有得 [花悲壮]
〜 W花とその後の後×名探偵コナソ 〜



02.テレビをみるときは離れてみましょう
※『』…成り代わりがいる世界側のセリフ
※「」…原作より世界側のセリフ



【 side 原作よりの花 宮 】




赤司が目をひらいて、ニコニコと脅してきた。
無冠(元)には、うっとうしいほどべったりとまとわりつかれ。
今吉さんには、散々おちょくられ。

そんなこんなで京都で騒がしく過ごした。

――それが、今日のこと。
観光?どこもいってねぇよ。
なんで京都まできてバスケしなきゃなんねーんだよ。
本当についてない。

今吉さんなんか、「ほな、ちょいと実家に顔出してくるわ〜」とそうそうに電車にのってちまうし。
オレが今吉さんと道中で後輩だからと言って、この辺が地元なわけではない。関東の方の中学で今吉さんと会ったのだ。
関西に縁などない。
ただ無冠のヤツラや赤司(金持ち)が絡んできて逃げようがなかった。

そんなこんなで、京都の赤司系列のホテルに泊まらせれた。
もちろん赤司征十郎による強制宿泊である。
そこそこ遅い時間に今吉さんも帰ってきた。
もうここまできたら、なんでもいい。

ホテルに送られた頃には、死ぬほど疲れていた。
もうなんというか、実渕とかに生気とかいろいろ持ってかれた気がする。
葉山、まじうるさい。
根武谷は牛丼以外の台詞を言えと思うぐらい語録がギュウドンの五文字で埋め尽くされていたし。
赤司は赤司で、なんか戦略について教えてくださいと、これさいわいと目を輝かせて語ってくるし。

もうやだ。

疲れたんだよオレは。
本当に疲れきっていた。


だけど。

疲れ切ってたどり着いた先は、赤司印のホテル。その部屋の扉を開ければ、ベッドの上でくつろぐ糸目眼鏡妖怪とか。
オレの休まる場所はないのかと、思わず開いた扉を閉めた。
そうしたらあわてて今吉さんがやってきて、自分も一緒に泊まるよう指示があったのだという。
一人部屋じゃなかったのか。
さすがの赤司でもそこまで融通は利かせてはくれなかったらしい。地味にケチだな。

「もう・・・どうでもいい」
「花 宮大丈夫か?目が死んでんで。なんかワシにできることあったら言ってくれてええんよ?」

「そうですか・・・なら、先輩。ひとつお願いがあります」
「おん?」





「一日でいいからオレの視界に入らないでください」





*********





本当に死にそう。

だめだ・・・。
疲労感がひどすぎる。

無冠の5将とよばれるやつと、赤司のきわめて尋常でないメンバーと長々長時間のバスケとか死ぬ。マジで気力も体力も聴力もすべてもっていかれた。

今、風呂に入ったらそのまま溺れ死ぬ自信がある。
ああ、でもさっさとシャワーだけあびて布団に入ってしまえばなんとかなるか。

オレの言葉に落ち込んでうっとうしいポーズをとって隅の方でグスグス言っていた今吉先輩を無視し、同室になった今吉さんと交代で風呂に入る。

無冠とキセキのリーダーと何時間もやりあうだけの体力は一般人にあるわけないだろうが。
頭を回しすぎて、もう疲労困憊。
風呂の記憶がほとんどない。

そうして風呂からでたオレは、おいでおいでと呼んでいる白いシーツをみる。
ああ、あのベッドがオレを呼んでる。

そうだ。
オレは寝るんだ。

部屋の中にあるTVをみながらベッドに横になっている先輩のいないほうの布団を見る。
ふらふら誘われるようにそちらに向かう。
いまなら布団の上に手をこまねいて微笑んでいる妖精が視えそうだ。
紫のデカイ妖精だったら急所から潰してやる。
ああ、よかった。オレを呼んでる妖精は真っ白のただのシーツだ。
あの白いシーツが・・・

いざ、





そう、思って足を踏み出したところで。
リンリンリンと携帯が鳴った。

「おー花 宮。電話やで?」
「でたくないです」
「でるまで鳴るんちゃう?」
「はぁー」

オレがベッドで寝れるのは、まだまだ先らしい。
どうせ古橋とかだろう。
そう思って、溜息をついて、重い身体をひきずって、鞄から鳴り続ける携帯をとった。

画面に表示されていた電話番号は、予想外にも霧崎のヤツラではなく、まさかの“オレ自信”のもの。
しかも宛先は『非通知』ではなく『花 宮真』と表示されている。

なんでオレの番号からオレに電話がかかってくるんだよ。

おかしな電話に不思議に思ったが、嫌な予感はせず、そのまま通話ボタンを押せば――


《Ciao.Sono io.(やぁ。オレだよオレ)》


第一声から聞き覚えのある声の、流暢なイタリア語があふれ出てきた。

ああ、もう犯人は明白だ。
直に会話もしたくなければ、なんでつながんだよと思わずにはいられないけど、これが“あいつクオリティ”だ。
なにが起きてもおかしくない。

《Pronto, Qui e` casa Azana.(もしもしアザナだけど)》

電話の向こうから聞こえたのは、まさにオレそのものの声。
彼は少し前にオレと、中身が入れ替わってしまった――平行世界のオレだ。
名前は“花 宮字”。
頭に蝶をつけた不幸体質の変人だ。

以前、入れ替わった後も交流は続いており、向こうの世界の人間を一度連れて遊びに来たほどだ。
あちらの世界は、ぶっちゃけ本当に意味が分からない能力を持ったびっくり人間の世界だ。

《Con chi parlo? Makoto?(ねぇ、オレは誰と話してるのかな?マコトだよね?)》
「おいこら。だから日本語話せよ」
《ん?ああ、すまない。うっかりしてた。オレだけど。そっちのオレは今どうしてる?》

淡白な口調で紡がれるそれに、オレは思わず額を抑えたくなる。

声でわかるとはいえ。

名前を名乗りやがれ。
名前をさ。

「・・・お前は詐欺師か!!だからまっとうな日本語話せと・・・」

なんで別世界から自分に電話がつながるとか、オレオレばっかいってるのはなぜかとか。向こうの時間軸はどうなってるんだ?とか。
聞きたいことは山ほどあるが、なぜにオレは自分自信につっこまねばならないんだろう。

今日は本当に厄日か。


「おん?だれや花 宮?」

オレが字に怒鳴り散らしていれば、いままでテレビをみていた今吉さんが不思議そうに振り返った。
その声は電話越しの字にも聞こえたらしい。

《あれ?そっちは誰かいるのか?》

っと、答えようとして、一瞬ノイズが走る。
それに眉をひそめれば、今度は電話の向こうの人間が変わったようで、火神の声が聞こえた。

《あ、マコトさんすか?》
「お前〈レイ〉だな」
《うわ!本当につながってる!!まじでつながるとかさすがアザナ先輩。ありえねぇわ。
あ、こんにちわっですっ!!火神な〈レイ〉です!
突然ですが、そちらは外ですか?それとも屋内ですか?屋内だったら、人気のないTVの前に立ってくれませんか?いまテレビの中にいるんですが、出口になる座標がみつからなくて》

テレビ?
座標?

まさか

「・・・まて火神!お前らくるきか!?
いや!ちょっとまて!いま、京都で。今吉さんもいて!!
え。ちょ、ちょっとまじで待って。待てって言ってんだろうがっ!!
アザナじゃなくて、キョー兄呼べよ!!アザナをとめろよバカガミぃ!!!」

こいつらの世界を渡る移動手段は変だ。
そんでもって、そうほいほいこっちの世界に遊びに来んなよ。
むしろそうたやすく来れるものじゃないだろ普通は!普通はさ!
いや、お前らに普通が当てはまらないのは百も承知だけどよ!!!!

空間?次元?時空?なにそれ?おいしいの?――って、お前らならきっと素で言うんだろうよ。
原子や粒子や時間やらを研究している奴らに今すぐ土下座して謝れと言いたくなる。
シュレディンガーの猫も真っ青だよ!お前らがいるとさぁ、あのネコどっちも死ななくてすみそうだよなぁ!
この、学者泣かせどもめ!!!


そんな学者泣かせのファンタジーを地でいくやつらが、こっちの世界に電話をかけたきた。
しかもその非現実的な奴らの一人が来るという。

アザナが・・・こっちの世界に来る。
ざっけんな!あんな愉快なあっちの世界の、変人な“オレ”とか。同じ顔の奴が奇行を繰り広げるさまなんて見たくない!嫌すぎる。

それはつまりこの先、オレに平穏はないということ。
だってアザナがくるってことは、アザナの不幸体質に巻き込まれるのは間違いないわけで・・・。


「・・・・・・」


オレは疲かれてんだよ!!!!


「なんとかしろよ〈レイ〉!!」
《すみませんマコトさん。俺にはそんな拒否権はないんです》
《フハっ!こいつは“強い”からなぁ。つい》
「アザナてめぇ、そいつになにをした!?言うこと聞く後輩ができてるとかなにそれうらやましい!!こっちの火神は会うたびに憎しみこめて睨んでくるしよぉ!!」
《なにって、あげておとしていたぶった?それでも仲良しなオレたちに拍手をくれ》
「〈レイ〉強く生きろ」
《生きてますよ!強くね!!っというか死んでません!まだ!!
あ、そうそう。今日は宮地さんをそっちに送れそうにないので、アザナ先輩だけ飛ばしますね〜。がんばってくださいマコトさん!ではご武運を!》
「ちょ!ま!」



その後の展開は――

もう。
言葉にする方が間違ってると思う。

つけていたTVが突然真っ黒に染まったかと思うと、ぐにゃりと画面が歪み、次にはノイズが走った映像が映し出される。
前回は貞子の様に頭と手が出てきてビビったなぁ。
今回はまだ何も出てくる気配はない。かわりに映像が流れている。


テレビは不思議な光景を映している。
画面の中では、どこともわからない大量のテレビがあるおかしな空間で、 クマ(?)のキグルミを着た人物と灰色の髪の青年(?)が嫌がる小さな黒い影をひきずっている。

【クマ!やるぞ!】
【おー!】

【やめろって!離せ!!こないだみたいにそのままテレビにつっこめばいいだろ!! なんでわざわざ中に入ってんだよ!ってかその姿はなんだ〈レイ〉!?】
【なにってP4での俺の姿ですが?】
【クマは先生が帰ってきてくれてうれしクマ!だから知らない子を別の世界に送るのも手伝っちゃうくまよ!】
【ありがとうなクマ】

【先生!じゃぁ、いくくまよ!】
【いやー。テレビの中がP4につながってるなら、前回キヨ先輩とアザナ先輩を戻す時みたいに苦労しなくて済むからいいわ〜】

【ちょ!?やめろって!!あのテレビこどうみても昭和っぽいわ!!だれか地デジ対応のテレビ用意しろよ!! ってか!オレが入れるでかさじゃないだろうが!!お前らの目は節穴か!!せいぜい頭しかつっこめねぇよ!小せぇよ!!】
【大丈夫クマよ。クマもいつももっと狭いテレビを行き来してるくま!それに花 宮字はくまより細くて小さいから絶対大丈夫くま!】
【小さくねぇよ!!】

そこにはふたり(?)に両腕を抑えられた“花 宮字”が、なんとかのがれようと暴れている。
しかしうまくいかないようで、とんでもなくアナログな小さなテレビに向かって勢いよく放り投げられていた。

【じゃぁ】
【せー!のー!】



画面の向こうのオレに瓜二つの字が画面に向かって吹っ飛んでくる。
悲鳴と共に画面にぶつかる!?そう思ったが

【ぎゃぁぁぁぁ】



―――ぁぁぁああああああ!!!!!!』


「は?」
「今吉さん!よけて!!」

信じられないだろうが、テレビの向こう側にいたはずの人間が、するっとでてきたのだ。


さすがは現役スポーツマン。今吉さんは反射神経をくししてギリギリ頭を伏せた。
それと同時に、画面から黒い何かが飛び出してくる。
そしてそれは弾丸のようにふっとび、ボフ!と音を立て、勢いよく開いた方のベッドにふっとんだ。

オレが使うはずだったベッドの上には、黒いコートに黒い髪、黒い靴と全身真っ黒な恰好をした字が横たわっている。
なんか瀕死の魚みたいだ。

ちらりと元凶であるテレビを見やれば、テレビの画面の中で灰色の髪の青年とクマ(?)がニコニコと手を振っていた。
それはみているうちにまた画面はゆがみ、元のニュースが気づいたら流れていた。

おそるおそる顔を上げた今吉さんが、ベッドでまぐろとかしている黒い物体を見て目を見開いて固まった。


オレは二人交互に眺めて・・・・。
いらいらがつのりはじめた。

そのせいで頭痛をおぼえて、今後のことをどうしようかと頭をめぐらしたが、疲労と困惑によりもううまく働かなかった。

「ちょぉ花 宮どういうことや!?花 宮が二人!?さっきテレビから!って、花 宮ぁ!!!」
「しるか!」



なんだか面倒になって、ベッドまでいくと字から靴をうばいとってそこらに放り投げ、 目を回しているあいつをベッドの隅へと押しやり(その際に字は顔面を壁にぶつけていたが興味ない)、その横にもぐりこむとふとんをかぶって寝た。
すぐ側で一瞬「うー」というぐずったような声が聞こえたが、それは側の温もりめがけて肘をいれて黙らせた。

「ああ、なんてことを。顔面に花 宮のエルボーとかないわ!!みてるこっちがいたいわ!」


背後で今吉さんのなにか言う声が聞こえたが、もう限界である。

オレは考えることを放棄して、寝た。
ベッドに入って数秒で意識は落ちていた。








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