有得 [花悲壮]
〜 W花とその後の後×名探偵コナソ 〜
06.迷子はいない
※『』…成り代わりがいる世界側のセリフ
※「」…原作より世界側のセリフ
ハイ どーも オレです
花 宮真ですよ
とはいえ、別の世界の花 宮真です
成り代わってしまったので、名前は真ではなく花 宮字と言います
そんなオレがなにしているかって?
またまた遊びに来ました
ここがどこか。だって?
フハッ!
そんなの――
もちろん決まってんだろ
【 side 成り代わり花 宮 】
オレはしょせん成り代わりの花 宮だ。
そしてオレの世界には、原作世界とは異なり、誠凛に魅了をつかってモテにモテまくる女がいる。
しかし彼女がターゲットにしている火神大我は、実は《神崎零》という少女が成り代わった――原作を知るオレの前世兼トリッパー仲間である。
っというのが、実は去年の話だ。
去年までの時間は、どうやら原作にある時間帯だったらしい。
しかしオレの介入のせいで原作のシナリオは捻じ曲げられ、原作軸が終わると同時に夢見る女は世界から排除された。
そして、火神に成り代わった〈レイ〉について。
じつは彼もまた不思議な力がある。
最近の判明したのだが、なんとテレビをとおして不思議な力を使えるようになったのだ。
もともとはいくつか前にトリップしたさきのでの能力らしいのだが、そのおかげでオレは“花 宮真”のいる世界に鑑賞できるようになったのだ。
人様の力を借りないと干渉するってせこくない?というツッコミは――言いたい奴には言わせておけばいい。
原作破壊も原作介入も興味はないのでな。
そしてその原作よりの世界に生きる花宮と、オレがある日精神が入れ替わってしまったことがあった。
あの“原作花 宮”とのその入れ替わり事件からしばらくして、〈レイ〉の力を借りて、オレは向こう側の世界に兄と慕う宮地清志をつれて遊びに行ったことがある。
テレビからでてきたからすごいビビられたがな。
―――そこから何度かあっちとこっちを行き来しているうちに、真の世界の霧崎と今吉さんとも仲良くなった。
そんな頻繁じゃないけど、電話なんかは最近ではよくつながる。
電波や現在地情報、通話料やら発信地やらの履歴、その他もろもろがどうなっているのか、物凄く気になるがそこは気にしないことにした。
そうしているうちに、オレは向こうの世界の花 宮真とずいぶん仲良くなった。
字『仲良くなったからには来ないわけないだろ』
その心理のもと、今日は清志と火神もつれて、“花 宮真”の世界に遊びに来ている。
* * * * *
「うわー本当にテレビからでてくるんだ」
リビングの真ん中にあった机を囲んで勉強をしていたらしい原が、テレビの前でしりもちをついていたオレたちをみて手にしていたシャーペンをボトリと落とした。
オレと清志は物見遊山のつもりでテレビの中に広がる異空間を見ていたのだが、途中で火神こと〈レイ〉が苛立ったように「とっとと行ってください!HPの消費が半端ないんで!!!」そう恐ろしい笑顔で言うと、背を強引に押され、たたき出されるようにテレビから追い出された。
テレビから抜け出たオレと清志は勢い余ってそのまましりもちをついた。
火神…〈レイ〉だけが、悠然とテレビから出てきていたのには、なんとなく理不尽を覚えた。
そんなオレたちを出迎えたのは、霧崎のメンツだった。
とはいえオレの世界のメンツではなく、彼らは真の友人だろう。
呆然とした霧崎勢に、オレたちをみて真は苦々しげに顔をゆがめた。
どうやら〈レイ〉が頑張ってくれたおかげで、ねらいどおり真の部屋のテレビと空間をつなげることに成功したようだ。
まぁ、このメンバーであるなら、ありがたいことに詳細は不要だろう。
オレはさっさと立ち上がって身なりを整えると横でうった尻に顔をしかめていた清志に手を伸ばして立ちあがらせ、あまりのことにか初めのアレ以降声ひとつあがらない空気を何とかしようと、『よぉ』っと軽くあいさつをしてみた。
説明をすると長くなるのでこれもまた省かせてもらう。
まずは挨拶。
次に真に聞いたところ、この“原作寄り”世界では、ただいま土曜らしい。
つまりは、明日は休みなので長居しても問題ない。しかも真は一人暮らしである。
そのため真の部屋に霧崎レギュラーズは集まって、勉強会をしていたとのこと。
っが、しかし。
そこへオレたちが乱入してしまったので、勉強会はいったん打ち切り。
このままオレたち平行世界組は真ん家にお泊りし、霧崎ズと平行世界組で今日の晩飯はパーティーをしてはしゃぐことが決定となった。
日帰りの予定だったがそれをやめたのは、あんにオレたちの運送担当である〈レイ〉のスタミナぎれによるものが大きい。
どうもTVとTV直通の移動にはそうとうなHPを消費するらしい。
MPではなく体力なんだと若干興味がわいた。
おかげでテレビの中の異次元を通るまでは元気だった〈レイ〉だが、移動による疲労が半端ないようで、いまではさっきまで瀬戸が一人で陣取っていたソファーを〈レイ〉がつかってぐったり横たわってる。
清志とオレと霧崎ズは、テーブルの参考書や教科書ノートといった勉強道具をかたし、かわりに茶菓子(オレ持参の迷惑料)をおいて紅茶やコーヒーをいれての団らん中だ。
山「それでどうする?まだ太陽もあがりったばっかだぜ?」
零『おれ、うごけない・・っす・・・うぅ』
清『全員昼飯はくったばかりなのが救いか?」
字『夜飯ぐらいつくるぜオレが』
花「だけどこんだけの人数分の食材はうちにはねぇ。さすがに買いにいかねぇと」
古「すまない花 宮達、料理はできないが・・・だがお茶なら用意できる!」
山「それ容器にパックと水いれるだけだからな。料理とかのレベルじゃないからな」
清『ひとまず。飯を作るにしてもだ。この中で料理できるやつは?おれ達三人はある程度できる。一番芸達者なのは字だ』
山「あ、俺できるぜ。得意は菓子作りだけど。あと、こっちはマコトぐらいか」
零『夕飯までにはきっと、復活、できる、ます」
原「あ〜むりしないの。〈レイ〉ちゃんはちょぉ〜っと休んでようね」
零『うす・・・』
清『なら決まりだな』
花「だな」
山「〈レイ〉がサポートとして飯時には活躍してもらうとして、食材は目利きができるやつらでいく。最低三人はいったほうがいいな。レイの食う量を考えると荷物持ちは必須だ。あとだれかが〈レ‥」
瀬「だれかが〈レイ〉についていたほうがいいだろう」
山「かぶせんな!!」
原「あ、でもそうすると買い出し組み、いける人間限られちゃうよね?」
瀬「ああ。簡単な引き算だな」
「「「「清志さんは絶対」」」」
清『お、そうか。じゃぁ、あと荷物持ち」
字『きょー兄だけだとこの世界のこと知らないから危ないだろ』
古「それに平行世界組の人たちには申し訳ないが、変装してもらう必要があるな」
っと、いうわけで。清志による変装術の授業が開演された。
そもそも向こうとコチラでは時間軸が違うので、毎回着ていく服には非常に悩まされるのだ。
そのためこちらに遊びに来ると決まった時、清志はスポーツバッグにいろんな季節物の衣類を詰め込んでいた。あと毛先が長めの黒いかつらをつけて、キャップでそれをおさえて、メガネまでして別人をよそおっている。準備がよすぎるおしゃれマスターである。さすが我らが清兄である。
オレもいくつか衣類は持ってきてはいるが、大概下着や中に着こむ服ばかり。
ジャンバーやコートなどの上着類はかさばるので真に借りる気満々できたので、清志よりは荷物は少ない。
〈レイ〉はというと、今日は運送役であるのだが、彼は空間の移動にHP?とやらを使い果たして疲れていることと、清志と違って変装が面倒だと豪語したので、変装術講座ことおしゃれ指導はきいていないようだった。
かくいうオレも他人任せで聞いちゃいないが。
なぜ変装が必要かというと、この世界は平行世界というだけあって、オレが知っている人間たち――花 宮も火神大我も黒子テツヤも今吉翔一も宮地清志も同じようにいる。
ただしその誰もが自分たちの世界と同じ性格や関係を築いているかというとそうでもない。
しかし容姿は同じわけで・・・。
すなわち、オレと同じく向こうの世界から来た人間は、必ず変装がいるということとなる。
そうでないと、こちらの世界の同じ姿をした彼らと勘違いされかねないからだ。
オレのせいですっかりオシャレに余念がない清志は、服とかしっかり用意していて、髪を黒く染めて帽子をかぶって伊達メガネをして…と、慣れた感じで普段とは違う衣服を着こなしている。
これはもう完璧な変装と言っていい気がする。
オレはというと――なんだかんだいいながらも不幸体質のせいで、花 宮真を知る者とのエンカウント率が高い。この世界でオレの立場は、花 宮の親戚、はたまた花 宮そっくりの別人でとおっている。どうせこの世界と縁が切れたら修正力が働いて、並行世界の住人んことなど縁が遠い者から忘れていく。これはどの世界でも同じだったから、いまさら存在を隠す必要はない。まぁ、この世界の知人と遭遇しないにこしたことはないだろうが。
あと容姿に関してつけたすなら、平行世界の人間であるがゆえに、花 宮真とオレは容姿が少しばかり違う。
そのためオレには過度な変装の必要がない。
外に出た場合、ばれないようにずっと気をはっていないといけないのは面倒ですね〜ご愁傷様です。とは、真の部屋で霧崎のやつらに看病されて少し回復したらしい火神な〈レイ〉の言だ。
字『それでどうするんだ?ってか、おまえら何が食いたい?』
火神…この世界でにも火神はいるから〈レイ〉って呼ぶ。
オレたちの世界の清志は清志で。
こっちの世界の清志にもし会うことがあったら、宮地さんと呼ぼう。
その〈レイ〉が、料理を手伝ってくれるらしい。まだへばってはいるが。
まぁ、まだ全回復しきってはいないようで『俺のかわりに、買い出しよろしく。です』と、買い出しにいってこおいとばかりに手を振ってすでにくつろぎ体勢にはいっている。
山「作るのはアザナさんだから、あんたの好きにすればいいよ」
字『食えないもん、嫌いなものはあるか?』
花「ねぇな。それに一哉たちの分はテキトーでいいんだよ。こいつら食うだけなんだからな」
原「え〜いいじゃんマコト。せっかくアザナさんが作ってくれるっていうんだから!おいしいものがいいよ!それとも俺らだけのけもの?」
古「ここまで呼んでおいてそれはないだろ」
山「あ、〈レイ〉これ酔い止め。きくかわかんねーけど、症状が似てっからもってきたけど飲めるか?」
零『thanks youっす、サキさん』
字『マコ。オレ、生クリームがほしい』
花「はぁ?テメェは食えねぇだろうがふざけんな」
原「ちょ!待ってマコト!アザナさんの生クリームって発言が来たら」
瀬「ケーキだな」
零『そういえば字先輩、菓子作り得意ですよ』
古「あれは・・・うまかった」
清『マコ、ここで一言言わないとレイたちに合わせた甘いケーキづくしになるぞ。「アザナお願い甘くないケーキで!」とでも懇願した方がいい』
花「なっ!?まじでかキョー兄。アザナぁおまえぇ!自分が食べないからって!!」
字『フハッ!作っても食べなければいいだけだ。ならば吐き気がしようと甘い物ぐらい作って見せよう!』
零『そこでドヤ顔とか、字先輩いかすわ!真さんまでゲス顔wwwwwぶっは!あはっはははは!ぶふぁっーー!ってかwwwな、なんでふたりともwwwwwwケ、ケーキごときで互いにゲス顔MAX・・ぶふっ!!あははははは!わ、笑えるんすけど!なんで花 宮さん二人とも笑顔でゲス顔って!!wwwwおなかいたwwwww』
山「うるせー!あっちの火神は笑い上戸か!?」
瀬「騒がしい」
古「まるで秀徳の緑間の相方みたいだな」
原「マコトは安定のゲス顔だね。それはいいけど・・・アザナさんが上から見下してるようなゲスい気分なのはわかるんだけど。わかるんだけどねぇ。身長低いのにそんな見下したようなゲス笑顔向けても・・・見上げて上目ずかいしてるようにしか見えないよ。アザナさぁ〜ん・・・ごめん、なんか残念なことになってる」
零『見下してるのに見上げてるブフッ!!!』
清『ああ、なるほど。たしかに言い得て妙だ』
瀬「ふぁ〜眠い」
清『なぁ、ならちょっと遠出しようぜ。おれ、もうちょっとこの町見てみたいし。それに男が三人いれば十分この人数分の食材ぐらい持って帰れんだろ。
いろいろ材料をそろえて今日はパーティだ』
花「はじめからアザナだけじゃなくて、キョー兄や〈レイ〉まできた時点でそれは承知済みでしたけどね!!それでもね!!」
字『あ、火神もといレイは結構…というかとんでもなく食うぞ』
零『ちゃんとお金は払いますよー』
字『こっち過去だからな。使える札と銭は気をつけろよ』
零『おっと。マジっすか。あーめんどくさい。字先輩、俺の財布から俺の分の食費代抜いといてください。計算は任せるっす』
清『じゃぁ、買い出し班はオレと字な』
零『あ。でも案内役が一人いないと迷う。ぜ。です。特に字先輩が』
清『方向音痴じゃないんだがなぁ。なんというか巻き込まれやすいから』
字『案内がなくとも勘でたどり着く自信はあるが?』
原「あー、わかる。ならマコト行ってきてよ。俺ら〈レイ〉ちゃんと遊んでるから」
古「それがいい。キョーさんはアザナさんの保護者だから当然だしな。アザナさんといえばマコト。だから俺たちのぶんまでよろしく」
山「そうだな。アザナさんにはマコトがついてないとダメだろ」
瀬「無駄に二人で歩くことが多いんだ。もういっそ双子説広めてくるといい」
花「おまえらなぁ。・・・まぁ、たしかに。同じ顔をしたアザナを一人で野放しになんかしたくないが」
花「ああ、そうそうお前ら・・・“五倍”な」
原「えー」
古「理不尽だ」
山「あ、死んだ俺」
清『こっちの霧崎の奴らはマコに手厳しいな。っていうかマコがいじられてる・・・すげ』
字『ふふ。こちらの霧崎(みんな)は、マコと同じ位置に立っている。しっかり“花 宮”と友達やってるようでなによりだ。
うちの霧崎の奴らはどうも甘やかしすぎたようで、ちょっと言動が子供っぽくなってしまって。
そのせいか、ねだる菓子も最近激甘なものも増えてきたし。ふぅ〜。コレストロールカタにならないといいが。あと虫歯な』
字『マコと普通の友達として、側にいてくれて――ありがとうみんな』
清『そうそう結構心配してたんだぜ。よかったな〜マコ。お前、猫ばっかかぶったりゲス顔ばっかしてるみたいだから心配してたんだ。おれも字もな』
花「っ!!!!!」
原「わーマコトの顔真っ赤!うける〜」
山「天然なイケメンこわっ!!!」
零『ウチの世界の【みゃーズブラザー】はめちゃくちゃっすよ。ひとを褒めまくったり、子供持った母親のような態度とかは通常運転っすから。気合で皆さん慣れてください。です』
古「そんなにひどいのか。・・・あと〈レイ〉、目がうつろだ」
山「げっ。康次郎が二人になった」
清『字なんか、なに言っても顔色変えないんだが。あ〜こっちの“花 宮”はコロコロかわって可愛いなー』
花「ちょっ!?なに恥ずかしいこと言ってんだよキョー兄も!!
チッ!!わかったよ!いけばいいんだろいけば!せめて健太郎お前も荷物につきあ」
瀬「zzz…」
花「寝るなよ!しかも誰だ優しく毛布まで掛けてんのは!!ここはオレの家だぞ!」
零『あ、すんません。自分っす。いや、あまりにも瀬戸先輩が気持ちよさげに寝てるんでつい』
花「はぁ。もういい。いくぞアザナ。すみませんキョー兄はこのバカが出かける準備を手伝ってやってください」
* * * * *
そんなこんなでオレの服装を整えるついでに、真も衣装チェンジさせられていた。
こちらも清兄コーディネイトで、オレと真は色違いの双子コーデである。
そうしてオレたちは今日の買い出しのためにと、ちょっと数駅離れた駅までやってきた。
身近だと花宮の知り合いが多すぎる可能性があるためだ。
清『あれ?なんか見覚えがあるような名前だなぁ。なんだっけ?』
降りた駅の名前は、なんとあのキセキの青色が通う学校の近く名称。
・・・・・なぁ〜んて、きっとオレの気のせいだ。
そう思いたかったが、清志にもしっかり見えているようでいろいろ諦めた。
清『なんだ。今吉ンとこからすぐだな。あいつたしか寮生活だろ。バッタリあったりしてな』
字『やだなにそのフラグ』
花「フラグこっちみんな!と叫べたらどれだけいいか。むしろ言霊って知ってるキョー兄?しってて言った?」
清『はは。そう簡単に会うわけないって』
花「アザナの不幸体質」
清『・・・わるかった』
清志と真は真顔でこちらをチラチラとみて、かたをおとしていた。
悪かったな不幸体質で!
つか、今吉さんに会いたくないのは真もだろ!っておもうわけで。
字『っーか、なんでこの駅に来たし!!!』
花「ふはっ。いいか、よくきけアザナ。ここにはいろんな種類のチョコが売っている店があるんだ。お前ならサトリの恐怖とチョコどっちをとる?」
字『チョコだな。オレらがくえるようなやつ?』
花「95%以上」
字『よしのった。ん?つまりはあれか。オレはマコのために苦いケーキを作れと?』
花「目指すはカカオ100%!なお100+だとさくさくしたのがはいっていてよりうまい!こないだは95%はあったんだ。おしいことにその時は手に入らなかったが」
字『100%かぁ〜ケーキにするには溶けにくいんだけどなぁ』
清『カカオ95%!?ちょ、お前らさすがにそれはもう泥だろ。うぉぇー。おれはそこまでのは勘弁だな』
字『大丈夫だ清兄ぃ・・・あの大食い火神がいるから、もとから複数品は作るつもりだった。マコの分は別に作る』
花「さすがはオレ!チョコケーキ作ってくれ!頼むぜ」
字『しかたないな。次は山崎に頼めよ?』
花「ああ」
かくして。目的地へと向かって町中を歩いていけば、オレと真は“見たくないもの”を目撃してしまった。
フラグさんはしっかり仕事をしていたようだ。
二人そろて思わず足を止め、そのまま回れ右をしようとしたほど。
っが、しかし。
清『帰んなバカども』
オレたちの後ろを保護者よろしく歩いていた清志がニッコリ笑顔で、オレと真の肩をつかんだ。
そのまま満面の笑顔でオレと真をひきずって、“それ”の方によっていく。
清志の左腕にがっしりと肩をつかまれ引きずられている横のオレをみる。
ちょうど相手も同じことを思ったのか、オレと視線があう。
そのまま同じ特徴的な眉を心底困ったように「ハ」の字にしていた。その目には、眉がつりあがったオレの顔が映っていた。
花(会いたくない会いたくない会いたくない会いたくない会いたくない会ったらケーキがまずぅなるわ!どうする!?)
字(今あの顔と声で声をかけられたきれそうだ。そうだな自分も呼べとか無理やりやってきて、あげく桐皇のやつらまできて晩飯の量が増える可能性大だな。花 宮が二人いる説明も面倒だし、量がなぁ。さてどうするか)
花字((答えは決まってんだろ))
視線での会話は終了。
よし。ならばにげるか。
そう思って互いに頷いたところで、
清『おーい!今吉!』
清志が、大きな声を出して“それ”に手を振りながら声をかけた。
横でこっちの世界のオレが絶望したような今にも泣きそうな顔で、清志を見上げていた。どうやら裏切られたようなショックで声も出ないらしい。
オレはというと、大きくため一つ。
やれやれ。これでは今日の晩飯の参加者が一人追加されるのは決定のようだ。きっとにぎやかさが増すに違いない。本当に子供たちは元気だなぁ。
そんなこんなでついに逃げられなくなったオレたちは、清志の両腕に抱えらたまま、携帯をいじくって誰かを待っていたらしい人物のもとまで連れてかれた。
清志に声をかけられて顔を上げた今吉は、周囲を見渡すように左右を見渡していたが、また清志がかの妖怪メガネの名を呼び手を振ったことで、ようやく清志に気付いたようで不思議そうに首をかしげた。
今「おん?だれや?」
清『ああ、この姿じゃわかんねぇか。おれは宮地清志。いつもうちの花 宮ズが世話になってるなぁ』
黒い長めの髪(ウィッグ)は肩のあたりでみつあみにしてたらされているし、前髪の位置もちがう。
目元を隠すように深めにかぶったキャップ。
フレームは細めでデザインを重視してはいるしがメガネ。
それに派手な色彩のパーカーとシャツ。もはやどこかでラップバトルをしていてもおかしくないいでたちである。
これが宮地清志とか、色が違うだけに飽き足らず服も違うのだ。わかるはずもない。
あと身内贔屓であわるいが、どこかのシャララ…もといモデルな黄色いわんこより、たぶんうちの清兄のオシャレ具合の方がダントツ上だと思う。
なお、うちの世界の清志は、オレの母の脳みそ改革をたくらんでいるせいで、わが母に対抗するようにだんだんこういったファッション系に本気を出してきてるから、センスもよければ、きこなしとかすごい様になる。自分に何が似合うか把握しているのだ。
こないだなんか街を歩いていたら、モデルと勘違いされて写真をねだられていたほどだし。
意味が分からないとばかりに仰天して普段は開かない目を開眼させている今吉さんに、オレは呆れたようにため息をまたついた。
花「どうすんだよアザナ」
字『マコ、諦めよう』
花「ちっ」
今「ん?花 宮が二人?ってことは・・・ああ、アザナって “ちぃーみや” やな。ほな、もしかしてそっちの宮地クンは、“向こうの世界”の?」
清『ああ。宮地清志だよろしくな。実際に会うのは初めましてだな』
今「その恰好は?名前言われるまでガチでわからんかったわ」
清『こっちの世界の宮地清志の知り合いに会うと面倒だろ。それで変装してんだよ。それと“花 宮”と“宮地清志”の名はタブーな。ややこしいことになるからな』
今「せやったわ。なら花 宮たちを真似て、ワシも“キョークン”って呼んでええ?下の名前で“清志”って呼ぶのもやばそうやしな」
清『むしろそれでたのむわ。
ところで今吉。お前、こんなところでなにしてるんだ?』
花「そうですよ先輩。ここ先輩の家からもそこそこ離れてるじゃないですかー」
字『マコ、ここ…先輩のガッコの最寄り駅』
花「あ・・・」
――出会ったのは今吉さんでした。
真はよっぽど嫌なのか、その後さまざまな悪態を今吉先輩にツンとそっぽをむいて猫をかぶった。
直訳するなら「なんでいるんだよ、今すぐ帰れー」だ。
それに今吉さんも清志も苦笑している。
今「友達がなぁ、こっちくるゆうて。ただの案内や。っで、そいつがよるとこあるからって、あっちの都合に合わせたら待ち合わせがこの駅になってん。
花 宮たちはアレやろ。チョコ。たしかそこのデパートにはいろんな種類の海外品を入荷しとる店がこの近くにあったはずや。あそこには100%のチョコもはいとったしなぁ。なぁ、花 宮?」
字『なぜわかる!?』
花「はぁー…だから嫌なんだよこの人と話すの」
さすがは妖怪サトリだった。
先読みがお得意ですね。これにはオレの中途半端な超直感もお手上げだ。
今「なぁ、少しだけ一緒させてもろてもええ?あいつ、なんや長引いとるみたいでなぁ」
字『かまわない』
花「アザナッ!?」
字『子ども同氏仲良しなのはいいことだろう?』
今「おー ちぃーみや の笑顔は相変わらずやなぁ。はは、つか、ワシなんかもジブンにしてみればこどもって・・・なんやねん。こっちがいたたまれなくなるのはなんでやろな〜。
“ワシらジブンの子供か!?”って視線がなぁ。口調も花 宮より、なんちゅーか君臨者?いや、地母神?そないっぽいイメージなんよな〜。似合うとるけど。あ?意味わからんって?ええよ。これワシの独り言やし。
うん。でもひとつだけいわせてもらえんか?
あんな、ちぃーみや。後生や。たのむから。その子供が悪戯してるのを見るような、生温かい目はやめてくれへん?なんか、かゆぅなるんよ」
清『まぁ、それが字の通常運転だ。ガンバレ慣れろ』
今「きつっぅ!これはきついでキョークン!これが自分より年下だとわかる奴からの目だからよけいに無理や!!」
花「妖怪にも苦手なものがあったんだな。よくやったアザナ。もっとやれ」
今「は〜な〜み〜や〜!!」
オレたちの予想に反して今吉さんは、ご飯までは一緒にしないらしい。
字『よかった食事代が浮くわ(レイのやつめちゃくちゃくうからな)』
清『さ、いこうぜ。ほら字にマコも今吉からかってないで行くぞ』
今「なんちゅー華麗なスルースキル、キョークン恐ろしい子や!!そんでもって、そこの双子モドキ!!おまえらなんでキョークンに忠実なん!?ワシは!?ワシ、二人の先輩やろ!!
なんでそないワシに冷たいんや!!ワシいいやつやろ。ワシのどこが嫌いやねん!?」
花字『「そうやって先輩ってことを強調してくるとこ?」』
そりゃぁ、清志に呼ばれたら条件反射でついてきますよ。
オレとマコは清志には従いますよ。
なんだろうねこれ。習性?いや、すでにほだされてしまっているのが身についているのでついな。
もちろん今吉さんには従いません。喧嘩は売ります。
当然の結果だろ。
それがどうした。
今吉さんはなぜか落ち込んでいた。
だけどそれを「うっとうしい轢くぞ」と呆れたような清志がその背を無理やり押してひっぱってつれてきた。ので、今吉さんも結局ついてきた。
なんだ。あのまま放置すればよかったのに。
結局一緒に買い物に行くことになった。
* * * * *
オレ、真、今吉さん、清志というメンバーで、デパートに到着。
ここは情報通の今吉さんを筆頭に、目的の一つ目の店に入った。
勝手知ったっる何とやらとばかりに真は一直線に、チョコレートコーナーへ向かう。
どうやら真の目的のものは――今日はカカオ100%があったようだ。うわさの100%+もあった。
カゴをもっていたオレはジャムとか珍しいフルーツとかめぼしい物がないかとあさっていたのだが、
そのオレのカゴに真がうれしそうにドサドサチョコレートをつめこんできた。
あまりの大量さに、思わず顔をしかめたオレは悪くない。
そもそもなんだそのゆるみきった笑顔は。
オレと同じ顔だから違和感あるんだが。
普段のお前も、普段のオレもそんなゆるい顔しないだろが。
花「ん!」
字『おい、マコ』
花「なんだアザナ(ニコニコ)」
字『これでケーキをつくれと?お前、何ホール全部一人で食う気か?』
花「よろこんで!」
今「ぶっ!花 宮が笑顔・・・!!満面の笑顔やて!?」
清『ホールか・・・すごいな」
花「非常食です(キリッ)」
字『なにをのんきな!そんなに一人で食べたら虫歯になるだろうが!しかもチョコをいっぱい食べたら鼻血がでるんだぞ!』
清花今「「「・・・・・・」」」
字『なんだよ。なんでそこで無言になるんだよ』
虫歯…よくないよな?
そこまで食べたことないからわからないけど、チョコって食べ過ぎはよくない。
って、誰かが言っていた。
あと鼻血出るっていうけど出た人見たことない。
そういえばカカオは美容にいいらしい。ってことはカカオ100%チョコレートは食べ過ぎても問題ない?ってことだろうか。
いいのかわるいのかはわからないが、なぜか三人にそのまま頭をワシワシなでられた。
なぜだ。
これは縮めということだろうか。
わからん。
字『歯ぁ、みがけよ』
花「ああ。みがくみがく」
字『なら・・・作ってやる』
さらにワシワシと、ロジャーが整えてくれた髪がぐしゃぐしゃになるまで撫でられた。
ロジャーさんが嫌そうに飛び立った。ふわふわ顔の周りを訴えるように飛ぶので邪魔くさい。
ああもうまとわりつくな。なでるなよ。
隠していたハネ毛がはねるだろうが。
わけがわからない。
はじめの店では、色んな乾燥食品やチョコを買った。
フルーツもほしい。
パイとかタルトでも作ろうかと思ったのだ。
タルトはカスタードとゼリーでコーティングすればかさましになるしなぁ。
パイはミートパイにすれば、腹の足しにはちょうどいいだろう。
そうするとフルーツと肉に玉子…は大量に欲しいところ。
だがナマモノの食料品は最後だ。
タイムセールをねらうらしい。
二番目に入ったのは、衣料品の激安店。
ああ、あるよな。こういう大型ショッピングモールって。ブランドに混ざって必ず激安店が一件はあんの。
そこでは清志がオレのための服を見るのだと意気込み、それには今吉さんや真まで参戦した。
着せ替え人形にされた。疲れた。
あげく洋服を二着買わされた(オレの自腹である)。
これも思うけど、なぜだ?そこまで選んだんだからお前らが払ってくれよと思った。自業自得と言われた。
そこから本屋をまわって。
スポーツ用品店も見て。
アクセサリーを売っている雑貨屋で、待ったをかけられた。
なんとそこで今吉さんから、オレと真へとお揃いのプレゼントをもらった。
もらったのは革のブレスット。ただし細いチェーンもついているこったブレスレットだ。センスいいな。
鎖にはちいさな花のアクセサリーと深い色合いの緑の石がついている。チャームと鎖は、ぶつかるとチリチリ鳴って鈴みたいだ。っていうかこれは、オレたちが花 宮だから?ダジャレか?ダジャレならオレ、もっと腹の底から笑えるのがいいな。笑点とか伊月のダジャレとか。
っていうか。これ・・・なにかありそう。
勘だけど。
革の部分のこの留め具…なにかしこまれてるな。まぁ、わるいもんじゃなさそうだからいいけど。
そもそもなんでプレゼントくれんだよ。
そこからして怪しいよな。
誕生日もクリスマスも時期が合わな過ぎる。
いやまてよ。これをくれる予定だったから、さっき服代を払ってもらえなかったとか?
・・・ちがうか。
清『おーよく似合ってる。さすがおれチョイス』
あ、だから異常にセンスがいいブレスレットだったわけだ。
今「本来なら出会うはずがなかった二人の出会いに、ワシとキョークンから二人の花 宮にお祝いや!」
――とのこと。
なんと。今吉さんからではなく、清志も金を払ったらしい。
そんでもって、出会い祝いか。なかなか面白い祝い品だ。
これはこれで嬉しい。
それは真も同じだったように、いつものように「ありがとう・・・なぁーんていうかよ!バァーカバァーカ!!」っと、ツンデレを発揮しながらもその耳を赤くしていた。
二人、チリンチリンと小さな音の鳴るブレスレットをつけて歩く。
衣装も相まって、まさに双子のようだなオレたち。
小さな鈴のような音に周囲は何気なくその音の根源を無意識に探しては、こちらに気付いて「双子?」とかつぶやいている。
なるほど。音が視線を集めてるんだな。
オレたちの背後では、今吉さんと清志がニコニコ満面の笑顔で保護者を気取ってついてくる。
【双子のはじめてのおつかい】とか、タイトルテロップ流れてそうでなんか釈然としない。
そうしてついに時はやってきた。
「おまたせしまた!いまから五分のタイムセールです!さぁさぁ!今回は生鮮食材に大物が入ったよ!!」
なにかというと、はじまったのだ。
時間限定の戦場。
タイムセールが。
そこではレイが望んでいた夜飯の食材を大量に買い込む予定だった。
卵を買おうとしたら、きっと卵を割ると断言され持たせてもらえなかった。
っで。問題発生。
タイムセールのおばさんたちの鬼気迫る迫力にしり込みしている間に、食料品にたかっていた人ごみがいっせいに動いた。
その軍団にのまれた。
人ごみからぬけだせねぇ!!!これでも日本人の平均身長はあるはずなのに・・・なぜだ!!!!なぜ出れない!?
オバサマパワーの本気の一端を顧みた瞬間だった。
そうして気付けば、オレはデパートの"外"に追い出されていて。
おかげで真たちはぐれてしまった。
こんなところで不幸体質発動ですか?!
本当にオレが卵を持ってなくてよかったですね!!!オレが卵を持っていたら間違いなく割れていただろうよ。
きっと卵は無事なんだろうな!そのためだけにオレはおばさんたちに押しつぶされて不幸を味あわせたのか!?
つまりはなにか?運命の女神とやらは、そんな不幸をオレにおしつけ、かわりに卵が割れないっていうようなプチすぎるラッキーを与えたと?どっちもいらねぇよ!
――・・・・・・
字『ん?』
オレがもう一回デパートの中に戻ろうと回れ右をしたところで、ふいに、くいっとひっぱられる感覚に足を止める。
くいくいとひっぱられる。
振り返ると、オレのコートの裾をつかんだ小さな女の子がいた。
字『おまえも迷子か?』
話しかけると女の子は泣きそうな顔でコクリ頷き、「父親を探すのを手伝って」とオレを促すようにまだつかんだままのコートをクイクイと引っ張ってくる。
その幼い仕草にフッと笑みがこぼれる。
空いてる手で少女の頭をなぜれば、泣きそうだった顔にふわりとした笑顔が浮かぶ。
字『どこら辺ではぐれたんだ?』
聞けば、不安そうに周囲をキョロキョロしつつ、道を思い出したのか、そのままついてきてとばかりに、引っ張られる。
字『ああ、いまいくから。
ほら、服じゃなくて、手をとって。そっちの方があったかいだろ』
そっとコートをつかむ少女の手に、自分の手を重ねて裾から手を離させると、今度はその手にオレの手を握らせる。
少女は不思議そうにしていたが、オレが手を握ったのだとわかると、嬉しそうに花がほころぶように笑った。
親とはぐれてしまって、ずっとさびしかったのだろう。
字『さぁ、いこうか』
コクリとうなずいた少女をつれたって、オレは一歩踏み出した。
背後でカツンと金属か何かが落ちる小さな音がしたが、少女が足をとめなかったのでたいしたことではないのだろうと気にもとめずついていった。
遠ざかるデパートには振り返らず、世界が違うことでつながらない“県外のままの”携帯の電源をそっといれた。
――コ コ ニ・・ イ ル ヨ・・・――