片 翼 の 獅 子
†+ 第二部 Tales of th e Abys s +†



10.星降る歌声が響く





「報告いたします!数刻前キム、ラスカより第七音素の収束を確認!」


「お、はじまったか!」

 開かれた窓から飛び込んできた伝書鳩の手紙の内容を聞き、書類と格闘していたピオニーは嬉々として執務机にペンを放り投げる。
脱走を側ではばむように見張っていたアスランは、その行動に眉をしかめたものの、 聞かされた報告に「予想より早いがいいだろう。祭りは盛大なほどいいからな」とさも楽しげに喜びをあらわにする主に苦笑しつつ「不謹慎ですよ」と緩やかな笑みを浮かべた。
それは懐かしい過去を思い出すように優しげな笑みで、緊急事態だと慌てて報告書をお届けに来た兵士は、予想外の皇帝とその補佐の反応に戸惑いを隠せない。

「ふふ。陛下…ではそろそろ指示を出しても?」
「ああ、たのむアスラン。近隣住民に関して徒歩後の件に関しては、【凛々の明星】にはコチラから依頼を出しておこう。
なにせ保護対象はキムラスカの王族だからな。 それ相応の態度を示せよ。あの子になにかあればあの女傑が何をしでかすかわからないからな」
「ええ。わかっています」

まるで初めからこうなることがわかっていたような二人の会話についていけないままに兵士は、 けれどその動揺を表に出さずに、自分の立場をわきまえて隅に下がっている。

「じゃぁ、アスラン、フレンによろしくな〜」
「はい。《ルーク様》の身柄は彼らが必ずやお守りとおすことでしょう」
「頼むな。そのまま向こうに送らず、ちゃんとこっちに連れてこいよ」
「はい。わかっています」

 ピオニーとアスランがニコニコと、 【裏の支配者たち】との事前打ち合わせどうりことをすすめようとしたところで――
再び執務室の扉が勢いよく開いた。
 そこにいたのは鎧に土埃をつけた軍の兵士で、伝書鳩による報告を持ってきた小奇麗なみなりの兵士とはまた違ったようすで、 焦りを浮かべて転げるように飛び込んできた。
アスランがとっさにピオニーの前に移動し「何事だ!」と声をあらげて叱咤し、 扉の側で待機していた先刻の兵士が武器を構えて侵入者の動きを止める。
しかし首元に刃を突き付けられていることさえ気づかぬように、兵士は青い顔に嫌な汗を大量にかいて―――

告げた。

いわく
「ジェイド・カーティス大尉が許可なく軍艦を持ち出しました!!」

 それを聞いた途端、空気がピキリと固まった。
しばらくしてようやく動き出したときは、ピオニーによる巨大な溜息が一番初めにこぼれおちた。
アスランもピオニーに続いて、がっくりうなだれていた。

「見事に我々の予定を覆してくれるとは…」
「ああ、さすがジェイドといったところか。・・・はぁ〜」
「ピオニー陛下。これは明らかな反逆罪では?幼馴染だからと、また甘やかして野放しにするからこういうことになるんです」
「あっははは…その・・面目ない」
「わかっているならあの人を一番に調教すべきでしたね。それにしてもカーティス殿は世界を破壊したいのでしょうか」
「いや、そこまでは考えてないだろう。あのジェイドでも」
「陛下。本当に“ない”といいきれますか?あのカーティス大佐ですよ。
今はいろいろしでかしてくれたおかげで階級も下がって下って“大尉”ですが。 “戻ってきてない”カーティス殿で、大尉までさがったんですよ?」

「………」
「……」


「誰か!タルタロスに至急無線を繋げ!!」








* * * * *








 声が・・・
きこえた  き が し た ん だ

夢の中で誰かが歌っている
ヤクソクのうた



 長い茶色の髪の女の子がうたっていた――

あれは・・・



   ゆ    り     あ    の ・ ・ ・ 






「−−ク。起きてルーク」

 体をゆすられ、ゆっくりとめをさました少年は、その明るい翡翠の瞳を少女へと向ける。
いまだ意識がもうろうとしているのか、トロリとした瞳は状況を把握するでもなく何もうつさない。
そのままぼぉ〜っとしたような緩慢な動作の少年に、少女ティアはあきれたように溜息をつく。

「いつまで寝ているの?ここは危険よ」

 少女はそういうとセレニアの花にうもるようにしてころがったままの少年へと手を伸ばした。
そして状況を理解していない赤毛の少年に、ティアは説明まがいの独り言を始めた。

「あなたと私の間で超振動が起きたのね」
「・・・ちょう、しん・・・?」
「そんなこともしらないの。
ああ、うかつだったわ。あなた第七術師だからかくまわれてたのね」

少年はまだ働かない頭のままに思った。

(あれ?名前を知ってるってことは《ルーク》の地位も理解してるよね?それでかくまわれてたって……なに?)








* * * * *








「陛下ぁー!!」
「まぁまぁ、おちつけって。それでいったいぜんたいどうした?(ニヤリ)」
「ジェイド・カーティスに導師を誘拐されたとダアトから連絡が!」
「なにぃっ!?」


「あ、それとフリングス中将宛に奥方様から緊急通知が来てますよ」
「悪い予感しかしない」
《キムラスカノ秘宝ヲ今スグ返セ!!》
「離婚届まで来てるんですけど・・・えっと、どうします?」
「なんですって!?」


「大変です陛下!!」
「今度はなんだぁ!!」
「《ボクの弟を誘拐したやつの首をよこせ》と導師イオン様より報告が……あ、まだつづきがありますね。 えーっと《すみやかに差し出さない場合は、我が盟友“ローレライ”の敵が世界に放たれとみなし、マルクトを殲滅する》 と……ローレライ教団を敵にすることになる…ということでしょうかこれは」
「「・・・・・・」」


「あ、陛下〜!と、フリングス中将もいらっしゃったんですね!」
「ジェイドか!?ジェイドだな!今度はなにをやらかした!!」
「へ?もうそこまで報告が?」
「……やっぱりジェイドか。っで、用件は?」
「はい。カーティス大尉は―――」


「ピオニー様ぁ!大変です!」
「・・・・・・次の被害、どこだ?」
「あ、カーティス大尉はただいまエンゲーブです。ですがとちゅうでローテルロー橋を破壊したらしく…」
「ああ、箸な。気の毒に、もう飯食えな。ははははは」
「陛下、橋です!」
「いや!箸だといってくれ!!!な!そうだといってくれアスラン!」
「復興にどれだけ費用が掛かるか計算してまいります」
「もういーやーだー!!」


「フリングス中将ー、シーフォ大佐からエンゲーブに到着したと報告が入りましたよ〜」
「ああ、それはよかった。先程から悪い報告しか入っていなかったもので」
「それが・・・」
「まだなにかあるのかよ」
「落ち着いてください陛下。報告を続けてくれ」
「あ、はい。しつれいしました!実はそのシーフォ大佐から先程報告書がありまして…」
「まさかとは思うが。
どっかのバカ眼鏡が、赤毛の子どもと歩いていたなんて報告じゃないよな」
「よくご存知ですね。それでその赤毛の子どもというのが、 どうもキムラスカのファブレ公爵のご子息と特徴が同じで。って、どうしたんです陛下?」



 ここ数日ですっかり机の上が書類で覆い尽くされ、いまもなお山と積み上げられているソレを前に、 ピオニーは額を押さえて頭上を仰ぐ。

 日を置くにつれ、次々とはいってくるジェイド・カーティスによる報告書に、アスランは顔をひきつらせ、ピオニーは激しい頭痛を覚えていた。
 なにより恐ろしいのは、導師イオンによる宣戦布告だ。
あれは“戻ってくる前”の記憶を持つ者。
ゆえに《今のローレライ》をことのほか大事にしている。
そうなれば必然と《今のローレライ》が大切にしている「今のルーク」にもそれはあてはまり・・・。
本気の本気でマルクトが彼の手によって滅ぼされかねない。政治的にも物理的にも。

「…クックックック」

 どうしようかとピオニーが頭を痛めていれば、ふいに横で笑い声があがった。
それにギョッとして振り返れば、ピオニーの横にいたアスランが、凶悪なまでの笑顔を普段は穏やかな顔にはりつけ、腹を抱えて笑っていた。
それをみたピオニーは「どうした?」とも声をかけることもできず、背筋に走った悪寒にヒィーと息をのんで後ずさった。
 この場にブウサギがいたら抱いて逃亡しただろう。
笑ってはいるが、それぐらい今のアスランは般若のようであった。
 その手にはぐしゃりと潰された離婚届の書類と、嫁とキムラスカに対する謝罪がまんべんなく書かれた書類と間違えそうな手紙が握られている。


ジェイド・カーティス…ゆるすまじ

「あ、アスラぁ〜ん!?」





コンコン

「失礼いたしますピオニー陛下。
【凛々の明星】からの文が届いていますが・・・って、あれ?どうしたんですか?」

 黒いオーラをだして笑い続けるアスランにおびえ壁際に張り付いたピオニーをみて、 扉を開けて入ってきた兵士は不思議そうに首をかしげたのだった。








* * * * *








 その日、キムラスカのファブレ邸では、第一王子ユートゥリス、王女ナタリア、ファブレの分家筋ヒュッラセイン家の末姫エステリーゼを交えて、和やかな茶会が開かれていた。

「本来ならシュレイもいらっしゃったはずですのに。残念ですわ」
「あ、レイ兄様なら、緊急の仕事がはいたって言ってたぜ。導師様関連の」
「「ああ、なるほど」」

 紅茶を優雅にすすりながらさびしそうに語るのは、金髪の少女ナタリア。
それにクッキーをかじりながら「そういえば」とばかりに、今思い出したと続けるのは、朱金の長い髪の少年ルルー。
 ルルーの「導師関連」というセリフに大いに納得して同じような動作でうなずいているのが、全体的に黒い青年ユートゥリスと、桃色の少女エステリーゼだ。
彼らは幼馴染みであるが、もう二人、彼らと共に育った人間がいる。
ひとりは四人の話題にあがっているシュレイことアシュレイ・フォン・ファブレだが、 彼はダアトに潜入調査のためでかけているためなかなか会うことはかなわない。
そして最後の一人が…

「あ、あのさヴァンが…」

「そういえば使用人ごときがどうしているんです?」
「“ごとき”って、他の使用人のやつらに失礼だぜエステル」
「そうですね。すみませんユーリ」
「ヴァン?ヴァン・グランツでしたかしら。たしか…(アシュレイを奪った)ダアトの神託の盾のですわね。それがどうかしまして?」
「ん〜?あれ。ガイじゃん。まだいたんだな。なにしてんだよそこで。 ちゃんと仕事しなきゃダメだろ。 今は休憩時間じゃないのに。サボってるとまた給料減らされるぞ」

「ユ、ユーリぃ〜」

「ユートゥリスな。俺の名前」
「まぁガイ!お兄様になんて態度ですの!お兄様はキムラスカの重要人物ですのよ」
「というかユー兄様こそ、四文字以上の名前の人も覚えてあげるべきだとおれは思う。いま下町でユー兄様、あだ名マニアって呼ばれてるの知ってる?」
「おいおいルー。俺はいいんだよ。必要最低限、場所と地位はわきまえてんだから。あと、お前らは対等の幼馴染みだからあだ名でもいいんだよ。今は公の場じゃねーし」
「そうです!ユーリがシュヴァーンの名前を略さず言えるようになった時の感動と言ったらないです」
「とはいえ、お前はダメだガイ。いつも思ってるけど…お前、何様なの?」
「幼馴染みだと思っているならお門違いです」
「エステリーゼの言うとおりですわ。ガイ、あなた仕事も何もしていないのに。というか、馴れ馴れしいにもほどがありますわよ」

「る、るーく!みんなが…」

「え?ルークっておれ?・・・んーっと。そういうのおれに助けを求められてもなぁ〜。うん、いや。お前が悪いだろうそれは」

 四人が腰かけるテーブルにともにきて、一番最初に腰掛けたのは、実は使用人でしかないガイ・セシルという少年だった。
 当人はファブレに雇われた当初から幼馴染みだと豪語しているが、四人からしたら突然割り込んできた使用人の戯言にしか思えなかった。
なによりガイは自分の妄想が事実だとばかりに押し付ける癖がある。
ルルーをルークと呼んだり、自分がルークを育てたなど意味が分からない発言をするしまつ。
 ガイのそういったところをエステリーゼはとことん嫌っていて、 あたかも幼馴染みの一人だから茶会に参加する資格はあるとばかりに席についていたガイの背後に回り込むと、 エステリーゼはニッコリと笑顔で微笑むなりそのまま彼の椅子を引きぬいて奪い取った。
ガイは座るべき椅子をなくし地面にしりもちをついたが、手を伸ばす人間はいなかった。
 そのまま優雅に貴族のご令嬢&ご子息による優雅な茶会は続き、 テーブルにすでに用意されていた四人分のティーカップと、 できたてのケーキやクッキーやらをつまみながら四人の会話はすすんでいた。
立ち上がる際に助け舟一つなく放置され、一人で立ち上がったガイがみたのは、 四人分しか用意されていないテーブルの上の品々。
 早々にあきらめてガイは、いそいそと四人の傍を離れたのだが、客が来たことで戻ってきたのだ。
 そこで勇気を振り絞ってガイが四人に声をかけたのだが、 エステリーゼは相変わらず笑顔のままガイにのみ辛口で、 礼儀も作法もない口調だがだれよりも無駄のない精錬されたしぐさで茶菓子をペロリと平らげたユーリは、 誰の味方もせず要領よく頷いてはいるが新たなケーキに手を伸ばすのに忙しくて実のところ周囲の話など聞いていない。
ナタリアが唯一ガイの告げた名に反応したが、それは自分の婚約者の潜入先の上司の名。 憎い相手ということで興味を持ったにすぎず、その表情は「そいつがどうした」といわんばかりに微妙に殺気が混ざっている。
ガイが一時いなかったことにも気づいていなかったらしいルルーは、仕事を放棄している人間に対して驚いたように彼を見ている。
 もしもこの場に、アシュレイがいれば、相変わらずのブラコン具合を発揮して ガイをルルーから遠ざけたり警戒心むき出しの猫のように威嚇交じりの態度を取られることは想像にたやすい。
 そんな幼馴染み四人の個性豊かな反応に、ガイは大きくため息をつき、来客があったことを告げる。

「ヴァン謡将がきてるぜ。ルークに剣術教えに来たから中庭で待ってるってさ」

「「「「・・・・・・」」」」

「え?なんでみんなそこでだまるんだよ。どうしたんだ?」

「気付いて、ないんですの?」
「信じられないです」
「…うわぁ。ガイ、お前それでよくファブレの使用人やってられるなぁ。
ダアトでさ、レイ兄様の代わりに六神将やったときでさえ、そういう言葉遣いしてる奴いなかったし。あんな髭にもさ」

「え?は?…って、ダアト?髭?え?」

「俺もルーに賛成だな。いまのはダメだろうさすがに。
俺の周囲では、周りに人がいるときにさすがにそういう態度とるやついないぜ。
そもそも謡将ごときが、《ルーク》を呼び出せるんだよ。そっちがくるべきだろう。
しかも髭って他国の人間だし。
そんなやつがなんでキムラスカの公爵家にたやすく入ってこれるんだ?
・・・まさか!?お前、勝手にいれたのか?
ここはシュザンヌ様のテリトリーだぞ。
その言葉遣いのままで、いままでよく首をきられることなくとどまってられたなとは思っていたが、 まさかマジでいれたのか?ダアト嫌いのシュザンヌ様の断りもなく? 今度こそお前の首、なくなったな。実際に胴体からはなれるか、それとも解雇だけですむか…」
「いや、だってヴァン、謡将、が…!!」
「おだまりなさいガイ!お兄様の言葉はもっともです。わたくしたちは、なぜ立場をわきまえないのかと言っているのですわ。
まずはそのふざけた言葉づかいと態度から直したらどうですの?」
「そうです!こんなですが、ユーリだって、周りに人がいたら立場わきまえて口調も直します」
「…エステル。お前、俺に辛すぎないか?」
「こないだの狩りで防御もせず突撃して、返り討ちにあっていたユーリを助けたのは私です」
「そうですわね。お兄様はもう少し防御のことを考えた方が……(チラリ)」
「ナタリア!?お、お前も俺を〈紙〉というのか!」
「ユー兄様、だれもそこまでは言ってないかと…まぁ、防御力がたしかに紙レベル程なのは賛同しないこともない、けど」
「ルルーぅっおまえもか!?」

 ユートゥリスはそこで激しくテーブルをたたくと、 苦笑を浮かべていたルルーの皿の上から、食べかけのケーキを手にしていたフォークで奪って食べてしまった。
それにルルーは「お、おれの…」と涙目になって、空の皿を見つめ。
エステリーゼは「はしたいです」とユートゥリスを一睨みすると、「わたしのをどうぞ」とルルーの皿に自分のケーキをのせた。
ナタリアはその光景を微笑ましそうに見つめ、おとげないですわと兄をみやる。

 話が自分に戻らず焦ったようにオロオロとするガイの横で、四人の会話はさらに盛り上がり、そのままヴァンの訪問のことは流れかけた。
四人の中ではすでにヴァン・グランツは、ファブレの兵士や騎士たちにつかまっているに違いないという認識があった。
 なにせ王家に次ぐ大貴族であり、その主たるファブレ公爵はこの王国、国軍の元帥であり、その戦術は見惚れるほど。
クリムゾンの妻は、賢王とうたわれるインゴベルト陛下の妹であるシュザンヌ。彼女は、策士として名高く、いざというときのために世界中のあちこちに息のかかった者を潜ませ力を蓄えている。
 その二人が守るこのファブレ公爵邸の警備網にはネズミ一匹も入ることを許されず、使用人は男女問わず文武両刀の精鋭ぞろい。
ファブレの分家筋であるエステリーゼでさえ、最強を誇るファブレの白光騎士団よりも強い剣の腕を持ち、 その血が濃くでているのがわかるほど武芸に恵まれた一族だ。
なまじ城よりも警備が厳重ゆえに、こうして城の住人たちが護衛もなしに訪れるのだ。
“だれかが入れない限り”他国の、それも公爵よりも地位が低い者が、たやすくはいることはできない。
鉄壁の砦。
それこそがファブレ公爵家だった。
王族四人の幼馴染みたちが、和気あいあいと、のんびり茶会を続けたのもそこに起因する。


 しかし突如平和なファブレ邸を珍事が襲った。
それは事件ではなく、珍事。そこにいたものはそれ以外に合う言葉をもちあわせてはいなかった。

「ルーク。なぜ剣の準備をしていない。わたしはこれより導師をさがさなくてはならないからな。しばらくお前の訓練ができなくなる。かわりに今日はとことんつきあうと言ったはずだが」
「よかったなぁルーク。ヴァン謡将はダアトのオラクル騎士団主席総長だ。そんな凄い人の剣を学べるなんてな」

「「「「は?」」」」

聞こえた声にこどもらしくはしゃいでいた四人が、目を点にしていっせいに振り返る。
そのあとは怒涛の展開だった。

 ルルーは従兄弟であるユートゥリスや、その騎士らに剣を教わった。
彼はアシュレイとは違い、後衛として術をメインにしこまれているため、剣はいわば遊び程度しかしらない。
 だというのにもかかわらず、なぜか教わってもいない剣をヴァンに教わったこととなっており、 ひきとめるエステリーゼやユートゥリスを無視してヴァンはルルーを裏庭へと引きずっていった。
幼馴染みたちはそれにギョッとして走り出すが、無理やり連れて行かれるルルーを人質の様にとられた今、 むやみやたらとに手を出すことができない。
そもそもなぜ裏庭への道をヴァンが知っている!?というツッコミは、騒ぎを聞きつけた兵士や騎士たいの騒音でかききえた。

 シュザンヌたちまでも庭にでたところで――

「〜・・イ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ!――“深淵へと誘う旋律”」

 さらなる珍事発生。
 突如響いたのは、少女の高く澄んだ歌声。
同じ短い旋律をずっと繰り返しているが、それゆえに強力な効果となって、それはファブレ邸に浸透し、眠りを周囲に広げていく。
譜歌による眠りの攻撃である。

「譜歌だと!?予定より早い!ハッ!まさかティアまで…」

 ヴァンが眉をしかめて叫ぶと同時に、庭に膝をついて倒れた老人ペールが「第七譜術師がお屋敷にはいりこんだ!」と警備の騎士を呼ぶように叫んだ。

ペールもまた意識を保つのでギリギリだったようで、それ以降彼が大声を出すことはなく地面に倒れ伏す。

「ティア、お前も戻ってきたのか」
「ご名答。わかってるなら早いわね――いくわよ兄さん!」

「ようやく見つけたわ。裏切り者ヴァンデスデルカ!!覚悟っ!!!」
「む。やはり、お前かティア」

 なんだろうか。この茶番のようなやり取りわ。
誰もが疑問に思ったが、声に出すことは譜歌の効果が効いていてできなかった。

 ダアトの軍服を着た少女は、問答無用とばかりに焦りの表情を浮かべるヴァンに攻撃を仕掛けた。
ヴァンは襲いくる少女に「やめるんだメシュティアルカ!誤解なんだ!」と彼女の新たな名らしきものを呼びながら訴えるが、少女は聞く耳を持たず。
少女を傷つけることをためらっているのか、ヴァンは剣を抜かずさけるだけだ。
 その視線の隅に燃えるような朱がゆれる。
しかしヴァンの意に反して、無理やりつれてこられたルルーは、いまだ状況についていけず、そこから動くという考えさえ浮かばなかった。
他の者達は少女による譜歌の影響で、動きが鈍く、自由にならない身体では、こちらにまでたどりつけそうもない。

 呆然と少女とヴァンの一歩的な戦いをみつめていたルルーの瞳は目の前のものを見ていないかのように虚ろで、はるか遠くの光景を見ているようだった。
その唇が小さく音を紡ぐ。

「・・・ゆり、あ・・の、だい・・ふか・・・“レギン”・・・」

――レギン。時がきたよ。

 その声は誰にも届くことはなく、風に消えた。
ふわりと嬉しそうにルークの口端が持ち上がった。



「「「「ルーク(様)/ルークっ!!!」」」」

 少女の攻撃をよけたヴァンだったが、そのせいで体勢を崩したティアが、ヴァンの背後にいたルルーの方へと倒れてしまった。
声を上げたのはだれだったか。
たくさんの声が、危ない!と警告を叫ぶなか、ティアとルルーとの間で、激しい光があふれだした。





―――大丈夫 オレが守るよ

 どうか ふたりに ローレライの加護を・・・





 世界に
七番目の音素があふれだす。

 あたたく優しい星の命の音色が
鐘の音となって


響き渡った。





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