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11.星の望む焔 |
男の視線の先、窓から見渡せるその雲一つなく晴れ渡る昼時の空に、ふいに白い線が一つ走ったのはそのときだった。 同時に大きな音素の揺れを肌でビリリと感じた。 一瞬魔物の襲撃かと思ったが、それ以降音素のゆらぎも感じず、これといってなにも騒ぎが起きなかったため、その時の男は錯覚だったのだろうと思うことにした。 しかしそれからすぐに男は、自分の考えを後悔することとなる。 騒ぎは起きなかった。 しかし珍事は、いたるところで起きていた。 * * * * * 久しぶりに研究室から外に出てみれば、城内は騒がしく落ち着きがない。 こちとらアグゼリュスの瘴気の調査の件で寝ていないというのに何事だと、研究にいそしんでいた男はある程度まとまった報告書を手にピオニーの執務室に向かっていた。 そこで待ち受けていたのは、ニヤニヤと不敵に笑う皇帝の姿。 それをみて、嫌な予感をおぼえた男は顔をしかめた。 そして聞かされた言葉に今度こそ絶句した。 瘴気に関しては、いままで資料と送られてきたもだけで研究していた。だからアグゼリュスに実質調査に行けと言われても、まぁ、そこまではゆるせたし、理解もできた。 しかし次の言葉は意味が分からなかった。 「冗談もいい加減なさってください陛下」 男の言葉に、皇帝は首を横に振り、山を築く書類処理に視線を戻す。 「俺も冗談であった欲しかったよ。せめて橋ではなく、箸を壊して奴が飯を食えなくなるという喜ばしい内容だったら歓声を上げただろう」 書類を片手にたたずむ、他の軍人たちよりも濃い群青色の制服を身にまとった銀髪の男が、ピオニーの発言に眉間のしわを深める。 ピオニーは構っている暇はないとばかりに机の書類を処理しながら、男を軽く一瞥すると、彼が手にしていた書類から視線を避けるように、 夜空に瞬く星を映す窓の外へ視線をむけた。 これ以上の書類はいらないという、それは現実逃避のようだった。 しかし軍人の男は、それを的確に理解しつつ、そらされそうだった話を戻す。 「冗談、ですよね陛下?」 「そんなわけないだろう。と、いうわけで、調査いってこい。すべての確認が取れたら、あとはアグゼリュスの方よろしくな。勅令だ」 「・・・なぜ?と、お聞きしても?」 「ん?それは“なに”たいしてだ?」 「しいていうなら――なぜ我が国の者がタルタロスを強奪したのかということと。 なぜ導師が誘拐されたのか。なぜ橋が破壊されたのか。なぜ隣国の王族が行方不明なのか。 マルクト国内のことだけならわかりますが、なぜ隣国の、それも王族が攫われたことを貴方がご存じなのかということです。 しかもマルクトの王である貴方が、なぜ誘拐犯たちがたどり着く場所まで知っているのか・・・そう、お聞きしたのですが」 「んー。まぁ、知ってるからには知ってるな」 「・・・そうですか。では質問を変えます。 研究者であるわたしがアグゼリュスの瘴気の調査にいくのはわかるのですが、 誘拐犯を見かけたら捕まえろって・・・先程の話らして、“どの”誘拐犯ですか?」 「タルタロスをかっさらっていった誘拐犯。導師の“弟”をさらった誘拐犯。キムラスカの王族をさらった誘拐犯の共犯者だな」 「まさか・・・それ全員同一人物ですか?」 「ああ、残念ながら。そいつの名前はジェイド・カーティス大尉。っと、同時に、おまえの元部下だな」 告げられた犯人の名前を聞き、銀髪の男は肩を揺らす。 そんな男にピオニーは苦笑を浮かべ、相手のゆれる赤い瞳を正反対の青のそれでまっすぐ見つめ返す。 「司令官がひきこもってばかりいちゃぁ、ダメだろ。なぁ――アレクセイ准将」 「――っでな。箸が割れてご飯が食べれなく呪いと、つま先を箪笥の角にぶつける呪いをジェイドにかけようと思うんだけど、お前、どっちがいいと思う?」 サラサラと書類にペンの走る音が響くなか、アレクセイは任務の内容からいつの間にかズレにズレまくり、もういろいろすり替わったくだらない会話に、眉間の皺を一本増やした。 いつまでこのジェイドの愚痴について付き合わなければいけないのだろうか 任務を言い渡した癖に、一向に開放される気配がない。 これは常に愚痴を聞いていたアスランという存在が不在だから、古株の自分が八つ当たりにあっているとしか思えなかった。 相手が上司であるがゆえにアレクセイの口から音として文句が発せられることはなく、 ピオニーに遊ばれているという感覚に神経をすり減らされながら、アレクセイは怒鳴りそうになる衝動を抑えるよう苛立ちを噛みしめる。 奥歯と奥歯が強くこすられギシリと音が鳴る。 「そろそろいい加減なさってください陛下」 本日何度目かの台詞だ。 そこでようやく、鉄仮面の下に感情をおしこめているとはいえアレクセイの眉間によった皺が増えていることに気付いたのか、 ピオニーはとたん「わるかった」と困ったように苦笑を浮かべた。 しかしアレクセイにしてみれば、いまだ解放されていない時点で継続中である。 「わるかった。冗談が過ぎたな」 「それはもう本当に」 「はは。まぁ、ゆるせ」 俺も最近ストレスがたまっているんだよ。と告げたピオニーに、それはわたしもですとアレクセイは思わず返しそうになった。 黙っていたのは、話が進まないからだ。 「でかけるにしても準備が必要です。用があるなら速やかにお願いします」 「あ、ああ。わるかったから、そう怒るなって。 えーっとだな。これからお前には、さっきも言ったように、瘴気の調査と言う名目でアグゼリュスへ向かってもらいたい。 もちろん実質調査は本当にしてもらえるならしてもらいたい。土地がもうダメそうだったら、すぐに住民が避難できるように道を確保したいからな。 落石があったと報告も入っているから、へたしたらマルクトからは入れないかもしれない。 そこでキムラスカを経由して入ってほしい。この件に関しては、キムラスカ側にはもう話は通してある。 キムラスカを目指す途中で、一度フレン・シーフォかシンクというやつに会うといい。彼らから次の指示を仰げ。誘拐犯もルーク様も彼らと共にいる」 「では先程のはすべて・・・」 「ああ、残念ながら事実だ。 キムラスカの王族《ルーク・フォン・ファブレ》が、ダアトのコスプレをした女に誘拐され、あげく不当な扱いを受けているらしい。 そしてそれにジェイドのやろうが手を貸している」 「王族を誘拐・・・・・・船で海上を逃げられた、いえ、タルタロスに乗っているんでしょうね。きっと」 「ん?変なところを突っ込むなお前。 いや、もっと性質が悪い。っが、そこはまぁいい。 いまはとにかく《ルーク様》を一番にお助けすることを優先したい。あの子供は世界の要だ。世界の運命を左右する子だ、丁重にあつかえよ」 アレクセイはまっすぐとむけられた視線に、表情には出さないがひそかに思った。 敵国とはいえ、時期後継者候補のひとりともなれば国にとって必要な存在。 なくすわけにはいかないと。 動揺も一切見せないピオニーに、“はるか昔の自分”を思い出し、アレクセイは一つ溜息をつくと、彼の願いに了承の意を介した。 そのとたんピオニーは嬉しそうに破顔し 「たすかる!本当に助かる!!お前がいなかったから、いまごろマルクトはイオンズにほろぼされていた。あ〜よっかった」 「ん?」 「いやさ。ジェイドが攫った現導師というのが、イオンの弟で」 「は?」 「うん?お前の所に報告いってなかったか。 うちのジェイドがとんでもない勘違いをして、自分が和平の使者だと思い込んでタルタロスを盗んだのは知っているだろう?」 「そんな話も聞いてないですよ!さっきの話にはそんな詳細なかったですからね」 「まぁおちつけって。そもそもとうの昔に和平なんてものは成立し、キムラスカと我が国は協定を結び終わっている。 それをなぜかジェイドが「新たな時代のために!」とか、変な思想の元、タルタロスを盗むは、ダアトでひと騒動起こすわで。 っで、そのためには中立の立場である導師が必要だとかで、今度は先代導師イオンと六神将が数人ダアトにいないのをいいことに、 仕事中だった現役導師をダアトから誘拐したんだと。 あげくローテルロー橋を破壊し、その先でたまたま出会った誘拐犯から逃げている最中の侯爵子息と遭遇。 そのまま、導師と子息を拉致ってタルタロスで逃亡。 驚くことに子息を誘拐した女も同行しているらしい。捕獲じゃなくて同行な。 和平の調停のために使者としていくにしても、軍艦はないだろうと俺ははげしく突っ込みたい。っが、おこってしまったことはどうしようもない。 ここまで言えば賢いお前ならわかるだろう? これ以上ジェイドを暴走させるわけにはいかない。あのトンチンカンのせいで、結ばれていた和平さえもあやしい。 むしろマルクトの評価ががた落ちだ。できればそれを挽回したい」 「・・・・・・」 なんだそれは!? 本当に聞いてない。 どれもしらない。 ピオニーによって語られたのは、どれも信じられないことばかり。 宣告告げられたのは、本当におおざっぱな概要だったのだと改めて思い知る。 しかもここまでジェイドがとち狂った状況を作り出していたなんて思いもよらない。 これはもう笑って流せる話ではなく、国交問題にも国の存続にも大きくかかわる展開ではないのか。 思わず頭を押さえたアレクセイだったが、なにかいろいろと走馬灯のようなものが見えかけそのまま意識が遠ざかりかけるのは必死にこらえた。 しかしアレクセイが自分の上司へと視線を向けると、ピオニーはニヤリとそんな効果音が付きそうな笑みを浮かべていた。 この皇帝の様なふてぶしい存在は、“以前”の自分の側にはいなかったタイプである。 そしてその笑みを見てアレクセイは確信する。 いまの会話のうちどれほどが、ピオニーの“想定内”の出来事だったのかと。 このいろんな意味で半端ない王ならば、すべてを“知っていて”ことが起きるのを待っていたとしても頷ける。 むしろ知っているから、すでにそのさらに先の先手までうっていそうだ。 アレクセイからすれば、逆に自分には先が全く見えなくて、ピオニーの描く未来予想図がどのようなものか想像もできなくて末恐ろしいとさえ思える。 「馬車で貴人たちを移動するには状況は整わず、ジェイドはマルクトの艦隊にのっていっちまう始末。 もし保護しても導師も子息もそのままキムラスカにお連れするわけにはいかなくなった。 艦隊で乗り込んだら、それのどこが和平の使者だってかんじだろ?むしろ戦争してた国が突如艦隊できたら、宣戦布告をしに来たとしか思わないだろ。 つまりジェイドのせいでせっかく公で整い始めた和平が水の泡になりかねないから、子息には申し訳ないがマルクトへ招待した ――とそういうわけだ。《ルーク様》を、たのめるか、アレクセイぃ?」 「(語尾が上向きだ!上向きだ。確信犯なのか!?いや、これは)・・・命令。ですか?」 「おー!そうかそうかやってくれるか!!いや〜ありがとうなアレクセイ」 (まだ答えてない・・・とはいえ、断れるものではないか) 「・・・・マルクトの威信にかけて、その誘拐犯二名をとらえ、キムラスカのルーク様をお守りいたします」 「そうそう現役導師を期日以内にかえさないとマルクトを滅ぼすっていうもんだからよぉ〜。 お前を拾ってよかったわ俺。 首がつながった。“前回”はこうはいかなかったしな」 「ほろぼす?ぜんかい?」 「ああ、イオンを以前怒らせたことがあってな。そのときのことを思い出しただけさ。 っで、今回も滅ぼす=実力行使食らわすぞって脅されてんだよ」 「・・・」 先代同士の怒りを買うのも、ピオニーの笑みをみてると、そこまで計算されていると勘違いしそうになる。 彼はどこまで遠い未来を見ているのか。 ただしアレクセイはそのピオニーの表情や言葉のふしぶしに、まだなにか隠されているような気がしてたまらない。 なにせピオニーは、アレクセイが了承し、アレクセイの言質を取った後でなければ詳しい情報を流さなかったほどだ。 先の先を読めと言われても情報がないのでは、現状さえ分からない。 ふと、“生前の自分”は、ここまで後手後手にまわったことがあったただろうかと首をかしげる。 思い出すのは懐かしい記憶。 鮮烈なまでに鮮明におもいだせるのは、最後と思われる記憶。 世界が壊れるスイッチを押してしまった瞬間、そして紫の男が自分に手を伸ばして何かを叫ぶ。――そこまででイメージそれはいつものようにとぎれる。 ちらりとピオニーをみれば、いつのまに抱いていたのかブウサギがブウブウとまろまゆを葉の字にしてその腕に抱かれている。 たしかあれは―― 「“ルーク”ですか」 「ああ。キムラスカのじゃなくてお空の、おれたちの〈ルーク〉だ。かわいいだろう」 ルーク――その名はいままでキムラスカのファブレ侯爵のご子息以外では考えもしなかったが、 アレクセイは“以前”自分の側にもルークという名のまぶしい存在がいたことを思い出す。 なにげなくピオニーの腕の中のブウサギをみていれば、どことなく赤色、いや、朱色のような変わった毛色で、ふと名前と色に違和感を覚える。 「ルーク・・・ですか?そのこが?」 「ああ。どうしたアレクセイ」 「あ、いえ・・・」 もう一度よぉくブウサギをみて、アレクセイは眉をしかめる。 ルークというよりは、この色合いは―― 自分が知っている 〔ルーク〕 という人物は、たしかほとんど白に近い色合いの髪だった。 その瞳は空色を映した硝子玉のようにキラキラしていた。 逆に“あの方”は、このブウサギに似た色合いをしていた。 腰近くまで伸ばした長い髪は下に行くほど色素が薄くなり、朱から金へと変わる様はまさに夕日か、炎を一本一本の糸として紡いだよう。 目は鮮やかな翡翠色で――。 「てっきり 〔レギン〕 かと・・・」 そこまで考え、アレクセイはハッと我に返る。 この世界に“彼等”がいるはずはないのだ。 前世で使えた主が、この世界にいないのは明白。この世界の“ルーク”は、キムラスカのファブレの子息ただ一人。 それにルークなんてどこにでもある名前のはずだと、アレクセイは自分に言い聞かせる。 ちょっとでも古代語をかじった者なら、その言葉に宿る意味を好み、名づけるだろう。 ルークとは、古代語で《聖なる焔の光》。 炎。ああ、やはりその名は、まるで自分の知る 〔レギン〕 様をさすようだ。 しかし違うのだ。 ここは凛々の明星たる一番星が輝いていた世界ではない。 アレクセイはあわてて首を振ると、これ以上そのことで話題を持ち出されまいとするかのように、挨拶を早々に澄ませて逃げるようにその場所を後にした。 * * * * * 「おっどろいたな。まさかあいつの口から“あの名前”が出るとは」 パタンと閉じた扉に消えた濃紺の群服に瞬きを繰り返しながらピオニーは、ブウサギを抱えなおす。 そっと頭を撫でてやればブウサギのハの字眉は嬉しそうに持ち上がる。 「おいきいたか“ルーク”。本当にこの世界はどうなっているんだ?ええ?」 〔レギン〕――その名前は、レプリカルークがこの世界に誕生した時もキムラスカの王子ユートゥリスがつぶやいていた名前だ。 自分は名前を口走った彼らではないため、どうしてその名が浮かぶのかはわからないし、その名に込められた意味を理解することことはできない。 けれど 〔レギン〕 の名を口走る者たちは、ピオニーからしてみれば“以前”の記憶の中にはいなかった者達だ。 ピオニーは、それを空の上のローレライの意思だと思っている。 けれど手元のルークという名のブウサギをなでたところで、空にいるルークに彼の愚痴は届かない。 ピオニーは膝の上のブウサギの頬をつんつんとつっつきながら、ピオニーは第七音素意識集合体に話しかけるようにブウサギルークに話しかける。 その表情は新しいおもちゃを手に入れたように楽しげだ。 「それにしても・・・・・・あいつ、本当に生真面目だなぁ」 まるでおとぎ話に出てくる騎士のように背筋を伸ばして歩く男を見送り、ピオニーはふと笑いをもらす。 「アレクセイは青より赤がにあいそうだ。ま、マルクトは青がメインカラーだけど」 その独り言にこたえるようにふいに窓の外、広場の噴水がキラキラと光を散らして噴射された。 光を浴びてたくさんの硝子玉を散らすような光景は、そこに水を司る者の意志を感じさせるには十分だった。 屋外。噴水のふちにたたずんでいた赤いチーグルは、キラキラと輝く水しぶきを楽しげに見つめていた。 光に反射しては七色にヒカルそれに嬉しそうに目を細めると、手入れをするように飛び出てきた水を小さな手ですくって自分の大きな耳をなでた。 体を洗い、毛づやを整えると、赤いチーグルは体をブルリとふるわし、一気に水けを飛ばす。 一連の動作を終えるとチーグルは、窓から外を眺めていた皇帝の姿を見咎め、ニッコリと笑った。 「ミュゥ!」 ちゃっかりアレクセイ登場! ぶっちゃけ、予想外です アレクセイ!あんんたなんででた!?しかもページ丸々1P分持っていくなんて!でしゃばりすぎだ! 自分の中では、設定にかいた人員以外に記憶をもたっせたり、おもわせぶりな台詞をいったり、別のだれかが転生してくるとかなかったんです。 つまりアルクセイはいないはずだった。 しかもここまでシリアス(?)にする予定もなく、五話らいでパッパと終わる予定でした(汗) 明らかにページがおかしいですね(・・;) あ〜複雑。なんでここまでシリアスで複雑路線すすんでんだろう??? TOVの前世持ちと、TOAの前世持ちが混ざってるorz 自分でもどう進むか全くわからなくなってきました。 転生者・・・というか、記憶もちがさらに増えるかもしれません(汗) とりあえず、原作軸のシーンをかけるよう頑張ります。 |