[有り得ない偶然] 外伝 × TOA



04. チェス盤上の王と騎士





 side ガイ成り代わり『夢主2』





「愛してるぜぇ〜」

どこかの35歳おっさんの回復呪文のごとく、舞い降りてきたものに愛をささやく。
かくいうオレも中身だけ言えばそろそろいい年したおっさんだろう。いや、おばさん?
まぁ、年齢や性別などオレには関係ないが。


「ご苦労だったなフィル」

オレの肩に見事な着地を決めたのは、鴉ほどの大きさの尾の長い白く美しい鳥だ。
名はFirmamento(フィルマメント)。
イタリア語で大空を意味する名の通りの青い目に、空を自由に飛ぶ大きな翼をもつ。
クルクルと喉を鳴らして頬を擦り付ける相棒は可愛い。

ここはマルクト、グランコクマ。
城外、下町。

アクゼリュス崩壊後、ルークたちがシェリダンを訪れ、オレも旅に同行することになった。
道中、前世の後輩を拾うという出来事はあったが、あとはひたすらまっすぐ、原作破壊しながら、寄り道せずきたためマルクトに一直線。
グランコクマに到着するなり、事前に届けてあった書簡をつてに、皇帝に謁見を申込んだ。
そこからあっという間に、ルークが発言権を得て事の次第を話し、サクサクと面会も報告も済んでオレたちは解放された。



「よくなついてるなぁ。その鳥」

肩にとまるフィルマメントをなでていたら、声をかけられた。
振り返れば、そこにはいるはずのない男がいた。

ピオニー・ウパラ・マルクト九世。
つまり先刻謁見したこの国の王だ。
眼鏡をかけて、髪と色違いの白い付け髭をつけ、変装と思われる平民らしいみすぼらしい恰好をしているが、さっき会ったのだ。間違えるはずがない。

そしてここは城ではなく、城下。

なぜいる?

想像はつくが…。
王がそれでいいのかとつっこみたくなる。
しかし世界の現状と情勢を見せるためとはいえルークをよく屋敷から外に連れ出していた経験があるので、そこのところはあまり強くは言えない。

親善大使たるルークを筆頭に、それぞれの使者と+αの群れとわかれ、を迎えに行こうと城を出たのが、ついさっき。
どうやら、我儘ではあるが逃亡癖のないうちのファブレ侯爵とは違い、我儘なあげく逃亡癖があるらしいこのお坊ちゃんは、あの謁見の後すぐにオレを追いかけてきたようだ。

そんなことに尽力を使うぐらいなら、いますぐ、先程騒いでいたダアト人間+キムラスカの王女モドキ+トリップガイ女をなんとかしてほしいものだ。


アッシュ、アニス、ティアなどは、まんまダアトの軍服のままついてきている。
あげく「王女ではなく唯のナタリアとして」と宣言してついてきているキムラスカのただの一般市民でしかない金髪少女。
やたらとオレにまとわりつくオレと同色の髪と目をしたトリッパー少女、徹野 姫愛子(トオノヒメコ)。

いつこの国は、彼らの入城を許可しただろうか。
そもそも身なりを直すべきである場所で、薄汚れた格好のままって――オレとルークはそれに対する断りを述べているし、上着は事前に脱ぎ、武器は預けている――しかも武器を持ち込むなと言われたのにかかわらず、彼等はそのまま帯刀しているし、さっきはティアが譜歌で無理やり押し入ったりとどんだけ浅はかなのか。
彼らは謁見の間で、一度さえ膝をつかず頭も下げなかったが、どれだけ偉いのだろう。
国王の許可なく口を開いたり、場所をわきまえず好き勝手わめいていたが、周囲の官僚たちの視線を見なかったのだろうか。
ルークのあの冷たい眼差しに、気付かなかったのだろうか。
クックック。予言とか関係なく、上層部に立強いての礼儀ひとつないたぁ、ダアトの信頼は地に落ちたなこりゃぁ。
ざまぁ。

それだけのことを先の謁見の間でしたのだ。
数えればどれだけの罪状がでてくることやら。
どこからどうみても彼らは許されない行為をしている。
挙げればきりがないが、オレと出会う前のルークの旅の中でも彼らは言いたい放題だったのだろう。
もちろんファブレを貶めるような証言は、すでに優秀なオレの弟子どもが世界中を駆けずり回って山のように集められている。
しかし彼らの処遇はダアトの導師イオンがほにゃんとしているせいで、いまだ処罰の行方が宙ぶらりん状態だ。ただし引き延ばせば引き延ばすほど、奴らの罪状は増えていくのだが。
まぁ、導師イオンは、それさえ気づいていない。
ユリアの子孫だからティアを。アニスはボクを守ってくれています。ティアにもアッシュにも思うところがあったのでしょう。――っで、許される罪の数は党に超えている。そもそもアニスは誰も守ってねぇよ。現にここにいるし。
しかもその罪を増やしている人間の青狸をぬかして全員が、ダアトの軍服着用で、イオンは奴らを生かすことで自らダアトを陥れていることになっていることも気づいていない。
ずばり、歩く罪製造機は、いまは野放しになっている状態だ。
ダアトが滅びるならもっと確実になるよう手を貸してもいいが、まずは放置だ。
あいたくもない。
だが、このままでは、後々、宿屋あたりで会うかもしれない。

もしこの国の王がバカだったとしても、場にそぐわぬ奴ら――原作パーティーメンバー+トリップ少女――を城に泊めることはしないだろう。
あの謁見の間での彼らの醜聞だけでも十分罪人だと、常識があればわかる。
あまりの騒ぎ用に、どんなバカでも自分の国が侮辱されていると気付けるにちがいない。
よかったなぁ、国を担う者達がバカではなくて。 証拠に今、城に残る許可がでているのは、オレ、ルーク、ジェイド・カーティスだけだ。
まぁ、オレはさっさと城下に宿をとったさ。
なぜあんな嫌味しか言わない腹立たしい青狸と、同じ空気を吸わなければいけない?
孫のようにかわいいルークもあの辟易していたようだったので、ルーク様の護衛は私一人で十分。他の者が請け負った時に何があっては困りますから。と、いろんな意味を込めて懇切丁寧に、なおかつ営業スマイルをつけて、ルークごと城へのお泊りは断ったのだ。

本当のところルークは、かなりの軍人としての力量を持つ。
毒にも耐性はあるようだし、殺気を向けられればすぐにでも気づく。知識欲もあり、司令官として周囲を見る“目”もある。武術と名のつくもの一通りは実践を重視して仕込まれているので、暗殺などできる人間はそうはいないだろう。

だから城を出るとすぐにオレとルークはわかれた。

ルークは今頃、グランコクマをみているはずだ。
あの子のことだ。観光ではなく、民の様子を見て、そこから何かしら“しろう”とするのだろう。自分の国をよりよくするために。



さて。目の前には、いるはずのない国王陛下がいらっしゃる。
周囲にはルークももこの場を打開すべき常識をもった仲間はだれ一人いない。
面倒極まりない。

それにオレが外に出るのを待っていたかのように、空から舞い降りてきたこの白い鳥フィルマメントは、実はメカドリだ。
相変わらずのベルシェリ連合企画のお祭りで、どのメカが一番美しいフォルムかというコンテストのときに、我らシェリダンの総力をもって作り上げた至高品にして、優勝を勝ち取った芸術品様である。
しかもその後、オレの趣味で改造した。
フィルマメントの目は、超小型望遠カメラを取りつけ、偵察用にと盗撮に続き盗聴まで可能とした。
実はさっきの会合の時も天窓付近にて、謁見の様子をに実況中継させていた。
つまり偵察用。
会合が終わるとすぐにに手渡した画面とのリンクはきったから、彼女にこちらの状況が伝わることとはないが、これがばれるとやばい。
たしかピオニーという男は鋭いというし、盗撮していたのも問題だが、この技術を軍事に使われてはたまらない。
もちろん相手が本物の鳥と思っているのなら、それにこしたことはないし、知られてもそんな詳細など教える気はさらさらない。

なにせもともとこれは、オレが楽しむためだけに設計した技術なのだから。
面白いことを他人に教えてやるほどオレは優しくはないし、これが軍事力に使われるのは気にくわん。
あのジェイド・カーティス――青狸でいいや――にこの綺麗なフィルマメントの白い身体に触られてでもみろ。解剖されて軍事利用されるの見えている。悲鳴ものだ。腹立たしい。

そんなおいしい情報や知識与えてやるわけないだろう。

偵察機として二号をださないために、研究資料やデータはすべて抹消されている。
もちろん譜業を愛する仲間たちが、自分が作った芸術作品が軍事力として使用されるのを良しとするはずもないし、彼らはカメラなどの内蔵された機能のことは知らないので問題はない。



「ふさふさで気持ちいな。いいなこいつひとなつっこくて」

オレの肩の上にとまるフィルマメントの顎を猫にするように撫でて頬を緩めているピオニーの言葉に、思わずオレは口端を持ち上げる。

これはまだ、気付いていないな。

オレの勘が間違いないと告げているから、そうなのだろう。
ならば問題ない。
“それ”を通すだけだ。

「かわいいでしょう陛下」
「む。おれは陛下じゃないぞ」
「はいはい。それじゃぁ一般市民Pさん」
「今回の変装は自信があったんだが、ばれるのがはやいな。ま、“お前”だし当然かな。
じゃぁ今からオレはピーちゃんだ。お前こそ堅苦しいのは抜きにしろよガイ」
「御意に」

「それにしてもこいつすごくきれいだな。みたことない種だ」
「変種みたいなんですよ。
フィルが可愛いのは当然でしょう。これはオレが丹精込めて育てましたからね。」

譜業都市の大会で、そのフォルム審査で優勝するぐらいには!

「ああ。綺麗だ」

ピオニー陛下の言葉にそうでしょうとうなずいたところで

「こいつくれ!」
「断る!!」
「そうか」

捕えんとばかりに伸ばされた手に、人工知能が埋め込まれたフィルマメントは何かを感じ取ったらしく、バサリと翼を広げてオレの傍を離れた。
ピオニーがガッカリするかと思いきや、ふられたにもかかわらず相変わらずキラキラと目を輝かせていて――

「だが、しかし!」
「ん?」

突然宣戦布告するように頭上を飛ぶフィルマメントにビシッと指をさし

「俺様のブウサギたちの愛らしさにはかなうまい!!呼べばくるし!あの粒らの瞳でみつめられて五秒も持つわけない!」

ドドン!と効果音が付きそうなほどの真面目な顔でさらには胸を張られて宣言された。

ブ ウ サ ギ…?

あのマダラ模様のブウブウ言う、ウサギかブタかはっきりしない食用の生き物?
フォルムコンテスト優勝の最高傑作が、アレ、以下――だってぇ?

「ざけんな!うちのフィルだって呼べばくるんだ!!
生まれる前から育てたオレの『フィルマメント』の方がかわいいに決まってる!!
大空だぞ!この大空のような抱擁感!どこからどうみても愛しい大空そのものだろうがっ!!大空よりブタをとるってあんた人間か!」
「なっ!?あんな可愛い奴らをただのブタだと!?お前こそわかってない!わかってないな。この鳥は確かに美しいが、『ネフリー』の優雅さ、『ネリビム』の毛並みの柔らかさにはかなうわけない!!つぎにあの模様の・・・・」

あまりのことに思わず声を荒げてしまったが、ピオニーの熱いあつい語りがしばらく続き、さすがのオレも頭が冷えた。
彼のブウサギ論にもある程度の区切りがついたところで、冷めた眼差しを送ってしまったのも仕方ないことだろう。
そのままの温度のまま

「っで?」

「ん?なんだガイ。もっとうちのかわい子ちゃんたちの」
「だまれピーちゃん」

国の統治者たる者、人であることを捨てろと求められて当然かもしれない。
けれど《皇帝》でないときぐらい、己の感情を殺せとは言わない。
これほどまでの民が笑顔で暮らしているのなら、それは立派な王である証。
公私を使い分けることができるのなら、文句はない。
ない。ないはずなのだが・・・
ここまで頭が痛いのはなぜだ。

そもそもが、こいつの立場的に護衛ひとりつけずここにいることが間違っている。
しかも普通ならあの謁見の後、確実にこの王にはやるべき責務があったはずだが…。
本当にマジで、なにがしたいんだろうか?

「そもそもなぜあなたがここにいるんです?“ピオニー・オパラ・マルクト九世陛下”」
「はっはっは。たしかに名前は似ているがおれはピーちゃんだ。
あんな素敵でイケメンな王様に間違えられるなんて嬉しいなぁ」
「……」

嫌味のつもりで口調を改め『陛下』のところだけ念入りに言ってやったのに、逆に笑顔で別人だと返され、このまま消し炭にしてやろうとかと一瞬本気で思ってしまった。
むしろ音素乖離にまで持ちこま…

「言葉に出てるぞガイ」
「わざとです。
で、正直に答えてくださいますね?」
「おっ。外交官モードか。顔ひきつらせて。そんなんじゃジェイドみたいだぞ」
「正直に、答えて、くださいますね?ピ・オ・ニー・へ・い・か
「…お、おもしろそうだったから・・だ」

「はっ!くたばれカスが」

返ってきた返答に、思わずため息が出た。

相手はXNAXSだったオレの部下じゃない。
相手は“死ぬ気の炎”――でも使えたらきっと大空だ――は使えない普通の人間だ。
相手はオレが面倒を見てきたクリムゾン坊ちゃんのように、頑丈でもない。ましてやヘタレではない。
相手は一癖も二癖もある他国の、それも
相手はこっちに来る前のXANXASだったオレよりも若く、転生による合計年齢でいうならずっと年下。

そう年下だ。
目の前にいるのはよそ様んちの小さな男の子。
つまり保護対象。

なぐっただめだオレ!


「そうだ。おちつけオレ。
相手は年下相手は年下相手は年下相手は年下相手は年下相手は年下あいてはとし…」


はぁ〜。

顔を手で覆って、怒りを通り越したあきれにまたため息がでた。
そんな脱力感にさいなまれていると、隣に立っている付け髭の男がカラカラとそれは楽しそうに笑った。
バシバシと背を叩かれ顔を上げると、無邪気な青色と目があった。
よくよく考えると、オレ、誘拐罪とかで捕まったり・・・しないよな?

「ころころ雰囲気が変わるなぁ。ほんとガイは面白い」
「人の苦労も知らずにぬけぬけと…」
「はは。サフィールに聞いていたとおりだ」

ん。サフィール?サフィール・ワイヨン・ネイスか。
って、ことは

「リンから聞いていたか」

サフィールはマルクト逃亡後ダアトで六神将のディストと名乗っていたが、それは昔の話。“元”な。
この世界の彼は『リン』。
オレがダアトに休暇ついでの観光をしに行ったとき譜業に関して意見が合い、そのまま“彼の過去”と“レプリカルーク”を餌につった。
そのときから彼は『リン』だ。

その彼からというのは、いったい何を聞いたのやら。

「何を聞いたんだ?」
「ああ。外見十代の年寄りが上司にいるってな」
「お前たちだって外見二十代じゃないか」
「はっはっは。雪国の奴らは老化が遅いんじゃないか。おれもジェイドもサフィールもネフリーもまだまだぴちぴちだぞ」
「・・・・・・とれたての魚かよ」
「はは。おましろいなぁ〜その例え。だけど噂じゃあ、お前の方が年寄りだろ?
あのファブレ侯爵を坊ちゃん呼ばわりしているとか。っで。本当はいくつなんだお前」

面白いものを見つけた子供の目だ。
キラキラしている。

そこでふと言われた言葉を反芻し、そういえばもう自分はいくつになるのだろうと考えてみた。
外見は確かオレがこちらにきたときガイ・セシルは19歳だったから、肉体だけなら22ぐらいか?でもオレが憑依する十成長が遅くなるんだよなぁ。って、ことはやっぱり19?
そういえば精神年齢は、合算するとそろそろローレライ(およそ2000歳)並になるのか?
わかんないなぁ。

まぁ、しいていうなら――

「クリムゾンの二倍は遠の昔に超えているが、永遠の19歳で」

これしかオレは答えを持ち合わせてないわけで。
聞いていた通りだと、気に入ったと、なぜかピオニーに爆笑された。


そのあと、サフィールがまだレプリカの研究をしているのかと聞かれ、それはすべて彼が愛おしむレプリカたちのためだと告げる。
レプリカルークのように。
人として生きる彼らが少しでも長く生きれるようにと。

「どうせなら、うちの甲斐性無しもそれくらい前向きに変わってくれればよかったんだがなぁ」
「研究資料を禁忌にした。研究資料を燃やした。抹消した。そういうのは、研究に関する本を出したとにやっても無意味だ」
「ガイ?」
「本として世に発表してしまえば、かならず複数つくられるのは当然で、それは国の上層部がかくしたなんて事実を知らず、情報を抹消すべくかけずりまわる役人たちの間を縫っていずこかへ流出する。
どこに広がるかはわからない。ヴァンが手にしたのがまさにそれだったかもしれない。ファブレ邸にも音素学の中に混ざっていたぞ『ジェイド・バルフォア』の作品が。
見つけた瞬間、思わず抜き取ってクリムゾンの部屋に隠して、シュザンヌ様がみれないようにしたんだ。今はリンに預けてある。
…奴がカーティスの家に養子にはいったのは、その罪たる過去の名を忘れるためというのが一番なのだろう。自分からその基礎を作り上げ、それをやめたとたん使用禁止にした。しかしそれも口先だけ。本当にとめる気があったなら、もっと徹底すべきだった。
後処理もせず逃げ出すとはな」
「ガイは手厳しいな」
「当時殿下でありあれの幼馴染だというピオニー現皇帝が、あなたが、何を考えていたかは知らない。
ただ、オレは奴が『逃げ出した』と判断した。
そしてあなたは懐にいれた人間には少し甘すぎるようだ。
おかげで追手がかけられるわけでもないサフィールは、その知識ごとオレがいただけたが」

「レプリカか・・・」

すべてはそこから始まった場とばかりの、悲哀に満ちたピオニーの横顔に、オレは何とも思わない。
オレってそこまで優しくないんだよ。
でもレプリカルークを生んでくれたことには感謝する。そうでなくては、この世界で癒しがなかったのは間違いないから。

「サフィールにも言ったが」

「なんだ?あんまり俺の傷をえぐってくれるなよガイ」
「サフィールはみんなの笑顔を求めて“あの場所”にかえりたがっていた」
「あいつ。ばかだなぁ。もう、戻れはしないのに」
「そうだな。
それでも。もしも過去にもどれることがあったとしても――『オレは、お前をオレの前に引きづり出す道を選ぶ。それが道徳に反するものであってもな』。そう、サフィールに言ったことがある」
「え?」
「たとえもう一度貴方たちの前でネリビム先生が死んでしまうとしても、オレは今を生きる道を選ぶ。と、そういうことだ」
「!?」

おまえ…そう、驚愕の後につぶやかれたピオニーの顔は、憎しみが込められたようなもので。
なんだ。あんたもジェイドと同じでまだ過去に囚われたままじゃないか。
そう思った。
結局あの三人組の中で、前に進めたのはリンだけみたいだ。

「ああいう過去でなけれれば今の自分たちはいない。違う道を選んだら、ここにいる自分とは違う人間だ。
それを誰もが理解すべきなんだ」

予言に復讐を誓ったヴァンも。
復讐ばかり考えていた本物のガイ・セシルも。
そしてピオニーもジェイドも…。
そしてルークだってそう。

もしかすると“レプリカ”という存在は、ヴァンが狙ったものとは違う意味で、世界に改革を呼ぶ切欠なのかもしれない。


ああ、そうえば。
レプリカといえば、大事なことをひとつ忘れていたことがあったな。

「リンと貴方が連絡を取っていたことは知っている」
「なんだよガァ〜イ。もう俺こここから帰っていいか?胃に穴が…」
「軟弱ものめ。このくらいの罵倒。ジェイドの嫌味で慣れてるだろう」
「そうだけどぉ。お前のは核心を突きすぎる。言葉を隠すでもないしな」

どこまで知っていて。
どこまでそれを“使おう”とするか、わからない。
だから心が休まるどころか緊張を強いられる。ジェイドのそれとは違う。と、ピオニーは表情に影を浮かべてこちらを見やる。
その瞳は先程あった時よりもくらみを帯びている気がした。
見え隠れするのは、ピオニー個人の感情か、それとも《皇帝》としてのものなのか…どちらでもいいが、どうやらオレは彼の懐に入れるには危険と判断されたようだ。
“敵”でないだけましかな。

「安心していい。オレはこれ以上貴方の過去には興味がないからな」
「そう、か。それでサフィー…いや。リンがどうかしたのか?」
「リンからはレプリカのことはどこまで聞いてる?今もまだ彼がレプリカの研究を知っていることからして、貴方は相当込み入ったことまで知っているように思うが」
「ああ、それなら。あらかたな。眼が飛び出るかと思ったぞあれには」
「ならばルークとアッシュ、導師のことも知っているな。
ヴァンがレプリカによる計画を立てているのも理解しているだろう?」
「ああ。詳細は先程の報告書にもあったな」
「さっき提出したばかりだろう。もうあれを読破したか。仕事が早くて助かる」
「・・・ファブレ侯爵からは二年ほど前にパッセージリングのこともアクゼリュスのことも聞いていたからな。今回のはそれの経過報告書と言ったところだったな。 ガイ…」
「ん。なんだ?」
「お前のおかげで、事前にパッセージリングへも調査隊を派遣することができ、今回はアクゼリュスの民も救えた。
お前には感謝してもしきれない」

助かったガイ。 我が民を救ってくれて、感謝する。

そうしてただの不遜な言い回ししかできない年齢不詳の怪しい男でしかないようなオレに頭を下げる男は――《皇帝》の顔だった。

民を思う王がここにいる。
ゆえに目の前のオレと言う存在がどれほど怪しかろうと敵に近いかもしれないという感情を抱きつつも、彼はそんな私情を捨ててオレに頭を下げたのだろう。
たとえみすぼらしい身なりにめがねに付け髭というとんでもない恰好でも。



「話は変わるが、ピオ、ピーちゃんは平行世界というものを信じるか?」
「信じるもなにも、今さっき過去の一部が変わればそれは違う自分だといったのはお前だろ。つまりそういった自分がどこかにはいてもおかしくないということ。
それにな、いままでうけたファブレ侯爵からの世界滅亡予言に関する報告書は、未来の話まであった。
まるで未来を誰かが体験してきたように正確に。
そのことと、予言を読み予言を覆したとされるお前という存在もある。まぁ、お前に関しては噂を小耳にはさんだ程度だが。
だけどなぁ、それだけでも、お前にまつわる噂をいくつか思い出せば、否が応でも信じずにはいられない。考えずにはいられないものだ。
なら今度は俺から訊くが、お前は“どこの”未来を知っているんだ?間違いなく“予言を覆しているこの世界”の、ではないだろう?」
「本当に理解が早くて助かる。こうなると貴方が敵でないことが嬉しいな」
「“敵でない”…か。“味方である”ことが、って言い回しをしないところが、なんとも怖いものだな」
「怖いと言いながら、そうなった場合でも《皇帝》として貴方は民を守るだけでしょうに。さぁ、言葉遊びはここまで。貴方に言いたいのはレプリカとその平行世界に関してだ」
「まさかとは思うがヴァンがレプリカたちをつかって、今度は平行世界に乗り込もうとか企んでいる・・・なんて言わないよな」
「ああ。そんなことは言わないし、レプリカが何万体いても無理だ。
実はその平行世界におけるティア・グランツが、この世界に来ているんだ。二人も同じ人間がいると面倒だから、向こうの世界の彼女にはレプリカだと名乗らせている。今から会いに行くんだが。と、言ったら…」

「なにぃ!?なんだその面白すぎる展開は!俺もつれてってくれ!」

「言うと思った」

王はピオニーの顔になるや否や、俺も混ぜろ!と絡んできた。
オレよりも、あんたの方が面白いんじゃないか?
話が終わったのを見計らったように肩に舞い戻ってきたフィルマメントの喉をなでながら、一喜一憂しては騒ぐ金髪色黒の自称色男に笑みが浮かぶ。

変なやつだなぁ。





「それにしても平行世界のとはいえよくあのティアがレプリカと名乗ること受け入れたな。報告に上がっているティア・グランツは自尊心が異常に高そうだったが。
それにさっきの謁見を見てる限り、レプリカに対してあいつらよく思ってないだろう?
よく向こうのティアにレプリカだと言わせたな」

のもとに向かうさながら、横を歩くピオニーことピーちゃんが、ニヤニヤと告げる。
たしかに。
謁見の間でいた全身チョコレート色の少女の態度は最悪だった。
あれとを一緒にしないでほしいが・・・。
まぁ、平行世界の彼女であるのは間違いないんだよなぁ。中身が違うけど。

「ピーちゃの知るこちらのティアは、レプリカそのものの存在自体を認めていないようだった。
だが向こうのティアは常識がある。ルークを必死で守り、前衛を自ら務めるほどには」
「ほぉ。それはまた」
「それに言いだしっぺは“彼女”だ。
生き別れた双子の姉妹設定でもいけたはずが、わざわざ苦難な道の方であるレプリカだと自ら自己紹介の際に宣言したのだから」
「同じティアでも世界が違うだけで随分違うんだな」

同じ、ね。本当はそうとも言いきれないんだろうけど。

「・・・そうだな」

現実主義者だけどファンタジーが大好きで、二次元大好きな彼女は、飛ばされたあとモノノ怪の世界で薬売りを師と呼んで必死に生きてきたらしい。ティアに成り代わる前はP4というゲームの主人公になったり。そのあともいろいろあったとか。
ん?もしかしてティア(ラスボス時のレベルでも)は、あの普通に毛の生えたような後輩より弱いかもしれない。
むしろ普通のくせにがむしゃらに生き抜こうと頑張って努力してきたの方が強くて当然のような。
向こうの世界の技とか使えるのかな。
のペルソナとか一度くらい見てみたいなぁ〜。

ぼーっと隣のいかにも変装してますみたいな男にうなずきながら歩いて、すぐにいくつかならぶパラソルの下に、甘そうな飲み物を飲みながら本を読んでいる三つ編みに白い服を着た少女を見つける。
ピルルルルとフィルマメントが鳴いてオレの肩から飛び立つと、バサリと飛んでどこかへ行ってしまう。
人工知能搭載のフィルマメントは、基本自由行動だ。
空をピチピチピチととんでいく雀か何かを追って戯れてる姿に、光がまぶしく反射して目を細めて見送る。
近くで鳥の羽ばたきが聞こえたせいか、振り返ったがこちらをみてほっとしたような表情を見せた。

ほわっっと柔らかい微笑みを浮かべるのは、ティアの整った容姿からか、きつい雰囲気がない分和む。
モナリザの微笑みってこんな感じじゃね?
隣にいたちゃらんぽら男など、その笑顔にやられたのか、ヒューと口笛を吹くと、さも初対面ですとばかりにの元に駆けていく。


「やぁ。俺様はピーちゃん。御嬢さん、かわいいねぇ」
「え?ぴ、ぴーちゃん?」
「そうそう!よろしく素敵なレディー」

さすがのも一目見た途端、彼の正体を理解したらしく顔が物凄くひきつっている。
やっぱり髭と髪の色が違うし、それがあってもなくてもピオニーだってやっぱわかるよね。
とまどうに、ピーちゃんは笑顔のまま挨拶すると、断りもなく彼女の前の椅子を引いて座りこむ。
頬杖をついてニコニコニコと戸惑っておろおろしている彼女を見つめ――

「へぇ。こいつがレプリカか」

爆弾発言をさらりと。
ピキッと固まる
ギギギと、さび付いたロボットがきしんだ音を立てるかのようにカタカタとその視線がオレに向けれらる。
あ、やべ。なんか泣きそうになってる。
SOSが向けられているけどどうしろうというのだろう。無理だ。諦めろ。
念よ通じろ!とばかりに視線で拒否したら、通じたのかさらに絶望的な顔になっていたが、すぐにピオニーに呼び掛けられれて視線がはずれる。

「本当に“あっち”のティアなのか?ただのそっくりさんじゃなくて?
いやぁ〜。まさかこうまで違うとはなぁ。いっそ過去に戻って俺たちもやり直せたらいいこちゃんジェイドとかできたりすんのかねぇ〜」
「ど、どういう状況?せ、せんぱぃ〜」
「彼女わかってないからピーちゃん」
「ん。そっか。悪い悪い」

それからざっとピーちゃんがことの次第をに説明し、もようやくピオニーが言っていることを理解したようで、平行世界のティア・グランツという設定を通すことにしたらしい。
転生者とトリップという言葉はつかわなかった。

「テイア・グランツです。ですが、こちらの彼女と同じに思われたくないので『』とおよびください陛下」
「やだな〜ちゃん。俺様ピーちゃん。陛下じゃないって。なんなら“あっち”に帰るまで俺の胸の中で熱くブウサギについて語り…」
「先輩。通訳を」
「『この格好の時は皇帝ではないので普通に話すように話してくれると嬉しい(ハート)』…かな」

二人がはちゃめちゃな挨拶をしている間に、ウェイトレスさんにコーヒーを二つ頼み、一つをピオニーの前に適当におく。
自分の分をのんびり飲みながら、まじめな顔でダラダラと冷や汗をかいているは、きっと目の前の権力者にどう対処すればいいのか測りかねているようだ。
せかっくピーちゃんの言葉を略しても相手に不敬罪になるのではと思っているらしきの態度はカタカタと緊張に固まっていて、言葉数も少ない。
オレはテンションが変わらない二人を酒のつまみに、コーヒーを飲みながら、覚えのある気配を感じて周囲に視線を向ける。


ふむ。時間的に妥当なところか。

「ピオニー陛下…背後にはご注意ください」
「なんだよガイぃー。口調戻せって・・・・・・・・・・っげ」


わざと態度を変えるとその真意に気付いたのか、オレにからもうとしていた彼は、カカトを鳴らして近づいてきたジェイドをみて固まった。

「なんであなたがいるんです陛下?」

騒ぐ陛下と、いつにもましてさわやかだけど額に青筋を立てて眼鏡をギラっと輝かせているジェイド。
助けろガイ。裏切り者〜!!とピオニーから声が聞こえるけど無視。
うん、ご愁傷様。
あ、コーヒーおいしいな。





オレの可愛い後輩に手を出すなんて百年早い。












わかっている人間には、オレだって場所と場合を考えて口調を変える。
翠の幼い君の盤と、こちらの王とでは、オレが向かい合うべき土俵が違う。

チェックメイトだ。








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