有り得ない偶然 Side1
++ HXH++
09.第二試験×料理×第三試験
「そういえば、おじ、じゃなくてあんたのこと、何て呼べばいい?」
それ変装なんだろう?
と、一緒に走っていた保長の子、服部半蔵が聞いてくる。
「叔父さん」と言いかけたハゲのことは、殺気込みで睨みつけて黙らせた。
口の軽い忍者め。
その横には、ニンマリ笑顔を張り付けたヒソカがいる。
他人に向けられた殺気の余波を浴びて興奮してるんじゃないよ!まったくこの子は。
オレたちはまだ階段を走り続けている。
生き延びるためには逃げる必要があり、とにかくがむしゃらに逃げるためだけの足は鍛えた。そのおかげでオレは体力とかは一般人よりもついた。そしてオーラを操作することで、疲労を最小限にしている。そのため80kmを超えようがついていけている状態だ。速度じゃないぞ、距離のことだ。
ただ途中であまりに眠くてヒソカに運んでもらっていたが、体が縮んでからどうも限界以上の行動をすると眠くなるような気がする。経験してきたことと体が一致しないせいで、自分が今までできていたことを当たり前のようにやろうとすると眠くなる感じだ。
いや、むしろあれかな。ただのオーラ不足の可能性もある。
じつはこの試験を受けるために新たな常時展開型の念能力を作ってしまったので、その影響でオーラの消費が激しいのかもしれない。
眠気に関しては、何が原因かは解明できていないが、少し寝たらすっきりしたので自力でまた走り始めた。
そこへところに、半蔵が合流したのだ。
しゃべりながら走るのはきつくないのだろうか。
「名前を聞くぐらいはできる!」と、凄い顔でオレたちの速度にくらいついてくる半蔵。
名前をきかれた。
あーそれもそうか。この時間軸にいるいじょう、オレは会長たちが付けた名前のキャラを演じないといけないんだったな。そうなると今後も呼び名が必要か。
・・・アレを名乗るのか。
ネテロ会長とジンが考えたあの名前を。
『・・・・・ズ』
「聞こえないよ☆」
『ぐっ・・・』
「そ、そんな鬼の形相で名乗るような、なまえ、なのか?」
「ナイスツッコミ◇さすが半蔵。きみ、息切れしてるけど大丈夫?」
「あんま、大丈夫じゃ、ない!」
でも知りてー!と叫ぶ半蔵。もうゼーハーもんである。
『ポンズ』
「「ん?」」
『ポンズ=ユズだ』
「「柚子ポン?」」
こいつら本当に血のつながりがないのか!?
顔をお互いに見合わせた後、息ぴったりで聞き返してきた。
ジャポン人にはなじみ深い万国共通万能調味料の一つですよねー。
ネタがわかるから同郷とは会いたくなかったんだ!
それが分かる時点で、これだからジャポン人は味にうるさいといわれるんだぞ!
『後見人(ネテロ会長)につけられたんだよ。たまたま鍋パやった後だったから』
「わーお☆ないね」「うわぁー。ないわ」
若干二人から憐れみと同情の視線が送られた。
そのいかにも鍋がおいしかったアピールのような名前を今は呼ばれたくなくて――呼ばれたらいたたまれなくなる自信がある――そのあとすぐに、二人を置いていくようにスピードを上げた。
意をくんでくれたのか、それともそれぞれやはり自分のペースのほうが楽だったからか、ヒソカと半蔵が追いかけてくることはなかった。
『フン!』
怒りに任せてはしっていたら、試験官サトツさんとそのすぐ背後を走っていた子供二人のそばまでやってきてしまった。
サトツさんのすぐ背後には、10歳ぐらいの子供たち二人、405番と99番か。
あ、あの99番の子、雰囲気が幼馴染のシルバに似てる。ゾルディックかな。
シルバってば、オレの知らない間に何人子ども増やしたの?
まって!
釣竿を持った405番の子供、ジン=フリークスに激似なんですけど!
あ、そういば子どもが出てるって言ってたか。まさかこいつか!?
ジンには子どもの名前を聞いていなかったし、原作知識なんてもう覚えてないので誰が主人公か覚えてないし。だというのに、目の前の少年が誰かはすぐわかった。こいつ100%ジンの息子だ!それほどまでにジンに似すぎていた。ただしこの子の方がジンいり、素直そうで純粋そうで可愛げがある。だが、どうみてもミニチュアジンだった。
衝動的に、気づかれる前にと、速度を下げてしまった。
「ん?おねぇさん大丈夫?」
ひぇー!向こうから話しかけてきた。
どうやら一気に近づいてきたのに一気に速度を下げたので、ジンの息子が気になったらしい。
なんてことだ!ジンの息子なんて、何をされるかわかったもんじゃないから顔見知りにはなりたくないのに!!!
『オレ、じゃなくて、わ、わたしのことはきにしないで大丈夫よ』
前世ぶりではないかこんな口調。
久しぶりすぎて、女の子ってこんな口調だっけ?っと、自分で自分に思わず疑問を抱く。
ダイジョウブデスコトヨ。みたいに変な言葉遣いにならなくてよかった。
むしろ声変わりする前の体格でよかった。結構自然な高めの声が出たわ。まんま女子って感じだった。
405番の横にいた99番の銀髪の子が、「こいつ汗ひとついてねー」と不審そうにオレを見てくる。
やめろー。アラを探すんじゃない!
こちとら即席舞台俳優じゃ!芸歴0分のにわかガールだよ!やめい!みるんじゃない!
『そ、そんなことより前を見て!ようやく光が見えてきたわ』
オホホホとわらって、ジンの息子からさりげなく距離をとる。
前方を指させば、遠くの方に白いものが見えている
外の風が流れ込んでくる。
うん。出口かな。
これでようやくながーい、ながーーーーーい通路と階段の持久走はおわりだろうか。
+ + + + +
終わりじゃなかった。
たしかに暗いトンネルは終わったが、次はヌメーレ湿原。足元の悪い湿地地帯である。
出口のところで試験官のサトツさんが、この場所のことを説明していたら、受験者に擬態した獣があらわれた。
だけど今まで走るだけで飽きていたらしいヒソカに、トランプでミンチにされていた。
ついでにヒソカはサトツさんまで狙ったらしくて、サトツさんがトランプをキャッチしながら、試験官への攻撃は禁止ですと、ダメだしをしていた。
受験者の振りをしていたのはサル型の獣だ。
あの魔獣は肉がなくてうまくないやつである。
どうぜ獣を殺すなら、うまみのあるやつを狩ってほしかった。そうしたら非常食にできるのに。
あ、殺されたサル型の獣の死骸に、一瞬で鳥が群がった。
うーむ。ぶっちゃけ今屍をあさっている鳥のほうが食しがいがありそう。
「それではまいりましょうか、二次試験会場へ」
しょうがない。時間がないから狩りはおあづけだな。
つい、美食ハンターとしての食指がうごいてしまい、基本人以外の物を食べれるか否かで判断してしまう。
いけないいけない。
サトツさんが再び歩き出す。
相変わらずスゴイスピードだ。走らないと追いつけない。
あれってさ、股下の長さが長いから、ただの大幅早歩きも走るぐらいの速度が出るんじゃないの?
オレもあれくらい股下が長ければ、イケメンになれたのだろうか。チビですがなにか?405番よりは身長高いいやい!
そうこうしているうちにドンドン霧が濃くなっていく。
後から追いかける方が大変そうなので、速度を上げてサトツさんの背後につく。
通り過ぎ際、405番と99番の子供たちの会話が聞こえた。
「ゴン、もっと前にいこう」
「うん。そうだねキルア。試験官を見失うといけないもんね」
ジンの息子はゴン。99番の銀髪猫目の彼はキルアというらしい。
「そんなことよりヒソカから離れたほうがいい」
「え、どうして?」
「あいつ、殺したくてウズウズしてるから」
「!」
「霧に乗じてかなり殺るぜ」
あら、やだ。うちの息子ってば殺戮モードにはいちゃって、霧に紛れて遊んでくるらしい。
次の試験開始までには、会場には間に合うようにね。
まだ念能力も開花してないのに、うちのこの狂気に気づくとは、やはりキルアくんはゾルディック(暗殺一家)ではないかな。
シルバってば、こんな小さな子をかなり徹底して暗殺者にするための教育を施したのかもしれない。
いや、シルバじゃないかも。奥さんとかかな。わからんが。教育ママになっちゃたのかあの子。
キルアの察知能力がすごいと思っていたら、ゴンもそこは不思議に思ったらしく、キルアが自ら意味深な言葉を返していた。
「なんでそんなことわかるのって顔してるね」
「なぜならオレも同類だから、臭いでわかるのさ」
「同類…?あいつと?キルアが?
そんな風にはみえないよ」
くん。っと鼻を動かして臭いを嗅ごうとするゴン。
え。何してるの君。
においって、そんな直接的な意味じゃないと思うよ。暗殺者や殺人鬼特有の雰囲気のことだと思うけどなぁ。
キルアもそういう考えだったのか、ゴンが"きづかなかった"ことに、満足したように口端を持ち上げて笑った。
「それはオレが猫かぶってるからだよ。そのうちわかるさ」
「ふーん」
その直後、ごんは背後の人込みへ向けて大声でこえをかけた。まだ仲間がいるようだ。
「レオリオー!クラピカー!キルアが前に来た方がいいてさ!」
「ドアホー!いけるならとっくにっとるわい!!」
かなり遠くの方から、ゴンに返事する声が返ってくる。
向こうにいる子もわざわざ返事してくれるなんて、律儀でいい子じゃないか。
それにしても――
「緊張感のない奴らだな。もー」
キルアに言われてしまったが、それはオレも思った。
ゴンの周囲はなぜか緊張感がない。
あーシンぽい。そういうゆるくてマイペースなのに強気なとこ、ジンぽい。
巻き込まれるのはご遠慮願いたい。
ジンの血縁者なんて、いやですね〜。
スピードを上げて、子どもたちを追い越すとオレはサトツさんの後を追いかけた。
この試験会場は、本当に走りづらい。
一般人何人残るか怪しいレベルである。
ぬかるんだ大地は走りづらいし、霧が濃く、受験者たちを己の栄養にしようと魔獣や植物が、受験者たちのフリをして惑わしてくる。
これ、うちの実家の裏山の念能力開花しちゃった化け物級の肉食獣の群れとどっちがましだろう。
「貴方のおうちの山も相当やばいですからね」
二次試験会場まで私についてきてください!そうサトツさんが言ってたから、オーラをおってピったり背後を走っていたら、こっちの心を読んだようにとても小さい子声でサトツさんがつぶやいた。
心を読むんじゃない。
「声に出てましたよ」
『サトツさんはオ、私のことを?』
「ええ、会長から聞いてます。ただ他の試験官たちは知らないと思いますよ」
『そ。ありがとう』
「いえいえ、どういたしまして」
誰に聞かれているかわからないので会話は最小限で終わらす。
周りからは悲鳴が聞こえています。
霧に投影された人が走っているように見せかけた影にだまされて、植物にくわれちゃったかな。
地面のなかで口を開けて、泥に擬態して待ち構えていた巨大カエルに食べられちゃったかな。
催眠術をかけてくる蝶がにねむらされてはいないか。
爆発するキノコを踏んじゃったり、嘘八百を告げてくるカラスの言葉に騙されて罠にはめられたりしていないかな。
なんでそこまでここの生態に詳しいのか?って。
ハンターの仕事でこのヌメーレ湿原に調査に来たことがあるからだね。
しばらく走っていたら、開けた場所に出て、そこには体育館みたいな建物が建っていた。
「ここが第二試験場です。皆様時間までもうしばらくお待ちください」
サトツさんはいまいる受験者へと優雅にお辞儀をするとすたこらサッサとばかりに、どこかへ行ってしまった。
足が速いな本当に。
しばらくしてぞくぞくと受験者が追い付いてくる。
その中にゴンもヒソカもいない。
どうしたものかなと思っていれば、受験者が途切れた後に一人でヒソカがたどり着いた。
前方を走っていた者たちの姿が追えないくらいの時間差で来たということは、オーラを追ったか、GPS機能付のなんらかの機械の恩恵でもうけたかしてサトツさんの痕跡をたどったようだ。
まぁ、始めからヒソカの心配はとくにしていない。そもそも今の大きく育ったヒソカを見るに、このハンター試験も受からなければそれはそれでいいという雰囲気を感じるので。
ただし、オレの時間軸の六歳のヒソカなら心配する。
だが今のヒソカはは23歳らしい。本来のオレの身長よりも背丈も高く体格もいい。さらにはあの自信マンとばかりの笑顔、我が母に似すぎていて、心配など何もない気がしてしまう。心配するなら、あの笑顔と遭遇した人間たちのほうだ。絶対殺される。
ここまで立派に成長した姿を見てしまえば、心配は無用というもの。
なにより、オーラが整っているから、今のヒソカは念能力を習得している。
心配する必要を感じないのも、能力者であるところの安心感が強い。
第二試験会場前まで到着したヒソカは、肩に何か大きな荷物を担いで……おっと、ありゃぁ、人か。上半身裸の青年を担いでいた。
気絶しているが、どういうこっちゃ?
その半裸の受験者には見覚えがある。たしかトンネルのなかで、かなり後方を金髪青年と走っていた男だ。
一緒にいた金髪青年の姿はない。
「よいっしょっと」
『ヒソカ、それは?』
「ああ、これ?殺すには惜しいって思ってね☆」
青年を会場近くの木によりかからせると、凝った肩をほぐすようにヒソカが腕を回す。
そのまま「あーつかれた」と少し離れた木の根元に座り込むヒソカ。
そのヒソカから、かすかに血の匂いがした。
キルア少年が言っていたとおり、本当に遊んできたらしい。
『ふーん。遊びで殺すんだ』
そういう子に育っちゃったのねお前。
まぁ、あの山では生きるか死ぬかが常だったし、他に遊ぶもの何もなかったしなあそこ。
「殺し」を快感と思ってしまうのも仕方ないのだろう。
うんうん。やはりこうなったのもすべてオレらのせいだな。
オレの言葉に、ヒソカは不思議そうに首を傾げた。
「パ…君も、悪いことだって言うのかい?◇」
『言ってないだろそんなこと。オレは六歳までのお前しか知らないからな。今の趣味は何か知りたかっただけ』
「そ☆それらならいいけど」
『恨みは買わないよう気をつけろよ』
「買う前に、売ってくる奴は皆殺しさ☆」
それなら、まぁいいか。
気をつけろよと頭をわしゃわしゃなでてやれば、仮面のようだった笑みがくすぐったそうに和らげられる。
うん。座っているから撫でられるんだな。
オレ、ずいぶんと身長が縮んでないか?それともヒソカの身長が高すぎるのか。
少し憂鬱になったので、またなーと手を振って、受験生たちの中に混ざりこんだ。
次の試験開始は、本日午後スタートと建物の入り具に紙が貼ってある。
ゴンと金髪少年が森から姿を見せたのは、開始時間から10分ほど前のぎりぎりのタイミングだった。
ギリギリ登場って、どこの主人公かな。
ほら、よくサスペンスもの爆弾って、かならず1秒前に解除できるじゃん。
それにヒーローは遅れてくるじゃん。
あれとおんなじ原理かなって。
・・・つまり、戯作だと主人公はこのミニジンこと、ゴン少年が、主人公!?
ひえー。巻き込まれるのだけは嫌だ。できる限り近よらんとこ。
そうこうして、はじまった二次試験。
なんとお題は料理だった。
+ + + + +
『……おもうに、先程の試験内容で貴方たちは"なに"を審査していたんですか?』
好き放題やってくれた試験官に、オレがいらだちを込めた笑顔をニィーッコリと送ったのは、悪くないはずだ。
殺意も送ってないし、殺さなかっただけ感謝してほしいものだ。
半蔵が人の顔見てヒィ!と悲鳴を上げていたが、知ったことではない。
口軽忍者くん。その口、削がれたくなければ黙ってろ。
一つ目の試験は豚の丸焼き。
「あたし達が満腹になった時点で終了よ」
試験官は、女性メンチと、横も縦もでかい男ブハラが試験官だった。
二人は美食ハンターであるらしい。
オレが活躍していた17年前には見ない顔ぶれなので、たぶん若手だろう。
二人の経歴は知らん。同職として、あとで目の前の二人についての情報を得ておく必要があるかもしれない。
二人が満腹になったら終了ということは、胃にかんする念能力だろうか。なにせこの場には約150人ばかり受験者がいるのだ。全員の料理を判断するためには、二人の胃では追いつかないだろう。
本当は"食べさせること"ではなく、"材料をとってくるまで"が試験の判定箇所であるのなら、「満腹になるまで」という時間制限をもたせることで、受験生たちの心のゆとりをなくすことには成功している。
まぁ、どういう基準でなにを試験で審査しているのかは、それぞれのハンターにまかされているが、美食ハンターがみるのは料理の腕で味でもなく、そこまでの意気込みや経緯などだろう。とうぜん動体視力・観察力などもみているだろうが、そのあたりはハンターは持っていて当然ないとつとまらないので、それらは必須項目ともいえよう。
さぁ、目の前の二人の真意は読めないが、どう判断を下してくるか。後輩の試験が楽しみじゃないか。
ハンターは誰でも武術の心得がある。
美食ハンターだからとなめてはいけない。食材を求めるだけではなく料理もできるし、味も知り尽くしてなんぼだ。
しかも食材を探して猛獣の巣の中にも入ることもあれば、密猟者と遭遇すれば捕縛することもある。未知の獣とバトルなんてこともしょっちゅうだ。
つまりは●●ハンターと名乗るのは自由だが、それになりたいからといってその称号を得れるとは限らないわけである。
現にオレなどは自称は美味い物を求める美食ハンターのつもりだが、周囲からの認識はUMAハンターだからな。
まぁ、何が言いたいかというと、美食ハンターが出すお題として「料理を満腹になるまで食べさせる」のは試験として向いていないということだ。真意はほかにあると考えるのがベスト。
美食ハンターとしてお題に出すのであれば、先程も告げたように「食材をとってくる」=力、知恵、観察力、考察力、行動力があるかなどを求めるべきだ。
もしも本気でて「料理を満腹になるまで食べさせる」のが目的だったらがっかりだ。その場合、「満腹になるまで」という条件は、どうなのかと思う。
完全趣味じゃん。
もしそうなら、同業者ではあるが、オレの中で彼女らの行動に-1と好感度が下がることとなる。
なんとなく女性ハンターメンチの態度をみていて、すでにオレの中では、好感度が下がりぎみだが。
ここはいい子の受験生を演じておこう。笑顔で「試験官の言うことききまーす」とばかりにニコニコしつつ、ほかのみんなと同じように、豚を狩るために森林公園のなかにかけだす。
たぶん遅く行っても、あのブハラという男はいくらでも食えるだろう。
きっとそういう能力だ。
女メンチのほうの能力はわからないが。
なお、ヌメーレ湿原と連結しているビスカ森林公園では、野生の豚は一種類である。
コレがとてつもなくでかく、頭部さえ覆えそうなほど花がでかく進化していて、鼻ですべてを押しつぶす威力を持っている。
とても凶暴で、一般人なら豚の餌にされかねないが、頭が弱点であるので、そこに気付いてしまえば一瞬でやれる。
ただし普通の弓とか刺さらないぐらい表皮は固いし、なんなら突進の威力で人間など一瞬で死ぬし、死んだら今度は豚の餌になるのは人間である。
それを丸焼き…。
現在オレの武器は念能力と体力と知恵ぐらいである。刀は「か弱いお嬢さんが持つものじゃない」とネテロ会長に事前に没収されてしまったのでない。
「おぬし、すぐ殺すしのう。手加減という言葉を知らんじゃろう。せっかくの未来ある若者たち(受験生)が、お前に殺されてしまってはたまらんから、これは試験が終わるまで没収じゃ」と言われたが、そういう環境で、かつ殺す前に殺せと教育を受けているのだ。仕方がないだろうと思う。
そういう意味では目に見えて丸腰だが、マーメンが渡してくれた旅用鞄には、ロープにナイフ、毒もあるし、怪我などの簡易的な治療も可能である。なんならいつも愛用していた包丁と香草、調味料、鍋、火起こし道具なども入っている。
放浪しすぎて常に旅道具がごっそり入っているらしい未来のオレの遺品であるカバンには泣けたものだ。もう少し安定した生活はできなかったのかと思うが、まぁ、いまはそのおかげで助かってはいるのでよしとする。
そう。考えれば簡単だ。毒か、罠とか使うなりすればいい、でかくともまぁ何とでもなるな。
あ、毒はだめか。食べた試験官まで殺しかねないもんな。
となると、物理か。
「へい彼女!大丈夫かい!」
「重そうだね!おれたちがはこんであげようか?」
豚の脳天を、包丁にオーラをまとわせて強化した状態で貫いて殺せば、ドオォォンと大きな音を立てて倒れる。
さて、この猪のような数メートルはある巨大な豚をどうするかと思っていたら、隠れていた数人の男たちが周囲を取り囲んで、にやにやとなにかアホなことを言ってくる。
どうやら豚の弱点にも気づかず正面から挑み続けて負けたらしい。人の豚を横取りしようという魂胆のようだ。
やれやれである。
それでハンターを目指そうと思うの、どうなんだろう。
『あらやだぁ。大丈夫よ。こんなもの力がなくたって、知恵があれば運べるわ』
それともオレと一戦やるか?その場合、気絶したお前らをこの場で放置する。当然そうなるとどうなるかわかっているだろう?この場所では、死体が転がった瞬間、それを餌に獣たちが群がるのだ。
ヌメーレ湿原の入り口でみなかったか?
『そもそもこの豚の表皮が固いのはなぜ?鼻がでかいのはなぜか。何を守ってそう進化した?…っという発想をした方がいいわ。思考力が鈍ったままよあなたたち。そんなんでこの湿気が多い場所でどうやって火を起こすつもりだったのかしら。
しかも私をどうこうしたとて、豚は一匹よ。貴方たちは三人。お題は“丸焼き”よ。わけるわかにはいかないけれど、誰の手柄として持っていくつもりだったの?』
そういった瞬間、いまさら気づいたとばかりに男たちが顔を見合せ、互いに敵意をむき出しにしはじめる。
視線で互いをけん制しあっている。
おいおい、いまさらからよ。
事前に取り決めもなく三人で組んだんですか。
あー、ばかばかしい。
『あと、忠告しておくけど、私をどうこうしようとしたら、あなたたちを"この子"たちが襲うから。そのつもりでね』
ニッコリわらって指をパチンと鳴らせば、帽子からブゥンっと音がしてスズメバチのような姿をした黒い大量のハチが出てくる。
少しハチたちに男たちを追いかけらせれば、それに男たちはヒィ!っと悲鳴を上げて逃げていく。
彼らのその後がどうなったかは知らない。
今回ハンター試験を受ける際に、ネテロ会長たちが面白がって「ポンズ=ユズ」という少女の設定を作った。
いわく、虫使いで、虫を使って身を守る。
孤児のか弱い少女であり、身分証がほしくてハンター試験に参加。
か弱いってどんなだよ!いや、虫使いって、オレの能力《慈黒》から発想しただろ!ってつっこんだら、「じゃって〜おぬし、基本クロヒメとジコクしか使わんじゃろ」「そうそう!そりゃぁ印象にのこるってもんだろ」とネテロ会長とジンである。
だけど《慈黒》は炎が生命エネルギーを燃やすときの炎が目立つし、えげつなさ過ぎるので使用を禁止されている。
そうしてこの時間軸にいる間、もとい「ポンズ」でいる間は別の能力を作ることにしたのだ。
それがいまの蜂である。
名は――《黒針》クロバリ。
帽子の中の影に通常時は身を潜めている。
元は墨絵なので潜ませるのは影が必要なので、帽子の中はちょうどいい隠れ蓑になった。
「蝶だとただかわいいだけだからだめ!もっと凶暴そうなのを女の子の護衛にしなきゃ!」とは、誰の言葉だったか。
その結果がこれ、毒を持つ蜂である。
この世界にしかいないスズメバチのような蜂で、シビレヤリバチという。
それを墨で大量に事前に描き、名をつけ、能力を付与した。まぁ、もとは墨絵なので、黒い蜂にしかならなかったのはしょうがない。
亜種とか新種とか言ってその辺はごまかそうと思う。
能力は、「縄張りの守護」。彼らの縄張りはオレから半径1m。その範囲内のオレへの敵意を持つものは無差別で攻撃する。
名は、蜂の針と縄張りをかけて「クロ
バリ」である。
いやぁー、ハチってどうしてああも翅の音だけでも恐怖を誘うのか。それに加えてシビレヤリバチはスズメバチを上回る顔つきの怖さである。
あのモブ男たちでなくても普通に逃げるわって思った。
「お前の能力はいつもえぐすぎる」っと、能力を名前と制約で固定したあと、ジンとネテロ会長に頭を抱えさせた。
「もうちょっと温和なそうな虫はいなかったのか」と言われた。
『なによもう!女の子の護衛には強面をつけろって言ったのは貴方たちでしょ!』と少女ぽく言い返してみたら、砂をはかれた。
「おぇ」じゃねぇよ!
――っという経緯は置いておき、問題は目の前の豚である。
《黒針》たちを帽子にもどし、豚の処理をどうするか考えるである。
ガチでこのまま丸ごととか、料理に携わっていた者として許しがたいので、内臓はぬき血抜きもして、切った腹や口の中に持っていた香草をぶち込むことにしよう。
能力で燃やしてもいいが、先程告げた通り《慈黒》の使用は禁止されているので、道具で一から火を起こす。
自分よりはるかにでかい獲物なんてこちとら何体も相手をしているのだ。自分一人の力では持ち上げられなくとも手段はいくらでもある。今回は下に丸太をおいて転がして、時間がないので川で洗い流し血抜きとした。
ついでに皮は残しつつ毛は食べやすいようにすべて削いだ。
野生動物の毛皮って、どうしてもダニとかいるんだよなぁ。袋に洗剤入れて皮をすべてつけてしまいたい。数日もすれば虫がいっぱい…あーそういえば、内臓にも虫いそうだよなぁこいつ。
もっと丁寧に処理したい!めっちゃ処理したい!美味しくしあげたい!むりだけど。
あまり時間はかけていられないので、ある程度で川からあげて、焚火の上に血抜きした豚を紐でつるす。
紐と枝が心配だったが、きれてしまったり足らなければ側の蔦を補助に使えばいい。
しばらくしているといいにおいがして、なんだかいいタイミングでヒソカが豚を引きずってやってきた。
「ああ、やっぱりキミか」
ちゃんと料理する人間はこの中で君だけだろうと思ってね。そう言ったヒソカが、「運んであげるから、火を貸して」とこっちが了承する前に、オレの豚の横にもう一頭を軽々とつるし上げる。念能力だったのだろう。なんかゴムみたいにびよーんと伸びたオーラに引っ張られ、あっさり豚はつるされていた。
その後、親心がわき、ヒソカの豚の首を切りつけ血抜きも行い、腹を掻っ捌いてない像だけ取っておく。香草の代わりに塩を振りかけておいた。毛はそのままなので、口当たりはよくないだろうが。
「いいのかい?そんなサービスして☆ボクら、ライバルじゃないのかな(笑)」
『まぁ、念のため合格ラインを上げてやりたくてな』
「ふふ。パパは相変わらずボクに甘いねぇ☆」
『かもしれん』
本当は毛皮から皮、牙、蹄とか、すさまじく硬いというあの鼻も分離したかったが、お題が“丸ごと”だ。どこまで削ったら失格になるかわからなかったから、味でごまかすしかない。
『この試験、嫌いだ』
「おやおや☆」
食への冒涜の気配を感じる。
その後、約束通りヒソカがオレの分も豚を運んでくれた。
会場の近くまでついたら、豚はオレ自身で運ばねばいけない。オレに力を求めてはいけない。腕力はあまりないのだ。見てくれの通りの筋力とそれに+アルファ分ぐらいしか力はない。オレは基本脚力と逃げ技(念能力)しか磨いてないのだから。
なので豚を運べるように小細工がいる。途中で拾った薪を移動し、その上で豚を転がして、なんとか会場の男ハンタ―の前まで運んだのだった。
他の女性とかお子様の受験生たちが、みんな担いで普通にもっていっててぎょっとした。
やっぱりこの世界、前回の世界と違って筋力体力とか基準が何かおかしい。
結局、第二試験豚の丸焼きを持ってこれたのは、オレを含め70名であった。
150人近く第一次試験を通過していたのになんてこった。
「うん。美味しい」
「あ〜くったくった。もーお腹いっぱい」
「あんたねー。結局食べた豚全部おいしかったって言うの?審査になんないじゃないのよ」
「ま〜いいじゃん。それなりに人数は絞れたし。"細かい味を審査するテストじゃない"しさー」
「甘いわねアンタ。美食ハンターたる者、自分の味覚には正直に生きなきゃダメよ。ま、しかたないわね」
「豚の丸焼き料理審査!70名が通過!!」
『・・・( ^ω^)』
いや、まってほしい。まってくれ。まて!本当に待ってくれ!
いまのブハラとメンチのやり取りを聞いて、やはり味で勝負でないことにほっとする反面、ブハラは一匹で体調数メートルの巨大豚を70頭も食いやがった。しかも誰も血抜きも毛皮の処理も内臓の処理もしていないやつをだ!!
しかも泥もついたままで豚をただ焼いただけのやつを。
『うまいはずないだろうが…』
さらにいうと案の定ブハラによって、すべて豚の丸焼きは食され、骨だけが彼の背後に山積みなっていた。
合格者70名。
つまり豚の丸焼きも70頭分である。
それをブハラはおいしいおいしいといって、全部食したのだ。
ねぇ、皮も内臓も目だも脳みそも、なんなら蹄まで食ってるんですがこいつ。
寄生虫は?毛は?
いろいろ何がどうなって、おいしく腹におさまるんだよ。
ぜったいなにか念能力を使って食っていそうだ。
ヒソカの豚の丸焼きは、絶妙に味があっておいしかったと高評価をいただき、オレは臭みがなくて毛もなくて食べやすかったと評価をいただいた。
ポイントとせいではないので、そのまま合格だけが言い渡された。
まぁ、ブハラが言うように、これはハンター試験である。おいしさ対決ではないのはたしかなので、この試験はありだと思えた。
今度試験官やる機会があったら、参考にするのもいいかもしれない。
ただ獲物を捕獲して持ってくるまではいいが、全部食えるかはわからないので「試験官が食べる」とか「料理する」とか「試験官が満腹になるまでが期限」というルールだけは絶対やめておこうと思った。
そして次の試験は、女試験官メンチによるお題である。
建物内に案内され、そこには酢飯のはいったおひつに、包丁とまな板と、流しのセットが、受験者分用意されていた。
本格的に料理をしろということらしい。
お題は「寿司」。しかも握り寿司限定。
寿司とは、我らが故郷の料理である。
そしてつまり半蔵もヒソカもオレも、寿司がどういうものであるか知っている。
これは有利である。
のだが、あの口軽忍者、周囲の困惑する受験生たちを見てプークスクスクスと「いかにも自分は知ってます」とばかりに笑うのだ。
ヒソカがその様子を見て、心底呆れたようにヤレヤレと肩をすくめていた。
周囲も半蔵の反応から、料理が何かを知っていると断定したようで、半蔵の動きをギラギラした目で注視している。
『…兄さん、忍者ってなんだっけ』
兄弟子の保長よ。お前の息子、感情がめっちゃわかりやすいし、すぐに態度に出るんだが。あと口が軽い。忍者ってそれでいいんだっけ?
この場にいない保長に、オレは思わず問いかけたのだった。返事は当然ない。
その後、金髪少年クラピカが「書物で読んだ」とかで寿司がどういものかを知識としては知っていて、それをささやかれたらしい横にいた青年(ヒソカに運ばれてきたあの青年である)レオリオが「魚ぁお前ここは森の中だぜ!?」「声がでかい!川とか池とかあるだろうが!」という大きな声でやり取りをしたことにより、受験者全員が脱兎のごとく外へと駆け出して行った。
「くそ!俺の他にも知ってるやつがいたのか!」と半蔵が叫んでいたが、あきれてものも言えない。
ねぇ、アレを身内と認めたくないんだけど。
元の時代に戻ったら、オレが預っている間は半蔵に、「忍者とは耐え忍ぶものである」と徹底的に叩き込もうと決めた。
「くっく、オレよりよっぽど性格悪いなメンチ」
「あらそう?」
「だって今のスシダネってのはほとんどが海水魚なんだろ?みろよ、あの材料じゃまともなスシなんてできっこないぜ」
オレが立ち止まっている間に、何人かがすでに魚を取ってきて戻ってきていた。
彼らがまな板の上に置くのは、どれも異形で、角がある魚もいれば、棘をまとったようなやばい生き物まで千差万別といった奇怪な姿の魚ばかり。それ本当に魚かといえるようなものまでいる。
それをみて楽し気にメンチとブハラが、こそこそ話をしている。
「だから面白いんじゃないの。フツーのスシダネなんてもう食いつくしてんのよ。どんなキワモノができてくるのか楽しみだわ。今日は試験官というより料理人として来てるからね」
「料理人として…ってのは、マズイんじゃ……」
「なによ」
「いや、なんでも…(料理人として…ね。メンチの悪い癖が出なきゃいいけど)」
・・・マイナスです。
やはり料理人として来ててやがる。メンチ、この女はマイナスです。
オレのなかで、試験への意欲がゼロを突破してマイナスを更新している。
メンチの発言でぶっちゃけ、やる気は完全に失われた。包丁は置いた。
「ねぇ、貴女。246番のあなたはいかないの?」
なにもせず調理台の前で突っ立ったままだったオレに気づいたのか、ふいにメンチから名指しで声をかけられた。
この女どうしてくれよう。いや、ハンター試験を継続させていいのだろうか。魚を捕りに行った方がいいのか。頭の中がグルグルしていたので、憂鬱な表情のまま顔を上げメンチを見やる。
露出度が高いあの服、短パンにブラ。ブラがよく見えるネットのシャツ。なんてハレンチ極まりない恰好だ。
あれでよく美食を求めて森に入れるなぁ。虫に刺されそう。
こちとらタートルネックに長袖にズボンの、完全武装露出なしの冒険用の恰好ですがなにか。
それにしても、でかいパイである。
ブラから見える谷間をみて、どこにあったのかオレのなかの謎な乙女心か彼女を敵認定した。
やはりもっと前に胸にまんじゅうを仕込んでおくべきだった。
『私ですか?』
「ええ、貴女よ246番。みんな魚を捕りに行ったわよ?」
『そうですね』
「部やの丸焼きの段階で、皮の処理も内臓の処理もしっかりしていたし、香草とか使ってたぐらいだから、美食ハンターを目指してるんじゃないの?ここの魚とかみんな珍妙よ。興味あるんじゃない?」
興味があるというかすでに美食ハンターです。言えないけど。
『……行く意味が見出せません』
「あら、どうして?私が満腹になったらこの試験は終わりなのよ?」
『“そういう基準”だからです』
「ふーん。そ。じゃぁ、あなたは料理への意気込みがないとして失格にしようかしら」
『"そういう言い方"をするなら行きますけど、作る意味は…どうなんでしょうね』
本当にそれ。作ることが本当に試験なのか。
メンチの基準では、この試験は受かる者がいない気がするんだ。
オレの言いたいことが分かったのか、ちゃっかりメンチの背後でかすかにブハラが頷いている。
『私、東国出身なんで握り寿司が何か知ってますよ。いいんですか作って?』
「な!?あれを貴女までしっているですって!?」
『ええ、知ってますよ。それって“貴方の行動から料理の姿を想像する”という推察力の試験には当てはまらないですよね?むしろ推察力の試験でもなかたらすみません。というか、その場合、料理を作らせておいて"何"を判断してるんです貴方?
あと、私を失格にするのは結構ですが、受験生ではなく料理しかみてないのなら貴方も試験官としては失格じゃないでしょうか』
さっき「料理人として」ってメンチは言った。それってつまり、味や食感や見た目とかで合否を決めるということ。
それはハンター試験として本当にどうなんだろうって思うので、オレは彼女が嫌いになった。
ハンターを名乗るなら、しっかりみるもんみて試験をしてほしい。
料理人としては一流なのだろうが、同じ美食ハンターとして、"ハンター"として幻滅した。
『そういう点も含めて、私の中では貴方はマイナスです。残念です』
オレのほうがハンター歴長い先輩ですぅ!デカ乳め!
仕方ないので、作るフリだけでもするかと、魚を捕りに建物の外へ出た。
「ちょ!何よあの子!!絶壁のくせにぃ!!!」
ポカーンとしていたメンチだったが、オレが出てしばらくすると我に返って騒ぎだしていた。
聞こえてますよ。いや、あの調子だと聞こえるように言ったのか。
ですが、大丈夫。傷つく要素はない。なにせオレ、男の子なんで!絶壁で当然じゃないか。
「メンチ。そういうこと言っちゃだめだよ。あと、実はオレもメンチのこの試験どうかなぁって実は少し思ってた」
「ブハラ!あんたはどっちの味方よ!」
「味方も何もないけどぉ…でも」
「でもも、ああもない!!もう"握り寿司"って言っちゃったし試験官はわたしよ!」
「うう…そうだけど(あの子の言うことも正論だと思うんだよなぁ)」
聞こえてきた声に、半蔵だけでなく試験官もダメじゃないかと、この試験に不安を感じたオレは悪くない。
魚を探しに建物の外に出たら、外の木の枝に気配を消してサトツさんがいた。
彼もこの試験には不安を感じていたらしく、様子をうかがっていたようだ。
オレの存在に気づくと、サトツさんは携帯を取り出して空を指さし、「しー」というジェスチャーをしてくる。
ああ、なるほどね。
どうやらサトツさんが、電話でこの試験について上に連絡したようだ。
あの空を指すジャスチャーの「上」がなに意味するのか、「上司」を指すのか、「今から空からくる」の意味なのかは判断しかねたが、たぶんネテロ会長には報告済みだろう。
うん。やはりこの寿司づくりはする意味を感じないな。
まぁ、たしかにこの森林公園の魚はゲテモノばかりだ。興味は絶えない。
ネテロ会長がどう動くかは不明だが、試験に動きがあるまではのんびり釣りでもしてくるとしよう。
あっけなくつれてしまったので、しょうがなくそいつをもって建物にもどった。
寿司を作る気分になれず、ひとまず火がないから刺身でも作るかと魚の鱗を糸でとっていく。さぁ、魚をさばくかと思っていたら、目を輝かせた子供がやってきた。
「すごい!おねぇさんって料理うまいんだね!」
キラキラした目で、あのにっくきジンの息子が話しかけてきた。
それにチラっと一瞥して、すぐに視線を包丁と魚に戻す。
たしかに綺麗に鱗が取れている。手慣れた感はあるか。うん、でもはじめからそうというわけではないがな。
そうだ。前世のときだって、料理は得意じゃなかった。
もともと料理はやろうとさえ思えばできないことはなかった。
菓子類は適当にやればできたが、なぜか家庭料理というのは上手くできなかったのだ。
見かけがとにかく悪い。味はまぁ悪くないと思ったが。
第二の問題がオレだ。
前世からのズボラ性分で、食べられればいいという価値観で生きていた。つまり、毎日同じ飯だろうと若干苦かろうと気にしなかっかたのだ。よって、オレは一人暮らしをするにあたり、最低限必要な栄養さえとれれば、一人前を作るぐらいなら「適当でいいか」となるか、または作らなくてもいいだろうという結論に到達しとしまっていた。
そのときのオレには、食することで生きていくという必要最低限の条件さえ人間として満たされていなかったといっても過言ではないだろう。
そんな過去をどう乗り越えたかって?
いっぺん、子を持つ親になってみろ。
かわいいわが子にひもじい想いなんかさせたくないだろう?
それがオレの料理を頑張ろうっていうきっかけだった。
以前も話したが、オレの常識を覆したのは、こどもの存在だった。
オレのバカげた価値観がそれにより一変した。
だからどんな食材でも、人の口に入れるものはおいしくさせたい。なんなら我が子にはより美味しい物を食べさせたいがために、美味だと評判の食材を求めていろんな場所にも足を運んだ。
実家のやばすぎるあの裏山では、いつも食材があるわけではなかった。いろんなところを旅して、一般的な食材が手に入らない場所もざらにあった。いまでは、食べられるもののありがたみを実感し、残すとか捨てるとかに抵抗があるほど。
手元には紫で毒々しいマーブルじょうで、なんか角のある魚がいる。
こいつも無駄にはしたくない。せめて食えるものとして、調理してやりたいところだ。
『覗き見なんて泥棒と同じよ』
「あ、そうだよねごめなさい」
ゴンを追い払おうと、言葉を投げかければ子どもは慌てたように謝罪すると、さっさと仲間の元に戻っていった。
あのジンの子どもに話しかけられただけで、少しイラっとするのはなぜか。たぶん純粋すぎて、自分と違いすぎる感覚にむずっとするのだ。
なんかむかついたので、まな板の上の魚の胴体と顔の境目に包丁を勢いよく突き刺した。
ダン!っと、包丁がまな板に突き刺さる音が響いた。
いや、八つ当たりじゃないぞ。こいつ角があるってことは頭部が固いんだよ。だからとる必要があってだな。
はい。さらにうちのオバカがやてくれました。
あの子はもう。
帰ったら即説教決定だ。
何があったかというと、最終的に試験をだめにする発言をしたあげく、メンチ(試験官)をきれさせたのだ。
あと、オレも部ちぎれてます(ニコリ)
お題「握り寿司」では、メンチが出していたヒント「握り限定」という言葉、手の動きや言動、周囲にある小物など(箸や握調味料入りの皿など)から、指定の形を想像するのが一番の課題だ。
その段階で、想像力が豊かな受験生たちが、生きたままのそのままの魚を、握りこぶしサイズの米で包んで出した。
考察の鋭い受験生も同じように生きたままの魚に米を張り付けたりと散々な物を作成。この場の全員が、似たり寄ったりの発想で提出したのだった。
結果、メンチは「そんなもん食えるか!」とそれらの皿を放棄。
なお、そうやって食材が一つ無駄になるごとに、オレの笑顔は深まり、こめかみの血管がびきびき言っていたがそこは乙女の秘密である。
そんなオレの様子に近くにいたヒソカが嬉しそうにニコニコとし米を握っていたが、ひとがブチギレルの我慢している様を見てニヤつくとはお前は本当に変態だなとか思ってしまった。
あと勝手にオレの鞄をあさって、勝手知ったるとばかりにバーナーをとりだすんじゃない。何してるんだ?と思ってたら、ヒソカはまずそうだった魚の切り身を炙っていた。ヤダ、この子、炙り寿司作ってた。…できたものに少し首をかしげていたが、故郷で食べた握り寿司とはなんか違うよね。形というよりも、たぶんその魚の色だと思うよ。緑だし。まぁ、生よりは焼いた方がマシに見えるよその魚でも。ついでにオイルと香草でもかけておいたら?味は保証しないが。試験案に提出するなら、バジルソースとかおいしそうなものではなく、激辛唐辛子パウダーかけようぜ。
オレにとって救いなのは、受験生たちの作った破棄されたゲテモノ料理がゴミにならず、ブハラが食べてくれたことだが。
そんな料理とも言えないゲテモノばかりだしていく受験生の中で、寿司を知る唯一の半蔵が意気揚々とメンチにそれらしいものを出した。
「どうだ!これがスシだろ!」
ついに俺の番が来たなとばかりに、自信満々に半蔵が、試験官に料理を提出する。
だされたものはオレたちのよく知る握り寿司の形をしたもの。
「ふーん。ようやくそれらしいのが出てきたわね」
それにメンチは、満足そうに笑うと、その何の魚でできているかわからない握り寿司を食べた。
そりゃぁ我らが自国の料理だから、形は知っていて当然だよな。
これで他の受験生みたいなゲテモノ料理を出して来たら、身内としてあいつを絞めようと思っていた。よかったなオレにしめられなくて。
「ダメね美味しくない」
「なっ!?なんだと!?」
メンチが出した判定は、「まずい。不合格」の一言。
判定基準がもうメンチのなかでずれている。美味いかまずいかで判定が代わっている時点で、もうこの試験は誰も受からないのが確定した。
ヒソカくん。ちょうどいいから、君が作ったその緑の寿司、上に劇物載せて渡しておいでよ。あ、いや?それは残念。なに?自分でまず食べてみたい?え、そうなの。それは君、勇気あるね。
でだ、そこからが問題だった。
「メシを一口サイズの長方形に握ってその上にワサビと魚の切り身をのせるだけのお手軽料理だろーが!こんなもん誰が作ったって味に大差ねーべ!!!」
グシャリ。思わずオレが握っていた米を握りつぶしてしまった。
横でヒソカが、顔を引きつらせオレから一歩距離を置いた。
いやいや、シャリの握る強さ加減とか、鮮度を保つためにどう生かすかと。魚を美味しく切る方法とか、いろいろあるのよ。それを誰にもできるとか言わないでほしい。料理二年目の俺には、地元の寿司職人のような絶妙なおいしさは再現できないし。
そして、問題なのはここ。半蔵が大声でメンチにきれちらかした内容だ。握り寿司がどういうものなのか、懇切丁寧に説明してしまっている。
口が軽いにもほどがありすぎる。
そこでほかの受験生たちが「なるほどそういう料理か」と、すべてを把握してしまったから大変。
しかもメンチは、オレと同じところでブチギレた。
「お手軽!?こんなもん!?味に大差ない?」
うんうん。わかるそこだけは。
「ざけんなてめー!鮨をマトモに握れるようになるには十年の修行が必要だって言われてんだ!!キサマら素人がいくらカタチだけマネたって天と地ほど味は違うんだよボゲ!」
メンチは声を荒げて、半蔵の襟を鷲塚むとがくがくゆさぶって怒っていた。
当然うちのわんぱく小僧は、それに反論する。
「んじゃぁそんなモンをテスト科目にすんなよ!!」
「っせーよ!コラ、ハゲ、殺すぞ!」
「文句あんのか、あ!?こちとら、小さいころから料理人じゃないけど叔父さんがよく作ってくれたし!誰でもできるじゃねーかよ!」
原因オレかよ!!
おい、過去のオレ、どうしてああいう子に育てた!あれが、身内!?育児失敗ダメ見本市かここは!?
いや、たぶんオレがよく作ってたのって、この未来を知ってたからでは?こんな馬鹿な真似をしないようにと、あいつの目の前で実践してやったんじゃないか。未来のオレ、ごめん。なんか半蔵がダメ野郎に育ってる。
「――っとみうわけで。こうして今はきれいに魚をおろせるわけだけど」
ゴンやクラピカ、レオリオが側で興味深げに耳を傾けてくるので、しかたなく話してやっていたわけだが。
慣れた手つきでさばいていていた包丁をおき、チラリと原作組み、およびその周囲を見回す。
ハゲ忍者のせいで、すでに寿司の作り方は全員しってしまっているが、食べ物でさえない。ナマモノを試験管に出すってどういうこと?
あまりの惨状にキレた。
「美食ハンターなら、食材をむだにするんじゃねー!!」
勢い余って、美食ハンターだという試験管にむけて、包丁を振りかぶって投げていたが。
っふ。
まぁ、試験管だし余裕でよけれた。――ということにしておこう。
ふっとんだ包丁?
うん。メンチの横につきささったけど。
それがどうかした?
オレ、悪くないもん。
あれは、オレが彫師の師匠の家を追い出されてからのこと。
実はしばらくは、小さな幼いヒソカをつれてあちこち放浪して暮らしていた。
なんか実家に帰ると、ヒソカが原作ヒソカに近づきそうで嫌だったんだ。
だからその日ぐらいの旅をして暮らしていた。
生計は主にオレが道端で念能力を駆使したマジックを披露して稼いだ。
オレの念能力の一つが、影の中にあるものを別の影の中に移すことができたため、 それをうまく利用し、布をかぶせたなから違う大きなものを取り出したり、別の場所に移動させたりと、奇術にうまく取り込んだのだ。
そうして地道に稼いだ。
っが、やはり道端の物乞いのようなことをして毎日必ず食べ物にありつけるわけもなく、たまにひもじい時もあった。
そういうときは、周辺の獣を狩るのだが、冬だとうまくいかないこともある。
あと、この世界だと特殊な地域というのはかなり存在し、このハンター試験の会場のように特殊な場所だと、限定された生き物しかいないときもあるのだ。
おかげで、小さな幼い子が、我慢を覚えてしまった。
あるとき。人を集めることもできず、物を買う金もなくなり、周囲に森もなかった。
ついに食べ物も底をつき、食糧難に遭遇して三日目。
今日も周囲の植物で食べれそうなものをなんとかするしかないだろうとため息をついた。
そんなときのこと。
「大丈夫パパ?」
「あ、ああ。ごめんな今日もお前にご飯食べさせてやれそうもない」
「平気だよ。僕、お腹すいてないから!それにほら!この草食べれそうじゃない?」
そう言って笑顔で何でもない事のように子供が指差すのは目の前で揺れている草。
そこにあるのはたかが草だ。
果実も実もなにもない。
けれどそれだけでも食べれるだけいいとこどもは言う。
こんなおいしくもなんともないもので、はらがみたされるはずもないのに。お腹がすいてないはずなにのに。
こどもはニッコリと笑顔でそう言ったのだ。
子供を自分が育てると決めたのは、オレなのに。
その責任がオレにはあったのに。
だというのに、面倒を見て気を使うべき大人であるオレが、逆にまだ大人の庇護下にいていい小さな子供に逆に気を使わせたのだ。
その瞬間オレは衝撃を受けたね。
食糧らしきものがなくても。
せめてこんなたかが草さえ、きちんとした食べ物になるようにしなくちゃいけないって思ったんだ。
しかもいままでの一人暮らしのオレのおかしな価値観のせいで、料理はあまり料理と呼べるようなものではなかったはず。「くえればいい」なんてもので妥協で作っていたに過ぎない。それこそ最低だ。
ああ、本当になんて最低な大人だろう。
こどもに気遣われてるようじゃ、オレはこの子を育てる資格はないと思ったね。「こどもが生意気なこと言うんじゃない」「大人をもっと頼れ」そう、余裕で言える立派な大人になりたいって思ったし、その台詞を今この場で言えないことがすごく悔しかった。そのとき、泣きたくなったな。もうさ、自分が情けなくてしょうがなかった。
だからそのとき決めた。
もうひもじい思いは絶対させないって。
どんな場所にいっても必ず食料となるものを調理できるよう知識をつけた。
包丁の使い方を学んだ。
自分で食べれるものと食べれないものをわかるようにした。
旅に出かけるときはかならず、調味料となるものをもちあるくことにした。
それが――オレが料理を始めるきっかけ。
美食ハンターを目指した理由。
いまおもいかえしてみると、もしかしてヒソカが奇術師なんてものに走ったのて・・・
あれ?
もしかしてオレのせい?
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【オマケ】
「こんなもんくえるかー!」
そういって食材を放り投げたメンチのすぐわきを、物凄い勢いで銀色の何かが飛んでいく。
ドスッ!!と物凄い音がしてメンチの足元に包丁がささる。
「美食ハンターなら、食材をむだにするんじゃねー!!」
包丁がとんできたほうへと視線を向ければ、怒りに目を吊り上げた少年がいた。
その突然の行動にも罵声にもそれが発せられる前に、予備動作にさえ気付けた者はいなかった。
周囲があっけにとられていると、少年が前とでてくる。
全員の一歩前に出たのは、目立つ赤毛の少年。
そして――
「お前は本当の空腹を知らんのか!炉端で一芸を見せて日々かせぐ貧乏人のきもちになってみやがれ!!どんなに人がいてもみせものに金を払う人は少ないこのご時世。 ただ見をされたあげく、稼いだ金では食費も稼げず。養うべき家族に「一日ぐらい食べなくたって平気だよ!」と逆に気遣われてみろ!それがどれだけ心苦しいか!食のありがたみを忘れた奴が、食べ物を語るなこんちくしょうめが!!
せめてオレの芸をみたなら、一食分になるぐらいの見物料を払えよぉっ!!」
叫んだ。
「「「(ものすごい私情まじってるぅ!?)」」」」
それの激しく私情が混じった罵声にその場にいた全員の心がその瞬間一致した。
「それと。そこのハゲ!!貴様はそれでしのびか!!忍者なら忍よくそがきが!!
あとそこの生魚をピチピチいわしてるアホども!並べ!!そこにならべぇっ!!
あ゛あ?てめぇら、なに米を無駄にしてんだよ?料理ができないふざけんなよ。そんないいわけきくかよ!米粒一つ無駄にすんじゃネェよっ!!!
いっそテメェら飢え死にして来い!
そもそもな。テメェで食えねーようなもんつくっていいきになってんじゃねーよ!!だめだしだされて気落ちする前に、もっと脳みそ使えよバカ! そして魚に謝れ! 活き作りじゃないんだから、食うならせめて殺してからさばくか、焼くか、煮ろよ! お魚さんがかわいそうじゃないか! お前は生きた魚をそのまま食べる趣味でもあるのか?ええ?どうなんだよこの秀才くんよぉ。心臓動いてるさかなをそのままたべんのかよ!!」
―――その後、試験は空からネテロ会長が降ってくるまで、試験管メンチとブハラも交えた全員が赤毛の少年の前に正座させられ、長々と彼の説教の餌食になっていたとか。
再会は意外と早かった。