片 翼 の 獅 子
†+ 第二部 Tales of th e Abys s +†



13.キムラスカ期待の星





 侵入者とルルーの衝突により、ファブレ邸の庭に光が発生したとき、響いた歌があった。
それは強く強く光り輝く渦の中、超振動からくる震えが空気を揺らす音だった。
まるで歌うようなその鈴の旋律は、広がる光と共に屋敷中に響きわたり、譜歌により強制的に眠らされていた使用人たちの目覚めを促し、怪我を負ったものを一瞬で癒していった。
 光が消えた後、そこにはルルーも侵入者の姿もない。
庭にいるのは、悪趣味にとがった服をきている若年寄りなヒゲヴァン・グランツだけだった。

「メシュティアリカ!しまった!時期がすべて早まったのか!」

 庭の地面を悔しげにたたき、ひざまづいていたヴァンだったが、これはただちに行動に移さねばと呟くと、駆けつけてきたシュザンヌやクリムゾンに軽い挨拶だけをしてその場を去ろうとした。

「ヴァン・グランツ。どこへ、いくつもりです?」

 声を上げたのは、シュザンヌの側で青いドレスをまとった桃色の髪の少女だ。
ニコニコと可憐に微笑む少女に“以前”を振り返っても覚えのないヴァンは、いぶかしげに眉間を持ち上げるが、この世界が自分が記憶しているものとすべてが同じとは限らないのだったなと先刻のティアのことを思い出して呟き、姿勢を正す。

「私はこれよりルーク様の捜索に当たります」

 前回はそれでさっさと開放されたのだ。
早く後を追うか先回りする必要があった。
そうして一礼してすぐにでも屋敷を出ようと背を向けたヴァンの正面を影がよぎった。

「おーっと。なに逃げようとしてやがるおっさんよぉ」

 キンと鞘から刃物が抜ける音と共に、のどに冷たいものが当たりヴァンはぎょっとする。
振り返った先。
すぐ目の前には、見たことのない黒髪に黒い服の青年が、その緑の瞳を剣呑げに細め、その抜き身の刀の先端を自分ののどに突きつけていたのだ。
気配はなかった。
よぎった影は、目の前の相手が動いたせいだと気付いたが、今から彼に対抗して剣を振るには距離が近すぎる。
思わず内心でしたうちをして、必死な顔を作って、ここから出るための算段を働かせて口先を動かす。

「る、ルーク様が誘拐されたのですぞ!なにを悠長なことをしているのだ!そもそも貴様はファブレの者ではないだろう!」

「やれやれ。たしかにファブレの者ではないがな。だがこのキムラスカで、俺に命令口調でものを言う人間がいるとは驚きだ」
「でもユーリ。ユーリはいつも堅苦しい言葉遣いが嫌いじゃないですか。だから勘違いされるんじゃないです?使用人Gとかもそうだったじゃないですか」
「エステル。お前、俺のことけっこう嫌いだろ」
「そんなわけないですよ。ただの事実です」
「とはいえ、俺だって場はわきまえるぞ。今は賊相手にかしこまっても意味がないだろ」
「しかたないですね」

「・・・おまえたちは、何者だ?」

「そっくりそのままお返します」
「おなじく返すぜ。本当にあんた何様だよヴァン」

「関係ない侵入者に話すことなどない!」

「ファブレに関係あるなしは、あなたが知る必要のないこと。 ですが知らないと言うのは困った者です。その方に対して無礼ですよヴァン。そういう貴方こそ侵入者ではなくてヴァン謡将?」
「「シュザンヌ様!」」
「ユートゥリス様。エステリーゼ。さがりなさい。ただし逃がすことのないように」
「「はい」」

「公爵夫人。わたしにルーク捜索の任を」
「許可も得ず入ってきたかと思えば、導師がさらわれた?《ルーク》の剣の稽古?わけのわからない戯言を。 それがどうしたというのですか。私どもにそちらの事情をばらして、トップがいない今にでもダアトを攻め落とせとでもあおりにきたのですか?
ましてや貴方は導師を守護すべき騎士の一人。その任をほうりだして、どこにいくおつもりですか?」
「ですがルークとともに消えたのは私の妹です!責任は私に」

「いもうとだとぉ」「妹・・・です?」

ヴァンの言葉に反応したのは、ユーリとエステリーゼだった。
自分の妹は少し横暴なところがあるがまだアレよりはましだとブツブツつぶやくユーリ。 エステリーゼは末であるがために妹がいるなど想像もできないが、「あんなのがです?」と思わず驚きに大きな目をさらにおおくさせて、 まぁと口元を手で覆っている。

「しつけがなってねェな」
「たしかに責任はありますが…」

妹と言われ自分の妹と比べていたユーリ達はひとまず落ち着いたのか、状況判断から、 「兄弟」という単語に苛立ちを載せる。間もなくやってきたのは、妹だとつげたヴァンへ向けられた微量の殺気。
そんな二人に苦いものをかんだようなヴァンに、シュザンヌはもう一度言葉の意味を強調するように同じ言葉つげる。
「責任ね」と――。

「ええ、そうですね。なら責任は重大。裏切ったと彼女は貴方に対して言っていましたね。ならばあなたはもとから計画を知っていたのでしょう」

 淡々と告げるシュザンヌの言葉には感情は宿っておらず、その美しい美貌がさらに鋭利さを際立たせ、さすがのヴァンもその鋭い視線に一瞬顔を引きつらせる。
これがあの寝込んでばかりいたシュザンヌと同じ存在だろうかと、ヴァンが渇いたのどへ唾を流し込んだところへ、今にも処刑宣告でもしそうなほどに殺気立っていたシュザンヌをとめるやんわりとした声が上がった。

「シュザンヌ様、お体に触ります。もどりましょう」

 そっとシュザンヌの手を握り彼女から殺気を和らげた先程の少女に、ヴァンは内心ほっと安堵し、 あとは目の前のユーリと呼ばれた青年だけだと視線を戻そうとしたところで――

「ご安心をシュザンヌ様。後はわたしがやります。身元ごと引き受けさせていただいてもいいです?」
「ええ。あとはまかせたわエステリーゼ」

 ニッコリと微笑む桃色の少女が、奥にいたクリムゾンのもとまでシュザンヌをエスコートし、 その細い手を渡すと、クリムゾンは「後を任せる」とうなずいて彼女の手を労わるようにとるとシュザンヌをつれて屋敷の中へと戻っていく。
そして桃色の髪の少女はくるりと笑顔のままに青いドレスを揺らしてヴァンに視線を戻すと、優雅にドレスのすそを持ち上げてお辞儀をする。

「ファブレ分家ヒュラッセインが第四子エステリーゼ。参ります!」

 にっこりと微笑んで顔を上げた少女は、名を乗ると同時にスカートのしたから瞬時に剣を取り出し、 ヒールにもかかわらず信じられないスピードで身動きのできないヴァンに詰め寄った。








* * * * *








「ユーリ!」
「はいよ」

 エステリーゼの一撃一撃は重く、合間合間に手を挟んでいたユーリの動きは予測が難しい体術がメインの攻撃。
いつのまにかヴァンはすっかり二人の動きに翻弄されていて、屋敷を出るどころではなくなっていた。
少しでも気を抜けば、鋭いツキのような形で少女の剣がきりつけてくる。
逆に舞うように剣を投げて、フェイントのように拳やら蹴りを繰り出してくるのがユーリだ。
手を抜けない連撃を繰り広げる貴族の令嬢子息に対し、ヴァンの額にも汗が伝う。
 そこで少女の一声と共に側にいた黒い青年がさも楽しそうにどこからともなく鎖を取り出した。
それとともに詠唱を完結させていた少女からとんでもない威力の魔術が発動する。
「セイクリッドブレイム」と彼女が最後の言葉を述べたと同時に、光の十字架がヴァンをねらって光が爆発した。

「おおー。怖い怖い。キムラスカの王族筋の女はどうしてこうも容赦がないというか、はんぱないかね。うちの妹なんかもうシュヴァーンにつぐ弓の名手だぜ」
「ならユーリも女に生まれればよかったですね」
「遠慮すんぜ」
「じゃぁそのうち一緒に訓練します?」
「なにも起きなければな。どうもうちの男どもはたいがいトラブルに巻き込まれるというか、何か憑いてそうなの多いよなぁ。 女は武芸の達人ときているし・・・キムラスカこえーな」
「男性陣の筆頭はユーリですね!お茶会によばれてお菓子目当てだっただけなのについて早々誘拐事件に遭遇するなんて。さすがユーリです」
「やっぱ何か憑いてんじゃねーのうちの家系」

意識はあるものの身動きができなくなったらしいヴァンとは逆に、ユーリやエステリーゼや周囲にいた騎士たちの力が若干回復している。
エステリーゼが放ったのは、そういう技だ。そんで秘奥義だ。
光が消えた後は動けない相手を確認し、ユーリとエステリーゼもいつもの調子に戻る。
そのままのんびりとした歩調でふたりは、地面と熱烈なキスをしたまま動けずにいるヴァンに歩み寄り、どおことなく喜々としたユーリによって、見るも無残な姿をさらしつつもまだ意識がある(びっくりだ)ヴァンは一気にしばりあげられた。

「どうよリタ特性。音素封印術式の刻まれた鎖の味は」
「ナイスですユーリ!」

 その日、ヴァン・グランツはお縄となり、城の地下牢に入れられた。








* * * * *








 ルルーがファブレ邸から消えてから一日目の深夜。
丸く美しいツキを眺めながら、シュザンヌはその憂い顔に笑みを張り付けクリムゾンをみやった。

「おそかれはやかれ、どちらかの《ルーク》がこうなることはわかっていたことです。
すでに捜索にはマルクトの協力を仰いでおりますし、凛々の明星も動いておりますわ。
あの子は大丈夫でしょう」
「そうだな。どうやらわしらが思う以上にあの子にはローレライの加護があるようだ」
「ええ。っと、なるとあとはあのヒゲをどうやて逃げないようにしておくかですね」
「さっさと処刑できればよいのですけどね」
「大きく変動しすぎれば別の未来が生まれ、そこで理は正される。だったか?」
「ここでヴァンを殺せばもっと別の大きな脅威が現れる。ということだと聞き及んでおります」

 クリムゾンはシャザンヌから聞かされていた未来を思い出し、あまり動かない表情を険しくさせる。
 未来を知るから変えようと思うのに、それをやりすぎると別の未来が発生してしまい、 敵が違うと言うだけで起こる現象はかわらず、結論としてはやがては同じ道をたどるのだいう。
だから表だって大きく動くことがでかいないと、シュザンヌは言う。
しかし戻ってきてはいないとはいえクリムゾンは、未来の事情を知ってしまっている。
今、ヴァンをどうこうすることも、いまのうちにローレライを解放することもできないことに、歯がゆく思うのはどうしようもなかった。
なにより戦争など起きてみろ。この世界はだれが見守っているのか。
それを考えただけで、大きく変えてしまったりして、未来に血を流したくはなかった。

「あまりあのこの世界を壊したくはないのだがな」

「そうですねぇ。ここはあのやさしい子の夢にも等しい世界。世界を壊すことも大きな争いで大地を血で染めることも〈ルーク〉のためにしたくはないですね」
「わたしはしらないが、別の運命をたどった未来を君は知っている。
この世界が暖かいのはもうひとりの〈ルーク〉によるものだと、わたしは貴女から訊いたから知っている。
・・・今度は、救えるだろうか。“こどもたち”を――」
「そのためのチャンスをもらったのだと私は思っていいます」
「・・・前回とは違う未来をたどっているのだとしても。子供たちにとっては」

 シュザンヌが悲しそうに、けれどその瞳に強い意志の光をたたえてクリムゾンに頷く。


「――長い旅になりそうだな」


「ええ。その分全力でサポートしましょう。私たちは私たちのできる範囲で。こどもたちが全員笑って帰ってこれるように」
「死なせはしない」

 未来は変えられる。
予言は道しるべにしか過ぎない。
予言に従わず、人は歩いていけると言ったのはだれだったか――

いま、そのことばを言う者はいない。










女の人は怖いな〜って話と
キムラスカの王族ってトラブルメーカ多いよねって話

TOVめんつは二週目扱いで最強レベル♪…だといいな。
さてさて。いったい誰が戻ってきていて、誰が記憶ない一週目なのか。
まだまだ続きそうです





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