有得 [花悲壮]
++ 二人の花 宮と・その後 ++
03.兄弟と友だちの違い
※『』…成り代わりがいる世界側のセリフ
※「」…原作より世界側のセリフ
原「えーっとマコト、うしろにいるのだれ?」
山「バカ一哉!秀徳の宮地、さんだろ!」
原「うーん。それはわかったけど、そんなひとがなんでウチ(霧崎)にいるの?」
古「もしかして試合で二軍を当てたから・・・」
瀬「あ、そういえばそんなこともしたか」
山「まさか仕返しに来たのか!?」
清『はは。こっちでもやっぱり秀徳は二軍と戦ったのか』
古「こっち?」
瀬「まさか」
清『おー!お前らとははじめましてだな。話は真からきてるぜ。うちの字が世話になったんな』
山「え?アザナ…って」
瀬「別の世界の花 宮のことだったね」
原「じゃぁここにいる宮地さんは別の世界の宮地さん!?ってことは真をミユミユで洗脳したあの!?」
清『そうそう。その宮地清志。こっちでは"キョー兄"でとおってるから、キョウかキョーでよろしくな!』
原「え。じゃぁ、もしかしてミヤじゃなかった、キョウさんの後ろにいる子って」
清『花宮字だな』
花「おらアザナ。人見知りぽくキョー兄の後ろに隠れてないで出て来い!」
字『えーっと、自分の肉体で会うのは初めまして。オレは向こうの世界の花 宮で、名前は字です。
・・・・・・きょー兄、挨拶ってこういう感じ?毎日顔を合わせてる顔ぶれに、今更自己紹介とかナニコレ?恥ずかしいんだけど。ほらあいつらの顔見てみろよ!こいつ何言ってんのみたいな顔してるぞ!!』
清『ははは、っで、こっちの蝶は字の守護霊でロジャーさんな』
字『スルーか。そうかスルーか。
うーんと、だな。まっ、とりあえず。あらためて――』
よろしく?と、首をかしげたちょっと身長の低いだけの、それ以外は花 宮にそっくりな相手を見て、霧崎第一の体育館から驚きの、絶叫があがった。
「いやぁーーー!!!なにこの子アザトイ!!!」
「まことなのに。きもぉ!!」
「かわいい(シャッター連射)」
「あ、アザナさんのほうが身長が低いんだな」
「お前は安定だな!おい!おどろけよ!」
【 side 花悲壮の宮地 】
俺は宮地清志。
最近価値観が変わることがあった。
まず第一に――
違う世界、平行世界ってのは本当にあるんだなってこと。
しばらくまえ、学校で頭を打って幼馴染みの花 宮字が記憶喪失になったといわれ、驚いた。
実際に会ってみた字はオレの知る幼馴染みではなかった。
そいつは迷子の子供の様に不安そうに瞳を揺らし、似合わない丁寧語とおすまし顔をして、"花 宮字"のふりをしていた。
そいつの名は"花 宮真"。
別の世界の花 宮だった。
戸惑うそいつが、本当に子犬のようで。
思わず手を伸ばしていた。
大人しくなでられてる花 宮をみて――
なんだ。どこの花 宮も同じか。
なぁーんて思ってしまった。
とりあえず入れ替わってしまったそいつをかまい倒してやろうって思ったものだ。
* * * * *
二人の"花 宮"が入れ替わった事件から少しと時間が流れた。
まさに夏まっさかり。
そんなときに、あまりの暑さにだらけきり脳が飽和しそうな状態だった字が、ふいに「面白いことはないか」と聞いてきた。
それに「あります!」と即答したのは、良い笑顔の火神だった。
なにか実験したいことがあるとのことで、火神のイタズラに手を貸す羽目となったのだ。
結果、俺と字は、もう一人の花 宮のいる別世界へ遊びにこれたのだが。
そうしてやってきました。
火神の力を借りたのは、「真」のいる平行世界。
運が悪いことにこちらは冬で、真夏の世界から来た俺たちには、外はとても寒かった。
だが俺はこんな時差も想定の範囲内。
もう少し厚着してもいいくらいだが一応俺は長袖をもってきていた。
しかし字は、ほぼ手ぶらであったため、真の服を借りていた。袖を一回分折っていたので、真と字は身長だけではなく腕の長さも若干違うようだ。
さて。話を戻そう。
うちの字もたいがい変人であるが、テレビの中に入れば無双ができたり別の世界に入り口を開けたりできる火神も大概ビックリ人間だ。
俺たちの世界には、どうやら字を筆頭に、火神、誠凛に去年いた女子、キセキの世代といったように、特殊能力を持ったビックリ人間が数人いるようだ。
遊びに来たこの真の世界は、火神の言葉を借りるなら"原作より"の世界。
"原作"については、火神にきいているので、俺と字と真は知っているのでとやかく言う気はない。
その"原作"の世界には、キセキ以外の特殊能力者はいないらしい。
誠凛のいまはいない(転校したらしい)●● ●●●のように、メロメロフェルモンによる集団催眠を使える人間もいないらしい。
普通が一番。
超人がいない世界はすばらしいな。
そして、俺は、遊びに来た先で、はじめて真とアザナの違いを目のあたりにしたのだった。
たとえばさっき言ったように身長。
こちらの花宮、もとい真は、うちの字とは違って、身長が179cmもあった。
なるほど。字が身長を気にしているのは、こっちの真の身長が高いからかと納得した。
あと髪の毛がサラサラストレートで、不幸体質なんかではなく、IQ160の瀬戸をして「勝てる気がしない」と言わしめるほどの天才ときた。
まったく真逆のようで、まったく同じ仕草をするふたり。
世界が違っても、ときには違う行いをしているのに、同じ結末にたどり着く二人。
部活や委員会での役職は同じだった。
そんな二人をみていて、やっぱり二人は"同じ"存在なんだなと思えた。
だからか、俺にとっては、二人がバカだろうが天才だろうが関係なかった。
俺にとっての字は、弟のような存在。
守ってやる存在で。
ただの字と真だった。
つまり、どっちも可愛い弟分であるには変わらなくて。
清『おにいちゃんはいろいろ心配なわけよ』
あんな性格で友達はいるのだろうか。とか、ラフプレーのせいで報復とかされないだろうかとか。
孤立してはいないだろうか。
部活でうまくやっているだろうか。
清『とかな』
* * * * *
そんなわけで、こうして真の学生生活を見学しに来たわけだが。
体育館に入った途端、真のそばにいる俺を番犬よろしく警戒するレギュラー陣や、彼らと真のやり取りを見ていれば、俺なんかが心配するようなことはなかったようでほっとした。
うちの字は学校では餌与え名人として君臨していて、生徒たちはなついた小動物の様にまとわりついている。
うってかわって、真は、優等生を演じているらしい。
だが、そういうのはちょっとばかり近寄りがたいのではないのかと、真の学生生活を気にしていたのだ。
学校について、案内された体育館で、真の近寄りがたさとか気にもせず、花 宮真をいじくり練習を倍で言い渡されているレギュラーメンバーが目に入った。
それに肩の荷が下りた気がして、抵抗してこないのをいいことに字と真の頭を「よかったな」といつものようにガシガシとなでておく。
言い返すこともはらいのけることもせずやられるがままの二人の花 宮を見て、霧崎のやつらが目を丸くしてるのがおかしくなる。
字は猫のようにすり寄ってくるのが通常運転だ。
真は字と入れ替わった時の一か月の間、世界でたったひとりという不安がどこかにあったのだろう。あの入れ替わり期間の間であまやかしまくったところ、世界すべてを警戒し威嚇していた黒猫がなついたように、俺にはじゅんじゅんになった。
ぶっちゃけ、入れ替わっている間に字ではなく真であると知った俺、黒子、火神には、素の自分をさらしだせたのがよかったらしく、非常にゲスがロストしてしまっている。
素直な真をみて、黒子なんか花をとばす勢いで「ゲスデレ最高!」などと騒いでたのが、記憶に新しい。
そんな普段はツッケンドンとした真だが、ちゃんと真を認めてくれている奴がいるらしい。
霧崎のやつらの様子を見て顔を赤くした真は、照れたように顔をそむけて俺の手を払うと、体育館の隅でドリブル練習を勝手に始めていた字の方へいってしまう。
それを苦笑しながら見送り、照れのためにペナルティーを告げ忘れた真のせいでそのままとしてとりのこされている霧崎レギュラー陣をみやれば、唖然として固まっている。
原「真が照れてる!?なにそれwwwめっちゃうけるんですけどーwwwww」
古「ツンデレ乙」
瀬「真、ああいう顔もできるんだ。たまには俺たちにもみせてくれればいいのに」
山「そういうのひきだせるってのは、やっぱ向こうの花 宮と兄弟?って公言するだけあるってことか」
おもしろいやつらだ。
とりあえず――
清『あいつの、友達になってくれてありがとな』
心から思ったことを笑ながら告げれば、今度はポカーンとした感じで、四つの視線がこちらに向けられる。
瀬「こっちの世界の秀徳の宮地さんはいつも不機嫌そうなイメージがあるけど」
原「むしろキョウさんは、すっかりお兄ちゃんが板についているって感じだねぇ」
山「ん?そういえばこっちの宮地さんは弟いたな。あっちもか?」
清『いや、俺はひとりっこだな。生まれたときからもう字がいたから、うちの両親てきにはこどもをもうひとり生んだ気になってんだよ。むしろアレのほかに弟がもうひとりとか・・・ないわー。お前ら、想像できるか?長男俺、次男字、三男って図式』
山「あー、ないな」
原「だね」
瀬「アザナさんがいると、一人で十分だって思うね」
清『まぁ、そういうこった。長男気質なのは字との付き合いが長いからな。
あいつ甘ったれでさ。真もそうだろ?』
山「いや!真が甘ったれとかないわ」
原「というかなにそのデレ?ちょっとみてみたいんだけど!えーっとツンデレ?あ、ゲスデレか」
瀬「キョウさん限定のデレじゃない?」
古「性格はほめられたようなものじゃないがな」
清『なんだ、どっちの花 宮も“らしい”な。そっちもゲスなのか』
瀬「そういうってことは、ああみえてアザナさんもですか?」
清『笑顔で人の不幸を抉り出すような奴だな。主に被害者は俺たちの世界の火神だ。ちなみにうちの花宮の座右の銘は《あげておとす》だ』
「「「「・・・・・」」」」
原「なんだろ。"花 宮"だって考えればらしいっちゃらしんだけど」
山「らしすぎて言葉が出ネェwwww」
古「弘、一哉、肩を震わせて笑うようなことか?」
遠い目をするかと思いきや、爆笑を始めた四人。
仲いいんだなって再確認できた。
だから真についてきいてみた。
原「最初はねぇ、花 宮って友達いるの〜?とか言ったりしてさ。っで、いらいらしながらも一緒に遊んでくれるのがけっこう好きでね。それで俺ら花 宮をいじるのが好きだったんだよ」
古「だな」
瀬「真ってば反応面白いから。ゲスなのに変なところキマジメなんだよね」
山「お前らなに言っちゃってんの!?こわいじゃんあいつ!また練習十倍とかにされたらまじで死ぬわ!とはいえ俺あいつのこと嫌いじゃないけど。むしろラフプレーするけど、俺あいつがバスケしてるのみてるの好きだし。ゲスいけど!」
原「ハイ、弘のデレいただきました〜。いらないけど」
古「ああ、いらないな」
瀬「眠いzzz」
山「俺のあつかいぃ!!!」
それでこの世界の“花 宮”は、うちの字とはちがって、どこまでも対等の位置にいるのだと思った。
そこでふいに古橋が真面目な顔(表情筋が仕事してないからいまいち自身はないが)で、山崎を見つめて言った。
古「そういう弘は、よく俺たちとつるんでられるな」
立ったまま転寝をはじめた瀬戸が山崎に倒れ掛かったせいで、山崎は古橋の言葉に即返答はできず、瀬戸に文句を言いながら床に彼を転がしたあと、不愉快そうに眉間に皺を寄せて古橋を睨んでいた。
清『ん?』
なんだなんだ。喧嘩でも始まるのか?
なら、一番の年上としてとめるべきか――
山「はぁ?んだよ、いまさら」
古「・・・同じレギュラーだからか?」
山「いや、だって同級生だし、友達だし、気が合うし?他に理由なんてねぇだろ」
古原「「・・・」」
瀬「zzzz」
止める必要はなさそうだな。
清『つまりあれだ。“花 宮”は優等生、常に成績は上位。瀬戸はいつも寝てる。古橋は何を考えてるかわからない。原はチャライ。とか言われてきて、他の奴らからしたら近づきがたい――って、思われてる。だからレギュラーでいるために一緒にいたとか、真に脅されてとか、さからえなくて、それで山崎が部活にいるとでも、そいつらは思ってたんじゃねぇの?』
山「はぁ!?なんだよそれ。ダチだからつるんでるにきまってんだろ。瀬戸がホクロで原がチャライとかそんなこと言ったら、俺なんか・・・俺なんか・・目つきが悪いからって不良顔って言われて!!!!」
清『くっくっく。あーあ。泣かしてやんの。おまえらも罪な奴だなぁ。ってか、俺ホクロとか言ってないからな』
ダチだから。それだけの理由で、一人に慣れてしまった奴らと普通に話せるっていうのは、とんでもなくすごいことだ。
正論。
けれど、その言葉も、人を選ぶもの。
"花 宮"や瀬戸、古橋、原ならば、他人からそう簡単に近づけるものではないだろう。
価値観の違う相手ならなおさら。
友だちだから当然――そう考えられるってすごいことだ。
ちなみに霧崎のレギュラー陣があっけにとられている間も、山崎はそのまま自分の不良顔について語り、涙ぐんでいた。
俺もよくハニーフェイスといわれる。
わかるぞその気持ち。顔のコンプレクッスって指摘されると耐え難いよな。
瀬「・・・・・・無理やり一緒にいたわけじゃないのか」
原「あ、健太郎。起きてたの・・・っていうか、寝たまま!?」
古「どいてくれ健太郎。お前はラッコか?」
瀬「いや、俺のことより、だれか弘とめてよ。泣いてるよ」
原「えーでも弘だしぃー」
山「俺だからってなに!?ダチだと思ってたのに!?そう思ってたのってもしかして俺だけ!?」
古「てっきり真に強く言えないからついてきてるのかと」
山「いや、だからダチだろ!まぁ、お前らのプレーはメンドクセーけど!そうじゃなくて、お前らが普通に同級生だって話せばわかんだろ」
真たちはラフプレーをしているらしい。
山崎はラフプレーをしないらしい。
なのにそれでも友達だからの一言で認めてしまえるなんて。
ああ、なんて面白い。
清『線を引いてたのは、お前らだったのかもしれネェな』
霧崎の奴らは認めたくないのか。
それともいままでひととつるむというそんな経験がないのか。
山崎のダチという言葉をいまだに疑うように、それ以上深くは問いかけないし、なんとも言えないような顔をして沈黙している。
嬉しい。けれど、どこか不安で。でもそうかもしれないと思う気持ちもある。
俺にはそんなふうに見えた。
頭がなまじいいってのも大変そうだ。
思わず笑いこぼれてしまう。
こちらの世界の彼らは、字の友人である霧崎の奴らとはどう違うのだろうと思っていろいろ話をしていたが、たいしたことはない。
なんだ。ただの仲良しじゃないか。
清『山崎はわかった。それで?』
原「え?」
古「?」
清『お前らはどうなんだ?真のこと・・・どう思ってるんだ?』
友だちという感覚に慣れていない子供たちのために、かわりのネタをふってやる。
流れが戻ったというか、変わったことに、ちょっとホッとしたように肩を揺らすこどもたち。
最初に口を開いたのは、やっぱりおちょうしもの認定されている原だった。
原「あっちの花 宮と一緒に育ったキョウさんにはわるいけどね。俺も、俺もね、本当はちょっと花 宮って近づきがたいなって・・・思ってた。昔のことだよ。優等生でイイコちゃんで、あんな完璧な奴が・・・って。
だけどね。字さんがきてから、名前で花 宮を呼ぶことにしてからかな」
古「ああ、たしかに。その頃からだな」
瀬「・・・言いたいこと、わかるきがする」
原「なんかいじると泣きそうになるし、照れ隠しなのか小学生みたいに「バァーカ」なんて言ちゃってさ。俺や古橋以上にコロコロ表情変わるんだよね真って。本人はポーカーフェイスできてると思ってるけど、けっこう感情でてね。ミユミユの隠れファンなの必死に隠そうとしてたりさ。実はパスケースの中にミユミユのブロマイドがあるんだよ。そういうのみてたら、ああ、"花 宮"も俺らと同じ人間なんだって。
そう思ったら、いっきに距離が縮まった感じww」
瀬「おかげで今じゃ、真がいじられ役かな」
原「報復という名の練習増加は参るけどねww」
古「弘の言葉のパクリじゃないが、俺もあいつのプレーに惚れたんだ。側に近づきたいと思ったからあいつの伸ばしてきた手を取った。今は横を一緒に歩きたい」
山「プレーはともかく、お前、真にほれるなよ」
清『それな。うちの世界の古橋、アザナのストーカーやってるから、ああはならないようにな!加減は覚えた方がいいぞ古橋は』
古「セコムと呼んでくれ。それにそこまではさすがにしない。俺のこの気持ちは恋愛じゃない。敬愛からの友情だ」
原「ゆうじょーwwwブッフォ!!!!www普段イイコちゃんを潰してる俺たちにwwww」
瀬「一番似合わない単語だね」
原「なんか限りなく恋愛に近づいてそうな友情だよそれwwwとりあえず古橋にカメラとか持たせなければいいよねwwwあーまじ古橋うけるwww」
清『そうしてくれ』
そこから真たち"花 宮"が、監督らしく指示を出して来たりしなかったので、そのままレギュラーメンバーとしばらく話していた。
うちの字が入れ替わりの時に迷惑をかけたと、わびたいと言えば、こっちの世界の字にあたる“花 宮真”の愚痴をかわりに聞いてくれと言われた。
若干性格はひねくれていたようだったが、どうも真が字の不幸体質によるトラウマをうけたことで、ちょっと思うところがあるらしく、愚痴を聞くはずがなぜか相談をされてしまった。
ロジャーさんは守護霊で、宿主の体力次第で実体化したり、痣になったりする。
この世界にいる間は、できるだけ真の側にいるということで、不幸体質については話をつける。
そうだよなぁ、学校まで来る間も結構不運に見舞われてたし。
そんな話をしていたら、そういうえば当人たちは何をしているのだろうかと、その存在を思い出す。
視線をめぐらせば、真と字は、体育館の隅にいた。
パーカーのフードをかぶって変装(だと本人たちは言い切る)をしている字と、体育座りで向かい合って何かを話し合っている真。
二人のことだから、練習の邪魔にならないようにという配慮だろうか。
言い合いをしながらもなんだかんだで楽しそうなのを見るに、じゃれている黒猫が二匹いるようにしかみえない。
瀬「あれがIQとんでもない天才と、超直感もち?」
古「みえないな」
俺の背後から「ゲスさはどこいった!?」なんて山崎の雄たけびが聞こえるが、俺からするとあの二人、いつもあんな感じだけどなぁ。
口さえ開かなければ、ふたりとも普通の高校生。
二匹のオタマロとバタフリー(ただし黒い)の共演か。
あー・・・微笑ましい。
でもなぁ。
清『…うーん』
あれはだめだよな。
原「どうかした?キョーさん」
清『いやな。やっぱ真の服でも字にはちょっとでかかったかと。冬服もってくればよかったなぁって思ってた』
山「そっちかよ!?」
瀬「パーカーだと大きめでもわからないから大丈夫じゃない?」
清『それもそうなんだけど。
字もなぁー寒くても重いとか暑苦しいとか言って以外とこだわりあるし・・・いつも変なTシャツだし。なのに冷え性で。もこもこしたのに着替えりゃぁいいのに、何を選べはいいかわからないらしくて、服に関しては自分で選ぶことができない。だからマコトの服をかしてもらえっていったんだが。冷えてきたしパーカー一枚じゃ、外出たら寒いだろ?』
瀬「ああ、それわかります。真も冷え性っぽくて寒い寒い言ってるんですが、寒くてもコート着ないし、手袋もしないんですよ」
原「何度言ってもコート着て登校しないもんねぇ」
山「それで風邪ひかないんだぜ真って」
清『字の服って、変文字プリントメインで、持ってきた服には《酒池肉林》の文字が・・・』
山「・・・よし!明日の休み、買い物いくか」
原「しゅち・・・う、うん!それがいいね!」
清『え。いいのか?世界違うから金が使えるかわかんないから心配だったんだけど』
瀬「別世界のとはいえ、花 宮に変な格好はさせられません」
古「アザナさん分ぐらいの金なら俺達もカンパしよう」
Tシャツの文字を読んだだけで即決だった。
やっぱり、真咲さんの趣味は悪いんだと改めて判明した日。
そういえば、俺たちはいつ元の世界に帰れるのだろう?
向こうの世界の火神に電話とか・・・どうしたらつながるんだ。
携帯をいじくっていれば、県外になっていた。
それにガッカリしていてれば、ふいにクイっと服をひっぱられる。
どうした?と服の裾を握っている原に声をかければ、字たちの方を見るように促される。
よくよくみれば、さっきまで俺と話をしていたレギュラー全員が、花 宮コンビの方へ視線を向けている。
その表情は決していい物ではない。
原「ねぇ、さっきからあの二人、なにしてんの?儀式?」
指差された方を言われるがままにみやれば、そこにはおかしな光景が――
真の携帯を持ちながら、字が立ち上がって周囲をうろうろ。したかと思えば、
たまにたちどまれば、真の携帯を頭上にかかげて・・・。
クルリとバレリーナのように回転したり、また携帯を両手でもって上下に振ってみたり。
また携帯をかかげれば、次は足を蟹股にするようにひらき、腰を下げ、横にカニ歩きで、地面に円を描くように・・・踊っている。
なにかの奉納の舞だろうか。それともエイリアンと交信するための儀式だろうか。
瀬「・・・・・・」
山「・・・・」
古「あれは・・・」
山「なにかヤバイ系の電波拾ってるとかじゃないよな?え?宇宙人と交信しちゃってる系?」
原「あ、みてアザナさんが今までになく背伸びしたかとおもったら、タイミングよくもってた携帯にまじで電話かかってきたよ」
山「ま・じ・か!?宇宙人と交信に成功したのか!?」
原「ぶっひゃwwww弘まじうけるwww真が宇宙人とぶっふぉwwwww」
――“近さ”という距離感。
その定義の違い。
:: オマケ ::
字『え?さっきの?』
花「ただ“向こう側の”電波をさがしてただけだろ」
原「真顔wwwぶっふぉwwww」
古「真面目な顔して言うのをやめてくれ真」
山「真、いい、ぶふっ・・・お、おどりだったぜ」
花「はぁー・・・。なに笑ってんだよ」
字『俺が直感たよりに電波が通りやすい場所探してたんだよ』
花「向こうはどうやら同じアドレスと電話番号みたいだからな。アザナじゃなくて、こっちから火神にかけれないかためしてたんだよ。
むこうとこっちでは次元自体が違うから、ベクトルがよく動くんだよ。一定の方向に電波が流れてないからいちいち追いかけないと電話もすぐに切れちまうんだと。儀式じゃネェーから」
全「「「「「いや、あれはどこからどうみても儀式だった」」」」」
山「おかしなものを召喚するのだけはやめてくれよな」
清『・・・火神のことか』
原「え!?さっきのおかしな踊りで火神召喚されちゃうの!?」
清『召喚する側だあいつは。とはいえ、向こうの世界のあいつならできるな』
原「なにそれwwwそっちの世界おかしwwwwww」
清『うるせぇ轢くぞ!お前は高尾か!?』