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03. そう名乗るわけ |
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『』…白黒世界 「」…アニポケ世界 挨拶をしながらまだ己の名を名乗ることはせず、は一瞬なにかを考えるように目を細めた後、笑顔のサトシに一つだけ質問を口にした。 夢1『あなたは“レッド”を知ってる?』 サト「え?えーっと、だれ?」 夢1『…異なる世界、ね』 意味が分からないとばかりに困惑気な顔をするサトシに、はニッコリと無邪気な表情を浮かべると。 なんでもないよと笑って 夢1『よろしくおねがいしますサトシさん!ボクは【キョウヘイ】っていいます!』 サトシの手を握り返した。
side 女主人公な『夢主2』夢1『ヒュウ。お前の台詞パクらせてもらう』 ヒュ『は?』 夢1『オレが今から言うことをきいといて損はないと思うよふたりとも。 たとえ何を目にしようと気にしないこと。 でないと。これからお前たちは腹が裂けるまで笑い続けるようなことになる。かも。 …そうなってもオレはしらないからな。 ついでにお前たちが笑うのは承知済みだ。そんでもって笑うとオレは傷つくからな。先に言っておく』 夢2『何かする気?』 ヒュ『カントーにいけなくなったからって雄たけびあげるなよ』 夢1『オレは今から“ヤル”ぜ?』 2ヒ『『はぁ?!』』 ********** がサトシとの挨拶を終えてもどってきたところで、三人で作戦会議だ!とアニメメンバーと少し離れたところでヒソヒソと話し合いを始める。 夢2『どうしたの?』 夢1『あ〜…もうだめだ。オレはもうだめだ。ピカチュウ抱きしめられたのが最後かよ。もっとモフモフを堪能したかった』 ヒュ『なんで挨拶するだけで疲れてんだよお前。ってかなんで【キョウヘイ】?』 いつものとおり、三人で円陣組んでしゃがみ込む。 その話し合いのなかに、ひとりだけ黒い影を背負って、なんかドンヨリとした空気をまとっていたが、真剣な顔でこちらを見てきた。 なんなんだろうと思っていたら、は突然爆弾発言くりだした。 夢1『オレはこれから【キョウヘイ】だ』 すっかりアニメメンバーたちに素などさらけ出してしまった後だろうに。 何を思ったか、はサトシの前で、【キョウヘイ】を演じると言う。 わたしはその瞬間、の言う「ヤル」が「殺る」って聞こえて、すっごいあせったよ。 実際は『演る』の間違えだったんだけどさ。 きっとそれはヒュウ君も同じだったに違いない。 だってあのときのヒュウ君の顔――すごい顔してたもん。 ヒュウ君なんかは、が演じる俳優としての【キョウヘイ】ぶりをよく知っているから、素のクールなと真逆をいく【キョウヘイ】のテンションを思い浮かべたのようだ。 ヒュ『お前、ついに頭でも打ったか?』 私もそう思います。 なにも自分を追いこむような真似をしなくてもいいのにと思う。 それとものことだから何か意味があるのかな。 夢1『いや。なにもないが。あいつらに対して、このままの口調と態度でいくと…なんだかやっかいそうなんでんな。面倒事はこりごりだ。なにより本来年下はオレのような口調ではなく【キョウヘイ】のような態度をとるだろ。あいつらたぶん年上だし。なにぶん、この六人の中でオレが一番年下だからな。それなのにこのふてぶてしい口調。なにか言われるのはわかりきっている。 ならばと思ってね。これから【キョウヘイ】で通した方が楽だろうと判断した』 夢2『ぅわぉ。なんかわたしに視線向けながらそのとげがありまくった発言で《一番年下》って連呼するのはよしてほしいかな』 ヒュ『お前が姉だと判明した時からこんなもんだろ。身長が低くてかわいそうに…』 っと、本気で心配するヒュウ君は、いったいなにを心配しているのか。 の身長か?それともいまのの態度そのものをだろうか。 心配そうにヒュウ君はのボサボサ頭をそっとなでなでとなでると、「つらいの〜」とばかりにがその手に頭をぐりぐりとすりつける。 ナルホド。いつもお兄ちゃんでおかんながあんな態度をとるとは、さっきのサトシへの質問は相当の意味があったみたいだ。 ヒュ『騒がしいのが嫌いなくせに、自ら騒がしさの中心をになうとか、バカだろ』 夢2『無謀です』 夢1『やはり無謀だったか。せめて…ピカチュウを抱いて死のう』 ヒュ『そこは自業自得と諦めろよ』 夢2『ってか死なないで!私を置いてくの!?もうひとりでめぐるのは嫌ー!!』 そんなわけで落ち込んでいるを二人でなぐさめつつ、それからしばらくああだこうだ話して、ようやく方針が決まる。 結局、わたしたちは当分カントーにはいけそうもないことは理解した。
side 男主人公な『夢主1』夢1『ところでサトシさん、聞きたいことがあるんですが。いいですか?』 サト「ああ。どうしたキョウヘイ?」 夢1『サトシさんはポケモンマスターの名前をご存知ですか?』 サト「そういえば…くわしくはしらないなぁ。名前どころか出身地もあまりしられてないよなぁ」 夢1『では“”。この名前に覚えは?』 サト「いや?」 オレがいた世界には三人の“レッド”がいた。 とはいえ、同じ世界ではなく、オレがいた前世を含めた三つの世界でという意味でだ。 一つ目の世界は、アニポケ世界。 そこのポケモンマスターはレッドだった。 その名は、たとえポケモンに詳しくない者でも、赤ん坊でも知っていた。 だれもが知っている名前で、誰もが口をそろえて「彼はカントーのマサラタウン出身だ」と答えるほどに有名だった。 そして同郷であるサトシはレッドによくなついていた。 彼が知らないのであるなら、ここはオレがいいた前世とは全く違うポケモン世界だ。 なら、オレはこの世界ではずっと【キョウヘイ】でいよう。 “”をしらないアニポケの世界だから、オレは君との挨拶に【キョウヘイ】と名乗ったんだ。 ただの芸名。 オレ自身の性格とは、キャラ設定も何もかも違う【キョウヘイ】を演じるのは骨が折れる。ましてや「やる」なんて宣言した過去の自分を絞殺したくなるほど後悔している。 それでも。 なんでだろうな。 “オレ”を知らないサトシに、“”と呼ばれたくないと思ったんだ。 恭平『それにしてもサトシさんとこんなところでお会いできるなんて!!ボク!もー!すごく感激です!(とりあえず話、会わせろヒュウ)』 ヒュ『(ボク?こいつがボク・・・ブフッ!!)・・・えーっと、サトシくんだっけ?…じゃなくて、キョウヘイの言うことは気にしないでくれ。こいつ、カントーフェチなんだよ」 サト「あーそれでオレの名前を知ってたんだな」 ヒュ『わるいな突然声かけて』 夢2『そうそう!キョウヘイはカントーフェチだからね! あ!名乗り遅れちゃったね。はじめまして!わたしはです。そっちのはヒュウ君!わたしたち幼馴染みなの。よろしくね!』 ニコニコ。キラキラ。 憧れのトレーナーを前にした子供のような視線でサトシをみてからむオレ。うう…なんんて面倒な。 チラリと視線を向ければあきれたような視線が一瞬来るが、すぐにヒュウも合せてくれる。 それに便乗してが自己紹介を始めたが、やはり彼女は自分の経歴を名乗らなかった。 はオレたちの世界ではイッシュリーグチャンピョンだ。 それを語らないということは、先程の円陣にて、一通りの物的証拠を提示してここがどうやら異世界らしいと話したことで、彼等にも踏ん切りがついたようだ。 笑いを懸命にこらえるように顔をひきつらせてはいるものの、ある程度はオレの【キョウヘイ】としての演技に合わせてアドリブを返してくれる。 ああ、あとで二人に糖分を与えておこう。 糖分大事だようん。 ってか、一番必要なのオレじゃね? ********** ここは異世界である。 その第一の確証は、あの白くなったタウンマップだ。 違和感を感じていたのは、以前見た時と地形が微妙に違ったからだと、改めて開いたそれを見て、いまなら納得できる。 さらにあいさつのときに尋ねた“レッド”という言葉。 あれが決定打となった。 この世界には“レッド”はいないのだろうと薄々予想はしていたが。 答は案の定。 オレが知るのは、三人のレッド。 まずオレとが双子と生まれた世界のレッドは、凄腕トレーナーとしてポケモンワールドトーナメント(PWT)というのがあり、それにたまに名前が出るひとだ。 オレたちにはまったくといっていいほど、縁もゆかりもない。顔も知られていないカントーの住民だ。 このレッドは、オーキド研究所所属のトレーナーで、髪は垢抜けた茶色。相棒はリザードン。 二人目は、オレの前世のアニポケ世界のレッド。 彼は先程おれが告げたポケモンマスターとして名をはせていた生きる伝説のこと。 ちなみに物凄い頻度で行方不明になる。 こちらの彼はマサラタウン出身で、相棒はピカチュウ。はじめてのポケモンはヤドン。 ストレートの黒髪に、赤目が特徴で、そして無口無表情だ。とにかく強い。 三人目は、異世界でであったレッド。 ポケモンスペシャルと呼ばれる漫画に酷似した世界のレッドは、黒髪であることは二番目の世界のレッドと同じだが、頭はサラサラではなくトゲトゲとへんなくせっ毛の持ち主だった。はじめてのポケモンはニョロボンで、相棒がピカチュウ。 前世のポケモン世界当時のオレは、サトシのご近所地に住むバイトにあけくれるお兄さんAであった。 サトシなんかおしめを変えたのはオレだと宣言してもいいぐらい旧知の仲のはずだった。 どのレッドでもいい。 だれかしらレッドの名を知っていてくれればよかった。 けれどサトシはどのレッドのことも知らないと言う。 そして近所のお兄さんであった“”のこともしらないとなれば、つまりここは、オレの知りうるどのポケモン世界でもないということだ。 いったいなぜオレはここにいるのだろう? どうして? なぜ? オレは悪いことしてないじゃん。 どうして神は オレをカントーにいかせてくれないんだ!? 何度目かの異世界。 オレは【キョウヘイ】っていう笑顔を張り付けた。 そして――― オレは鬱になった。 |