有り得ない偶然 Side1
++ HXH++



03.生きたい



前の世界で死んだのは分かっていた。
そのオレが望むのは、普通の暮らし。
といっても、この世界でそれは難しい。
なにせここは戦闘や“未知”にあふれた世界だ。

だからオレは一つだけ願ってやまないことがある。

せめて、原作キャラや原作軸にはかかわらずのんびりと暮らせますようにと――。
それさえかなえてくれれば、オレは幸せにこの二度目の生を生きられる。

・・・・・・かもしれない。




そう思っていた自分が懐かしい。





 :: side 夢主1 ::





前世ではよく考えていたことがある。それはきっと“わたし”だけではなく、他の日本人の胸に絶対ひとつはあった夢。
転生したのが、漫画やファンタジー世界なら、たのしむべき。と、言う考えだ。
それはいろんな二次小説でよくあることで、現実に疲れた日本人がたくさんの[こうしたい][こうできたら]という夢をつめこんであみだしてきた物語の数々からもうかがえる。

なかでも二次小説とよばれるなにかしらの原作に関わるの物語がある。
成り代わりやトリップと呼ばれるそれの主人公は、基本的に原作に否応なしにかかわるのが普通だ。

もちろんオレだって転生先が漫画の世界ときいて、現実から解放されたと一瞬は喜んだ。ただし一瞬だ。
だって、うちの庭・・・・ゴホン。うん、ギャーオスなんておかしな鳴き声がオレを正気づかせたとかは気にしない。気にしたら負けだ!

面白現象または超能力のような魔法のような技ーーそれが念能力。それがこの世界にはある。
それが使えるようになれるというのだから、本物の夢小説の主人公たちであればさぞオレの立場なら喜んだのだろう。

だけどオレは、このハンター世界を自分のペースで好きに生きたい。
なにより原作には関わりたくないし、原作キャラとも会いたくない。


だって面倒事ばかりおきるのが、【原作】というものだろう?


事件もなにもなく、面白みが一切ない話は、漫画だろうが小説だろうと売れはしないのだ。なにもおきない話。それがわかっていれば本にさえならない。つまり原作として世に出されることはないのだ。
当然と言えば当然だ。


そんな“原作にそった決められたシナリオ”どうりになるように動いたり、原作破壊をするぞー!なんて甲斐性はオレにはない。むしろ原作知識がほとんどないのであまりそういうことを始めから考えなかった。
というか面倒じゃないか。
オレは自分のペースを崩されたくないし、わざわざ決まった未来どおりにさせるためにウンヌンカンヌンとか、手を尽くすのさえ面倒だ。

そういう意味で頑張るのは好きじゃない。
現実(むこうの世界での人生のこと)から離れられファンタジーの世界に来たのだから、もっとゆるりと生きたい。時間に追われ仕事だけをし続ける人生なんかもう嫌だ。
もっというと、厄介ごとに関わるのもごめんこうむる。

ゆえにオレは、聞き覚えがあるような単語の傍には寄らないことを決めた。


けれどすぐにそれは無理だと理解した。
生きていくためには、“力”が必要だった。





* * * * *





オレがこの世界で生まれてから3年がたった。
転生後は“黒筆 字”という名前で男として生まれた。
だから一人称も「私」から「オレ」へと変え、最近では自然とそう言うのもようやく違和感なく慣れてきたところ。

まずハイハイをして、歩いてみて、その時初めて知ったが、世界に生まれてからは体が異常に軽く感じることに気付いた。
もともとオレは恋愛より、ファンタジーなどの冒険やミステリーなどの夢物語が好きだったから、この感覚には少し「お、ファンタジーっぽくね?」とうかれたものだ。
空気にドーピング剤が入っていそうな人外指定できそうな人々しかいないようなこの世界だ。オレのような元普通を地でいくインドア系職業の運動音痴でも、新しく生まれたこの世界でなら、どこぞの漫画のように体術でかっこよく敵を倒したり、刃物を振り回したりとかできるかもしれない。まぁ、刃物を持つのは…というか、肉を切る感覚とかは本当は少し怖いが。やらねばやられるというのは、いままでの赤ん坊時代をへて、すっかり身に沁みるほどに理解しているので、妥協はできないが。

ヒーローや物語の主人公になりたいわけじゃない。
ただ、生き残るためにはどうしても強さが必要だとわかってしまっただけ。

とにかく生き延びたい。

そう思ったオレは、さっそく両親に相談することにした。


はじめは護身術ぐらいだろうか。
道には着物姿の侍がいて、実家の屋根の上を余裕で忍たちが黒装束で駆けていくご時世だ。身を守る術などいくらでもあるだろう。





* * * * *





きっかけは――そう父の後をつけた日のことだ。

その日は、父(侍であるらしい)をターゲットとし、その技術を学べないだろうかと、でかけていく父の後を追いかけた。
姿を見失ったら、オーラの残滓を追いかけた。
そうして少し距離を置きつつヒヨコのように父にくっついてしばらくして、危ないから近寄るなと言われていた大きな門のある建物に父が入っていた。
気配を消すなんて芸当を数年前まで普通の日本女子であるオレができるはずもなく、たぶん気付かれてるだろうことを承知でヨタヨタと歩いてついていった。
運がいいのか、見逃されてるのか、今日はたまたま門番がいなかったからか、誰にとがめられることもなく道場の中まではいることができた。

微かにあいたままの扉の隙間を通って――驚いた。
やたらとここの周辺は空気がびりびりしているとは思っていたけど・・・。

目の前に広がったのは、木刀ではなく“真剣”を手に稽古する人たちの姿。
ただしこれはまずい。だって・・・オレでもわかる。
彼らが学んでいる“それ”が決して「生かす剣」ではないということは。

そこで思い出す。
ここは「死」が傍にある戦闘マンガの世界。
しかもこのジャポンには侍がいて、忍がいる。
―――そんな場所。

生きるためには、力がどうしても必要な世界。

それをたかが道場で見せつけられた。見せつけられてしまった。
怖いと思った。
本物の殺気というものを肌で感じ、オレの身体は無意識に後退し、すぐそばにあった壁にぶつかる。
その衝撃で立てかけてあった木刀がカランと音を立ててたおれ、激しい稽古をしていた者達の動きが止まる。

?」
『と…さま…』

危機迫るというのか、男たちの殺気だった迫力に押され、一般人のオレはびっくりしてそのまま動けなくなっていた。
扉の前で固まっていたオレに気付いた父は、珍しく驚きの感情がそのまんま表情に出ていた。

「なぜ、きた?」
『父さま、ーちゃんは、ーちゃん…あの・・ごめんちゃー』

なんでだろうね?オレもいまそれを後悔していたところ。

そういえばこの身体になってからはなかなかうまくしゃべれなくてね。うまく説明もできなくてごめんよ。
最近ようやくまっとうに人間語を話せるようにはなったんだけど、身体にひきずられるように感情の波が激しく、あげくまだ自分の名前をうまく言えないのだ。
子供の口にはオレの名前は発音しずらすぎた。
だから今のオレの一人称は「ーちゃん」。
一応「ごめんなさい」といおうしたけど目からボロボロあふれてきたそれでしゃくりあげてしまいもはや最後の方は言葉にならなかった。

とりあえず内心はこんなでもびびってる。
しかも外見はお子様なわけで、あの一言を言ったきり動きを止めた父には申し訳ないが、周囲の皆様が怖すぎて、勝手に目から涙は出るわ、涙が出たから今度は感情が引きずられてなんかどうしようもなくつらい気分になって…無限ループ。

ええ、ええ。大泣きしましたよ。

濁点がいっぱいついた感じでうわーーーん!とね。
子供でなくてもあの殺気を前にしたら皆縮こまると思うよ。

結局そのまま父は強そうなお弟子さんらしき誰かに後をまかせ、オレを抱き上げその場を後にした。






「まぁ〜。そんなことが」
『…ぐすぐす…かあしゃ、まぁ・・・』
「怖かったわねぇ。でもあれほど言ったでしょう?道場に入っちゃダメって」
『ぅぅぅ〜』
「・・・・・・・・風花」
「そうよねぇ。あなたが訓練も何も積んでいない字の尾行に気付かないなんて。よほど気配を消すのがうまかったのねぇ。無意識の《絶》といったところかしらぁ」
『ぐす・・ぜちゅ?』
「《絶》・・・念能力の一つ、だったか」
「ええ。は素質があるのかもしれないわね〜」

家に帰えっても父は怒ることはなかった。
ただ母を呼んで家族会議が行われた。
そして珍しく父は饒舌だった。

オレは涙が止まらなくて、母の膝の上で彼女の首にしがみついて、その首元に顔を埋めるようにしてグズグズと泣いていた。
だって怖かったんだもんよ。
音を立てるまえまでに彼らが真剣をもってうちあっていたその一瞬に感じる圧のようなもの。それがあまりに圧倒的で、怖いと思ってしまったんだ。

ああいうのが本物の殺気っていうんだろうな。
いや。違うか。殺気っていうのは殺す気で行くときに出るものだ。たぶん道場の彼らのは、覇気とか闘気ってよばれるものを出していたのだろ。
だって道場にいた彼等には血のにおいのような“寒気”はしなかったから、あれは殺意ではないのだろうと思う。

“寒気”ってなにっておもうだろう。
すっかりぽんと言うのを忘れているだろうけど、オレは前世からの縁でいまだにオーラや幽霊といったものが見えるのは覚えてるだろうか。
視えるのがオレにとっては日常だったから、今世では誰にも視えることは言ってはいなかったが。
ついでに“血の匂いをまとう影”が、殺された人間のオーラのにおいである。
そのにおいが、道場に通う生徒の剣にはまとわりついてなかった。

つまり、殺気だと思ってビビったが、あれは覇気だったということで。たぶん?
あの尋常じゃない覇気は、殺すための剣だと理解してなお、それを背負ってでも強くあろうとする彼らの『覚悟』の現れだったに違いない。

生前からオレは幽霊とかみえていたせいか、血生臭いものには敏感だった。
今回その第六感的なセンサーがはたらかなかったし、道場と聞いていたから大丈夫だと安心してもぐりこんだわけだ。その矢先、向こうの世界では遭遇することがなかった迫力あふれる覇気に気圧されてしまった。

ああ、やっぱり。ここは「わたし」がいた世界ではないのだと実感する。
もっともっと強くなりたいと思った。

生きたいから。

爆発だかテロだか知らないが、「わたし」がいた場所は爆発炎上して、自分は友人と共に死んだ。あんな終わりを迎えたがゆえに、病でも自分の不注意でも何でもない、他人様の都合で死ぬなんてまっぴらだと思うようになった。
だから生きるための方法を知りたいと心の底から思った。

こんなことでもう泣きたくない。

だってオレは―――


二次元世界の夢見る乙女なんかじゃないんだっ!!


夢なんか見続けて、変な妄想を働かせるわけないだろう。
たしかに少女コミックよりジャンプ派だ。
だからといって、好きなキャラとウハウハーレムとか、最強とか、oretueとか原作破壊ヒャッホーイとかありえん。
むしろ二次創作のごとく、主人公と夢見る夢子のように、恋愛展開になってみろ。オレは砂になって消える自身がある。
そんなオレがこの世界に来て、進んで原作介入するとか、なるわけないだろうが。
そうさ。オレはただ平和に自由に生きたいだけなんだ。
前世よりも長生きしたい。
そして願わくば、ここが漫画の世界だろうが関係なく――自分の好きに、あるがままに。

そのためには原作に巻き込まれないことが一番大事。


つ ま り。

オレのこの先の平穏のためには、何が何でも逃げ切るためのスキルが必要なのだ。
こんなところで泣いてられない!
24歳以上生きるんだ!死んでたまるかよちくしょうが!!









だってしょうがないだろう
この世界に生まれる前から
向こうの世界で生きているときから
“わたし”は・・・
オレは

ラブラブピンクな展開が嫌いなんだから!!


オレの物語はオレだけのもので、主人公はけっして夢見る少女なんかではないのだ。
生きるそのためには力が必要だ。


これはオレが生き残るための物語。








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