[有り得ない偶然] 復活 → TOA



12. 公爵子息と爆走する関係性





  side ルーク





 あのあと懸命に説得を試みるも聞く耳持たず。
これは本気でおれは、彼女にとって「今後使えるかもしれない捨て駒」のひとつなのだろうと思ってきた。
足元も暗く不安定で魔物もいる。夜の森は危険だと告げても、だからこそ人里を目指すのだとわけわからないことをいいつきすすむ。
 強い力で腕を引かれているのでどうすることもできなくて重い体に鞭をうつ気分で、彼女についていくしか出来なかった。

―――――プチプリがあらわれた。

 モンスターだ。
 見る限り早退して強そうではないが、もしもあの渓谷や森の奥に行けば、きっと魔物は強さを増していただろう。
今は街道を目指して水音をたどっているので、まだ下っ端モンスターしかでないのが救いだろうか。

しかし

 魔物が出てきた瞬間、「私は後衛なの!守りなさい!」と、襲撃女によって前に押し出された。
 常のおれであれば、このくらいのモンスターを相手にするのも問題なかったかもしれない。
護身術としてガイに剣や武術を習うに当たり、はじめは本物の殺気になれるように訓練を受け、数々の業物の使い方を父上に教わった。
こういう時のことを想定して叩き込まれたものだ。もしも今おれの状態が常のものであれば、レベルの低いあんな魔物が出てこようと問題なく対処できただろう。
しかし今のおれは立っているのもやっとで、グラグラする頭に視界はブレ、意識を保っているのがやっとという状態だ。
しかも武器なんか持っていない。
たまたま手にしたのは、おたまと鍋だけ。
体調が万全であったとしても・・・ぶっちゃけこれでは戦いようもない。
 やっぱりおれはあの女にとっていくら傷ついても関係ない肉壁程度の価値しかないのだろうな。
おれの身分からいって、もう少し自分には価値があると思っていたが、彼女の前ではそれは屑も同じだったみたい。
 なにせ女がファブレ邸を襲撃したのは、キムラスカの混乱こそが目的。
ゆえにあの女は、おれを使って国と交渉する気などはじめから微塵もないのだろう。げんに金や金目のものを一切持ち歩いていない。そのことからわかるとおり、彼女は金銭類には興味が無いということ。つまり身代金などを要求する気はさらさらない。と、判断できる。
だけど利用価値がまだありそうというその小さな理由だけで、おれは今彼女に生かされている状態だ。肉壁とはいえ、こうして生かされているだけでも本当にましかもしれない。

 とはいえ、肉壁になるにしても、おれの装備は、ただいま鍋とお玉のみ。


・・・どうしろと?


 おれは予言に死が読まれていたことから、どんな状況でも生き残れるよう武器の扱い方から譜術、知識。様々なものをここ二年で詰め込まれた。
ガイには料理のこと、それから兵法や銃のあつかいについて。父上からは武器というあらゆる武器の仕込み、技、使い方を体に覚えこませるように実践を通して念入りに教わった。譜術はリン先生と母上から。リン先生には他にも音素の理論や仕組みについてなどを教わり、そのほかの知識も先生から得た。
だからモンスターと闘おうと思えば闘える。
っが、武器らしいものが無い場合はどうしたらいいんだろう。
あまたの武術を叩き込まれたとはいえ、さすがにお玉と鍋で闘う方法までは習っていない。
ナタリアの手料理なら、モンスターを倒せるかもしれないが、どちらにせよ材料はない。
 とりあえず剣があれば一番いいんだけど。
いや、はじめからモンスターを避けて出くわさない方がいいに決まっている。そう思うんだけど、おれに選択肢は無いわけで…。

 レベルが低いとはいえ、モンスターが目の前にいる状況である。
本当にどうしようかと、飽和気味な脳を無理やり動かして考える。
 はっきりいってお玉と鍋しか持っておらず、具合が悪くて今にも意識が跳びそうな、役に立たないおれに前衛とか無理だ。
なにを考えてるのだろうと思わず、おれの背後にさっさと回ってしまった襲撃者のあの女の考えが知りたくて、チラっと背後の彼女をみやる。すると、どうしたことか、女はのんきに歌など歌おうとしていた。
おれがボォーとそれを見ている間に、おれの脇をモンスターが通り抜けて行った。
とにもかくにもモンスターは、おれの背後の隙だらけの女の方へと突進し、栗色が大げさに吹っ飛んだ。
なんでおれ無視されたのかな?あ、殺気がなかったからとか、武器を持っていなかったから…か?
それともあの女はなんらかの香水でもつけてるのか?

「戦い方を教えるわ!」
「前に出て!」
「ちゃんと守って!」
「トゥエトゥ(ドカッ!!!)きゃぁ!!」


「・・・・・・・・・」


 それ以降も魔物は何度も飛び出てきた。
なんというか、あの女が魔物を呼んでいる気がしてならない。
あの女が大声を出さなければ、魔物をよけて森を通るぐらい出来たかもしれないのに。

「あ…」

 暗いからわからなかったけど、こっちをみてあの女が笑った気がした。

(それが実はルークが見ていない間にモンスターに襲われ顔がちょっとはれていただけで、彼の勘違いなのだが。自分の施行に潜ってしまったルークがそれを知ることはない)

魔物を呼びながら笑うなんて。
ああ、そうだった。おれはただの壁だったとようやく思い出す。
あの女はきっとこの状況を楽しんでいるに違いない。わざと魔物がいる森を夜にとおったり、ずっと大声を上げていたり、歌でもって魔物を呼びよせたり。
おれがいま武器をもっていないのを知っていて、わざと魔物と戦わせて楽しんでいるに違いない。だから笑ったんだそうに決まっている。
 ここで死んだらきっと彼女はおれをほおっていくのだろう。
おれはきっとあの女にとってはそれぐらいの価値しかない。
あいつの道楽に上手く付き合わなければ、この先バチカルに戻るどころか、生きてさえいけないのだと…改めて思い知る。



「のろのろしないで!」
いやいや。意識を保ってくっついてるだけえらくないか?

「私は後衛なの!」
後衛のくせに家に奇襲をかけてきたのか。

「しっかり守りなさい!」
お玉で?

「魔物よ!かまえて!」
それよりいいかげん正面から挑むのやめて、はじめから避けた方がいい気がするけど。

「わたしはあなたを送り届ける義務があるの」
いや。送らなくていいし。
どうせ家のものが追いかけてくると思うからって。さっきから何度も言ってるのに・・・。

「グミがあるなら早く回復して!」
おれもあとどれぐらいこの四次元ポケットにはいってるかわからないので節約したいんですが。

「旅の途中なんだからできるだけ体力は温存させるべきよ」
なら休憩を入れろ。

「そうね。グミだってどれだけあるかわからないわ。できる限り節約しましょう」
今更?いや。それさっきと矛盾してるから。
それよりおれにはグミの使用不可って・・・あーはいはい、おれは肉壁でしたね。

「治癒術を使えるなら使いなさい」
たしかにつかえるけどね。常の状態じゃないんだけど。

「モンスターをにがすなんて!どうして殺さないの!?」
見逃してもらってるんだよ。逃げなきゃこっちが死ぬだろ。

「あなた譜術師なんでしょう?しっかり守って!」
体力がのこっていればの話だけど。

「我儘を言わないで!」
そっかぁ、また休憩なしか。休憩しないとそろそろ倒れそうだけど、特におれが。

「これだから貴族のお坊ちゃんは。貴族ってみんな軟弱なのね」
たおれました。


――だから言ったのに。



 おれたちが逃げれば、殺さずにすんだ魔物たち。
光となって消える姿に、手に残る感触に、心の中で謝罪する。
許してもらうためではなく、その命を背負う覚悟をもって。
 そうやって無理やり戦い、すべてを音素に還し、ボロボロになって森を出たときには、真っ暗だった周囲も随分明るくなっていた。
超振動の影響でだるさの抜けない身体は、そろそろ休息を必要としていて意識を保っているのがやっとだ。
川が見えてきたころ、そこで馬車の御者の男と出会い、おれたちは彼の馬車に乗せてもらえることになった。



 そのときのおれはどうかしていたんだ。


 たぶん馬車に乗る前後で何かしらの会話をしたが、覚えてない。ただ馬車に乗り込んだとたん寝てしまったことがいまになってもくやまれる。
あのときしっかり周囲の話を聞いていれば、このあとのややこしいことには巻き込まれずにすんだだろうに。
でもそのときは疲労がピークに達していたから、無理といえば無理なことだった。



「二万。高い」
ぼったくりも甚だしいな。

「あなた貴族だしお金持ってるんでしょう。ならあなたが払うべきよ」
うちででる金はすべてみなさまの汗と涙による血税から出ているのでめったなことがない限り使えません。

モンスター倒したお金で値切りました。

っと、いうか馬車に乗る意味はあるのだろうか?
目的地・・・どこだろう?


「首都って…マルクト!?間違えたわ」
「あんたたちキムラスカの人間か?」
「いえ、わたしたちは…」

「・・・・・・(誘拐犯と拉致被害者の関係です)」




 ガイ、母上、父上、リン先生、みんな・・・。やっぱりおれ捨て駒みたいです。
首と胴体の皮膚が切れないよう頑張ります。

外はこれほど大変なのだと泣きたくなります。





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