片 翼 の 獅 子
++ 第一部 Tales of Vesperi a ++



15.キャナリ





俺を街中で射抜いた女騎士は、キャナリというらしい。
本当はどこかの貴族の令嬢らしいが、家宝の弓を持ち出して家を出てきたのだという。
だから、彼女は“ただのキャナリ”。







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 side ダミュロン・アトマイス
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「も、もうだめ・・・」
「お前もかダミュロン」
「ミ、ミムラ様のけいこ、きびしぃ・・・」

帝弟殿下ズに直属の騎士ーー黒衣の騎士に任命されるも、黒衣の騎士は表立っては実際しない組織なのだという。
レギンとルークと皇帝の独断と偏見で集めた部隊構成らしく、表立って彼らが騎士と過ごすことはほとんどない影の存在だ。
黒い騎士服だから「黒衣」ではなあく、影だから黒ということらしい。

そして黒衣の騎士所属のだれもが、表では別の姿をもっている。

なお、俺をひっぱてきた声のデカイ女騎士ミムラは、あれでじつはとある有名な貴族令嬢らしい。
先代家長がやらかしたのをくいた現家長とともに弟と一緒に帝弟ズにひきこまれたのだとか。
表立って「よいひと」だと貴族と帝と評議会との間が複雑なことになるので、「先代のような貴族の見本のような貴族」を一家で丸っと演じているらしい。
用議会に反抗したり、貴族と平民の平和を平等に!などと表立ってうたったりすると、すぐに標的にされてつぶされかねない。
平民に悪く思われても平民が貴族をつぶすことはできないから、自分たちの一族をつぶすことができる上層階級を警戒しての、「悪役貴族」なのだとか。

「アレックの"それ"もきつくない?」
「まだ、どっかのだれかよりマシだ。家の中まで演じているやつは「黒衣」の中にも多い。私たちの場合は家中の者全員が事情を把握している。家の中までキーキー声を上げて叫ぶ必要はないからな」
「さすがは一族総出で主たちにつかまっただけはある」
「捕まった・・・まぁ、そうかもしれない」

ミムラも彼女の弟のアレクサンダーもその父親も今の王族兄弟に助けられたらしく、それを恩に感じた彼女たちははためには「嫌な貴族」の教本のような存在だ。
だが彼らの中身は忠犬。王族に忠誠を誓うメチャクソ厳しい騎士一家である。
筆頭が姉ミムラだ。
その弟のアレクサンダーなどは俺より前からずっと厳しい訓練にしごかれているので、さもありなんといわんばかりの肉体美に腹筋が見事に割れている。

っが、その彼もまた地べたでぜぇーはぁーっと現在は倒れている。


これでわかっただろう。
俺とひそかに訓練を共にする彼と彼女らは、世間一般では嫌われ役だ。
つまり「黒衣」というのは騎士服の色ではないのだ。いわば殿下直属の“影”という意味である。
この黒衣の騎士というのは、本当に裏の存在のためか、騎士団長や評議会でさえ、誰がそれに当てはまるのか知らないという。

設立したのが愉快なあの王族らであるからして、そういう“影”なる存在をちゃっかり集めているだろうことは、ずいぶん前から噂としてはあったようだ。

しかし“誰”なのかは不明。
実在しているかも不明ときている。

王にその幻の騎士たちの話を訴えたところで、明確な答えもなければ、だれも文句をつけようがないほど譲歩が出回らないのだという。

「どんだけうちの主たち、情報操作得意なの?」
「はは。いいきみだ。主たちに評議会も貴族どももみごとにだしぬかれていればいい」
「そりゃぁそうだわな」

ベチャリと訓練の疲労で床に座り込めば、「ああ、主たちのいい笑顔が目に浮かぶ」と共に訓練をしていたアレクサンダー(通称アレック)が笑った。

アレックは素顔だとかなりのイケメンである。凡庸な顔立ちの俺とは大違い。
だがもったいないことに彼も彼の姉もその素晴らしく整った素顔を主のためにと、スパイ活動で素顔がばれたときでも迷惑をかけないためにと表ではかくしてしまう。
あの奇抜な化粧はまさに道化である。

だが、そこまでしてでもついていきたい。守りたい。ともに歩みたい。傍にいたい。そうおもわせるだけのなにかが、われらが王族たちにはあるのだから仕方がない。


「そういえば、ダミュロン」
「うん?」
「お前、表でやらかしたんだって?」
「あ・・・・・」

「キャナリにはきらわれたな。
だが気をつけろ。お前のような奴、アレクセイが絶対気に入る」

「え。まじ?」
「うちの情報網をなめるな」
「・・・・あちゃぁ〜。たしかに下町で平民くどいてキャナリに弓ではりつけにされたけど。え?それでなんでアレクセイ閣下に気に入られるわけ?」
「キャナリが・・・いやアレクセイだな。アレクセイが平民と貴族関係ない部隊を作ろうとしている。王族らがそれに許可を出したから、よけい"貴族"のやつらが反感を持っている。
それでもあいつ混合部隊を作るぞ。頭かたいのに騎士ってもんに希望を抱いてるからなぁあの人。
お前と少しでも過ごした奴はすぐにわかるが、貴族社会は性に合わないようだろうダミュロン。そこがアレクセイもキャナリも好みそうな性格だってことだな。まぁ、頑張っていきぬくといい」

なにかやばい政治関係のトラブルに巻き込まれそうな気配を察知した瞬間だった。俺のゆるい顔が最大限にひきつった。
っが、それもすぐに用事からもどってきたミムラの怒声と叱咤と激励?により、体力向上のための基礎訓練にもどされたことで、すっかり友人からの助言は頭からすっぽ抜けてしまった。

ひとまずキャナリには、今後かかわらないでおこうと胸に誓った。









ーーーーーっと、思ったのが少し前のこと。

なぜだ。なぜこうも遭遇率が高い!?

この前なんか夜に黒衣の訓練の帰り、自主的見回りもかねて私服で(グッタリ気味だったが)下町をふらぁ〜っと歩いていたら、街の路地らから弓を射る音が聞こえた。こんな夜に何の音だろうと、訓練にしては場所もおかしいからのぞきに行ったら、そこには騎士服をきたキャナリが、火事あとの広場で弓をいっていた。
うっかりそこで会話をしてしまったが。











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