有り得ない偶然 Side1
++ HXH++
04.開花と能力
その力は“もと”からあったものだった。
別に今更始まったことではない。
だからーー目の前に、みえるはずのないものが“視えて”いようとも恐れることは何もない。
たとえ気付いたら知らない屋敷で幽霊にかこまれていようとも!!!
:: side 夢主1 ::
生きると決意を決めてから、すぐにオレは母と父により修行をつけてもらった。
まずは肉体作りからということで、日中は母に裏庭という人外魔境につれていかれた。
ある程度体力がつくまでは、家に辿り着く前に夜になり力尽きていた。
しばらくして起きていられるまで体力がつくと、今度は父が道場の奴らとは別に修行をつけてくれることとなった。
ちなみに体力づくりと言っても、母とすることは簡単。
生き残る。それだけだ。
裏庭体力作りにおけるサバイバル生活。
はじめは母もともにいて、山道でも走れるように。木々の根などにつまづかないように。山の中の走り込みをさせられた。
そして次に教わったのは、獣たちのテリトリーのこと。
肉食怪獣と思われるような生物たちと暮らしていく方法、獣を狩る方法、殺した後の処理の仕方、料理の方法、食べれるもの…tectec。
今、思えば、体力づくりの度合いを超えている気がするが。
この際それはいい。
問題なのが、オレだ。
なぜかオレは獣にやたら襲われまくるのだ。
てっきりオレは動物たちに嫌われてるのかと思ったのだが、母が言うには「良いハンターは動物に好かれる」…らしいが、それとこれは違うだろう!?と、思う。だって殺気が。殺気出してるよ!涎も出てるよ!硫黄的な炎はいてるよ!?
そううったえれば、そうねぇ〜と不思議そうに首を傾げ、彼女は言ったさ。「弱そう」あるいは「美味そう」なのではないか。とのこと。
そこからが本当に大変だった。
どうやらオレ自身が獣に嫌われているか獲物としてターゲットにされているとわかってからは、気配の察し方と気配を消す方法をたたき込まれることとなった。
「気配を消すことを心がけるのよ!」と、軽く母が言ってくるが、まずオレは前世日本人!しかもただの一般人だ!気配ってなんだよ!っておもったね!!
体力づくりはどうしたとかそっちのけで、もう逃げるのに必死だった。
気配の訓練より逃げないと死ぬ!それが当たり前の暮らしってどうなんだろう。
必然、体力はついた。
サバイバル生活 数か月後。
元はただの一般人だったオレだが、ついに生で獲物を狩って、捌く。なんて芸当ができるようになった。
あと森の中で何を食べていいのか悪いのとか、動物にはテリトリーや独自の習慣などをあることを学んだ。
実体験で。(遠い目)
よくいままで命があったものだと、逃げるのに日々を費やしていたオレはお空の星を拝めたことを感謝した。
自分がお空の星にならなくてよかった。
サバイバル生活 半年後。
母が「もう一人でも大丈夫ね」と笑顔で言うなり、森に一人で置いてかれた。
そのころには体力もついてきたので、父が剣術などをみてくれるようになっていた。
日中は山で恐怖の追いかけっこ。そのあとは、家に帰って父に剣術の指導と人体の仕組みについて教わることとなった。
父に教わるようになったことで、兄弟子ができた。
名を服部半三保長という。長いから保長で十分だろう。
保長は十代前半と若いくせに髭を生やしている侍だ。
将来は立派な主に仕える侍となるべくウンヌンと言っていたが、あの頭かたい真面目な兄弟子は、侍らしからぬことに頭髪より髭になぜか全力投球していた。いや、まだ無精ひげぐらいしかないけど、将来は立派なひげを蓄えたいのだと日ごろから言っていた。侍ってちょんまげが命ではなかっただろうかと、疑問に思ったけど髭こそ立派な男の証と兄弟子は信じて疑わなかった。オレはツッコミを放棄し、もう組み立ちの時は兄弟子の髭を狙うことを決めた。やつの急所はあそこだ。
サバイバル+剣術稽古からさらに一年後。
念がひらいた。
オレはまだ五歳にもなっていなかった。
そんでもってそれは、意図的なものでも望んだものでもなく、修行の結果ひらいたものではなかった。
ただ、それはひらいた。
* * * * *
そのときオレは、いつもどおり恐竜モドキに襲われていた。
母もおらず、連日ずーっと追われていたこと、最近寝不足気味であったこと、極度の疲労が重なり足がもつれてしまった。
疲労に足が絡まって倒れればもう動けなくて、大きな影が自分を覆った。
恐竜の巨大な足がオレを殺そうと持ち上げられる。巨体のせいで頭上から影が覆う。
踏みつぶされる!
もうダメだ!死ぬ!
せまりくる地響きと獣の咆哮と殺気。
ここでオレは殺されるのだ。そうして死ぬのだ。本気でそう思い、目を閉じた。
っが、しかし。
巨大な牙も圧力もなにもこなくて、恐る恐る目を開ければ、そこは山のふもとの村だった。
ちなみにそこで先程とは比べようもない物凄い疲労にかられ倒れた。
倒れる前に見えたのは、たぶん自分のオーラだろう。ひとのオーラとかは、みたことあったけど、“自分から出ている”ものを見たのははじめてだった。
次に目を覚めたとき覚えた感覚は、自分のオーラが身体にまとわりついている不思議な感覚。
きっとこれが念能力の開花だったのだろう。
そのあと意識がおぼろげな間も声がきこえて、ゆっくり意識が浮上する感覚に身を任せていれば、母が焦ったように何度も声をかけてきていた。
体から出ているものを意識して抑えなさい。と言われ、ボォーっとした頭のままに、オーラのことだろうかと、たしかになんだかいきおく体からエネルギーが抜けていくような感覚がするので、それをかき集め、自分の周りにとどめておくようにこころがけた・・・ところでまた意識が飛んだ。
次に目が覚めたとき、母からは、常にオーラを自分の周囲にとどめるようにいわれた。
オーラは生命力なんだと。なので、だしすぎると死ぬらしい。
こういうときオレはオーラが素の状態で見えているので、オーラの調整をしやすくて楽だ。
母のように操るにはまだ鍛錬が足らないらしい。
たぶんこのことがきっかけだったんだろう。
あれ以降、死にかけたりするたびに別の場所にいて、ようやくそれが能力だと知った。
自分で好きな念能力作りたかったのに。勝手に出来上がりかけてるんですけど。
それからはなにが原因かはわからないままに、死にかけるとおかしな場所に飛んだ。
何度かわけのわからない場所に行く。ということを繰り返しているうちに、あるとき怨念めいた赤い影がいっぱいいる大きな屋敷に飛んでしまった。
「影や人がこわい」ではなく「場所がわからないから家への帰り方がわからない」ことで泣いていれば、粋のいいおじさんに保護された。
彼はジャポンびいきらしく、ジャポンのおいしいお茶の店を教えてくれれば自宅に送ってくれると言った。
「おー。おーちいさいな。どうやってはいったのやら」
『きづいたらいたの。ねぇ、おじいさんここどこ?どうやったらおうちに帰れるの?』
「ふむふむ。気付いたらということは、“無意識”か。うちの息子より小さいのにもう念を操れるのか」
『ねん?はまだできないって母様にいわれたよ?いっぱい“連れて”るおじさんはだぁれ?』
「ん?いっぱい、つれて?ふぅむ。何が見える?」
『おばけ。ひと…の、たまし』
うちの国には妖怪や魑魅魍魎や魂(=幽霊)という概念があるが、どうも外国にはないという話を母から聞いたような気がしたので、あわてて「魂」を言い換える言葉を探す。
幽霊ってつまるところ、死に際の感情が強すぎて、魂がそれにひきづられちゃって現世に残った想いの残留思念。
だからいうなれば、幽霊ってのはだれかの“重い感情”のことであっているはず。
「たま?」
『うーんとうーんと…重い想い?』
「だじゃれ?」
『ちがう。重いきもち。それには体がないの!たぶんだれかの強い想い?たましい?よくわかんない。さわれないの。キラキラいろんな色をしてる。
おじさんは、それをいーっぱいつけてる。ひとの死の傍にいたの?でもそれを覚悟してるから、あれは、おじさん“たち”に近づかない』
どこにでるかわからない。きっかけも原因も不明な能力でたどりついたのはーー幽霊にまとわりつかれてる人たちのお屋敷でした!
怖すぎる!
あまりに幽霊(この世界では人の想いの残り滓らしい)が屋敷中にいっぱいいたので、さすがにこれだけ幽霊にまとわりつかれてるのは殺し屋以外のなんなんだという感じだった。
うちの国の忍さんたちだってここまで赤い影をひきつれてはいないぞ。
ちなみに幽霊は生まれたときからそこら中にいたので“いる”だけなら怖くなくなりました!むしろ当たり前すぎて、周囲のみんなが視えてないのもたまに忘れてる!
幽霊屋敷の住人とはいえ、目の前のおじさんに恐怖はない。
ハンターなんて“狩る者”が一番の職業人気枠をしめるようなこの世界では、当然「死」はとても身近な感覚だ。だから普通に、この世界では忍や殺し屋もいる。
この世界にはそういう人種がいることも、殺さなければ自分が生き残れないのも。そういう職業が表の世界でさえ当たり前であることは仕方ないとわかってきてたから、だから目の前の人が殺人鬼でも気にせず話をした。
送ってくれると言うだけあって、目の前の殺し屋さんは「目撃者は全員殺すマン」というわけではないようだ。それだけは助かった。現に「標的以外は殺さない主義」と言っていたし。
ああ、でも興味がって殺さなかっただけかもしれない。殺し屋さんのおうちに傷一つなくいたオレに興味を持ったとかね。
どちらにせよ、オレは怪獣との戦闘で疲労困憊で暴れることさえ無理な状況だった。
殺されたくはないが、それをふせぐほどの実力なんか修行を始めたばかりのオレにはない。
それ以前の問題としてこれだけ幽霊を引き連れてるのだ。この人がとんでもない殺人鬼であることは間違いないだろう。そんなひとに、もしオレがチートだったとしても勝てる自信などあるはずもない。
そもそもチートですらないが。
だから、大人しくしていた。
相手がオレを殺す気になるまでは、子供の振りをしてそのまま無邪気に相手と会話を心掛けた。
まだ殺されてないので、本当に送ってくれると信じて、今はただ家に帰ることだけを考えた。
自宅の場所を言えば飛行船で送ってくれて、大陸を超えて転移したのを知ってその時初めてビビった。
いままでは近所だったのに。だから両親もオレもあまり深くきにしてなかったのだ。歩いて帰ればいいと思っていたから。
でもこの出会いのお蔭か、一ついいことがあった。
転移の座標が定まったのだ。
おじさんと友好関係を築けたからか、あの日以降、突然の転移先がやたらとおじさんのいる場所になった。
おかげでずいぶん気持ちが楽になった。いや、おじさんのところにいくと高確率で傍に死体が転がっているけども!!!
それでも、自分がどこにいるかわからなくとも、傍には必ず知り合いがいて、必ず送り届けてくれるという保証ができた。それだけでも、今迄みたいにどこにとぶかわからず帰れる保証もなかったときよりは、数倍は安心できた。
そうそう、言い忘れていたが、一番初めにおじさんに家まで送ってもらった日。
おじさんは「知らせておくべき」と言って、オレがオーラとか幽霊が最初から“視えていた”ことを両親に暴露された。
おじさんは両親に明日の天気を告げるかのように軽く「この子は天性的にオーラがみえるようじゃぞ」というものだから、うっかり「みんなはみえないの?」って言ってしまって、凄い顔をした両親を見て、そこで普通は見えないのだと思い出した。
そういえば“視える”ことを言ってなかった。
向こうの世界では、言えば変な目で見られるのがわかっていたから言わないことが当然だった。
この世界に来てからは“視える”のが当たり前すぎて、しかも念能力なんて“視える”以上の非常識こそが日常だったから、“視える”のはたいしたことではないと思いこんでしまっていた。
そのせいで他の人は見えないということを他人に指摘されて、ようやく思い出したほどだった。
それからおじさんの話をくわしくきいたところ色んなことが判明した。
まず、こっちの世界では幽霊というのは、オーラのことらしい。つまり念の一種にあたるそうだ。
『ゆーれいはねん?…‥ねん?』
オレは念をくわしくは知らない。
母が毛糸を操っているのが念能力ということぐらいしかわからない。母が言ってたからそれは間違いない。
あの原理がどうなっているのかはさっぱりなのだが。
あと、オーラが視えるのはふつうでないというのも今知った。
たしかに幽霊は死者の思念の残りかすだろうけど?
あれ魂じゃないの?
幽霊って魂が彷徨ってるとかじゃないの!?
「魂とはちと違う。だから物にもよくこびりついているだろう」
『いきりょー!』
「ではなく、お前さんが言っておったように“想い”ーーつまりは念の一種じゃ」
首をひねるオレに、“視える”ことの特殊さや念についておじさんが解説してくれた。
俺がずっと幽霊だと思っていたあいつらが、ねん…え、あれも念なの!?
つまり・・・なに?強い感情がこびりついたのが、この世界では幽霊や生霊って呼ばれるたぐいということ。
え、あいつらって意思ないの?
魂って概念この世界にないの?
こどもにもわかるレベルの言葉選びをしてくれたけど、くわしいものではないだろう。
けれどそこで母が独学の自分よりもしっかり念を理解しているとみて、おじさんにオレの念修行を頼んだ。
転移とかする時点で母とは系列が違う性質の念能力者になるだろうから、もっと詳しく知っていそうなおじさんを頼ったようだ。
母ができるのは自分と似たような系列の能力者の育成ぐらいなのだとか。
「私は操作系なんです」
「ふむ。たしかに。この子のアレはさすがに操作系ではないだろうなぁ」
「ですよね」
『へんなところにいちゃうやつ?』
「それねー、本当に困ったわよね。危ないし」
このまましらないまま自分にあってない念を習得してしまったらまずいとのことで、念について学んで、その転移する体質を念能力としてしっかり昇華しろとのこと。
ちなみにオレの念の師となったおじさんの名前は、ゼノ・ゾルディックといった。
ジャポン人にその苗字はとても発音しずらいです。と言ったら爆笑された。
ゼノさんの家はとても怖い一家というので有名らしい。
だから名を名乗ったら怖がられると思ったらしい。
『あんだけ屋敷中真っ赤な幽霊で囲まれてるのにいまさら怖い一家っていわれても』
想定どうりですがそれがなにか?って感じだった。
父は「ゾルディック」ときいて微かに目をゆらしていたが、「うちも」と一言つぶやいて頷いた。
なに?何が言いたいの父!!!
やはり父もゾルディックっとやらが怖いのかと思ったら違うらしい。
母が笑顔で「ゾルディックの方とはしらず失礼しました。ですが、うちも殺しを主としてる流派ですので。名をきいたところで恐れることはありません」と補足説明してくれた。
嫌な共感だな、おい。
殺し屋仲間だから仲よくしようってことだろか?・・・・父よ!もっと言葉を話せ!
なにを思ってか、ゼノさんがさらに笑い声を大きくして楽しそうにしていたのでよしとする。
ゼノさんには息子さんがいた。
その息子さんとは、オレの能力が不安定で何度かゼノさんのところに転移しているときに遭遇したので、3回目には話をするようになった。年も近いせいか、すぐに仲良くなった。十も離れた兄弟子より年が近いので嬉しい。
あの無表情すごいよね。とはいえ、無表情というよりたぶん瞬きの回数が少ないから怖がられるんだと思うよ?あ、うちはそもそも瞼がなくて常に金の目をかっぴらいて牙をはやしているような親戚がいるので気になりません。
猫目が、というか瞳孔がひらいてるのは、オレやオレの父とお揃いだからこわくないよ。むしろ共感がわく。髪の毛のふわふわなくせっけ具合といい、目といい。
そもそもうちの父の方が表情筋が仕事しなさすぎるからね!しゃべらないし!
シルバはうちの父と違って、わざと表情を殺すようにしているらしく、そのせいか表情筋がうちの父よりわかりやすい。それに普通にすらすら言葉を話してくれるからね!オレからするとシルバはすごく感情がわかりやすいし、話しやすい友達だ。うちの無口無表情が基本のあの父にくらべたら断然ましだよね!!!
そうして始まった念修行。
まずは母との生きるためのお山までの特訓にやオーラを“纏わせる”修行が加わり、ゼノさんの手隙の時に念の座学がくわわり(なぜか母も参加した)、少しずつだがオレの念修行も同時に行われていった。
まずはちゃんと基礎の念の修行をすべきだとゼノさんに言われ、能力を固定するのはそのあとということだ。
本来であれば、念が開花していない段階の一番はじめは、念能力を誤魔化して「方便の4つの基礎」をおそわるらしい。
その後、念がもし開花したら、「念の四大行」という本格的な基礎を教わるのだとか。
っが、しかし。
母とゼノさんはどういった話し合いをしたのか、オレの修行はしょっぱなから“実戦”だった。
方便どころか基礎もふっとんでいた。
『だからすぐに裏山に放置するのやめろよ!!!!』
なぜすぐに裏山に投げ込むんだ。
ゼノさんも「話よりも実戦で経験を積んだ方がいい」と笑顔で同意。
先生〜〜〜〜!!!!!それはないだろう。
まぁ、でも有名な暗殺一家の方ならば、このくらいの日々の命のやり取りは、訓練にもならないぐらい低レベルの事なのかもしれないが。
ちなみにこれにより、オレが一番に必要だと判断したのは、“気配”についてだった。
戦うことに重きを置く傾向があるらしいハンターたちは、ふつうであれば「オーラをまとわせることで何かを強化できる技」に己の命を守るためにそこを重点的に強化するものらしい。
だが、オレは別に強いやつと戦いたいわけでもなく、裏山の怪獣どもと戦闘したいわけでもない。裏山からとにかく生き残りたいだけだ。
ひたすら毎日を必死に生きていて、裏山で生き残ることだけを考えていたら、肉体強化とかよりも気配を感じ気配を殺すという技の方が必要があった。
そこからはひたすら気配察知と気配を消す技メインで訓練した。
だって、まだ“念”もまともに操作できないのに、裏山に一人で放置されたオレはとにかく必死だった。
ぶっちゃけ《絶》とよばれる気配消しの技以外、念修行についてはすべて無視した勢いで、“気配”に関する念修行に励んだ。
だってそうしないと、裏庭の獣たちにいつか食われる。
今回って運よく転移したから逃げ切れたが、次も同じタイミングで能力が発動するとは限らない。大きな口の怪物に丸呑みされた時に能力が不発だったら逃げられないのだから。
おかげで攻撃や防御は苦手に成長を遂げたが、逃げ足だけは早くなったぜ。
だれかオレを褒めろ。
「・・・またきたのか」
『あ、シルバだ。あれ?ゼノ先生が転移先にいないなんてめずらしいな』
「お前はいったい何度死にかけてるんだ。いっそのこと俺が一思いに殺してやろうか?痛みもないぞ」
『いや、死ぬなら、シルバのとこまできて殺してって頼むより、先に崖から飛び降りた方が早い。それにたぶんシルバが殺そうとした段階でオレどっかに転移させられてる。ゼノさんの時がそうだったし。ところでここどこ?』
「それもそうだな。あーここは〇〇大陸の××草原だな」
『〇〇大陸、けっこう遠いな・・・××草原とかどこだ!!』
「送る」
『ありがとう』
「念より先に地理を覚えた方がお前にはよさそうだな」
『努力します。あとお金を常に身につけようと思う』
「いっそのことさっさとハンターになったらどうだ?ハンターカード一枚である程度の交通費が割引になると聞いたが」
『え、それ試験受けてる最中に死にかけて別の場所にとんだままま帰ってこれなくて失格になるやつじゃ』
「・・・なにもきかなかったことにしてくれ」
『だな』
死にかけるたびに転移して何回目か。
キーワードは「死にかける」こと「影に覆われたら」っていう条件だけが判明した念能力の暴走で、何度目かになる「突撃お邪魔します」をしたその日、オレも少しだけハンターに興味を持った。
ハンター資格を得ると交通費が割り引かれるどころか、無料になる場所もあるらしい。
なにそれ!?いつか挑もう。絶対だ!
* * * * *
念とはなにか。
ここで、少し念というのについて学んだことを説明しようと思う。
内容は全部は頭に入ってない。
オーラとかさー、こうすればいいのでは?という感じで、オレはオーラを操ろうとするので、基本的におまえは感覚派だとゼノさんにも指摘をうけている。「だから山に放り込まれるんだ」というのは友人シルバの言葉である。
そのため、オレにも少しは脳みそがあることを証明するために、復習としてノートをたまに読みなおそうと思う。
念の説明を避けるための方便として「燃」の四大行が存在する。らしいが、これはこのさい、半分は嘘と方便の説明になるので吹っ飛ばそうと思う。
まずは、《四大行》。
念の基礎的な活用方法で、以下の4つのことをさす。
【纏/テン】
肉体から流れ出ているオーラを自身の周囲に留めること。
(効果:体を頑丈にする、若さを保つ)
【絶/ゼツ】
精孔を閉じ、オーラが全く出ていない状態にする。
(効果:気配を絶つ、疲労回復)
【錬/レン】
精孔を広げて、通常以上のオーラを出す。
(効果:大量のオーラを駆使できるようになる、攻防力が上がる)
【発/ハツ】
オーラを自在に操る技術、念能力の集大成。オーラを活用して作り上げた念による特殊技、必殺技のこと。
そして「発」を作るにあたり、個人の資質にあった6種の系統がある。
強化系・放出系・変化系・操作系・具現化系・特質系。
誰もが生まれついて、このどれかに属している。
生まれ持つ系統が最も習得が早く、力が発揮できる。逆に相性の悪い系統ほど、扱いにくく覚えにくい。そのため、強化系に向いているからと言って特質系が使えないわけではないが、やはり相性の悪い系統で能力を作ると実力を発揮できないらしい。
各系統は円を描くようにして並んでおり、隣り合うものほど相性がいいとされる。
【強化系】
物の持つ働きや力を強くする(肉体や武器の強化)
【放出系】
自分の身体からオーラを切り離したり、飛ばす(念弾など)
【操作系】
物質や生物を操る
【具現化系】
オーラを物質化する(特殊な武器の創造、念獣、念空間など)
【変化系】
オーラの性質を変える(炎や雷をオーラで再現、形状変化)
【特質系】
他に類の無い特殊
《応用技》
【周/シュウ】(基礎の技:纏・練)
自分の肉体以外にもオーラをまとわせ強化する。
【陰/イン】(基礎の技:絶)
オーラを見えづらくすることで気配が消せる。これは具現化した物体にも適応化。
【凝/ギョウ】(基礎の技:練)
肉体の一部にオーラを集中させる。目に集中させるだけが凝ではなく、一部に集中させる行為すべてが凝。
攻防力・身体能力が部分的に強化される。目にオーラを集めることで「隠」を見破ることができる。
【堅/ケン】(基礎の技:纏・練)
錬で自身の肉体を防御し続ける。
【円/エン】(基礎の技:纏・練)
オーラを自身を中心として広げ対象物を感知する。
厳密な「円」とは、自分を中心にオーラを半径2m以上、1分以上維持する技術を指す。
しかし、円の形状や範囲、特殊能力の付加には得手不得手がある。
※剣の達人、幻影旅団の「ノブナガ」でさえ半径数m程度。
【硬/コウ】(基礎の技:纏・絶・練・発・凝)
体中のオーラを一か所に集める技。特定部位の攻防力が飛躍的に上がる。反面それ以外の箇所は「絶」の状態であるため極端に脆くなる。
【流/リュウ】(基礎の技:凝)
オーラをスムーズに体の部分から部分へと移動させる。オーラの量を振り分ける。
* * * * *
母もゼノさんもオレには「基礎」よりも鍛えるべきものがあると言われた。
その結果、最初から「応用技」を仕込まれているわけだ。
たしかにオレにはそれらは必要なものだった。
だからオレにもっとも必要な念は何か、改めて考えてみた。
オレが念で何をしたいか。
べつに戦いたいわけでも強くなりたいわけでもない。
原作なんかほぼ知らないから、どこかの小説の主人公のように関わったり改変しようとも思わない。
ただ平穏な日々を過ごしたいだけだ。
そう、オレは生きたいだけだ。生き残るすべがほしい。
ならば必要なのはなにか。
まずぢ一に、身の安全のためにも己の特異体質を制御したい。
そもそも「凝」をしなくてもオレは通常の状態でオーラがみえている。つまりオレがやるべきなのは、「気配を消すこと」と「気配を探ること」だ。
なんでその選択肢になったかって?
さっきから言ってるじゃん。生きたいんだって。
だって裏山で生きてくの厳しいんだもん。
「絶」や「陰」という気配やオーラを消す技を中心に特区し、かつ「円」をひたすら練習した。
むしろ「円」にほぼ全力投球していたので、オーラをめちゃくそうっすーーーーーく!うすぅーーーーーーくすることに成功し、円をかなりの広範囲ひろげることができるようになった。
なお空気に溶け込ませるイメージなので、完全なる円形にはなってはいないし、そこら中穴だらけだが、とにかくうすい!とにかくひろい!最高2mが皆さんの限界だと聞いたことがあるようなきがしないでもないが、みろ!この余裕を!この広範囲を。というぐらい広げることに成功した!
おかげで逃げやすくなったのと、最近は獣たちをスルーできるようになって安堵した。
のだが、しばらくすると――獣が念を習得しやがった。
なんでだよぉぉ!!!!ッと、叫ばずにはいられなかったが、そんなわけで新たなサバイバルが展開することとなった。
お前ら、オレに対して異常に執着しすぎじゃないか!?と思ったが、もはや「よいハンターは生き物に好かれる」という理論を超越したレベルで魑魅魍魎どもはオレを完全に敵対視してロックオンしている。
ああ、そうか。
もしかするとオレという異世界からの…“異物”が生理的に、魂の底からきにくわないのかもしれないな。
さすがは野生の生き物だ。鼻が利く。
彼らに追われているときに、「絶」を行い、気配を消してにげていたのだが、ある日気配を消していたのに気づかれた。
出したゴミだって絶対に屑一つ落ちてないように注意だって払っているのにだ。
以降は、気配を消しても意味をなくしたようにやはり獣どもは襲ってきた。
何度かそういうことがあり、どうしてだろう?と思い、母に協力を求め、母に安全な場所で「絶」を何度もしてもらい自分の「絶」のなにがわるかったのだろうかと確認した。
そこで気づいたことがある。「絶」をした範囲だそこだけぽっかり空いたように“何もないよう”に感じてしまうのだと。
野生の生き物たちはその異常性を敏感に察知し、狙いをつけていたのだと判明した。
獣対策に常日頃気配を消していたが、これにより新たな気配を消す技を独自に開発した。否、せざるをえなかった。
なので「絶」とやらをやるのをやめた。
かわりに、自分で気とやらをあやつってみることにした。
気配を”消す”のではなく、”気配を周囲に溶け込ませる”のだ。
そう考え、オーラの質を傍にある樹や植物や空気に一体化するイメージをおこなった。
”それ”を習得するには、文字のごとく血を吐いた。何度も死にかけた。
それほどとんでもなく苦労したが、これのおかげで「円」の領域が格段に広がった。
時間はとてもかかったが、なんとこさ、オリジナル絶というか、「空気と一体化の術(ネーミングテキトー)」を会得した。
そうしたら今度は「普段から存在感がない」とまで言われるようになってしまったが、一度ついた癖はなかなか抜けず、オレは存在感の薄い逃げ足の速い人間へと成長した。
足は速いのではなく、敵が来る前に逃げる“察知力”がすごいだけだが。
* * * * *
さて、時も流れ、念修行も進み、肉体も念の基礎もある程度鍛えた段階で、能力の開発を始めることとなった。
まずは自分が持つ系統を理解し「発」を作る。
その系統を判断するために水を使った性質判断を行った。
水見式とは、グラスに水をいれ軽くて浮くものを浮かべ、そのグラスに手を添えて「錬」を行う。それにより浮かべたものが変化したりや、グラスになにかがおきたり、水の量が増えたり、水の中に異物ができたり、水が甘くなったり…何らかの変化がおきるのだ。その変化でおのれのオーラの系統を判断するものである。
強化系…水の量が増える。
操作系…浮かべたものが動く。
変化系…水の味が変わる。
放出系…水の色が変わる。
具現化系…水に不純物が出現。
特質系…上以外の変化がおきる。
オレは変化形や具現化よりの特質系であることが判明した。
そりゃぁ、「円」を歪ながらもあれだけうっすーく広げるのに成功して、しかも空気とオーラを一体化させるなんてことまでしてたら、オーラ操作になれた変化形だろうとは思っていた。
あと転移するぐらいだから特質だろうとも思っていた。
水見式でなにがおきたかというと、水の味どころか水そのものが変質した。
コップの中の水が墨に変わったのだ。
色が変わったのではなく、そこにあった「水」が「墨」という不純物に変化してしまったのだ。
なので変化であり具現系なのだ。
ちなみに、匂いも味も成分も普通の墨だった。
なんで墨なんだろうとおもったが、きっと名前のせいだろうとゼノさんと母は笑っていた。
たしかに苗字は「黒筆」で名前は「字」ですけど。たしかにこうなると足らないのは「墨」だっていうのはよくわかるけど。
無意志に名にひきずられていたのではないかと言われた。
なるほど。名はていを表すをそのまま体現してしまったらしい。
能力開発にあたり、オレが一番初めにしなければいけないこととして、あの突然転移する体質をなんとかすること。
なにせ自分の意志が関係なく転移してしまうのだから。
転移条件と転移先を定められるようにする。そのために普通の「発」よりもさらに強固なものを作るのは急務だった。
もとから影に覆われると影のある場所に転移していたのは、オレとゼノさんの証明実験ですでに判明していた。
なのでオレの水見式をそのまま利用し、「墨」=「陰(影、暗闇)」という認識を無理やりつなぎ合わせ「発」を開発することとなった。
そのため念能力に《制約と誓約》をつけることをすすめられた。
《制約と誓約》を課すことにより、その威力と制度を著しく向上させることができるらしい。
たしかにすぐに解除されてしまうような生半可な中途半端な能力ではダメなのだ。
オレのこのおかしな体質はオーラの暴走であるとわかっているし、この場合放置は色んな意味で命にかかわるので、「発」をつくり、それを完全に固定化する必要があったから当然と言えよう。
《制約と誓約》とは、簡単に言ってしまえば、自らの念能力に“条件(枷)”を付与すること、それを実行することにより、能力の威力をあげるというものである。
たとえば自分の中でルールをつくったとしよう。
「オレはこの能力を生き物にはつかわない。生き物に使ったら能力は二度と使えない」――ここまでが《制約》にあたる。
それを順守すると誓うのが《誓約》。
はなしにきくところ、《誓約》には「約束を守る」という意味しかないため、理論上では《制約》部分だけが関係するらしい。
まぁ、堅苦しい難しい話はぬきにしよう。
とってもわかりやすく簡素にいってしまえば、作った転移の能力はとても強力なので、それを補うために“発動条件と使用法をしっかり決め”、“それを守らないと能力は強く固定されません”ということだ。
はじめのころ、その段階ではとくに不自由をしていなかったため、もうちょっと修行で身体を鍛えてから、必殺技たる「発」を作ろうと考えた。
なにがやばいかって。とにかく転移の能力だけは何とかしなければやばいので、それだけは先にイメージを固めた。
あとの能力は基本的に放置して、身体を作るので日々を過ごした。
肉体をつくるため、勘をきたえるためとやらで、裏山以外にも道場にも通っている。
対野生動物ではなく、対人間相手の訓練も必要だとゼノさんにいわれたからだ。
本当にゼノさんは的確に物事を指摘してくれるのでありがたい。
うちの父は無言で見つめてくるだけで意味わかんないし、母はウキウキと「山ならどこでも生きれるから」と放り投げるからな。うちの両親に教えをこおうというのは間違っていると思う。
* * * * *
そういえば当時道場で一番若かったから仲良くなった兄弟子の服部保長だが、願うほどに髭が伸びないようだ。かわりに髪の毛がとても美しい黒い光沢でもって伸びている。
侍っていうのは不思議な生き物で、なぜかちょんまげをきにする。
侍がっていうより、この国の風習のような物だ。
男は短い髪より、少し長めで頭部で結べる髪型を好む。
女は方よりも長い髪が好まれる。
さて、その侍らしい少しだけ長い黒髪が、目の前で音を立てて揺れている。
サラサラ音をこぼしながら、癖のないストレートヘアが動きに合わせて軌道をなぞる。
頭部で左右にゆれているそれををみると・・・
『無性に“刈り”たくなるのはなんでだろうな?』
「やめろ!」
『安心してくれ保長。顔は狙ってないから!髭が伸びたら顔を狙う予定だ』
「何を狙ってんだアホが!!!」
剣の稽古中に思わずポニーテールに目が行く。
オレの精神状態はどういう状況なのかと言うと、視界の中で動くものって気になったりするだろう。まさにあれだ。
動物の本能か?
あ、山で育てられ、獣どもに餌認定されて逃げ続けたせいだろうか、少しでも視界の隅でさえ動くものは気になってしょうがない。
いや、まだオレがこどもだから、子供特有の好奇心に負けてしまっているのかもしれない。
なんにせよ気になる。
すごい気になる。
思わずひきよせられるように兄弟子の揺れる見事なストレートヘアめがけて攻撃を仕掛けまくったのは、オレは悪くないといいたい。
別にストレートへアがうらやましいなんておもってない。
揺れているのが悪いのだ。
ギャーギャー騒ぎながらもみごとに紙一重でオレの攻撃をよける兄弟子。
念能力者でもないのになんてすばらしい動きだろう。
今度、うちの裏庭にいる巨大な猫科の虎って生き物と戦ってほしい。
あの虎の肉は焼くとうまいのだ。
大丈夫。能力者でもないのにオレより強い保長なら、よゆうで仕留められる。
『頑張って保長!オレ、今日は虎鍋が食べたい』
「何の話だ!おまえはなにを俺にサムズアップしている!?」
保長も一緒に裏山でサバイバルしようって話だよね。
それが、どうかした?
いかねぇよ!と頭を殴られた。
とてもいたい。それはゲンコツって言うんだぜ。
もうちょっとツッコミはやさしくはたくぐらいにしてほしい。