには、刀剣男士としてこの世界に顕現されるより前の共通の記憶がある。 そこでは天人と呼ばれる宇宙人がのっとた江戸で、大好きな土方さんはときどき猫に変身する変わったお人で・・・。 “その世界”には、《新撰組》も《土方歳三》もいなかった。 僕らの記憶の中では、「シンセングミ」は〔真選組〕と書く。 副長は、《土方歳三》ではなく、〔十四朗〕。「トシゾウ」でもなければ「三」でもない。〔四〕なお方だ。 それに僕らの土方さんは、青い羽織なんて来たことがなかった。V字前髪が特徴的で、マヨネーズを絶賛する。 それが僕らの主――真選組の土方十四朗だ。 新撰組の土方歳三なんてしらない。 僕らの主は、同じ読み方をする“シンセングミのヒジカタ”であっても、違う土方なのだ。 名前だって性格だって違う。なにより世界観が違った。 会いたいと願うのは、意思のあるものとして、いけないことだろうか? たまたま同じ審神者によって同時期に顕現された和泉守兼定は、僕と同じこのおかしな世界の記憶を持っていた。 しばらく本丸ですごし、安定や清光たちの会話を聞いて違和感を覚え、この世界の歴史をもう一度詳しくきいた。 そこで知った。この世界とあの世界が違うのだということを。 たとえ今の僕らという存在が、「土方」という人物の刀の一部をコピーして作られた人工的な付喪神で刀剣男士の分霊と呼ばれる存在だったとしても。 たとえ周囲から見るとなんの漫画のみすぎと言わんばかりのおかしな江戸の話をして、それを誰も信じてくれなくても。 冗談だととられてしまっても。 この自分の記憶だけは信じたかった。 だって僕らにはこれしかないのだから。 僕らには“この世界”の《新撰組》も《土方歳三》の記憶なんてものも何もないのだから。 だから僕と兼さんは、本丸を出ることを決めた。 もちろん僕らだって、はじめはこの世界の堀川国広と和泉守兼定らしくしていた。 憑代となった肉体が覚えていたから無意識に、それらしく振舞えたんだ。 “それらしく”そうなるように演じていたんだ。 せめて自分達を顕現してくれた審神者に気に入られよう。がっかりさせまい。と、頑張ったけど・・・無理だった。 先に僕たちの心がまいってしまったんだ。 ここの本丸の刀剣や、審神者。 演練で出会った者達もみな“同じ”だった。 彼らは審神者になるときに渡された資料にでも刀剣たちの過去や性格が記載されてでもいたのか、堀川国広と和泉守兼定という刀に対して同じ認識を持っていて、刀剣男士たちの方も同じ態度だった。 僕らは彼らの望む堀川国広と和泉守兼定を演じ続けた。 だけどね。 なにもかもが、限界だった。 僕らが知っている〔真選組〕とは違う《新撰組》の刀たちと、僕らがしらない性格の付喪神たちと、かみ合わない会話をするのも・・・。 しらない記憶があるふりをして、頷いたり言葉をつなげるのも。 ちょっとしたことでおこる笑いの衝動をこらえるのがきつかった――――僕は、いつも笑いの中心の人物の側にいたんだ。笑えないのはきつい。 まじめぶるのも、自分を信じきれない儚さを装うのも―――儚いってなんだよ。 そんなの“僕”でも“兼さん”でもなかった。 彼らの望む堀川国広と和泉守兼定の性格は、この世界の僕らで、本当の僕じゃない。 だって、僕らの主なら、“僕ら”が大声で爆笑しようが、きっと許してくれた。 僕が世話焼きな堀川国広じゃなくても。兼さんの面倒を見なくても。兼さんが流行りを意識したかっこつけじゃなくとも。 許してくれたよね? あの“銀髪の侍”といつも笑っていた――“僕らの主”なら、きっと。 僕らはあのひとがいいんだ。 本丸を出るということ。 たとえそれが、この刀剣男士としての命を終わらせるものであったとしても、それでもいいと思った。 “銀髪侍”がよく僕たちの主に言っていた言葉がある。 「ソレが折れてしまったらだめ」なのだと・・・。 ソレは目に見えるよなものじゃなくて、でも、いつも自分たちが歩めるように内側にいつもある芯。 ソレの名は――心。 心が折れることだけは、僕の主も“銀髪侍”も許しはしなかった。 兼「いけるか国広」 堀「うん。いこう兼さん!」 敵を本丸へ入れないために一度閉じたゲート。 審神者と縁をきったことで、完全になくなってしまった“帰る場所”。 たとえ次にゲートがひらいても、“帰る場所”につながる標はない。 それでもこの先。 そこがどの時代のどこに繋がっているかなんかわからない。 それでも僕らは、自分自身でいられる“自由”を探すべく、手をとりあった。 願わくば、扉(ゲート)の向こう側には、自分たちをそのまま受け止めてくれるような“だれか”がいますように。 * * * * * 審神者から霊力を与えられなくなれば、僕ら刀剣男士は屑鉄に戻って消えるだけ。 顕現するための審神者の霊力は、動いているだけも減っていくだけ、増えることはない。 怪我をしても普通の生物のように自然治癒という現象はなく、治ることはない。 それでもかまわず、ふたりで重症のまま戦場を駆け抜けた。 夢があったから。まだ死ねないという想いがあったから。 気配を探って敵から逃げながら、自分たちが送り出された場所の近くまで必死で戻って、そこでどかの部隊がやってくるのをじっと待っていた 。 もう憑代の本体なんか、ひび割れが酷いし、部分的に刃もかけてしまっているしまつ。 どれくらい時間がたったころか。 ときたま意識がブツリととだえるように眠気に誘われ、意識を保っていられる感覚も短くなってきた頃。 それはやってきた。 僕らが主受信してきたのと同じ場所ではなかったが、近くでゲートがひらき、他の本丸の刀剣男士たちがやってきたのだ。 彼らの隙をつき、ゲートが閉まる前に、兼さんとふたり、こっそりそのゲートへとびこんだ。 “帰る場所”への標がない僕たちでは、ゲートをくぐれてもどこにどばされるかわからない。 なにより他の本丸へはプロテクトがかかっていて、認められていない刀剣はきっと入れない。 ならば残るは戦場だ。 次はもっとレベルの高い戦場かもしれない。 審神者がいない今、敵と会うのは厄介だった。 それでも現状を変えるきっかけが欲しかった。 いっそあの前髪V字が素敵な土方さんに会えないのなら、このまま消滅してしまってもいいかもしれないと思えた。 そういう気持ちもあった。 だって僕らには、この世界の堀川国広と和泉守兼定としてふるまえる自信はないのだから。 否、偽ってまで生きることもできないから本丸から逃げてきたのだ。 この人の姿がとれる今だからこそ。 なにより動ける限り、諦めるわけにはいかなかった。 僕らは痛む体に鞭打ち、転がるように―― ゲートをくぐった。 あれから、どれだけたっただろう。 ゲートの先は、審神者や刀剣男士と、他の付喪神しかいない不思議な町だった。 これは自分達を顕現してくれた審神者が言っていた「万事屋」があるろいう場所だろうか。これが審神者と付喪神だけが入れるという町だろうか。 刀剣男士のことやこの世界のしくみについては、くわしくは僕らにはわからない。 夢をかなえる前に他の誰かに見つかることだけは避けたくて、良心的な審神者や新撰組の刀剣男士らにみつかるまえにとすぐに裏路地に身をひそめた。 ただ、そこで限界が来てしまった。人様のゲートに飛び込むのもやっとだった僕らは、そのまま身動きができなくなってしまったのだ。 それほど消耗していた。 ゲームとかのマジックポイントじゃないけれど、僕らの活動限界が近づいている。 怪我をしているし、審神者に与えられていた霊力は減ってしまった。 そのせいで本当にあと少ししか、もう動けそうもない。 へたをすると、意識が途切れそうだ。 どうしようもないかなぁ。 この憑代はそろそろ折れてしまうだろうか。 もう消えるしかないのかな。 そう思ってもどこかで足をとめる気にならず、兼さんとふたり支え合いながら、人としての顕現をとかれないように必死に意識を保っていた。 カラーン コロン ふいに風に乗って聞こえた音に、ないはずの心臓がドクンと鼓動を立てた。 チラリと兼さんをみやれば、彼もまた同じように驚いたような表情して、胸を押さえていた。 音と共に、懐かしいものを感じた。 温かい太陽のような、けれど強い“神気”。 鼻の奥がツーンとした。 それと同時に僕らは、今の自分達の状況なんか忘れて駆け出していた。 血みどろで、重症で、赤疲労で。審神者との縁もなくて。 そんないかにも怪しいノラ刀剣男士が綺麗な町のなかをはしっていれば、さすがに周囲が驚きに目を見張る。 ブラックから逃げてきたのではとか。僕らの名を呼んで呼び止める声がいくつも聞こえた。いくつもの手が僕らを止めようとしたのを、がむしゃらにふりきって、僕らは駆けた。 町の中を懐かしい気配を追って、走って走って・・・そうして近づくのは、優雅に響くゲタの音。 カランという音に、目じりが熱くなる。 僕たちをこの世界に顕現させた審神者も着物を常に着ていたけれど、あのひとの色は白色で、履物はいつもブーツだった。 カランコロンと鳴るそれが、とても懐かしい。 みつけたのは、“僕らの土方さん”が私服姿の時によく着ていたのに似た黒い着流しをゆるりとまとった少年。 みつけた。 いた。 あいたかった。 懐かしい。 愛しい。 たくさんの思いがこみ上げてくる。 近づけば近づくほどわかる。 “以前”と同じ魂の匂い。 そして、ただびとでは持ちえない、神気。 彼が纏う空気は、最後の別れの時よりもより深みを増している気がする。 温かい太陽のようなそれ。 その大空のような神気が、確信を持たせてくれた。 背丈も雰囲気も顔立ちも声も何もかも違ったけど、間違いなく“僕らの主”だと思えた。 姿かたちなど、僕ら刀剣が人型になれたのと同じぐらい些細なこと。 必要なのは魂。 その色合いと奏でる音色。 涙があふれそうになった。 泣きはしなかった。 だけど想いだけはとまらなくて。 その小さな背をひきとめようと、もつれる足を無理やり動かして、声をかけた。 「土方さん!!」 「待ってくれ主!」 「ねぇ待ってよ!待って!・・・土方さん!!」 「主!たのむから・・・待ってくれ」 声をかけたひとの側には、山姥切がいた。 このひとも審神者なんだって気付いた。 なら、僕らもあなたの“刀”にしてほしい。 あなたの側に居たい。 主と仰ぐならあなただけがいい。 ねぇ、主。僕らも人の姿になれたんだよ。 今の姿なら、何かを壊す以外にも土方さんの役にたてるでしょう? ――ねぇ、土方さん。 もう、追いかけっこは、つかれたよ。 「お願い・・待って・・・」 山姥切国広が、審神者の手を突然つかんだ僕らを警戒するように刀の柄に手をかけた。 警戒されるのもわかっていたし、その刀が喉元につきつけられようとも構わなかった。 ただただその小柄な背にすがった。自分達に振り向いてほしかった。 待って。と。 山姥切国広は、己の審神者に突進したのが同じ刀剣男士だとしり、驚いたように目を見張っていたが警戒はとかない。 その驚きが、僕らがすごい格好しているからか。それともこんな折れかけで動いていることへの賞賛か。審神者がいないのに顕現していることへの驚愕か。なにをもってそんな表情をしたのかは、兄弟刀とはいえこの世界の記憶のない僕にはよくわからない。 ただ山姥切国広の横にいた髪も服も何もかも黒い審神者が、彼に武器を降ろすように指示したことで、しぶしぶ刀だけは降ろしてくれたのにはほっとした。 なにせ僕らは折れかけだ。まだかの人と話もしていないのに、やっと見つけたのに・・・こんなところで折れるなんて御免だった。 あきらめる。僕は本当はそれが苦手だ。 僕らの主の大切にしていた銀髪侍が言っていた。 「あきらめたらそこで終わりだ」と。 だから僕たちはまだあきらめられないんだよ。夢を目の前にして、ここで終るわけにはいかないんだ。 「どうか僕らの主になってください!」 「たのむ、"十四郎"さん!!」 『その名をなぜ・・』 振り返ったそのひとと視線が合う。 あのひとは、僕らを見て特徴的な眉をしかめ、大きめの目をさらに丸めていた。 そこにあったのは、金のようにも見える鮮やかな緑。 ああ、その鮮やかな色の瞳は、変わってないんですね。 こうして人工的な付喪神として生まれなおした後もなお、脳裏に焼き付いて離れない色。 ただの刀だった頃、その色を僕はこの身に、我が刃に、何度映したことか。 ずっとお会いしたかった。 ようやく会えた。 貴方だけを探してた。 あるじ。主様・・・我ら二振り、貴方をずっとお慕いしておりました。 ―――土方十四朗様。 「主」 『・・・まさかと思うがその気配。お前たち』 「ぁ…」 「ブッファ!!!」 「は?」 『うん?』 「ちょwwwやだ、ちょっと兼さん来て来て!外見かなり変わってるけど主だよ、主! 土方様、相変わらず有り得ないような神気纏ってますねwwwって!?ぶふっ!!アハッハハハハ! やっだ〜まだその鉄壁のV字前髪、変わってないんだwwww」 「ぶっ、こ、これはひでぇ。転生してもなお、土方シンボルなその鉄壁X字前髪は健在とかwww相変わらず趣味が悪いぜ主」 『《オレ》の脇差と打刀だった者たちか。バカだなぁ、輪廻を超えてまで追いかけてきたのか』 僕らはもう霊力なんかつきかけていた。 それでも主にみっともない姿を見せたくてなくて、笑った。 精一杯笑ってごまかして・・・。 『まったく、いつまで“笑ってる”んだ。 オレも審神者になったばかり、ちょうどいい。お前らついてこい』 「主…こいつらはいったい」 『説明は後だキリ。ほら――』 ――“帰るぞ”。 主は、キャラが違うと言わんばかりに僕らはカタカナ用語を並べまくってあげく大爆笑してるのに、何も言わず――ただ僕らを僕らとして認めてくれて。 くしゃりと頭を撫でてくれた。 くすぐったい。 あたたかい。 あれ? ・・・おかしい、なぁ。 嬉しいはずなのに。 おかしいはずなのに。 なんでかな? おかしすぎて、涙が出てきちゃったよ。 ふふ。へんなの。 僕はその日。 彼の初期刀である山姥切国広が、僕と兼さんをみて、驚いたような、なんだか泣きそうな、けれど嬉しそうな顔をしていたのを――みなかったふりをした。 泣いていたのに、それを一切言わず“笑ってた”とだけ言ってくれた主に感謝だ。 そんなみっともないとこ、やっぱりはずかしいからね。 だから、山姥切の目に映る僕らの顔が、とんでもなくくしゃくしゃだったなんて――そんなのしらないよ。 * * * * * 万事屋へ行くさなか、町中で突然駆け寄ってきた堀川国広と和泉守兼定は、ボロボロで今にも折れてしまいそうな出で立ちだった。 だというのになにか必死で、迷子の子供のような顔で、泣きそうな様子で、おのれの主の足にすがった。 だが、二振りは花宮字の顔を正面からみるなり、その視線は前髪に固定されていて――笑い転げた。 けれど、その顔はなんだか泣くのをこらえるようにぐしゃぐしゃで。 彼らがなぜボロボロの姿で現れたのか、それより泣くのをごまかすように無理して笑っているようにも見えるのも彼らの言葉の意味も何もかも、山姥切国広には理解できなかった。 しかし山姥切国広の主は、そんなどこか様子の可笑しい二振りに思い当たることがあるようであっさり彼らを“自分の刀剣”だと受け入れた。 花宮は泣きじゃくる二振りを見て、こどもをみる親のような慈愛にあふれた顔をして、彼らの頭をくしゃくしゃと撫でた。 それにくすぐったそうに笑う彼らは、ようやく親を見つけた子供のように、若干の不安がないまぜになったような喜色の表情を浮かべていた。 顕現したての山姥切りには、とうてい彼らの複雑な感情の意味などは分からない。 けれど涙があふれてとまらないとばかりに大きな目からボロボロと雫をこぼす傷だらけの二振りが、己の審神者を主とあおぎたくて探し続けていたのだろうことはわかった。 なにより泣いていることを隠したくて、笑ってるふりをしているのも・・・・なんとなく感じ取れた。 自分の主を慕うのならば、これは花宮談であるが同じものをみる同じ場所に住むもののことを仲間といい家族というらしい。ならばこの二振りもそれなのだろうと山姥切りは納得する。 “仲間”――そんな二振りが、悲しみだけでなく、嬉しさのせいで泣いているのだとしり、山姥切国広はすこしだけわらった。 “家族”が辛くないのならば、哀しくないのなら、それでいいのだ。 『泣いたあとは大声出して笑っとけ』 そうしてボロボロだった堀川国広と和泉守兼定は、花宮の本丸に迎え入れられた。 その頃にはあふれる涙を止めるすべが分からなくて、その代わりに笑ってごまかしているのだと・・・顕現したばかりで感情に疎い山姥切にも理解できていたので、泥まみれで笑う二人をなんだかあたたかい気持ちで見つめていた。 これが、花宮と“彼の刀たち”との出会い瞬間である。 そして花宮の山姥切国広にとっては、初めての仲間との出会いであった。 とりあえず表だっての名目としては、堀川国広と和泉守兼定の二振りはドロップでゲットしたことになっている。 町中をボロボロの刀剣男士が歩いていた? 何の話だ? * * * * * 『よし!手入れ終了!これからオレたちと暮らす堀川国広と和泉守兼定だ。仲良くしろよ』 「ん?堀川、くにひろ・・・兄弟か?」 「ん?あぁぁぁーーーーー!そうだ自己紹介がまだだったよね!君、山姥切国広だよね。この憑代の兄弟刀ってのはきいてたよ。僕は堀川国広!異世界の刀で、主がそのまんま前世で使ってくれていた刀その1だよ。“こっち”では兄弟だよ!よろしくね!」 「俺はその2だ。土方十四朗が愛刀だった和泉守兼定。よろしくな」 「土方…とう?トシロウ?ん?トウ、と・・・トウモロコシ?」 「ぶっふぉ!?兼さん僕もうだめwww兄弟が愉快すぎるよwwwwww土方さんがトウモロコシとかうけるwwwwww」 「トウモロコシとかwwwマヨネーズと同じ色だから?wwまじで?wwwwぷっww」 「・・・・・堀川国広と和泉守兼定は、こんなに笑い上戸だっただろうか。そして意味が分からないのだが」 その後、花宮から聞かされた事実に、山姥切はさらに驚くこととなる。 『フハッ。歴史修正者という存在がいるんだ。時空が歪むことぐらいあるだろうよ』 歴史が改変されれば、どこかで歪みが発生する。 むりやり書き換えられた世界では、消された分の隙間を埋めるように別のどこかで違う何かが発生する。 ならばその書き換えられたどこかが、枝分かれした世界(パラレルワールド)として残る可能性もある。 異世界も存在するのだから似て非なる時間をたどる文明があったとしてもおかしくない。 ゆえに、異世界の刀の付喪神が、この世界によばれてしまっても。ないとはいえないのだと主は言う。 この眉毛が特徴的な審神者の名を花宮字。 前世はアマテラスという神だというが、その後は人になったりと色んな世界を転生していたらしい。 山姥切の前に立つ二振りの刀は、その主の転生先の刀だという。 この主、なんとこことは異なる世界の過去で、この二振りの主であった「シンセングミのヒジカタ」として生きていたこともあったのだという。 その時の名を――土方十四朗。 その土方十四朗の愛刀たちに魂が宿ったが、なんらかの事故で別世界であるこの世界にたまたま召喚されて、あげく刀剣男士として顕現してしまった。 しかし本丸と相性が悪く、折れたふりをして家出。 戦場から無理やり人様のゲートをくぐったら町にいて、あの再会シーンにつながるのだという。 それがことの真相らしい。 どこかの白いビックリ爺ではないが、驚きである。 彼らは、彼らしく生き続けていいのだと、花宮に言われ、それをことのほか喜んでいた。 そういうこともあるのだろう。っと、山姥切国広もまた「刀剣が人の姿になるぐらいだから」と、もう世界には何でもアリだなと自己完結した。 ありのままでいい。それを受け入れられた堀川と和泉守。 その結果、彼らは・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・笑い上戸になった。 もとからなのかもしれないが、間違いなく山姥切がしる刀剣男士としての彼らとは性格が違って、おもしろおかしい具合に二振りは進化を遂げたのだった。 当人たち曰く、あんな笑いしかない世界にいれば、笑い上戸にもなるとのこと。 なにせこの堀川国広は、自分が本当に堀川一派の刀なのか疑うこともなければ、その件に関しては逆に「どうでもいい」と言い捨ててしまえるほど豪胆で、 山姥切国広が写しであるとか一切合財気にすることもなく、自由奔放な性格をしている。 異世界の刀――その証拠といってはなんだが、それがすこしばかり個性に磨きがかかった笑い上戸ということであれば、彼らの性格が自分が知りうるものと違っても納得できるというもの。 この笑い上戸な堀川と発生(?)した世界を同じくする兼定も、また、性格が他の和泉守兼定と異なっている。 表面は平静を装っているのだが、やたらと肩を震わして笑いをこらえているのである。 必死に笑い上戸を否定するが、たまに噴出している時点でアウトである。 そんな2人の側には、常に桜が舞う・・・・・・のではなく、嵐のごとく吹雪いている。 思わず、笑うのをこらえるぐらいなら、普通に声を出して笑ってしまえと言いたくなるほどの桜の花びらの数である。 もう兼定とか、とくに笑いをこらえる意味をなしていないほど、感情がですぎだと突っ込みたい。 ただし。 その後、本当に彼らが遠慮しなくなり、声を出して笑い始めると、今度は堀川の笑い声が耳にこびりついて離れず、笑い声の幻聴が聞こえるようになるまで笑いまくるようになることを―― カナシキカナ。 現段階では、まだ誰もそのことを知らない。 その本丸ではいつも幸せ印の桜が咲いているらしい。 |