有得 [花悲壮]
〜 W花とその後の後×名探偵コナソ 〜
05.明快な探偵と妖怪サトレテーヌ
※『』…成り代わりがいる世界側のセリフ
※「」…原作より世界側のセリフ
自分はそんな先のことまではわからない
ただ勘がいいだけだ
上には上がいる
そう、あいつは言うんやけど
その予言じみた忠告がはずれたことはない
それはこの短い付き合いで十分理解させられた“現象”や
あんたはどこまで見てる?
なにをみとるんや?
その深い色合いの瞳は、いつもワシらと違うもんを見とんのやろな
【 side 原作よりの今吉 】
今「っで?ほんまのところ、あのこ、なにしたん?」
服「はは。あっちのちっこい方、信用されとらんのやなぁ」
今「信用できんほどの不幸体質なんや」
わしは目の前の青年と同郷もんということが丸わかりなんと、見た目てきにも同じくらいの年齢だからか、
西の名探偵君はくったくなくカラカラと笑うとわしに事の経緯を話してくれた。
服「不幸体質かぁ。そら、えろぉ大変やな。俺の知り合いにも似たようなのおるけど。あれはアカン。もはや死神に憑りつかれてるとしか思えへん。
ああ、でも安心しー。あの子はな、白昼堂々衝動で人を殺そうとして刃物を振り回した男の前に飛び出して、刺されそうになっとた女の子助けたんや。加害者ちゃうで」
今「助けた?」
服「そうや!とはいえ、そのときおびえた女の子がなぁ、思わずあの子に助けを求めて抱きついてしもうたんや。そんで少し動きがとれんかったのか、あの子、ちょぉっとばかし怪我してしもうてなぁ」
今「怪我?」
服「手をなちいとばかし。やっこさんのナイフがかすっただけや」
今「手を・・・」
この世界の住人でないとはいえ、“花 宮字”は“花 宮真”だ。
外見がちょっと違ってもきっとやっていること根本は同じだろうと思っていた。
現に、話をあの子からか聞いたところ、花 宮同様にバスケをしているらしい。
ただし昨日、誠凛に負けてしまいWCにでれなくなってしまったと嘆いていたが。
でもあれは練習試合と言っていたか。
“花 宮”は、PGなのに。
あの手で、きれいなシュートを決める。
バスケをするための手や。
その手を怪我するとか。
花「お前はどれだけバカなんだっ!!試合に影響でたらどうする気だ」
字『いやいや、試合はすでに後輩しか出ないぜ。"こっち"はそういう時期だ』
花「バスケは続けてんだろ。なら、もっと気をつけろ!」
字『そう怒るな。優等生はどこいったんだか』
花「この!馬鹿がッ!!」
ああ、ほらみぃ。
花 宮がおかんむりや。
わしらから離れた場所で、二人の花 宮のやり取りが聞こえてくる。
花宮という生き物は、やたらと頭がいいせいか、うまく真意を隠す。
たまにボロがでるけど、それもまた計算しての可能性は高い。
それは花宮も向こうの世界の花宮もとい“ちぃーみや”も同じ。
頭のいい奴らは、通常とは違うやり取りをどっか別の個所でやっている。
"こっち"――向こうの世界は確か未来だと言っていたな。
あがった花 宮の声につられるように振り返れば、怒ったような焦ったような表情の花 宮が、
苦笑を浮かべて『なんでもないよ』とばかりに柔らかく笑う ちぃーみや を睨みつけている。
めったに激しい表情をみせないあの花 宮が、あそこまで怒鳴るなんて。
馬鹿やなぁ。
ちぃーみや は。
花宮もバカや。
勝利に興味はないとは言うても。本当にバスケが嫌いだったなら、いまもまだ続けたりはしないだろうに。
世界が変わってもやっぱり ちぃーみや も“花宮真”なんやなぁ。
ふたりともどれだけ己がバスケ好きなのか、わかってへん。
服「バスケかぁ。ッ!?っちゅうことは、あいつ、バスケ選手なんか!?そりゃぁ、手の怪我は痛手やな」
今「せやで。花宮っちゅーのは、そろってバスケバカや。
ちぃとばかしあいつらの考えは人と違とってなぁ、お互いを心配するくせに、二人とも自分というものが見えてへん。頭がよすぎるっちゅうのも困りもんや」
服「そんなら大事にならんくてよかったわぁ。
俺も現場におったから、今回の通り魔事件が結構ヤバめなのは理解してる。アンタもみたやろ?あの路上の血痕。襲ってきた男なぁ、だれかれ構わず切り付けてきよった。しかもかすめるだけじゃぁ足らんとばかりに、切りかかったあと刺してくるんや。
あんたの後輩、無事でホンマによかったわ。
俺も加勢しよおもって飛び出したはいいものの。あっちのあの小さいほうがあっというまに犯人からナイフ奪って、合気道か何かの要領で投げ飛ばしてノシてもうたんや。まるで映画のワンシーンみたいに見事やったで。
まぁ、おかげで俺の出番はお蔵入り。まぁ、別に目立ちたいわけじゃないからええんやけど。あとからきた報道陣と警官の規制ぐらいしかすることなかったしなぁ」
今「おん。珍しく警察の動きがスムーズや思ったら。そういうことか。
わしの後輩が世話になったなぁ」
服「いや、ええって。むしろ死者が出なかったのが奇跡や。救われたんは俺らや」
目の前の探偵は、二人の花 宮が警戒するのにあたいするようには見えない。むしろ想像していたのと違って、爽やかで場をなぐませると明るさがある。
押し付けすぎず、方言の合間に垣間見せる思慮深さが、彼という存在を騒がしくみせない。
そこがいいのかもしれない。
わしも嫌いじゃないで。
とはいえ、 ちぃーみや の素性を根掘り葉掘り調べられるわけにはいかんし、あいつ保険証もないから、あいつの名前をだすことはしない。
ついでにいうと探偵君には、これ以上かかわらんでほしいとこや。
服「そうだ!あんた、えーっと」
今「今吉や。今吉翔一」
服「そっか。今吉さんやな。おおきに。そういえば自己紹介もまだやったなー俺は」
今「ジブンはあれやろ“西の名探偵 服部平次”君や。平次クンて呼んでええ?ワシは今吉でも翔一でも好きに呼んでええよ。
たしか平次クンは、高校二年生やろ。なら花宮と同じやなぁ。わしはジブンより一個上やけど堅苦しいのはぬき。よろしゅうな」
服「おーやっぱ知っとたか。あんたなら俺のことも知ってる気がしたんや。おおあたりやな。じゃぁ、遠慮くなくイマヨッサンって呼ぶわ」
今「予想外来たわ。ま、ええよ」
服「冗談や。ちゃんと今吉さんって呼ぶわ。
そうそう、そういえば今吉さんは地元の人やろ?
あっちの双子、後輩って言ってたから、大阪案内しっとったんか?」
今「さすが名探偵。よぉみとるし、良い耳してるわ。そうそう、ワシら今は東京に住んどるんやでぇ。なんならジブンが東京きたときは案内したろか。ま、ワシでよければやな」
服「ぜひ東京でたときはたのむわ。これも何かの縁ってな」
今「せやな」
服「それにしても東京在住の同郷と会えるなんてラッキーや。最近よぉ東京に行く用があってなぁ。行き当たりばったりで結構こまっとたんや!」
今「たしか東の探偵と最近やりあってるって?あんま慣れてへん場所やと、探偵業にも影響でるんちゃうか」
服「あーわかってくれるか!さすが今吉さん!あ、メアド交換しませんか?」
今「おん。ええで。東京におるならいつでも呼んだって。かわりに東の探偵には負けんといてや。ほい、これで送信終了っと。連絡先待っとるで〜」
服「お、きたきた。おおきに〜」
ノリと勢い。側におっても嫌じゃないし、そうそう西から東へはこれまいと、たまにならいいかとも思い、かの有名人とメアドの交換をしてしまった。
連絡先の交換はしたが、花宮がちぃーみやに巻き込まれるように、わしがこんご彼ら探偵たちの事件と遭遇したりしませんように。とか、内心祈ってたりする。
ま、平次クンはええ子みたいやし。ノリのいい友人としてつながりがあるのはいい。きっと悪いことにはならないだろう。
そうこうしているうちに、救急隊員に他の重傷者を運べと指示し自分たちはかすり傷だからと、簡素な治療でうまく病院域から逃れた二人の花 宮たちがこちらにかけよってきた。
何か話しながら同じ顔の二人が、やってくるのを目にし、手を振ってまねきよせる。
どうやらあちらは警官との話も終わり、帰れるようだ。
花 宮が疲かれたようにため息をつきながら、こちらにやってくる。
その後を好々爺前とした ちぃーみや がついてくる。
今「おつかれさん」
花「帰っていいと許可が出ました」
字『そっちの色黒クンが現場にいたから、ことが早く済んだようだ。感謝する』
話には聞いていたが身長とか気にしなければ、本当に ちぃーみや は普段は穏やかな表情をしていて、
ある程度の人間に向けられる瞳は慈愛に満ちた・・・孫を見るジジババのそれだった。
あのプライドが高く、ほとんど他人に素などみせやしない花 宮が、 ちぃーみや に頭を撫でられたり話しかけられると、眉麿による相乗効果も加わって普段より幼く年相応に見える。
身長が逆なことだけが残念なふたりだ。
わしの隣におってそれをみていた服部は、どっちが兄だと不思議そうに首をかしげていた。
とりあえずわしは、デカイ方が年上やと助言をしていおいた。
おん・・・見事に花 宮たちの描くシナリオ通り勘違いしてるとは。
恐るべき“花 宮”。
花「それにしても・・・今吉さん。あんたなんか変なこと言ってないでしょうね?」
わしと服部が仲良ぉ話してるのを見て、自分の悪口を言われた気がしてしょうがないと、ツンツンデレした方の花 宮が睨み付けてきた。
さっきのメアド交換の前の会話が聞かれていたのかと、笑って何気なさを装ってボケ返す。
まぁ、聞こえてるわけではないだろうから、わしらがメルアド交換したのさえ知らないのだろう。
ちぃーみや は・・・勘とかで気づいてそうやけど。まぁ、特になにも言ってこないから大丈夫やろ。花 宮だと、このことを知ったら顔を嫌というほどしかめてきそうだ。
花 宮に関しては想像がたやすくできて、思わず苦笑をもれてしまう。
今「ちゃうちゃう。“花宮”はバスケが好きだって言っただけやで。あと東の探偵に負けるなとか。なぁー平次クン」
服「そうやな」
今「それに二人ともほんまはバスケ好きやろ」
ワシが尋ねると、花 宮と ちぃーみや が互いに同じ表情で一瞬驚いたような呆けたような顔をし――
花「好きじゃなきゃ続けてないっての(フハッ!んなわけねーだろ。勝利なんてどうでもいいし。そもそもオレはバスケじゃなくて、苦しさでゆがんだ相手の顔がみえればそれでいいんだし。そういう意味で楽しいから続けてるだけだし。バスケはただの手段にすぎねぇよ。コートの外だと法的にひっかかるから大げさなことできねぇからな、やっぱやるならコートの上だろ)」
字『大好きだ(縮め縮め縮め今吉先輩縮め。小さいとバカにしてきたやつらを“試合”という場と、ルールがあればだしぬける。うん。やっぱりバスケ最高だろ!)』
今「・・・お、おん」
バスケ好きだろ?
そう聞いた瞬間、花 宮の顔から優等生がごっそりとはがれおち、試合中の獲物を狙う獣のような、まさに悪童とばかりのあの
ゲス極まりない顔でフハッと笑った。
横にいた ちぃーみや は、普段の老人が子供を見るような慈愛にあふれた穏やかな笑みをたたえているのが嘘のように、
それはもう
無邪気な子供のような満面の笑みを浮かべた。ただしその笑顔の背後でなぜか真っ黒なオーラがでている気がするのは・・・きっと勘違いではないだろう。
ただ普通にバスケ好きなくせにごまかすなよぉ〜というなんてことはない気持ちで尋ねたはずが。
どうしてこうなった!?
しかも絶対言ってるセリフと中身があってない気がする。
ちぃーみや なんかやばい。
こっちをみて笑ってるのに、それに背筋に悪寒がはしって、なぜか今すぐ逃げたくなった。
今「す、素直じゃないんやから」
花「ちっ」
字『何を言ってるんです先輩。オレ、本当のことしか言ってませんよ。バスケ大好きです』
よけいやっかいや!なんてつっこめるはずもなく、その場でその話はおひらきとなった。
花 宮はチラリと字を一瞥すると、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。
もう一度現場をひととおりみて、後々聞かれたときにでも矛盾のないよう観察しているのだろう。
ちぃーみや は相変わらずの笑顔だ。
それから花 宮は特に服部に猫をかぶることもせず、われ関せずといった風だった。
ちぃーみや はそんな花 宮の頭を撫でた後に服部に近づくと、その手をガシリとつかんだ。
字『きっとオレがいなくともお前がいたのなら、大丈夫だったかもしれないな。でもありがとう』
服「気にすんなや」
ギュゥっと握った手。
色の黒い肌は青峰をほうふつとさせるが、服部の手は剣道を握るタコがあり、掌が大きくない代わりに皮膚は固く青峰よりもゴツゴツとした印象を与えた。
その手に、 ちぃーみや が何かを乗せると満足そうに探偵くんの側を離れて、花 宮の横が定位置とばかりにそこに落ち着く。
服「なんや、これ?」
握手がくるかと思いきや何かを握らされた服部は不思議そうに掌の物を頭上に掲げた。
光を反射してキラキラと光るのは、ビー玉のようにもみえる。
けれどそれを透明な包装紙がつつんでいることから、飴玉だと気づく。
服「飴?」
字『いいこにはご褒美をあげるのは当然だろう?』
今「飴ちゃんやー。綺麗な飴ちゃんや。
のぉ、花 宮。あのこはいつもあないなもん持ってるん?」
花「持ってる。こいつの学生服のポケットからは大量に菓子が出てきましたから」
――通り魔による事件。
死者、重症者、ともに0。
これが向こうの世界の“花 宮”による今日最大の不幸であったらしい。
ちなみにあとで聞いた話、 ちぃーみや は足に女性という枷をまとわりつかせたまま、
迫りくる切り裂き魔のナイフをそれは無感動に首をひねってさらっとよけ、
手刀の一発で武器を犯人の手から落とさせ・・・「縮めカス!」という呪詛と共に強烈な頭突きを食らわしたらしい。
そこからの怒涛の背負い投げとつづき、掌底を食らった犯人は、いまだ意識不明でのびたまま病人に運び込まれたとか。
同じ“花 宮”なのに。
向こうの世界の“花 宮”であるのは変わらないはずなのに・・・
どんだけ身長に恨みを持ってるんやぁ ちぃーみや !?
思わずこっちの世界の花 宮を恐る恐る見てしまったのは仕方ないことだと思う。
花 宮ももしかして身長にコンプレックスが・・・?
いや、さすがに愉快煮そうに語る服部から事の次第を聞いたあとじゃぁ、花 宮自身に聞くなんてできるわけがなかった。
:: オマケ ::
それは新しい友人たちの帰り際のこと。
字『いい目だ』
服「ん?」
字『お前は“わかって”いるな』
服「なんのこっちゃ?」
字『その目にめんじ、ていいことを教えてやるよ』
花「おいアザナ」
今「そんなに安売りしてええん? そいつの勘、ぎょーさん儲かりそうなほどあたるやん」
字『なぁに。しょせんただの勘だ』
服「勘?なんのことだ?」
花「そいつの勘はもう予言に近いぐらいの確率で当たるから、忠告をきいて損はないぜ。ひとまずきいてみれば?」
服「へぇ〜おもろそうやな。よっしゃ!ちょっと占なってみたって」
今「占いちゃうでwww」
服「まぁまぁ。っで?どうなんや俺の未来は?」
字『もしも大切なものがあるなら、なにをおいてもその手を離すな』
花「?」
服「・・・手を?」
今「なんなんそれ?」
字『オレにもよくわからない。ただ・・・そう、だな。その身をどれほどの痛みが襲うとも離すな。それが永遠の別れになりたくないのなら』
そうして去っていた眉毛が特徴的な青年の片割れの年齢に不釣り合いな真剣な瞳が忘れられなかった。
服「なん、なんや」
その言葉をすぐに思い知ることになるんて、その時の俺にはしるよしもなかった。
――キューピッドの矢に撃たれても痛くないと誰が言った?天使が使っていようとしょせん矢は矢だ。痛いに決まってんだろ。
なぜかふと思い出した。
麿眉が特徴の、東京の知人。
あの深い目に宿る優しさを忘れない。あたかい手が差し伸べられ、あの耳に心地よい声で「負けるな」と。背を押された。
「ああ。そうやなぁ」
「平次・・・?」
今にも折れそうな枝だけが支え。
この手を離したら和葉が死んでしまう。
離したくなんかないのに、自分を生かそうとかわりにこの手を離せと和葉が俺の手を刺した「儒艮の矢」に――こないな痛み大したことあらへん!と、あの大きい方の麿眉みたいに不敵に笑ってやる。
不老長寿のお守り?魔除け?しったことか!!
「この手だけは離すわけにはいかんのや!!」