有り得ない偶然 Side1
++ HXH++
10.正座×第三試験×笑う門には福来る
「マーメン、下をみろ。何やら愉快なことになっておるわい(笑)」
「あー。やはり、この課題はアザナさんの地雷でしたか」
「ほっほっ。メンチのやつ、奴の地雷原でタップダンスどころかサンバでも踊ったんじゃないか」
飛行船から試験会場を見下ろしたネテロとマーメンは、窓から見える眼下の様子に笑いと苦笑をかえした。
二人の視線の下には、70人程の人間たちが青い髪の少女の前に正座させられている姿があった。人数が人数なだけあり、いっそのこと壮観でさえある。
ネテロたちが飛行船を動かすことになったこととしだいは、試験官として送ったハンターのやらかしである。
「こっちにも事情があんのよ!テスト生の中に、料理法をたまたま知ってる奴が何人かいてさ!特にバカハゲ!そいつが他の連中に作り方を全部ばらしちゃったのよ!
とにかく!アタシの結論は変わらないわ!二次試験後半の料理審査、合格者は0!!よ!」
電話越しに、今回の試験官からの声が響いてくる。
「ちょ!?もしもし?...もォ、乱暴なひとだなぁ」
マーメンが声をかけるが、受話器から聞こえるのはプープーという音だけ。
電話相手のメンチは、言いたいことだけ言ってケータイの電源まで切ってしまったようだ。
「会長、メンチさんにケータイの電源オフにされちゃいました。いかがいたしましょ?」
「ふーむ」
「あの娘もかなり強情だからのォ。まぁよほどのことがない限り意見は曲げんだろう」
「でも彼女の言い分はあまりに一方的なだし。なにより予定と違います。あくまで料理を通して観察力や注意力を測るテストだったはず」
「いまさら言ってもしかたあるまい」
ストレッチをしていたネテロは、きりがいいところでやめると、出かける準備を始める。
「出かけるぞ」
「すいません。お手をわずらわせます」
「ほっほ。責任者として当然じゃろ」
なにもマーメン(優秀で手放したくない秘書)のお願いだからというわけではない。
「こんなケースは一度や二度じゃないわい。
ハンターってヤツは、"頑固者や変わり者"がとにかく多い。
そんな連中が審査しとるんだから、おのずと点もからくなる。
実際、委員会(ワシら)が試験官の判断に従って合格者を出さなかった年もあるしな」
ハンター協会の建物から試験会場までは、飛行船が一番近いと、マーメンとネテロは協会がもつ飛行船場にむかった。
「だが、今回のケースは少しばかりテスト生が気の毒だからのォ」
味で優劣をつけたらだれも受からないのは当然である。
メンチの舌の好みを知る受験生はいないのだから、気の毒な話である。
とはいえ、もう一つネテロには気がかりな点があった。
内心、試験の受験生に潜り込ませた"知人"の事が気にはなっていたというのもある。
知人の名はアザナ=クロフデ。
当人曰く、ハンター歴20年。料理歴2年。我が子にうまいもの食べさせるために、二年前からUMAハンターから美食ハンターとして活躍をしているとのこと。その赤い髪の、子供じみた外見の青年である。
今より17年前の世界から来た彼は、自分たちが知っている彼よりも若い。
生前、最期の彼は、外見はともかく、貫禄のあるハンターになっていた。死ぬ間際の彼の経歴は、ハンター歴37年。美食ハンターとしても名を挙げていた。
それに比べると、過去から来たという今の彼は、外見などは十代の子供そのもので、能力も劣っているし、美食ハンターとしての功績も威厳も何もない。それでも、すでに彼は「食へのこだわり」をしっかり持っていた。
ジンとやった鍋パがいい例だろう。謎魚といっていたわりに、しっかり美味しくいただけた。あれはうまかった。
十数年前の時空からやってきた彼は、ネテロが先刻告げたとおりのハンターらしいハンターで、"頑固者で変わり者"の代表のような奴だった。
この時代の彼は死んでいるから、身バレしないように変装させて名前も変えて「目立つな」「おとなしくしていろ」とは告げてはいるが。さて、彼がおとなしくしている姿など到底想像ができない。
彼は思慮深い面はあるが、心の中に感情をためておくのが得意ではない。良くも悪くもとにかく口が出る。
本人的には「ルールに縛られた息のしづらい生活は嫌い」なのだとか。
いわく、「平成後半から令和にかけて、日本からの異世界転生ファンタジー小説がやたらと出版されたのは、日本人の想像力が豊かなだけではなく、“現実世界から解放されたい願望”が含まれていたからだとオレは思っている」とのこと。なんじゃそりゃ?と、この世界の百人中百人が聞き返す言葉である。
上記における彼の思う“現実世界”とはこういうものであるらしい――まずブラック企業、出る杭は打たれる社会、個性批判、時間に厳しく、法は異常なまでに細かく...etcetc
「世の中にはブラック企業というものがあってだなぁ、法以上に人間を酷使させる職場がある。あれ、つらい」
「現代日本の島国根性とでもいうか、よそ者を受け付けない&強固なルールにがんじがらめで、みんな同じじゃないといけなくて、普通じゃないものはみとめられなくて出る杭は打たれる――個性殺しもいいとこだ。個性を伸ばす社会を〜とか言いながら個性を認めないくせに」
「決められたレールから出ることもできないあんなかたっくるしいだけの世界!息なんかできるか!」
「だれだって自殺したくなるっての!」
「細分化されすぎて、あれもだめこれもだめ!すべてがダメだしされる現代社会も。被害者側が逃げる羽目になるおかしな点も。ブラック企業も。島国根性よそ者敵視な国家もっ!なにもかも大嫌いなんだ!!」
「そんな抑圧された世界からついに解放された令和日本人の気持ち感がわかるか?ここに生まれ、オレはようやく自由を満喫中なんだよ!」
ブラックキギョウやレイワやニホンジンやテンセイシャや本がどうとか...何を言っていたのかは、この世界の住民にはいまいち理解はできないが。ひとえにアザナは息苦しい生活も誰かに縛られることも押し付けられることも嫌いであるということらしい。
つまりはアザナというのは、根本的にマイペースで、好きに突き進む男なのだ。
言いたいことは言う。
他人の気持ちは考えることはできるが、自分が大切に思うものが優先で他者もたやすく切り捨てられる。
そして正論をよく言う。それは彼が己の中の正義に準じているからだ。正義とは言うが、けっしてそれが一般常識的な優しさや正義や正論であるわけではない。相手に共感し同情しなぐさめるようなものではなく、傷つけることも多々ある――そういった情の観念からではなく、論としての正論だ。
彼の正論とは、「他人の感情と一般常識は〇〇だが、世間的に発表されている数式の公式は△△だ!その△△数式に対してオレはxxと考える。ゆえにおまえは正しくない」というのに等しい。
普通であれば天秤にかけたとき、一般常識を優先してしまう。だがアザナは他者のもつ価値観や一般論を気にしない。
もはやここまで我を貫き通されると、"何かに吹っ切れ"すぎてこうなっとしたか思えない(実際、前世の現代日本からの抑圧された生活から解放された反動である――っが、そのことをこの世界の住人が知る由もない)。
彼の中の正論や正論とは、彼の心の中にある芯のようなものなので、例えば「一般常識的に殺人は悪いことである」という認識だが、それは彼の正義には当てはまらない。彼の中の正義は「生きること」「子どもは幸せにする」という二択のみであるためだ。
その子どものために、美食を求め始めたこの男が、今回の美食ハンター二人による試験に口を出さないはずがなかった。
――ネテロが考えていた通り、案の定、男はやらかしていた。
ネテロとマーメンの二人が乗った飛行船が試験会場上空に到着したときには、地上で面白い光景が広がっていた。
なんとハンター試験の会場では、建物の外で試験官二人を含めた参加者全員が地べたに正座をさせられていた。青い髪の少女だけがったっている状況だ。
「「どうしてそうなった!?」」
しでかすにしてもさすがに「目立たないように」という言葉ぐらいは守っって、「表立ってはわからないように裏から手を回してなにかしでかしていそう」と思っていたが、予想外の展開すぎて、ネテロとマーメンの二人が内心同時に突っ込んだのは致し方ないことであった。
目立っては…いない?全員が座っている中一人立っているのって、めだっていないのかあれで?ネテロのなかで、「目立たない」ってなんだったかと混乱がよぎる。
後々アザナ本人に聞いたところ『拳で殴り合いみたいな派手なことは何一つしてないですよ。暴力も何もしてないし、勝手に皆さんが座っただけなので、目立つことなんてしてませんよ』と、イイ笑顔で告げた。
お前の中で、物理行使だけが目立つことなのか。
そのときネテロの顔は死んでいた。
「ほぉ、正座とはやりおるのォ。あれはな、慣れぬものにはきつい。
ジャポンと違って、室内でも靴を履く大陸の者にはない、とうてい慣れない文化じゃしな」
「なにをのんきな。ブハラとか死にかけてますよ」
「どれ。ちょいととめてくるかの」
「おきをつけて」
「なにがあったかはしらんが、合格者ゼロはちとキビシすぎやせんか?」
拡声器で下にいる者たち全員に聞こえるように一声かければ、痛みにうつむいていた者たちが一斉に空を見上げる。そこでようやくハンター協会のマークいりの飛行船が飛んでいるのに気づく。
ネテロは視線を集めたのを確認するとハッチをあけて、飛行装備や防御装置等なにもなく身一つで飛行船から飛び降りた。
ヒュー〜。
ドォォーーン!
と着地が決まり、ネテロが着地した地面が大きくひび割れる。
しかしとうのネテロ本人は、下駄一つ怪我も傷ひとつない。
さすがは100歳を超える男。修行を続け、念能力も極めに極めただけはある。
その様に、正座で苦しんでいた者たちが呆然とする。
あの高さからどうして無事なんだと。
「何者だこのジイサン」
「って、ゆーか骨は!?今ので足の骨は!?」
「審査委員会のネテロ会長。ハンター試験の最高責任者よ」
飛行船から降ってきた老人は誰なのかと受験生が戸惑う中で、メンチがその答えを述べた。
それに周囲がざわつくが、残念ながら正座のしびれのせいで誰一人身動きできず、むしろうっかり動いてしまったものたちの苦痛の雄たけびが響いたのだった。
「ま、責任者といってもしょせん裏方。こんな時の――正座の件じゃなくて合格者ゼロの件な――トラブル処理係みたいなもんじゃ」
うめき声が地味に広がるそんな中、立ち上がって挨拶しようとメンチが反射的に起き上がるが、足のしびれに負けて地べたに舞い戻ってしまう。
「…まるで地獄絵図じゃのォ」
地べたに70名ほどの人間たち全員が、うめき声を漏らして倒れ伏している光景は異様だった。痙攣するように何人もがぴくぴくしている。そうとう足のしびれがひどいらしい。
そんななか、一人始めから立っていたため足がしびれていないのであろう青い髪の少女が、ネテロの前に出てきた。
ポンズである。
その顔は少し困ったようなへにゃりとした笑顔が張り付けられている。
『すみません!ネテロ会長』
「原因はおぬしか」
『はい。あの、実はちょっと食文化の解釈違い?いえ、食への見解の違いで試験官に喧嘩を吹っ掛けちゃって。
あ、でも、私女の子ですからね。255番みたいに力技でどうこうするような野蛮なことはしていませんわ。女の子らしく、おしとやか、かつ、おとなしく対処を心掛けた結果こうなりました。そもそも私は何もしてないですし、みなさん座っているだけですよね?ほら、何も問題ない。
ああ、でも誰も傷つけてはいないけれど、試験を中断させてしまったようで、それだけは申し訳けないなとおもって』
猫かぶりにもほどがある。
すでにポンズがぶちぎれた段階で、彼女の口の悪さをこの場の全員が耳にしている。
先程まで受験生たちをののしっていた勇ましい口調と一人称はどこへ行ったのか。
少女はニコニコと、それはそれは聖母のごとく清らかな笑顔を浮かべて、ネテロに試験を止めてしまった謝罪を告げた。
女の子だから、暴力は振るわない代わりに言葉攻めをしたのか。
おしとやかだと、試験官に恐怖を与えるレベルの勢いで包丁を地面につきさしてクレーターをつくるのか。
おとなしいと、受験者全員を正座させるのか。
「・・・・・・おぬし、一度辞書をひいてきた方がいいぞ」
状況を聞かされたネテロの顔が若干ひきつったが、たっぷりとしたヒゲに隠れ詳しい判断をできるものはいなかった。
なお、ネテロの言葉にその場の全員が頷いたのは、言うまでもない。
その後、少女から解放された受験生とメンチたちが、足のしびれのせいで地べたに倒れ伏してしまい、話どころではなかった。
少女は笑うばかり。詳細を語らない。
なお、255番のトードーが暴れてからネテロがやってくるまでの時間を、その場にいたものたちは痛みの思い出とともに、脳内から消去することに決めた。なぜならプロのハンターになろうという者たちが、全員が小柄な小さな少女の気迫に負け、説教を受け、あげく座らせられただけで大ダメージを与えられたのだから。彼らのなかで敗北感と羞恥心と不満と怒りとやるせなさがごちゃ混ぜになり、もはや悲しみがあふれてきていた。今空を見上げないと涙出そう、というレベル。
彼らはあの時間をないものとし、ポンズによる説教時間に関しては口をつぐんだのだった。
しびれがとれた後に、メンチとネテロで仕切り直しとして話し合いの場を設けられた。
「さて、メンチくん」
「はい!」
(すげー。あのメンチが緊張しまくってる)
(あの爺さんやっぱり凄い人なのか)
「ごほん。正座の件は彼女の暴走だっということじゃし、あれはともかく。
――合格者0人ついてじゃ」
「はい」
「未知のものに挑戦する気概を彼らに問うた結果、全員がその態度に問題あり。つまり不合格と思ったわけかね?」
「…いえ」
「テスト生に料理を軽んじる発言をされて。ついカッとなり、その際に料理の作り方がテスト生全員に知られてしまうトラブルが重なりまして」
「フムフム」
「頭に血がのぼっているうちに、腹がいっぱいにですね…」
「つまり自分でも審査不十分だとわかっとるわけだな?」
「……はい」
(じゃが、アザナも同じようなところで爆発しよるしなぁ。どうして美食ハンターどもは食へのこだわりがこうも異常に強いのか)
「スイマセン!料理のこととなると我を忘れるんです。審査員失格ですね」
「私は審査員を降りますので、試験は無効にしてください」
「ふむ・・・(とはいえ、アザナもちゃちゃをいれておるようじゃしのう。メンチだけが悪いわけでは…たぶん。なかろう?)審査を続行しようにも選んだメニューの何度が少々高かったようじゃな」
ネテロは熟考するように髭をひとなですると、ひらめいたとばかりに案を一つ出した。
「よし!ではこうしよう。
審査員は続行してもらう。
そのかわり新しいテストには"審査員の君にも実演という形で参加"してもらう――というので、いかがかな」
「!」
「その方がテスト生も合否に納得がいきやすいじゃろ」
「そうですね。それじゃぁ」
「ゆで卵」
「?」
「!?」
「会長、私たちをあの山まで連れて行ってくれませんか」
「なるほど!」
ゆでたまごが試験とか、意味が分からない。そんな顔をする受験生たちをよそに、メンチの言葉にネテロは納得したようにニヤリといい笑みを浮かべた。
「もちろんいいとも」
メンチが指定した山まではネテロの乗ってきた飛行船で向かった。
受験生たちが降ろされたのは山頂。
山は中心で真っ二つに裂けており、断崖絶壁の谷間となっている。崖の下は見えないほど高い。
それにおじけづく受験生が数人。
「安心して。下はふか〜い河よ。流れが速いから落ちたら数十Km先の海までノンストップだけど」
そういうなり靴を脱いでがけに飛び降りるメンチ。
すわ、自殺か!?と驚いて崖下をのぞき込む受験生たちが見たのは、谷の間にはられた蜘蛛の巣のような糸にメンチがぶる下がっているところだった。
「マフタツ山に生息するクモワシ。その卵をとりに行ったのじゃよ。クモワシは陸の獣から卵を守るため、谷の間に丈夫な糸を張り卵をつるしておく。その糸にうまくつかまり、1つだけ卵をとり、岩壁をよじ登って戻ってくる」
ネテロがこの場所がどんな場所であり、次の試験は何を行うのかを説明をしている間に、メンチが岩壁を登って戻ってくる。
手には黒いクモワシの卵が握られている。
「この卵でゆで卵を作るのよ」
実演は助かるが、その前にせめてネテロ会長が行った説明と同じ説明を事前にしておいてくれ。と、自殺かと思って肝を冷やした何人かが思った。やはり彼女は少しだけ言葉が足らない。
なお、メンチの実践を見て、受験者の多くが喜々として谷へ飛び込み、あっさりクモワシの糸に捕まっていた。
何度も言うが、地面など見えない高さの谷で、壁は垂直。谷はビル風のような強風が常に吹き荒れている。
常識持ちであれば、恐怖を感じる場面である。
しかしハンター試験を受けに来た者たちは、そんな常識外の強者ばかり。
女、子供、優男…関係なく飛び込んでは壁をよじ登ってくる。
そのなかにはメンチに啖呵を切った青い髪の少女の姿もあり、また、彼女よりも幼げな緑の服の子供の姿もある。
メンチに殴りかかろうとしたがブラハに殴り飛ばされていた男255番のトードーは、常識持ちだったがためにしっかりと今いる場所に恐怖を感じ、その場から動くことができなかった。
そうしてメンチたちが用意した大鍋に、つぎつぎと黒いクモワシの卵がいれらていく。
出来上がったゆで卵は、濃厚でいて、舌の上でとろけるようで、深い味わいがあり、市販のたまごとは比べようもないほど美味であったという。
飛び降りることができなかった(逆にいえばひどくまっとうな思考回路の持ち主たちである)受験生たちは、他の受験生からわけてもらうなどして卵のうまみを味わった。市販の卵と食べ比べた者もおり、あまりの違いに「このうまさをえるためにこんな危険な場所まで来る」事の意味をふんわりと理解した。これにより美食ハンターというものを認めたらしい。
ブハラの試験を通過した70名中、42名が合格となった。
+ + + + +
第三試験会場までは。また飛行船での移動となった。次の到着は明日であるため、それぞれが休息を求めて飛行船のなかに散った。
『は・ん・ぞ・う・くん!ちょっと、いいかしら』
「…よ、よくないです!」
『やだわぁ、そう言わずに、ね』
「ひぃぃぃ〜!いやだぁぁぁぁぁ〜!!!もう勘弁してくれぇぇぇぇっ!!!!!」
休息……どころか、腰を落ち着ける前に、青い髪の笑顔の少女にズルズルと引きづられていくハゲ忍者の姿があったりもした。
彼はその後、彼女によって数時間説教されたらしい。正座で。
拷問の訓練は積んでいたがこれはない。無理です!と泣き言をこぼしていたらしい。
その頃、別室では、サトツ・メンチ・ブハラが集まって、反省会こと食事会を行っていた。
三人は今年の合格者が何人残るか話している。
オーラがいいものが多い。
新人がいい。
294番は寿司を知っていた。
99、44番もいい。
ただし44番は、美食ハンター二人が姿を見せた時点から、ずっと殺気を向けてきていた。
「いや、でも。そういえば44番ってブハラの試験後は殺気向けてこなくなったわね」
「44番は246番とよく話していたよ。だから興味がそっちにずれたみたいだね」
「げっ。あの絶壁と!?」
「ぜっぺきって、メンチ…。まぁ、そこはともかく。246番けっこう強いね。というか、肝がすごい座ってる」
「そうねぇー、アタシ、あの子嫌いだけど。でも料理への意気込みは好きよ。美食ハンターに向いてるわね」
「第二試験をみさせていただきましたが。彼女のこだわりポイントは、料理というより食全般ですね。彼女の基準は生きるための食について。そこに喜びがあればいい。美味いまずではないようですね(この二人に、アザナさんのことを言うべきか悩みますね。面白そうなので黙っていましょうかね)」
「そこなのよねー。ちょっとおかしな方向に口うるさくて。何が米には神様が宿ってるだぁーよ。そんなのきいたこともないし、まず意味が分からないわ。美味いことこそ一番重要じゃない」
「・・・メンチ。だからあの子と喧嘩になるんだよ」
「彼女の国の言い伝えらしいですよコメの神様は」
「44番ですが、私にもそうでしたよ。彼は要注意人物です」
これ以上アザナの話をすると彼の素性ばれに近づくことを考え、サトツが話を戻す。
思い返すと、サトツが試験を始めたときも44番には睨まれている。
ただ、サトツの場合もまた、途中で246番と44番が会話して以降は、そういった殺気は向けられていない。
あの殺気は「つまらない試験はいつ終わるのか」という意味だったのか。「君は戦ってはくれないの?」という意味か。
サトツはフーっと息を吐き出すと一度肩をすくめる。
あんなもの(殺気)を長くは向けられたくはない。メンチではないが気が散ってしょうがない。
「認めたくはありませんが、44番、彼も我々と同じ穴のムジナです。ただ彼は我々よりずっと位場所にこのんで棲んでいる。
我々ハンターは心のどこかで好敵手を求めています。認めあいながら、競い合える相手を探す場所…ハンター試験は結局そんなところでしょう。
そんな中にたまに現れるんですねェ、ああいう異端児が。
我々がブレーキをかけるところでためらいなくアクセルをふみこめるような」
その頃、ヒソカは半蔵の悲鳴を肴に、一人トランプで塔を築いては崩すという遊びを堪能していた。
試験官達は知るよしもないが、ヒソカがブレーキをかけない異端児とするならば、そうなるよう育てた親こそがもっとやばい。
たぶんヒソカよりももっとやばいそいつは、ブレーキをかけるところでアクセル全開でぶっぱなすこと間違いなし。
あげく状況次第で他者をもあっさり切り捨てられる――ような、そんな人間がちゃっかりこの試験には参加している。
ゾルディックではない。青い髪の少女に化けているあいつである。
一方その頃。
念もしらない11歳前後の子供たち、ゴンとキルアがネテロとボールとり合戦をしていた。
その都合で、疲れ切った彼らを休ませるため、ネテロの意向で飛行船は遠回りして目的に向かうこととなったのだった。
いまだ、ヒソカとアザナの関係を知る者は、試験官の中にはいない。
ましてや半蔵と字の関係は、ネテロさえ気づいていなかった。
ジャポントリオがこの後何をしでかすか。それは誰もわからない。
+ + + + +
第三試験は、参加人数42人。
トリックタワーの屋上に飛行船で全員が降ろされる。
制限時間72時間以内に生きて下まで降りてくること。
そこには何もない綺麗な屋上だけが広がっている。
柵もないため、屋上から建物の外壁をのぞむことができた。外壁は窓一つないつるりとした壁だった。
下までというルールに外側からという指定はない。
そのため外壁を降りようとした者もいたが、そのものは怪鳥にくわれてしまった。
それにより外壁は無理だと受験生たち判断を下す。
けれど時間がたつにつれ、なぜか受験者は減っていく。
下へ向かうための隠し扉があるに違いないと、受験生たちがさがしはじめた。
そうして、ゴン・キルア・クラピカ・レオリオの四人もまた入り口を見つけてはいっていった。
人に迷惑しかかけていないジャポントリオことアザナ一家だが、こちらはこちらで主人公メンバーとは別に各自動いていた。
半蔵は早々に一人で隠し扉を発見し潜った。
今頃は巨大な石の塊によって、下り坂を追いかけまわされているかもしれない。
ヒソカはというと、前述名をあげた誰よりも早く隠し扉を発見しており、やる気なさそうに周囲を見回していたポンズを抱きかかえると、彼女が悲鳴一つあげるより早くに先に隠し扉をくぐっていた。
ヒソカとアザナのその後をしばらく追って話そう。
ぬいぐるみのようにぎゅうっとポンズを抱きしめたままだったヒソカとポンズたちが落っこちたのは、石壁に覆われた部屋だ。
その天井部分が屋上の隠し扉となっていたようで、二人が潜り抜けた時点で天上でカチリと音が鳴り、あの隠し扉はもう使えなくなっていることが分かる。
『あの扉の幅と、一回の使用でロックがかかる音からして。思うにあの扉は一人用だったのではないかと思うが。
オレごとはいってよかったのか?』
「まぁ、まぁ◇」
<別に構わないよ。君たちが入った部屋に人数制限はないからね>
ヒソカに抱きしめられたまま反抗も抵抗もしないポンズが呆れたようにヒソカにむけてつぶやいたが、ふいに部屋のスピーカーから声が響く。
どうやら監視カメラで受験生たちの様子を逐一見守っている暇な試験官がいるらしい。
『…試験官さん、ひとつだけいいかしら』
<なんだい?>
『貴方は今の私を見て、"オレ"と"私"。どちらの一人称がいいと思う?』
<そういえばさっき部屋に入ってきたとき、オレって言ってたね。女の子なんだから私のほうがいいじゃないかい?ま、そういうのは、強制されるものではないとは思うけれどね>
「フフ☆」
『あら、ありがとう試験官さん。じゃぁ、私の口がわるくても、他の受験生たちには秘密にしてね』
<そのくらいならお安い御用さ>
ポンズがアザナであるかしっているか?という確認の意図が込められた応答に、アザナの思惑に気付いたヒソカが笑う。
試験官とのやり取りからして、今回の試験官も白。
今回の試験官もまたアザナの生存を知らされていないとわかる。
第一試験官のサトツだけにネテロより知らされていたのは、マーメンとともに会場に来る都合からだろう。
きっとネテロのことだから、説明が面倒とかよりも「面白そうだから」という理由で、第二試験以降の試験官にまでは連絡していなかったのだろうと思える。
ポンズにはそのようすがありありと浮かび、ヤレヤレと肩をすくめた。
<君たちは恋人か何かかい?すまないがこの塔ではいちゃつかないでくれよ>
「それは恐ろしい発想だねェ◇
僕的には青い果実は大好物だけどねぇ。この子、青い果実じゃないし。そういう意味じゃぁ、ないかな☆」
『ないわー。ただ出身地が一緒ってだけの顔見知りですよ』
<はっはっは。それはわるかったね。
そうそう、一番目の部屋はまず44番だけが先に入ってくれるかい?もともとは一人用のルートだからね。44番用に用意された部屋なんだ>
「かまわないよ◇」
『私も問題ないわ』
<そのあとは一人用ルートってわけではないから、246番と44番が共闘しようが、殺し合いをしようが、決別しようがかまわないよ。部屋ごとのルールにのっとってこのトリックタワーを攻略しさえすれば何をしてもかまわないよ>
さぁ、行っておいで。と、スピーカーの声が途切れ、かわりに石壁の一部が開閉し扉が姿を現す。
行ってきまーすと笑顔で手を振るヒソカに、ポンズも気楽に手を振っている。
中に入れば一人の男が待ち構えていた。
「!」
「待ってたぜヒソカ」
顔に大きな傷がある男を見て、ヒソカは「なるほど」とばかりに目を細める。
自分専用の試験官とはこういうことかと納得する。
「試験官ではなく、ただの復讐者としてしてな!
去年の試験以来、貴様を殺すことだけ考えてきた。このキズの恨み!今日こそ晴らす!!」
顔に傷の男がそういうなり、歪曲刀を一本取り出す。
それは去年と同じ武器で何も変わり映えがない。
「ふーん。その割にはあまり進歩してないね◇」
「くくくここからだ」
笑う男が歪曲刀をもう一本取りだし、ヒソカに仕掛けてくる。
ギュンギュンとすごい速さで二本を振りまわす男。
もはや振り降ろすという子激ではなく、その速さで歪曲刀を回転させている。
(二刀流ね)
「まだまだぁ!!」
「おや◇」
二刀流でもまだ弱い。そう判断しいたヒソカの前で、男の歪曲刀は数を増やし、四本となった。
その回転スピードと威力はそこそこある。ただし黒筆一家の母の遠隔操作による毛糸や毛糸人形には到底なにもかもおよばない。
投げられた歪曲刀が、ブーメランのように戻ってくる。それが四本だ。
ヒソカは動体視力が追い付くまではと、しばらく様子をうかがっていたせいであちこち擦り傷ができている。
男はそれに気をよくしたようだ。
「くくくくく!上下左右正面背後あらゆる角度から、無数の刃が貴様を切り刻む!!この無限攻撃をかわすのは不可能!ははは!苦痛にもがいてのたうち回れ!そして死ね!」
笑いながら回転率を上げて切り刻もうとする男に、ヒソカ一瞬だけ視線を先程入り口になった方を見やる。
(いまここでこいつを殺しても。あの人は、気にしない…かな?)
判断は難しい。一般人であれば死体を見たら悲鳴を上げるらしい。それが残忍なほど、殺した奴を嫌悪するという。
三年前、最後にあったときは、片方だけの耳飾りをあづけてきて、「自分がしたいように生きろ」とだけ言って笑っていた。
さて、自分が知るより十五年ほど前からきたという父は、同じ思考をしているのか。
(杞憂だな☆)
パシ!
飛んできた歪曲刀を避けるのをやめ、飛んできたそれを一つひとつキャッチする。
次にあの扉が開いたときはいってくるだろう小柄な存在のことを考え、歪曲刀使いに手を出さずにいたが、「生きるため」「感情の維持のためであるのなら」殺しさえも許容するのがあのひとだ。それを思い出し、口端が自然と持ち上がる。
自分を育てた人間が、自分より化け物じみた思考回路と力を持つ存在が、この程度で自分への対応を変えることはないだろう。
いまさらなにを遠慮する必要があったのかと。
「ふふ。たしかに、よけるのは難しそう☆なら、止めちゃえばいいんだよね」
(バ…カナ。オレは......とんでくる歪曲刀を受けれるようになるまで半年以上かかったんだぞ!)
とめた歪曲刀を見よう見まねで回転させていけば意外とできた。
長年培ってきたマジックや念能力者(祖母)とのやりとりで、両手、指先まで力が入る。高速で回転していく歪曲刀は、もはやギュィーン!と尋常ではない音を出している。
「なんだ◇思ったよりカンタンなんだ」
血を流し損だったかな。
「無駄な努力、御苦労さま」
持ち主に返した刃は、そのまま驚愕の表情のまま固まる男の胴体を切り刻み、胴と首を見事に切断した。
それからすぐに壁の扉が開き、青いおかみの少女が入ってくる。
『開いた開いたぁ。お邪魔しまーす。……初っ端から生首』
石畳に転がる絶望が尾の首をみて、眉を寄せる少女。
だが、それだけだ。
彼女はなんでもないように首と血をよけると、ヒソカの横に立つ。
それにヒソカは笑みを浮かべる。
うん。こういう人だよね、このひと。
『ポンズは毒と薬の専門家ってことだからね。あとで手当しようか』
「ここでじゃないの?」
『え。いやよ。ここ衛生的にわるそうじゃない』
「そう」
『簡易的な止血はさくっとしちゃうけど』
「そ。ありがとう」
「聞かないの?」
『聞くほどもないと思ったんだけど。残念ながら強制的に事情が耳に入ってきちゃって、状況は把握しているの。
去年顔に傷つけられた恨みで鍛えたけど負けたって――"言ってる"から』
「……ああ、"そっち"からの情報源あったねー」
クロフデアザナというのは、思考回路も何もかもおかしいどころか、見えてはいけないものが視えていたのを思い出しヒソカの顔が一瞬遠くを見つめる。
彼が言う「言っている」とは、この場合では試験官でもなんでもなく、“死んだはずの本人”がそう言っていることは間違いない。ただし、死者の残した魂のようなものが、である。
そう、この男、普通に見えちゃいけないものを視えているのである。
アザナは念能力者でも見えないようなものを、素の状態で見ている。
つまりこの場には彼曰く幽霊的な何かがいて、恨みつらみをつぶやいていると・・・そういうことらしい。
子どもの頃、日金を稼ぐためにマジックショーをやっていた父親を見ていたので、それを見本に奇術師とふるまっているヒソカだったが、目の前の男が奇術師さえびっくりさせることにかけては規格外であったのを改めて思い出させられたのだった。
奇術師以上に奇怪な存在よ。
軽く水で傷を洗い流し、部分的に血管をしめ、包帯をまく少女のような姿を見ながら、ヒソカは自分より目の前の相手のほうが非常識じゃないかなと思った。ヒソカは常識に共感しないだけで、ああみえて常識も理解力もあるのだ。
アザナ的には、部屋に入ったっとたん鉄さびのにおいが蔓延していて、想定内すぎて呆れずにはいられなかった。
この世界、やはり人間の生死の価値はおなじ人間からしても価値はあまりないようだ。
すぐ、殺す。
すぐ殺そうとする。
「それでも去年のハンター試験の試験官だったやつだよ」
『へぇー。ハンターだったの』
なのにヒソカに顔に傷をつけられ、半殺しにされた。
それで試験官ってことは、そうとう運がよいハンター試験を受けて合格したか。
「グランマみたいに飛び道具を出してきたけど、グランマ見慣れちゃってて☆ボク的にはね〜って感じ。興味もわかなかったよ。
念能力を知らなそうだから、使わないっていう手加減をしたんだけどね。すぐ死んじゃった◇」
『飛び道具。なるほどね。ヒソカとさっき戦っていた時間は20分もかかってないし。そこらをふまえ、強くなる努力はしたようだけど。しょせん一般人どまりの強さだった感じかな。能力者相手には分が悪かったとしかいいようがないわね。
念能力のことも知らない様子からして、協会からお声がかからなかったか。ハンター協会からの声も無視したのかな』
「たぶん無視したんじゃないかい☆あるいは、よい師に出会わなかったか」
『ここまで念能力対策もないから、完全に師匠もいないただの非能力者じゃないかな彼は。協会からの声を無視して、ひたすら独学で自分を鍛えた。残念ね、そのせいで一般人どまりで終わってしまうなんて』
「四刀流は面白かったよ」
『四個って、私とか大道芸人が、普段ショーをするのに、お手玉とかジャグリングで使うクラブを何個使ってるとおもってるの?』
「いわれてみれば」
『そもそも本当にヒソカを殺したかったのなら、どうして刃に毒や麻痺薬なりつけなかったのか。刀の数を増やしたからって、決め手が弱い。出血多量を狙った運試しのようなものじゃない。復讐とかは言い訳で、本気で殺す気はなかったんじゃないかしら』
「四つも刀を操れる自分凄い!と思ったんじゃないかな◇それで強さを勘違いした」
『それは、ありえそうね。自己肯定が高すぎたのねきっと』
『せっかく命を生き永らえたのに。無駄死になんてちゃって』
生にひたすら望みしがみついているアザナには、男の行為はただの無駄死にだった。
せっかく去年ヒソカのきまぐれとはいえ、生かされたのに。
今年死を選ぶとは。
アザナがみつめていれば、部屋の中央にボォ〜と影が浮かび上がる。
影は自分の首を見下ろして、ブツブツと「こんなはずじゃなかった」っとつぶやいている。
それを見えるものは自分だけ。
監視カメラの向こうの試験官も、この場にいるヒソカでさえ、"アレ"はもう見えていない。
視認することも、それらの声を聴くこともできやしない。
もうアレのことは、だれもきにもとめない。生者が気にすることもできないモノとなってしまったのだから。
ああいう影は、幽霊もといオーラ(思念の名残)だ。
念応力を学んだものであれば、目にオーラを集中させることで見える者もいたりする。
だが彼らは、会話はできない。
残り香なので、そこに意思がないためだ。
アザナがいた元の世界であれば、幽霊というのは魂そのものであったため、そこには意志や人格も残っていることが多く、やり取りまで可能だった。この世界では、幽霊のあり方はただの生者による想いがこびりついて残ってしまったオーラの残りカスだ。
『もったいない』
せっかく生かされたのに。
そして恨みつらみを残してこの世に想いだけが幽霊として残ってしまった。
顔に傷kがついたぐらいで。
戦って負けたぐらいで。
なぜ復讐という道を選んだのか。
ああ、もったいない人生だ。
顔の傷やプライドの傷による恨みを晴らすより、生にしがみつく気概を見せてほしかった。
どんな姿かたちになろうと、どんな醜態をさらそうが生きようと運命に抗うものは強いのだ。
腕がなくなろうと、命があればまだ生きていけるのだ。
げんに、第一試験開始前にヒソカが腕を切った受験生がいたらしいが、彼はすぐに救護班に回収されたらしい。
試験前だったので、回収班もあっさり許可が出たようだ。
そしてその受験生は、腕を失っても命は無事だった。
傷ができたぐらいで死神のような男に何も挑まなくてもいいと思うのに。
うちの子にケガを負わせたということは、うちの子が生きるうえで必要な経験の若干の糧にはなってくれたのだ。
今回の経験は活かせる。同じような攻撃が来ても次回からは避けることも対策を練ることも可能だ。
その死は無駄だったが、その生はうちの子を生かすための糧となった。
『1ミクロンくらいは感謝してあげるよ』
死んでいるのでもう聞こえてはいないだろうが、顔に傷のある男にアザナ告げた。
幽霊となった存在は哀れではある。
アザナにはその声も姿も聞こえるし視える。
けれどアザナが、そういった影をどうこうでする術は持ち合わせていない。
アザナは"視える"だけなのだ。
礼を述べても無駄だとわかるから、アザナは幽霊と死体となった男を無視し、部屋を出ようとする。
『で、元試験官とやらはオレの甥っ子とどっちが強かった?』
「気になるのはそこなんだ。
うーん◇そうだねェ。現状では甥っ子クンのほうが強いかな。ああみえて、たぶん彼ならこいつの剣を最初から全部さけれてるだろうしね」
『おや。意外とあの子への評価が高い』
「みたらわかるよ。甥っ子クンはね、鍛え方が違う」
『飛び道具類は母さんとか兄さんが徹底してしこんでいそうだしなぁ。ま、当然か』
そりゃぁ、強くなるよなぁーと二人は笑いながら一部屋目を通り抜けたのだった。
後に過去に帰ったアザナが、幼い半蔵を徹底的に教育し、それが今の半蔵の強さにつながることとなるのだが、それに気付いた者はいない。
<タワー内には服役囚がいて、彼らは君ら受験生の足止め時間が多ければ多いほど刑期が短縮される。この先ではそういうルールにのっとった服役囚が相手だよ>
『でも、さっきの男は服役囚じゃないよね?』
一部屋目は服役囚ではなく、ただ自主的にやってきた自称復讐者であるため、塔のルールとは別のアルバイターのようなポジションだったらしい。
彼への報酬は、服役囚ではないため刑期の軽減とはならず、勝った場合のみ報酬が決められていたらしい。
まさにイレギュラー。
まさにヒソカのためだけの試験官であったといえよう。
『それもはや激重感情ストーカーでは!?』
<ま、まぁ。死んじゃったからどうでもいいけどね>
「それはたしかに☆」
『むしろ死んでよかったんじゃ』
捕らえ方ひとつで、ものは変わるらしい。
孤高の復讐者なんてかっこいい物ではなく、ハンター試験に混ざりこむほどのストーカーに格下げされた男は、そのまま塔のシステムに掃除されないごともなかったように世界は回り続ける。
その後二人はのんびり6時間をかけて、トリックタワーを下って行った。
なかには、色々な罠があったり、ときにはおかしな課題を出す服役囚もいたが、二人はあっさりそれをかわしていく。
何度か戦闘もあったが、そこは手を抜いてても余裕な二人だった。
「ボォ―っと突っ立っているあんたが悪いのよ!」とアザナが人質にとられたことがあるが、まず首におしつけられたナイフが砕けた。
殺してしまえば、それで足止め扱いとなり、服役囚は72時間分の時間が短縮されるため、首をねらってって殺そうとしたようなのだ。
本人は一般人ほどの硬度しかない肌と内臓をしていようとも、そりゃぁあれでも龍の血をひくので鱗だけは別だ。
『まだ鯉とはいえ、刺身になるきはない!』
にやりと笑ったアザナが、身長を生かして頭突きをくらわし、自分を殺そうとした女性をぶっ飛ばした。
鯉はあそこまで鱗硬くないのでは?あと、鯉は泥臭いので、食べるには下処理が絶対必要だったな。――と、すこし思ったヒソカだった。
服役囚である女とその仲間へ慈悲は与えられなかった。粋の良い鯉のびんたがさく裂した。
そもそもゾルディックでさえ匙を投げ、殺せないことで定評のある男を人質にするのは、無謀というものである。
「しらないって、残酷☆」
また別の場所では、しょっぱなから「ショタ大好きー!」と襲い掛かってきた服役囚もいたが、ヒソカが手を出すよりも早く、アザナが蜂を仕掛けていた。
蜂の毒で苦しむ相手を踏みつけ足蹴にし、『うちのヒーちゃんに触るなこのくずがぁぁぁ!』とそれはもうゲシゲシと遠慮なく痛めつけていた。ショタコンは滅べとさわいでいる。
「……」
君の中で僕はどんだけ小さいままなんだい?
むしろ、今狙われたのはポンズでは?
笑顔のまま固まったヒソカが内心ツッコミを入れたのだった。
ただしその声は届いていないし、悲鳴も上げられなくなった服役囚をいまだボコボコにしているポンズはヒソカのもの言いたげな視線さえも気付いてもいない。
『なに?ヒーちゃんではなく私?…絶壁だから男の子と思ったって?やっぱり、あなたいますぐ死んでくれる?』
絶壁発言をしたので、結局いい笑顔のポンズにぶん殴られた服役囚だった。
なお、その一連のやり取りを監視カメラで見ていた試験官こと賞金首ハンター兼刑務所長のリッポーが、画面の向こう側で大爆笑をしていたりする。
「よっしゃぁ!俺が一番乗り!…え、あれ!?まさかの二番かよ!」
1階までついて暇を持て余していたヒソカとアザナが、のんびり座って次の受験者を待っていると、石壁の扉が開き、元気よくハゲの青年が飛び出してくる。
見覚えがありすぎる青年である。
『あらまぁ。身内で上位三が埋まっちゃった』
「なんだよぉ。二番手かぁ。お、じゃなくてポンズとヒソカじゃん。お前らが相手じゃぁ、しょうがねぇな!
いやぁ〜、それより顔見知りが先にいてよかった!こっから制限時間まで待機だろ!暇だろうなぁっとは思ってたんだ!む、奥にある部屋に風呂と調理場と厠まであるな!!これならあと何時間だって待てそうだな!」
『…元気が過ぎる』
はっはっは!と、さわやかに笑いながら仁王立ちして、ノンスピードでしゃべり続ける半蔵に、ポンズはゲンナリとした顔を浮かべた。
横でヒソカが「怒った君もあんな感じだよ」と言っていたが、誰にも拾われなかった。
そこからは半蔵のオ社針タイムとなった。
時間がある限りしゃべるぞお!とばかりに、半蔵が喋り続ける。
ここ十数年の出来事であったり、アザナの死後三年のできごとであったりと、アザナと話せなかった穴を埋めるように今まで何があったかをアザナに面白おかしく話して聞かせる半蔵はとても元気だ。
「…がこうで!それそれでさ!…あれで!こうでよぉ!!…‥が…‥で!」
『いい加減うっさいわお前は!!!――だからお前というやつは!誰に似て――!』
ああ、でもない。むしろこうだ!などなど。
よくしゃべる半蔵も、ド正論攻めするアザナもノンストップでやり取りをしている。
元気だなぁと眺めるヒソカであったが、彼からするとアザナも半蔵も同じである。
騒がしい――そんなところは、愉快なやつしかいない超ポジティブな龍の一族の関係者ならではだろう。あの一族の血を感じると思ってしまうほど、二人はキャンキャンと騒ぎ続けていた。
血はつながってないはずなのに、こういうところがそっくりだ。
親戚認定もだてではない。
家族や身内というのは、血は関係ないのだろう。
「ふふ」
二人のやり取りをおかしそうに笑ったヒソカに、二人の矛先が向かうのはすぐのことだった。
時間がたつにつれ、合格した受験生が増えていく。
まれに合格の扉をくぐった瞬間に倒れて死ぬものもいた。
ハンター試験はそれだけ過酷なものである。
制限時間まで、数分というところになった。さすがにもう受験生は来ないだろうと誰もが思っていた。
「きたネ☆」
「お、きたか」
『主人公補正ってしってる?TVで、いつも制限ぎりぎりに奇跡を引き起こすキャラクター』
ジャポントリオの察知能力が、一つの入り口に近づいてくる気配を察し、三人そろってそちらへ視線を向ける。
「ポンズは今からくる彼らが物語の主人公だとでも?◇」
『だって、そうじゃない。主人公は必ず最後の最後にどんでん返しをするじゃない』
「たしかに。爆破系ドラマとかだと、爆破ぎりぎりに解除されるの定番だしな。俺は、爆弾って1秒前に自動で止まるのが当たり前なんだと昔思っていて、それで痛い目にあったことがある」
「演出でしょあれ☆」
『TVだと演出かもしれないけど。ここは現実。
なら今からくるメンバーが本当にこの世界の主人公かもしれないわよ。なんならこのあとの試験、彼らだけは生き残ったりして』
「本当に制限時間ほとんど残ってないのに間に合うもんかね。これできたら本当にドラマの主人公みたいだな」
「君たちはテレビの見過ぎ☆」
『でも、今から誰か"くる"でしょ』
「くるな」
「多分ね◇」
『でしょ』
<あと1分>
その放送とともに扉が開く。
でてきたのはズタボロ状態の3人、クラピカ・キルア・ゴン。
そのメンバーのなかに、ヒソカが第二試験開始将来が期待できると連れてきた青年レオリオはいない。
<あと30秒です>
同じ扉から、レオリオと第一試験前に下剤入りのドリンクを配っていた男トンパが出てきた。
なぜ時間差で同じ扉からでてきたのか、理由を聞く者はいなかったが、これでメインメンバーが無事間に合ったのだった。
ポンズは「なるほど、あれがこの世界の主人公か」と、TVでよくみるギリギリに間に合う救助隊や警官らのこと思い浮かべ、あのメンバーには極力近寄らないようにしようと心を決めた。
そうして第三試験が終了した。
合格者は24名。