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11.遠い未来で呼ばれた名 |
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―――――――――! 誰かに呼ばれたような気がして足を止めた。 振り返ってみるも自分の名を呼んでいるらしき者の姿は見えない。 「どうしたのレイヴン?」 前を歩いていた13,4歳ほどの少年カルロ・カペルが、全身真黒というイメージのある青年ユーリ・ローウェルとともに振り返る。 「いんや、なんでもないのよ」 ――― !! “今の”仲間である二人に置いていかれない様に、足を動かそうと思ったところで、また聞こえた。 自分の名前でも『騎士団隊長主席』である“彼”とも違う。 なんの名前だったか。 でもたしかにそれは自分の中に、奥深くに眠るなにかをよびよせる・・・気がする。 そこで脇を子供が通り過ぎる。 母親らしき若い女がその後追おう。 「待ちなさい!」 「へっへ〜ん。いやだよ!」 「こら!ダミュロン!!」 “ダミュロン”――ああ。それは“すでにこの世にはいない男”の名前。 「おいおっさん?」 「やっぱり具合悪いのレイヴン?」 「ん、にゃ。ごめんごめん。おっさんは元気よぉ〜」 そう。今、ここにいるのは“レイヴン”とよばれる自分だけ。 ここには平民英雄も昔のお調子者の“彼”もいない。 「って、きけやおらぁっ!!!」 「は?」 「人が呼んでいるのに無視するとはどういう領分だ、ええ?ダミュロン!!」 飛び蹴りをかまされた。 レイヴンがそう認識した時には、目の前に見事な赤毛をなびかせて憤る青年の姿があった。 彼はその口から“死んだ男の名”をレイヴンに向けて何度も呼ぶ。 レイヴンと呼ばれる以前を知る数少ない存在。 まるでそれが当然のように、彼を『鴉』でも『白鳥』でもなく本来あるべき名で呼ぶ。 その魂を呼び戻すように―― 「る、ルぅー!?なんでこんなところにいんのよ!!」 だからだろう。 だから思わずレイヴンは、“レイヴン”でいることを束の間忘れて、いるはずのない相手を前に驚き目を丸くする。 側に《凛々の明星》の子どもたちがいるのも忘れて。 なぜ、彼がここに? その答えは予想外の回答となって返ってきた。 「リードがみつかった」 「リードって、アイフリードぉ!?あのばあさん死んだじゃなかったの!?」 「生きてた。 あとお前に会わせたい奴を拾った」 「拾ったって・・・どこでなにひろったんだよ!」 「あの伯母上に奇襲をかけるなんて勇気のあることをして逆にとっつかまっていた」 「え・・・奇襲・・・?あの人に?よく、生きてたね」 「ああ。キャナリ隊の生き残りだそうだ。 見覚えがあるから殺すなと・・・・・・ああ〜、叔母上を説得するのは大変だった。口から火を吐く勢いで、術式を連発し…」 「え?えええええええぇぇぇぇ!?!い、いたのそんなやつ!?っていうか。え?うそ。キャナリぃっ!?」 「いや。キャナリじゃなくて、キャナリ隊の隊員な」 「ま、まった。まってって!おいルー!!心の準備がぁ」 「オレ、ひとりで叔母上に・・・いどめと?」 「え。だっておれ様、行ったら、もう一度殺されちゃうし」 「お前にトラウマを与えてごめんなさい。はい。同胞の過ちは謝った。さ、いくぞ!!」 「軽っ!?だ、だからっておれをまきこまないでよ、って!?ちょっちょっとぉ!!首つかむな!しまってるから!しま…」 ――――遠い遠い未来のどこかで―― 聞こえなくなった鐘の音が世界に響き渡り、止まった鼓動が動き出す。 それはまだ見ぬ遠い遠い先の物語。 まだ誰も その結末を知る者はない。 |