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15. 奇跡の海(中) |
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side リース 「うるさい」 そう低い声が聞こえて振り返ると、ギン!とした鋭い目つきのお方。 鷹のような鋭い目が、さっさと降りろと暗に語っていて、落下地点にいたお兄さんの腹の上にオレは不時着した。 「ご、ごめんなさい!!」 サイクロンの影響で空から落下中だったオレは、側にいた巨大生物――海王類と一緒に海に向かっている最中だった。 だけどオレは悪魔の実の能力者。このままでは海に嫌われたオレは溺れて死んでしまう。 とりあえず海王類の背中に張り付いて、こいつが海に落ちたら足場の代わりにするつもりでいた。 それができず見知らぬ人の腹の上に落ちたのは、落下中に突如下から吹いた鋭い風の力で巨大生物が消えたからだ。 少し時間を戻そう。 まずオレは、(誰にも言ってないけど)能力者である。 悪魔の実の能力があるから、あのくらいのサイクロンや風では死なない。 ただし、それが“オレ一人だけ”であればということだ。 他の船員達はそうもいかないだろう。 元来、オレは誰かと喧嘩するのも誰かが傷つくのも嫌いだ。死なんか目のあたりにしたら、オレが死にたくなるぐらいもっと嫌いだ。 だから船が風に飲み込まれた瞬間、とっさにオレは能力を使った。 いろんなものが巻き込まれた風のおかげで周囲が何も見えないのをいいことに、生き物の気配のする方の空気を操作して、“それら”の周囲に分厚い空気の壁を作る。 どれが人間かなんて考えている余裕はなかったから、“生きている”とオレが感じたものだけという大雑把なことをした。 風の渦から“それら”を守った後はよくわからない。 たぶん生きているとは思うけど、風の威力が弱まったところで、“それら”を空気の壁ごと弾き飛ばしたあとのことまで保障はできない。 問題はオレだった。子供ならではの身体は、他の者より軽すぎたのか、みんなからかなり離されて吹き飛び、自力ではサイクロンの渦から外に出る事ができなかった。 悪魔の実の能力を使って陸地か船を見つけてそこへ降りるつもりでいたが、それもあの視界では不可能だった。 だけどそこはさすがグランドラインのサイクロンというべきか。風の渦の間からはそうそうお目にかかれないようなひたすらばかでかく凶暴そうな巨大生物――海王類まで吹き飛ばされていた。 とにかくふきとばされ続けていると、やがてサイクロンは自然に消滅し、巻き込まれていたオレたちは必然的に落下する。 そうして一緒に落ちていたはずの海王類にまたどこかに吹き飛ばされないようにしがみついて、海面着地を待っていた。 しかし衝撃は全身にではなく、下から風と共に訪れた。 ゴゥ!っと風のうなり声が聞こえたかと思った瞬間、突如真下からふいてきた鋭い風がパシュッ!と小気味良い音を立てて海王類を腹の部分から真っ二つにしてしまった。 海王類は気絶したまま死んでしまったので、痛みもなかっただろう。悲鳴一つなく上半身と下半身が分かれていく。 オレはそのときの風圧でしがみついていた手が滑って離れ、また宙に投げ出されていた。 どうしてこうなった!?とか叫びたいが、まずは自分の身を守らなくてはいけない。 このまま海に落ちるのだけはカンベンと、能力で空気を操作して、落ちる速度をオレの周囲だけ緩やかにする。 重力の影響と重さのせいで、海王類はさきにおちていく。 そうして二つに分かれた海王類のちょうど真ん中。オレの落下位置に、点のような黒ものが見えたのに気付いた。 もしかしてさっきの風はあそこからか? 徐々にそれが小船だとわかる。 本当に小船だった。しかも湖でいちゃいちゃデートするようなそんな小さな漁船以下のサイズしかない船。 よくそんなんで海を越えられるナとか思っていると、視界にとまった『漆黒』。 そこで黒くて大きな十字の剣を掲げてたたずんでいた男――ああ、なんてこったどうみても【鷹の目】じゃん――に突撃するような形で落下した。 それは見事なまでにクリーンヒットした。 思いっきり驚きに目を見張って固まった目の鋭い男,ジュラキュール・ミホークを踏み潰してオレの落下は止まる。 なんか【鷹の目】が物凄く驚いたような顔をしてオレをよけるのも忘れて踏み潰されていたとか、そのまま船の上に尻餅ついた【鷹の目】がいたとか・・・そういうのは、みてない。 うん。みてないふりだけど。 そんな某週間○ャンプ愛読者達の夢も希望も何もを壊すようでいて、彼の周知を煽るようなこと。 してない!見てないんだおれはぁーーー!! そう、オレは何も見てない。何もしてない!!そう暗示をかけて気合でスルーした。 むしろみてはいけないものを見た気がしてしまい、慌てて周囲へと視線を向け、場所を確認しようとして―― オレの目玉は落ちんばかりにひらき、あごも閉じられないほど驚くものが視界に止まった。 この小船を覆うような大きな影が海におちている。 頭上には大きな島が七つほど連なって浮いている。 空島とよばれる浮く島だ。 こんなものがあるのはグランドラインだけだ。 「オレ、ついてね〜!!!まじでオレなにかした!?ここどこよ!?」 浮かぶ島ってことは、グランドライン。 オレはグランドラインでない【楽園】北の海に向かっていたはずだが、これはどうして、とんでもないところにきてしまったようだ。 思わず座布団代わりにしてしまっている人物のことも忘れて頭を抱えて叫んだ。 「うるさい」 そうして冒頭に戻る―――っと、いうわけだ。 ふっ。と、この現状を鼻で笑って、視線を遠くに向けたりして、すべてを無視できたらどれだけすばらしいだろうか。 視線さえそらすことができず、ただいまオレは、狭い船でミホークに黒い十字の剣をつきつけられにらまれている。 ああ。もうこの時には【夜】を持っていたのですねミホークさん。 そんな史実、実地で知りたくなかったよ!! ちなみにオレはというと、戦えるとしても下準備バッチリしたあとに罠とかはったりする戦いがモットーだし、今は武器一つお玉ひとつなく、未開発の悪魔の実の能力しか身を守るすべがない。 覇気?そんなもんあるわけないだろ!! 逃げ足の速さだけが取柄でも、ここは狭い船の上。 だめじゃんオレェ!!!!!? 自分は戦力になりはしない。気配が人より読めるだけの逃げ足の早だけの自分は所詮一般人だ。 そんなオレがこの状況で平然としていられるはずもなく、鷹の目といわれるだけあるあの鋭い目ににらまれればガタブルものだ。 や。ごめん。実はそこまでガタブルでもない・・・かも。 なにぜ日々サカズキさんがじいちゃんに向ける殺気とか、センゴクさんの静かなる殺気とか、オレのファンだとほざく兵隊どもの熱烈にして異様な殺気めいた意気込みとか、悲しいことに、その余波を浴びまくって生活しているせいか、殺気には慣れてるから結構平気なんだよね。 それでも刀が喉元ちらつかされてるとさすがにオレだって泣きたい。 どうせワンピキャラと会うならこんな顔が怖い人じゃないほうが良かった!!せめてうちの弟ズなみに可愛らしい男の子がいい!!おっさんこえー!ってか瞬きしろよ。よけいこえぇっての。 そもそも現状そのものがおかしいよね。 サイクロンに巻き込まれることも、それで無傷で生きてることも・・・ってそれはともかく。 もともとオレは『北の海』にいるドレイクさんに会いに行くはずだったんだ。 つまり今頃はグランドラインを越えて、『楽園』にてのんびり静養しつつ、まったり普通の人間の速度(マリンフォードの将校たちの指導が普通であるはずがない)で身体を鍛える――と、まぁ、そういう予定だった。 それがどこをどう間違ったか、まだグランドラインにいて。 むしろグランドラインのさらに奥にでも入り込んでしまったようで、ドーン!と馬鹿でかい空島が目の前の大空を占拠していたりする。 そして横には、オレを救ってくれたのかそうでないのかワカラナイ立ち位置となった“鷹の目”ジュラキュール・ミホーク氏が、物騒なものを突きつけてきてくれちゃってるわけでして。 かの有名にして危険な剣豪。そんなひとになんで真正面から殺気を向けられなければいけないんだろうねオレ。 せめてドレイクさんに会ったあとか、オレが六式の一つや二つ使えるようになってから、こういう有名どころとはあいたかった。 むしろ会いたくなかった。 だって、オレ強くなんかないからね!! そもそも後の七武海にして世界的な剣豪と名を轟かせるようなやつに、鍛えたからといってオレなんかが勝てるとは到底思えない。 それがすでに【夜】なんて名刀持っていたらなおさらだ。 っで。まずはこの今にも首をはねられそうな『コレ』ね。 とりあえずは―― 「さきほどはもうしわけありませんでした!!」 秘儀、日本伝統の究極奥義。ジャンピング土下座!! それはもうプライドとか醜態とか恥とか一切関係なく、ギリギリラインでミホークの刃を交わしてスライディングする勢いで、額を船底にこすり付けるようにとにかく謝った。 だって、不可抗力とはいえ、思いっきり踏んづけたし。腹に乗ったし。無許可乗船しちゃったし・・・いろいろとしでかしてるから当然だ。 げんにオレが土下座するその寸前まで鷹の目の手が刀を握っていて、その刃先はオレの喉元数センチという状態だった。 はっきりいってこれにはもう気が気ではなかった。 なのでオレの土下座に一瞬手が緩んで刀が喉元から離れた隙に、自分が誰で、なぜここにいるのか、サイクロンでとばされたこともすべてはなした。 それでやっと刀から手を離してくれたのだった。 それからこれからのことを考えた。 そもそもオレがここにいるのは、はちゃめちゃな海軍(主にじいちゃん)から逃げたくてのこう同だ。 ならばいっそ、このまま死んだとか記憶喪失ということにしてミホークさんにすがるか。 そんでもって、海軍から遠ざかるのも手かもしれない。 まぁ、まずは周囲がまるっとぐるっとすべてが海なので、そこには落ちないようにするのが一番常用事項だ。 能力者って面倒くさい。 まずは―― 「ちかくのまちまでのせてください!おねがします!!」 近くの【町】でよろしく。 【島】はやめてよ。 そこが食べ物も獲物もいないような1mしかないような無人島だったら困るからね。 町に着けば人がいる。 そうしたらだれかにむかえにきてもらうさ! その場合はしかたないので海軍本部へちゃんと連絡するよ。 逃げずに戻るよ。 だから 「お願いします!!」 本日二度目の土下座をした。 そんなオレに鷹の目が何かを言おうと口を開きかけ ぷるるるるぅ〜 「ん?」 「・・・・・・」 ぷるるるるるるる ぷるるる 「「・・・・・・・」」 「なにか、持っていないか?」 「え?なにか?って、ああああああああ!?」 突然鳴り響いた電話音に、思わず2人で首をかしげていたが、ふいに投げかえられた言葉に、あるものを思い出した。 窓からの脱走のときおつるさんにもたされた伝電虫。 オレは慌てて懐を探り、そこにいたカタツムリのような生き物をとりだし、背につけられた受話器を外す。 それと同時にデンデン虫は目を開き、“おつるさん”の口調で語りだす。 『よかった。つながったようだね』 「おつるさん!?」 『サイクロンにあったって連絡を受けたんだ。あんた無事かい?』 「おつるさん!オレはなんとか無事です。ほかのかたは?」 『ああ、それが奇跡的に全員助かったようでね。きせきというか・・・まぁ、ヤボなことはいわないけどねぇ。 あとはお前だけがみあたらないと報告をうけたんだ。いまどこにいるんだい?』 「いま?えーっと・・・」 そんなもんしるか。 町に行く前に取れた連絡に涙が出そうになりつつ、今の状況を思い知らされるような問いに、思わず空に浮かぶ島を見上げてしまう。 「グランドラインの―――――諸島近海だ」 ひとり思考が脱線して、そのまま黄昏モードに入ろうとしていた矢先、横から救いの手が差し伸べられた。 それに驚いて振り返ると、デンデン虫がちょっとした表情を浮かべていた。 『おや。その声は鷹の目の坊やだね。うちの子をたすけてくれたってのはあんたかい?』 「たまたまだ」 『ああ、そうかい。 それとリース。ドレイクは北の海にいるからね。あんたをむかえにいくとかはできないよ。だからといってこのまま帰ってくると、しばらくは本部に缶詰だからね。まだ帰ってくんじゃないよ』 「あ、そっか。じゃぁ、オレの休暇取りやめ?」 『いんや。そうさね。どうせなら、そのまま鷹の目。あんたそのこをしばらく面倒見てくれないかね?』 「断る」 「即答ですか!?」 『かといってお前の休暇はドレイクのもとにいき、きたえるという名目だったからねぇ。 そのぶん強くなるか成長を見せなければ帰ってきても怪しまれる。というか、休暇が取りやめになるだろうねぇ。かわいそうに』 「え」 『むしろ休暇も含んではいるがしばらく海軍本部を明けておきながら、なにもありませんでしたでもどってくるなんて・・・リースが鍛えるための修行に出ると外に出したから困ったねぇ』 「え?えっとあの?」 『そのぶん強くなってから帰っておいで』 「その・・・つまりそれって」 『鷹の目に支持して強くなってこないと変えれないってコトさね』 「帰りたくないけどけれないのはもっと困る!!」 『そのまま帰ってきたら休暇はなし。 半年以上かえってことなくともかまわないがその場合は実力をあげてなければいけない。 さぁ。おまえはどうするんだいリース?』 これでやっとたすけてもらえる!そう思っていたオレの小さな希望は、一瞬で泡となって消えた。 完璧に口で圧倒されていた。 しかも最後におつるさんにつきつけられたのは、究極の二択。 事故にあったのでしかなく帰る=休暇なし 今よりもっと強くなるか技術を磨かないければいけない=一年でも休暇OK なんて卑劣な!! しかもおつるさんはこっちのことなどお見通しだといわんばかりに、最後の方は笑っていた。 電話越しでもそれは十分伝わってきた。 ぶっちゃけここまできたら答えなんて一つしかない。 思わず―― 「お願いします!オレを弟子にしてください!!」 デンデン虫そっちのけで、再び鷹の目に向け派手に土下座した。 勢いあまってゴン!と船底におでこをぶつけたが気にもならない。 そのあとは嫌がる鷹の目にすがりにすがりつき、スッポンのような泣き脅しに鷹の目が負けてくれた。 勝手にしろといわれたので、勝手についていくことにしました。 俺は何も教えんって言われたけど、それって見て盗めってコトですか!?なんてどこかの時代劇小説のような台詞だろう。 いや、でも休暇がほしいのでついてきますけどね!! そうしていろんなところに突っ込む暇もなく、誰か来るから切るよとあっけなくおつるさんとの通信は切られてしまった。 沈黙してしまったデンデン虫に、あまりのショックでしばらく呆然としてしまったが、先程の言葉を脳で反復し、あまりに難しい難題にゴクリと生唾を飲み込む。 そのままチラリと背後にいるだろう人を見やる。 ギロリとした視線と目が合った。 あまりの威圧感に思わず顔がひきつった。 「あ、あの・・・」 とりあえず無理やり師弟の結成です。 鷹の目こえー!!! 「あ。申し送れました。オレはリースといいます。無理やり海兵にさせられ、まぁ、いろいろありまして先程のような状況に追い込まれているわけなんですが」 「おれはミホーク」 「はぁ。それでミホークさん」 「なんだ?」 「ところで、これからどこへいかれるんです?」 「漂流中だ」 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェえぇぇぇぇぇぇぇェえぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!! そんなのありですか!? なら。なら! なんでさっきあっさりおつるさんに場所を答えられたんだよあんた!! 「場所はわかる。だが櫂もこの船にはない」 あっさり言われました。 もう、なんていうか、なんでこのひと生きてるの!? こういうひとほど一人にしちゃだめだよねぇ!? 「・・・・・・食料とかは・・・」 恐る恐るたずねたら、無言で、すぐぞばにぷっかりうかぶ物をしめされた。 ちょ。ちょっとまて。 予想はしていたがアレはないだろアレは。 しめされたのは、オレと落下してきてそのまま鷹の目の技の餌食になった海王類まっぷったつのやつ。 もう何も言うまいと心の底から絶望した日。 |