片 翼 の 獅 子
++ 第一部 Tales of Vesperi a ++



10.仲良し兄弟
※王族や歴史は物語に合わせた捏造になります!正史ではありません!ご注意を!











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 ザーフィアスの城の中にあるとある部屋。
そこはとある王族の個人の部屋だった。
他の王族たちが見たら目をむきそうなほどに、そこは城という場所とはかけ離れた空間だった。
王族の部屋でありながらそこは本当に個人専用であり、寝室とは別のそこには、ただの憩いの場のようでもあった。
その部屋は他とは明らかに違い、本来王族の部屋にはあるまじきほどに狭く、室内に置かれている家具やそのほかの素材なども質素であり、金細工などの華美な装飾はなく、床一面を赤い絨毯で覆われていることもない。
暖かい日差しが入る大きな窓は全部で三つ。そのまま中庭に通じるようになっている。
白い小さな絨毯が暖炉の前を陣取り、木のぬくもりあふれた机が窓際にある。
本や資料でうまっていそうな壁際の本棚には、数冊の本以外は、どこで得たのかさまざまな形をした貝殻やら木の枝でできた子供が作ったような人形や、魔物からとれたような装飾品。ぬいぐるみなどが並んでいる。
それらのどれもが、下町の市場で売っていたり、森や海、ザーフィアスの城内や貴族街では決して手に入らないものばかりだった。
そこは城内の王族の部屋だというには、ひどく人間味が溢れ、高級さとは違うぬくもりを感じることができた。


「ゼーノス!オレは今日、生まれて初めて感動した!!」

 双子のようによく似た二人の青年のうち、黒髪の方の青年が部屋に飛び込んでくるなり、重厚な趣ある木製の机で資料を広げていた男に抱き着いた。

「せわしなさすぎだろルー」
「おー。お帰りルー。レーもお疲れさん」

 ゼーノスは突然飛び込んできた青年をだきとめつつ、キラキラと目を輝かせているルーの背をポンポンと撫でながら、後から入ってきた薄灰色の髪の青年に笑いかける。

「ただいま兄上」

「それで、こいつはどうしたんだ?」

ゼーノスの腕の中で小さな子供のように、きいてくれきいてくれと訴え続けるルーに苦笑しつつ、もう一人の弟を向かえる。
傍までよって、そのままゼーノスの執務机に腰を下ろし、レーは「話聞けよ!」と騒ぐルーをみやってあきれたように溜息をつく。

「兄上、それはルー本人から聞いてくれる?こいつ言いたくて言いたくてしょうがないんだから?」
「ふ〜ん。っで、偉大な始祖の隷長にして、俺の弟のルーくんや。なにがあった?」

「オレ、生まれて本気で走ったんだ!」

聞かれたことが嬉しいのか、待ってました!とばかりに声を上げる。
そのルーの後ろに犬のシッポがみえたような錯覚をレーとゼーノスが覚えたのはしるよしもなく、本人といえばそれはもう頬を紅潮させてウキウキと今日のことを語った。

ただ走っただけだというのに、そこに「何を馬鹿なことを言っている」と馬鹿にする声はない。
逆に感心したような声が事情を知らないゼーノスからあがる。

「ほぉ〜。ルーに本気を出させるなんてすごいな。いったい何をした?」
「路地裏で強面のおっさんに追いかけられた!」

「「……」」

嬉々として告げられた言葉に、なごやかに小さな子供の話を聞くように笑っていたゼーノスとレーの動きがピタリと止まる。

「ん?どうしたんだ二人とも?」

「追いかけられた?」
「強面のおっさんに?」

「おう!それで手を引っ張られて町の中を全力で走ったんだ!」

「「…強面のおっさんに手を引っ張られて街中を走った……」」

「そう!すっげーたのしかったんだ!」

「「たのしかった・・・」」

「それにほら、オレって始祖の隷長の姿だと短足だろ。全力で走っても早く走れないし。
かといって空飛ぶときだって、他のみんなみたいにビューンって飛ぶんじゃなくて、浮くって感じで、速度なんかでないし。
でも人間の姿だと、“皇帝の弟”って肩書があるから、戦闘時とか大概誰かしらオレの前を先行するし。魔物討伐の時なんかもシメだけとかで、ほとんど後方だし。
レーとよく庭先でおい脚気こしたりするけど、走るっても短距離しか走ったことなくて!!
でもさ!でもさ!!今日は走ったんだ!すごく早くてどきどきだったんだぜ!
オレでも人の姿ならあんなに早く走れるんだって初めて知って!もうみゃちゃくちゃ気持ちよかった!!」

興奮のままに語ったがために、そこにいた被害者である子供の存在を表す言葉が抜けていたに気付かぬまま、ルーがそのときのことを語っていく。
それにどことなく笑顔を張り付けたような表情のまま、ピッタリ息の揃った返事をしていたレーとゼーノスは、ルーの視線が語るのに夢中で自分たちからそれている隙に、黒いオーラを浮かべながら「だれがうちのこをかどわかそうとしやがったんだ」「半身たるおれに断りもなく」などと不穏な空気を振りまいて会話をはじめた。
そんな雰囲気に気付かぬまますべてを語り終えた後、いつの間にかレーとゼーノスの二人が背後でボソボソと話し合っているのを目にし、ルーはぷぅっと頬をふくらます。

「なぁ、なぁってば!二人とも話しちゃんと聞いてた!?オレ、早く走れたんだよ!」

「あ、ああ。もちろん聞いてたよ俺のルー」
「そうそう。聞いていた聞いてた。しっかりきいてたよルー」

すねたような声に、二人はハッと振り返ると、先程まで剣呑とした雰囲気を漂わせていたのをころりと変えて満面の笑顔をルーに向ける。
そのまままたはしゃぎだしたルーを「無邪気だな〜」と内心思っている二人は、なでくりまわしてかまいたおす。

いい年下大人がとか、もう17歳で図体もデカくなったとか関係なく、三人はそのまま絨毯の上に転がって、猫がじゃれるようにふざけあい―――
そして

「「っで?そいつらはどこのだれだ?」」

「はい?」

 それはそれはニッコリと素敵な笑顔で、とある兄弟は、黒髪の青年に尋ねかけたという。
なお、いろんな誤解があったことを互いに理解するのはそれから少し先のこと。
ルーが二人の誤解を解くのに苦労したのをしるのは、愚痴を言われたとある闘技場の主のみ。



 なお、それからしばらくして――。
とある田舎の町で、大きな鳥の影を見たという目撃証言あった。
同日、チンピラが数人、通りすがりのカゴをかぶった冒険者風の男にボロボロされたというちょっとした騒動が起きた。

が、その情報が、帝都の城で幸せそうにティータイムをしていた黒髪の子供に届くことはなかった。
ただその子供の横でニコニコとしていた薄灰色の髪の青年だけは、しっかりその話を耳にして満足げであったとか・・・。





――――そんな暖かな日よりのこと。













- - - - - -

「……」
「どうしたダミュロン」
「あ、父上。あそこに…」
「ん?」
「チンピラがカゴをかぶったおかしな男に襲われています」
「かかわるんじゃない。まさか顔見知りではなかろうなダミュロン?」
「いいえ(あーあいつらこの間の。今度は何したんだ?)」
「そうでなくては困る。アトマイスの品位が疑われるからな」
「……ええ。あ…」

『うちの純粋無垢な弟に手を出すとは百億年早いわー!!その首さらしてくれるわ!天誅ー!!』

「父上、あいつらの後処理どうするんです?ほおっておくんですか?」
「ってぇ!!なんだとぉ!!!!待てまてまてぇっ!そこの男!!こ、殺すな!この町で殺傷事件はやめないか!!」





「……なんだこれ?」











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