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03. 使用人と青き血の王女 |
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side 『夢主1』 使用人暦もいくばくかの数週間目のある日のこと。 今日も今日とて、ナタリアによるファブレ邸襲撃をうけていた。 オレがきて一ヶ月もたってないが、すでに彼女の訪問は何度目だろうかと思わず首を傾げたくなるほど頻繁である。 なんで王女がそう簡単に城を抜け出せるのかはわからないが、相手はとりあえず王女。 権力は絶対です。 さすがのクリムゾンも門番の兵もいろいろさからえないことがあるようだ。 相手は王女。 たとえ偽者だろうと、今は確かに彼女は王女という地位にいるのだ。 あのダメ陛下の娘のさらに血税無駄遣いのダメ娘であろうと。 こればかりはどうしようもなく、なにをしても相手は王女という立場であることはかわらなく、オレはまがりなりにもこの屋敷のいち使用人でしかなった。 しかたなく。 ほんとうにしかたなく、オレは恭しく頭を下げたあと、ルークのもとにナタリアを案内した。 そしてその王女ナタリアの第一声が――― 「約束は思い出してくれまして!?」 で、ある。 予想はしていたが、まいどこの光景を見るたびにあまりの品のなさにあきれる。 まがりなりにも彼女は王女なのだ。 貴族のご令嬢たちだって、この屋敷のメイドだって、貧しいあばら家に住むような者でさえ、普通はみんなノックぐらいする。 たとえナタリアの方が、いまあげたどの人間達より身分が高くとも、部屋の主に挨拶するのは最低限の礼儀だ。 それをしないのは自分以外の物を下に見ているとも取れる行為であり、彼女へ教育を施したであろう家庭教師やらの素行を疑いたくなる。 立場ウンヌンをなしにしても扉をノックするか、主の不在の有無を確認したり、部屋の主へ入出許可をすべきなのは、こどもでもわかる常識であり、とりあえず“客”という立場であるナタリアには必然的にあてはまるはずだった。 それがどうだ。 品位の欠片一つなく、この世界ではやたらと肌を隠すような厚着やら重ね着が多いなか、はじらいもなくミニスカで足をさらして廊下を走り、そのままルークが勉強の一環として使用許可をされた資料室(どこぞの図書館なみの広さがある)の扉をバン!と勢いよく開け放った。 「ルーク!!こんなところにいましたのね。さがしましたわよ」 さがしてないさがしてない。 無意味に使用人達の邪魔をして欲しくなかったのと、我が物顔で屋敷中の扉を破壊するような勢いで許可なくひとつひとつ開けられるぐらないならと、オレがさっさとルークの居場所を教えたのだ。 ちなみに上記のことは以前やられた。 せっかくいい感じに常識を備え始めたルークにこんな非常識を会わせるのが嫌で、居場所を黙っていたことがあった。 そうしたらナタリアは、それはそれは勝手知ったるなんとやら〜といわんばかりに、そのまま屋敷に乗り込んでくるなり、ルークを捜して、一つ一つの扉をノックも断りもせず「ルーク!どこですの!」と、次々と開けていくのだ。 ひとつひとつ空けている間に、ルークが別の部屋、たとえばすでに覗いた後の部屋に隠れるとは考えないのか。 考えてはいないのだろう。 げんに、一度見た部屋は扉を閉めることも振り返ることもなくそのまま素通り。 突然の襲撃のようなそれには、なかにいた使用人やメイドたちが度肝を抜かれ、騒ぎを聞きつけた白光騎士団まで駆けつけてきた始末。 しかもこの屋敷の主であるクリムゾンにも謝罪はなく、あっても「ルークがいないから悪いんですわ」ときた。 思わずクリムゾンが頭痛をこらえるように目元を手で覆い、そんなナタリアの横暴な態度にオレがひそかにきれていたのを察したらしく、おびえるようにオレをみてきた。 まぁ、このくらいじゃ怒らないって。 そもそもお前の指導が悪いんじゃないから、怒ったりしないよ。だからコッチ見るなと視線を返しておいた。 とにかくひとつひとつあけていき、最後の方には自分で扉を開けていたくせに、ルークが見当たらないことにナタリアはルークの悪口を言いながらきれていた。 最終的にはルークは他人に“うつる”流行病にかかったため、離れにいるのだといい、王女であるナタリアにうつらないように気を使っていたのだと、嘘八百をオレが笑顔と心苦しいとばかりの見事な演技でもってまるめこんでお帰りいただいた。 そもそも彼女と話すとき、コチラが悪くて彼女が正しい。そう思わせ、彼女に優越感を与えるように話さなきゃ、こっちの話など聞きもせず、身勝手な行動に出るのだから頭が痛い。 あのとき本心では、なんでオレが彼女の機嫌取りをしなければいけないのだろうと――この世界にオレをひきずりこんだ(であろう)ローレライと、ああいう性格に彼女を育てたアホを呪ったものだった。 「っげっ。ナタリア」 勢いよく扉を開け放ち登場したナタリアに、分厚い本をちょうど棚から取ろうとしていたルークは顔をしかめる。 「なんですのその言葉遣いは!公爵家と恥ずかしくないのですか?」 てめぇのいままでの言動すべてが恥ずかしいわ。 「昔のルークはそんな乱暴な言葉づかいではありませんでしたわよ。 昔の貴方の方が、品位と気品がありましたのに・・・。でも大丈夫ですわ!きっと記憶が戻ればすぐに前のようになれますわ」 もどれるかよ。別人だっての。ってか、いまの言葉のどこが品位と気品があるんだ? あー・・・。頭いたい。 ナタリアの背後からしずしずついてきたオレは、相手が嫌がっているのも見もしない彼女のマシンガントークに笑顔のまま顔がひきつっていく。 なんだ?この非常識な女は? 調べ物をするとき、図書館ではしずかにしましょうとならわなかったのか? 気配を探るに、たしかにいまはルーク以外いないようだが、この資料庫の中で、よく彼女はあのキンキンした怒鳴り声を上げられるものだ。 しかも図書館とかって、普通に声が響くだろう?普通に独特な静けさというか雰囲気があってさ、騒いだらいけない気がするものだよな? 日本人だけ? どちらにせよ、この特別だと思わせる空間を放つ場所で、身勝手な声がその神聖ささえ乱していくのに頭痛を覚えた。 空気が読めないから、周りを本当の意味では見ないから―――この神聖なまでに外とはかけ離れた静謐な空気を前にしても彼女の態度は変わらないのだろう。 窓から降り注ぐ暖かい陽が神秘的にルークの髪をキラキラ輝かせていようと、棚という棚や壁の棚までを覆いつくすような圧倒的な本たちを前にしても何も感じないのは、なんと寂しいことか。 美しい紅葉を目にしても「枯れた木がどうかしたのですか。それよりルーク」っと、きっと彼女ならこういう会話になるのだろう。 しかも第一声がアレ。 いまだって、ルークが困っているのに・・・。 それに彼女が現れてから短い会話のなかで、彼女はすでにどれだけルークの心を抉っているか。 きっと気づいてさえいないのだろうが。 声を張り上げてわめく彼女に、なにか一言でも言葉を返せば、それとはまったく関係のない聞いてもいないような答えが返ってくるのはわかっている。 それは彼女にとって都合のよいことばかりしか聞いておらず、、言葉をそのままでしかとることをせず深く考えていない証。 「ちょっと、聞いてますのルーク!!」 ナタリアがわめけばわめくほど、しだいにルークは顔色を悪くしていき、しまいには下を向いてうつむいてしまった。 わきにだらりとたれた拳が強く握られ、下唇を懸命にかんで感情を抑えようとしているのが横にいるオレには見えた。 この世界に飛ばされてから、世界救世もローレライの解放も、赤毛救出も考えてさえいなかった。 そんなオレが、目の前の光景に、まだ生まれて五年しかたっていない朱色のこどもをみて、無性に目の前のハレンチ女に腹が立った。 これはルークが嫌う同情とかそういうのじゃない。 オ レ が、 むかついたのだ。 哀れだと思うと同時に痛ましく思えた――なんて、生易しい感情ではない。 むしろ、そろそろオレはキレるべきか。 それともいつだかのように“貧血で倒れた”と称して、またこのお嬢さんの意識を刈り取るべきだろうか。 とりあえずこの止まる気配のないマシンガントークだけはやめさせ、立ち尽くすままの二人をどこかに移動させるべきかと思考を動かそうとしたとき 「昔のルーク、ルーク。いつもそれだ」 パシン!と音がして、振り向けば、ルークが己の肩を掴むナタリアの手を払っていた。 「ル、ルーク?」 「会えばいつも約束はおもいだしたかって。昔のルークはどうだったとか。比べてばかり。ナタリアはいつもそればっかだ!! 幼馴染みだっていうけど、なんでも相談しろって言うけど。だったらオレの話を聞けよ! 自分の意見ばっか押し付けて!まともに聞いてくれたことなんか一度だってないじゃないか!」 ルークの大声が・・・図書室にこだました。 泣きそうなその訴えは、二人の背後で背景と化していたオレの心にも響いた。 顔をあげたルークの目にはうっすらと涙が浮かんでいたが、それがこぼれることはなく、怒りに頬をそめながらもキッと、きつく目の前のナタリアを睨みつける。 まさかルークが反論してくるとは思わなかったのか、睨まれたナタリアが一瞬戸惑い、たたかれた手は行き場を失い宙を漂う。 「“前”なんか知らない!オレはオレだ!!」 『それ』は最近オレがガイに憑依したことで、この屋敷の住人達を改革してきたからこそルークの口からでた―――本音だったのだろう。 オレはたしかに“ガイ”だけど。オレはオレなので、昔の(害虫の)ような“ガイ”と同一視しないでほしい。 ルークもきっと同じ思いを、いや、もっとつらい思いを五年ものあいだ味わってきた。 やっと“前”と比べずに【自分自身】を見てくれる人たちができたと、嬉しそうに『ともだち』を紹介しつつルークはオレに話してくれたことがある。 言葉で言われなくとも嫌悪などの負の感情は、目を見ればわかる。 それぐらい心の動きに敏感なルークだからこそ、だれよりも自分に向けられた感情にさとい。 そのせいかオレと出会った当初のルークは、なにに対しても諦め癖がついていた。 なにを言っても誰も聞いてはくれない。だれも受け入れてはくれない。だれも【今の自分】を必要としていないから。 そう思ってきたルークは、いつしか期待することをやめてしまったようだった。 その根性を気に食わないという理由だけで、オレがオレ好みに叩き変えた。 自分の意思を言ってもいいのだと、できうる限りのことは話を聞き、こわれたことはむげにはせずきちんと面と向かって向き合った。 オレが「言葉は互いに分かり合うためにあるもの」と説き伏せ、言いたいことがあるなら言葉で言えとしこみ、できないことをできないで諦めず、できるようにするための別の道もまたあるのだということを教えた。 ルークは変わった。 いや、本来の明るさを取り戻したといった方がいいのだろう。 さっきのは、だからこそ出たルークの本音。 自分を自分としてみてくれと――― ナタリアにだけむけられたわけではなく、いままでは言うことさえできず、あきらめるしかなかったルークの、世界そのものに対する必死の訴えだった。 だが 「いいえ。ルークはルークですわ!いつか必ず約束を思い出してくださいませね」 ナタリアには通じなかった。 彼女は目をキラキラと潤ませ(なぜうるんでいるのかオレには理解できなかった)、ルークの手をつかむとその手を両手で包み込むようにして、「記憶が戻らず不安なのはわかりますわ。でも大丈夫。私がついていますかならず戻りますわ!」と懸命に励ましている。 本人からしてみたらそれは励ましでもなく、『今の自分』を完全に拒否されたことになるのだが・・・。 もちろんナタリアがそんなことをしるよしもなく、相変わらず彼女は「自分がいるから思いだせるはず」と疑いもしない。 彼女自身は『いいこと』を言って、『いいこと』をしているつもりなのだから、よけいたちが悪い。 これが本当に記憶喪失だったとしても、無理やり思い出させるのって負担がかかってよくないって……きいたことあるオレの知識は、間違いだったのだろうか。 思わず医者として学んでいた前世の学生時代を振り返る。 心理学も少しは手を出しておくべきだったかと、いまさら思った。 「また“記憶”かよ」 「またって。これはとても重要なことですのよ」 「ナタリアにとって“重要”なだけだろ?」 「ルーク?どうしたんですの?ここ最近の貴方は少し変ですわよ」 最近って・・・やっぱりオレのせいだよな。 でも、もっと全体的に物を見てから言ってほしいものだ。 オレの服や態度が“ガイ”とはまったく違うことに、彼女から何もツッコミがないのってなんでだろうって、実は結構気になってたんだよな。 まさか…ただのイメチェンだとか思ってないよな。 そもそもオレだけでなく、メイドさんたちや使用人やルークたちの態度の変化に気づいてないのだろうか? それはさすがに、ちょっと周りを気にしなさすぎると思うぞ。 いまのオレは使用人なので、これといって二人の会話に茶々入れる気はないけどさ。 それにルークはとても大切なことを話している。 邪魔はしちゃいけない。 まぁ、ナタリアしだいだけど。 「記憶がなくたって。前は向ける! そんなの・・・もうどうでもいいだろ。オレはそんなことよりもっと・・・」 「まぁ、ルーク。なんてことを言うんですの!? 『そんなの』なんて軽く流せるものではありませんわ。でも大丈夫。かならず思い出しますわ!きっとすぐに前のルークに」 「お言葉ですがナタリア殿下」 ハイ。タイムアウトー。 退場のお時間です。 あまりの彼女の考えなしの言葉の数々に、オレはニッコリと笑って、彼女がすべてを言い切る前に、言葉を遮るようにして口を出す。 「では、貴女様はその『約束』に報いるべく何をなさっているので?」 ゲームしてたときから言いたかったんだよねコレ。 使用人らしく下手に出てたずねれば、なにを馬鹿なことをきくの?とばかりに、上から目線で、いままで彼女がしてきたらしい幼稚な政治論をのべてきた。 今回は、貧血という手段を使いたくとも手刀が届かない位置に彼女がいたため、思わずすぐそばのテーブル上においてあった資料をなげつけそうになってしまった。 そこで彼女は“ザンザスだったオレの部下”ではないことを思い出して、笑顔で感情を抑え込むと同時に、伸ばしかけた手に入った力をセーブすることに力を注ぐ。 復活世界のXANXASは、口数少なくよく物を投げていたが、オレは口数が多い。 だが一度でもキャラを模倣してしまえばあまりに違和感がなく、いつのまにか「カス」と言うのも、物を投げるのもオレの一部となっていた。 いわゆる癖である。 ほぼ無意識の条件反射であるそれを気合いだけで意識的に押さえ込み―― 「その福祉施設を建てたお金はどこからでているかご存知で?」 「どこってそんなものはお父様が民からもらっている・・・」 ハイ、今ので頭の中身が十分わかりました。 オレは彼女の言葉は途中で聞くのを放棄した。 もらってるんじゃない。巻き上げてるんだ。 正確には、てめぇらは預かって管理してる側だ。その分しっかりと民に応えなきゃいけないんだ。 ああ、だけどこんな風な認識しかしてない王族や貴族って、ファンタジーよりもファンタジーで、実際それを目にするとクレイジーだ。 貴様は人様の汗水苦労の結晶たる血税をなんだと思ってやがる。と、微妙に殺気がもれた。 なんて傲慢。 そのとんちんかんな価値観は、幼いから許されるという範囲をとうに超えている。 彼女によって披露された政の内容は 「わたくしはこの前、〜〜の孤児院に慰問に行きましたの。そこで〜〜」 とかなんとか。 胸張って言われた。 立場を考えろよ本当にもう。 国のトップが訪問なんてしてきた日にゃぁ、その歓迎をする。そうなれば金が余計に持っていかれるだけじゃねーかよ。 王族の慰問ごときで腹はふくれねぇ。 「慰問が腹の足しになるかよ」 「え?なんですの?」 「なんでもありません。お続けになってください」 しかも福祉関係の支援って、民の血税を自分の金だとでも勘違いしているのか、金だして作れと言っただけだろ、それ。 その土地の事情さえ知らず、お前がその施設の設計や工事に携わったわけでも施設の雇用にかかわったわけでもなく、今となっては建物の維持だけで余計な金を食っているところもあるだろうし、華美な装飾の建物を慰問のさいに見て、それで満足して、その綺麗さの内側に見向きもしない。 裏で子供の売買をしていたり、こどもにまともな食事がいきわたっているかさえも知らないで・・・。 本当に金を投げ出してるだけで、それで慈善活動に貢献しているというのだから頭が痛い。 やるからにはきっちり最後まで面倒見れよと言いたい。 そもそも王族というのは、下々の暮らしをよくするかわりに、彼らからお金を貰っておまんまを食べさせてもらっている存在だ。 けっして『いい血』だからと、贅沢をゆるされているわけではない。 贅沢をしていいのは、きちんと民の声を聞いた者だけだ。 民におまんま食わせてもらっている分際で、階級や住んでいる場所でひとを見下すのような貴族や王族なんてものは、指導者や君臨者であると名乗る資格はないとオレは思う。 つまりナタリアが常日頃から連呼する「青き血」は、しょせん政治をする上では必要ないのだ。 真に求められるのは、血筋や身体の色ではなく、政治手腕なのだから。 ―――っと、現代日本育ちゆえに思ってしまうオレだった。 【復活】のボンゴレや、【NARUTO】の血継限界のように血に奥儀や術が宿ってしまうなら、その血を絶やすことは許されない。 だが、この世界において血筋などいざとなれば断ち切っても悔恨残さず新たな時代を切り開くことも可能なのだ。 その最たるものがここにいる存在であり、原作の言葉使うなら「血がつながっていなくとも」と言い切るだけあり、それに応えた統治力をみせるべきなのだ。 その「血のつながりがなくとも」こそ、国を、時代を、変えることができるはずなのだ。 それこそまさにキムラスカ王家の特徴を持たないナタリアにしかできないというのに・・・。 彼女はなにをしているのだろう? 違うからこそ。 けれど“今”はまだ、れっきとした王族と認められているのだから。 それもこの世界風に言うのなら、『予言によって生来の王女より王女として認められた』という覆せない肩書がある。 これほど認められているというのに(性格的にオレは認めないけど)。 同じ赤色でないからとそれだけで卑屈になっているのもどうだろう。 予言に認められた――それは王族でありながら新しい存在を世界が認めたと言うことだろう? 新しい改革案を出すことを、国を変えることを天によって許されているというのに。 彼女は自分の毛色を不満に思っても正面からそれにぶつかっていこうともせず、違うことを嘆き、同じである者に憎しみを向けた。 彼女を娘と呼んでいた王でさえ、いくらでも真実を調べられた。 真実はいつでも傍にあったのに。 変わるためのきっかけなどいくらでもあったのに。 ルークしかり、ナタリアもまた自分の意思でその場にたたされたわけではない。 彼らが本物であれと。第三者によって据え置けられ、本物を演じろと望んだのは周囲だ。 それを欺瞞だ詐欺だ騙したなどと言い、はたや罪人として彼らの生死をどうこうする資格は・・・ない。 ゲームという原作をオレは知っている。 すべてに違和感を与えさせられ、残ったのは消化不良の苛立ちだけ。 しょせんあの物語を『ゲームだから』と、その言葉ひとつで片付けるには、今目の前にあるのは生々しすぎる現実で。 ここではあのゲームは「未来」にあたる。 ゆえに今のキムラスカの上層部の状況だけを見ていると、このままではあの「未来」と同等か、よりひどい未来しか考え付かない。 「ふふ。随分とおもしろいお話をなさいますねナタリア様は。 そうですねあなたの外交的手腕などもっとお聞きしたいので、場所を移動なさいませんか? ルーク様もすこし休憩にいたしましょう。 今、庭の方にお茶の準備をさせますので、ナタリア様もルーク様も話の続きは後ほどと言うことで休戦・・・おっと失礼。休憩にいたしましょう」 もういい。 もういいよナアリア。もう君のそんな戯言は聞きたくない。 オレがルークとナタリアの仲裁にはいるべく、一歩前に進み出て、ナタリアを外へと促す。 視線だけで一瞥すれば、まだ少し顔色の悪いルークだったがホッとしたように息をつくのが見受けられた。 お疲れ様ですルーク様。 ルークはなんだか物凄く疲れたような表情をしつつも(その様がなぜかクリムゾンに似ていたとかは言うまい)、オレにありがとうと唇だけで語った。 本当はこのまま屋敷の外に追い出したいけど、残念ながら権力には叶いません。 なにぶん今現在のオレのテリトリーは、このファブレ邸だけなのだからどうしようもない。 追い出したせいで、この屋敷の者に被害が及んでは元も子もない。 むしろ何度追い出そうと戻ってきて、その都度、強引に突破されていたるところに被害が出るよりましだ。 お茶をしようと用意したテーブルに丁度ついたところだったルークが、オレから放たれる黒いものに本能で気付いたのかビクリと肩を揺らした。 そのままナタリアとオレをオロオロと交互にみやる。 安心しろ。とってくいやしない。 オレはため息ひとつついて、はしたなくミニスカでうろつく王女のために椅子を引く。 そのまま彼女は腰を下ろしたが、ルークは気まずそうに立ったまま。 そんなルークには目も向けず、なぜかナタリアはオレをみる。 さも当然とばかりに「なぜガイも座らないの?」と言って来る相手に、オレではなくお前の横で固まっているルークに着席の許可をしてやれよと、さらに深いため息が漏れた。 再度ルークが、心配そうにオレをみてくる。 それに大丈夫だと笑い返したが、苦笑になっていたのはしかたないだろう。 それにしてもですねレディー。 イタリア女性は足を組まないんですよ。 それもこどもだからって足をブラブラさせるなんてよけいダメ。 それは男を誘うポーズなんですよお嬢様。 本当に品がない。 「ルーク様、おかけください」 「あ、うん。ありが・・・「ちょっとルーク!」・・・!?」 「あなたガイになにをやらせているのです!」 座る許可を出そうとしない階級トップナタリア王女。 謁見の間で、王がいつまでたっても顔を上げろと言わず、どうしたらいいかわからなくなた客はそのまま空気になるしかない――まさしく"あれ"と同じ状態だ。 このままでは拉致が明かないと、しかたないのでオレがルークに座るよう促し、椅子を引いたところで、今度は場違いな罵声を浴びせられた。 「ガイはあなたの幼馴染みで親友でしょう!? なに使用人のようなことをさせているのです! ガイに謝りなさいルーク!」 「はぁ?」 「・・・・・・」 いや。それこそなに?だよ。 何を勘違いしてるのか知らないけど、オレも“ガイ”も使用人だからね。 本来なら一緒にだべるとか一緒になにかするとか有り得ないから。 どうでもいいけどさっさと座れよ。 なんでせっかく座らせたのに、怒るためにわざわざ椅子をひっくり返して立ち上がる? 変な時に変な場所に疑問なんぞ持たずに、使用人の首を切らせないためにも使用人のいうことはしっかりきいて大人しくしていろ。 敬ってやっている態度をとるのもばかばかしく思えてくる前にさ。 やれやれだ。 ファンタジー世界の貴族というのは、本当にファンタジーな思考回路しかもっていなくてびっくりだ。 品位のかけらうんぬん以前に、自分の欲にばっかり忠実なのが、物語の悪い貴族。まんまだな。 このファブレ邸も一時そうだったし、なによりナタリアは視野が狭くて心も狭い。 ちょっとしたことでいちいち怒鳴るなんて。 あまりの甲高さと音量に、耳がおかしくなりそうだ。 そもそも。ナタリアが怒ることじたいが、今の現状では間違っているんだけどな。 だれかハッキリ言ってやれよ。 って、言えるのオレだけか!? あ〜。なら言うか。 スクアーロやキャバッローネのディーノやベルや綱吉みたいに、物心つく前からとか十年以上一緒にいるような連中だったら、年下じゃなくともかまってやろうという気にはなる。 そしえ守備範囲内の“年下”であれば、面倒はオレがしっかり見なきゃいけない・・・とか、思えるんだけど。 はぁ〜。いまから調教なんて無理だろこれは。 「残念がらナタリア殿下。 私はこのお屋敷にお使えさせていただいているいち使用人にすぎません。 謝罪の必要などないのですよ。 これが私の仕事です」 「そんなのまたルークのわがままでしょう。 ダメよガイ、ルークをあまやかしては」 いや・・・だから、面倒見るのがオレの仕事なわけで。 「記憶を失っているからって、そんなわがままは許されなくてよ。 ルークにはしっかり態度を改めさせなくては…。それはあなたもわかっているでしょガイ」 ってか、てめぇが一番我侭なんだよ。 ねぇ、人の話し聞いてる? ってか、どうしてそこでその話を持ち出す!? どうしてそういう話になる!? ルークの気持ちも知らず。 みろ!すっかり青い顔をしてうつむいてしまってるではないか。 本当にこれが一国の姫か? 頭の頭痛が増した。 「たとえ幼馴染みであろうとも。 ここは人目もございます。 殿下がこの屋敷の主であるルーク様をたかだか使用人でしかない私より下にあつかわれては、ファブレに使えるものに示しがつきません。 そもそもファブレ邸では使用人のほうが地位が高いのだと、噂が流れてしまうこともあります。 そうなってしまえばファブレ家、いえキムラスカの王族そのものがなめられてしまいます」 「だったら噂を流した者を処罰すればいいことですわ」 どこのマリー・アントワ○ットだよ。 思わずその言葉にオレは目を点にする。 ルークなんか青い顔をさらに青くさせて、不愉快そうに眉をしかめている。 まるで「パンが なければお菓子を食べればいいじゃない」と同じノリだ。 ああ、でも史上において、その発言記録とマリー・アントワ○ットの時代とはずれているから、正しくは、彼女が言った発言じゃないんだよな…。 まぁ、安易に言ってくっるのは間違てない。 よく軽々とこのお嬢様は言えるよな「処罰」だってさ。 その処罰って解雇?それとも死罪? どちらにせよ王族の側で働いていた者が首を切られたら、なにかをしたとおもわれるのは当然で、再就職先などないだろうに。 ましてやここは国の実質NO.2の一族の屋敷。 メイドや使用人は下級とはいえみんな貴族の出の者たちばかりであり、家督を継がない令嬢やご子息達ばかりが奉公や、貴族の見習いとしてあがっている。 この屋敷を追い出された彼らに待ち受けるのは、一族からの失望と、一族の暴落への道。 それくらいファブレの名でさえ強力な力をもつのだ。 わかってないよな・・たぶん。 「たしかに人をいろんな意味で、消すのはたやすいでしょう」 残した証拠を消すにしても。殺すにしても。 「ですが、噂を消すのはどうするつもりですか? そちらの方が、人を消すよりはるかに難しいと思われますが。そこはいかがなさるので」 「もうさっきからなんですのガイ。今日のあなたはいつものガイらしくないですわ」 「いつもの…ねぇ」 いったいぜんたい謎だ。いまのいままで、彼女はオレがガイに成り代わったのに気付いていなかったのだろうか。一ミクロンも疑問や違和感はなかったのだろうか。 もう十回以上は顔合わせてるんだけどなぁ。 まぁ、オレのことはいい。 これ以上深く考えたらきれる。 オレがきれたら、ルークやクリムゾンに泣かれる。 それは面倒だからだめだ。 とりあえず今は、“こっち”の話が先だな。 まぁ、答えなんか彼女を見れば予測できるけどな。 「殿下。では、もし噂が広がった場合。 すでに広がってしまった噂の対処は?」 「そんなものすぐに嘘だと分かりますわ。 みんなすぐにくだらない戯言だと忘れるでしょう」 ないない。そんな都合のいいこと。 だって 「本当にそうでしょうか? 噂は七十五日と申しますし。それにどれほど優秀な侍女や騎士達でさえひとはひとです」 「どういうことですの?」 言葉遣い以外に品位も知性もないお姫様だなぁ。 思考する気もないのか。 本当に彼女は、考えてものを発言することなどあるのだろうか? まだ前世の【復活世界】でオレがザンザスだったころに知り合った、まだ10歳にも満ちていなかったときのユニのう方が、品格というか、ボスとしての威厳があったぞ。 「どうもこうもありません。 煙のないところに火はたたない。ひとの口に戸はできないと古来より申します」 ま。ひとってそういうもんだよな。 「そして彼らが言わずとも彼らの言動をつなぎ合わせ、別の誰かが結論に到達し噂として流すかも知れません」 「わたくしはただ…ガイに座りなさいと言っただけで。なぜそれがこんな話になるのです。 なにがいいたのですガイは? はっきりおしゃって」 はっきり言わないとわからないほど遠まわしには話してないぞオレ。 なにげなくルークへ視線を向けたら、椅子に座ったまましきりに首を傾げてはナタリアをみている。 自分の認識が間違っているのか悩み始めたようだ。 いえいえ。あなたの思っていることは多分あっていますよルーク様。 「貴女は己のいる地位を良く理解すべきだ。と、言っているのですよ。 その言動ひとつが国を動かすことをもっとしっかり知るべきなのです。 それがあなたがいる地位。 容易に人前で軽々しく発言をしたり、動いてはなりませんよ『王女殿下』。 現に貴女の今の行動は、使用人であるガイをつけあがらせ、召使達のルーク様の態度へとつながりかねます。 あなたがた王族や貴族には相応のお立場がございます。 そういった“立場”とは、私どもにもあり、各々が立場に応じた役割を担います。 私ども弱い立場の者が貴女方の地位の下にいること、くれぐれもお忘れなきよう、立場とは何かを真剣にお考え下さいませ」 なぜかそのあと顔を真っ赤にして、キーキー文句を言いながらナタリアは走った帰って行ったが、いったいなんだったのだろう。 「ガイぃ…」 「どうかなさいましたかルーク様」 「なんかオレ疲れた」 「わたしもです」 なんだか未知の生物か宇宙人と会話していたような気分だった。 こんなのがこのまま大人になったりして、ルークと旅に出たら……原作が脳裏によぎった。 意味不明だ。 オレの翻訳機能が劣化していておかしいのだとしても、あれはちょっとないなと思った日だった。 ――ああ、そうか。 キムラスカの『青き血』っていうのは、きっとエイリアンのことなんだろう。 たしかグレイの血は、緑か青色だ。 納得。 青い血が高貴なものをさすことぐらいは知っている でも今回はさ、エイリアンの血といった方がすっきりくるんだからどうしようもない 〜 今回のゲストでポン♪ 〜 ■ 使用人なガイ ・すっかり『ガイ』と呼ばれるのに慣れた夢主 ・ルークの世話係兼幼馴染みではなく、クリムゾン付き使用人 ・クリムゾン以外には常に使用人モードで応対する、みんな頼りにされている"できる人" ・一人称が「わたし」になった付き従うひと ・人が見ている前では、しっかり言葉づかいも態度も直します ・怒っているときに笑顔になる人 ・以前、王女らしきひとを手刀で昏倒させ「貧血」と偽って城へ送り返した経験者 ・血税やら金の使い道が気になってしょうがない、元ワーカーホリック気味の暗殺部隊ボス ● ルーク・フォン・ファブレ ・自身がレプリカであることを知らない朱毛の公爵子息 ・ナタリアとガイ・セシルからは幼馴染認定されている(本人はその事実を疑問に思っている) ・夢主が来たことで、自分の意見を少し言うようになった ・教えれば理解できる、ただいま成長真っ最中のお子様 ● ナタリア・ルツ・キムラスカ=ランバルディア ・突撃直進、猪突猛進、破天荒王女 ・公私が常に混ざってよくわからない矛盾した発言を繰り返すハイテンション少女 ・どこかの世界のどこかにいるかもしれないマリー・アントワ○ットのごとき... ・「青い血(高貴なるもの)」が、だんだん「エイリアンの血」といっているように思えてならない原因をつくったひと(現在進行形) |