[有り得ない偶然] 復活 → TOA



15. 商人と金髪にまつわる日々





 side とある村の商人





 なんだか変な女の子が村に住み着いてしまった。
長い金髪の髪を背でひとくくりにして、似合いもしない男物の服を着込んだ少女。

 はじめその女の子は、武器がほしいといった。
まぁ、こちとら商売だから渡したが、おつりはいらないわと颯爽と金を置いて去っていったが、どうみてもたらない。 ちょっとお客さんと声をかけたが、彼女はさもいいことをしたというような笑顔で去っていった。
 そのあともあとだ。
あいつの変な行動は続く。
 彼女は村の周辺でモンスターを倒しまくっているらしいが、適量適度や共存という言葉を知らないのだろうか。
モンスターに襲われないように警戒をするのは普通だが、限度がある。それをあの少女は無視して殺戮を繰り返す。
 たとえ人を襲うモンスターといえど、あまり殺しすぎてしまうと、今度は生態系が崩れてしまう。
この村の側には、まったく無害のチーグルという魔物もいれば、とても理知的なライガクイーンが率いるライガの群れもいる。
彼等はモンスターといえど、こちらが彼らの領域を侵さなければ、襲ってくることはない。
なにせあの森には豊富な食糧があるから、わざわざライガたちも人間を食べようとは思わない。
たしかにほとんどのモンスターは肉食だが、彼らのように知能があるモンスターは、何かしらの理由がなければ極力人に近づいてこないものだ。
なにせ彼等は理知的といえど獣だ。ひとのように復讐という概念はなく、あるのは弱肉強食という本能だけ。本能のなかで彼らは危険をかぎ分け、回避するように動く。
 クイーンほどに知能が高くなれば、人が徒党を組む生き物であり感情によって動くのだと理解しているだろう。
だからこそ彼らは、人間がよわいために群れを成し道具を使うことを知っているし、人の驚異をも理解しているため、めったに手を出してこないし、こちらも境界を気にしている。
砦があるわけでもないこの村は、そうやって魔物と共存していた。
 クイーンひきいるライガたちがこの村を襲うとしたら、繁殖期で気がたっているなか人が足を踏み入れたか、森で食糧をえれない何かがあったときぐらいだろう。
 つまりむやみやたらとモンスターを殺されてしまうとそれを食糧としていたライガたちが里に下りてきかねないわけだ。
しかしあの変な女は何も考えずモンスターを殺しまくっている。
 しかも殺した魔物をそのまま村に持ち帰っては道端に放置していくのだ。
まるでこれだけ倒したのよと見せびらかすように。
街中にそれを放置するものだから、おかげでこちらとしてはたまらない。
たしかに魔物によっては各部位が道具の材料や食糧になることもあるが、だったらその必要な部位だけとってあとは音素に返してほしいものだ。
本来魔物とは音素に返るため跡形も残らないはずなのだ。
つまり彼女は殺し方も下手ということだ。
げんに毛皮が売りのはずのモンスターの死骸をニコニコと俺の店の前に置いていったが、これほど傷ついては売り物にならない。
残った死骸や血の処理などはどうすればいいかほとほとこまる。
たとえ素材として使えるものがあったとしても、それよりも魔物の死骸を処理する方が余計金がかかるのも事実。
それにこう加工も何もせず遺体を放置されれば、いやでも血臭に誘われて、別のモンスターが来かねない。
やはり永代が狂い始めているのかもしれない。
最近では畑を荒らされたという報告も届いているし、徐々に被害は出始めている。

 本当にあの少女はなんなんだろう。
この村は疫病神にでも憑りつかれたのだろうか。


 そういえば―― 一年ほど前にも金髪の旅人が来たことがあった。
さらさらとした長い金髪を結った身なりのいい青年に、従者らしい短い金髪にゴーグルをつけた少女の二人組。
 淡い髪色や金髪といえば、マルクト出身者が多い。
その二人の旅人も気の圧であったため、マルクトの出身なのかと問えば答えは否。
どうやら青年の方がキムラスカのご要人だったらしく、バチカルからきたという。
しかも青年は見てくれににあわず学者らしく、キムラスカの荒涼とした大地を開拓し、新しい農業プラントをつくる計画だと言う。
エンゲーブは農業で栄えた食糧庫。ゆえにプロが集うといっても過言ではない。だからプラント計画にご助力願いたい。意見を参考にしたいのだ――と、頭まで下げてきた。
さすがにバチカルのお偉い様にそんな風に頭を下げられるとは思いもよらず、集められたみんなはびびったびびった。
 背が低く髪の長い青年が、バチカルの王族に仕える学者。おれたちは彼を学者先生と呼んだ。
しかしそうと言われてみれば、納得できる。学者先生からたまにでる言葉遣いやしぐさは気品にあふれていた。
だが貴族にしては不思議な御仁で、子供たちと泥まみれになって遊んだり、平然と自ら鍬を持って田をたがやしたりと、どうみても貴族の青年がするとは思えないことを笑顔で行う。キムラスカのそれもバチカルといえば階級が最も厳しい場所のはずだが、こんな貴族もいるのだと、おれたちはさらに驚かされたものだ。
やることなすことちぐはぐで突拍子もないが、好感を持てる人だった。
 また、背の高いゴーグルをしていた少女は、まるで彼の付き人の様に彼女の側にいて、いつもニコニコしていたが、その譜業に対する知識はすごかった。
シェリダンとベルケンドの二つの連盟の代表というから、彼女も若いのに相当だ。
 通称『荒れ地に花を咲かせましょう計画』。それを行うにあたり学者先生の思惑は、国の優劣などではなかった。
いわく、二つしか国がないのだからケチケチせずに互いの知識を交換して、世界そのものを繁栄させるべきだとか。
戦争なんておこしても死ぬのは下の者だけだしな――と、学者先生は言い、苦笑を浮かべて、国の垣根関係なしの協力関係を求めてきた。
つまりはこの計画にたずさわる者がバチカルの貴族だろうが、キムラスカの労働者だろうが、我々エンゲーブの人間だろうが、関係なく、この計画では平等の立場であると。契約をする際にもそういう約束だと告げたてきた。
 それから土地の調査や、農業の方法、植物と土の関係、はてにはこの土地の成分がどうだこうだとか一通りサンプルをとってなど、とにかく調べるだけ調べると彼らは帰っていった。
 あんな考え方をする人間は見たことがなかった。
国が二つなのだから、戦争は免れない。そう思っていたから、国が二つだからこそ手を取り合うべきだ――なんて想像したこともなかった。
だが言われてみれば実際、その通りだとは思う。
 学者先生たち、もといキムラスカとはそれ以降うまくやっている。
流通の流れもよくなり、調査だけで関係はおわりなく、彼等がきたことでエンゲーブを中心に新しい技術の提供や、今までには思いつかなかったような効率の改善もあった。
おかげで農作業の生産も需要も上がったのだ。
 学者先生たちは、調査がひと段落すればキムラスカに戻るということを繰り返した。
そのたびに、『祭り』をやるので、食材を大量に欲しいと買い付けていった。
たぶん需要が上がったのはそこにも要素がありそうだ。
しかも彼等はその大量の食材の礼として、二大譜業都市で開発したと言う農機具を無料で配ってくれた。

 学者先生とその助手さんも金髪だった。
だけど、いま住み着いている金髪の少女はどうだろう。
そういう意味では、あのへんな少女は、この村にはまったく利にならない。むしろ不利益になることばかり起こす。
 学者先生は子供にうけがよかった。忙しい親たちに変わって子供をかまってくれていたし、この周囲の生態を調べると言って森に入っても一滴の血も流さずそれをこなしたりしていた。
あとで――ここ数年話題だったが値段も高く、ほとんどが王族や貴族が買い占めていたため手の届かなかった『耕耘機』なる畑を耕す道具が、お礼として学者先生たちから届けられたとき、村は盛大に盛り上がったものだ。

 たとえ同じ金髪といえど、二人の差は歴然としている。





**********





 最近泥棒が起こす事件が頻発している。
もしかしてあの金髪女のせいじゃないかと疑うところだが、まぁ彼女は金を払って物を買うので、盗み自体をする必要がない。ただしたまに金が足らなすぎることだけは難点だが。金銭感覚がないのだろうか?
この盗難事件が、あの女のしでかしたことじゃないのなら、旅の者か。いや、魔物という可能性もある。
 ちょうど盗難事件が起き始めたのが、北の森の奥で火事があった日からなのだ。
そう考えるに、ライガかもしれないとおもえた。
だが、ライガなら肉食だ。リンゴや野菜ばかり狙わないだろうし、彼らが狙うなら家畜だろう。
たとえライガがほかの魔物よりも知能があったとして、あの巨体が倉庫内の扉を開けたり鍵を閉めたりなど細かい細工をどうこうするはずもない。やるなら扉ごと壊すのではないだろうか。
それは他の魔物も同じで、逆に他の魔物たちはライガほど知能がないなら余計有り得ない。
チーグルはライガどうよう知能が高いらしいが、草食だが特定の葉しかたべないはずだ。
そうなるとやはり、結論としては人間のしわざだろう。
噂の漆黒の翼という盗賊団の可能性が高い。だけどいままで噂に聞いていた盗賊団の仕業にしては、なんだか盗まれたものが少ない――というか、盗み方がちゃっちかった。噂の義賊らしくない盗み方だ。
 リンゴやたべものをもっていくにしても、この村でつくられた食品は、すべて焼印がおされている。そのため原産地を偽造しようにも出荷先が解るようになっているため別の場所で販売などできない。
つまり誰かが盗んで食べている――のだろうとは、だれでも想像がつくわけだ。

 言いたくはないが、これもあれもなにもかも、本当にあの不利益しかもたらさない金髪女が来てからだ。
やはりあいつは疫病神なんかじゃないかと思う。


 盗人事件から犯人の目星はさっぱりつかず、しだいに村の中がギスギスしだしころ。
今度は、これまた嫌味の様にマルクトの軍艦が補給にと馬鹿でかい戦艦でやってきた。
 このトップがさらに嫌味な奴で、何が入っているかわかったものじゃないからと、持ち合わせの食料でことたりるから、ここでの食料などいらないと買いもしない。
 じゃぁ、せめて軍人なんだから、市民の安全を優先し泥棒を何とかしてほしいと頼んでみたが、泥棒が出たのは村の秩序が悪いせいだとか、極秘任務中だから無理だと断られた。
極秘任務ねぇ。
そのわりには軍艦でくるなんて派手な登場だし、任務が何かは教えてくれなかったが「任務がある」と宣言してる時点で「極秘任務があるのだ」とばらしてるじゃねーかよと思ったり。
 しまいには、村にまたモンスターの死骸を持ち込んだあの金髪女をみて、軍人さんは嬉しそうに話し合いをはじめた。
意気投合というレベルにしては、親しすぎる気がした。
つまりなにか?あいつらはぐるだったのか?
あの女はしょせん“先発隊”とかそういうのか。
まさかキムラスカにひそかに攻撃を仕掛けに行く途中だったとか?
それだけはだめだ。そうなってしまえば、争いを嫌うあの金髪の学者先生たちやエンゲーブを盛り上げてくれたキムラスカに恩をあだで返すことになる。なにより戦争なんかが起こってしまえば、学者先生の言うように、被害は主にこちとら平民にばかりくるわけで、たまったもんじゃない。

 軍人さんの態度もそうだが、それにより村人の苛立ちはさらにあおられていた。

 村人たちのいらだちがピークになるのは、三日もかからなかった。
しかし今度はダアトの軍人までやってきた。
 ピーチクワメクダアト軍人女の後ろからは、フードをすっぽりかぶったどこか憔悴気味の少年が無理やり引っ張られている。
何度か彼女から離れたがっているのもかかわらず、彼女がそれを阻む。
「おいていくわよ」とか。「おいていきたいならそうするがいい。わたしはここで人を待たせてもらう」「これだから…。もう我儘はよしてちょうだい」など。聞こえてくる限り、二人の話しは、まったくかみあっていない。
 しまいには、ダアトの軍人はキーキーと甲高い声で怒り出したか思えば、「貴方が払えばいいでしょう!どうせお金なんて有り余るほど持ってるんだからあなたは」「自分自身の金などない。この金はどこから出てると思っている?野をたがやかし、育てたものたち、あまたの人々によって我々は生かされているに過ぎない。金は、税を収めた民たちの暮らしへと還すためのものであって、私利私欲に使っていいものではない」と少年がぐったりつぶやくのに対し、栗色の軍人女は相変わらずわけのわからないことをわめいているし、女ってこえーなとか思った。
 ふいに隣の店の屋台からリンゴが一つ転がり落ち、フードの少年の足元に転がった。
それを手にした少年と視線があった。
彼は死がいない商人の一人でしかないおれにまで律儀に黙礼すると、それをおれの屋台の横、隣のりんご屋のおっさんのもとへ届けていた。
しかしその少年の顔は、なぜか非常に哀愁漂っている。

「りんごかぁ・・・。そういえばオレ。リンゴパイを食べる寸前で誘拐されたんだったけか。
まだ数日しかたってないのになんでこんなになつかしいのやら」

 悲しげにリンゴを見つめる視線に、物凄く哀愁がただよっている。って、いまなんて言ったんだこのこどもは!?
ユウカイ?ユウカイってのは、“誘拐”か!?

その言葉には、さすがのリンゴ屋の親父も目をかっぴらいて驚いている。

「ゆ、誘拐?なぁ、隣のぉ。いま、おれの耳おかしくなったみたいなんだが『誘拐』って聞こえたんだよな?」
「りんご屋、そりゃぁ、ねぇだろ。いまのは『ユカイ』だろ」
「……『ユウカイ』だろ」
「あー。やっぱり?」

 あまりの驚愕の事実に、呆然としたままのリンゴ屋の親父から声をかけられた。
いや、ね。さすがに俺も誘拐とは聞こえてほしくなかったけどさ。

「あ、このリンゴの記。
…そうか。ここはエンゲーブか。ガイが、農園事業がどうとか父上といっていたときにでたのがここか。
すまないが店主。このリンゴ、いくつかくれないか?」
「あ、ああ。それはいいけど。坊主、あんたさっき誘拐って…。
今は一人みたいだけど。それに軍人さんもいるし…ってことは、じゃぁどっかからにげてきたのかい?たとえば漆黒の翼とか」
「いや誘拐犯はあそこでわめいているマロンペーストだ。屋敷に襲撃してきたあげく誘拐されたんだ。
軍人に助けられたのではなく、軍人の恰好をしたあいつにむしろ今絶賛誘拐され中だ」

「「なっ!?なんだって!?」」

 りんご屋の親父がいかにもひきつった笑顔でリンゴを手渡しながら、ダアトの軍人に希望をかけて尋ねれば、予想は大きく外れて、『少年を救いだしたために共にいるとばかり思っていた軍人』が、実は誘拐犯であることが判明した。
あまりの衝撃に、おれも思わず親父と一緒に声に出して飛び上るほど焦った。

「な!?なんdね荷がないんだよ坊主!」
「屋敷ってことは相当いいところの身分だろ!?大丈夫なのかそれ」
「大丈夫も何も…しかたなかったんだ。
逃げたらすぐに追いかけてくるから。あいつの目が届かない範囲から出れないんだ。
金はせびるわ、どこからどうそういう発想になったのか『守る義務が私にはあるのよ!』と言いながらモンスターを見れば、ひとのことを押し出して自分は背後でのんきに歌を歌ってる始末。
こちらとしては、うごかなければすぐにでもむかえが来ると思うんだが、その迎えに見つかって捕まることを想定してか、無理やり引っ張られるんだ。・・・・・・やはりオレは所詮人質の価値もないのかもしれないな」

 最後の方はおれたちにではなく、独り言のようになっていったが、あきらかにこれはほおっておいていい状態ではなさそうだ。
もっと詳しく詳細を聞こうとしたら、彼の後ろにいた女が、「ちょっと貴方!おかしなことをしないで!なにリンゴを盗もうとしているの!?」とか、お前の方がおかしいいだろう!?とつっこみたくなるよな言動を大声でしたため、少年の話を聞いていたりんご屋とおれ以外からの周囲の視線を集めてしまう。
しかも最近の苛立ちで疑心暗鬼になっていた村人たちが、リンゴひとつを手に哀愁を漂わせていたフードの少年を泥棒扱いして、そのままローズさんちにつれていってしまった。
おれたいが違うんだと必死にとめようにも叫んでも話を聞いてくれず、「だまされてるんだ」と言われる始末。これは本気でやばくないか!?
 リンゴ屋もオレもたしかに話し込んでいたため、まだ少年から料金をもらっていなかったのは確かだが…それどころじゃないだろう。
むしろだめだろそれ!
相手はどこかの貴族らしい。
しかもそのとき村人たちが呆然としている少年をひきずって行く際にはずれたフードから赤い髪がのぞいたのを見て、おれとりんご屋の親父はさらに絶望した。

 赤い髪はキムラスカの至宝―――“あれ”はリンゴひとつの値段うんぬんよりやばいだろう。


 それからとめるまもなく翌日には、あのマルクト軍人が金髪のわけわからない方の女をつれていって旅立た。
それは手放しで喜べるほどありがたかったのだが、同時にあの赤毛の少年を捕えて軍艦を出発させたことには、エンゲーブの村人中が悲鳴を飲み込んだ。
 今この村は、キムラスカが行おうとしているプラント計画に協力している。
たしかマルクト皇帝からの協力の了承も出ていて・・・。
 そんなときにそのキムラスカの王族たる証をもった赤毛の少年が、彼を攫った当の誘拐犯と共に、マルクトの軍艦に連れ去られたとあっては――キムラスカにも学者先生にも顔向けできない。


 周囲が顔を真っ青にして唖然としている間に、今度は泣きそうな声で「ルーク様ぁあ!」と主の名を呼ぶ二人の人間が馬で村に駆け込んできた。
 やってきたのは、質素だが動きやすそうな服に身を包み、その上には頑丈そうな素材で作られたそろいの黒いロングコート。腰には剣をはき、いかにもどこかに所属する騎士か兵士だとすぐにわかる。
黒いロングコートの背にはファブレの紋章が赤色で染め抜かれている。 肩には白抜きで銃と刀が交差した十字。その十字の背後には、黒い蝶が描かれた独特の紋章がある。デザインセンスがとてもよく見目を惹く。
その十字に黒揚羽の紋章は、彼らが持つ剣にも刻まれていて、それが黒衣の騎士たちの部隊を示すものだとわかる。
 黒い長めの外套。
どことなく見たことあると思えば、それがあの金髪の学者先生の着ていたコートと同じものだと気付く。
肩や背のマークまでも同じであると気付くのに時間はかからなかった。

「ルーク様ぁ!どこにおられるんですか!ルーク様ぁ!!」
「まさかもう公爵様がおしゃっていた青狸とやらに攫われたんじゃ!?」
「時間的には間違いはないが…。ああ、もう!!絶対ここから先にいかせてはだめよモミジ!このままではクリムゾン様もキムラスカもどうなることか!はやくルーク様をみつけなければ。このままではもう私たちガイ様に顔向けできないわ!」
「ガイ様の一番弟子として絶対ルーク様を守り通す!」
「ガイ様の一番弟子はあたしよ!!」

 現れたのは、双子のように息の合ったかけあいをする女性と男性の騎士。
後で知ったが、彼らはファブレ邸では知らぬ者がいないとされる三人の内の二人で、あの学者先生の弟子で、武術の腕も一流の隊長格の人間だという。
その彼らが血相を変えて探すのは、知らぬ者はいないかのキムラスカの名君ファブレのご子息だった。
彼等はまだマルクト軍のことを知らないようで、やっきになってエンゲーブ中を走り回っていた。

「騎士様。ルーク様とはもしやキムラスカのルーク・フォン・ファブレ様ですか?」

 彼らがあまりに必死だったためと、告げねばならないことがあるのを思い出し、あわてて騎士様を呼びとめる。

「そうだ。お前はここの村の者か」

「はいそこのリンゴ屋の横で商いをさせていただいてるものです」

「ルーク様をみたのか?」
「ルーク様は朱色の髪に緑の目の、16か17程の少年なのだが…」

それを聞いて息をのむ。

「・・・やはり。あの方はルーク様でしたか」

「「ルーク様をしっているのか!?」」

「数刻前、森の入り口付近でマルクトの軍艦に赤い髪の少年が連行されていく姿を見た者がおります。もしやとは思ったのですが」

「「マルクトの軍艦?」」
「・・・なぁ、カエデ。マルクトといえば青がシンボルカラーだったよな?」
「ええ、そうねぇモエジ。逆にキムラスカは赤よね」

「「・・・・・・」」

「「ってことはガイ様とリンが嫌ってた隠顕メガネな青狸ってマルクト軍人のことぉーーー!!!?」」


 本当に双子じゃないのかと突っ込みたくなるぐらい息の合った二人だ。
女性騎士と男性騎士は、おれの言葉にガクリと膝を地面につけて、これまた同じポーズで、絶望をあらわにした。

「ま、まにあわなかった」
「ルーク様にけがの一つでもあったら・・・わたしたち、ガイ様に捨てられる!?」
「捨て・・・!?殺す。殺す。殺す。あのメロンぜってーころす!!」
「・・・・・・あなたが死になさいモミジ。メロンって。そりゃぁたしかにとはおもわなくもないけど、みてたのそっちなの!?このセクハラ!どうして男ってみんなそうなのかしら!みるなら胸じゃなくて容姿をしっかり見ておきなさいよ!!これじゃぁ誘拐犯探す手掛かりにならないじゃない!」
「クリムゾン様経由でいただいたガイ様からの伝言では、『全身茶色』に『癇癪持ち』『ダアトの軍服』『女』『メロン』ああ、そういえば『一目でわかるキタロールックス』とも言っていたな」
「キタローって、たしか…。このまえガイ様が面白ア半分で広めた"アニメ"のひとつにそういうのあったわよね。片目の子供が魔物をかっこよく退治していく話だったかしら」
「それだな。たしかここまでくる間に集めた情報だと、そのメロン女はルーク様に名乗るなと告げるわりにあの方をルークと、その名を連呼し、あげく自分の名は聞かれたら所属ごと名乗るらしいぜ」
「馬鹿なのそいつ?あほなの?」
「それよりルーク様を呼び捨てする時点でいけすかねぇ。何様だってんだよ」
「素がでてるわよモミジ」
「おっといけね」

 キタロウ?なんだっかそれ。
ああ、そういえばアニメという動くイラストに物語をつけたようなのが、上層階流ではやっているときいたことがあったな。学者先生や助手さんが、そのうち一般家庭向きに受信できるようにすると言っていたけど。
そういえばそのとき学者先生が丁寧に紙芝居を作って説明してくれたな。その物語のなかにあったな『キタロー』。
『アビスマン』につぐ、敵を倒す爽快ヒーローもので、敵が独特なキャラが多く子供たちに人気があったはず。

――って、言われてみるとあのダアトの軍人はそっくりだったな。


「「ルークさまぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!待っていてください!!今お助けいたします!!」」

 おれが騎士たちの会話に思いをはせている間に、物凄い雄たけびをあげて二人の騎士は何処かへともうダッシュで走り去ってしまった。
ルーク様の居場所わかってるんだろうか?
もしかしてルーク様センセーとかついてるのか?
方位自身も地図も何も確認せずに去っていた二人を見て、思わず首をひねってしまった。

それから間もなく、二人の黒衣の騎士が、トボトボ戻ってきて「軍艦はどこへ向かったんですか」と聞きに来たことはきっと忘れられない思い出となるだろう。





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