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11. 公爵子息と理不尽な食い違い |
side ルーク超振動のせいでだるくて、指一本も動かせない。 言葉ひとつ発するのも楽じゃない。 これが、リン先生が言っていた超振動による再構築のダメージか。 本当によく体の何もかけず再構築されたものだと、五体満足なだけでも喜ぶべきだろう。 そこへ「おきてちょうだい」と言われ、しかたなしに重い目を開ける。 そこにはドアップの栗色。 なにが栗色って、全体的にだ。 髪はうっとうしいまでに長く、覗き込むようにしてみてくるのでバサリとかかってくすぐったい。 「・・ぁ・・・ぅ・・・」 声を出そうとして、それさえ上手く出来ないことに驚くが、いまので体力が消耗されたようで、再び瞼が閉じかける。 そんなおれに襲撃者の女は眉をひそめると、肩をつかんでゆすってきた。 「起きてルーク!こんなところで寝てはだめ。ここは危険なの」 場所も確認せず、屋外で寝ていることがどれだけ危ないかは分かってはいる。わかってはいるんだが、体が言うことを利かないんだ。 というよりも、このままだといまより強く揺さぶられて、完全にノックアウトだ。 この栗色は襲撃者だ。何が理由にせよ、屋敷に奇襲をかけたのだから、このまま意識を失うのは道端で倒れているよりもはるかに危険だ。 そう思ったが、彼女へ抵抗ひとつできず、重い体に息が詰る。 視界がぐるぐるとするし、伸ばしかけた手はそのまま結局地面に落ちた。 それで諦めたのか、彼女がやっと手を放してくれた。 ほっとひといきついて、億劫ながらも状況を判断しようと、唯一動く目をあける。 あけるというよりもすでに気合でこじあけたといった感じで、まるで自分の身体じゃないかのようなそれに内心舌打ちしたい気分だった。 おれたちがいるのは、一瞥した限り、白い花が広がっている幻想的な場所だ。 荒らされていない花畑の具合からいって、運がいいことにこの場所は魔物が寄り付かないようだ。 ここは聖域かなにかなのかなのだろう。 しかし今は夜。 だが火さえたければ、一夜ぐらいなら安全に過ごせるだろう。 魔物や動物の大半は夜行性で火を嫌うらしいから、行動するのは日が登ってからがいい。 その頃にはおれの体調も今よりは良くなっているはずだ。 行動を共にはしたくないが、常識はずれの襲撃者でもさすがに自分の身がかわいければ、最善な方法として朝を待つことを選ぶことだろうしな。 彼女だって、おれとの間に擬似超振動が起きて飛ばされたのは理解しているはずだ。 現在、世界で場所が移動してしまう術などそれぐらいしかない。 第七譜術師は世界でも珍しく、扱える者が極端に少ない属性。 その大概が貴族にかくまわれたりして、治癒術師として活躍しているらしい。 ナタリアもそうだったから、ガイやリン先生からは、決して互いに剣を交えたり力がぶつかりあうようなことはしてはいけないと何度も口をスッパクして言われたほどだ。 しかしそうなれば自分の性質を知らなかったり術を使わないような人間ならともかく、第七譜術を使える人間は、その性質を必ず誰かに教わっているのが当然だった。 そうでなければ譜術師としてはやっていけるはずがない。 第七譜術師は第七音素の性質を持つもの―――第七音素は、事と次第によっては超振動の規模を拡大することができ、また、第七音素同士が干渉すると、超振動に似た現象(疑似超振動という)が発生することもあるのだとか。 つまり第七音素に関しては、他の音素に比べ危険が多い未知の要素ということだ。 それが第七音素を扱う者の特徴なのだときいている。 なにせ第七音素というのは、サザンクロスというひとが発見した、惑星の地核から発生する記憶粒子を元にしたもので、その存在は歴史的にも浅く、比較的新しい物質なのだ。 惑星の記憶ということで未来をよめるようになったり、傷をいやしたり。その性質はほかの六つの音素のように「これ」といった特定の性質をみせないがために、第七音素については不明なことも多い。 発見されたのが最近であれば、それの性質を持ち合わせた人間が少ないのも当然。それが現状らしい。 不明という点でいうならば、そのひとつに超振動も含まれる。 超振動とは、同一の音素振動数を持つ音素同士が干渉し合うことで起こる、ありとあらゆる物質を分解し再構築する現象。しかしその根本的な原因はわかっていないのだ。 ちなみにガイ曰く「当然だ。このへんがお前たちのような堅物な人間たちの限界だ」と、学者たちをあざ笑っていたから何か知っているのかもしれないが…。 つまるところ、『第七譜術師』として活動している者であれば、ガイのように『現象』における原因まで知っていろとは誰もいわないが、第七譜術師同士の間には何が起きてもおかしくないということ。さらに超振動における分解と再構築という現象がおこりうることだけはきっちり理解していなかればいけない。そうでなくては自分の身さえ守れなくなってしまう。 まだ未知の部分が多い物質ゆえに、再構築の際に副作用などのなんらかの影響がおきうるのだ。 もう一度言う。 おれはダルイ。指一つ動かすのもおっくうなほど具合が悪いのである。 そう。今、おれが動けない理由はもちろん疑似超振動の反動。 まだ再構築され息をしているだけましなのだろう。 うまくおれがおれとして再構築されてよかった。そうでなければ、おれたちは今頃ここにはおらず、死んでいた。 譜歌を使って屋敷を攻撃したぐらいの第七譜術師として活動している彼女なら、この事実にわかって当然、いや、むしろそこまで判断できなくてはおかしいのだ。 現状ではそのくらいすぐにわかるだろう。 そうすればおれの回復を待つなりするなら、まずはこの場ににとどまざるをえないだろう。 あのマロンペーストとて第七譜術師には違いないのだから…。 不本意ながらも。あの女はおれとは違って、全く問題なく動いている。 それはおれにとっては恐怖でしかないのだが。 なにせファブレ邸に侵入したあげく、倒れている『おれの名』を呼んで起こすぐらいだ。彼女は、おれの立場を理解しているらしい。 けれど逃げずにここにいるということは、罪を受ける覚悟を持っていると判断するべきだ。 ならばと―――彼女がするがままにまかせることにした。 っが、しかし。 動けないおれに対し文句を言った後、何かを考えるように「私たちの間で疑似超振動が」「第七譜術師だからかくまわれていたのね」とかなんとか一人でブチブチ言っていたが、おれにはそれに突っ込む余裕も言い返す気力もない。 起き上がれないものはどうしようもない。 朝を待ってくれという意図で、視線を向ければ、一人でなんらかの結論を出した女が立ち上がる。 ようやく火種となる蒔きでも探しにいくのかと思い、ほっとして目を閉じ――― 「ほら、しゃんとたちなさい」 ん?なんだって? 「もう!これだから貴族は。我儘もいい加減にしてちょうだい!!」 「・・・・・」 おれ、耳おかしくなったのかなぁ? 女はこちらに手をのばすどころか、逆に先程までつかまれていた手を離され、地面に放り投げだされる。 軽く身体を打ちつけた痛みで、おぼろげだった意識が少しはっきりとする。 お蔭様というかなんというか、だがまだ身体は重いが微かに動けるようになった。 せめて手を貸してほしいのだが。 というか・・・。 まさか まさか、ね。 まさかとは思うけど―― い、いやそんなことあるはずはないと思うけど。 「・・・・・・・・」 現状を理解してない!?それとも、まさか…理解していていて言い切ったのか!? どっちだ!? というよりかもう、これは知っていなきゃいけない常識と、周囲の状況から判断したことで、おれが間違っているとはとうてい思えない。 つまり後者なのか!? 最悪だ。 なんて恐ろしい女なんだ。 まぁ、それぐらいでなければ、ファブレ邸を襲撃するなんてするわけない。 おれは屋敷と違って区切れのない広い夜空を見上げて、ボ〜っとしていると、隣から「はやくはやく」とわめく女がうるさくて、無理やり身体を起こすもそれ以上動くのはきつく、すぐ背後にあった木に寄りかかるようにして息をつく。 ハーっと胸に詰っていた息を吐き出したところで、「ぼさっとしないで!川の音がするからそこにそっていけば人里があるはずよ」と険しい顔でののしられた。 とりあえず。相手は襲撃者。従わなければどうなるかわからない。 わからないが・・・ 今、この女はなんと言った? まさかとは思うが、この女は今から森を抜けるつもりなのだろうか。 しかもおれが“ルーク(=キムラスカ王国第三王位継承者)”であると理解したうえで、この行動だと。 信じられないことだが、それはつまり、(ヴァン師匠にさえ相手にもされなかったほどの実力しかないようだったが)自分の腕にそうとう自信があるということか?それとも遠まわしに「あんたなんかどうでもいいし、いつでも殺せるのよ」と・・・そういうことだろうか。 おれはいま、手にお玉とフライパンしかもってきていない。 せめてつかんだ調理器具が包丁であれば闘えたかもしれないが。 おれはこの襲撃者である彼女の捨て駒かなにかになるのだろうか。 生かしておけばまぁ交渉の材料にはなるという理由かもしれないが・・・。 この状況から判断するに、女は特に先程の襲撃については謝る気も命乞いをするつもりもまったく無いということ。 命知らずなのか、自分の命はないからもうどうとでもなれと腹をくくってしまったのか。 屋敷への襲撃はやはり命がけの覚悟があったのかもしれない。だから荷物ひとつもたず武器だけを持ってきたのか。 そうでなければこの態度はありえない。 まがりなりにもおれは王位継承権を持つし、貴族としては普段の女の位(格好からするに軍人だ)よりも上の階級を持つ。 そんなおれに謝罪も無くこの態度。 つまりこの女は、元からおれを殺すことか、あそこで騒動をおこすことが目当てだったと考えられる。 そうなると、ヴァン師匠はぐるの可能性があるが、あのひとは職務放棄してあそこにいたのだから、疑われても自業自得だ。 すなわち彼女が今も堂々としているのは、すでに腹をくくっているということか。こういうのを確か自殺テロというのだと聞いたことがある。ようするに襲撃者の女にとって、おれは取引材料にもならない。生かしておく価値も無い存在ということ。そうなると彼女の目的はヴァン暗殺に見せかけた、ファブレ邸、あるいはキムラスカを陥れるためのもの。 死をすでに受け入れているから、謝罪も無くこの態度に違いない。だから生き残ってしまった今、女はきっとキムラスカが彼女の思惑どうり騒ぎになっているのかを確認するために、一度キムラスカに戻ろうとするだろう。 「おれを、殺さ、ない・・のか?…このまま、おいて、いけ・・ば、かってにく、た・・ばる、だろ」 「バカなことを言わないで!」 先の襲撃はあからさまに場所が何処でどういう状況だったかわかってやったのだろう。下手に出て謝罪する気もなければ、また「これだから何も知らないお坊ちゃんは」と。貴族がどうのと罵倒してくる。 元気だな。 それぐらいスタミナがないと、ヴァン師匠暗殺モドキとか、襲撃とか、ファブレを貶めるのも不可能なのかもしれない。 ってか、なんであいつだけ元気なの? 今回の疑似超振動ってさ、第七譜術師どうしの力の衝突で起きたんだよな? かたっぽだけに負担が来るものじゃないはず。 いろいろと―――理不尽だ。 |