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09.星の輝く日 |
空に光が走る。 “それ”が、世界が動き始める合図なのだと、“戻ってきた者”やその協力者たちは知っていた。 疑似超振動により、キムラスカから一つの光が空を駆け抜けた。 光はやがてタタル渓谷にて収束す。 そして同じころ―― ひとつの意識が空の煌めきに保護された。 それを知る者はいないけれど・・・ 『大丈夫かルー?』 ふわふわした光が舞う白い空間。 たくさんの音が響く中で、仰向けに倒れていた青年は、閉じていたまぶたを上げた。 視界に映ったのは、自分と同じ容姿をした朱色の髪の少年。 自分と違うのは、その表情と、髪が短いことぐらいだろう。 後ろ髪がヒョッコリとはねていて、まるでヒヨコのようだと思ったが、その心配そうな顔を見てしまっては、からかう気にはならず口には出さなかった。 なにより口を開く気分ではなかったというべきだろう。 ズキリと響くような頭痛に、船酔いでもした気分だった。 心配そうに自分を見下ろしてくる相手を見つめながら、その場にねっころがったまま《ルーク》は顔をしかめた。 「う〜頭が痛い。 超震動とやらがあんなきついなんて僕はきいてないぞレギン。かなり予想外だよ。常識を疑う。よく前回のルークは無事だったな」 『う、う〜ん・・・まぁ、オレも今はそう思うよ』 まるで自分のせいだとばかりに「ごめんね」と困ったように笑う相手 〔レギン〕 に、《ルーク》はしかめていた表情をさらに険しくさせて、 頭痛をおして勢いよく起き上がる。 起き上がるがままに、からだについた汚れをはらうようにすれば―― 《ルーク》の姿が赤毛の青年から、白っぽい色合いの髪の少年の姿に変わる。 腰近くまであった炎のような髪は、頭を振り払う動作ひとつで、うなじにかかるかからないか程度の短髪へと変貌する。 立ち上がった《ルーク》の服は、髪の色とは真逆の黒を主とした色に変わる。 「あースッキリした!!アシュレイと入れ替わったりする都合で髪切れなくてうっとうしかったんだよ」 『その姿、ずいぶん久しぶりに見たよ―― 〔ルーク〕 』 「そりゃぁそうだろ。生まれ変わった僕が“以前”のままの姿だったらおかしいって」 『でも。元気そうでよかった』 「たとえ昼間のルルーに、 〔ルーク〕 としての僕の記憶がなくとも。 僕はお前の半身だぞ。そうやわにはできてはいない。“ここ”から見てたから、 〔レギン〕 もそれはわかってるだろ?」 『そうだね』 〔レギン〕 ――“短髪の自分”は、かなり心配性だ。 自分自身のことは省みないくせに。 白髪の 〔ルーク〕 は、勢いよく起き上がった反動でさらに痛む頭をごまかし、 表面にはださないようにそれをこらえて、戸惑いを浮かべている“もうひとりの自分”を見やる。 レギンの姿は、アシュレイやルルーによく似ている。 朱色の髪は、ヒヨコのように後ろではねていて、どこか穏やかな空気をまとっている。 彼の名は 〔レギン〕 。この時代ではローレライと呼ばれる存在だ。 かくいう白髪の少年は、現世ではレプリカルークとして生まれ、ルルーと名付けられた少年だ。 白い姿は、前世のもので、前世での名を 〔ルーク〕 。 ここが音符帯であるがゆえに、死者である二人は自由に姿を戻すことができているだけだ。 地上に降りれば、姿は今の姿を保ってはいられない。 『あ、あのさ・・・』 「ん?」 『えーっと、そのルーは』 何か言いたそうだったレギンが、何かを言いかけては口を閉ざす。そのまま不安そうにこちらをみてくる。 このままではまた相手が不安を口に乗せかねない。 あるいはレギンは、また口にすることをとちゅうでやまてしまい、そのまま思いを内にため込んでしまうかもしれない。 それがわかるからルークは、レギンが口を開くより前に、畳み掛けるように言葉を発した。 「レギン!今は僕、いやおれ(ルルー)が《ルーク・フォン・ファブレ》だ」 その強い言葉に、レギンはキョトンと大き目の目を瞬かせ不思議そうな表情を浮かべた。 『前からルーは、〔ルーク〕って名前だったけど?』 「そこぉ!ちゃちゃいれんな!いいから聞く!そもそも名前っていう意味じゃなくて、存在の在り方の話だから!」 『う、うん』 ビシ!と指摘をすれば、レギンはびっくりしたように肩を揺らしたが、ルークが真剣なことが分かったのか、何も言わず話を聞く体勢になる。 「僕はたしかに生前、〔ルーク〕という名前をもらった。そしてお前は〔レギン〕になった。 生前、僕たちが魂をひとつにしたときから、それがお互いを示す名前になったよね」 『そうだね』 「そんでもって《オールドラントのルーク・フォン・ファブレ》は、今は“ルルー”がその立場にいる。 わかるレギン?ルルーは僕なんだよ。僕の記憶がなくてもルルーという存在は僕の魂でできている。 僕がこの世界の、今度のレプリカルークだ!だからお前は気にするな」 『は?どういうことだよ?』 「察しが悪いなぁ。 僕が、望んで。“お前がたどった道を歩いている”ってこと!!」 『!?でもそれじゃぁルーが死んじゃ・・・』 レプリカルークがたどる人生は、本来は目の前の“短髪のルーク”が歩んだ道だ。 世界は巡るとはよくいったもので、レギンとルークは今、過去の世界を以前とは別の視点から歩みなおしている最中だった。 かれらからしてみれば、レプリカルークとは、まぎれもなくここにいるレギンをしめした。 師と戦い、鉱山の町をおとし、レプリカたちとともに瘴気を浄化し、ローレライを開放する。その立場にいるのは《ルーク》。 その名の者がその運命を背負うのは、世界の理上変えようがない事実だ。 そしてその《ルーク》がどのような道をたどったかは、ルークにしてみれば“以前”から知っていることだった。 レギンがその生きてきた生き証人であるためだ。 しかしレギンはルルーにもルークにも《ルーク》の業を背を和すのを躊躇している。 自分が歩んだ道ゆえに、その未来がいい物でないことを理解しているためだ。 しかしルークはちゃかすこともなく、まっすぐ同じ色の瞳を見つめた。 「信じろ」 『ルー・・・』 「僕はお前だ。お前は僕だろ。 自分を信じろレギン」 お前だけに罪は背負わせない。 むしろ―― 「いや、今回は誰も死なせない」 すでに道がわかるのなら、覆すために動くだけ。 目の前の“はじまりのルーク”だった幼子が、もう泣くことがないように。 もう死を自ら選ばなくて済むように。 手を離せば消えてしまいそうな、存在感があまりない目の前の相手に、ルークは引き留めるようにその肩を強くつかむ。 視線は逸らさない。 この想いを理解してもらいたいから。 しばらくレギンはその視線をあちこちに移ろわせていたが、 やがて諦めるように瞼を閉じ、次に開いた彼の目はまっすぐ自分を見つめ返してきたのにルークはほっと胸をなでおろす。 「レギン」 『わかってる。もうオレはルークじゃないから。ルーに、いや“ルルー”にまかすよ』 「そうこなくちゃな」 『・・・・・・だけど、無理はしないでくれよ』 ルークがニヤリと笑えば、それに反してレギンはまた不安そうな陰りを浮かべる。 けれど“彼”の笑顔を見たいものは、この新しい世界にたくさんいるのだ。 だからこそルークはレギンに笑って見せる。 そして―― 「当然!なんのためにダミュロンやユーリたちをつれてきたんだよ」 ――つれてきた。 その言葉でその場の空気が固まる。 世界がテルカ・リュミレースと呼ばれていた当時、 ルークはレギンが精霊となったのをみはからい、レギンの加護を与えられていた者達の魂を輪廻の輪に戻さず、新しく回り始めた世界につれてきたのだ。 過去自分が縁を結んだ人間たちが、“たまたま”この時代に生まれたのだとばかり思っていたレギンは、 うっかり口を滑らしたルークの発言に目を丸くする。 『・・・・・・あれ?いま、なにか・・・ありえない言葉が』 口を閉ざしてももう遅い。 しまったと思ったときには、ルークはレギンに睨みつけられていた。 『どういうことルー?』 「だってなぁ。僕はお前で、お前は僕だぞ。 つまり僕に不可能はない。たとえお前が精霊になる前に死んでいようと魂がつながってるんだから魂は死ななかったわけだ。 っで、僕が転生するのに合わせて、ユーリたちの魂をこの世界に引き込みました」 『あ〜なんか・・・。なんかわかった。うん、オレって、ばかだったんだなぁ』 「なにいってんだよレギン」 『いや。さっきまでのかっこいいというか感動的なシリアスなシーンだと思ってたんだ。 久しぶりにルークと会話したから、美化フィルターがかかってるんだよ、思い出にさ。 そもそもオレが今のローレライなのに、そんなすごわざできないからな!? せいぜい今日の天気をイオンなシンクに伝えられるくらいで! 幸せになってね〜って加護は与えられるさ!その加護って、あってないようなものだからね! けど転生させたって何!?ルーク、そのとき死んでたじゃん!なんでそんな特殊芸当できるんだよ! あ、そっか。どうせオレはできそこないんだ。 レプリカで始祖の隷長でもちっこくて役立たずで偽者なんだ。 そうだよなぁ。できなくて当然だよなぁ』 「いやいやいや!おちついてよレギン!」 だんだんと不穏な空気になっていくレギンに、ルークは焦ってとめにはいるのだが。 っが、しかし 『グス。うわーん!!ルーのばかぁ!!』 レギンはしゃがみこんで「の」の字までかきだそうかという雰囲気だった。 しかし突如起き上がり、そのまま慰めようと側に近づいていたルークに強烈なアッパーくらわした。 ドコ!ガフッ!と、いい音がして、レギンの拳はルークのの顎を直撃した。 そのままルークの身体は弧を描いて宙を舞い、いずこかへふっとんでいく。 来客のさった空間には、髪の短い少年がひとり残された。 白と音と光があふれるだけの世界で、ひとり朱のこどもが「の」の字をかいて体育座りをしていじけている姿は、なんともシュールだ。 『おかしいとは思ってたんだよ。 なんでユーリたちがいるのかなぁ〜とかさ!! たしかに彼らには来世でも幸せになれって思ってたけど、ルークのあほー!!」 少年の声が夢のはざまで響いた。 その声はまるで波紋のように広がり、あとを追うように、ゴーンと鐘が一度はじけた。 * * * * * 今世の《ルーク・フォン・ファブレ》たる明るい赤毛を長く伸ばした青年、 ルルー・フォン・ファブレが、パチリと目を開くと、そこはセレニアの花畑だった。 「う〜しまった。レギンを怒らせたぞ」 上半身を起こせば微妙に、顎が痛い気がする。っが、きっとこれは錯覚だ。 痛みを振り払って、周囲を確認すれば、そこは先程までいた白い空間でもなければファブレ邸でもない。みしらぬ屋外にたおれているようだと判断する。 ルルーは、そこでようやく自分がなぜこの場所にいるかを思い出す。 屋敷が襲撃を受けたのだ。 そして超振動がおきた。 チラリとみやれば、真っ白な花畑に埋めれて側には茶色の塊がある。 それにいら立ちが募り、ルルーは「うわぁ〜」とうめきながら 自分の頭をかきむしるように長い髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。 「ああ、もう!これもあれもすべては“こいつ”が予定を狂わせるからだ!! もういい!不貞寝だ!不貞寝してやる!!」 ルルーはそう叫んだとたん、有言実行とばかりに再びパタリと倒れこんで、 そのまま意識を束なすようにセレニアのなかで寝ころんだ。 |