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11. あなたがくれた安らぎに(上) |
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side リース ++ 二つ目の約束 ++ 一週間の無人島生活を追え、オレは能力がどんな作用をもたらすのかなんとなく理解した。 けど将来の安泰を考えると能力は極力使いたくない。 悪魔の実というのは、使っただけで目立つ。 なんとなくを確実に自分のものとするために、エースに相手をしてもらいつつ使えるようになったのだが、エースには男の約束と称して口止めしている。 それになんだかんだで、使わなくてもやっていけるし、ただいまルフィというやんちゃ盛りな末っ子がいるので能力どころではないのが実情だ。 迎えが来て、エースと約束をして、それから村長さんがじいちゃんにかわって救助しにきてくれた。 サーベルタイガーのベルとはここでお別れだ。 そのうち会いにいこう。 すぐにフーシャ村に戻ると…ルフィが今までになくよく食べ、活発に歩き回れるようになっていた。 すごいな一週間。 2歳児直前のお子様が、漫画のようにハイスピードで歩き回っている。 あの肉事件のせかいか、まだ1歳とは思えないほど食べる幼児。 エースはそんな弟に喜んでいるけど、幡から見るとちょっとシュールだ。 たぶんすべてじいちゃんの孫というだけで、納得できる遺伝子情報がどこかにはある気がする。 「うっめー!!」 じいちゃん、エース、ルフィ。 目の前でよく似た三人が、物凄い勢いでオレが作った料理を平らげていく。 一緒にご飯にしようとさそった村長とオレは、ただ呆然とその光景を見ることしかできなかった。 「村長…おかわりは?」 「あ、いや…もう十分じゃよ」 「ですよね」 オレの前には、冷めてしまったスープがまだ残っている深皿と、パンのかけらが乗った皿が一枚。 村長の前にはからっぽの食器が二枚。 テーブルの真ん中には、サラダが入っていたボウルが一つ。 じいちゃんの前には空の食器やボウル、鍋などが山積みになっている。 横の子供たちも同じようで、多めに作ったものがすべて平らげられてしまっている。 さらには足らなくなったので急遽炒め物やら色々作って出したのだが…それらすべてもう残っていない。 「ブラックホールだ」 あの三人、一週間分の食材をすべて食べつくしやがった。 エースはわからなくもない。 やっと塩以外の味のある食材を食べれるのだから。 でも量が半端ない。 「ご馳走様!」 「ほいよ」 「なぁリース!!俺が海賊になったらコックになってくれよ!リースがいれば航海もぜってー楽しい!!」 「なぁリース!俺と海賊やろう!!」 「だめじゃだめじゃぁ!!リースは海兵になるんじゃ!!ワシの目が黒いうちは、身内から海賊なんか出させん!! そもそもワシがなんのためにお前たちを鍛えていると思っとるんじゃ!!」 エースが海軍に捕まらないように。 もし見つかったとしても海軍に属していれば…。 そういう期待も少なからずあるのだろう。 だけど。 人には向き不向きというものがあるものだ。 たとえば、オレがいくら頑張ってもあなたたちのように飯が入らないのに、無理して同じ分量を食べれば――それは無謀という。 オレに物凄いハードな運動をしてみせろとか…オレなら「めんどくせー」とか言ってやらなそう。 なんか自分向きでないことを無理やりやれといわれても…無理、無駄、ありえない。 それと同じこと。 海軍に入る入らないってのは、そういことだよ。 エースは海賊になるんだ。 そう思う。 そっちの方が、『正義』という欺瞞のがんじがらめな世界よりも、エースはきっと自由でいられる。 きっと夢を諦めず、翼を広げられる。 ――海を地上の空のようだと例えるのなら、鳥のような海賊達。 そんなエースとなら、一緒の旅はどれほど楽しいだろうかと思えた。 冒険は命をかけるからこそ楽しいのだろう。 『未知』という言葉に胸躍らされる。 でもそれはオレにとっては、少しだけ面倒くさく、不安なこと。 それでも、数多の海賊達が、海に出て行った。 夢を追いかけて。 きっかけを作ったのはゴール・D・ロジャー。 目の前の少年の父親…。 キラキラと期待に目を輝かせてオレの返事を待つ姿は、将来彼も名をはせるだろう海賊になるだろうそれ。 海軍ではそんな目は見れない。 ふと――納得してしまった。 …いいかもしれない。 エースの夢と、オレの夢とは程遠いけれど。 たまには命がけで、心躍る冒険をしてみるのも―― それはこの世界で生まれたからできる特権だと気付いて。 「…いいですよ別に」 笑って答えた。 「リース!!」 「やったー!!」 驚いたような顔をしたじいちゃんが、あわてたように咎める声をあげ、エースは心から嬉しそうに無邪気に喜んだ。 そこで―― 「ただし」 オレは言ってやったさ。極上の言葉を。 オレがタダで無謀な行動を許可すると思うな。 だってオレは、例えどんなことがあてもまだ『生きて』いたい。 かなうならば波風ひとつない穏やかな場所で。 だから自分でもわかるほど満面の笑顔を浮かべて、 「食器はてめーで洗いやがれ!!」 それができないやつについていく気はねぇ!! 実際、今のオレ達の周りは凄いことになっている。 すでに家中の食器だけではたらず、近隣からめいっぱい借りることとなった山のような食器たち。 この後始末は誰がつけるんだ?えぇ! …と、いうことで、一枚も割らずに、今回の分、そしてこれからの分の食器を無事に洗うことを要求した。 料理は嫌いじゃない。作るという工程や材料を選ぶというのは面倒だけれど、それで喜んでくれる人がいる。 なにより自分を生かすための苦労だと考えれば、やる気もでる。 剣や拳だのの訓練より数十倍ましだ。 だけど食器というのはそうはいかない。 洗わなければいけないのだ。 しかも油でごてごてしたものから、こげついたもの…二人分ぐらいならまだしも、これだけの量を一人で洗うのほど面倒なことこの上ない。 ついでにこの家では、“乾かす”という工程の後、“村の人たちに返す”ということをしなければいけない。 やってられるかと本気で思い、そんなことを毎日しなければいけないのなら、コックなんて嫌だと思った。 雑用として誰かサポートでもつけてくれないと辛そうだ。 「食器が一枚も割れなくなってから出直してこよう二人とも」 二人です。 じいちゃんは圧力でうっかりすると食器を割ってしまうだろう。 エースはまだお子様なので圧力が弱い。 じいちゃんとは逆で、かなり気をつければ割れないが、小さな子に皿との格闘は難しいのは目に見えている。 せめてあと1年は滑って落とすだろう。 「っと、いうわけで、オレのことはフーシャ村にゼヒ置いていって帰ってくださいね(特にじいちゃん)」 誰が海兵になぞなるか。 ましてや命の危機を楽しむゆとりが小心者のオレにあるはずもなく、それに自ら挑む勇気や気力さえない。 もしうまく海賊や海軍といった両方の運命から逃げられたら、オレは本をいっぱい買って、自分の分だけのご飯を作って日々をまったり過ごすのだ。 これ以上ないというぐらい素晴らしいアイディアについ夢を見てしまうが…視界の隅にドサッと倒れた黒いものにすぐに現実に引き戻される。 「ま、まけた(でもつれてつれてかえるもん)」 自分自身をよく知るじいちゃんが先に膝を着いた。 でも下を向いた顔がニヤリと何かをたくらんでいる風だったので、間違いなくよくないことを考えていそうだ。 エースはやる気を出して早速流しにある皿に手を出しているが、スポンジの泡で滑ってしまい、初っ端から危うい状況だった。 とっさに、ここ二,三日で使い慣れてしまった悪魔の実の便利な能力を使いそうになった。 今のオレならあれくらいの皿なら指の一振りで受け止められる。 しかしオレを止めるものがあった。 そのまま腕を伸ばそうとしたところで、エースと視線が合ったのだ。 エースはニィっと不敵な笑みを浮かべると、落ちそうだった皿を(ジャングルの逃亡劇で)鍛えられた身体能力を使って、危なげなく両手で受け止めもう一度落とさないようにそれを安全な場所に置いた。 「だめだろ」 せっかく約束したのに。 そう言われ、無意識に能力を使おうとしていた自分に呆れる。 あやうく能力者だとばれるところだった。 一度能力者になってしまうと無意識にもそれを多用してしまうので、きっと能力者はすぐにばれてしまうのだろう。 慣れとか、無意識って…怖いなぁ〜と思った。 「たすかった…ありがとう」 食器をあきらめたエースの頭をぐしゃりとなでて、ほっと一息ついた。 どうやらオレ達の含みのある言葉の真意まではわからなかったものの、オレが悪魔の能力者であることを知らない大人たちは勝手に皿のことだと誤解してくれたようで安堵する。 あとで「あんなにあわてるリースはじめてみた!」とじいちゃんや村長にむけた補足説明なのかサポートのつもりなのかにやにやしたエースにそう言われたが……そんな顔して、そういうことをいわれると、こっつからもつい反撃したくなるじゃないか。 エースがつい先ほどまで持っていた一見豪華な皿。たしかあの皿は… 「…エース、あの皿、いくらか知ってますか?」 うちにある奴で一番高いお皿だよ。 なぁ〜んて真面目な顔をして言ってみたら、 エースの顔から血の気が引いた。 まぁ、嘘だけど。 村の人で芸達者な人がいて、陶芸が趣味な人からもらった失敗作という奴だ。 むろんタダ。 でもいい雰囲気で照るだろうあの皿。 ただし、あれがどんなに安くても他人様の物だったら、もっとあわててた気もするけど…。 「嘘です」 「・・・はぁ!?」 「やっぱりですね。挑戦っていうのは、ある程度内容を理解してうえで受けないと身を滅ぼしますよ」 今回ならそのお皿が安物であるという事実。 そしてその周囲には借り物の食器もあるということ。 これは逆手に取られて有効活用されちゃってもおかしくないだろう。 そうシミジミと説教するように言い聞かせるていたら、大人たちに変な顔をされた。 じいちゃんがリースらしいなと笑っていた。 村長が危ない奴らめとため息をついていた。 あれぇ?オレ、何かしたかね? それより村長『ら』ってなに、『ら』ってさ!? なんで複数形なのそこ!! 「変な目で見ないでくださいよ」 「割れるとわかっていて、ほのめかすのもどうかと…」 いやいや。オレそんなことした覚えはないんだけど!! そうしたらさらに呆然と驚いたような表情をされて、しまいにはため息をつかれた。 「小さな子供、それも自分の音うになんてむごい仕打ちじゃ」 「えぇ!?なにそれっ?」 オレ、正義のヒーローになりたいわけじゃないけど、だからといってなんで悪役。 どっちもいやだ。 「できるのならば、通りすがりの大量エキストラの一人になりたい…」 穏やかな生活とは、まだまだ遠そうだった。 |