|
14.結界の中で、出会う |
|
あの女騎士に観衆の面前で張り付けにされた屈辱なんてなんのその。 オレの気分は予想以上に上がりつづけ、はっきりいってここのところ浮かれていた。 何があったかと言えば、この命をささげてもよいと思える出逢いをしたことだろうか。 それは貴族の騎士として街に繰り出し、仲間のせいで、とある女騎士に矢でいられはりつけにされた翌日のこと。 「帝都に来たというのにあの方々に挨拶もないとは何事だ!」と名も知らぬ黒衣の騎士が怒りもあらわに、真夜中俺の部屋に乗り込んできたのが始まり。 そのまま呆然としている間にひきづられるがままになっていて。 黒衣の騎士に案内(?)されて辿り着いた先は、王城のとある一室で。 そこにいたのは二人の青年。 そのうちの赤い方・・・焔をそのまま糸に紬なおしたような見事なまでの長い赤い髪。先端に行くほど金が混じり淡くなっていく朱をを揺らして振り返ったのは・・・ 『ようやくきたなーーダミュロン』 お前を待っていたと、そのたぐいまれなる宝石のような緑の瞳が細められた。 その瞬間。 再び耳飾りの鐘が、音を奏で始めた。 ========== side ダミュロン・アトマイス ========== 帝都にきて半年。 きっと、ずっとこのまま“なにか”が、俺の中でくすぶったまま、このまま何も変わらずに終わるのだろうとばかり思っていた。 いや、そう思わざるを得なかったというのが正しいのか。 ・・・そう、思うようになっていた。 期待していた帝都には、思っていたほど心躍らせる出会いもロマンスも冒険も何も無かった。 とくに『騎士』は。 それも『貴族』出身のおれたちはよけいに。 だから屋敷を出るときのあのほんの一瞬感じた炎が燃えるような熱が再びこの身を焦がすことが無いように、もう何も変わらないのだと思いこんだ。 そうして胸をくすぶるそれが何か分からぬまま、いや、それがなにか気付かないフリをして、うっかり考えて思い出すことがないように、何重にも鍵をして“なにか”を閉じ込めた箱を胸の奥にしまいこんだ。 いまでは暇つぶしのように空を見上げては、空に広がる四輪の光の帯をみている。 街を、そなかにいる人を護るための結界。まもるためののものなのに、閉じ込められていると思うのはなぜだろう。 あれをみあげていると、子供の頃に戻ったような錯覚を覚える。 あのときは何を望んでいたかなんて、とうにう忘れてしまった。 ただ、きづけば、ここにきてからはいつのまにか空をバカのように見上げていて、もはや癖になっていた。 ーー『騎士』仲間と酒を飲みに行こうと歩いているさなかも空を見上げていた。 俺は、肩をたたかれ意識を引き戻される。 「ダミュロン!話し、聞いてたか?」 呼びかけられてハッとする。 「また空なんか見て」 「そんなに結界魔導器が珍しいかねぇ。たしかに四つの光輪が拝めるのはここ帝都だけだけどな」 半年も見続けているのだ。もはや結界が珍しいわけではない。 それでもその仲間たちの勘違いをただす気にもなれない。 まさか、結界が気に食わないなどとは、彼らも思うまい。自分でもどうしてそう思うのかわからないのだから、理由を聞かれようが、どうしてかと問われようが、きっとそれに俺は答えられないのだから。 結界魔導器による光輪が空にあるのがどこも普通な光景。 めずらしいわけがない。 なにせどこの町にもモンスターから守るために必ずあるのが結界魔導器だ。否、結界魔導器がある場所に都市を築いてきたといった方が正しいだろう。 たしかに、ここまで巨大で四つの輪がみれるのは帝都だけだろうが、空に浮かぶ光の輪など、この世界で生きている限り決して珍しい光景ではないのだ。 初めて帝都に足を踏み入れたときのように、あまりの巨大さに圧倒されることもなくなれば、気になるわけではない。 もう半年もたてばそれは物珍しくもなくなる。・・・ただーー“慣れない”のだ。どうしようもなく慣れないだけ。 それは俺がこの帝都に馴染む気が無いということの表れかもしれなかったが、俺にはその矛盾を変える力は無かった。 自分のことだというのに、自分自身をどうこうしようなんて気力がわかない。 ひとよりもそこそこ回転の速い脳は、勝手に“この先”を想像して勝手に結末を出して、はじき出した答えはいつも”諦める”というもの。 なにをあきらめたのか。と、なにを想像したか。とか。いりいろ言いたいことはあるが、俺自身はその“なにか”を考えたくない。 「どうして」「なぜ」「なにを」その単語が頭の中で廻りだせば、答えを知らないこの問いたちは俺のなかで無限ループとなり、そこからでてこれなくなる。 そのまま思考の渦にはまりそうになり、慌てて意識を引き上げる。 表面には出さないが同僚達の話に賛同するように笑顔をはりつけ、“いまだ帝都の結界を見るのが好きなダミュロン”を取り繕って、彼らの輪に戻る。 それが最近の“あたりまえ”で、これから先も続く“ありふれた日々の光景”なのだとおもっていた。 あのときまでは。 あるときいつもの仲間たちと、いつものように酒場にいこうとなった。 しかしそれはいつもと同じ貴族贔屓の店ではなく、下町の方だという。 いい予感はしなかった。 案の定、変化のない日常に飽きていたのだろう。彼らはいつもとちがうことを求めて「平民に声をかけよう」と言い出した。余興、だと。 もともと貴族のこどもたちはあまり戦場にでることはない。 傷がつけば彼らの親たる後ろ盾が何を言うか分からないからだ。 訓練ばかりで彼らも暇をもてあましていたのだろう。 同じ人間なのに。平民だからと切り捨てる。もしこいつらの出生が平民だったら、今と同じ態度をとりことも考えることも無かったのだろうが。 そう考えたことはなにのか。ないんだろうな。 平民だから。貴族だからーーそのくだらないくくりで物を見る基準こそがまともじゃないとおもいながらも、その話に載ったふりをするしかなかった。 ただでさえこの町で『騎士』は嫌われている。 これ以上自分達の立場を陥れたくは無いが・・・背中を押された。下町の一般人の女の子。あのこをくどいてこいと・・・俺ではなく、自分で行けよと思ったが。 そもそも俺は貴族の令嬢を相手にしたことしかないのに。そうやって名を売っていたお前ならいけると逆に言われてしまう。 まぁ、こいつらにあいてにさせるよりかはいいかとも思い、しかたなく俺がその少女を口説くことになった。 ・・・いや、もうやけだった。 せめて願うのは、俺が絡みに行った平民の少女をうまくこの場からにがすことだけ。 いまさら悪評とか、これ以上悪くなることもないだろう。そう思って、ちゃめっけかして道化を演じて彼らの前に出る。 そのまま笑顔を貼り付けて仲間の騎士たちが可愛いといった女性の元に向かう。 「お嬢さん、ちょっとお話してもいいかな?」 そう声をかければ、少女はこちらをみて、怯えたように固まってしまう。 もう一歩近付けば、我に返った少女が困惑と恐怖をのせて、身をすくめて、震えだす。 ああ、いやだなぁ。と思った。 そういう目をむけられるのも。そういう目を向けられる行為をしなければいけないのも。 でもこっちもあとがないわけで。ニヤニヤと俺の様子をうかがっているあの騎士たちの不評を買うのも面倒なのだ。 しかたない。と、怯える少女の手を振りほどけば取れるぐらいで周囲から見たら掴んでいるように見えるほどの力加減でつかむ。 「あ、あの騎士様・・・あの、わたし、その何か・・・」 「そんなこわがらないでも大丈夫だから。少し時間をくれるだけでいいんだけど」 会話が長引くにつれ、周囲の視線が増えていく。 それはさけたい。 さけてどうする?とは思うが、俺のためではなく、俺が腕を軽くつかんでいる少女の方だ。 この子に観衆のまなざしが来る前に。 せめて、少し抵抗してくれたら、それをきっかけにこの手を離してやれるのに。 自分が行動を起こさ毛ればこのままでは・・・ 少女は怯えて動こうとしない。 次第に焦りがでてきて、思わず舌打ちが漏れる。 このままでは彼女を保等に連れて行かなくなる。どうしたら・・・そう思ったとき、ヒュンと風を斬る音が聞こえた。 とっさに少女の手を離し、ここから遠ざけるようにその身体を自分から引き離す。 瞬間、鋭い音をたたてて目の前を矢が走り、すぐそばの壁に突き刺さった。 弓が飛んできた方へ振りむけば、群衆のなかに、弓をつがえた女騎士がいた。 女はためらうことなくふたたび弦をひき―― 俺がとめるより早く、その手を離した。 まぁ、結果から言うと、寸分の狂いもない女騎士によって服やら鎧の隙間を数か所射抜かれ、俺はそのまま壁にはりつけにされた。 いやぁ〜本当に屈辱的なほど、見事に俺もケガひとつしなかった。 なんてコントロールだ。 屈辱と、胸の中の黒いモヤが胸に触れだした。 この感情はなんだろう。 下町の人間たちに歓迎されていた“女騎士”。 「くそっ!なんだっていうんだ!!」 同じ騎士なのに。 下町のやつらは、彼女に“あんな目”は向けなかった。 彼女はいったい・・・ 自分が言い出したからか、仲間たちがなんとか矢を壁から抜き、貼り付けから解放された後ーーもう飲む気もおきなくて。 そのままあてがわれた部屋の簡易的なベッドに転がり込んだ。 が、しかし。 落ち込む隙もなく、ことはおこる。 突然窓がガタン!と大きな男がしたかと思えば、なにをどうしたのかひらかれた窓から黒い人影がすべりこんでいくる。 黒いとおもったのは、全身を黒い気私服で覆った人間で。 そいつは周囲をキョロリと見回し何かを探すような動作をし、ベットの上で呆然としている俺とバチリと目が合う。 瞬間 「お前がファリハイドのダミュロンか」 と、女とは思えないほど低くイラついた声で言われ、思わず言葉をなくす。 しかしそれにいらついたように舌打ちをした後、黒衣の女はいらただしげに「どうなのかと聞いている!」と近づくなり胸ぐらをつかまれ叱咤される。 ナニモしてないのに怒られているような殺されるような気分になる――ああ、そうか。今日のあの下町の少女もこんな気持ちだったのだろう。と思わずにはいられない。 「どうなんだ!騎士ならばしゃんとしないか!」 「っ!あ、ああ!俺がそうだ。あんたこそなんなんだよ」 「私がだれであろうとどうでもよいこと。 貴様には出頭命令がでている!」 「え・・・出頭・・うそだろ」 まさか今日のあの下町のことでだろうか。 そう持っていたら、頭上からため息が聞こえた。 「嘆かわしい。これがあの方々がさがしていたというファリハイドのダミュロンとは」 どうも今日のことではなく、ずっと前から探されていたようだ。しかも“ファリハイドのダミュロン”をだ。 弓矢を使う女騎士がチクったのか、仲間の貴族騎士たちがまた上司に報告でもしたのかと思ったが、どうも違うようだとわかり、緊張が少し融ける。 いったい誰が俺を呼んでいるのというのだろう。 「帝都に来たというのにあの方々に挨拶もないとは何事だ! あの方たちがいるのを知っていて帝都に来たならば、まずは貴様が向かい挨拶すべきであろう。あの方たちから呼ばせるとは、なんたる傲慢」 「あの方って・・・あの、おれ、いえ、私をよんでいるというのはいったい誰なんです?」 「しらぬというのか?!」 「想像もつかないから聞いてるんじゃないですか!」 言い返したとたんさらにひどい渋面顔をされ、何とも言えないよ奴ア物をみえる目で見られた。 苦笑どころではない。 だってこちとら、帝都に知り合いなどいないのだ。 なのに相手は知っている風で。 本当にわからないのだ。 それをつたると黒衣の女は「しかたない」とつぶやき、ガシリと俺の服をつかみーーー そのまま窓から飛び降りた。 ここを難解だと思ってるんだ!!!3Fなんですけど!!!!!! あまりの恐怖に声が出なかった。 本当に死ぬかと思った。 けれど女は外見を裏切る圧倒的な力で、俺を片腕でもちあげたままそのまま疾走し、夜の帳のなかをかけていく。 ブラスティアによる肉体強化だというのはあとで知った。 それから無理やり連れてこられ放り込まれたのは、城の奥まった場所にある―――それはそれは豪華な部屋だった。 黒衣の女に襟首をつかまれた猫のような状態でその部屋へ忍ぶように入り込み、女は二言三言言葉を交わすとすぐに部屋を出ていく。 おいていかれた俺はどうすればいいんだと、しまった扉に思わず手を伸ばすが、そこにはもう誰もいない。 「今日の名物。騎士の貼りつけ当人がご登場だ」 『実はこっそり下町にお忍びで出かけてね。そこでたまたまみちゃってな。わるかったな』 「あ・・・あれは」 どうやら部屋の中には二人の人間にいるようだ。 部屋の奥から聞こえてくる声に、とっさに振り返るも、ここがどこかを思い出してしまい、言い訳よりさも先に膝をつき首を垂れた。 どこをどう考えてもここが位の高い者の部屋だとわかっているから、なまじ顔をあげられない。 今にも首が飛ぶのではないかという感覚に襲われ、無意識に冷や汗がでてくるほど。 本当に俺に何の用だって言うんだ! ああ、俺の人生もここまでだったか。 そんな俺をみてわらっているのだろうクスクスという笑い声と、不満そうな声が交互に、俺の耳に届く。 『そんなに緊張してほしくぬぇな』 「無理だろ」 そうとも。無理だ! なんでそれがわからないんだ。 どう考えたって俺なんかよりとんでもない高位の貴族、または、城に住んでるぐらいだ。王族に近しい存在なのは間違いない。 そんな相手にフレンドリーに話せとか無理だ。 まず、この何も言われてない状態で顔をあげただけで、俺は資材にだってなってもおかしくないのだ。 この部屋の住人の片割れは、少し言動が押さないのではないか。 ああ・・・胃が痛い。 なんかキリキリする。吐きそうだ。 もう断罪でも何でも受けよう。早く終わってくれと、許可をもらってから口を開く。 「あ、あの、俺はどんなおとがめが」 「ああ、それ。いい。いい。気にするな」 「へ?」 さもなんでもないことのように、声の一つがあっさり言う。 いや、だって、そのために呼び出されたのでは? 「今日のことは・・・まぁ、どうでもいいんだ。今日の出来事がきっかけであったのは変わらないけどな」 『今日の騒ぎがあったから、お前をみつけられた』 みつけ・・って。そういえば、使者の黒衣の女も“今日の騒動の主”ではなく、“ファリハイドのダミュロン”を探していたことを思い出す。 つまり、彼らの目的は、最初からーーー俺? よけい意味がわからない。 混乱する頭を抱えていれば、ひといきついた声の主が喜々として「さて」と切り出した。 「さて、ひとつきくが。お前がファリハイドのダミュロンだな?」 声のトーンからして、顔をあげてしまえばそこには満面の笑みの青年がいたに違いない。 それほどまでに相手の声には弾みがあった。 「え、ええ。おれ、いえ私はダミュロン・アトマイスです」 「そうか」 なんで彼ら符がここまで喜んでいるのかがわからず、戸惑いつつも返事をすればーー 「よく、きたな」 『帝都へようこそ』 先程までとは異なる、どこか響きのある二つの声。 声だけでわかる。 心から二人が“俺”を待っていたのだと。 歓迎されているのがわかる温かく、心にじんわりと染み込むような声だった。 『帝都にきてから半年もたつんだってな。お前、ちょっとまたせすぎだぞ』 「約束を果たせダミュロン」 『「その鐘の約束を」』 言われた瞬間、思わず顔をあげていた。 無礼も作法も階級など、そのときの俺のあたまにはまったくなかった。 ただ、この耳飾りをくれたのが、目の前の彼らだと気付いたから。 気付いたらもうだめだった。 辛くもないのに、目がかすんできて。 そこにいたのは二人の青年。 自然と、そのうちの長い赤い髪の青年にめがいく。あんな炎のような鮮やかな赤色の髪をした知人なんかいない。けれど、彼こそが自分が探し求めていた存在だとわかった。 『ようやくきたなーーダミュロン』 お前を待っていたと、そのたぐいまれなる宝石のような緑の瞳が嬉しそうに弧を描く。 その瞬間。 脳裏に、幼いころの記憶が勢いよくよみがえる。 暴漢に襲われたところを助けられた。そのあと黒い髪の青年と町中を走り回ったーーーそんな記憶。 たった一度の出会い。 でも、忘れたくなかった! ずっとあの緑の瞳の青年のもとへいきたかった。 自分自身を必要としてくれた彼のもとに。 今まですっかり忘れていたのに、とじられた封がいっきにひらかれたように、かわした会話のすべてが鮮明に思い出せた。 ああ。 ああ、そうだ。 俺は、この人のような、大人になりたかった。 このひとこそが騎士に思えて、人を助けることが当たり前のそんな御伽噺のような騎士になりたくて。 このひとの傍に行けるように、帝都に会いに行くという約束を果たしたくてーーー そうだ。だからここまできた。 『ダミュロン・アトマイス。どうかオレの騎士になってはくれないか?』 芝居じみた仕草で伸ばされた手が、その彼の微笑みがまぶしくて、目を細める。 目を閉じでも。 消えない。 よかった。あのひとが“いる”。 一度会ったきりですぐに俺の前から消えてしまったひと。 でもいま目の前にいるのは幻でも何でもなく、本物。 今度こそ、目の前にいる彼は自分の造り出した幻覚でもないのだと思い知る。 「不肖ダミュロン・アトマイス。貴方のためにはせ参じました」 ああ、なんて眩しいんだ。 泣きたくなるほどうれしい気持ちのままに、大事なその人の手をとり、忠誠を誓う。 チリンーーと、停止していた鐘が音を鳴らした。 俺の灰色の世界に、色がついた瞬間だった。 - - - - - - ちなみに。 恋焦がれた(?)相手が、まさかの・・・まさかの現皇帝の弟だったんだが。 あと、喜々として飛び込んできたおっさんが、二人の兄で、現皇帝だったんだが。 「お!さすがルーが選んだけあって“いい音”の持ち主だな!よし!これからレギンとルークを頼んだぞ!」 笑顔の皇帝が、さら〜っと突撃して、疑うとか一切なく俺に黒衣の騎士の衣装を押し付けて、勝手にサイズはかって嵐のように去っていったんだが。 え? 今、何が起きた? ねぇ、ちょっとまって。 俺、どうしたらいい? |