片 翼 の 獅 子
++ 第一部 Tales of Vesperi a ++



07.オレの心を動かすのはいつも人だった
※王族や歴史は物語に合わせた捏造になります!正史ではありません!ご注意を!





人とかかわるようになって。
そこではじめてオレは自分が成長することを知った。

気が付けば人型の姿の時のオレは、子供から青年ぐらいまでの大きさになっていた。






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 side 夢主1
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 オレがアイフリードと出会ったころは、生まれてから何年生きたかは忘れたが、気がつけば人型の姿のときは人間でいう17歳ぐらいにまで成長していた。
けれどそれだけだ。
オレの本来の姿は、相も変わらず体長30cmほどのウサギのような赤い獣だ。
人の姿はかりそめのものゆえ、ずっと止まったまま。
人間の成長速度なんか前世にて忘れさったため、このあとどうやって伸びるのかとか縮むとかわからないのだから仕方ない。
ほかに、それ以上成長しない理由としては、たぶんオレがこの世界に生まれる前の記憶をひきずっていることも起因するだろう。
 オレがこの世界で生まれるよりも以前の記憶は、いまだ戻ってはいない。
何度も何度も生まれては死んだという感覚はあるが、ほとんどの記憶がなくなってしまったままだ。
 そんななかでも最近人といるせいか、たびたび思い出すようになった記憶がある。
それがひとつ前の前世だ。
 この体の人型の時は、無意識にその“ルーク”だったときをもとに形どっているので、たぶんこの成長しない姿の発端は、その記憶が影響しいているはずだ。
たぶん“ルーク”は、この姿のときに死んだのだ。
だからこれ以上自分が成長した姿を知らないから、どうやって大人になればいいのかも大人になった自分の姿を想像することもできないから、今のオレは成長できないのではないだろうか。
 この世界でうまれたとき、自分は七歳で死んだと思っていたが、こちらで長く生きてわかったことがある。
どうやら自分は肉体17歳、精神年齢7歳で死亡したようなのだ。
まぁ、そのあたりの仕組みはどうなっているのか、前世の自分がどんなだったかなどは相変わらずさっぱり覚えていないのだが、それで間違っていないと思う。
 “ルーク”は人になりたくてもなれなかった矛盾した存在だった。
いまだってそう。
オレは人の姿を取ることは出来ても人間じゃない。
始祖の隷長としても少し逸脱しているようで、本来エアルを体内に蓄え世界という巨大なものを調整すべく始祖の隷長たちはみな巨体であるなか、オレだけは効率が悪くひどくちっぽけだ。
エアルを吸い込んで貯めるには容量が少なすぎて、失敗して吸いすぎると、すぐに身体が結晶化してエアルに還るか、星喰みになりかける。
 両親と仰いでいたふたりの始祖の隷長が死んで、数千と幾ばくかの月日が流れている。
その間にオレのなかにも聖核になるだけのエアルが十分貯められていたが、それは身体に染み込み、気がつけばオレの肉体そのものが聖核となった。
それにより始祖の隷長よりもよりエアルに近しい存在に変化してしまった。
 いまでは他の同族たちよりさらにエアルに敏感となり、それはエアルだけでなく、ひとつひとつの生命をかたちどる命が放つ音――魂の波長とでもいうのか、オレはそれを『振動数』と呼んでいる――に、干渉できるまでになった。
 つまりオレは生きて動ける聖核というわけだ。
人間と同じような成長はしない。
ましてや人間でもない。
始祖の隷長でありながら歩く聖核。
そんなオレが人と同じと気を生きようとは思うはずもない。
 自称叔母ことベリウスに、ともに暮らさないかと何度も誘われているが、オレは人といるのは苦手だ。
だけどそんなオレに手を際伸べた奴がいた。
アイフリード。金髪に青い目のまだ二十もそこそこという少女だった。
偶然ノードポリカにいた彼女と出会い、あれよこれよというまに彼女の船に乗せられていた。

ひとは・・・嫌いだった。

とくに仲間なんて言葉は大嫌いだった。
どうせ人間はオレより早く死ぬ。別れはつらいだけ。

 仲間なんていうのは、オレが人でないと知ればすぐに裏切るのだろう。
どうせ見限るのだろう?
見張るためのものなのだろう。

 これはたぶん“ルーク”の記憶の断片。
 何があったとかは詳しくは思い出せないけど、オレに罪があって、それを背負わなくちゃいけないのは理解している。
けれど助け合うなんてしらない。
オレの中に残る記憶の断片のなかでは、仲間というのは、“ちゃんとした人でなくてはいけない”んだそうだ。
ちゃんとした人間でない《おれ》は紛い物で、本物じゃないから、それだけで彼らを騙したことになり、死んで当然のものらしいから。
 どれほど助けを求めても誰も手を差し伸べてはくれず、助けてといってもこの声が届くことはなかった。
 だからアイフリードに無理やり連れて行かれた船で、仲間になれと言われたとき、またオレを使うためにここまでつれてきたのかと思った。
心の底からムカムカして、いやでいやでしょうがなかった。

「仲間なんかいやだ。そんなもの嫌いだ。さっさと船を下ろせ!」

 そう言ったら、アイフリードはふむとひとつ頷くと何かを考え出し、しばらくしてからポンと手をたたくと――

「なら家族になろう!うむ。それがいい!」

そういってもう一度オレに手を差し伸べた彼女の手は、何があっても離されることはなかった。

 彼女はその銃をたくみにあやつり、彼女が家族と呼ぶ船の奴らをその身をもって前衛で守り続け、何があっても笑顔を絶やさなかったし、オレのことを深く詮索してはこなかった。
 それからアイフリードたちとしばらく旅をして、再びノードポリカにもどったとき、オレは生まれて初めての船旅や新しい家族達の冒険談をベリウス叔母に語った。
面白い人間にあったことを告げると、彼女は嬉しそうに話を聞いてくれた。
 それからは、オレは人の姿でいることが多くなり、アイフリードの『海精の牙』の船のって、彼らの旅を横で見てきた。
何年もするとさすがに成長しないオレを不思議がる奴らがいたが、「不思議」はあっても「不審」に思われることはなかった。そのことに関しては、彼らの寛容さもあっただろうが、極度の童顔という認識で落ちついてしまったのだ。

 そこはあまりに居心地がよく、彼らに置いて逝かれるのも見捨てられるのはきついと思えるようになっていた。
だから嫌われたらすぐ船を下りようと覚悟を決めて、あるときオレは自分が人間ではないことを告げた。
するとアイフリードは「魚人か!?魚だな!」と目をきらめかせ、他の家族達は童顔じゃなかったのかと。人じゃないから老けないのかと――こちらが逆に驚くほど、すんなり納得していた。
ちなみにアイフリードからは、魚人がよかったといわれ、逆にがっかりされた。
なんだか色々予想外で、オレは戸惑いを隠せなかった。
本当の姿を見せればみせたで、“魔物”ときいていたからとてつもない想像をしていたらしく、みんなに爆笑された。
「こわくないのか?」と問えば「その姿を見てどうこわがればいいのだ」と逆に突っ込まれた。

彼らといるのは居心地がよく、そのまま何度も彼らと旅をした。


 あるとき、いつものように遠征にいっているアイフリードとわかれ、ベリウス叔母に旅の報告をし、しばらくは森で暮らそうとノードポリカにもどってみたところで、ものすごい筋肉マッチョな色黒の青年が、闘技場で活躍していた。
 はじめはその挑戦者には、これといって興味もなかった。
しかしオレが街中で買出しをしているところ、運悪くその人にぶつかってしまった。
それが先程の剣士だと知った。それが縁。
後のドン・ホワイトホースがそこにはいた。
 まだギルドの長でない若い青年は、気さくで、実力を試すためにココに来たのだと言い、何度か会ううちに、オレは叔母上が好みそうな人間だと思った。
 それからアイフリードが再びノードポリカにもどってきたとき、彼女にホワイトホースを紹介すると、あっという間に二人は意気投合したようで、握手をしながらバチバチ火花を飛ばしてニヤニヤ笑いながら二人はナカヨくなった。
それから間もなく、三人で会話を弾ませているとき、わらわも混ぜろ〜とベリウス叔母が酒盛りに乱入してきた。
そのあとのドンチャン騒ぎの結末は言うまでもないだろう。

 叔母上は笑い上戸で、リードは下戸で、ホワイトホースは顔を赤くはしてたけど理性はあったけどね。結局全員が飲んだくれてその場で寝てしまったので、オレが後始末をする羽目になったんだけどさ。
ん。でも楽しかったよ。





 老けもしないオレとベリウス叔母が、ともに人でないと知った後も、オレたちの関係は変わらず、相変わらず騒がしくも居心地がよく日々は過ぎていった。
いつしかアイフリードもホワイトホースもそれぞれの冒険に挑むようになり、どちらにも白髪が混じり、彼らの口調が若干老いた人間のそれに代わってきたころ。そのころにはもう三人でつるむことも減っていた。
しかし冒険好きはどこにでもいるもので、気がつけば一人二人とオレが家族と呼ぶ者は増えていた。



 あれは魔物に襲われていた一行を助けたときのこと。
まだアイフリードもホワイトホースも若く、二人がそれぞれの地で、互いのギルドの名を周囲が認め始めた矢先のことだ。

 ダングレストに向かう道中。オレは、陽気すぎる戦闘狂としか思えないおかしな人間に出会った。
先陣きって魔物と奮闘していた淡い緑の髪をした青年が、ひとりで魔物を相手にしていて、あまりの無謀さにオレは思わず人型に変化すると慌てて剣を手にして加勢したのだ。
彼はたまたま通りがかった物資運送中の馬車の護衛でつきそっていたらしく、あいにくとその一行には彼以外戦えるものはなく、あげく魔物と遭遇し、まさにあの状況。というわけだったらしい。
 っが、この男、実は途方もない曲者だった。
なにがって。
目的地のダングレストについて一団と別れたあとの彼曰く、なんと青年はどこかの貴族のご子息様で、それも家出中で、さらにさらには、その言い訳が、上に立つものとして世界を知るためにひとりで城を抜け出してきたという。
城と言われた時点で、これはただの貴族じゃないだろうと、さすがの人嫌いのオレでもわかった。
思わず突っ込んだが、青年は愉快そうに気にもした風もなく笑っていた。
 ホワイトホースなんかは、貴族だと言い切ったくせに変わらない態度の青年に手をたたいて、その度胸をほめたたえた。
その後、彼の本当の名と素性を聞いて、オレは絶句。ホワイトホースは、ことさらに大爆笑していた。
 その日以降、彼はたまに城を抜け出しては、あちこちを旅するようになった。
こうしてオレの大切なのがまた一人増えたのだ。





 人は年を取る。オレは変わらない。
星の導きにより始まった、海からのオレの冒険。
出会いと旅を繰り返し、それは共に旅をした者達の心をも変えた。
そうやって人は時を過ごし、少しずつ彼らは行くべき道を見出していったのだろう。
やがて人の子はそれぞれのすべき道を見つけ、それに向かって歩むべく、オレたちは己の道を選んでわかれた。
 ベリウス叔母は相変わらずノードポリカに首領として居座り続け、オレはあちこちふらふらと。
アイフリードは海で、他の男よりも漢らしく荒くれどもを抑えて『海精の牙』をひきい。
ホワイトホースはダングレストで、ギルド『天を射る矢』にてドンと呼ばれている。
オレたちの中で一番の出世頭は、一番年下であった緑の髪の男ナシラ・ローク・ヒュラッセインだ。彼はこの世界に唯一つしかない『帝国』の玉座につき、クルノス14世と名を改めた。

 ホワイトホースの元には、あの男の志に従う賛同者と同志が現れギルドをつくった。
そのとき仲間にならないかと誘われたが、糞食らえと笑顔で蹴ったら、苦笑されて「お前はそうだったな」と去っていった。

 オレの移動範囲もそれにより広がった。
ひとりのときはずっと森の中で暮らしていた。
アイフリードと家族になってからはほとんど海に出ていた。そうして冒険に明け暮れた。
当時の陸の拠点は主にノードポリカばかりだったが、そこにダングレストもくわわり、あの逃亡癖のあるナシラ殿下(当時)のお蔭で帝国まで足を延ばすようになり、行動範囲が広がった。





**********





 移り変わるときの中で、人に混じることを覚え、オレはひとりでいても森にこもらず自分の足で旅をするようになった。
 ナシラもホワイトホースにも、最近では自分から会いに行く。
今回もナシラが皇帝だろうと気にせず、帝都まで遊びにいった。

 人の姿では成長しないし、場所が場所ゆえに不審者扱いされてはかなわないので、ナシラに会いに行くときは、ノードポリカにいくとく同様にいつも獣姿で城に侵入する。
すでにナシラが「クルノス」の名を継いで以降何十回もこの城を訪れているし、その都度皇帝陛下が赤いチーグルを抱きしめている姿が幾度も目撃されているため、この姿ではもはや城では顔パスだ。
ザーフィアスの城では、赤いウサギは陛下の愛玩動物という認識をされているようで、メイドさんとかに出会うとお菓子までもらえる警戒心のなさだ。

 本日もいつもと変わらず、庭に続く城壁の小さな穴から侵入したところ――。

のんびりと短い脚でもって中庭を歩いていたら、ナシラに似た緑がかった髪をした赤ん坊とさえいえそうな幼い子供に、むんずと、とらえられた。

それが今生の相方となるレギンとオレの顔見せとなった。

 子供の名を呼びながらかけつけてきたナシラが、つかまれておもちゃの代わりとばかりに振り回されて身動きできないでいるオレを見て「ブッ!」と王族の威厳もなく噴き出しているのを見て、お前の子供かと冷やかしてやった。
そうしたら「ちがうちがう。弟だよそれ」と、誰かに見られたらまずいだろう程気さくな口調で言う。

「幾つ差?」
「19だったかな」

 子供の名はレギン。レギン・ジェミナイ・ヒュラッセイン。
ナシラにはたくさんの兄弟がいるが、このレギンという子供だけが、唯一母親が同じ兄弟なのだと教えられた。
苗字が一部違うのは、王家争いからできるだけ遠ざけようとした前皇帝のはからいで、母方の遠縁の姓を与えられたのだとか。
実際、まだこの子供が王弟であるとは周囲は知らないらしく、ただの遠縁の子という扱いのようだ。
後々、彼が物心つくころに表にきちんと“弟”として公表するのだとか。
まぁ、いまとなっては、王の計らいもあまり意味をなしていないようだが。
 レギンは、産まれながらにその命を狙われるという宿命を負っていた。
それは前皇帝クルノス13世には、長男たるナシラを筆頭に、子供が11人いたが、その多くが早死にし、ナシラには妻子もおらず、生き残った王位継承権を持つ者たちは統治者には不向きな者たちばかり。
そうこうしているうちに、次の王位継承が限られてしまったのだという。
そこで白羽の矢がったのが、まだ幼いレギンだった。
 レギンが命を狙われるのは、なにも彼の存在を忌む者たちばかりではない。
幼いレギンを自らの傀儡にしようと狙う者。
自分たちが推す候補者たちをかわりにたたせ、帝国の支配権を握ろうとする者。
クルノス13世がこの世にいないことをいいことに、愛妾や隠し子を名乗る者もいる。
城の中は幼くまだ無垢なレギンには、危険な場所でしかなくなっていたのだ。
 その話を聞いて、オレは自ら手を貸すことをクルノスに申し出た。
身代わりになることを。
話を聞くに、すでにレギンは毒を盛られたことも暗殺者が送られたことも手の指の数ほどにはあるのだという。
こんな無邪気な幼子が、ただ周囲の思惑のためだけに幾度も命を狙われている。
人間がオレたち始祖の隷長よりはるかに寿命が短いとしてもレギンのそれはあんまりだった。


「ほんとうにいいのかルーク?」
「いいよ」

それに――

「こいつ、オレのこと放してくれそうにないしぃっ!!」

 むんずとつかまれたまま動けないオレは、さっきから必死にこどもの手を振り切ろうとしているのだが、いかんせんうまくいかず、相変わらずおもちゃにされたままだ。
しかもオレは魔物だ。噛むぞ!火を吐いてやると実演して脅してもだめ。
慌てたナシラが説得しようとするも功をそうさず。

そのままオレはレギンと共にいざるを得なくなった。


 本当はちゃんと理由がある。
“声”が聞こえていたから――。
オレの名を呼んでいるような。いや、もっと漠然とした何か。
それにようやく“みつけた”と思えたから。
この子供の側にいたいと。
引き寄せられるように、この子供の魂に惹かれるなにかを感じて。
オレはようやく求めていた何かに触れた気がしたんだ。

――だから了承した。
自ら、この子の運命とやらに、自分自身を丸々と賭けてみたくなった。


 とはいうものの。獣歴が長すぎるわ、人とは距離を置いていたしで、人の子どもの成長具合なんてわからない。
どうしたらいいかわからなかったから、レギンの魂の波長に自分のそれを合わせて、彼に合わせて成長というのを学ぶことにした。
 レギンになんとかしてオレの身体をつかむのをやめさせると、オレはあいつに顔を近づけるよう促した。
「う?」っと、不思議そうにしながらも伸ばされた子供の手に、オレの獣の手を重ねる。
触れた場所から彼の体温を感じ、そのぬくもりに呼応するように、ふわりとオレの身体が人型に変化する。

「大丈夫だ。オレに呼吸を合わせろ」
「にゃぁ?」
「ふふ。いいこだ」

 オレの言葉などまだ理解できるはずもないが、レギンがくすぐったそうに笑う。
その綺麗な空色の瞳に、大丈夫と再度笑いかけ、レギンの振動数を聞くように目を閉じて意識を集中する。
 オレは音を聞く。魂と呼ばれ、エアルとよばれる万物の根本にある音を。
それを操るすべを養父スパイラルドラコの聖核を通じて、あやつることができる。
そうやって自分の中の体内エアルを操り、幼子の振動数に自分のそれを合わせていく。
身体の周囲を春風のような温かい“音”がつつむ感覚とともに、身体が別の何かに作り替えられていく感覚に眉をしかめる。
痛みはないが随分と不快だ。
でもオレとこの子の相性はいいらしい。
はじめからオレとレギンの振動数は似ていた。
『似ている』だけの存在が、『同じ』になっていく。
それはオレにとってはとても温かいもので――。
レギンとオレの身体を構成する物が、一度離れて混ざって再構築されるような、魂がイコールで繋がり、中から変わっていく感じ。
どんどん体が心の真からポカポカしていく。

あたたかい。

それはレギンも感じているのか、オレを不思議そうにみやるレギンに、まだもうちょっと我慢してねと、その手を強くつかむ。
そのまま同調を続け、レギンから響いてくる音色に身体をゆだねる。

リーン ゴーン 大きな鐘の音が響いた気がした。

 人型だと17歳ぐらいだったオレの姿が、次に目をあけたときには、レギンと同じ1、2歳の子どものものに変わっていた。
 レギンの魂の音に酷似したリリーンと高く澄んだ鐘(ベル)の音が、オレたちを祝福するように耳元で聞こえた。

―――トクン トクン

「ぁう!とっくぅ?」
「ああ。一緒だ」

 自分の心臓の音と、目の前の子どもの心臓の音が同じ音を刻むのを感じた。
相手もそれを感じたのかふにゃりと笑顔を浮かべると、手を放して、かわりにすっかり縮んだオレに向けて抱きつくように飛びついてきた。

 やっとわかった。オレの名を呼んでいるようなこの子から聞こえていた音の正体。
感情が何かもわからない子どもから伝わってくるもの。
知識も言葉もなにも介さない。
こどもから伝わっていたのは、『想い』。

意思。

印象や心象が直接伝わってくる。感情を伝えるなにかしらの言語を通さず、感覚と直感で語られるそれに、言葉や理論はない。
とても簡単でいてとても複雑な、音を伴わぬ会話。

そこから伝わるのは―――オレたちが“同じ”ものであるという喜び。


「おおー。光がまとわりつくようだな」
「エアルが、レギンの『嬉しい』という感情に呼応しているんだ」
「さすがはルーク。始祖の隷長ならではだなぁ。
ベリウスはともかく。たしかエルシフルは自在に年齢を変えられたよな。お前が縮んだのもようはあれといっしょか?」

 感心したようなナシラに、苦笑を返す。

「ちょっと違う。オレはできないよ。成長の仕方なんて知らないから。
今はレギンの魂にオレの波長を合わせたんだ。だからレギンが成長すればオレも成長する」
「へぇ〜便利なもんだ。あ、でもそれならどんな奴とでもその波長とやらを合わせれば、お前の姿もエルシフルみたいに変化するんじゃないのか?」

 のばされたレギンの手を取るとぎゅっと嬉しそうに抱きついてくるこどもは、同じ体系にまで縮んだ今の自分では支えきれず、一緒くたでコロンと地面に転がってしまう。
それでも互いが同じ存在だとわかるからか、離れようとするどころか笑顔ではしゃぐこどもを今度こそ抱き留める。

「なれないよナシラ」
「どうしてだ?」
「魂の奏でる音色は、一人一人違う。同じなんてありえない。
オレがどれほど特殊な能力を持っていたとしても。こういうのはきっと一度が限度。
一度魂のあり方を変えてしまえば、二度目はほころびが出て魂そのものが壊れてしまう。変えることはできないんだよ。
本当は陰で見守ろうかと思ってたんだけど、さっきレギンに触れてわかったんだ。オレたちの魂の波長が似通っていると。
互いに魂が無意識に引き合うほどに酷似していたからできた芸当さ」

もう二度と変えることのできない魂の音色――。


「!?……すまないルーク。レギンのために。
感謝してもしきれない」

 レギンと同じ鼓動を刻むということは、命をささげたも同じ。
成長速度も一緒なら、どちらかが死ねばもう片方も死ぬ(あくまで可能性だが)あるということ。
 オレの言葉の意味を正確に理解してくれたらしく、普段のおちゃらけたような陽気な表情を消し、ナシラは皇帝として、同時にレギンの兄として、まっすぐオレをみつめ、若干険しいまでに真剣なまなざしで礼を述べた。
オレはそれに首を振る。

 ぎゅっと腕の中のこどもを抱く手に力を入れる。

「いいんだ。これはオレの意志」

 それでいいんだ。後悔なんかしていないし、あなたが悔いる必要はない。
だって、共にいたいと願ったのは、オレ自身だから。
それになにより、ナシラには感謝しているんだ。
 だって、ナシラは、オレに人を愛することを思い出させてくれた。
オレの伸ばした手をいつもアイフリードやホワイトホースとともにとってくれた。
なにより――。

オレに、居場所(カゾク)をくれた。


 この温もりは、オレの対。
オレの半身。
もうひとりのオレ。
双子のようで、それよりももっと近しい存在。
互いに互いの“音”を感じている。
それがどんなに幸せで、心が温かくなるか――魂が繋がっていない人には、この感覚はわからないだろうが。
オレは守ろうと思える存在に出会えたんだ。


そばにいる。
――うん、そばに いるよ

 きゃっきゃとこどもの笑い声とともに、相手の感情がオレの内にじかに響いて届く。
それがくすぐったくて、相手もこの温もりに喜んでいるのを知り、嬉しくてうれしくて――。





オレなんかの側にいてくれるの?

――ズット。ズット…ソバニイルヨ










 オレも道をみつけた。
歩むべき未来(サキ)のしるべ。

オレの『凛々の明星』は、手を伸ばしたすぐその先に――。













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オレがだれであろうと、オレのどこかに“ルーク”は残ったまま――
だけど変われるって、前に進むことができるのも
教えてくれたのは“ルーク”だった











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