メイプルズ・旧
〜鹿はひとになった!?〜



03.虎の愛する家族とその十年間の件について

 


 side [有得] 前世鹿な 夢主1





 はい、どぉ〜も。
鏑木家双子の、男の方のメイプルこと元鹿です。
あ、わかりづらいよな。うん。ごめんねぇ。
鏑木椛(カブラギモミジ)です。

 生まれてから十年ぐらいがあっという間にたちました。
相変わらず二足歩行になれず、相変わらず喉の使い方がいまいちで、あちこち転んでばかりで、あげく口下手とかしましたオレです。

 ――とはいえ、中身はオレなので、心の中ではおしゃべりがとまりません。
無口でドじっこだからって、だまされちゃだめですよ☆
実は表のオレとは、性格は真逆ですから。
だって面白いこと大好きだよ。
おしゃべりすきだよ。
元鹿だから、外で駆け回るの好きだよ。
ね?他人から見るオレとは真逆でしょ。

 そうそう。あと、恐ろしい?いや面白いだな。生きなおして数年、面白いことが判明しました。
『剣』っていうのを触ってみたことがあります。一度振ったら、あら不思議☆なんと前世の記憶が戻ってきました!しかもその時の経験値つき!!ビックリだよね〜。
おかげで考えるよりも先に、身体を動かせそうなんです。
つまるところ、前世で経験したことと同じことをすると、戻ってきちゃうらしいですよ記憶と経験が。
まぁ、やだ。なんてオレチート!?な、そんな状況です。
でもだったら“人間らしさ”も少しは思い出せばいいのに、それは生前では息を吸うのと同じようにやっていたせいか、今もまだ経験としては戻ってこず、相変わらず鹿の名残を残した人間らしくない人間をやっています。
 もちろん“そのこと”をお父さんにもお母さんにも楓ちゃんにも教えてません。
だってこの能力はNEXT能力じゃないし、オレの転生特典らしいんだもんそれ。説明めんどいよ〜。
ヒーローじゃあるまいし、そうそう前世のようなビックリ体験はないと思うしね。

 ――な〜んてのんきに思っていたら。
なんと、お父さんがヒーローでした。
うわぉ。びっくり。



 お父さんの秘密を知ったのは、オレと楓ちゃんが6歳のとき。小学一年生だった。

 お父さんがオレたちになにか隠し事をしているのは知ってた。もちろん楓ちゃんも知ってたよ。だってお父さんアカラサマなんだもん。
でも絶対言わないで、かかえこむのが、お父さんなんです。
 でもねぇ〜、オレたちにも限界があるというもの。
「お父さん楓のこと嫌い?」と楓ちゃんが泣きながら訴え、「オレたちにも相談してよ」とオレがとどめを刺すようにだきついて、さぁ尋問訊問〜。
二人がかりでしばらく泣いてみたり抱き着いてしがみついて、絶対話してくれるまで側をはなれないからと、トイレにまでついていって頑張った。
やたらと緊急出社が多くて、オレたちをかまってくれないのはなんで!?他のうちのサラリーマンしてるお父さんたちはそんなことないのに!っ「寂しいよ」と、問い詰めたんです。
そうしたらお母さんも笑って、お父さんに観念するよう後押ししてくれたので、ついにお父さんが暴露しました。

「楓、椛。実はな俺はヒーローなんだ。いままでかまってやれなかったのもそのためで…ってぇ!?ちょ、もみじぃー!!!!?」

 お父さんにそう告白されたその瞬間、オレは歓喜極まってって、思わずそのままの勢いで家を飛び出した。
靴忘れました。
背後でお父さんの「待って!」という悲鳴じみた声が聞こえたけど、そんなゆとりはオレにはなかった。

 走って走って、前世とは比べ物にならない貧弱な人間の足ででも頑張って走った。
なんてもどかしい。
“ヤックル”だったときなら、こんなのきっとひとかけなのに。
何度か転びそうになったけど、今回は転んでる暇はなかったので、ふんばった。
 そうして棚にタックルするようないきおいで、近所のお店に駆け込んだ。
店に入るなり、すぐさま商品棚に並んでいた最後の一枚を手に取って、ポケットにいつも入れていたお小遣いをだす。

「これ、くださー!」

 しまった。最後に「い」が言えなかった。
だけどお店のおばちゃんは、理解してくれたらしい。
あいよ!と笑顔でおばちゃんがお金を受け取り手渡してくれたのは―――【ワイルドタイガー】のヒーローカード。
なんとあと一枚だった!

 よかったぁ。学校帰りちらっとみたとき、五枚しかなかったから慌てちゃった。
きっと売れ筋がいいんだね!それとも入荷数がすくなかな?
ワイルドタイガーの人気はどうだったかな?テレビあんまみないからわかんなかったや。

 それにしても本当に良かった。
ここでワイルドタイガーカードを売っていたのも、残りの枚数が少なかったことも思い出せて。
なによりお父さんが早く白状してくれたおかげで、カードがなくなってなげくことをしないですんだのが一番よかったことだ。

 元々ヒーローのなかでは、オレはワイルドタイガー好きだった。
虎といえば前世で鹿科の生物だったオレが食われる側で、虎は捕食者であるのだとしても…“動物を模す”っていうのがいいよね。

「はぁはぁ。も、モミジ!!」
「(買えた)よ!」
「?!」

 おばちゃんからカードとおつりを受け取ったら、ちょうどいいタイミングでお父さんがきた。
息を切らせて、オレの靴を片手に、あわてたように追いかけてきたお父さんに、ギリギリで買えたその戦利品をかかげてみせる。
 あなたがワイルドタイガーなら遠慮はいりません。さぁさ、あの素敵なカモシカのごとき足でなしとげた武勇伝を語りなさい!オレに貴方のヒーロ談を聞かせてください!お母さんじゃないけどヒーローってかっこいいよね!大好きです!ぜひ今までの武勇伝を教えてほしい!!――と、口には出さずひたすら期待のこもった目で訴えれば、なんだかお父さんは「おまえ、そのためにお前家飛び出したの!?」と拍子抜けしたように肩を落とした。

「はぁ〜。てっきり“だましてた”とか思ってショックを受けたと思ったよ俺ぇ」

 そうと言われて首をかしげる。
その発想はなかったな。
だってワイルドタイガーだよ。タ・イ・ガ・ー!!
オレの前世が鹿科の生物なので、動物って言われるとつい親近感がわくんだ。
お父さんのヒーロー名が、鹿じゃなくて虎なのは残念だけど、あのカモシカのような肉体は大好きだよ。
だからむかしからオレはタイガーファンだって……あれ?お父さんに言ったことあったけ?
楓ちゃんとお母さんはしってるんだけどなぁ。
まぁ、いっか。

 結局そのあとは、「とりあえずよかった〜」と息を吐き出すお父さんに頭をなでられ、靴をちゃんと履いて、肩車をしてもらって帰った。

 家に帰ると、さっそく楓ちゃんに最後の一枚だったカードを見せる。
「そんなことだろうと思った」と、お父さんと同じようにがっくりするでもなく逆に「私の分は」とたずねられた。
さすがはオレの姉。言葉が何もなくてもしっかり通じたよ。

 でもね、一枚だったんだよ。
なかったんだ。
ごめんね。

 楓ちゃんには正直に、「やっぱり、最後で、一枚だった」と告げると、舌打して「入荷を待つしかないわね」と難しい顔をした。
ワイルドタイガーは、自分の父親なんだからカードは欲しい。だけどカードは一枚。
ならばと、オレと楓ちゃんは同じ部屋だし、部屋に飾ろうってことで落ち着いた。

 そんな暴露事件があってからは、オレと楓ちゃんは、お父さんを待つのはやめた。
かわりに応援することにした。
呼び出されてばかりであんまり一緒にいれないお父さんとは、家族でしっかり話し合ったからもうつらくないよ。
家族仲は良好だったよ。



 それからしばらくして、お母さんが体調を崩し、大きな病院に入院することになった。
うちにはお金がなくて、大変だった。
でもお父さんにはもう隠し事禁止って約束させていたから、家が大変なんだっていうのはオレも楓ちゃんもちゃんと教わった。
お父さんは仕事の人とか友達とかに助けてもらい、オレと楓ちゃんはおじさんとおばあちゃんにお願いして、いろんな人に助けてもらった。

 運が良かったのはオレがNEXTであり、“おすそ分け能力”があったこと。
お母さんの手を握って、たくさん話をすれば、オレの能力がお母さんに元気を与えるらしく少しは支えになったみたい。
 そうしてるうちに、オレの能力のおかげらしく、お母さんは無事に病院を退院した。
元気になったけど、心配だからっておばあちゃんの家で養生することになった。
オリエンタルタウンは日本の田舎町みたいなところだから、自然は多いし、養生にはとてもむいていた。
オレと楓ちゃんもお父さんと離れてお母さんと一緒にオリエンタルタウンにいくことになった。
離れ離れだ。だけどさびしくないよ。
お父さんは毎日電話をくれるし、必ず一,二カ月に一度は実際に会うと言う約束をしていたから大丈夫。



 一年後。
お母さんは、みんなの見守るなか、ねむるようにいってしまった。
お父さんは間に合ったよ。
たまたま休暇で、家族で出かけた次の日だったから。
出かけたことで、いつもよりオレの“幸せ数値”は高かったみたい。
ウキウキした幸せな気持ちのままずっとお母さんとつないで手が最後まで温かくて、能力が発動しっぱなしだった。

 お母さんが死んじゃったとき、オレの能力が“おすそ分け”だから、お母さんは今日まで保ったのだと――医者や家族は言う。

 そのあとは、みんなで泣いた。
お父さんとお母さんの友人だった牛丼のおっさん…えーっとなんて名前だったかな?アナスタシア?いやアントニオだっけ?その人が挨拶に来て、大人たちは酒盛りをしていた。


 お母さんが死んじゃった。さびしい。でもみんなで前を向くって決めた。
結局お父さんはヒーローとして復帰するため、シュテルンビルトにもどっていった。
オレと楓ちゃんは、このままオリエンタルタウンで、おばあちゃんと暮らすこととなった。
それでも毎日の電話と、一ヶ月に一度会いに行くという約束だけは守ろうってことになった。





 ――そうしてオレと楓ちゃんが十歳になる少し前。
お父さんのいた会社Top MaGからヒーロー事業部が閉鎖となることになり、お父さんはアポロンメディアっていう会社に移動になった。










治ることはないだろうけど、死ぬなら家で死にたい。それで友恵さんは退院したと――そういう捏造設定です。
夢主には決して人を生かす力があったわけではありません。
そうして原作の時代へ〜








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