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10. すべてが違う(下) |
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side エース ++ エースとリースの一週間 ++ 「前回の人生では無理でも、新しい人生。肉体も世界も違う。だからオレは飛べる!!」 さぁ、みてろよ。 そう言って崖ギリギリに立つリース。 リースが今まさに行こうとしている場所へと先に視線を向ける。 下は小さないながらも滝になっていて、小さな湖ができている。 このくらいの高さから落ちて死ぬ奴はまずいないだろう。 「見ていてくださいルージュさん!オレはこれを成し遂げて、死ぬときには立派になった姿をあなたにみせられるようになってみせます!!そうだオレ飛べる!オレは飛べるんだぁーーーー!! みよ!この柔らかな肉体を!子供ながらのプニプニさ!以前のオレにもガープのじいちゃんにも似てないこの顔!そして見知らぬ島!! 間違いない。間違いなくオレはここで生まれ変わった!! 悪魔の実も食べてない!!やわらかな身体も手に入れた!今だからこそオレは飛べる!!」 顔が似てないからって、体がプニプニだからって、それって泳げないのとは関係ないと思う。 チラリとリースをみると、自己暗示でもかけるようにフッフッフと不気味な笑みを浮かべている。 そんでもって、相変わらず意味不明だ。 ただやたらとテンションが高いのがなんだか気になる。 「いける!いけるぞオレ!!」 「や、やめとけよ…」 俺のとめる声さえ聞こえていないのか、リースはいままでにないほど目をギラギラと輝かせて、助走をつけて湖へ向かって崖を飛んだ。 「汚名返上だーーー!!!」 「ちょ…リース!?」 「アイ・キャン・フラーーーーイ!!」 両手を広げてリースは飛んでいった。 それからすぐに ザッパーーーン!! 大きな水飛沫があがり、水面に上がってきたリースが嬉しそうな声をあげた。 「やった!やったぞ!ついにオレは…ぎゃ〜!!!!!」 ばしゃばしゃばしゃ!!! ぎゃ〜!!たすけて…ブクブクブクブ… ――シーン…… 「リース!?」 心配で様子を見ていたけど、やっぱりリースは沈んでいった。 「だからやめろっていったのに!!」 俺は慌てて飛び込んでおぼれるリースを引き上げた。 たぶん今日俺がいなかったら、今頃、リースは死んでるんじゃないだろうか? 普段のリースなら、無意味に飛び込むなんてことはしなかっただろう。 なにせリースは生まれついてのカナヅチだ。 村の近くの川でだっておぼれるのに、それでも今日は自分をだますような言い訳をしてこうやって水の中に飛び込んでいる。 いつもの冷静なリースなら、絶対水辺には近づかない。 それどころか、はじめから溺れないようになんらかの工夫をしてから水に飛び込むだろう。 そもそもここまでリースが奇行に走ったのは、久しぶりに帰ってきたガープの爺さんが悪い。 彼は村に帰ってくるなりリースを気絶させルフィごと肩に担ぐと、呆然としていた俺も一緒に連れていかれた。 その際に、にやりと笑って小船でもって近くの無人島へと置いていかれた。 それがこの無人島の水場であり、目が覚めたリースは状況を把握するなり近くの崖に登ってそのまま湖へ飛び込んだ。 普段なら、どんなことをしようとも、リースだから大丈夫なんじゃないかとも思うだろう。 リースのことだから、泳げないことも予期して、はじめから湖にロープをはりめぐらせておくとか、木から伸びる命綱をもっていたり。 丸太を支えに浮かぶ練習をしたり…(たぶん無駄) などなど。とにかく頭の回るリースなら、確実に万全な準備をしてから行くはずだからだ。 だけど現状はそうもいかない。 慌てて湖から引き上げたけど、リースは水を飲んで目を回している。 ルフィは岸辺において置いたら、よちよちとした危なげな歩ながらもびしょぬれのリースをみて側によってきて、そのまま楽しそうに手を叩いて笑っている。 子供って凄いなとちょっと思った。 何度目かはもう忘れたけど、爺さんには谷に落とされたり、ジャングルにおいこまれたり、風船で飛ばされたり。 もう十分すぎるほど痛い目を見てきた。 リースなんかは、それに加えて海軍でもあの爺さんにしごかれているらしい。 「ジジイもジジイだよな」 溜息が出た。 ガープの爺さんのことは嫌いじゃない。 家族だって笑って受け入れてくれて、抱きしめてくれる。ヒゲが痛いけど…。 でもあんまりだ。 愛情表現とやらがすごすぎて、リースと一緒に何度も死にかけた。 そのつど、リースが助けてくれたけど、俺だっていい加減兄貴にばっかり頼ってられないと思った。 だからリースが造船場の見学に言った後、一人で特訓した。 せめて爺さんに一発殴ることができるぐらいには強くなろうとして、恐怖を克服しようとがむしゃらに修行して勉強した。 一年してやっとリースが帰ってきたとき、話には聞いていたけどリースの怪我の酷さに驚いた。 いってきますと出て行ったときにはなかった眼鏡、顔は隠しきれない火傷の跡のような傷跡。 身体の傷痕を隠すように長袖を着ていたが、袖から見える肌は手の甲とか結構酷い痕があった。 それに泣きそうになった。 だって、俺はこんなことになるとは思わなくて…いってこいって薦めたんだ。 リースが爺さんに「船を見に来ないか?」と誘われたのに対し、「めんどくさい」とリースは断ろうとしていた。 でもリースがそういうの好きだって知ってたから、いけばいいのにと背を押したのは俺。 ぶつぶつ文句を言いながらも準備をしていくリースは笑顔で、やっぱり船に興味があったようで、楽しそうに爺さんの後をついていった。 本当は嬉しいくせに。 本当はいろいろ見れるのが好きなくせに。 リースの言葉や態度からはまったく逆に感じてしまうけど、凄くやさしくてかなりお人よしだ。 だから楽しんできてくれるといいと思った。 リースが見たいものを見れるといいなと思っていた。 なのに…。 軍艦を見に行っただけなのに、帰りが遅いなと思っていて、そのリースが帰ってきたとき、正直心臓が止まるかと思うほど驚いた。 「ただいまエース!!」 帰るなり、爺さんを無視しての鉄砲玉のような突撃にびっくりしたものの、それよりもリースのケガに目がいった。 その傷は顔だけじゃなく、体全身を覆っているようだった。 服の下から見える傷跡が、電話ではわからなかった事故の酷さを生々しくさせてみているこっちの方が痛かった。 「どうしたんだよそれ!なにがあったんだ!?」 「倒れてきたマストに踏まれたんですよ」 「なんで!?」 「人を助けたから?」 「何でそこで疑問系なんだよ」 「人がマストの下にいたんですよ。彼らを逃がしていたら大きい破片にあたって大怪我…という状況ですね」 もう、すっかり元気ですよ。 左側だったら今頃心臓は動いていなかっただろうと笑って言うが、俺からみてもその傷は大きすぎて…何年たっても消えることがないだろうそれに怖くなった。 リースがいなくなるんじゃないかという恐怖。 だけどそこまで俺たちは長く話すことはできなかった。 なぜって、爺さんに攫われたから。リースが。 っで、俺も…。 結局爺さんは頑丈で、でかくて、強くて…一発殴るどころではなく、暴れても爺さんの腕からは逃れられなかった。 そして手紙とナイフと水を渡され、リースがおきたらよろしくと言われ密林においていかれた。 「どこ・・・ここ?」 ++++++++++ 離れていた一年間、ずっと側にあったものがなくなった寂しさは、ぽっかりと胸に穴を開けた。 だからルフィの世話をしてみたり、マキノの手伝いをしてみたり、対爺さん用に修行してみたりした。 一年 ――― 本当にいろいろあった。 フーシャ村ではその話もできなかったけど、今は時間はたっぷりある。 だからルフィをあやすリースと火を囲んで、お互い離れていた一年間のことを話しあっていた。 だけどここは野生の宝庫。 盛り上がっているところで、トラがあらわれた。 ――牙が長くキレイな白色をした巨大なトラ。サーベルタイガーというらしい。 「トラ相手に戦えとかなんて面倒な。ってか、走ってるのもそろそろだるく…」 「だぁ!!!なんでリースはこんなタイミングでやる気なくしてんだよ!!」 いろんな意味でリースは凄いと思う。 走る足を止めたら死ぬという状況にもかかわらずやる気が失せたり。 それに、なんだかんだで大概の事は一人でできてしまう。 赤ん坊の世話なんかしたことないとキッパリ言い切るくせに、しっかりルフィのお兄ちゃんをしている。 今だって、しっかりルフィを抱きながら走っている。 ルフィだけじゃない。俺にとってもいい兄ちゃんで、物心ついたころにはもういつも側にいた。 リースは凄い。 あの凄さは本当に一つ年上だからという理由では納得できない。 とくに爺さん直伝のあのこぶしの威力だけは… それでも時に、その拳さえ通じないものが現れる。 俺だって一年で鍛えてはいたけど…あれは無理。 たとえば現状。 ほら、なんたってまだ俺たちは子供だし。 「「ぎゃぁぁぁぁーーーー!!!!」」 密林に放り投げられたのはこれで何度目か。 争いごとを極端に避けていたリースと、爺さんの孫ゆえに必然的に受ける羽目となったあの扱きに耐えられない俺。 俺たちは、爺さんがくるたびに必死になって姿を隠していた。 だけどすぐにみつかる。すぐに捕まる。 そして命の危機。 今回は一年間たってやっとリースが村に帰ってきたと思ったところで感動の再会を引き裂いて、爺さんは俺たち(ルフィ付)を無人島に置き去りにしてくれた。 「だずげてリ〜ィ〜ズゥ〜!!!」 「そんなトラ、逆にくっちまえ!!」 「リースじゃないんだから無理だから!!」 「オレだって無理だ!!」 ただいま密林。 牙がやたらと長いトラに追いかけられている。 無人島生活2日目。 その日はトラに追いかけまわされて終わった。 最後は意外とあっけなかった。 追い掛け回されすぎて疲れきっていたところで、あまりにしつこいトラに途中でキレたリースが、なにやら派手に罵詈雑言ならべて思いっきり石を投げつけたのだ。 その豪速球は背後にいたトラ…ではなく、その脇の林の中にいた巨大な熊に直撃し、熊がトラをおいけかはじめたことで俺たちは逃げられた。 本当にノーコントロールだった。 そこは…まぁ、運が良く逃げられたからよしとする。 そうやって運だけ(?)でなんとか逃れたところで、俺たちは水辺までユータンし安全を求めて木の上で寝ることとなった。 その後、リースはトラの悪口をずっと言っていたけど、いつ息継ぎしてるんだろう?と思うほどそれは続いていた。 呪詛かお経みたいだったとだけ言っておく。 はじめのうちはきちんと聞いていたけど、リースのつぶやきは聞いているうちに眠くなってきてしまい、俺はそのままで寝てしまった。 ++++++++++ リースはめんどくさがり屋だ。 何をするにも「めんどくさい」の一言でやる気はとことん感じられないし、寝転がってばかりで海軍にも海賊にも興味を示さない。 海賊の残した財宝とかの話にさえ興味を見せない。 今回のサバイバルもそうだけど、何度もリースには助けられている。 やっぱし、いろんな意味で。 リースは、本当は凄い奴だと思う。 頭も切れる。 でもめんどうくさがりやで。 それでも一つだけ。 リースが本気を出すものがある。 「リースってさ、なんでいつもめんどくさそうなのに料理だけはまじめにやるのさ?」 俺の前では、この死までとれた食材だけで、美味しそうなスープを作っているリースの姿。 リースは湯気でくもった眼鏡を服の隅で拭きながら、ここは妥協してはいけないところですと強く言った。 「料理は生きるために絶対必要なんです。面倒でも妥協しちゃだめです」 リースはすべてにたいしてやる気をあまり見せない。 でも、生きることだけはいつも必死だ。 っで、穏やかな老後を目指して頑張っているらしい。 「へんなの」 不思議がる俺にリースは笑う。 「いつかマキノさんやオーナーゼフに弟子入りしに行きたいぐらいですよ」 「誰だよオーナーゼフって」 「イーストブルーにある物凄くおいしい店だそうですよ。いつかいきたいですね〜」 しばらくはそのまま食べ物と海の上にあるというレストランの話になった。 なんでいったこともないのにそんなに詳しく知っているかは、やっぱりリースだからなんだろうなで納得できてしまった。 しらべたというより『はじめから知っている』みたいな雰囲気はいつものことだ。 それにしてもレストラン…。 ぐぅ〜〜〜〜〜 「…食べ物の話するから腹がへってきた」 「……今、肉。ほぼ一人で食べませんでしたかエース?」 さっきまでなんだかよくわからない生物の丸焼きを食べていた。 けど、すくものはしょうがない。 リースは凄く食が少ないけど、本当によくあれでもつな〜と感心してしまう。 リースのご飯は美味しい。 マキノのご飯もおいしい。 ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「腹減った〜」 だけどやっぱしここは量だと思う。 「魚でも釣りますか」 またあのサーベルタイガーが現れた。 なんだか疲れきっていたリースは逃げる気も起きなかったようで、今度は釣ったばかりの魚を与えていた。 そうしたらトラは懐いた。 魚をあげて、トラが友達になった。 案外トラはいい奴だったことがわかった。 ++++++++++ トラは… 「ベル。あなたもちゃんと体を洗わないとダメです」 すっかりリースに懐いていた。 サーベルタイガーがから、ベル。 体長が2、3メートルはある大きなトラで、上にのっても問題なく、夜は自分達を抱きこむようにして一緒に丸まっていて、すごく温かい。 ベルはベルでリースが気に入ったようで、湖でリースに体を洗ってもらって気持ちよさそうにゴロゴロとのどを鳴らしている。 あれは間違いなく餌付けされたな。 その日は放置4日目。 じき2歳になるまだまだお子様な一歳児ルフィをみていて、あることに気付いた。 「もう数ヵ月後にはルフィも2歳…もうじき?」 もうじきという言葉にひっかかりを覚え、そこで別の存在の誕生日を思い出した。 『もうじき』なんて言葉が甘いほど緊迫した日付だ。 なんとリースの誕生日だった。 それも『今日』。 慌ててベルと協力して川で魚を捕獲してきた。 カレンダーもなかったからすっかり忘れていた。 リースは、はじめのうちキョトンとしていたけど、すぐに嬉しそうに笑ってくれた。 よかった。喜んでくれた。 間に合ってよかった。 これで忘れてたら、すみでいじけていそうでイヤだ。 ++++++++++ 四日目の午後。 リースといままでにないほど喧嘩をした。 わかっていたのに、言っちゃいけないことを言ってしまった。 「オレだけどうせ本当の兄弟じゃないし!!」 そう口論の末につい言ってしまったら、拳もって「アホ!」と怒鳴れた。 さすが爺さんの孫。見事な拳は俺のあごを直撃し、痛かった。 でも手加減されていたのか、すぐに起き上がれたけど、あごはしばらく痛かったから赤くなっていたかもしれない。 「お前がオレの弟じゃなきゃとっくに見捨ててる! 名前が違う。血が違うからなんだって言うんだこのドアホ!」 リースが叫んだ。 弟じゃなかったら見捨てる…って、説得力ないと思う。 だってリースだし。 それに見捨てられなかったから、怪我までしたくせに。 でも……ちょっとその言葉に嬉しくなった。 『弟』だから見捨てないんだ。 弟――それって俺はリースの家族でいていいってことだよな? つまりはそういうこと――。 買い言葉に売り言葉の勢いだったのに、なんだか物凄く嬉しいことをいわれた気がする。 あんまりにも嬉しくて、飛びつこうかなくしようかと本気で思った。 結局どうすることもできなくて、俺は慌ててリースから視線をそらした。 目の前でリースがすごくびびったような気配を感じた。 そのあとも顔が見れなくて下を向いていたら、なにやら一生懸命いろいろ言ってるリース。 しかもそのどれもが、少しひねくれた言い方だけどめちゃくちゃ嬉しいんだけど!! 相変わらず素直じゃないなぁ兄貴はさ。 一つだけ気になるのは… リースと喧嘩したらわけわからないことを言われたアレ。 「ヒゲはすばらしい!!とくに白くて三日月形のは!!」 なんでそこでヒゲ? あのあと、なぜかヒゲにつて絶賛していた。 あまりにヒゲヒゲ言うもんだから、おかしくなって腹を抱えて笑ってしまい、笑われたー!!とリースは顔を真っ赤にして逃げた。 照れてるよ。 あのリースが照れてるよ!! さらにおかしくなって、その場でしばらく笑っていた。 少ししてもリースが戻ってこなかったから、笑ってでた涙を脱ぐってベルの案内でリースの後を追った。 「砂糖がほしいですね。これはいっそジュースかアイスでもつくってみたくなる味ですね〜。砂糖は大匙…」 追いついたとき、リースはブツブツ言いながら物凄い勢いできいちごを食べていた。 すでにさっきのことは頭にないみたいで、真剣にイチゴと格闘している。 俺もリースにならってつまんでみたら、それは凄く美味しかった。 横で食べているリースをみていて―― 「あれ?」 今、リースが手にとったキイチゴだけ色が違う。 なんかガラスで作ったよくできた偽者のキイチゴみたいだ。 青いし。 …しかもリース普通に食べたし!? え?ガラス、食べて平気なのか? 「リース…それ」 「なに!?」 一心不乱に食べていたリースに怒られた〜。 とりあえずさっきの青いキイチゴのことを指摘したら、不思議そうな顔をしていたけど、しばらくして気持ち悪くなったらしい。 やっぱりあの青いキイチゴ、たべちゃだめだったんだ!? つらそうなリースの背をさすっていると、「うえ〜まずい」といってリースはそのまま気絶してしまった。 脇にはあのキイチゴのかけら。 微妙にみえるこの渦巻きもようってアレか? なんとかの実っていう…。 泳げなくなる実だよな。 「……」 まぁ問題ないか。 だってリースだもん。 リースならはじめから泳げないし。この青い実のことも自分でなんとかできるんだろうし。 「ベル、帰ろう。リースたのめる?」 そんなわけでキイチゴのまずさに倒れたリースをあなぐらまで運んだ。 起きたリースが『悪魔の実』というのの実験をした。 またまた笑わせてもらった。 なんというか、今日は笑いすぎでお腹が痛くなった。 あー、うける。 さすがリース。 |