片 翼 の 獅 子
†+ 第二部 Tales of th e Abys s +†



02.始まりの鐘 (二人目と三人目)





十という数字は区切りがいい。

なるほどな。


いうなればこれが、今度こそ本当の“最後のチャンス”ということか。






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 side 逆行ピオニー
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「お?」

 自分のふがいなさや悔しさを噛みしめて、目を閉じた。
しかし気がつけば、雪が静かにふる町で――

俺、死ななかっただろうか?

「おお!?」

 雪ってことは、もしかしてここはケセルブルクか!?
あわてて周囲を見回せば、横には不思議そうな顔をしたネフリーがいた。

「ん?ネフリー?ってお前随分若々しくって・・・」

しかもこのネフリー若い。
この頃はだいたい十歳ぐらいか?
ああ、ネフリーは大人になれば美人だけど、このときはまだ可愛いなぁ。さすがは俺が惚れた女!

「どうしたのピオニー?」

 ひとり、幼い頃のネフリーにもだえていたら、ネフリーがなんでもなさそうに普通に俺に話しかけてくるのに疑問がわいた。
その態度にもういい年をした老人をからかうのものじゃないと、どうせジェイドの仕業だろうと思ったが、彼女の目に映った“幼い自分”の姿を見て瞬時に納得してしまう。

「あ〜。なるほど。そういうことか」
「ピオニー?さっきからボォーっとしてどうしたの?もしかして風邪?大丈夫?」
「いや。なんでもないさ。
ちょっとばかし、これから“世界”に宣戦布告でもしにいこうかなって思っただけでね」
「ちょ、ちょっとピオニー!?あなたどうしたの突然?まさかお兄さんになにかされておかしくなったの?」
「それはないだろそれは・・・」

まだ若く幼さの残る美しい幼馴染みに、笑って返す。
冗談のように笑いあう。
冗談のように言葉を交わす。

けれど世界への宣戦布告は本気だ。



 ここは過去だ。
なぜかそう思えた。
 その証拠に遠くから子供のおかっぱサフィールとジェイドが、手を振りながらやってくる。
自分の身体も縮んでいるようだし、なにより王宮のベットの上で目を閉じて・・・開いた瞬間ケテルブルクの道中で突っ立っていることじたいおかしい。
ここまでの演出、さすがのジェイドもしないだろうというのが、一番の決め手となった。

 それに聞こえたんだ。
自分を呼び戻すような“音”が 聞こえたから――。


 すべてのはじまりは音に導かれたことから始まった。
いや。きっと“すべてのはじまり”は、ルークのレプリカが生まれたことから始まっていたのだろうと、今なら素直にそう思える。
 “ここ”にきてすぐに、《過去》だと、頭が状況を理解し、確信した。
なにせ数分前まで、自分はもう五十もいくばくかという年齢で、病がたたり床に伏せていた身なのだ。
死んでも可笑しくない状況で、聞こえたのは、空間を震わすような《鐘》の音色。
俺はそれをローレライの《声》だと思っていた。
だけど、振り返ってみれば、それはまるでたくさんの人々のざわめきのようで、 また鳴り響く鐘のようでもあり、けれど――懐かしい朱色の子供の声でもあった。

“音”ともとれる鐘の音色は、ルークとよばれて消えていったレプリカの声で。

その声で、何度も「ごめんなさい」と謝られたのを閉じゆく意識と終わり逝く生の中でたしかに聞いたのだ。
なんであの子が謝る必要があるのだろうと思っていた。
夢うつつの中で「どうした?」と声をかければ、驚いたようなルークの反応が返ってきて、 「陛下」と「いままでありがとう」とそう、泣きそうな笑顔で返された。

リィーー・・ン  リリーーン リィーーーン

 ああ、また響いている。高い虫の声のように綺麗なのに、どこか物悲しい鈴のような音色が。
小さな赤毛の子供を髣髴とさせる泣き声のような“それ”。
完全に意識が途切れる寸前、それに思わず手を伸ばそうとしていたのを覚えている。
 死の間際に聞こえた幻聴ゆえ、本当に手を伸ばせたか定かではない。
ただこれほどまでに悲しませてしまったこどもに、俺自身が泣きたくなった。
悪いのは、この子ではないと。俺自身を含めたこの世界の大人たちこそが悪いのだとわかっていたから、 優しすぎるがゆえに相変わらず卑屈に謝り続ける子供の“声”に、謝るのではなく笑っていて欲しくて言葉を捜した。

 この子に「笑え」と言うのは、こどもに死ねと告げた自分ができることではないだろう。

許されたいわけではない。
それでも、その泣き声のような音素の振動に、もう一度会えるならと・・・あのこの幸せを願った。


 手をのばした――


 何かをつかんだと思った。
そう思った瞬間、世界がよじれ、あまたのものたちの“想い”が弾けた気がした。

それはまるで世界が変わるような感覚。

 あるべき流れが歪められ、“別の世界”と“いままであった世界”が混ざり合って、 違う流れを生み出そうとするかのような巨大な《時》の本流。
 耳に聞こえるのはゴォーンという荘厳な鐘の音色。
優しく包み込む可憐な鈴のような高いリィンという音と交じり合い、鐘は鳴り響く。


ああ、なんて喜び満ちた音だろう。
新しく生まれた世界が、音素が。
自分を祝福しているのだと感じた。


 幼い子供たちに命をかけさせ、なのに自分はその彼らの願いさえかなえられなかった。 そんな俺なんかを許してくれるのだという優しい気配と、穏やかな“こどもたち”の微笑みが見えた気がした。

そのとき、俺は「死」を感受した。


 しかし気がつけば、ケテルブルクの街中にたたずんでいた。
側にいた幼馴染みの姿から、自分も彼女同様に子供の姿だろうことは予測するのはたやすい。

“戻った”のだと――とっさに理解した。

これはローレライの意思か。
それとも音素となり世界を見守り続けるあの子供たちの願いか。


 俺が死に瀕していた“あの世界”は、どれだけ努力しようとレプリカという存在への中傷や差別は消えなかった。
見えないところで状況は悪化していた。
一番初めにキムラスカからレプリカという存在がすべていなくなってしまった。
否、消されたというのが正しいだろう。
【英雄】といわれた者たちは、自分たちの罪を顧みず、その立場に甘んじて裁きを受けることなく過ごした。
マルクトでせいいっぱいレプリカたちを保護するよう動いたが、人々の心が簡単に動くはずもなく、 人々はどうせ消えるだけで何者腰はしない「化け物」と、魂の抜け殻のようなレプリカたちに怯え、嫌い、そうして彼らに虐待を行った。
また刷り込みのなされていないレプリカたちには生きるために最低限必要な教育をする必要があり、 結局隔離するような形でレプリカの村を作ることとなった。
 そう。俺は死に際に見たルークや他のレプリカの子らから、あんな優しい笑顔を向けられるべき存在じゃない。
なにせあの子たちのたったひとつの願いである《レプリカが普通に暮らせる穏やかな世》をつくることができなかったのだから。
 当然、世界のために消えていった赤毛の二人の子供たちが“かえって”こないのもしかたないというか、 それが《目にすべき真実》だと、 彼らの捜索を打ち切ったのは随分前だ。
せめて2人の赤毛のこどもたちを休ませてあげたっていいだろうと思う。
だからこそ、捜索を早々に打ち切った。
俺だって2人には、かえってきて欲しい。 話したいことも言いたいこともあったし、もっと甘やかしたやりたいとも思った。

 でもそれじゃぁダメだとわかっていたから、俺は立ち止まるのをやめた。

 しかし捜索をやめた際に「ひとでなし」とか「ルークはどうするんです!」「彼らの居場所を奪うのですか?」とか、 、皇帝の立場である俺にそれを言うかと思わずつっこみたくなるような、 なにかうるさい戯言を聞いた気もするが、生憎俺の耳は都合よくできているので 皇帝スキルをふんだんに活用して皇帝非奥義《スルー》を使用した。
実際のところ、身分とかなくとも“それ”をお前らのその口が言うのかと、いらだったものだ。
 そもそもふたりの《ルーク》から居場所を奪ったのはこの世界でもあるが、 ひとりのルークを最初に切り捨てたのは、自称仲間であるお前たちだというのに。
彼らは口先だけで、ルークを探しに行ったりはしなかった。
なにより彼らは、いつまでたっても“いなくなった仲間を思い続ける悲劇の英雄”として自分自身にひたっていただけだ。
導師守護役の少女だけは、決意をあらたに違う道を進もうと努力していたようだが。
それはさておき。
 あのまま《ルーク》が帰って来たとしても、二人の子供たちに待っていたのは、レプリカたちの悲鳴と、辛い現実だ。
もし“ひとりのルーク”としてではなく、ルークとアッシュとして戻ってきた場合、あの世界ではルークは殺されていただろう。
また鳥篭に閉じ込められるような、いや、それ以上に酷な状況にしかならなかっただろう。
それはルークのみならずアッシュとて同じ。 ただ陽だまりを望んでいただけの子供。かえってみれば待ち受ける居場所は、自由とは程遠いもの。
なんで死んだものに仕事がのこっている?そう思わずにはいられない激務という名のおしつけ。
なら、どの《ルーク》にしてもこの世界にいない方がいい。
 かえってこない方が幸せだ。
そう思って俺は《ルーク》の捜索をやめ、世界に目を向けた。
あのときの世界は本当に腐っていた。
壊れかけていたのは大地よりも「人」だったと、いまだからこそいえる。
 しかし俺が死ぬまでの間では、世界はかわらなかった。
 酷い世界だったと思う。
あのままでは世界はパッセージリングや瘴気のことがなくとも、いずれは滅びていただろうことは確実だ。


「今度こそ、願いをかなえてやらなくちゃな」

 死ぬ寸前の悲しい世界を思い出し、小さくて剣もにぎれなそうな柔らかな自分の手を強く握り締める。
この手でつかめるの者はやはり少ないだろう。
それでもつかめるものもある。

今度こそ“かえる”のだ。

 音素となり世界に“還った”第七音素の子供――レプリカたち。
幸せな場所に“帰りたい”という願い続けた二つの赤色。
仲間だと告げる者達と朱のこどもが交わした “帰る”という約束。
古い思いに囚われたまま、その心に新しい想いを“孵し”、“返す”ことのなかった世界の人々。
世界を“変えられず”に死んだ俺。

そうして世界は滅びへと向かったのだ。

今度は違う。
同じことを繰り返さないために。


自らの手で、大切なものを守るために――








* * * * *








 俺が逆行して、即位したのは予言より早い年。
その間に、“以前”とは異なることがいくつかあった。
 まずはキムラスカの動き。
あそこにはどうやら、俺と同じような想いを持っている人物がいたようで、“前回”とはまったく異なる風に動いていた。
予言脱退を目指して上層部が動いているのだ。
それを風の噂で知ったときは、歓喜した。
これだけでも土台ができていれば、世界は変われると思った。
 そうして繰り返さないよう動いているうちに、俺は“あいつ”と“彼女”に出会った。
ふたりともキムラスカの住人であり、上層部に食い込むほどの重要人物たちだ。

 “あいつ”との出会いで、予言が変わりつつあるのを知った。
それは“前回”にはいなかった多くの存在がいることを知り得たから。
さらには覆されなかった予言を覆す勢力が、この世界にはじわりとひろがていること。
 俺も彼らの思想に賛同して、遠い未来を変えようとするやつらに、喜んで力を貸した。





 そしてあの《運命の年》より二年前――ND2016。

「ジョゼットぉーー!!!」

 ある日、訓練をしていた兵士達の方から絶叫が聞こえた。
そのまま聞き覚えのある声が、秘奥義を連発するのと爆発音が続いて聞こえたのに、思わず口過度が持ち上がる。

「あいつ “” か」

 そのまま声はジェイドを捜して暴れだす声の主。
しばらくしてその声にこたえるように、のんきに皮肉ったような相変わらずの口調のジェイドが演習場に現れた。

「突然なにごとですかアスラン・フリングス。迷惑ですよ」

 存在自体がひにくげなそんなジェイドが、暴走する銀髪の“彼”の名を呼んだことで、状況はさらに悪化。

「だまれ!貴様のせいでわたしは。わたしは!!」
「落ち着いてくださいフリングス少将。とにかく事情をうかがいましょう」

 普段の穏やかでまじめな“彼”とはかけ離れた怒りようは、一瞬彼の気が狂ったのではないかと思うほど鬼気としていたが、 その場に居合わせた者達は同時に哀れみも覚えていた。
彼らの内心は、どうせジェイドがなにかしたんだろう。っと、それに落ち着いている。
凄まじいな“皇帝の幼馴染み”というだけのくせに。そのネームプレートは、水戸○門の印籠のようだ。
少しジェイドの手綱が緩みすぎていたことを改めて思い知らされる光景で、これが後にルークを傷つける毒舌バカになると思うと頭が痛んだ。

 俺がひとり悶絶しかけているところで、アスランが動いた。
あいつの目は本気だった。

それほどまでの憎しみで顔をゆがめたアスランの剣がジャキッと音を立ててジェイドにむけられ――


「わたしと彼女の流れた結婚式をかえせぇ!!」


 ああ、やっぱりそのことかと。
俺は、“あのとき”を思い出して眉をしかめる。
“今のアスラン”は、まだジョゼット・セシルとは出会っていない。
だが、“むこう”では、アスランは彼女と結婚式寸前までなんとかこじつけた。だが、その間際に死んだのだ。
キムラスカ兵士に偽装したレプリカ兵士によって・・・。

でもなんでジェイドだ?

 レプリカの兵士を作り、ジョゼットとアスランをある意味でひきさいたのは、あのヴァンだ。
怒る場所が違うだろう。
そう思っていたら――

「保護者の方からようやく信頼を勝ち取るまでどれだけ大変だったかわかるか!? 陛下やルーク様たちの手助けでようやく掴み取ったわたしの幸せを!! 国境さえも障壁になりはしないほどのあの苦労を!! 死刑にされる覚悟でやっと彼女に認められたというのに!!!」

 その涙ながらの言葉に、その場にいた全員がかたまった。
涙ぐむアスランには同情の眼差しを。
剣をむけられているジェイドとはいえば、「覚えはないのですが」と相変わらずの表情だが、 若干戸惑い気味のジェイドは困惑を隠すように眼鏡のズレをただすような仕草をする。
その様子に、ジェイドがアスランの彼女を寝取ったか、あのイケメン具合に彼女が魅了され結婚前夜にでもすてられたのだろうかと・・・周囲が騒ぎ、 それらの言葉に感化され、2人で衣装の試着をしたことでも思い出したのか、 アスランが「ジョゼットー!」と再び叫んで、ジェイドにさらにつっかかる。
そもそも《ジョゼット》って誰だとみんな思っているようだったが、 ホドを中心としてマルクトではよくある名前だったため、思い当たる人物が多いようで全員が全員首を傾げてばかりいる。

「やっと式の日取りまで決まっていたのに!なのに愛しいジョゼットと結婚する寸前に・・・!!すべては貴様のせいだ!!」

覚悟しろと怒りに燃えるアスランに、さすがのジェイドも慌てたように 「ちょっと待ってください!話がわからないのですが」と言葉を繰り出し、 同時にコンタミネーションによる槍で防御を取ろうとする。

「どうしてくれるんだジェイド・ヴァルフォア!!」
「!?なぜその名を」
「問答無用だ!!」

なるほど。理屈はわかった。
花嫁泥棒やそういった甘い話しではなく、前回すべての元凶であるジェイド――フォミクリーの権威ジェイド・ヴァルフォア――に対して怒りを抱いていたのだと。
そこまでわかれば話は早い。

 俺は柱の影に隠れて気配を消していたが、二人を止めるべくいつもの調子で声をかける。
これ以上ジェイドの素性を明かされれば、王宮の重鎮どもが黙ってはいまい。
なによりこれからのことを考えると、あまりいい気分じゃないしな。
逆行したアスランにくわえ、今でさえ研究者だが死霊使いといわれるほどの譜術の威力は強い。この2人が戦ったらここだけでなく宮殿まで崩壊しかねない。修理費がバカにならないじゃないか。
俺はそれをとめるべく、いかにも今きましたとばかりに軽い調子を装う。

「おーおー。随分おもしろいことしてるじゃねぇか」

「「陛下!?」」

「とりあえずとまっとけアスラン」
「で、ですが陛下!!こいつはジェイド・カーティスなんです!! ルーク様が苦しんだのも。わたしと彼女が結婚式を上げられなかったのも!!すべて!すべてあいつが!!ふぉみ「まぁ、おちつけって」」

 毛を逆立てた猫のように声を荒げ剣をふるう姿に、“ああ、こいつはやっぱり”と苦笑が浮かぶ。

「これがおちついていられますか!!」
「落ち着けアスラン。お前ならもうわかっているだろう?“ここ”がどこであるか?死んだ先がマルクトの軍事練習場っておかしいだろ?」
「ここがどこ?死・・・ッ!?まさか・・・陛下・・・」

「大正解だ!“おかえりアスラン”」

 まっすぐ目を見て、落ち着かせるようにゆっくり話す。
 わかるのは俺と同じように“戻ってきた”者だけ。
ハッ!となってすぐにひざまずいて、騎士の礼をとる彼に、俺は「同士だよ」と手を叩いて歓迎する。

「ピオニー?」
「ちょっとジェイドは黙ってような。あと人前でなれなれしく呼ぶな。何度も言ったはずだジェイド・カーティス」
「っ!」

 なんかジェイドに苦虫でもかんだような顔されたけど、人がいる前でもそう幼馴染みのままでいられては困るのだ。
でも何度言ってもききゃぁしない。
 そんなジェイドに俺は一度ため息をつきつつ、跪いたまま顔を上げない(コレが正しい)アスランに視線をもどす。
顔を上げ楽にする許可を出し、話を続ける。

「安心しろ。彼女はまだ無事だ。お前も“まだ”無事だろう?」
「場をわきまえず。申し訳ありませんでした陛下」
「ああ、気にすんな。それよりお前の言う《彼女》との中だが、 こちらからもう一度とりなしてやる。ちょうど面白い具合に協力者が“向こう側”にかなりいてな」

 俺たちのみにしかわからない数々の言葉に、 背後でジェイドが意味深に眼鏡を人差し指で押しやっていたり、 「どういうことですかピオニー」と兵士達がいるのもかまわず皇帝である自分を見下すような発言をしてくるが軽く無視する。
どうでもいいけど、そのしょぼい地位で、内政まで関わろうとするなよお前。
現に研究者あがり成り立て軍人でしかないジェイドより、いまのアスランの方が位は上だ。
やれやれ。これは本格的に、ジェイドをしつけなおした方がいいかもしれない。
この捻じ曲がった根性なおさなきゃ、世界が危ない。
それに“戻って”きてもいない。ましてや“相変わらず”のジェイドに教えてやる義理はない。
 同じように視界に入れないようにしているらしいアスランは、立ったままのジェイドを激しく睨みつつけたあと、 《彼女は無事》《キムラスカ側に協力者》という俺の言葉に目を輝かせている。

「ではジョゼットも!?」
「あ〜・・・。そこは残念ながら違うんだが」
「そんなぁ〜」
「いや。嘆くのは早いぞ。前回気付かなかったが、今回は《彼女》の保護者はすで協力者だ。
それに言っただろ?“向こう側”には協力者がかなりいると」
「!?」

「近々“場”を設ける。もうしばらく待て」


 それから場をおさめると、すぐに人前だというのも気にせずジェイドに問い詰められる。
「あなたはなにをたくらんでいるんです」「そもそもジョゼットとは」とか、 自分が知らないことがあるのが耐えられないのか、 「幼馴染み特権」で俺をおいつめてこようとするが、 一度人生を終えて戻ってきた俺とでは踏んできた場数が違う。
軽く手をはたいて追い払うと、苦々しい顔をして去っていく。
アスランはジェイドが視界から消えるまできつい眼差しで睨みっぱなしだった。



 とりあえず、またひとり《仲間》をゲットした。
さぁ、これにこりずどんどん世界を変えていこう。










「っと、いうわけでよろしくなレイヴン」
「い、いやだわピオピオってば〜。おっさん、そんなご大層なことできないって」

 いつものごとく執務室から華麗に脱走したその日。
マルクトの街中で偶然にも俺は、キムラスカの男を見つけた。
名前はレイヴン。オレが皇帝であると知りつつだまっていてくれるかわりに、レイヴンの素性もオレが黙っているという――そんな関係だ。
その彼に、シュザンヌ様宛ての伝言を頼む。

「インゴベル陛下に《殿下》。あとファブレ夫人に伝言を頼むわ」

「・・・・・・おっさんに死ねと!?」
「自分でおっさんっていうなよ同年代。
あ、そうだ。じゃぁ【凛々の明星】に依頼ってことで」
「マルクト皇帝が、キムラスカの重役一行を誘拐しようとすんなよ!!」
「だから先に伝言を頼んでんじゃねーか」

秘密の会議が慕いの護衛なしできてください。
こっそり内密でお願いします。

「ってぇ!!こんなんで国を揺るがそうとしないでくださいよ陛下!!」
「まぁ、シュザンヌ様に言えばすぐに事情がわかると思うんでヨロシクな〜」
「そんなぁ。おっさんはただのギルドのおっさんで。“シュヴァーン”にしてみても王族方にどうこういえるような立場じゃ」
「大丈夫だレイヴン。こんなことってお前はいうが、これは世界そのものを変える会議だ!」
「アスランとジョゼットをくつけようっていうののどこが世界をかえるんです!?」
「わからないやつだなぁ。変わるんだよ」

現に世界は少しずつ代わりつつあるのだから。
それはお前の存在も含めてまたしかり。

 レイヴンは頭の上の方で髪をくくったほうきのような頭を「うわー」と悲鳴を上げながらかきむしった。
そこまで無理なことか?
 このいかにも、どこにでもいそうなラフな格好をしているおっさんは、実は弓と剣の類稀なる使い手である。
とある事情により【凛々の明星】というギルドに入っていて、そのギルドにおいては弓の腕のみだが、レイヴンという名はかなり有名である。
同時に、彼の本当の正体は、キムラスカの《殿下》直属近衛騎士団、団長シュヴァーン・オルトレイン。
騎士の時は髪を下ろし、きっちりとした格好に態度をとる。このときの武器は弓ではなく剣のみを使用する。
あまりにレイヴンもシュヴァーンも違いすぎ、まったく似つかないため、 誰もギルドのレイヴンと騎士団長シュヴァーンが同一人物だと気付かないのだ。
 こんな奴は“前回”にはいなかった。
いや、いなかったのでなく、“前回”はおもってだってでなかっただけで、“今回”は《殿下》がいることで表に出てきたのかもしれない。
どちらにせよ《俺たち》が“戻ってきた”ことに起因するのか、“いなかった”者達がこの世界には数多くいる。
否、“前回”はただ気付かなかっただけかもしれない。
それでも確実に世界は、俺の知る《未来》から変わりつつある。

“前回”いなかったからこそ、レイヴンに頼むのだ。
より予言も何もかも壊せる鍵たる彼らに――


世界が動いている。それを知っているのは、《俺たち》だけ。












ND1998 『ピオニー・ウパラ・マルクト九世サマ』 が
“世界”に おもどりに なられました








ND2016 『アスラン・フリングス少将』 が
“世界”に おもどりに なられました











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