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03.星を喰らうものと祈りの声 |
"それ"がおとずれ、世界は暗闇に覆われた。 光を取り戻したのは、だれだったのか・・・。 オレが生まれて幾星霜。 月は何度沈んで、何度太陽が生まれたあとだろう。 世界に “災い” が訪れた。 それによりオレはたくさんの同胞を失った。 その“災い”の名を ―――星喰み ========== side 夢主1 ========== オレはだれもいなくなった世界で、体を丸めるようにして巨木の洞の中で、小さな獣の身体を丸めて眠っていた。 懐かしい記憶が、壊れた映写機のように、繰り返される。 眠りにつくと夢を見る。 それが前世と名のつく過去のものか、あるいは今を生きるオレのことか。 ああ、これは――優しい始祖の隷長と… それ以降の世界の記憶。 * * * * * 当時人間の世界は幾重にも文明を重ね、衰退と発展を繰り返していたからには、オレと "しろきもの" の暮らしはそこそこ長く続いているのだろう。 人型にもなれる始祖の隷長どうしということもあり、オレは "しろきもの" により人間のなかで暮らす方法も指導を受けていた。 前世の影響で人間にあまり好感を持てない…怖いとさえ思っているオレに、彼女は、人間に慣れるようにと、人間のなかで暮らすよう言ってきたこともあった。 結局はなじめず、観光のように数日いただけで、一ヵ月とたたずに、オレは元の姿に戻って人の傍を離れるのがオチだったが。 そうこうしているうちに始祖の隷長のなかにも変化があった。 数多の同胞達が生まれ、世界は滞りなくめぐっていた。 しかしそこに"災い"がふりかかる。 我らの営みが廻るということは、それは人の世もまた同じ。 彼らは技術面で進化を遂げ、それとともに彼らの文明とやらは発展していった。 気が付けば人は、機械で空を飛ぶ術まで身につけ、空間を越える術まで編み出した。 けれどその技術が、やがて世界に滅亡を呼んだのだ。 【星喰み】 それは、技術の進歩の裏に、ずっとあったものだ。 人のその発達しすぎた科学。その技術革命の代価が"それ"だった。 消費しすぎたエアルに比例して"それ"は増えつづけ、やがて世界を覆い尽くさんばかりに広がった。 それこそが“災い”であった。 星喰みについては、始祖の隷長として知識や魂の感覚として知っていたが、オレはそのときはじめて“それ”を目の当たりにした。 それはおかしなふうに歪んだエアルだった。黒く黒く染まったそれは、闇というのにふさわしかった。 それこそが“災厄”。まさにそう呼ぶのに納得せざるを得ないほどに、禍々しい姿をしていた。 結局当時の人の発展とは、なにかを犠牲にすることで得た技術であり、それが災厄となって世界を覆おうとしたのだ。 その禍々しきものの出現により、暗闇が世界を覆った。 そのとき、オレのもとには、あふれかえんばかりの「悲鳴」が飛び込んできていた。 耳をふさいでもその悲鳴のような音は聞こえ、オレという存在を媒体に世界は悲鳴を上げていると錯覚しそうなほどだった。 オレは、元から普通の始祖の隷長よりもエアルに敏感で、そのエアルというかもっと根源の・・・万物の流れを察知する能力に長けていた。 そういう根源の流れをオレは“音”として聞き、魂でそれを感じた。 《星喰み》が世界に現れた時、オレに届いた音色は、エアルの異常な上昇と、空から聞こえてくる世界の嘆きそのものだった。 耳をふさいでも鳴りやまないあまりの音の乱舞に、オレは少し錯乱していたように思う。 あまりのことに、精神のバランスが崩れ、あげくエアルの調整どころではなく暴走をおこし、身体が砕けそうになった。 そこで空を覆う闇をきりさくように飛び出していったのは、 "しろきもの" だった。 彼女はスパイラルドラコにオレのエアルを安定させるように言い残すと、ひとへ交渉を持ちかけた。 ――そして彼女は二度と帰ってはこなかった。 いや。そういうには少し語弊があるか。 彼女は一度戻ってはきた。 ただし、元の美しい姿をとどめずにだ。 そのときの姿はいたるところ“くろいもの”に飲み込まれて腐敗し、えぐれ、身体のあちこちは何かと戦った後を色濃く残した傷に覆われ、あちこちを闇がはいずっていた。 そうして彼女は、オレとスパイラルドラコの目の前で。辛いだろうに痛いだろうに、笑って「楽しいときをありがとう」と・・・消えた。 最後は“やみ”が一気に膨張し、まるで漆黒の炎が "しろきもの" の全身を包み込むような、燃えているような光景をうみだし、彼女の白い身体は血と黒で塗りつぶされた。 そうして炎は "しろきもの" を飲み込んで、宙にとけるように骨ひとつ残さず消えたのだ。 その光景に耐えられなかったのか。 あるいは断片とはいえ《星喰み》という巨大な歪みに触れたためか、はたまたその“音”を直接間近で聞いてしまったからか。エアルにあてられたのか。 オレはそのあとのことをしらない。 意識をうしない、倒れたまま、オレはずいぶん長い間眠り続けていたらしい。 次に目を覚ましたとき、側に "しろきもの" のあの温かい気配は無く、スパイラルドラコが静かに横で丸まっていた。 彼に聞いたところ、《星喰み》は人の技術の総力を集めた技と複数の始祖の隷長の協力のもと、災厄は遠のいたという。 始祖の隷長がどう対応したかのその詳細は、口ごもるスパイラルドラコをみていたので、聞くことはできなかった。 そこで人の文明はそこで一度閉ざされた。 しかし彼らはあきらめることを良とはせず、それでもと今できるせいいっぱいを生きていた。 オレが寝ていた時間は思いのほか長かったようで、幾度かの睡眠と目ざめを繰り返しているうちに、しだいにスパイラルドラコにも老いがみえはじめた。 人の世界も変わり、あれほどまでの繁栄を極めていた彼らは、いつのまにかむかしの時代を思い返す暮らしぶりをしていた。 空には、みたことのない星――《凛々の明星》というらしい――まで浮かんでいた。 一瞬違う世界に来たのかと思ったが、どうやらあの《星喰み》がひきおこした事情を食い止めることは出来ず、結果空に巨大な結界を作り出すべく衛星とともにあれらを打ち上げ、地上からその星をサポートする巨大な魔導器をつくり、ゆがみの侵略を防いでいるのだという。 それからまもなく、スパイラルドラコも寿命を迎えた。 * * * * * 夢見の悪さに住処から這い出てみれば、空はすでに日が沈み凛々の明星が人工物を思わせない輝きでもって空を照らしていた。 いつの時代の夜なのかはわからないが、寝てからまたずいぶんと時間が流れたようだ。 あの一等星が輝いているということは・・・ 『《星喰み》はいまだ空の彼方・・・か』 完全に消すことが出来なかったというそれに、思わず空を見上げ耳を傾ければ、微かに聞こえるのは遥か向こうから響く歪みの音色。 リンと鳴るような鈴のそれではなく、低い汽笛に酷似したそれ。 さわさわさと沢山のなにかが囁くようでいて、ずっと何かを訴えかけるように悲哀の感情が伴うそれは、ひいては返る漣のよう。 あのなかのひとつには、 "しろきもの" のものもあるのだろうか。 もしも魂というものがあるのなら。 あの嘆きに満ち溢れた闇に取り込まれた "しろきもの" が…。 穏やかな笑顔の似合う彼女には、どうか・・・苦しくみはありませんように。 願わずにはいられない。 どうか夢の中だけでも―― “星”の苦痛が和らぎますように・・・ - - - - - - 哀しくて優しい夢を見た |