[有り得ない偶然] 復活 → TOA



07. 公爵子息と使用人





  side ルーク





 ガイが違う人になって、ガイは“前”以上におれにたくさんのことを教えてくれるようになった。
わからないことも知らないことも嫌な顔せずに全部教えてくれた!
わからなかったこともわかるまで付き合ってくれて、できた時は頭を撫でて誉めてくれる。
たまに飴をくれた。

初めてのことばかりで、ちょっとくすぐったい。
でも――嬉しい。

 今のガイは怖くない。“前”のガイは優しくて唯一話し相手になってくれたけど、だけど・・・笑ってるけど、笑ってなかった。
屋敷の人たち、いや、それよりもっと恐い目をよくしていたから、いまの方がいい。
 ガイが違う人になって、屋敷のひとも変わったんだ!
メイドや使用人たちが嫌な目でおれをみてこなくなった。
これはおれが勉強を頑張ったから、皆がおれを認めてくれたんだって、ガイだけどガイじゃないあいつは言ってた。

だけど本当は知ってる。

ガイが周りの奴らにおれをおれとしてだけみろと、“前”と違うなら違うんだとそのまま別人だとうけとめろ。
と言って、使用人達を怒っていたのを。


『それでもあなた方はこの誇りあるファブレの使用人なのですか?』

『ガ、ガイ様!?』
『思い上がりも甚だしいと知りなさい』
『ですがルーク様は以前は』
『それが醜いと、見るに耐えないと言っているのです』


 ガイの言葉は、おれにはまだわからない。
むずかしい言葉たち。
使用人たちが言っている言葉はわかった。

――いやな、ここがイタイ・・・言葉だ――


胸をおさえる。

だけど、ガイが助けてくれた。

ガイの言っている言葉はむずかしくてわからなかった。
でもおれをかばってくれたのは・・・本当。
胸がポカポカあったかくなって、これが「嬉しい」っていうのを後で知った。


『あなた方のそれは弱い者をいじめて悦に入っている子供のすることです。
それで自分たちは立派に主にお仕えしていると言えるのですか?
下流貴族の家で、所詮嫡子ではないと邪魔者扱いされ、あまつさえファブレ邸に使用人として送られ。 それでもなお情を持ち、あなたたちを受け入れ、品位ある紳士淑女たらんと心をくんでいらっしゃる我らが主がのお心遣いを無碍にするのですか。 ファブレ家に仕える誇りは?人間としての矜持を持ちえないのですか。
相手が、ルーク様が、お父上に言わないのをいいことに、表面と過去ばかりにこだわって。
なぜあるがままに受け入れないのです?自分から受け入れようとは思わないのですか?
受け止めれば楽でしょうに。なにより“自分の醜さ”をこれ以上見ないですむ。
そんなにあなた方は、人の悪口や悪態ばかり言っているような自分が好きなのですか? ひとの表面ばかり見て、そこにあるものを見ないふりをしてなにも知ろうとしないことは、醜くないのでしょうか。 誇れる自分でいたいとは…思わないのですか』


 おれにはよくわらなかったけど、ガイが一生懸命みんなの心を変えようとしていたのは知ってる。


 それに、いまのガイは凄いんだ。
 母上の病気も治しちゃうし、正確には治したわけではないらしいけど、それでも母上が倒れることも減り、前より元気になったから治したってことだとおれは思う。
最近は本当に元気になったみたいで母上は、たまに勉強を見てくれるようになったんだ。
それに一緒にお茶をしたり話もよくするようになって、母上がよく笑うようになって嬉しい。
 もっと凄いのはあの無表情でいつも恐い顔ばかりしていた父上に、遠慮なく口出ししてるところ。
しかもガイは父上に頼りにされていて、よく政治とかアンケン(?)とか、国をよくするための難しい話をしている。

いつかおれは、父上もガイも手伝えるような大人になりたいな。


 ガイが今のガイになってからは、毎日出る料理がおいしくなった。
こういうおいしい料理が出来ると、母上の病もよくなるって言われて、おれでも母上の為に何かできるかとたずねたら、料理の仕方を教えてくれた。

はじめは調理道具の名前や使い方から。

ものの名前を知ることから始めなければ、なにもできないって言われた。
じゃぁ、屋敷のみんなの名前も覚えたら変わるだろうか?
あとで母上に聞いてみよう。

 それから料理というのを少しだけやらせてもらって、やているうちに野菜もほかにもいろいろ食べれるようになった。
ニンジンだけはやっぱり無理だけど。
やっぱりコックなんて専門家がいるぐらいだから料理って難しくて、はじめはぜんぜんダメダメだったけど、今は少しましになった。
そうして一生懸命自分が作って、それをだれかが食べて、おいしいと言われたときすごく嬉しかった。
いままでヴァン師匠の剣の稽古しか楽しみがなかったから、屋敷内でできる料理は面白くて嬉しくて、いつのまにかおれの趣味のひとつになった。


 ガイは本当になんでもできる。

 いつだか素振りをしているガイをみて、流れるようなその動きに見入った白光騎士団が手合わせを願い出たらしい。
おれ、みてない。むー。
はなしによるとガイが勝ったんだって。
騎士より強いなんて驚いた。
しかも騎士団長とかが剣の指導を受けているというから、おれのガイだぞと胸を張ってしまった。
笑われたけど、みんな嫌な目じゃなくて優しい目をしていたから、おれも嬉しくなって笑った。
 ガイは強いだけじゃなく物知りだ。
騎士や兵がガイに「ひょうほう」とかいうのや剣術を教わっていると聞いたときは、思わずおれも教えて!とねだった。
ガイが教えてるぐらいだからきっと面白いに違いないと、それがなにかもわからず。
でもガイは笑うでもあきれるでも怒るでもなく、いまやってる勉強が終わったらいいと、あとでなら。と、当然のように笑って頭をなでてくれた。
 “前”のガイなら、「あとでな」とか「時間が空いたらな」というそれは「教えられない」ってことだった。
笑ってるのに笑ってない目で“ガイ”は、いつも遠まわしな嘘ばかりついた。
いまのガイの「あとでな」は本当。
信じられる。
本当に今やっている範囲の勉強を終わらしたら、いつのまにか父上からの許可まで取ってくれていて、剣の訓練や戦い方というのを教えてくれた。
それで、いままでヴァン師匠が教えてくれていたのが、ただの“ごっこ遊び”だったのを知った。
 師匠の次に強いんだと思っていたおれの剣も本当は、白光騎士団の誰にもかなわないほど弱くて、それは驕りだといわれた。
はじめは「オゴリ」ってなにかわからなかったけど、ガイに聞いたら、すぐに他人に答えを求めようとするのではなく自分で調べて学んでみなと、 言われてしまい、辞書とかから探して一生懸命調べた。
それをみて愕然とした。

「おれ、なにもしらなかったんだな」
「そうですね」

 空を見上げたままこっちをみてくれないガイに、知らなかったから、思い上がったから、また昔のみんなみたいに嫌われるかと思った。
でもそれは違った。

「でもいまルーク様はまた新しく“知った”ではないですか。
そしてそれをきちんと反省することもできる。
知ろう思うことは変わろうとすること。それは悪いことではなくいいことなのですよ。
それに。いままでのはルーク様に非がないわけではないでしょうが。今の彼方は変わろうと思えば変われるのです。
必要な、最低限の知識さえ与えなければ、知りうることすら出来ない。知識があれば、間違っていることに気づき新たに知ることができます。
それをおこたり、何も教えなかったぼっちゃ…じゃなくて、クリムゾン様も以前の家庭教師も悪い。
貴方のせいだけではないということです」

 なんでか“おれだけが悪くない”って言葉が、すごく嬉しくて、涙がこぼれそうになって慌ててうつむいた。
ぐしゃりと頭をなでられた。

 ガイは凄い。ガイは優しい。

 “前”のガイも優しかったけど、今のガイはダメなことはちゃんとダメって教えてくれる。本気で怒こってくれる。
心から「おめでとう」「よくできた」ってほめてくれる。
料理のときとか手伝うと「ありがとう」といってくれる。

 こないだ荷物を落として慌てて拾っているメイドをみて、大変そうだと思って手伝ったら「ありがとう」といわれた。
すぐに、拾ったのがおれだとわかると、メイドは慌てて態度を変えようとしたけど、そうやって態度を変えられるほうがつらい。
慌ててきにすんなよ!きまぐれなんだからなと、つい強い口調で言ってしまった。
それでもメイドは嫌な顔をしなかった。
はじめはキョトンとしていたが「それはすみません。でも、拾っていただけて助かりました、ありがとうございます」メイドはくすくすと笑っていた。
おれもつられてえがおがこぼれた。
 優しい笑顔は怖くない。
だれかに頼られるのも感謝されるのも、嫌じゃない。

 だれかと言い合い以外に、今日あったこととかたわいないことを話すのも楽しい。
全部全部全部…楽しくて。
くすぐったくて。
嬉しい。

 だからおれも「たすかった」と思うときはちゃんと誰かに言おうときめた。
「ありがとう」ってちゃんと、こたえよう。

自分でも役に立ったのだと思えた。

だれかに自分を見てもらえた気がして嬉しかった。
たった五文字なのに、言われて嬉しかったから。
それにガイが言っていた。感謝の気持ちを表すのはとても大切なことだと。

 だから図書室で探している本をとってくれた執事に、すぐに去ろうとした彼をひきとめて、苦手な執事だったけど勇気を出して、一生懸命、ありがとうとつげた。
いつもプンスカしていて、おれに怒鳴ってばかだった執事だったから。
おれのことは嫌いだろうと思って話しかけられなかったけど、はじめてのありがとうもぎこちないものになっていただろうけど、ちゃんと、ちゃんと伝えたんだ。
とってくれて嬉しいって気持ちを。
笑い返したら、ものすごい驚いた顔をされた。
だけどすぐに「どういたしまして」と優しい目で返してくれた。
でもそのまま会話が続かなくて、もしかするとここでお礼を言べきじゃなかったのかもしれない。
ガイがくるまでは、使用人との会話さえ禁じられていたから、いつどんなときにどういう言葉を返せばいいのかわからない。
おれの話し方だって“以前のガイ”をまねたものばかり。それ以外は知らなかったから。
だからいまのところで「ありがとう」って言っちゃいけなかったのかと、きっとおれの態度が間違っていたのだろうと、 とっさに、いつもみたいに大きな声で怒られると思って、怖くなって慌てて視線をそらしてうつむく。
だけど、いつもバカにしたように「坊ちゃま」と言う執事が――

「いつでも何なりとお呼び下さいルーク様」と。

“おれの名”をはじめて呼んでくれた。

慌てて顔を上げると、やわらかく耳に心地よい声と同じぐらいの優しい顔をしていた。
白髪交じりの髪や眉の間から覗いたのは、おれを認めてくれた目だった。


 ガイは魔法使いだ。
屋敷中の人をあっという間に変えてしまった。

『自分を好きになってもらうには、まず自分が自分を好きになること。
そのあとは自分を好きになってもらいたい人を知ることです。
互いに互いのことを知ることは、人のつながりでもっとも大事です』

ガイの言葉。いまでも覚えてる。

うん。そのとおりだ。
おれもみんなのことを知って、みんなが大好きになった。
そうしたらいつのまにかみんなもおれに笑いかけてくれるようになった。
 だから大切なみんながもっと笑っていられるように、みんなをもっと守れるように、おれはもっとたくさんのことを“知りたい”と思った。
嫌いだった勉強は今では自分からするようになった。
わからないことは聞いたり調べた。
自分だけの意見じゃまた驕ってしまうから、違う人にも意見を聞いた。
驚いたことに、おれが思いつかないようなことを他の人たちは思いつく。
それにより、世界って本当に広いんだなって、人間は皆、“同じじゃない”んだって気付いた。
“同じ”になることなんか、本当は無理なんだって気付いた。

だってガイは“ガイ”だけど。
“ガイ”と今のガイが同じ人間には見えない。

世界は自分だけじゃなくて、ひとりひとり考え方も何もかも違うんだって“知った”。





 いつのまにか―――ヴァン師匠と居るより、ガイや屋敷のみんなと過ごす日々が楽しくて仕方がなくなっていた。

ずっとこうやって楽しい日々が続けばいいと思っていた。


 だけど。
ある日、ガイがついに爆発してしまった。


 ずっと「シュッケしたい」「シュッケしたい」と言っていただけあって、あるとき父上の執務室が炎の魔法で吹っ飛んだ。
約束の期限が大幅にずれてやがるんだこのボケがー!という口の悪い絶叫に続いて、ギャー!という父上の悲鳴とドゴッ!という激しい音がして、 父上の執務室の扉が内側から破壊された音が屋敷中に響いた。
扉を蹴り倒して出てきたガイは、相変わらず走っているのと同じ速度で優雅に歩きつつ、目を釣りあがらせてブツブツと文句を言っていた。
ちょうど母上とおれがつくったクッキーで、庭先でお茶会をしていたおれたちは、派手に響いた轟音に、思わずカップの手を止める。

「そろそろじゃないかとは思ってはいましたが。旦那さまは引き止めるのが下手ですわね」
「母上、今度の修理費はどこから出すんです?」

 屋敷の修繕費は、父上のヘソクリからでるらしい。
へそくりってなんだろう?
臍と栗?“クリ”って・・・よくガイが父上のことを「クリボウ」って言ってたから・・・もしかして、父上の臍からお金が出るのだろうか。
あとでちゃんとリン先生に聞こう。
いまはとりあえず、母上がニコニコしていたので、一緒に笑っておいた。

「ガイはやっぱり、シェリダンかベルケンドでしょうか?」
「シェリダンではないかしら?あそこは“飛行技術”の研究が盛んですから」
「そうでしたね。ガイは“空が好き”でした」
「飛行譜業が完成したら一度シェリダンにいってみましょうか。まちがいなく“いる”とおもいますよ」
「それでは“確定”じゃないですか母上」
「ふふ。だってそうじゃないかしら?」
「違いありませんね」
「せっかくですから、ガイを笑顔で見送って上げましょうルーク」
「ガイのことですから、遠の昔に準備とか終わっているのではないでしょうか?」
「ええ。そうね。旦那様が寝ているだろういまのうちに行かせた方がいいと思うわ」

 そうしてガイは、屋敷のもの全員(−父上)に見送られ去っていった。
ちょっとさびしいけど、いまは屋敷に居るのもつらくないから、おれは平気。
なによりあんなキラキラした目で譜業を見ていたガイには、ぜひ好きなことをやって笑っていてほしいと思った。





 ガイは魔法使い。
そのガイが二人だけの秘密だと言って、別れ際に無敵の魔法を教えてくれた。
それはもっと人に好かれる魔法。

・人をみるときは相手の目をまっすぐ見ること
・疑問があれば首を横に曲げる

それらを守るだけでOKだといわれた。

「あとはルーク様の普段のツンデレ具合をフルに発揮すれば大概落ちます!わたしが保証します!!」
「ほんとうかガイ!」
「ええ!もちろんです!!」
「すっげー!」

 な〜んて会話をしたが、本当はガイの言っている言葉はよくわからなかった。
つんでれってなんだろう?
結局のところ、普段のおれのままでいいって・・・最後にガイが言っていたから、つまりはそういいうことなのかもしれない。
おれはおれのままでいい。
なんか今まで以上にその言葉がすごく嬉しい。

 ガイはいつもおれの喜ぶ言葉をくれる。嬉しくなること教えてくれる。
ツンデレとかおちるって(どこに?)とか、半分以上何を言ってるのかさっぱりで、本当はだれかにそのことをききたかったけど、 二人だけの秘密と言われたから聞けなかった。

とりあえずガイが言うとおり練習してみた。
やっぱりガイは魔法使いだった。
まえよりもっとみんなとの距離が縮まった気がした。





「なぁ、みんな」

「ルーク様?」
「元気がないようですかどうかなさったんです?」
「ガイ様が去ってしまってお寂しいのですね」
「安心なさい。寂しさなんて忘れるくらいこの私が側で勉強をみてさしあげましょうルーク様」

みんな優しい。
みんなおれの大切な家族。
あったかい笑顔をくれた。


「みんな、大好き!!」


 ガイがいなくなってさびしい。
だけど今は父上も母上もリン先生も側にいる。

「ルーク様・・・」
「わたしたちもルーク様が大好きですよ」
「ありがとうございます、ルーク様」










「ところでルーク様。その“皆”の中に、ヒゲデルカは入るのですか?」
「ヒゲデルカって・・・・・・だれ?」










テレッテテン♪
ルークは『上目遣い』と『萌え』、そして『ツンデレ』を取得した!(笑)






















〜 今回のゲストでポン♪ 〜



● ルーク
・自分がレプリカであることをしらない無垢なこの頁の主人公
・知らないことが一番ダメと知り、知ることを大切にする
・リンヒットカーンのおかげで、口調や態度が改まっていく
・無自覚にツンデレに育て上げられた
・人間関係をとても大切にする
・人の感情に過敏
・たぶん相手が心から笑えばルークも笑う



■ ガイ
・“ガイ”に似た違うひと
・なんでも教えてくれる。一緒に勉強してくれる
・頑張ると頭をなぜてほめてくれる
・なぜかポケットにいつも飴が入っている
・怖いことからかばってくれる
・病気も人の心も何とかできるすごい人
・魔法使い



● “ガイ”
・前のガイ
・ルークの唯一の話し相手。だけど少し怖い



● 屋敷の人々
・前のルークと比べる
・話を聞いてくれない
・嫌な目をする
・ガイが違う人になってからは怖くない



● シュザンヌ
・クリムゾンにより、この先の未来とルークがレプリカであることを知っている
・ガイに関しては、自分達より年上で、医者で、有能であり、クリムゾンが信頼をおく相手であることぐらいしか知らない
(異世界のこととかは知らない)










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