
|
07. 交差する3秒前 |
side ティア成り代わりな『夢主2』
この世界に【ガイ・セシル】はいない。 『ガイ』といえば、ここでは先輩のことを指す。 19歳で肉体の年齢が止まった『先輩inガイ』は、前任の“害”である【ガイ・セシル】と比べられることを嫌い二年間髪の毛を切らず伸ばしていたため、今ではティアと同等ぐらいにその金の髪は長い。 手入れをしているのは先輩ではなく、ノエルを筆頭とした機械大好きな乙女たちらしいが。 先輩が憑依したことで成長が止まり幼さの残る顔立ちは、中身の人が理性や知性があるからか、原作の【ガイ・セシル】とは程遠い顔立ちに見え、大人びた雰囲気を放つ。 中身が転生するたびにその能力を引き継ぎ続け「最強」を地でいく先輩であるため、この世界の『ガイ』はルークをしっかり常識人に育て上げ、原作で敵であったはずのディストをヘッドハンティングでコチラにひきこみ、ファブレ家では白光騎士団や使用人、更にその上の公爵当人の心まで入れ替えさせ、彼等の才能(武芸、学問など)をしごきあげたらしい。 金城湯池と先輩は言っていた。華美な装飾した城をほめるより、実力派の先輩らしい言葉だった。 さらにさらに。驚くべきことに先輩は公爵家だけでは飽き足らず、キムラカ国王インゴベルト陛下にまでその手を伸ばしていたらしい。 インゴベルトからは、そのすぐれた知を買われ、様々な政治的案件にも携わっているという。 とにかく肩書が山のようにある先輩だが、私がこの世界で出会った時にはすでにおかしなものに“憑りつかれて”いた。 私と初めて会ったときから先輩は、ずっとロングコートを着ている。 ここマルクトはそれほど寒いというわけではないのに、いまだって騎士の恰好の上にかなり着込んでいるほど。 私の知る先輩は寒がりではなかったはずなんだけど、どうも先輩…もとい『ガイ』にベッタリくっついて離れないトリッパー少女が原因のようだった。 先輩は生前から、幾度か女であったときもあったのだが、それらしい言動や所作が一つもないとにかく男勝りな勇ましいひとだった。 しかもかなり淡白な性格で、恋愛とか他人事だとなんでも寛容な心で応援する癖に、それが自分に向けられると物凄く嫌がるのだ。 そして今、先輩は【ガイ・セシル】狂いのトリッパー少女に、【ガイ・セシル】と勘違いされて四六時中熱い眼差しを向けられている。 その彼女の細い腕は、嫌がる先輩を無視してしっかり『ガイ』のそれをつかみ、無理やり恋人のように腕を組んでいる。 実は先輩がここの所常に厚着なのは、彼女のこういった行動が原因だった。 そして事件は起きる――。 「よし!お前ら。どっちが強いんだ?戦ってみろよ。場所なら提供する!」」 と、来て早々のピオニー陛下のお言葉で、なぜか先輩とトリッパー少女ヒメコの二人が戦うこととなった。 もちろん後でルークVSアッシュ、わたし(カンザキ レイ)VSティア。という組み合わせで計3戦行わなければいけないが、今は先輩ら二人のことである。 戦闘開始前、先輩が私にコートをあずけに来た。 私はコートかけではないのですが。そうつぶやいたら、動きづらいんだ。持っていてくれといわれ、先輩のコートがかなり質の良い素材で作られていることを改めて知った。 先輩に視線を向ければ、肩をすくめて「オレの坊ちゃんからのな贈り物なわけよ」と告げられた。 つまりファブレ侯爵より賜ったたいそう高い品で、もったいなくて汚せないのだ(本人談)とか。 そりゃぁそうですよね。先輩ケチですし。 しかも他のを着ればいいのにと言えば、服がそれ以外はツナギ以外ないらしい。 給料はいままでの【ガイ・セシル】が行った数々の汚名などを金銭に換金して借金として扱われ、その返上中で受け取れず、衣食住のほとんどをベルケンドの住民に援助してもらってなんとか暮らしていたとか。 服を盾に脅されて、外交官や軍事総指揮官まかされる人ってそうはいないと思う。 口にはだすきないけどね。 さらに驚いたことに、コートの下に先輩は無骨な譜銃を二挺も背に装備していて、さらにはニコニコ笑顔のルークから刀を受け取った。 スッと、ルークが持っていた黒塗の日本刀が見事に先輩の腰ベルトに収まる。 ゲームと違ってこっちの世界のルークはなぜ日本刀なんだろうと思っていたら、どうやらそれは先輩の刀だったらしく、その刀身も鞘も黒いそれを馴染んだしぐさで装着した先輩は、どこか安堵したような表情だった。 「刀、ありがとうガイ」 「いいえルーク様。 城の中は安全とはいえまがりなりにも敵国です。今あなたには武器がない。しばしこのレイの傍を離れませぬように」 「ああ」 はっちゃけてぶっちゃけてヒャッホ−イ!と常日頃から騒いでいそうな先輩が、それはもう丁寧な扱いでルークを心配している。 なんか新鮮だ。 はたからはよくできた主従のようだ。 先輩もやればこういうことできるんだなぁ〜とか思わずしみじみしていたら、心を読んだようなタイミングで『ガイ』の水色の瞳と視線が合う。 「レイ。ルーク様を頼みます」 「あ、はい…」 ますぐ見つめられ、じゃなくて、<b>あの</b>先輩に真摯に話しかけられるとむずがゆい。 しかもなんとなく復音で『馬鹿なこと考えてんじゃねーよ』とか聞こえた気がする。 「・・・・・・」 アハハ。 ないよね。たぶんそれは私の錯覚だよね。うん。っいうてか、そうであって!! そうこうしている間に先輩が、ピオニー陛下によって用意された特設ステージ(という名の運動場)に案内される。 審判はアスランさんで、特設ステージの隅にはいつのまに用意されたのか、豪勢な椅子がありそこにピオニー陛下が優雅に腰かけている。 先輩とトリッパーの少女が、互いの獲物を手に向かい合う。 両者ともに綺麗な金色の髪は長く、ぶっちゃけて言おう。美少女が二人向かい合っているみたいでかわいいです! それを満足そうに見下ろす陛下。その横へ審判たるアスランさんがかけていき、遠くて聞こえないが、二人は少し真剣な顔で何かを話すと、再びアスランさんは金髪二人組の側に戻ってくる。 きっと試合の打ち合わせだろう。 先輩のことだからトリッパー少女など瞬殺するに違いない。だけどもしものことがあって、陛下が怪我をしては大変だしね。打ち合わせは当然だよね。 「武器の持ち込み、譜術の使用は自由。アイテムは不可。 このステージの外に出ること。意識喪失、あるいはどちらかが負けを認めた場合試合は終了です。 なおこの場には陛下もルーク様もおられます。城に傷をつけること、対戦相手以外に傷を負わせることは禁止します。周囲からの手助けがあった場合も手を借りた者が敗者となります。 ご質問は?」 「とくには」 「ええ、ないわ」 「では、はじめ!」 金色二つが動いた。 このとき誰が想像しただろうか。 まさかあんな結果になろうとは―― |