|
02.前世からの因果 |
死にたくない!! その声も 伸ばした手も なにもつかむことはなく どこにもとどかなかいことを知った ――それは 遠いむかしのこと けれどオレは今もまだ その呪縛に囚われている ========== side 夢主1 ========== おかしな話だが、オレにはどうやら生まれる前の記憶というものがあるようだ。 人は怖い。 そう思っていた時期があった。 理由はわからない。 ただこの世界に生まれ落ちたときには、すでに “そう” だった。 それこそが、オレに前世の記憶がある証。 生まれたばかりのオレにはなにもない。だって目が覚めたばかりなのだから記憶も性格も何もなかったのだ。そこへ、前世と思われる記憶が部分的に蘇ったことで、オレという人格が形成された。 ゆえに、オレは前世の記憶に強くひきづられる瞬間が多々ある。 たとえば。 人が怖いと感じるのは、前世のオレが普通の人間ではなかったせい。 人間は自分にとって都合がわるくなるとすぐ捨てるのだ。 かれらはとくに “仲間” という定義のもとに集まると、恐ろしい力を発揮する。 違うものを排除する生き物だから。 だから・・・人間ではなかった当時の自分は置いていかれたのだと思う。 おれはこの世界に生まれる以前はきっと、いつかどこかで、誰かに置いていかれたのだろう。 それと同様に、人は怖いもの。 仲間は横にいて、でも傍にはいないもの。 なんでかそう思っていた。 そう思わざるを得なかったんだ。 それがなぜかは分からないが、ただ前世の感覚から、家族も仲間も―― “そうゆうものだ” とささやくのだ。 でも本当は知ってるんだ。 家族の暖かさも仲間との助け合いも、どれだけ大切かも知っている。 オレはしっていたはずだだ。 だって自分はいつも仲間にかこまれていたのだから。 オレはもうその記憶さえないけれど、家族も仲間もどの転生先にも必ずどちらかはいて、その周囲はいつも暖かかったのだけは忘れていない。 だけどもうオレはそれらをはっきりと思い浮かべることはできない。 なんとなく “そうであった” という感覚だけを漠然と覚えているだけ。 けれど・・・。 この世界に来て。 ヤ サ シ サ ふいにそれがおそろしくなった。 白い始祖の隷長にひろわれ、その彼女の義妹だという狐のような始祖の隷長につれられるがままに人里へいき、人と接しようとして――。 ふとしたことがきっかけで、思い出した〔記憶〕がささやくのだ。 "それ"がいつの転生時の記憶とかは分からない。 ただ強く強く一つのイメージからすべては浮かび上がる。 そういうときは、決まってはじめに視界が一瞬紫に染まる。 紫の空が脳裏をよぎる。 ことば ことば ことば ことば、こ と ば ・・・。 死 に た く な い シ ニ タ ク 生 き た い モ ッ ト イ キ テ イ タ イ 「私わたくしは……私たちは、あなたに生きていて欲しいのです! お願いですからやめて下さい!」 「俺だって、死にたい訳じゃねぇ。……死ぬしかないんだよ」 投げかけられるそれはいつも痛かった。 けれど泣くことさえ許されず。 おれは"彼ら"が望む人形であることを 笑って承諾した 言われたんだ。 ――世界の為に死んでください――― シニタクナイ! そんな、だれかの声が聞こえる。 助けてと声を出そうものの、すでに〔過去のおれ〕が死ぬのは決定されているようで、「すまない」その声に〔おれ〕はすべてをあきらめて頷くんだ。 思い出すのはいつも〔レプリカ〕や〔オリジナル〕のことだけ。 そのときの自分は・・・ルークと、 レプリカルーク と呼ばれていた。 オリジナルであれば、その名は アッシュ と呼ばれていた。 けれどどちらも【ルーク】であった。 オレが転生者であるという確信はあるのに、他の世界で生きていたときの記憶はひどくあいまい。 なのにルークだったときの出来事だけが、鮮明にフラッシュバックするのだ。 それはたぶんたくさんの転生人生の中で、ルークとしての人生が最も濃いものだったか、あるいはその人生が今世に最も近い前世だったかのどちらかだ。 ――オレが 【ルーク】 だ。 けれどその記憶とて、すべてじゃない。 たまにふとした拍子に思い出す程度。 オレの中にたくさんの記憶がある。 それは本当に自分が経験したことなのかさえわからない。 オレの中にある記憶はいつも曖昧で。 こんな記憶ばかりならいらないのに。 はじめからなにも覚えてないほうがよかった。 記憶があるからわけがわからなくなる。 記憶があるのに、記憶はない。 正直なところ、オレが“だれなのか”と問われると、答えようがなくて、たまにどちらが現実でどれが本当の自分なのか分からなくなる。 たぶん〔レプリカ〕のそれとて、オレの過去の一部なのだろう。 そうした記憶を思い出すのだから、間違いなくオレは〔レプリカルーク〕なのだとは思う。 ただしそれだけではないとも思えてしまう。 それは、ひとえに忘れ去った別の過去の記憶ゆえか。 それとも〔オリジナルルーク〕としての記憶からか。 二人分の【ルーク】を過去の記憶としてもつ。そんな今ここにいる〈オレ〉は、【ルーク】とはまた別の“だれか”のような気がしてしまう。 いえることは、今ここにいるオレがオレでしかないということ。 そんな風に前世の記憶と今の差異に困惑するオレに、オレを拾いこの世界の知識を与えてくれた白い始祖の隷長が新しい名前をくれた。 ―――― それが、前世と同じ名前なのかはわからない。けれど「レプリカ」や「アッシュ」と呼ばれる以上にしっかりとその名は今のオレの中に響いた。 しかし人の姿になるとどうしても【ルーク】としての自分が強く出る。 過去があるからオレがいる。 怖いことも辛いと思うことも"それ"があるから、感じることができるのだと、オレは知っている。 だからオレは、“”という名前の他に、自分を形成する多くの記憶の象徴である “ルーク” の名前も。また自分のものだと知っている。 それはきっとオレがオレでいるためのもう一つの名前。 この世界に生まれた始祖の隷長のオレの名前は〈〉。 な ま え ―― なんて素敵な響きだろう。 だれかのものでない、自分だけの名前があるというのは、なんて胸を躍らせてくれるのだろう。 こいうとき、前世では自分だけの名前というものはなかったのだと、思い知らされる。 けれどその分、今のオレは愛されているのだともわかってくすぐったくなる。 やさしい世界。 たしかには覚えてはいなくとも。オレは前世をこうして覚えている。それは生まれて死ぬまでの記憶。虫食いだらけのそれでも。 その影響力はまるで魂に刻みつけられているかのように、以前していたことは身体が覚えていた。 だからこの世界では生まれたばかりのオレでも無意識にいろんなことが出来た。 剣術も料理もその一つ。 空が空だと川が川だと分かったり、生まれて初めて持ったはずの剣を軽々使いこなしたり、調理用具をそろえれば気が付いたら美味しい食べ物が出来ていたとか。 そう。オレの根本は、前世という過去があるから――― 《いいかげんにせぬか!お前が昔の記憶をひきずっているのは百も承知。じゃが姉様に頼まれたわらわの面目がたたぬ》 『むー』 人間でいうなら、いい年した?妙齢?まぁ、金髪の人間の女に姿を変えた始祖の隷長仲間のベリウスがキッと睨んでくる。 きつめの整った顔がそれでさらにきつくなるので、人間の顔の吉し悪しとかわからないオレでも怖いと思う。 けれど。 これだけは譲れないんだ! わかってる。わかってるんだ。 “これ” もまた前世に影響を受けたせいだということは、わかりきってるんだ。 それでもこれだけは譲れない。 そうやってオレがかたくなに、ソレを拒否していたら、ベリウスはぁーっと深いため息をついて、グサリと銀色の閃光が目の前の物を貫いた。 人嫌いを何とかさせようと人のまねごとをさせられた時、生まれて一か月しかたっていなかったのに料理ができた。 剣も扱えた。 教わらなくても もの の名や使い方を知っていた。 生まれてすぐだというのに、言葉の意味だってわかった。 それらはすべて前世の影響。 前世という魂に刻まれた経験があるからの・・・ つまり――― そう。前世の記憶というのは、オレという形を作りあげていると同時に、強烈に "今の自分" に作用するものであるということ。 「ならば。わらわが手を貸してやろうではないか」 『だっ!だれが!!』 目の前には、人の姿でふりふりレースのエプロンをつけたベリウスが、皿を突き付けてくる。 その上には、オレンジ色が鮮やかな―― 思わず顔が引きつり、拒否反応が如く全身を “ソレ” からそらそうとするも、ガシッっと肩をつかまれ逃げれられない。 「逃げるでないわ!」 『むりむりむり!絶対嫌!ってか、そんなことしたらオレは死ぬ!!』 「死ぬか!!」 『やめろー!!!!』 「食わんかぁっ!」 『お、叔母上まじでやめ・・・・っ!!!!ストップ!ストップっ!!やめろぉーーー!!!!って、にぎゃぁぁぁぁぁ〜!!』 銀色のフォークに串刺しにされたそれは、ニンジンのソテー。 一口サイズに切ってはあるが… それでもニンジンはニンジンだ!!! 前世の影響凄まじし。 なんと嫌いじゃなかったはずのニンジンが、【ルーク】としての記憶が戻ってからは嫌いで嫌いでしょうがなくなったのだ。 【ルーク】になるさらに以前の前世では、ニンジンなんか平気だった気がするのに・・・。 以前は嫌いなものといえば、甘いものとあぶらっこいものだけのはず。 なのにいまは、どうしてもあのオレンジのニンジンだけは嫌でしょうがない。 これはおかしい。おかしすぎる。 それでもおかしいとは思ってもニンジンだけは食べたくなくて。 つまりそれほどまでにオレの中で【ルーク】の影響力は強いということ。 他の野菜とかはすぐに克服できたけど、どうしてもニンジンだけが受け付けなかった。 間違いなく【ルーク】の影響に違いない。 とはいえ、まぁ、ニンジンなんて、なにかの調理の脇役にしかならないので、ニンジンメインのメニューなんかあるわけないとたかをくくっていたのだが。 それにほら、オレって始祖の隷長田から、この世界で食べ物を食べる必要も料理をする必要性もなかったんだ。 だから大丈夫。 ――そう思っていた時期がありました。 人間と仲良くなるためには、始祖の隷長でも食事ってたしなみとしてするらしい。 それが栄養になるかはさておき。 しかもしろきものもベリウスも始祖の隷長らしくないほど、人間好きでしたね!! 料理ぐらいしますよねぇ。 「くわんかぁぁあぁ!!!」 『ふぉっぐっふぅ!?!!!』 イヤヨイヤヨとやっているうちに、ブチリときれたベリウス叔母によって無理やり口の中にニンジンを突っ込まれた。 好き嫌いうんぬん以前に吐き気がしましたよ。 つっこみすぎじゃ!!!! - - - - - - 転生人生しょっぱなからアウトです。 さっそく事件ですよ。 すべては転生のせいです。 なにがって 『うぇ・・・ニンジン・・・まずっ』 オレが、ニンジンを食べれなくなった。 チキンがとてもおいしく感じた。 ―――肉を食べる “チーグル” ってありだろうか? |