有り得ない偶然 Side1
++ HXH++



08.未来で×再会×ハンター試験
※時間軸はいろんなサイト様の情報を確認しましたがどれも数年のずれがあったため、正確なものとは2,3年の誤差がある可能性もあります。
なお、この世界のヒソカは、原作軸では23歳ということで。


「いやぁ〜、わりい。わりい」

そう言いながら気にもしていないように笑うジンを水に突っ込み、キレイに洗い流し、邪魔なヒゲをざくざく切って、服を着させた。
うちの子にするのと同じように、ぬれたままの髪をタオルでワシワシ拭き乾かす。
お前は手間のかかる子供か。

おかしくない?
ふつうは過去から来た自分こそがこの時代の人に気を使ってもらうのが、物語の定番じゃないのか。
そもそもなんでオレはこいつの面倒を見ているのだろう?と思わず首をかしげる。

まぁいいけど。


野生の山男を人間のジンにもどしたあと、ジンの携帯でネテロ会長に連絡をいれ、早速会うことが決まった。


「本当にか。…その姿、ひさしいの」
『そういえば、こっちのオレは死んでるんだったか。じゃぁ――「久しぶり」ネテロ会長』
「うむうむ」

「さて、まずは現状確認じゃな」
『それはオレこそ詳しく知りたい。そもそもこっちに飛ばされたばかりなんですけどね〜。ジンの方が詳しいかと』
「それは悪いと思ってる。どうも過去の俺達のせいで過去のが未来に飛ばされたらしい。
だけど俺が知ってるこいつは、若返った後24時間以内に戻ってきていて、その時に「そのカードには明確な時間指定を刻め」とぼやいていたことしか記憶にない。無傷で無事に帰ってきていたんだ。
その後、は本来の姿に戻って、俺達と数年一緒にバカやって過ごした。
っで、一昨年。会長も知ってのとおり、こいつは死んだ。既にこいつの死亡届は出ている状態。――っと、こういうわけだな」
「ほぉ〜。なるほどの。随分面白いことになっておるようじゃの」
『オレ的にはあんまりおもしろくはないがな』

オレ達は現在、ジンのアジトの一つで、のんびりとネテロさんが持参してきた日本茶を入れて飲んでいる。
土埃まみれでない小奇麗なジンと、少し洒落たテーブル、それに日本茶。この三つだからこそか、不似合いな組み合わせである。

そしてこんな違和感丸出しの似合わない現状が、未来だという。
たしかにジンはずいぶん大人びたが。
ネテロ会長に全く変化が見えない事実に若干引いた。

「もとから成長が止まっているような若造、しかも若返っているようなおぬしに言われたくないわい」
『心を読まないでください』
「ふん。顔に出ておるわ」


自分が死んだ後の未来の世界――けれどそんなおかしな状況にもかかわらず、恐怖はない。
それはここが、『黒筆 』という自分の生まれた世界の延長であるとわかっているからだ。
オレという存在のない平行世界や原作そのままの世界に飛ばされなかっただけ重畳である。
なによりこの転移は「帰れるめどがある」ことから、安心していられるのが一番の理由だろう。
ジンの話を総合するに、24時間以内に現状は打破されるようであるし、元の世界に戻ればチビなオレは無事にもとの姿にも戻れるようである。
なら、このまま会長らと会話をしていれば、時間が帰て帰れるということ。
だから安心して、現状にだらだらしていることができる。

ここが未来だというなら、《黒姫》がほどこした転移先のマーカーが見当たらないのも頷ける。
それと影への転移するためのマーカーの持続時間は長くはないため、数年前にオレが死んでいるのなら、すでにこの世界にオレがターゲットしていた指定位置の念は消えているだろう。
そもそも未来では行ったことがあっても過去のオレが行ったことがなければ、マーカーを認識できるはずもないだろうが。




――そして、あっけなくも240時間が流れた。




『ジン。“24時間以内で帰還した”んじゃなかったっけ?』
「は、ははは…」

240時間=10日。

乾いた笑いを浮かべる元凶をオレは冷めた目で見つめつつ、つい舌打ちをしたくなったのは言うまい。

ネテロ会長は時々席を空けてはいたが、まだオレがいることをきくなり時間を空けては会いに来てくれた。

ネテロ会長はのんびりと長い髭をなで、興味深そうにオレを見ているが、特にオレに異常は見当たらないようだ。
過去の存在だからと、よく物語にあるように「その対象の周囲だけ空間がゆがむ」などという事象でも起きているかと思いきや、本当にオレの周りにオーラの異常ひとつみあたらないらしい。

結論から言うと、オレはいまだ子供のままだ。
それも24時間なんかとっくに過ぎてしまっている。
一日ぐらいなら気楽でいられた。
しかしこうなってくるとオレはいつ戻れるのかわからなくなってくる。
だから過去に戻ったオレがジンに「そのカードには明確な時間指定を刻め」と念を押したのだろう。

こういう場合のセオリーでは、元の時間軸に戻らない限りオレは元の姿に戻れないんじゃないだろうか?
ジンも「戻ってきたから姿が戻った」と言っていたし、つまりこの時間軸にいる間はオレはチビのままということか。

オレの華麗な大人の姿を返せ!!

せめてもう一撃食らわすかと、念を発動させようとしたところで背後からやんわりとストップをかけられた。

「やめよ
『で、でもですね会長…』
「そやつを消されると困るのじゃよ」
「そういう理由?」


そうこうありまして、オレは「この世界にいる間、ハンターとして仕事をしてほしい」とネテロ会長に頼まれた。

「おぬしがいると、未確認生物やら幻獣がすぐにみつかるからの。ホッホッホ」
『笑い事じゃないし、こっちはいつも死にかけてるんですが』
「仲間とでも思われてるんじゃないか?」

くせなのかヒゲをなでながら笑う老人ネテロ会長と、悪気のかけら一つなくくったくなる笑うジンに、オレは憎しみの感情を向ける。
だってオレってば、UMAハンターとして名を上げてしまっているが、そんな怪しいハンターになりたかったわけじゃない。
オレはただの刺青彫師だ!!
なんなら美食ハンターになりたかった。
じゃなかったら、せめて幻獣ハンターと呼ばれたい。
ただし幻獣ハンターは、昔から語り継がれている目撃談のみの獣を捕獲するハンターのことなので、オレを襲ってくる獣たちとはことなるジャンルである。しいて言うなら、うちの一族を狩ろうとするならでてくるのはこの幻獣ハンターというわけである。
UMAハンターなんていやだ。
たとえUNAハンターが、科学的に存在を確認していない生物(UMA)の発見を専門としているちゃんとした職種の一つで、正規のハンター枠のことであっても、ゴロが悪すぎる。

『この時代のオレってナニハンターだったんです?』
「美食ハンター…の、はずじゃが、まぁUMAハンターと呼ばれることが多かったかの。新種発見しまくっとるしのうおぬし」
『不名誉!!』
「まぁ美食ハンターは食材のために人界未踏の地によく行くからなぁ。そこでの未確認生物との遭遇率が高いなら、そう呼ばれてもしかたないんじゃないか(笑)」
『理不尽!!!』

そこでふと思った。
オレってこの時代では死亡扱いされてなかったっけ?と。

『ハンターとして復帰するのはかまわないんですが。
むしろ死ぬ前のオレと今のオレでは年季が違うので、能力も劣ってると思うんですがいいんですか?
っで、すでに死んでいることになっているらしいけど。オレの戸籍ってありますか?
この時代ではオレは死人で。しかもハンター証なんか持ってないのに、ハンターとして働いていいの?ってか働けるの?』

「「……」」

『ああ、いわなくていいです。はぁ〜…』

オレの言葉に黙り込んだ二人を見て、なんだか頭が痛くなってきた。
しかたないから、ひとまず息抜きに食事でもしようとなり、(オレにとって)ここ1,2年で覚えた料理をふるまわうことになった。


そう、オレは料理を学んでいる!
いままでは生きるのに必死すぎて、料理に興味がなく、食べられればいいという思考で過ごしていたのだが、ちっちゃな我が子が町で料理を食べて「うちはどうしてこういうのじゃないの?」と言ってきたことがある。
なにが「こういうの」なのか、語彙力のない幼児に頑張って聞き出したところ、口の中がいつもと違ってウキウキするのだという。
息子が味がするという言葉さえ知らず、美味しいというのもしらず、味というものを理解していなかったのをこの時知った。
衝撃だった。
言われてみると、うちでは基本山で生存訓練をさせられるので野草や木の実、山でとれる動植物などがメインで、油とか持ち歩いたりはしても料理という料理はしていない。火で焼いたりはしたな。母も料理よりサバイバル料理が得意だし、父は味覚音痴というか俺と同じように生きるために食べているので食にこだわりはないらしく、調味料はほぼ使ったことなかった。
そこからは必死になって料理を学んだ。
そうして料理は、美味いだけでなく健康も考える素晴らしいものだと知った。

あるときでは店先にあったキラキラしたお菓子に興味を持った我が子の希望で、ガムを買ってあげた。

「ふしぎ!おいしい!」

ガムの食感に目を輝かせ、のびたりふくらむことにふしぎと笑うこども。飲み込んじゃいけないのに味がするのも不思議と言っていた。
ガムの食べ方を知らず、飲み込もうとした子を必死でとめ――この段階ではもういろんな意味で心が死んだ。

実家では雑草と肉と魚がメインで、味付けもなく。ましてや菓子なんて食べさせたことなかったのだ。そんな存在すっかり抜け落ちていたともいう。
それを思い知らされた時の、ダメ親を自覚した瞬間の絶望よ。

甘いって言葉を知らなかったヒソカに、いかに自分のというか実家の育児方針がやばいかを知った。

――ということがあってから、料理に目覚めたオレは、いかなるときでも、いかなる対象物でもおいしく食べれるようにと努力を始めた。
まず塩コショウ香辛料は常に持ち歩くようにしたこと。
我が子にはできるだけおいしい物を食べさせてやりたいと、ジャポンを出て大陸メインで仕事をするようになったこと。
それにより入れ墨師としてよりも美食ハンターの仕事を多く受けるようになった。

まぁ料理のプロと呼ぶにはまだまだの腕前ではあるだろう。
それでもそこらの料理経験ゼロのやつらよりはましなはずだ。

『一服しましょう。鍋とかどうですか会長』
「おお、それはいい」
!俺の分も!」
『ちょうどジンが狩ってきた獲物もあるし、怪魚でもくうか』
「・・・このメンツが腹を壊すとは思わんが、それはどこで捕った魚じゃ、ジンよ?」
「ん?えーっとどこだったかな」
『白身魚であることは間違いないし、この形態なら毒袋さえとれば安全に食えるのでご安心を』

この世界、魚といえど異形の姿が多いからなぁ。本当に見た目が毒々しくて怖すぎる。
だが、料理二年目の美食ハンターなオレの目が、こいつはうまいと言っている。
まぁ、おとといもこいつさばいたし、なんならジンにくわせたから、間違いなく大丈夫だよ(笑)

『はい、おまたせ〜』
「メインの魚たちがいないようじゃが」
『白身魚は硬くなりすぎないほうがいいので、あとから入れるのがいいんですよ』
「こだわるのぅ」
『作るからには美味いもんくわせるってきめてるんで』
「これが野草メインで料理の料の字さえ知らなかった人間の腕とは思えない」
「本当にのぉ」

『人外魔境の山育ちだったもので』
かりある。
『醤油と味のもともいいんだけど、こっちのタレもどうぞ。このタレがポン酢ていうんだけど、シークワーサーとか柚子とか柑橘物を入れるとさらにおいしいよ。ついでにいうと柚子ポン酢っていう単体調味料もしっかりジャポンでは売られてる。ポン酢は大根おろしとかとあうかな』
「ユズは俺も好きだぜ!あ、そのダイコンオロシっていうのこっちにもくれ」

『もみじおろしもあうよ。いるひとー?』
「赤いダイコン?なんだそれ!?」
『大根に穴をあけて赤唐辛子を差し込んで、目の細かいおろし器で唐辛子ごとをすりおろしたものだな。
柚子ポンズとは別で皿を用意するから待ってくれ』

「ほぉ。ダイコンの中に唐辛子とはのう。斬新な食べ物じゃ」

「ジャポンの、その食文化に全力を注ぐのなんなん?美味いんじゃがのう(もぐもぐ)」
「ああ、会長もそう思います?ジャポンの調味料と料理方法は本当にこだわってますよね」
「わし、このユズとポンズの組み合わせ好きじゃな」
「ん!この魚身、たれかけなくてもいける!」
『そりゃぁ、鍋事態に出しが入ってるからね、何もなくても味するでしょ。
オレ的にはやっぱりこのピリッと辛いモミジおろしのほうが好き』
の場合は、長い野草生活のせいで舌がマヒしてんじゃねぇの。それで刺激がある食べ物のほうが口に合うとか」
『それはあるだろうけど、その影響で味覚がくるってなくてよかったよ。実家以外で食べた料理にちゃんと味があったから、息子にもちゃんと美味いもんくわせてやれてるし』

それなー。とジンとネテロ会長二人から頷かれた。


それから、先程の話に戻り、この時間軸にいる間のオレの処遇について話し合った。

会長に聞いてみたところ、さすがに戸籍を戻すのは不可能らしい。

さらにいうと、オレの両親はもう死んでいるとのこと。
まず母がとある事件に巻き込まれた小さな子供を救って死に、その後を追って父が死んだ。

『あー…そういえばうちの一族“後追い派”だったか。そりゃぁしゃーないな。
番(ツガイ)が死んだら死ぬわ。
道場は?』
「言い方考えろよもう少し。 アトオイハとかツガイとか…本当におまえんち人の心捨ててるよなぁ」
『その辺はあれだ。そういう民族的習性と表現だな』
「そのへんはひとまずおいといて。
まず、道場だが、お前の父親によって生前手続きが済んでいて、とっくのむかしに門下生に譲られている。
つぎにお前の実家だが、今住んでいるやつはない…ぽいな?詳しくはしらないが、家と山は、お前の息子経由で親戚とやらが引き取ったことになっている。お前の墓は、その山の中だ。
お前の息子は、基本的に大陸で活動しているな。
悪い話ばかり耳に入るが、いいのかあれ?去年なんかは、お前の息子もハンター試験に参加していたが、試験官を半殺しにして失格になっている――っと、こんな感じか。お前の身の回りの話は」

ふむ。こうなると保証してくる親もいないわけで、今更戸籍とか戻しても意味がなさそうだ。
それに家族として認めるなら、紙の上であってもあの両親以外いやなので、戸籍は戻したくないなというのがオレの感覚だった。
二人はオレの言いたいことを理解してくれて、それならとハンター試験を受けるように言われた。

本来、すでにハンター資格保持者が、試験を受けることはできないはずなのだが…。
この狸ジジイは何もなかったような顔で飄々としている。

『…おい。ハンター協会の会長自らおきてを破ってんじゃねーですよ会長』
「相変わらず口が悪いのうお主」
「まぁ、おちつけって

ジンに宥められた。なんかそっちの方がショックだよ。
それはそうとして、オレのこっちでの生き方が呆然としていて話に加わっていない間に、目の前で勝手に決められていく。

「……というわけで、外見も違うし、この際とは別人としてハンター試験に参加するのがよさそうじゃな」
『というわけってなに!?』
「だから、流星街で育ったから戸籍がないってことで。お前、今年のハンター試験、名前を変えて出ろって話だろ」
『はぁ!?なんだよその突然なわけわかんないの?』
「わしがうまくやっておこうのう」
「ほら、喜べ。会長公認だ!」
『裏口入学かよ!?』
「いやいや、それは違う。試験は自力で受かってもらわねば資格はやれんしの」
『ハンター試験にはいかせてやるから、あとは自力で何とかしろとそういうことッスか。
まぁ、オレが死なない程度に頑張らせてもらいますよ。それしかこの世界で生きる道はないようですからね』
「そうしてもらえると助かる」
『あー。そうだ。かいちょー、念能力の使用はありすかね?じゃないと今、子供だし、オレ、試験合格する前に死にますよ?』
「うむ。普段はかまわぬが、〈念〉の存在は一般人にはばらさぬようにな。
あと、おぬしは本来はすでにプロハンターじゃ。受験生たちの多くとは実力が違いすぎる。未熟な受験生たちをむやみに落とすでないぞ」
『はいはい、了解ですよ』

「それで名前はどうするんじゃ?」
『ふつうにでいいでしょ』
「おぬし、自分が死んでいることわすれておらぬか」
『あ』
「ポンズでよくね?旨いしあれ!」
「ふむ。ポンズ=ユズでいいか」
『あれ。オレの意見は?ってか、それ人名じゃなくてさっきの飯の内容!!!』

死んでいるから偽名を名乗れといわれて、ネーミングセンスがないと評判のオレが頭を悩ませていたら、意気揚々とした二人に勝手に名前を付けられてしまった。
それさっき食べた鍋に合う好きな調味料の名前!!
まぁ、いいけど。

『じゃぁ、不満しかないですが、手続き頼めますか会長』
「ポンズ=ユズ…ふむ。ぶふっ!いや、うん。了解した」
『わらうなそこっ!自分で名付けておいて!!』

笑いやがった。

このときオレは、どうやってこいつらに仕返ししてやろうということだけだった。
他にも重要なことがあったきがするけど、忘れた。

さぁさ。ハンター試験のはじまりですよ。





……ん?
オレ、なんか忘れてないか?

『あ…』

今年はジンの息子が試験を受けるとか、どっかの野獣男が言っていたような…。

――マジかよ!?

しかもンの息子が原作の主人公だった気がする。
顔と名前と性格は忘れた。

こうしてはからずもオレは原作にものの見事に介入する羽目となった。
ええ!?オレの安楽人生はどこへ!?
原作に介入しない時間軸を満喫ししていたのに!!
ここだけの話、原作があったってことぐらいしか覚えてないので、介入とは言うが原作の内容を全く覚えてないんですが。
大丈夫これ?オレの安全本当に大丈夫?

これもなにもかも!ジン=フリークスを踏みつけたあの瞬間が原因に違いない。
あの始めの出会いの日、飯なんか食わせなければ良かった。
もっと足元をしっかり見ていればよかった。
これからは足元をしっかり見て生きよう。





+ + + + +





ジンを洗ったあとにネテロ会長をまじえて雑談をした。
それから10日たち、このまましばらく帰れそうもないならハンターになって活躍してくれとネテロ会長にお願いされ、その流れで、なぜかもう一度ハンター試験を受けることとなった哀れなオレです。

あれから死んだ人間だとばれないようにと、偽名をつけられ、変装をするよう指示を受けた。
目立つ色の髪は地毛とは真逆の色の青色に染められ、ハネ癖がなおせなかったので丸い帽子をかぶっておさえこみ、女もののピンクの衣装をきています。
ポンズという女性のできあがりである。

ほぼ、まんまオレのままですが、似合うと言われてもなんだか釈然としない。
別人への変装っていうか、もはやただの女装だよなこれ。

フリルのスカートとか渡されなかっただけましである。
まぁ、これから過酷なハンター試験なんてものに挑むので、スカートはさすがにやめたようだ。

え、胸?詰め物もしてないので平らなままですが、なにか?
でも絶壁と言われると、「今は女の子なのに!」と謎の乙女心がわき、なんかイラァっとする。
試験にゆとりがあったら、そのうちなにか詰めるか。

旅の支度をさせられて、ホォッホォッホォと笑うネテロ会長の飛行船で揺られて…途中でなぜかジンに気絶させられて、目が覚めたら、心配そうな顔をした知人がいた。

「大丈夫ですかさん」
『あー久しぶりマメちゃん。ってかここどこ?』
「ここは第一試験会場へ行くためのエレベータの中です」

「話は伺っています」と苦笑を浮かべる知人ことマーメン。

マーメン=ビーンズは、豆っぽいかおだちをした小柄な人で、ネテロ会長の秘書として長年仕えており、その信頼は厚く、重要な場面で任務を任される立場にあるらしい。
ハンター協会の各種事務処理や会議進行を取り仕切る実務担当者である。

オレはマメちゃんと呼んでいる。

その彼によると、オレは気絶させられた後、ジンによって運ばれ、ネテロ会長から「これから渡す荷物を受け取って試験会場に持っていてくれ」と言われていたマーメンが受け取ってくれたらしい。
荷物が人でびびったマーメンがきちんとジンから話を聞いているとのこと。
とはいえ、あのジンなので、軽く経緯を話してほっぽり出していったらしい。
おぃ!っと内心思ったオレは悪くない。

「これ、死んだはずのだけど、念能力の事件に巻き込まれて過去から飛ばされてきちゃったらしい(笑)
女装させて、偽名でハンター試験受けさせることにしたから。あとよろしく頼むな!」

なんて、なんて、軽く語るんだ。
マーメンがめっちゃ困惑気味である。

マーメンは会長の指示通りオレを試験会場へ運んでいた最中だったらしい。
この小さな身体でオレをここまで運んでくれたとか、まじいい人!
むしろ自分で歩くっていう選択肢があったと思うのですが、ジンはなぜオレを気絶させた?
逃げると思ったって?いやだな。そんなわけ…ないと思う。

さん、逃げの達人なので(苦笑)」
『ぐぅ…言い返せない!』

言いたいことが山のようにあったが、それを言うべき本人はここにはいない。
あと、《黒姫》がけっこうオートなところあるので、マーメンの言うことも信憑性高すぎて言い返せない。


周囲を見渡せばゴウンゴウンと音をたたて部屋そのものが下へと降りているのが分かる。
真ん中にはテーブルと席がある。
なるほど、たしかにエレベータのなかのようだ。
地下会場へは少し時間がかかるため、ここで食事をする人もいるためテーブルが用意されているのだとか。

「そうそう。会長から伝言です」
『え、なんか聞きたくない』
「だめですよ。ちゃんときいてください」
『マメちゃんの頼みを断れないと知ってあの爺』

だって、マーメン、がちでいいひとかつ誠実で優秀で、いっぱいおしごとしてるんだよ!
断れるわけないだろう!

「会長曰く「今は女の子だから言葉遣いは気を付けるんじゃぞ」とのことです」
『・・・・・・』

そこまでやるのかこの偽装は。
え。ハンター試験の間ずっと?

「いえ、"ポンズ"でいる間はずっとだそうですよ」

人前ではってことだな。
気を付けないと。

そもそも前世から若干口調に女らしさがなかったので、女口調に慣れてないんだが。

「頑張ってくださいさん!いえ、"ポンズ"さん!」
『が、がんば…がんばるわ』
「ぎこちないですが及第点だったと言っておきますね」
『手厳しい!』



そうこうしているうちに到着しました。
ハンター試験第1の会場。

ネテロ会長から書かせられたのは以下である。
・偽名を名乗ること。
・試験を受けたことがあることは言ってはいけない。
・念能力は一般人にばれないようになら使用を許可する。
・刀は没収(おぬしが手加減知らぬから、一般受験生への配慮のため)。
・過去の知人は混乱を招くため状況を明かすのはいいが、これから新しく知り合う者たちに自分の素性が分かる言動をしない。

「スケッチブックや紙の束より巻物状のほうが楽かなと。あとこちらを」
『あ、これ。オレの?そのわりには年季を感じる』
「ええ。こちらのあなたが亡くなる前までつかっていたものですよ」
『そっか・・・ありがとう』

渡されたのは、ずいぶん薄汚れた筆数種類の入った道具袋。
そして何も書かれていない無地の巻物。
基本のオレの能力は、絵を実体化させる能力であるため、事情を知っている会長が紙を用意してくれたらしい。
スケッチブックや半紙の束を持つよりよほどいい。

それらを旅道具のつまった袋の中にいれ、身だしなみを整え、首の鱗が視えないようにタートルネックの襟を確認。
鞄を肩にかけ、準備万端。

さいごにと、マーメンが服に一つのバッチをつけた。

「あなたは受験番号246番。ポンズです。
ご存知でしょうが、このバッジは見えるところにつけたままにしておいてくださいね」
『ま、必要に応じてな』
「そうですね。一応今のは定型文です」
『うん。しってる』

準備が終わると、扉の前に案内される。

「ここを開けたらもう会場です。私はここから先はお手伝いできません」
『ああ、もう十分だよ』

「おきをつけて」

マーメンに頷いて、行ってきます。と、扉に手をかけた。




扉の先は、地下空間になっていて、たくさんの人であふれていた。
コンクリで作られたやたらと広い空間。
窓はなく、天上をいくつものパイプが走っている。

ふと視線を感じ、そちらを見ると、パイプの上に気配を完全に立ったスーツ姿の紳士がいた。
試験官だろう。
その指がふいっと動く。
オーラが動き文字がかかれ、「念能力者は一般人に能力を気づかれないように」と、注意書き。

それに頷きで返し、試験官をみなかった振りをして、人ごみにまざる。



それからも来るのは、人、人、ひと、ひとひとひとひとひとひとひと…

男性率のほうが高いし、いざきた女性はなんかピリピリしている。
はなしかけるなんて和気あいあいとした雰囲気はない。
時間がたつごとにむさくるしさが増していく。
みんながみんな敵ですとばかりにライバル視していて、参加者はずーっと警戒して気を張っている。
正直なところ視線と気配がうっとうしい。あの試験官ぐらい気配を隠したり、消すすべを学んでほしいものだ。

人ゴミがいやでたまらないと思ったのは、人の少ない田舎育ちゆえか。
結果、どんどん奥の方へとオレはおしやられ、しまいにはあまりの空気の悪さに完全に具合が悪くなった。
そのまま壁にぶつかったので、その場でしゃがみこむと壁によりかかって膝を抱えてうずくまった。体育座りである。

そんなオレにたまに声をかけてくる人間もいる。

太った男が「君新人だろ?ナンバーいくつ?ジュースでもどう?」となれなれしく声をかけているが、 そのときには具合が悪くて意識が吹っ飛びそうだったから無視していたら、ブーブ―と文句を言いつつ去って行った。
しまった。
せっかくの話し相手を逃したか。とは思ったが、時すでに遅し。まぁいいかと諦める。


しばらくうずくまっていたら、なんとなく騒がしさが増した気がして目を開ける。
少しだけ眠っていたようだ。

『悲鳴?』

44番のバッジを付けた受験者が、ぶつかってきた58番の腕を消してしまったらしい。
44番が奇術師だからそういう芸当ができるのだとか。
意味が分からない。
まぁ、そういう意味不明なことは、きっと念能力者の仕業だろう。

ザワザワとしたざわめをぬって、その44番がいかにやばいやつか噂話が聞こえてくる。
いわく去年のハンター試験では、気に入らない試験官を半殺しにしたとか。20人の受験生を再起不能にしたとか。

なんだ。たかが20人。

むしろ念能力者の腕の一振りで百人ぐらい一瞬で殺せてしまえるのが、念能力者だ。
それにオレが経験してきたハンター試験では、ものによっては数百人が一瞬で脱落するし、合格者が一人だったなんてこともある。
それに奇妙キテレツ変人奇人は、ハンターをやっていればいくらでも遭遇した。
なんならオレには人外の親戚もいる。
このハンター試験会場にいる者たちがみな何かしらの達人たちであれ、本物のハンターたちに比べれば、たいしたことはない。

ので、オレ的には、その奇術師がいかにやばいやつだろうと気にもならなかった。
オレにしてみれば「たかが20人ボッチ」というわけである。

もう一度寝ようかなとおもっていれば、ふいに覚えのある“なにか”を感じた。
一気に思考がクリアになる。
顔を上げ、そのなにかが何であるかを探ろうと視線をさまよわす。

香水か?いや、ちがう。
物理的ではなく、もっと感覚的ななにか。
気配、オーラか。

空気の淀んだなかでもそれを浄化するような、そんな"守護"を意味するような…

『同族か!』

何かの正体は、同族の"守護"の気配だった。

どこかに"加護持ち"がいるのだ。
けれどその気配はあまりに薄く、人ごみの中では一瞬で判断ができない。
具合の悪さなどすぐに吹っ飛び、たくさんの人の間をぬって移動をこころみた。

次第に強くなる気配をおっていけば、赤い頭部が視界に入った。
背が高い奴らが多い中でも目立つ赤。
赤い髪とか、完全同族だろ!

『同族の気配がする〜!!』
「おっと◇」

嬉しくなって勢いのまま、同族の気配の強い赤毛の青年に抱き着いた。

そういえば、オレはいま女装していたな(ズボンだけど)。なのに抱き着いちゃった。
まぁいいか。

なんかネテロ会長も意味深に、「身内には事情を話していいぞ」と言ってたし。
同族って身内だよな。
どこのだれかわからないけど!

振り返った青年は、ほっぺに☆と雫のペイントをしていた。

鋭い感じの金色の目が印象的で。
左耳に黒い菱形の鱗の耳飾りが揺れている。
明らかに同族である。

つまりジャポン言語(日本語)が通じる。
周囲に聞かれても問題がないように、すぐに言葉を共通語から切り替える。

※以降[]…は日本語。


『うわー!赤髪に金色の目![同族だぁ!君"どこ"の子!?]』

"どこ"とは、我ら一族間の言い回しで、どこに人外の特徴が出ているかをさす。
それぐらいの意味はきっと分かるだろう。
なにせ彼の耳飾りからは、明らかに龍の加護の気配がしているのだから。

その加護からは、なんだか知っている者の気を感じるが、それが誰のものなのかまではいまいちわからない。

親戚はほぼあの宴会に参加するから顔見知りのはずだけど、目の前のどこかピエロじみた青年には覚えがない。
しいていうなら、うちの母に笑顔が似ている。

本当に誰の縁者か?

まさか頬釣り殺傷事件のあのひとの血筋?
それともあの歩く伝説の恋製造マシーンこと浮名流しの大叔父さんの血縁とか? いやぁ、あの大叔父の女癖の悪さと言ったらないけどさ。5年前にはあのひとのしりぬぐいをさせられて、脱ぎ捨てられたパンツのごとく…うえ。あの脱鱗はやばかった。散々な目に兄さんとあったし。

「それは東の民族言語だね◇
よくボクが知っているってわかったね[それで。ボクの髪と目が、キミの同族なのかい?]」

[特徴だよね。それに同族の気配がする。間違いないよ!同族にだけは事情を話していいって会長に許可もらってるから!おしゃべりつきあってよ]
[会長?なんのだい?]
[会長はハンター協会の会長のこと。
あ、同族の証が気になる?オレは首にあるよ!君は身体のどこかに特徴とか出てない派?]

[首…え、色々ちょっと待ってくれるかい!?]

[またない!オレは寂しがりやだ!
ねぇ、君はどこのうちの子?すごい身長高いねぇ。ってことは、大陸の血を継いでる?オレも大陸の血を継いではいたんだけど、ジャポンの血が濃くて、童顔認定くらちゃってかれこれ三十年。少しは大陸の血が濃く出ていればマシだったんだけど、母親の要素継げたの目の色だけだね]

人前なので見せるわけにはいかないけど、鱗がそこにありますよと伝えれば、青年は驚いたように目を見開いて一瞬固まる。
そのあとこちらの顔をじろじろと見つめて、何か言気づいたように目を見開く。
そっと青年の手が伸びて、髪をかき上げてくる。

[その耳飾り…]

何だと思っていれば、耳飾りが見えたようだ。
これはあれだ。物心つく前からしてたから、変装をしていてもとる気がしなかったんだよな。

そういえば、青年が付けてる耳飾りと似ているかもしれない。

青年の手が離れる。
その金色の瞳が、今まで自信満々だった青年に似合わないことに、少し戸惑ったように揺れる。

[…その、髪は?]
[あ!わすれていた。これじゃぁ同族証明になってなかったな。
オレ、今は死んでることになってて、ハンター試験を再度受けるために変装しろっていわれて。それで髪は染められた。地毛は赤色だな]

[死んだ。ああー、もう確定だね◇]

抱き着いてまくしたてていたオレを引きははがすと、ピエロっぽい青年は困ったように一瞬だけわらい、耳飾りをとってオレに見えるようにそれを手のひらの上にのせてみせてきた。

[同族判定はこれのせいかな☆]
[そう。それ]

[…この、耳飾りは――形見だよ]

[うん?君自信のを加工したんじゃないのか?]
[ちがうよ。ねぇ、本当にわからない?]

言われて、自分の髪の中に埋もれていた耳飾りを再度触れられ、ハッと気付く。
これ、似てるんじゃない。同じ作りだ。

そしてこの耳飾りがまとう気配は"しったもの"だ。

どうりで親近感があったわけだ。
あまりに身近すぎてきづかなかった。

[父の加護か!?]
[うん。ボクには"そういうの"はわからないけど、グランパの加護らしいねぇ]

黒い菱形の鱗は、オレの鱗と同じ形と色。
そう、似ているんじゃない。
オレの首にある鱗と全く同じものなのだ。


[――これは“貴方の”だ]


再び自分の耳に耳飾りをつけなおした青年を見上げて、呆然としてしまう。開いた口が塞がらないとはこのことだ。
どうやらこのピエロっぽい青年は、オレの息子のヒソカであるらしい。

腰ほどもなかった身長だったあの小さい子が、見上げるほど大きくなるとは。
オレが縮んでいるとはいえ、それをぬきにしても高身長だ。
しかもこんな美人に育って。
未来ってすごい。


きけば、オレが死んだときに形見分けとして、オレが兄と慕う保長と息子であるヒソカに分けられたという。龍の血をひかないただの人間である彼らは、物理的にも弱い部分があるからと。

オレの耳飾りは、オレの鱗に父が加護を与えたもの。
それを長年オレが付けていたことで、龍の加護がさらに染みついているとのこと。
無病息災。永寿嘉福。笑門来福――持ち主の幸せを願って込められた想い。
それが染みついているから、持ち主をまもってくれるだろう、と。

[ああ、それでひーちゃんが持ってたんだ]
[これはボクのだから、いまさら貴方に返してはやれないけどね]
[いいよ、持っていて。それはお前の幸せを願った想いがこめられたものだ]
[加護ってそういう?]
[そう。オーラって根本は強い想いのことなんだよ。それがこめられたオレたちの鱗は、きちんと想いにしたがって持ち主を守ろうとする]

それが龍の加護の正体だ。

[ふふ☆なんだかそれはうれしいね]



[ちゃんとご飯食べてた?]
[ボクが物心ついたころには、貴方は料理上手でね。貴方が死ぬまでおいしい物を食べさせてもらったよ]
[そう]





人ごみのど真ん中で話しているのもあれなので、壁際に移動して、ヒソカからはここ15年ほどなにをしていたのかをきいた。
オレが実験の影響で縮んだあげく、過去からきたことも説明した。
盛大にため息をつけられた。

[貴方の友人たちおかしすぎると思うよ]
[オレもそう思う]

ジンが「俺の息子も今期のハンター試験に参加してるから、俺のことは言うなよ」と言われているので、名前を伏せて「過去の友人が」というていで、そいつらに実験台にされたと話したら「どうして殺さなかったんだい」とヒソカにさも不思議そうに返された。
そこで即殺すという選択肢出ちゃうんだ。
さすがはあの我が母に面倒みられていた子である。
狂気がやばいね。
別いいけどさ。

[無理。11人の念能力者にかこまれてみろ。即捕縛されたわ。それに人質にお前たちがいた]
[なるほど◇逃げ足の達人も人質がいちゃぁさすがに無理だったんだね]
[そうなる]

このまま一緒にいては、贔屓してしまいそうなので、ばらけていくことにした。

[贔屓って、試験官でもないのに(笑)]
[そういえばそうだな]

[じゃぁ、またあとでね]
[ああ]


「ねぇ、ひとつ、いいかい?」
『うん?』

[パパは今、変装だけど、いちおういまは女の子だよ。それらしくも見えている。もう少し女らしくしようよ]
[突っ込むのはそこなの!?会長にも言われたんだよなー…慣れない]
[ボクのほうが可愛いと思うよ?]
[いや、言葉遣いねぇ。
でもあそこに民族衣装の女子いるけど、なんか仰々しい口調だし、オレのままの口調でも問題なくは…]
[ああ、404番。あの子は"彼"だよ☆]
[え]
[パパの童顔とどっこいどっこいだよね◇あっちは女顔なだけだよ]

[…よし。ここで別れよう!]
[最初からその予定だったけど、突然きりかえたねぇ☆404番に対抗意識でも沸いた?]

『ちがうからっ!!!!』

いや、だって女の子らしくってみんなが言うし。
ポンズでいる間は、だとばれるなとネテロ会長にも言われてるし。

そんな女言葉と態度でいるときに、身内にそばに居られてみろ。
恥ずかしいだろうが!!!!!!

そうして、脱兎のごとくヒソカのそばから離れたのだった。



そんなオレを面白そうに笑って見送ったヒソカが、その直後、別のだれかと話しているのは後ろを見ていなかったので気付かなかった。
まさかそれが、知人だとは知る由もないまま、オレのハンター試験は幕を開けた。





+ + + + +





〜Side 服部半蔵〜



俺の名は服部半蔵(ハットリハンゾウ)。
ジャポン出身。今年で18歳だ!
職業は忍者。

今回ハンター試験にきた。
そうしたらやばい奴がごろごろいた。
特に44番。
ぶつかった相手の腕を"消して"しまうなんて、やばすぎる。
周囲の話からも、やれ奇術師だ。快楽殺人鬼だ。といろんなささやきが聞こえてくるほどだ。
俺だってだてに忍者をやっているわけではない。
相手の実力が自分よりもはるかに上なのは承知済みだ。
あいつがいかにやばいやつで、近寄ったら危険なのはわかる。

わかるのだが。
同時に・・・

「なぁ、あんた。会ったことないか?」

思わず声をかけずにはいられなかった。

断じていうが、これは決してナンパではない。
どうしても、コウ、ナントイウカ…親近感があったのだ。

首をひねり声をかければ、赤い髪のあいつは星型のペイントをした独特の顔をこちらに向け、不思議そうに首をかしげた。

「それは、ないね☆」

金色の目。
狐のような細い目がさらに細められ弧を描く。
まるで笑顔を張り付けたような顔。

いや、うん。凄い親近感しかない。

「ないか。うーん、ないか。
そっか。そうだよな。わるかったな。なんか昔から知ってるやつのような気がしてな」
「ふ〜ん◇奇遇だね。ボクもそう思った。けど、会ったことはないはずだ」
「だよな」
「ボクの記憶力はかなりいいよ」
「なら、なんでだ?」
「さぁ?」

なんで俺がこんな奴と…と思うのだが、なぜかヒソカと一緒になって互いに不思議そうに首をかしげてしまった。

「いや、まて!"赤毛"に"金目"だとぉぉぉ!!!!!!!」
「うんん?いまさら?」

ピエロのようなおかしな恰好といい、目立つ赤毛といい見覚えはない。
知り合いだったらいやだなと思うし、さっきすれ違っただけの奴の腕を楽しそうに切っているのも見た。
お近づきにはなりたくないタイプだ。

だが、その髪!その目!
しまいにはその片耳の耳飾りだ!!
凄い見覚えがある!
否、見覚えしかない!

「"同族"か!」

師範の!

「ああ、なるほど◇」
「この反応。明らかに身内だよこれ!!!」

「ほっぺ重症事件!」
「ボクは回避したよ」
「師範の年齢不詳の件!」
「もう三桁だって」
「"どこ"にある?」
「ボクはどこにもない」

なんと!
前後のないあいまいな単語ばかりなのに、すべてこたえられるなんて!
鱗や人外の特徴の位置が"どこ"にあるかまで言えるとは!

これは間違いなく師範の同族だ。

なるほど。
あんな山で、あんな師範とあの奥方に囲まれて育てば、そりゃぁ殺人鬼にもなるよなぁ。
思わず目の前の奇抜な恰好も強さも納得できてしまった。

苦労しただろうなぁこいつ。だってあのやばすぎる山で育つなんて。

「同情はやめてくれるかい◇殺したくなるだろう☆」
「ああ、わるい!おまえ、よくあそこで生き抜けたなぁって!」
「なぁに、あれくらい庭だよ☆」
「"あれ"が庭か」
「庭だね」

気配をどれだけ殺しても襲い掛かってくる肉食獣とか、あれが跋扈する山が…庭。
さすが師範の縁者。

「師範て呼ぶってことは。君は道場の門下生かい?」
「父共にそうだ」
「それは、あのほっぺの洗礼も受けるわけだね◇ご愁傷様」
「死ぬかと思った覚えはある」

「にしても、まさか。こんな場所で同郷がいるとはおもわなかったぜ」
「本当にね◇」


俺は幼いころ、父が通っていた道場に入れられていた。
「父のような立派な忍者になりたいのに!」と駄々をこねたが、「まずは人体の急所を知り尽くせ。そして体感を鍛え、殺気になれろ」「我ら忍びの相手は基本は侍。敵を知っていて損はない」と、その道場に放り込まれたのだ。
そこでは望んでいた忍術は教わらなかったが、かわりに生き物を殺すことの覚悟を心身にたたきつけられた。
生き物を殺すということは、あの肉を絶つ感触になれろということ。
殺すということは、自分も殺される覚悟を持てということだ。

俺はあの山での修行でそれを学んだ。

それらを教えてくれた道場の師範の髪の色と目が、目の前の44番に似ているのだ。
ついでにいうと、44番のこの笑顔の具合が、師範の奥方にそっくりで。
あの二人を掛け合わせたような存在に恐ろしさを感じ、ぅひぃー!っと背筋に一気に悪寒が走り抜けた。

あの道場は、少しなじむと、すぐ人外魔境においでませ〜させられる。
師範のご家族の宴会に連れていかれるのも、山に連れていかれるのもそう!

"同族"という単語も、門下生になっていくばくかの頃に連れていかれた師範の一族の宴会のときに学んだ。

「それで?"どこ"の子だよ、あんた」
「"首の"子だよ」

「ふふ。合言葉になってるのかな?驚いたことに、さっきも同じ言葉を聞いたばかりだよ」
「さっき?まさかこの会場にもう一人いるのか」
「いるね。"首のひと"だよ」
「まじか!?」

首に鱗か人外の特徴が出ている者…そんなひといたかな?
道場を出て本格的に忍者の修行を始めてからは、あの宴に参加してないし、あの一族には会ってないから、記憶が怪しいが。
たしか師範は、脇腹に鱗がある。
そういえば、その息子さんが首に鱗があるとかないとか言ってたか。

あれ?でも。師範の息子さんて、亡くなってなかったけ?
俺、形見分けとかもらったよな。
そもそもその人って、すでにプロのハンターだったはず。
それが今ここにいる?
どういうこった?

「あの人のことは…んー(*^-^*)めんどくさい☆」
「いやいや、ニッコリ笑ってないで説明してくれよ!」
「“死んでなかった”とでも、そう思っておけば今は十分だよ」
「そういうもんか?」

頷かれてしまった。説明がめんどいって何?
なんか意味深だけど、話してくれそうもないので、気にしないことにしておく。
そもそも龍のひとたちに、ただの人間の常識など通用しないのだ。
聞き出すのをあきらめる代わりに、大きなため息が出たのは許してほしい。

「そういう君は"どこ"の子?」

ニコリとあの狐のような笑みで問われる。
質問をまんま同じ文で返さたので、同じ言い回しで返答する。

「今の会話で言うなら、"首の兄"の子ってところか」

首に鱗のあるのは、師範の息子さん。
息子さんは、俺の親父の弟弟子だ。

あのひとの首を直接見たことなかったから、一瞬"首に鱗のあるひと"とあの人が繋がらなかった。
なぜなら、あの人はいつも首を隠すように襟巻をしていたからだ。
大陸によく出かけるため「プロハンターに魔獣と思われて狩られたくない」からと、いつも首を隠していた。
俺的にはあの襟巻ががかっこよくみえて、まねっこしたものだ。いまだって俺も赤い襟巻してるの、あのひとがきっかけだ。
あれ、首に鱗があったから隠してたのか!そう意味だって、いままできづかなかった。ただカッコイイからしてるとばかり。なにせ当時はガキだからしょうがないよな。

赤毛が見事なあの人は、親父を「兄さん」ってよんでいたらから、当初俺は彼が本当に親父の弟だと思っていて、「叔父さん」「叔父さん」って呼んでついて回った記憶がある。
ぶっちゃけ最近まで本当にそうだと思っていた。

今も呼び方は変わってねぇ。

つまり"首の"子ってことは――

「キミ、首兄の?」
「お前が、首の?」


どうやら向こうも俺と同じタイミングで、なにかに思い当たったようだ。


「「なるほど」」


相手がだれで、なぜ親近感があるのか、同時に結論が出たらしく、声が面白いほど揃った。


親父はよくさんの話をしていた。
組太刀をすると髪をねらってくるので剃髪にしたとか、髭を伸ばせば動脈ごと髭をかりに来るとか。
さんの親戚の龍の人たちが陽気すぎてスキンシップがやばいとか。

その会話を思い出したのと、「叔父さん」と呼んでは追いかけていた幼少期のなついていた記憶が一気になだれ込んでくる。

もしかすると44番も同じだったのかもしれない。

どうせそっちの親もうちの親父のことなんか言ってたんだろう。
44番もそれをは同じらしく、納得したような顔をしていた。

「あんたさんとこの」「君、保長の?」

また声が被った。
そして互いの口から出たのは、互いの父親の名前。

これはもう決定だな。


「「ああ、なるほどね」」


どうりで互いにはじめてあった気がしないわけだ。
なぜか湧いた親近感は、どうやら互いの親から、互いの親の特徴をしっかり聞かされていたからのようだった。


「ボクはヒソカ。改めてよろしく。今の話の流れで言うと、君のイトコ的な?」


イトコかよぉ!!!!
イトコだった!!

血は繋がってないがな。
なんか立場的に、そのポジションってだけだ。

「あ、おれは服部半蔵。名乗り遅れてすまない!」

あと、俺達会ったことあったわな。

「そうだね☆ああ、“あの子”か。むかしは小さかったのにねぇ」
「しってる!しってるからやめてくれ!!詳細は言ってくれるなぁ!!!」
「君のおしめをかえたのはボクなのに☆」
「その辺はまったくもって微塵も覚えていないし!お前も忘れてくれていい!!!」

物心つく前の赤ん坊時代のウンヌンなんて、はずかしい!黒歴史ってやつだろ。

「そういうわりには、一時期師範の家というか叔父さんに俺はあづけられてたが、お前いなかっただろうが!」
「その頃には家じゃなくて、ボク大陸のほうを旅していたかな。そもそもボク、グランマ寄りの性質が強くて、剣術は習ったことないんだよねぇ。顔を合わせたのは、君が赤ん坊の時ぐらいじゃないかな」

本当にこいつが俺のオムツかえてただとぉ!!

「そこについては感謝する」
「とはいえ、ボクもさすがに5,6歳より前の記憶はないよ☆かまかけただけ◇」
「は、はは…それはよかった」

「それにしても君が半蔵かぁ。聞いてた容姿とそっくりでびっくりしたよ☆保長にそっくりだねぇ」
「ああ、それは俺も思った。お前こそ、親父の言葉通り、見事な赤毛だな」
「次は染めて青にでもしようと思ってたんだ☆」
「もったいねーな」
「ちょっとした気分転換かな◇」


そういえばと、思い出して、首にかけていた首飾りを引っ張り出してヒソカに見せる。
ヒソカの片耳でゆれていた、見覚えがありすぎる耳飾りだ。
それとまったく同じ形の黒い鱗が、細い鎖につけられキラキラと輝きを放って揺れている。
“首のひと”こと、叔父さんの形見だという“龍の鱗”だ。

「親父から、加護があるから持っておけって言われてて。半分はお前が持ってたんだな。お前に返した方がいいか?」
「いや、君が持っていた方がいいかな◇
本人曰く、それはまがい物じゃなくて本当に加護があるそうだよ」
「わかった」
「お互い、すっかり大人になったつもりなのに、まだ守られてるね〜☆」
「親父たちからしたら、俺らはいつまでも子供なんだろうさ」

そんなわけで、思いもよらず、関わりたくないNo1と思っていたはずの相手と会話が弾んでしまった。
そのまま予想外の相手と、試験開始のベルが鳴る間近まで世間話をしていた。

どちらの親も互いのことばかり、面白おかしく子供に告げ口しているようだ。

「あの二人は〜。本人が側にいないからって好き勝手言ってくれてるね◇後で殺しに行こうかな」
「どこの親もそんなもんかね」
「そういうもんじゃないかな☆」
「ところで、叔父さんって殺せるのか?」
「どうだろう?ゾルディックもお手上げだって」
「あ〜‥…」

真っ赤な男の破天荒具合をおもい出し、遠い目をした男二人が完成した。





しばらくして。
人も混み始めたこともあり、ここで一時解散ということになった。
どうやらヒソカは気になる受験者がいるみたいで、そちらに行きたいのだと言う。

「そんじゃぁ、とりあえず武運を祈るよ。一緒に受かろうぜ」
「ボクがこう言うことはめったにないんだけど。――とりあえず☆君も頑張ればいいよ◇」
「ああ。サンキューヒソカ」
「ん」

そしてヒソカは、あの仮面のような狐のような笑顔を濃くして人ごみに紛れていった。






一次試験が始まり、全員がサトツというスーツ姿の試験官をおいかけて走り出す。
二次試験会場まで彼についていけたものだけが、一次試験通過となる。
場所や到着時刻については語らず、ひたすらついていく試験だった。

どれだけ走ったのか。まだ終わりはないのか。
何も告げられないまま、薄暗い通路をひたすら走っていく。

「これは精神、体力ともにくるわ」

3時間で40km。
4〜5時間で60Km。脱落者は0名。
約6時間で、80Km。脱落者が1名。
そこからは長い長い登り階段が続いた。
道中日付をまたいだようで、一度だけ休憩が入った。

翌日には、チラチラ倒れる者がみえた。



同郷のあの"首の"叔父さんも参加しているというが、いまだにヒソカのような赤毛は視界に入らない。
叔父さんに久しぶりに会いたいが、本当にこのハンター試験に参加しているのだろうか。
もしかして叔父さんはとうに脱落していたりするのだろうか。
そもそも親父と五歳しか変わらないんだ。そこそこいい歳だし、年齢的にこの強行軍はきついかもしれない。
俺あたりはあの師範の裏山で幼少期から鍛えられているし、その後は忍修行でずっと訓練漬けだったのでので、足場が悪かろうと、暗闇だろうと、魔獣がいようが問題ないし、まだまだ体力もあるので途中でダウンするようなことはないだろう。
体力だけならここにいるやつより負けねぇ自信はある。
目立つピエロ姿のヒソカも剣術は習ってはいなかったとはいえ、体力はあるようだ。
あの赤毛が目印になって視界に入るので、彼もまだ試験には落ちていないことが分かる。

階段を登っている途中、うつらうつらと眠そうにしている黄色い帽子の青い髪の少女がいた。
疲れたというよりは、ただ眠いだけのようだ。
筋肉質でもないし、ずいぶんと小柄だ。到底体力があるようには見えないが、汗一つかいてないところからして、なんとなく師範の奥方の風花さんを彷彿とさせる。
風花さん曰く、プロハンターなら、体力温存の特殊な技を覚えられるのだという。
もしかすると青い髪の彼女は、風花さんの知っているような何かを会得しているのかもしれない。

それは試験官のプロハンターも同じ。
あれだけ走り続けても汗一つかかないのか。プロハンターってやっぱりすげぇ!

「・・・・・」
『・・・・・』

眠そうでウトウトと首が落ちたり上がったりしている青い髪の少女のもとに、ヒソカが近寄って何か声をかけていた。
少し距離がありすぎて聞こえなかったが、何回かやりとをした後、ヒソカが米俵を担ぐように少女を乱暴に持ち上げて、走り出す。

「あいつが人に親切にするとかどういう気まぐれだ?」

少しの間しか話はしていないが、だいたいの性質はわかっている。
変態的に戦い中毒で、かつ、すぐ下半身と連結する快楽殺人鬼だ。
それがなぜ?

それはオレ以外の受験生たちも思ったようで、一瞬で周囲がざわつく。
一部ではヒソカが少女を誘拐したとか、まさかの恋人説まで!?または、次の休憩で食べるのだとか、殺すのだとか、何かに生贄にするのだとか、酷い言われようだった。

言っているやつの気持ちもわからなくはない。
なにせ相手は変態殺人鬼奇術師ヒソカだ。

だが、変なことを言った奴ら、全員よく見ろ。
肩の上の少女、ガチで爆睡してるぞ。それは安心しきったように。

本当にどういうこっちゃ?

結局そのまま頭に?を浮かべたまま、俺は階段を上り続けることとなったのだった。










半「おま、なにお子様誘拐してんだよ」
ヒ「誘拐じゃないさ☆半蔵、これが噂の君のパパの弟弟子ってやつだよ◇」
半「はぁ?』
『やぁ半蔵。大きくなったなぁ〜。そして保長におとらずの見事な禿だな」
半「あー、なんかわかるわ。あんたがさんかぁ。よろしくな」
『よろしく〜』

半「って、ちょっとまていっ!弟弟子って、あんた師範の息子さんだろ!その髪の色どうした!!」
『染められた』
半「なんでだよ!」
『いや、ハンター試験受けるため』
半「それこそなんで!?」
ヒ「半蔵うるさい」

『はっはっは。半蔵はずいぶん元気に育ったなぁ〜。まぁ赤ん坊の頃もよく泣いてたしおなじか』
半「いやいや!もう十分育ってるからな俺!?」

半「そもそも死んだって聞いてるけど。あと、なんか叔父さん、縮んだというか若返ってないか?」

『おじさん。そっかぁ未来の俺はそう呼ばれてるのか。ちょっとくるね。まぁ、それでいいや。保長とは兄弟のように育ったしね。
そう。こっちのオレは死んでるけど、ちょっと過去から飛ばされて』
半「あーはい、なるほど。え?過去?
うーむ…まぁ、そういうこともあるか。師範の一族があれなんで。いや、もう妖怪じゃんおたくら!いまさらお化けになって戻ってこようが、こ、怖くないぜ!!」
『そう言いながら震えるのやめろ。お化けじゃないから。生身だから!』

ヒ「くっくっく(笑)☆」
『笑ってないでヒソカ!半蔵の誤解といてよ!』
ヒ「え、むり☆」
半「ヒソカがとめられないくらいやばいのか!?やはり叔父さんはもう幽霊!?」

『ちょっとぉ!!その謎な場所に猪突猛進する思考回路やめて!』

ヒ「(笑)」






←BackUTOPUNext→