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14. 認識の森羅万象、逃亡先のカケガエノナイモノ |
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side リース 「水兵リーベ僕の船♪七曲がりシップスクラ〜ク☆ 軽い姿の手袋はぁ〜、まてよここにも数があるぅ〜♪」 頭から離れない音楽は、友だちがテスト前に歌っていたあの呪いの元素記号の歌。 よくあの暗記方法にメロディーをつけたものだとは思うが、これがなかなかにテンポがよくて一度聞いたたらなかなか頭から離れないという呪い付き。 今から6年も前、変な円盤で自分が生まれた世界を去る寸前、ちょうどテストが近かったことを喜ぼう。 今のオレにはとんでもない家宝となったのだから。 前世の記憶をふる活用で即席の歌を歌いながら、使っていいといわれた部屋で“悪魔の実”の能力を使って実験中。 やる内容は中学でもやった簡単なもの。 成功したら、次は炭素とダイヤについて調べよう。 「レッツゴー!縦軸!! 水曜日、リッチな気分でルーブルのぉ〜♪美術に接してフランスを知る☆ ベルバラまがいのカストロのバラ☆スカイラークでお食事を♪」 手元には水。 これはもちろんすぐ脇の水道からいくらでもでるので、実験の材料には丁度いい。 水(2 H2O)+電気エネルギー -----> 水素(2 H2)+酸素(O2) 必要なのは電気エネルギー。 火気厳禁で。 なにをしようとしているかといえば、ただの電気分解だ。 中学生ならやったことあるんじゃないかと思うほど簡単な、実験。 ビーカーや試験管ではそれほど量もできないけど、水を材料に酸素と水素を作りたいんだ。 たぶんこの二つの元素は、何もせずとも自分の周囲には漂っているだろうけど、作るからこそ楽しい。 それにきちんと道具を使えば、誰もオレが悪魔の実を操る実験をしているとは思わないだろう。 そんなわけで科学班から許可を得て借りてきた試験管を着々と設置していく。 これはあくまで見回りが来たときようのカモフラージュで、本当の実験は悪魔の実の能力実験だ。 悪魔の実。 食べると海に嫌われ泳げなくなり、かわりに実に宿る悪魔の能力を使えるようになるという――あれである。 そしてオレの能力は“粒”・・・らしい。 辞書にもよくわからない変態的能力であること意外用途がない。 仮病に役立つだけ。 愚痴が増えるだけ。 そんな能力。 はたから見れば、電気分解とこなんでオレの能力が関係あるかと思うだろう。 ここまでいたるになにがあったかというと、オレが誕生日に偶然にも食べてしまった悪魔の実のおかしな性質に関してだ。 一度、体を粒にしてしまうと二度と戻れない――― 本当にありえない能力だ。 このまま放置しておくのもいつまた元に戻れなくなるか、いつ周囲に能力者だとばれるかわからない……なんて不安なことばかりなんだ。 かといって無意味な能力が、無為意味にオレにくっついていることも気にくわない。 だから「無意味なもの」を「意味あるもの」へと変えようと思ったのがきっっかけだ。 オレの能力は“粒”だ。 そう確信した瞬間…。 実はオレは、無人島での何度かの挑戦と、絶望の末に抱いた悪魔への殺意から、自分の能力に気付いたのだ。 体の一部が粒になるたびに、戻らなくて殺意を抱き、エースが笑う。 それを二日繰り広げた時、なんでオレが殺意を沸いた時のみ、粒が操れ元に戻るのだろうと考えた。 エースは悪魔がおびえているといったが、よくよく思い返してみればすぐに思い至ることがあった。 身体は何でできているか? どこかの漫画で人体練成とかやっていたので、人体が何で構成されているかなんとはなしに覚えていたオレは、あんなお手軽で安い物質のくせにといつも殺意が沸いていた。 安い物質のくせにオレに反抗的なのが許せない――ちがう。“そこ”だ! 必要なのはそれが“物質”であるという“認識”。 そこまで推測したところで、怒らずに、粒となったものが何であるかを考え―――やがて粒はオレに従うように動き出したのがはじまり。 そこでやっと自分が食べた実の能力に気付いたオレは、なんとかじいちゃんが迎えに来るまでに身体を粒化して元に戻すという技を身につけた。 だからといってすぐにそれを完璧に使えるわけでもなく、身体の何処を粒にするとかはまだオレの意思ではできない。 粒の大きさだって、すべてバラバラ。 しかも気合を入れれば歪な形になったり、大きさがでこぼこしたり…。 まだまだだという自覚はある。 でもこのつかんだ!という手応えから、それも時機にできるようになるだろうとは思う。 そもそもオレが使用する【ツブツブの実】(正式名称だけは言いたくない)の操るものが“粒”であるのは、腕が粒化したことからわかっていたことだ。 なら、なぜ自分で操ることもできず、自分では元の姿に戻れないことがほとんどなのか。 なぜ、自分の腕だけは元に戻ったか。 そこで注目すべきところは“粒”という部分だった。 決して気にするのは、グチが多くなる“ブツブツ”の方ではない。 ―――“粒”という概念がどこまでの範囲なのか。 ここまで考えてたどりついたのは、“粒”の範囲がとんでもなく限定されているのではないか。それも動かす対象をしっかりと自分が理解していないと、実に宿る悪魔の能力をもってしても操れないのではないかということ。 いままで成功例がいなかったことからも、この能力が酷く小規模な限定的なもので、厄介なのはわかる。 だが、自分は運がよくも一度は壊れた腕が元に戻っている。 そこから考えるに、オレの悪魔の実の能力は、“身体の変化”ではなく“何か”を“操る”ことが主要であるのは間違いない。 けれど今までその“何か”を理解できた者がいなかったから、粒となった身体は戻らなかったとしたら…。 もしも――。 本当にもしもの話。 こちらの世界より、オレの前世の世界の方が一般教育レベルが高かったら? 海への対応技術ばかりが上昇していくこの世界の技術は、オレのいた世界にはないものが多い。それはこの一年科学班にくっついていて違いを探しまくったのでいろいろと確認済みだ。 海がもっとも身近なこの世界では、科学技術のかわりに悪魔の実の研究や、航海術、戦闘術等が世界の技術の要であり、一般人でもまずはじまりに「海」の知識を幼い子供に与える。 逆にオレの世界にも海はあれど、悪魔の実やグランドラインのおかしな磁気天候のようなそんな魔法じみたものはなく、かわりにすべてはこれで解明できるといわんばかりに科学が発達した世界だ。 そのため、一般的に航海術なんて学ぶ者はその職種に就くものだけだ。 オレが習った技術は、ここでは生物がそれを補うことが多い。例えば電話は、電伝虫のように。 つまり、向こうの世界の方が、科学技術が上であるということ――。 地球の一般学生レベルで学んだ知識は、このワンピースという漫画に酷似した世界では遥かにオーバーテクノロジーだったり、悪魔の実の産物だったり、夢物語だったするのだろう。 そんなあちらの世界で“粒”といえば、万物の原点をしめす。 原子や分子、粒子。そういった根源たる“粒”だ。 科学よりも航海術が発達した面白世界では、そういった詳細な概念を持ち合わせるのは一握りの学者に限定されるだろう。 もしもオレの持つ悪魔の実の能力が、この“粒”を示しているとすれば――。 いままで誰もこの粒の能力を操れなかったのがわかる気がする。 知らなければ動かすこともできない。 簡単に言ってしまえばそういうことだ。 『対象を知る』―――そういう能力か!やったぜ! そう思って喜々として島から帰ったオレは、さっそく悪魔の実図鑑を調べて絶望した。 愚痴の多くなる実ってなんなんだ!?と…。 そんなオレだったが、それからもっと自分と自分の実について考えた。 今度は自分の身体ではなく、それ以外のものと能力について考えたのだ。 海軍本部の中では目立たないよう細心の注意を払って、部屋の中等で能力の実験を繰り返した。 そうしてオレは、オレなりの結論をだした。 ■□■ 学術名が微妙な悪魔の実についての自己判断 ■□■ <実の特徴> ・青いキイチゴのような姿 ・青いガラスか、陶器で作ったリアルな飾り物のよう ・よくよくみるとなんともいいがたいの模様が入っている ・気絶するほどまずい <図鑑との差異より> ・正式名称は「ぶつぶつの実」ではなく「つぶつぶの実」が正解 ・身体を変化させ、さらには周囲にも影響を与えるため超人パラミシア系と断定 ・愚痴が多くなるのは能力がしょぼいための絶望からくるものと思われる(※決して実のせいではない) ・身体が一度粒になると戻らないのは、能力を操者が理解していなかったから ・病のような斑点が身体に現れるのは、能力を理解していないために無理やり使おうとして発生した実の暴走 ※『認識』後、きちんと粒を操れるようになれば斑点はでなくなる <能力について> ・“粒”を操るの力 ・操れる“粒”は主に元素とよばれるもの ・限定条件は、操る対象への理解 ・身体を粒に変える場合大きさを自由に変化できる(まだ無理。でもきっとできそう) ・身に着けていれば、着ている服も一緒に変化する ・きちんと『認識』していれば自分の身体を粒から元に戻せる ・自分の身体元にした場合、粒に変化&操作できる分量は自分の体積分のみ ・自分が『認識』している粒を動かせる (つまり自分の身体以外にも、そこにあるものを使えば代用できるということ) ・『認識』さえしていれば、手がとどかなくとも動かせる ・物体を好きな大きさの粒にすることも粒同士を結合することもできる ――結論。 「…これやば。ちょっとオレ最強じゃね?」 元素……分子や原子レベルのものを操れるらしい能力に開花したオレ。 あと少し使い勝手が良くなればこの能力―― 笑われ者の落ちこぼれから一転。 うまくすれば、一人で世界を滅ぼせそうです。 世界を滅ぼせるってあーた… どうしよう? エースと無人島で過ごしてみつけた、身体を粒にする方法。 それを行なうためにしたのは、操りたい対象を知ることだった。 そうなってくると、対象を知ればあらかたのものは操れるような気がするので、自分の身体意外にこの能力は使えないか疑問が生まれた。 なので粒になる自分の体と同じように、それ以外の粒はどうなのか、操れるのかそうでないのか。今、オレが一番知りたいのはそこに集中する。 ――今回の実験はそれに通じる第一歩になるはずだった。 そんなわけでさらなるやる気に火が灯ったところで電気分解。 ちゃっちゃかやるぞ! 水素と酸素を使った実験だ。 だって、オレがやる気をだすのは、オレのため99%、残り1%は家族のためだけ。 あとは寝てたいオレ! さっさと能力を会得してさらなる… ドッカーーン!!! 何をどう間違ったか…。 突如部屋に巨大な日が発生し、大爆発が起きた。 さすがのオレもこれには驚いて、何が起きたのかさっぱりわからなかった。 もうもうと土煙が上がる中、呆然としていたら、すぐに周囲が騒がしくなったけど、オレはそれどころではなかった。 どうやら能力が暴走して、ほしいぶん以上の水素と酸素をどこからか集めてしまったらしく、余分に集められた水素に水分解用の電気装置から僅かに飛んだ火花で発火して大惨事となったようだ。 壁には穴があき、廊下へ続く扉は吹っ飛び、自分と支給されていたお部屋は真っ黒こげ。 試験管でやる電気分解でこれって…どんだけよと思った。 悪魔の実【ツブツブの実】。 とんでもなくやっかいな粒をあやつる他、細かい制御がその分難しい。 マンガに登場したCP9のカクも初めて悪魔の実を食べてキリンになるとき、能力が暴走してたし。 やはりなにごとも、最初は誰でも失敗するようです。 特に悪魔の実の場合はね。 それから―― あまりの大惨事に、海賊が攻めてきたかと思われ武装した皆さんに囲まれた。 案の定、オレは目があった海軍大将の皆様にこっぴどく怒られた。 けど、やっぱり悪魔の実の能力の事はばれなかった。 科学班のひとたちが、リースだからいつかやるだろうと思ったとか、今度の実験は何だ?とかたずねてきたので、能力ではなく実験と判断されたらしい。 それもそうだね。 海軍本部で悪魔の実を食べることは、「偶然」ではありえなそうだ。 だから納得したのだろう。 科学班の茶化しは結局オレにとっては、この上もない良いフォローにしかならなかった。 ――うん、どうもありがとう。 ん〜?あれ、ありがとう…?・・で、いいのか? よくわからん。 ++++++++++ モンキー・D・リース。 好きなものはルフィ、エース、じいちゃん、フーシャ村の人たち。 ひなた、布団。料理、いたずら、妥協、昼寝。 嫌いなものはじいちゃんの愛情。争い事、面倒ごと、おしつけ、体を動かすこと、銀色で平べったくて丸いもの。 地位は軍曹。 ――はい、オレってば軍曹です。海兵です。 まいったねこりゃぁ。 こないだの実験によりおつるさんの溜息が号令となり、オレはあえなく海軍に御用となった。 逃げる道は自分で閉ざしてしまい、あげく海軍本部の客人ではなく、所属になったしまった。 まぁ、さすがにあの大爆発は、ただの試験管の電気分解とは思えない威力だったし、さすがにまずいだろうとは思っていた。 なにかあるだろうとは思っていてけど、危険視されて逆に海軍への正式な所属が決まってしまった。 とりあえず大将預かり。 オレの平穏は!?今後の幸せ老後人生は!? 涙を流して叫びたくとも、逆に涙を耐えて心の声も飲み込んだ。 首を絞めたのは自分だ。 諦めろ自分。…正確には、だらける人生をあきらめるつもりはないが。 それよりなぜに? なぜ軍曹だ。 なんでそんな高い地位にいるのオレ? だってご、じゃなくて6歳だよ。 そ、それにまだ戦えるほど大人じゃないし(中身は無視)…。 はじめは誰でも雑用か、三等兵から始まるものだろう!? それがなぜ5段階も上な軍曹なのだ。 冷たい汗が全身から噴出しそうだ。 海兵になるのはこの際、諦めよう。 だけどなんでそんな厄介な立場だ。 それを目の前に腕組んで静かに座っているおつるさんに言うと 「これでもたらないぐらいさ。お前のことを思って妥協したんだよ」 「いや、どこが妥協ですか!?せめて雑用からはじめるのがここは筋でしょう!」 まだ雑用なら、楽だ!! 戦わなくてすむのだから。 掃除や料理は好きだし!! ほら、オレ弟二人も世話してきたしね! それに目が見えないかわりに気配に敏感だから、“イニシャルGの恐怖”とかでないよう隅々まで掃除しちゃうよ!! なのにおつるさんからは「何を言ってるんだろうねこの子は」っていう目で見られ、あげく首を横に振られた。 譲れないんだそうだ。 「リース、お前は能力者でもない六式も覚えてないただの子供が、海軍の大将相手に平然と立ち向かう姿を見たらどう思う?」 なんじそりゃ? 「がんばれ〜って一応応援します」 いや、うん。他人事だし。 大将なんか相手にして平然としてるような奴、オレ知らないし。 それにあれだ。 オレはいつも死に掛けてるし。 むしろ平然とって…この先待ってるのは地獄だと思うよその子。ご愁傷様。 あるいはその子供が異常な強さを持っているとかならまだしも、きっとその子はバカだよ。 うちのルフィのようなまっすぐでいい子に違いない。 オレは死に急いでいるわけではないので、そのバカ正直さを生温かい目で見守ってあげる。 手出しなんかしたら、オレが大将にロックオンされちゃうからね。 「はは。それにそんなむぼ…じゃなくて、勇気ある行為をするだけでその子は将来きっと上ってくると思います。 ほら、よく言うじゃないですか、勇気と無謀は紙一重って。 だからきっとその子はさぞ無謀かつ、勇気ある者とお見受けします。 っで、その子供がどうしたんです?」 もしかして入ってくるの?海軍に? なら、オレのお友達になってくれないかな〜。 この世界に来てから同い年の子、本当に少なくて…。 精神年齢とかきにせず。 だって心と体は一緒って言うだろう?あれ、今ならわかるよ。 体が子供だからか、最近けっこう自分が子供っぽいなってところがあって…。 お友達…ほしいなぁ〜。 途中からオレが妄想へと旅立っているとき、おつるさんはまた溜息をついていた。 ★。、::。.::・'゜☆。.::・'゜★。、::。.::・'゜ side つる ――当の子供だけが、自分を知らない。 「…(お前のことだというのに)」 つるはメガネをかけた、不思議な子供に視線を向ける。 みてくれは他の子供と同じか、それ以上細く小柄にも見える小さな子供。 しかしその身体にはしっかりあのガープの血を濃く受け継ぎ、時折見せる大人びた仕草は人を魅了してやまない。 普段は無邪気なぐらいこどもらしい仕草のときもあれば、なんともいいがたいほどに年寄りのようなオーラを放って日向でのんびりと茶をすすっていることもままある。 本人は最近クザンとよくいるところを見る限り、後者の方が素であり、争いや強さを求めるよりそういうものが好きなのだろう。 クザンと二人で茶などしているときは、年寄りが二人いるように見えるほどだ。 飴やら饅頭やら菓子をやれば、周囲に花が飛び散った幻覚が見えるほど嬉しそうに喜ぶ様は子供以外のなにものでもない。 だというのに、なんでクザンなんかを目指そうとするのか。 思い返してかすかに頭が痛くなったつるはこめかみを押さえつつ、ふと自分を見つめている黒と銀の極上の色彩に気付く。 チラリとそちらへ視線を向ければ、こちらを見てくる左右異なる色合いの瞳に見つめられる。 何の感情もこっちには読ませないほどに深く澄み切ったそれは、本当に自分や他の景色を何も映していないのが信じられないくらいまっすぐで、黒い夜の闇と星の広がる銀河のようなそれに、すべての思考をよまれているうだと錯覚してしまいそうに多々おちいる。 つるはしばらくその瞳を見つめていたが、こちらが降参するよりも先に子供リースが自然な様子を装って視線をはずした。 それに一気に息をつく。 つるは緊張していた自分に若干驚きつつもまぁいいかとも思った。 知られて悪い事は今、なにもないのだから。 あれほど見つめられていたにもかかわらず、そらされたらそれはそれでいいと、恐怖や怒りなど何も浮かんでこないのはいつものことだ。 嬉しいわけでもない。 けれど問題がないだろと思えてしまうのだ。 「なんでオレが軍曹なんだ?」と不思議そうに首をかしげている相手を前にはいつも浮かんでこない。 浮かぶのは、自分がいつのまにか本音を出して心のうちをすべて口に出し始めているのに、大丈夫かこいつ?という考えだけである。 そのよく変わる表情に、深く考えずに孫でも相手にしているような気分になってしまうのは、なにもつるばかりではない。 その不思議な感情を与える子供を「自分の孫」だから当然とガープなら言い切るが、彼の孫というよりはすべてが「リースだから」その言葉でうなずけてしまう何かがリースにはある。 子供のようでそうじゃない。 けれどどれがほんとうかわからないのに、そのすべてをひっくるめて彼が『リース』なのだと思えるのだ。 ましてや彼自身それには、気付いていないのだろう。 人をひきつけるそれに。 自分自身の強さに。 子供だからという理由は関係なく、周囲からは軍曹ではたらないと思っているのだが…。 それほどの実力をここにいるたった一年ほどで見せ付けているというのに、なぜ気付かないのだろうか。 どうも目の前の相手は地位さえ嫌がっているらしいとつるは理解していたので、妥協で妥協してその地位まで下げたのだ。 それでも嫌なのか… 半分以上本気の大将相手に、よけるだけでなく攻撃を仕掛ける子供。 それだけではなく重症を負う怪我もせず、軽い打撲や擦り傷程度すむ頑丈さと素早さ。 それだけでも凄いというのに、相手をするとき慌てるでもなく常に冷静で、相手の先の先を読む動き。 本人に尋ねれば 「オレ目が悪いから」 その一言で落ち着いてしまうのだが、いったいガープはあの子供に何を教えたのか、こっちが気になるほどだ。 事故で視力をなくしたから、目でみるよりも先に気配でわかるようにしろと訓練させられたと言っていたのをつるは思い出した。 「なにって。目隠しをして、障害物競走して、飢えた海王類の巣窟に落とされて。風船で飛ばされて…そのくらいですかね?」 「なっ!?(こどもになんてことを)」 「いや〜、結局目隠しあっても少ししか見えてないような片目じゃどっちも同じでして〜。 なんだかんだで今までの密林放置と変わらなかったんですよね。 なのでいつもと同じようにやるかわり、音とか気配といつも以上にさぐるだけでしたよ」 「(どんな愛情だ)」 そのときのリースの笑顔を見て、つるはガープにどんな育て方をしたと視線を遠く向けた。 他にもいるらしい彼らの孫のことを思いつるは、将来を不安に思った。 なんとなく背筋に寒気が走ったのは――未来を案じてか察してか…。 そんなときにリースはこちらをみて 「大丈夫ですよ」 わかってもいないだろうに、自分だとて未来は見えるはずもないのに、こちらを気遣って笑う。 リースは聡い。 子供とは思えない何かがそういうときにはある。 また、その黒い髪を見たら、そこが戦場でもホッと安堵の息が出る。 「一緒におひるねしませんか?」 そう手をのばして左右変わり果ててしまった瞳を正面から見ることができれば――。 笑ってくれれば――そこに太陽が生まれる。 彼なら、なんとかできるんじゃないか。みんなそう思うんだそうだ。 その瞳に、その背に人は惹かれてやまないというのに… 本人はなにを考えているのやら。 (よからぬことじゃないといいんだけどね) 話の途中からキラキラと目を輝かせて、なにかうっとりとしている相手に、つるは… ――たのしみだね――― 笑っていた。 ★。、::。.::・'゜☆。.::・'゜★。、::。.::・'゜ side リース おつるさんが笑っている。 飴をくれるわけでもないのにそんな顔をするなんて変だ! その何かをたくらんだような顔!! なんだ!?今度は一体何がオレを待っている!? 試練か?依頼か? そ、そうだよな〜。 こんなガキが軍曹――。 オレ、子供だし。英雄ガープの孫だし、すごい嫉妬の嵐にあいそうで…こわいなぁ。 お仕事、なんだろう? ってか、なんで軍曹になったんだろうオレ。結局聞けなかった。 というか、オレがわからなかっただけかもしれない。 「その子供は、皆の憧れなんだよリース」 「憧れが子供?」 じいちゃんにも勝てるほどで、無鉄砲、イノシシな子供…想像もつかない。 どんなマッチョな子供だよそれ!? 小麦色したボディービルマッチョで歯をキラ〜ン☆と輝かせているどこかのアメリカン漫画のような筋肉のついた子供を想像してみる。 …………キモイな…。 目を丸くするオレに、おつるさんはこうも言った。 「っやぱりねぇ、光っていうのは上から下を照らすもんだから。 下すぎちゃだめなんだよ」 そう言って、手招きされ、言われるがままに椅子のすぐ側まで行くと、なんだか優しい顔をしたおつるさんが頭をくしゃっと撫でてくれた。 じいちゃんとは違う優しい【だけ】の手に泣きそうになる。 何も強要してこないごつくない手が優しい。 あまりの優しさに…… ここが海軍本部(オレ専用死刑執行台)であることを忘れそうになった!? 「さっそくで悪いんだけどね。お前に頼みたい任務があるんだよ」 「そ、それで話っていうのは?」 まさか上に持ち上げて落とす作戦だったとは。 あ、もう…軍曹うんぬんは諦めたよ。 変わりにこれ以上出生しないようにだけ気をつけないとな。 名が売れると面倒しかこないのが目に見えてるから! 嫌味のように大きな溜息と一緒にボソリと愚痴を呟くと、おつるさんが驚いたような顔をして、すぐに苦笑を浮かべていた。 ハイ。そしてお仕事舞い込みました。 海兵になって、地位もらって――さっそくですね。 いや〜っす。 泣きたい。 ++++++++++ 「えーっと…?」 「お茶、入れてくれる?」 「はぁ」 突然だけどここは船の上。 だけど、目の前にはクザンさん。 相変わらずどこから出したのか寝椅子でくつろぎつつ、アイマスクを額にのせて横たわっている。 なぜに軍曹?なぜにお仕事依頼?なぜにクザンさん? つまるところ、オレに危険性を見出した方々により、ストッパーとしてクザンさんがつき、オレは海軍おあづかりとして地位をもらってしまったわけだ。 そこでなんでクザンさんかというと。 いやね、おれはクザンさん大歓迎なんだけどね。そこまでは色々いあったんだよ。 なぜクザンさんかというと、サカズキさんは、子守はイヤだ。時間はないと去っていった。 じいちゃんは過激すぎる愛情が痛いから却下。 ボルサリーノさんだと、嫌がるオレと&喜ぶボルサリーノさんで、なにをしでかすかわからず、二人で暴走したあげくいろんなものを壊しそうだからダメだとか。 オレ、大人しくていい子だよ。ボルサリーノさんと一緒に穴あけたりしないよ(落とし穴以外)。……たぶん。 こんな愉快な面子を相手にしている知将であるおつるさんは暇じゃない。 そんなわけでクザンさんが後継人のような立場で、おっかなびっくりいろんな人のところを転々としている。 もっぱら精神力を鍛えるために前線に出てもらうといわれ、世界中に散っている大佐とか●佐のもとをおつるさんの命令所で転々と移っているわけだけど…。 これもたぶんだけど。 オレはじいちゃんつながりだけど大将や中将連中と仲がいいから、それを肩書きに視察の役割を持ってるんじゃないかなと密かに思う。 だって本部に帰るたびに、今回あったことをレポートとしてまとめよ〜ってクザンさんにのんびりした口調で言われるし。 彼曰く、じいちゃんやおつるさんとか孫可愛くてしょうがない連中が、オレが無事か気になってしょうがないそうだ。 嘘でもなんでも、嬉しいじゃないか、かまってもらえるなんて。 だからきっちり『報告書』としてその海軍基地の情報を事細かに書いておく。 ついでに最近密かに行った能力開発で、自分の一部の粒を飛ばすことに成功した。 ので、ちょうど新技開発で成功した粒による偵察で、意外なトコまで見てるのでそこまで記入。 例えば、×××大佐が伍長のマッチョ女子に告白してふられたとか。 どこどこでギャサリンという女子が人気高いとか。 ○○の海で何百万ベリーという賞金首の海賊がいるらしいから、そこに行ったらオレ死ぬだろうから行かせないでくさいとか。 まぁ、雑用か、おえらいさんの雑務手伝いか、基地の説明つきのの見学会か、みんなで茶飲みか。 たいがいは女の子とか、上の人とお茶してるオレ。 なんか皆が本当にお菓子とかくれるので、太りそう。 こないだはふわふわな巨大ぬいぐるみをもらって舞い上がったり。 その日は、回りも嬉しかったのかお祭りの日だったのか騒がしかった。 オレも仲間に入れてもらって騒いでおいた。 そんなかんなで、ほとんどの場合は何もしなくていいよと言われるので、日々襲われるのを日常としていたオレは最近さらに一息つけるようになって喜んでいる。 でも今日はお仕事しないといけないみたいだ。 なにせ今日は、久しぶりにクザンさんがいる。 本部にオレが戻ってきたわけじゃなくて、自転車でオレがいる船までやってきた。 さすがに生で、海を自転車で移動する人を見たときは、そのまま銃で打ち落とそうかと真剣に考えてしまった。 なんか不気味で。 近づいたら夏は便利な人。 ヒエヒエの実の能力は、実物は本気で半端なかった。 能力使用中は側によると寒いし、常に変動する海凍るし…。 オレ?オレも能力者だけど、温度差には勝てません。 っで 「何しに来たんですかクザンさん?サボリですか?」 「いやだなぁ〜そんなわけないでしょ。これもお仕事お仕事」 寝椅子で横たわり、さらにいつ寝てもいいようにアイマスクを額に装備して、片手に紅茶もって、さらに優雅に本を読んでいる人の何処が仕事なのだろうね。 まぁ、いいけど。 この人の事は好きだし、サボリ方法も尊敬するけど…オレまで巻き込まれないのなら、どうでもいい。 オレは日々を穏やか〜にすごしたいからな。 平穏は諦めきれないけど、平凡は少し諦めた今日この頃…。 「なるほど、ようはサボリですね。応援します! この後なにがあっても、最後にはきちんといつものおひるねポイントに骨は埋めてあげますから!まってるだろう少将の説教地獄を頑張って切り抜けてくださいね!!」 「なにっ!?少将って…それはやばいな」 「はい、やばいでしょうね」 実は彼の部下、もといあずかりになってから、本部にいる間のほとんどをクザンさんの補佐的なことをして過ごしていたら、彼の部下の人とも仲良くなった。 そんな彼らから連絡があったのだ。 『リース君!あ、っと軍曹!クザンさんそこにいないかい!?』 「いいえ。それより少将、どうかしたんですか?」 『いないんだよクザンさんが!もしそっちに行ったら早く帰れって言ってくれないか!もう書類が山のようで…どさどさど「うわぁ!」どさどさ…ブチッ――』 っと、まぁ。電話の向こうで雪崩の起きる音と派手な音がしたので、クザンさんの今後は決まっているようなものだ。 骨は拾ってあげますよ。 その話をしたら顔を青くしてクザンさんは、お昼寝体制に入ってしまった。 睡眠に逃げたか。 まぁ、自分は時期に目的地に着くので、船をおろさせてもらうけど。 クザンさんが寝るのなら、船の人たちにはそのまままっすぐ本部にユータンするように言っておこう。 それからオレ(だる〜ん同盟仲間)には気を許しているクザンさんには悪いけど、気配を消してポーチに入れといた睡眠薬を嗅がせて本気で眠ってもらってから、縄で椅子ごと縛って上陸した。 追ってこられたら休暇にならないから! 船を見送ってからみまわした街は賑わっていて、なんだかみたことのある気がしたけど、それよりおいしい名産物があるといわれて喜んだ。 ここは東の海で、それもそれ程しられていない街だけど、そこに目的の人物がいるらしく、海軍の情報網は凄いなと思った。 だって今回は、おつるさんが「オレみたいな小さい子がいて、ゆっくりできるところにいけ」って。そうして紹介されたのは、海軍をやめたとある将校のおうちらしい。 海兵をやめて子育てにいそしむ女性…というか、やめた後の足取りも知ってるところがおつるさんが怖いなと思うところ。 実は数日前までに、オレは一騒動あって疲れていた。 理由は…じいちゃんがきてサカズキさんがとめにきて……あ〜なんだか、もうね。 そこまで言えばもういいだろうと思う。 おかげで本部にあったオレの部屋なくなっちゃったんだよ。 弟が側にいれば癒されるんだけど、無理やりとはいえ海兵になってしまったので、あの柔らかい癒しほっぺや悪ガキ達にはなかなか会えない。 ぬいぐるみさんは部屋にいたんだけど、今はもういない。 なぜかって、オレの部屋ごと彼らは昨日この世を去ったから。 疲労もピーク。書類クザンさんのものも山積み。 そこでおつるさんに直訴したところ、育児退職した女性が静かに暮らしているらしいのでその人のところに行って三週間のんびりしてこいと言われた。 あわれみの表情と共に。 オレは泣いた。 それに舞い上がったオレは、【オレの分だけ】の仕事をすべておわらし、さっさと海軍本部を出て船に乗せてもらったわけだ。 空に飛んで生きたい気分ってやつさ。 喜び?悲しみ?どっちもさ。 気分はイヤッホー!ラリホー!と叫んで、可愛い子ヤギさんとブランコにでも乗って空島にでも飛んで生きたい気分だったわけだ。 「たしか、街からそれた場所…ってどこ? あ、あのゲンさん。元海軍将校のベルメールさんおたくはどこでしょうか?」 村につくなり迷いました。 だって、いままでに知らなかったようなものが、知らない場所にあって、あんまり見えていないオレは何か木らしきものにぶつかったり迷ったり。 この村、歩道から少しずれるだけで、やたらと木が生えている。 オレが今精神不安定なのもあったし、“普通”の町中だしということで、今日はまったく警戒していなかったのがだめらしく、ぶつかるぶつかる…。 だから知らないはずだけど見たことある人を発見して、つい声をかけてしまったそれもご愛嬌。 カラカラと頭の帽子に風車をさした怖顔のおっさんをみつけ…つい名前を呼んでしまったのだ。 だって原作で登場してたもんよこのひと!オレ、意外とこの人が好きで…。 って、それはバレちゃいけないんじゃ!? しまったぁ〜!!ばれたか!?ばれたかも!!それより変人に思われたかも!? ギロリとにらまれ、ひぃ〜!と腰が抜けそうになる。 原作で登場した東の海、ココヤシ村のゲンゾウさん(結構若い)がいて、つい名前を呼んでしまったのだ。 そう、ここは弟ルフィの仲間になるはずのナミの故郷たるココヤシ村。 育児退職したっていう将校は、かのベルメールさんだったのだ! ちなみにこここそが、オレの休暇だ!!理想郷だ! 原作?どうでもいいです。 それよりも休暇が大事! 休暇…ついにもぎとってやりましたよ!がんばったのよオレ! なのでオレに癒しを! オレの癒しはどこだ〜!お子様は?プニプニのちっちゃい子は何処? …おっきいぬいぐるみでもいいよ。もう溶かされちゃってないし。 やわらかいものを抱きしめたい気分なんだ。あるだろ?そういうときって。 「あ、あの…ベルメールさんのおたくは……」 ひえ〜。ゲンさん怖いです! まだ睨んでくるよ。 もしかして心の声が届いてしまったか!?あなたの大事なお子様達に危害は加えませんよ。 変態じゃないし。ただ、ただオレは癒しを求めて――。 だからご安心を…って、さっきよりまた目つきが悪くなった! 怖い怖い〜!! 「あの…」 だけど……いま一番気になるものは、ゲンさんを一目見て変わってしまった。 ベルメールさんの家ではなくなった。 ゲンさんの、頭の風車が凄く気になる。 カラカラカラカラ…いいなぁ〜あれ。なんとなく。 さすがにひっこぬいっちゃだめですよね? というか、ごめんおっさん。道よりも今はその頭が気になりすぎる!! 「あいつに何のようだ?…お前はなんだ?」 「あ、自分はリースです。はじめまして〜。 今日は知人のおばあちゃんの紹介でベルメールさんに会いに来たんです」 なんか『海軍』って名乗りたくないんだよね。 原作を知ってるからとか、ゲンさんが駐在さんだとか、警戒してるからとかじゃなくて…純粋にオレが、なにかに巻き込まれそうで。 ん?オレがトラブルを呼んでるのか? わからん。 けどオレはせっかくの休暇を“普通の子供”として過ごしたかった。 「ベルメールさんに会いにきたんですけど。 だけど家がどうしてもみつからなくて。それで彼女の家はどこでしょうか?」 まかせろ!こうなったらこのゲンという砦を落として、いざオレの癒しに会いにいこう! オレは子供。それを最大限利用しまして、お願いをしてみた。 オレは突如その場にしゃがみこむ。 そのまま感情に任せて、盛大に泣きつつ―――土下座して 「お願いです!オレの休暇がかかってるんです!オレ早く休みいたいんです!! もう無理なんですあそこにいるの!!本気で無理なんです!! オレの物はもうあそこには一個もないんです!! 早くベルメールさんに会ってかくまって貰わないと上司が自転車乗って戻ってきちゃうんですよぉ!!助けてください!!」 たのんます〜! 本心です。 マジで助けてほしい。 クザンさんはだらけ同盟の盟友だけど、一緒に仕事をするとなるとオレが休める瞬間が一切なくなることが判明。 かわりにクザンさんは忍者のようにフラリフラリと姿を消して――後始末はオレと彼の部下である少将さんに回ってくるという最近のオチ。 おかげでおつるさん提案の基地廻りでなんとかオレ息抜きしてたわけだけど、今は昨日の人為的な事故のせいでオレの部屋が溶けてなくなっちゃったんで逃亡中。 こうなると帰る場所は、フーシャ村(遠くて無理)かクザンさんの部屋かじいちゃんの部屋しかないわけで…。 それは部屋が焼失するより、はるかに自分の命の危機なような気がするわけで。 可愛い子供のしぐさ――土下座攻撃―――はこうをそうしたようで、オレはついてこいといったゲンさんに手をひっぱられて、無事にベルメールさんのお宅の前に到着した。 うかれて周りを見ていなかったオレは目的地につく前に、何度か樹に激突した。 「ありがとうございました!」 ゲンさんにお礼を言う。 その去り際、彼は「フン!」と言いつつも頭をなでてくれて――オレは感動した! つぶされなかった!! おじいさん系列の人間に頭をなでられて、はじめてつぶされなかった! あまりの感動に、尊敬とああいう素敵な人になりたいと目を輝かせて見送ったのはまた別の話。 ――目の前にはかの原作キャラ様総集合の家へ続く扉。 さぁ、潔くドアをノック。 コンコンコン。 カチャっと軽い音がして開かれた扉の先には、やっぱりたばこを吸ってる素敵な女性。 ペコリとお辞儀をすると、不思議そうな顔をした後、思い出したようにポンと手をたたいてニカッと笑った。 「お。あら、それじゃぁアンタがあれかい? 休暇を求めてさすらっているっていう、食費がかからない軍曹?」 「ぎゃーーーーー!!!いろいろ…おつるさんにばれてる!?」 それがオレと彼女の出会いでした。 ++++++++++ じぃ〜・・・・・ 「そんなにみるんじゃないよ。照れるだろ」 いや、だって。 「こげてます!!」 ジュ〜っという音を立てて、いままさに魚だったものが、炭になっていきました。 あちゃ〜っと笑う相手に、オレとノジコが悲鳴を上げる。 「ノジコ…君のお母さんはいつもあんなですか?」 「た、たまに?」 ノジコはオレから視線をそらした。 ナミはあまり状況をわかっていないらしく無邪気に笑っている。 ノジコはオレと同じく現在6歳。しっかり味とかわかるようです。 ナミはルフィと同じくらいで、ちょうど3歳だそうだ。 本当におつるさんの人選は最高だ。 オレ、生まれてはじめて同い年の友達ができた。 ベルメールさんには、オレの給料からオレの世話代としてきちんと支払ってますよ。 もちろんオレが計算して、オレのお金で。おつるさん以外の人様には金なんて大切なもの預けられない。 なにせこないだの部屋焼失――消失じゃないよ――事件があるのでことさら余計に。 まぁ、オレがいること=バイトにきているようなものなで、払うのは当たり前だ。 だけどそのお金で買った。いや、これは置いておいて、まるで彼女の隙をつくように、目少し話しただけで美味しそうなお魚やらを黒焦げにされては、さすがに泣けてくる。 焦げたものをみて、オレはついに立ち上がった。 「オレも弟の面倒を見てきたので、この子たちにはしっかり大きくなってもらいたいのはわかります。 ですがこのままの状況はオレには耐えられません!! ベルメールさん!一緒に料理の勉強をしましょう!!」 そうしてオレと彼女の料理教室が開かれ、ノジコがホッと息をついていたのを聞いてしまった。 「いいですかベルメールさん。せっかくおいしいみかん畑があるんです。 このみかんを使わない手はないですよ」 「え?みかんを?だってそれ、売り物よ」 「戦闘技術よりも料理の腕を磨きましょうよ!!」 缶詰とか缶詰とか…軍人飯なんか却下だー!! まずはジャム。 これはできるらしい。 では、次っ! 次はソースの作り方。砂糖を使わずに甘いものが手に入るのだからこれをソースに変えて、おいしい料理を作る。 魚と合うようにつくるのがベスト! そして最後はみかんの皮をゆずの変わりに使ったスープだ! 将来用に、残ったミカンをピクルスにして、パンにでもまぜるなり、ヨーグルトに混ぜるなりしていただこう。 オレンジとはまた違うけど、あと乾物もいいかもしれない。 ミカンでもジュース以外にできることはあるはずだ!! っと、まぁ、そうやってベルメールさんに料理を教えながら、お子様達と外を駆け回り。 畑の手伝いをして、町でいたずらをしかけてゲンさんをはめたり…。 「いいですかナミ。本に載っていることはわかってもそれ以外はわからない。 なら見えないものを知りたいときは肌で感じるのが一番です!」 「りーすすごぉい!」 「ナミわかりますか?もうじきイイ感じで雨がきますよぉ〜」 「うぃーす!」 「では問題です雨はどこからくるでしょうか」 「南!!なんか向こうから湿った風が来るから!」 「正解です!いやぁ〜。ナミは物覚えがいいですね〜」 「いやいや、あんた達本当に人間?」 オレは初日にうかれすぎたせいで木に何度も激突したのを教訓に、常に周りに気を使うことを覚えた。 なのでナミたちの前では、ぶつかりもせず普通に歩いたりしている。 片目が見えない。見える方はほとんど視力がない。そんなオレにナミが興味をもったらしくある日「リースは目が見えないのにどうしてそんなに平気なの?」とたずねてきた。 そんなものあのじいちゃんの愛情をうければ誰でも強くなれる――という理屈は、たぶん可愛い女の子には無理な注文なので、当たり障りのないことを言っておいた。 「わからないなら感じればいいんです!」 力説したオレに、ナミが手をたたいてまで喜んで、しまいには弟子入り志願してきた。 アッハハ。かわいいなもう。 そんなわけでオレはナミと一緒に地面に穴を掘ったりゲンさんをそこに落としたり、縄を使った罠でゲンさんや村の子供を吊り上げたり、水撒きの時間と空を確認したりして天気のあってこをしたり、ベルメールさんに楽をしてもらおうと畑に竹を利用した自動水撒き装置を作ったり、いろんなことをして楽しく遊んだ。 途中でノジコにつっこまれつつもこの日々は、間違いなく楽しくオレはお子様 人生ライフを堪能していた。 ちなみに将来アーロンパークができる場所では、火薬の使い方を二人に教えた。 未来の姿に腹が立ったので、何もないけどそこを爆破しておきたかったんだ。 もちろん「やりすぎだ!!」とベルメールさんに殴られた。 いたかった。でもじいちゃんとは違っていて、そこには優しさとかそういうものを感じる痛さ。 う〜ん。お母さんってあんな感じなのかな。 前世の親の記憶はあるけど、現代日本人だったオレはあんまり親と話さなかったし、なにより今の家族であるじいちゃんとの暮らしが濃すぎて…どんどん記憶が薄れて行くので仕方ない。 エースはすぐにおかあさん死んじゃったし、オレやルフィはいろいろとね。 得にオレは5歳のときから家族と離れてるし。 いいなぁ〜お母さん。 「この休暇が終わった後もまた会いに来てもいいですか?」 「あんた、本当に子供らしくないわね。いいわよ!いつでもきなさい!」 タバコをすいながらもニカッと笑ってぐしゃぐしゃになるまで頭をなでてくれる。 その優しい手にはじめからゆがんでる視界がさらにゆがんで、「うわ〜ん!おかあさん!!」と抱きついてしまった。 「あっはっは!わたしがアンタのお母さんかい?そりゃ、あんたの母親に申し訳ないねぇ」 そんなことをいいつも優しく抱きしめ返してくれるので、つい甘えたくなる。 とちゅうでナミとノジコに無理やり引き剥がされ「だめ!ベルメールさんは私たちのお母さんなんだから!!」といわれて、鼻水ぬぐってそうでしたとうなずいて離れた。 「とったりしませんよ。オレにはたくさん愛情をくれる人がいますからね」 ベルメールさんにヒシッ!と抱きつく小さな子供達の姿に、みているこっちが嬉しくなってしまったのは、やっぱりどこかで精神が大人だからかもしれない。 「そういえばアンタ親は?」 「え…」 愛おしそうに二人を抱くベルメールさんに、オレの動きが止まる。 ど、どういえと? 親父については、知らないわけじゃないないけど… だってねぇ。 面倒をみてくれている祖父は「あのガープなんです☆」なんて笑顔でいえない。むしろオレに対する態度が、その一言でたいがいのみんなは一気に変化するので言いたくない。 ましてやおつるさんに頼んで、目の前の彼女にはオレの素性は言わないように口封じしていてガープの孫だと知らないのだから。 まぁ祖父のことはともかく、軍を辞めたとはいえ元海軍(それも将校)の方に、親父のことなんて…もっと言えない。 「え、えーっと。ひ、秘密☆」 あたまをかきつつ、無邪気に見えるよう笑いながら、視線をぐいぃ〜!!っとそらす。 冷や汗がドバーってでました。 だって、だって…。 お袋のことはもとからなんとも言えない。 親父は革命家のドラゴン。 祖父は英雄のガープ。 育ての親は…山賊のダダン。 義理の弟は、あの海賊王の血族で、しかも未来の白ヒゲ2番隊。 実の弟は未来の大海賊ルーキー。 ……どいつも口にだして言えねー!!!!! 「相当の事情がありそうだね」 「き、きかないでください。普通でまっとうで、碌な人間なんていないんです!!」 改めて、本気で泣きたくなった。 いや、むしろ泣いていたかもしれない。 そうしたらしょうがないなぁという表情をしつつも優しげな顔でベルメールさんが、腕を広げた。 「泣くな泣くな。もう、聞かないから。アンタもこっちにおいで」 ノジコとナミと一緒にその大きくて優しい腕にだかれた。 二人はオレが泣いてるのに驚きつつも二人そろってヨシヨシとオレの頭をなでてくれて、幼い子に気を使わせてしまった!! 結局、二人とも三人一緒に抱きしめられる分には問題ないらしく怒らずに仲間にいれてくれた。 オレはやっぱりただの6歳の子供らしい。 いやいや、決して家族の愛情表現が濃すぎて、“普通”にあこがれてあまりの違いに感動して泣いているわけじゃないよ!! っで、また別のある日のこと。 「リースの髪はきれいね。あたしたちとはちがって黒いしつやつやしてる」 「つやつやなのはノジコもナミもオレ以上だと思いますよ」 オレは手入れしてないからね。 風呂上りにぼぉ〜っとしていたら、突然ノジコに怒こられた。 そこにいたのは知っていたけど、まさか怒られるとは思ってもなくてその大きな声にビックリしていると、「何ぼけっととしてんの?そのままでいたら風引くわよ!もうしょうがないんだから」とタオルをもったノジコが濡れたまんまのオレの髪をわしわしと拭いてくれた。 ん〜気持ちいいな。 いままでは短かったから自然乾燥でよかったんだけど、伸ばすとそうも行かないらしい。 あとでベルメールさんに笑われ、ナミとノジコにより髪の大切さやら何やらしっかり説教された。 こんなやり取りがあってからは、オレはノジコやナミに昼夜問わずよく髪をいじくられる。 どうもサラサラで触っていて楽しいんだそうだ。 「ねぇ、どうしてリースは髪を伸ばしているの?」 ある日、無邪気に尋ねてきたナミの言葉に固まる。 ベルメールさんまで固まったところをみるに、オレの傷から予測がついているのだろう。 「そ、それは…」 「せっかくなのに顔が隠れてもったいない。かわいいし、きれいなのに」 …それは顔か?それとも髪か? どっちだ!? むしろどっちもイヤだ! いやね、きれいとか関係なくて。 むしろ男のオレに、まだ6歳だけど――かわいいはないでしょ。キレイも嬉しくないよ。 落ち込むよ。 それでなくても一度、海軍本部の側の島に行ったとき、小さな子供に怖いって顔見られただけで泣かれたという痛い思い出があるのに。 故郷に戻れば、エースは怪我みて泣くし。 幼いルフィには別人だと思われておびえられたし。 「子供が泣くんですよ。人の顔を見て。 だから髪の毛でいろいろ隠すようになったんですよ」 わけをはなすと、ベルメールさんを含めた二人が、「うちのこになんてこというんだ!」「ヒドイ!こらしめてやる!」となぜかこぶしを握っていたのが謎だ。 いやお嬢さん方や、オレ傷跡とか微塵もきにしてないんだけど。 怖がられたのはちょっとショックだったけどさ。 「「だめよ!せっかくなんだからできる限りめだたなくさせないと!」」 せっかくってなにさと思った。 傷を残すな!化粧で消すんだ!!とかいろいろ言われたけど…めんどい。 そもそもそれをやる理由はなんだろう? 嫁がこないとか?でもオレまだ六歳だしなぁ〜。もうじき七歳にはなるけどそれでも結婚には程遠いし問題なくね? オレは思っていることをそのまま告げたら、ノジコとベルメールさんにあきれたような溜息をつかれた。 本当に意味がわからない。 「「わかってないのはお前だ!!」」 叫ばれても〜。 わからないものはわからない。しかたないので、意味がわかっていなそうにただニコニコとしているナミを抱き寄せて、お互い顔を見合わせて首をかしげた。 オレ達お子様ズの日常は忙しい。 家の手伝いから、隣の村のお子様と抗争したり、あそんだり、勉強したり。 なんて愛しいのだろうと思う。 この穏やかな時間こそ生まれてはじめて感じる平穏そのものだった。 おかげでオレはすっかり子供らしく――なるわけもないが、すさんだ心が少しは和らいだのは言うまでもない。 この静かな生活が大切で、側にいるひとたちが優しくてうれしくてしょうがない。 そうして本当の家族のように過ごしているうちに… ふと、思うようになった。 この島の未来を―― オレはまだ、覚えている。 ≪ONE PIECE≫という漫画のシーンが、自分の脳裏によぎる。 ・・・ナミが泣いている。 順調に世界の時間が進めば、今から七年後にはこの島にアーロンは確実に来るだろう。 あと七年したら、ここからは笑顔が消えてしまう。 オレがいることで少なからず未来は変わるだろう。 でもここへアーロンがくるのは確実だ。 だってアーロンを止めようとするものは、その時代にはいないのだから。 未来(原作)のことを話せば対策もあるかもしれない。 でも、オレにはそれがいいことなのかわからない。 一番いいのはアーロンをオレが倒してしまえばいい。それが一番無理だ!! オレは悩んで、バカな回答を導き出してそれに自分で突っ込んで、さらに悩んだ。 でも、そんなオレに気付いた人が、オレに『言葉』をくれた。 それはオレに与えられた選択肢だった。 だからオレは逆にすっきりしてしまって。 結論としては、とにかく三週間楽しんだ。 物凄く有意義に子供らしく過ごさせてもらっているうちに、あっというまに三週間は過ぎてしまった。 なんてこった。 オレの休暇が終わりかけてる!? しかも物凄く側にクザンさんの気配を感じる気が…!? 「む、迎えが近くにきてる!?」 とっさに逃げなきゃと思ったオレはすでに“普通”という幸せを感受しすぎていた。 「いっちゃうのリース?」 「そういや。今日だったわね」 「ええー!!いっちゃやだ!!」 オレも離れたくない! でも、あの強烈な気配が海の方からやってくるのはわかるので、逃げようがない! 無効から乗ってくる風は微かに冷機を含んでるし、間違いなく近い! さらには船影もないのに鼻歌が微かに聞こえることから、どうやらあの人は自転車できているようだ。 なんかなぁ〜。 なんでか、ベルメールさんにあの人をみられたくない。 あれが上司だってばれたくない。 粒になって逃げようか!? 却下!! だめだ自分。落ち着け!ひとまず落ち着かなければ!! 「べ、ベルメールさん!迎えが来ているようなのでオレいきますね! あの約束、よろしくお願いします!」 「こっちこそ頼むよ」 「まかせてください」 子供達には再会の約束をして、ノジコには拳で握手。 ベルメールさんにはいたずらの共犯的な、意味深な笑顔で。 未来を変えるための約束をこぎつけた――それに笑う。 オレは三人にお別れを言い、急いで荷物を抱えるとダッシュで、あの人が村人に目撃される前に港へと向かった。 チャリンチャリン。 「よ!」 海岸にはやっぱり自転車いたー!! しかも嬉しそうにこっちに手を振ってきている。 「わるいけど、うしろで」 オレはついキョロキョロと周囲を確認してしまい、近くに村人がいないこと、この人がみれられていないことにほっとする。 だって海軍トップクラスの人だし。 それに、なにより能力者って目立つし!! 普通な子供だと思ってくれていたこの島の人には、いろいろ誤解されたくなかった! 安堵したオレは、そうしてゆらゆら揺れる海の上をクザンさんの自転車の後ろに乗せてもらって、近くの船まで向かったのだった。 次はなんのお仕事がまっているのやら。 小さな島で“普通”という幸せをもらったオレは、恩返しに少しにベルメールさんとあるたくらみを練り、手を組んだ。 どうやらオレは未来を少し変える…らしい? +++++++++ オレが未来のことを考えているとき―― オレが悩んでるって、それに気付いていた人がいたんだ。 それはまさに天啓のように… オレは―― ★。、::。.::・'゜☆。.::・'゜★。、::。.::・'゜ side ベルメール 子供を二人育てることにしてから、気がつけば三年がたっていた。 であった当初赤ん坊だったナミは三歳になった。 ナミと二歳離れたノジコは、最近誕生日を迎えたため六歳になっていた。 私はというと、海軍を辞めて…相変わらず黒いご飯を作っている。 う〜ん。家計もやばいけど私の料理の腕もやばい。 そんなとき、とんでもない人から電話があった。 『少しねぇ、哀れな軍曹をそっちでかくまってやってほしいのさ。頼まれてくれないかい?』 元自分の上司のさらに上司からだった。 会ったことはないはずだ。 海軍をやめた私だったが、相手は大将。 それを断れるはずもなかった。 けれどうちの家計は年中火の車状態。それでは余分に一人分さえ養いきれない。 そういうと、女大将は大丈夫だと少し矢枯れた声で静かに笑った。 『金ならアイツが自らだすそうだよ。 それに食の細い子だし、頭の回転も速い。迷惑はけかないだろうさ』 そこで給金の話になり、やってくる軍曹とやらと一日過ごすだけで、5万ベリー。 ついでにそいつの食費は別料金。 これは家計の助けになる。 交渉は即決まった。 軍曹というからには、どのような奴が来るのだろうか。 話によるととにかくいい奴だけど、いたずらが好きらしい。 特徴は黒髪。顔まで広がるでかい傷があって、そのときの事故のせいで片目の視力を失ったというからには、そうとう目立つ容姿ではある。 その少ない情報から判断するに、私の頭の中でその軍曹は“男”と決定された。 マッチョムキムキ?いたずらが好き?それはヤバイおっさんということか? ……ナミとノジコが危ない! まぁ、将校であった私の方が位も高いからなんとかできるかも。 力技で従わせるのが一番ね。 海軍にも女はいたけど、やはり男性陣より数が少ないから、うちに来るという軍曹もきっと男だろう。 大将はなにを考えて、ステキな未亡人たる私に男を養えというのだろう? 「まぁ、いっか。きたら殴り飛ばすだけよ」 お金も入るし。 いざとなったら、ゲンさんの家におしつけよう。 そう思って、やってくるはずの軍曹を待っていた。 「ノジコ、ナミ!今日は家に客が来るからね」 「わかったぁ!ゲンさんでしょ?」 「ちっちっち。甘い甘い。私の昔の職場の…後輩よ(たぶん)。 ちなみに変なことされそうになったり、近づいてきたら私に言いなさい! 私がきちんとブチのめしてやるわ!外では変態が襲ってきたって言えば助けてくれるからね」 しこみはバッチシ。 元気よく返事する二人に満足し、私はその軍曹とやらを待っていた。 ――コンコンコン。 きた! 一人だったら、即銃でもつきつけてやろうかと思ってたけど、外の気配からどうやらゲンさんに付き添ってきてもらっていたらしい。 ゲンさんがここまで案内するくらいだから、銃まではいらないのかもしれない。 「はいは〜い。今行くから待って」 ナミたちにはおとなしく待つように言うと、なんだかワクワクした表情をされて頷かれた。 うん、いいわねその顔。 私、信頼されてるわ。しっかりこたえるからね! ガチャリと扉を開けると… なにもいなかった。 おかしいなと首を傾げていると、予想よりかなり低いところから声がかかった。 「はじめまして。リースといいます」 うちの子よりも少し低い位置。 いたのは期待に目を輝かせている子供。 小柄なその子は、子供らしくない丁寧な口調で、丁寧なおじぎをしてきた。 目元が少し晴れていることから、少し前に泣いたのだと気付く。 私の家は村から少し離れているからわかりづらい。 迷ったのだろうか? それならゲンさんがいたのも頷ける。 この子がこれから一緒に住むという軍曹なのだろうか? 少し幼すぎやしないかと思っていたが、すぐに彼の特徴が大将から聞いていたものと同じであることに気付いた。 「それじゃぁアンタがあれかい? 休暇を求めてさすらっているっていう、食費がかからない軍曹?」 そこにいたのはノジコと同じくらいの男の子だった。 ナミよりも少し長くて肩にかかっている黒髪はサラサラで、顔を隠すように少し前髪がなく、やぼったい前髪とは対照的にいかしたデザインのセンスのいい眼鏡をかけている。 よくよく見ると、頬から首、衣服の中にまで続いているだろう火傷の跡のような傷跡が見える。 袖では隠しきれない手の甲や平にもそれはあるようで、こんな子供が…と胸が痛くなる。 喉元を覆うようなのもこの気温の中で長袖を着ているのもこれなら頷ける。 「ぎゃーーーーー!!!いろいろ…おつるさんにばれてる!?」 私の言葉に悲鳴を上げてもだえる姿は、やはり年齢相応の子供らしく、ついおかしくなって笑ってしまった。 「ノジコー!ナミー!!ちょっときなさい!」 面白いものが家に来た。 今日から楽しくなりそうだ。 子供たちはよく遊び、リースが来てからはなぜか高度な遊びを覚え始めた。 子供達のいたずらもやたらと高度になっている。 ついでにノジコにツッコミの素質があることが判明した。 これが女大将の言ういたずらかと…頭が痛くなった。 爆薬はどこで調合したのやら、ある日、村はずれで派手な花火が上がったときはさすがに度肝をぬかれた。 元凶であるリースに拳骨をくらわしたら、凄く嬉しそうにしていた。 どうも家族の愛情をあまりうけていなかったようで、それからもことあるごとに「なんて幸せなんだろう」と「平穏ってサイコー」っとよく呟いていた。 でも、リースは時々、不思議な表情を見せる。 幸せを感受するだけじゃない…そんな表情。 私がいるときは、酷く懐かしそうに。 子供達だけのときには、まるで孫でも見るかのようにノジコとナミを優しさと慈愛にあふれた穏やかな瞳で。 たくさん遊んだあとなどによくみられるものでは、ふいに、酷く辛そうな大人びた表情を見せるときがある。 それを目撃するたび、声をかけようと思うけど、伸ばした手も声も結局は戻して終わってしまう。 リースもその表情を隠したいのか、いつも一瞬だけしかみせないから余計だ。 気になるから言いなさい!そう叱れないのは、相手が他人の子供だからという意味ではなく、たぶん“リースだから”だ。 リースにはそんな雰囲気がある。 大将から預かった軍曹は――変わった子供だった。 子供達二人をいつもの部屋に寝かしつけたあと、ふとここ数日ですっかり見慣れた黒い姿が見えないのに気付いた。 家の中を探してみてもすっかり我が子同然に馴染んだ気配はどこにもなく、もうひとりたらないなと黒い髪の子供を捜していると、みかん畑のみえる場所で夜空を見上げていた。 子供達に人気の黒い髪も、片方しかない黒い瞳も、傷を隠すのと考えるのが面倒という理由だけできている黒い服もすべてが夜空に解けてしまいそうだった。 そのまんま消えてしまうんじゃないかとおもったが、「どうかしましたかベルメールさん」そう、名を呼ばれたら。あの子はここにいるんだなって、ここがあの子のいる場所なんだって思えた。 「オレはどこにも行きませんよ」 隣に腰を下ろすと、こちらを気遣うようにやわらかく微笑まれ、目の前にいるのが6歳の子供だというのを疑いたくなった。 もしかすると自分よりも年を経たような目が、ひどく穏やかで、ただそこに含まれる絶望にも近い深い悲しみを感じて――ここにきてよかったと思った。 私はこの子の言葉を聴くためにここにいるんだろう。 だからフッと私からは笑みがこぼれた。 リースは私の反応に驚いたような顔をしている。 あぁ、やっぱり聞かないと。ここでこのこからききださないと…聞かないでいるままよりきっと後悔する。 さぁ、話せ。 「ベルメール…さん?」 「あんたさ…実は私にいいたいことあるだろ?」 「……さぁ」 返ってきたのは、予想外にも穏やかな返答。 どうしようかと悩んでいるものの、それでも言う気はない…そんな雰囲気だった。 でも。 そこで諦めるような私じゃないわよ。 「あんだけ毎日のように見られてたら気付くわよ」 ニヤリと笑ってやったわ。ついでにこれ以上黙っているようなら…私の拳を上げるわよと、片腕を持ち上げたら、物凄く慌てたようにバタバタと首を横に振っていいわけじみたことを言ってくる。 「いえいえ!あなたを見ていたのは、料理が隙を突いてこげがされないためと、母親ってこんな感じなんだなっぁって懐かしく思っていたからです!!決して悪気は!!」 そ、それは…すべて否定できない事実だけど。 それだけじゃないだろ? だけどそれは私が言ってはいけない気がした。 見てるだけしかできない。 ため息も微笑みももうでない。 ただ次の言葉を、真実を述べてくれるのを待って、私は黙ったまま左右違う瞳をみつめた。 視力をなくして色が失せた瞳は、白というよりは銀色の星を散らした夜空のようで。 漆黒の闇を塗り固めたような黒い瞳は、ガラスの向こうで目の前のものとは違う情景でも見ているかのよう。 銀と黒のオッドアイが不安げに揺らいだ後、小さくため息をついてリースは口を開いた。 「…時が来たら、わかれる運命であったとしても。なくしたくないものはありますか? 例え命を賭けてでも守りたいもの…。 その後、抗えない苦痛が待っていたとしても」 小さいながら可愛いといえる顔が大人び、柔らかな唇から零れ落ちるのは、まるでなにかの詩を朗読するかのような子供らしくない質問。 何を意味するのかさえまったくわからないそれに、一瞬戸惑う。 リースの表情は真剣でそれがただの詩ではなく、何かを暗示していると気付く。 その大人びた表情一つ一つに飲み込まれそうになる。 二つの夜空のような二色のこの目が望むのはなんだろうか? 彼が望んでいる言葉を捜してそれを言いたくなる。 けど、それより何より、この目には嘘をついていけないと…なぜかそう思った。 自分の心のままに。 ―――私は頷いた。 「あるよ。ナミとノジコと笑って生きたい。 あいつらとついでにあんたも……みんな私の子だ。そういつらには笑っていてほしいからね」 ニッとわらってやると、『あんたも』という言葉には反応しなかったが、「守りたいものがあるのなら」そう言ってリースは私に手を差し伸べてきた。 「わかりました。なら、オレは変える覚悟をしましょう。オレもともに背負います、あなたの作る道を」 そのとき私はまだ知らなかった。 その言葉の意味も、この先に待ち受けるものがなんなのかも―― その日はリースと一緒に朝日が昇るまで二人で星を眺めていた。 リースは星を見ながら、ポツリポツリといろんな話をしてくれた。 あの子から語られるすべてはまるでなにかの物語のようで。 リースがみているのは、決まった終わりのあった小説のような一つの物語だったのだろうと思う。 「守りたいという想いは、オレにもよくわかります。 やんちゃでひねくれた弟が二人もいるので」 「リースも?」 「ええ、親代わりになってそだててきましたよ」 「一緒ね」 っていうか、あなた6歳でしょ? どんだけ苦労してるのよ…。 「さて、ベルメールさん。その守りたいものを手放さなければいけなくなった、あるいは危機に陥ったとき、助けられる方法が一つあったとしましょう」 突然リースの雰囲気ががらりと変わった。 先程まで愛しいものを思い出す優しいそれではなく、すべてを知っている高い位置から最後の審判を下すようなまっすぐでいて強い瞳。 「失われるはずだったもの。失われるのが正確な未来だったとしましょう。 失うものがなんなのかわからなくとも、それでも守る道を選びますか?」 「なんだいそりゃぁ?」 「…とある本の話ですよ」 「なくなるのがサダメ。それでも守りたい…か。私は…」 「そうだ…ひとつ言い忘れていました。 その失うという未来を変える手立てがひとつだけあるかもしれなかったのを忘れていました。 それはたったひとつの存在です。 たったひとつの存在がそこに“いる”というだけで、あるべき未来を変えることができる…かもしれない」 「かもって…なによそれ」 「…さっきの『失う未来』の話がひとつの本の中の話だったとしたらということですよ。 そしてその本の中に一人の人間が加わることで、『失う未来』を変えられるとしたら?」 「よくわかんないわね。本の登場人物に別の存在がいるの?」 「いいえ、それは無理です。 本自体はその中で未来も過去もすべて一冊の中に完結しています。すでにその本は、しっかりとした本として出版されていますから、他人には変えようがありませんしね。 ですがその本の中に突然別世界の一人の人間が入り込んでしまったら?そうすると本の中にはないイレギュラーな存在が誕生したことで、そのシナリオはどんどん変わっていきます。たったひとつの波紋で…」 話はだんだんややこしいほうへと進んで行く。 どうやら神の審判者は、いつのまにか本の作者になったらしい。 実のところ私にはよく理解はできなかった。 それは私の頭が悪いのか…。 いや、たぶん違う。 私にはわからないように言葉を濁し、ぼかし、わからせないようにリースがしているからだろう。 「生まれた波紋は…消すべきなのでしょうか?」 「そうさね。私あんまり難しいこと考えるの好きじゃないけど、それってさ。結局はそういうもんなんじゃないの?」 タバコを思いっきり吸い込んで吐き出す。 チラリとリースをみると、不思議そうにキョトンとしている。 「そういう、もの…?」 子供とは思えないほど頭がいいリースでもわからないのか。 それがおかしくなって、つい笑いつつおデコを指で押す。 「かたいぞぉ〜。もっと簡単に考えなリース」 その方が世界は楽しいだろうから。 あんたは難しく考えすぎなんだよ。 「だって未来ってのはさ。自分で作るものであって、このときこうするかああるか?どちらか悩むときはあるだろ?でもそのとき別の選択肢を選んだ自分がどこかにいるかもしれない。なら、それはそれだ。 でも私は、私できちんと選択した。 つまりさ、選択によっていくらでも未来は変わるんだよ。さっきリースが言っていた波紋とかイレギュラーとかさ、また別の現在なんだよ。 違う奴がいるんだからその未来は、本の未来とは異なる。それだけのことさ」 「……それが悪いことではないかと…聞いてるのですが?」 「だからさ。その、なんだ。 元の本はあくまで元の本なんだよ。 でもイレギュラーな奴が入った本は、元の本とはまったく別の本で、だからイレギュラーがそこで暴れても何も問題ない…ってかわり、私もなに言ってんだかわかんなくなってきた」 頭を使うのは苦手だ。 自分で言っていてだんだんわけがわからなくなってきて、結局そこで放り投げた。 珍しくない頭を遣ったから頭が痛くなってきた。 それをごまかすようにあたまをかいて笑いながらわびる。 「!」 横に座っている子供へと視線を向ければ… そこには一人照れたようにはにかんで小さく笑うリースの姿があった。 いままでにないスッキリした顔に、なんだかたくましく差が見えた気がして声がでなかった。 一瞬いつもと違う顔に見ほれてしまう。 「そうですね。オレは『ここで生きている』。それが現実」 オレはオレらしく生きてやると決めたばかりだったのに…たくさんのことがありすぎて、日々がめまぐるしく、忘れていたようです。 オレが戻ってきた理由を―― その言葉の意味は、やっぱりわからなかった。 リースはリースで自己完結してしまっているし、さっぱりだ。 それでも我が子の成長振りを目の当たりにしているようで嬉しくなって、いつもよりキラキラしているリースを抱きしめた。 「ちょ、ちょっとベルメールさん!?」 「ん〜!てれるなてるな!リース、もっと大きくなれよ!!」 ギュウギュウ加減でき名ほどきつく抱きしめ、わしわしとその頭をなでてやった。 それから二人で草むらの上をゴロゴロ転がっていると、ふとリースが思い出したように起き上がった。 「ベルメールさん。オレと契約をしませんか?」 「は?」 意味がわからず呆然としていると、リースはニヤリと笑みを浮かべた。 「オレは万能ではないので、色々と間に合わないこともあるかもしれません。 この手は小さすぎて、届かないものの方が多い。 それでも…」 自分自身には嘘はつきたくない。 「だから関わってしまったからには、守らせてください」 「いや、あの…それと契約ってどう関係があるのよ?」 私の言葉を待っていたようにリースは笑みを深める。 そのあと聞いた言葉に、私はおかしくなってお腹を抱えて笑った。 「あっはっはっは!!リース。あんた、本当に6歳児?」 しかりと頷く相手は、最高の相手だった。 ――みかんをオレ、いや、海軍に売ってください。 言われた条件は向こうに不利にしかならないものばかりで、なのにこっちは儲かるという信じられない好条件。 「...こっちは儲かるからいいけどね。あんたに利益がまったくないじゃない?」 「いいんですよ。うちには山のように食料をあさるやつしかいません」 不思議な気がした。 リースがもちかけた案は、私にしか得がないような話だった。 私の方は、不作でも豊作でもお金が入る。 だけど買い手のリースは出費しか出なくて、彼にとって私と売買契約を結ぶことは利益は何処にあるのかわからない。 どう考えてもリースが不利にしかならない内容。 なのにリースは譲る気はないようで、きっと何かを考えている。 でも私にはそこまでこの子が考えている“何か”がなんであるかはわからない。 「もしみかんが豊作だったら、他の畑の2倍の値段ですべて買い取りましょう。 逆にもしその年が不作だったなら、一個につきあがるであろう値段の1倍で買い取りましょう。 数はあなたの気分しだい。 みかんの運送にかかる費用は、こちらから船を出します。そこへ投げ込んでくさい」 海では栄養がかかせないですからね。 そう言ってクスクスと笑うのは、六歳とは思えない知識を持ちながらもいたずらを考えた子供の顔だった。 「つまり壊血病対策といったところかしら?」 「ええ。海軍だって海を行くときは必ずもっていきますが、移動している間に食料は腐ってしまう。とくに果物は。 ですから現地調達ですよ…そうですね〜、簡単に言えばエネルギー補給にご協力下さいといったところでしょうか?」 もちろん交渉対象はみかん。 ただでさえ小さな村だ。取引商品以外の水や食料は無意味に請求しない。 「そういう制約でいかがです?あ、交渉責任者はオレ名義で行うので、お金は主にオレから払われます。 ついでにオレはお金って使わないので売価に関しても先程の条件でまったく問題ないですよ。 それに…オレからかいへいたちに売ってるのと同じなので、あちらからきちんと請求してふんだくるのでベルメールさんは商品を提供してくれるだけでかまいません」 いかがです? そう無邪気そうに微笑まれて笑うしかない。 コチラこそ頼むよ!そう言って、互いに手を組んだ。 これはたくらみが成立した証。このかたく握られた腕は同盟の証拠。 「いい根性してるじゃないのあんた」 「光栄です。それに…お金はいくらあってもいいですからね」 「むしろあったほうが言いに決まってるじゃない!」 「ええ。その通りです」 二人で月を見ていたはずだったのに、気付けば朝日が昇ってきて。 ちょうど大要を背にしたリースの表情は見えなくなってしまったが、そのときリースが小さく何かをつぶやいたような気がした。 ――もし、そのときリースの表情が見えていたら私は、私に好条件にしかならないこの不思議な契約と、あの本に入って未来を変えようとした異邦人の話を――もっと深く考えていたかもしれない。 握られた手に力が入った。 その顔は――今にも泣きそうで… それをこらえるように強く強く、小さなこどもは歯を食いしばって嗚咽を飲み込んだ。 その最後のつぶやきは誰の耳にも届くことなく消えた。 ―――それがあなた救う方法に繋がる…オレのできること…――― |