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04. それぞれが向ける微笑 |
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side リース 奇跡が起きた。 航海技術もないままに海の上を漂流していたら海王類に襲われかけ、そこで運よく傍を通りかかった海軍の船に救われた。 正確には「通りすがり」という設定のじいちゃんがオレ達を拾いに来た。 「おうおう、おまえら。そんなところで何をやっておるんじゃ」 ニマニマとあからさまな笑みを浮かべて、魔王はそこに英雄として現れた。 その笑顔だけで十分何を考えていたのかわかる。 こいつを英雄とは呼べないと思った瞬間だ。 船の上でエースは泣いていた。 オレは欝になった。 こうなることがわかっていたあの笑顔に、じいちゃんに騙し抜かれたことに、イライラとしていた。 誰かに八つ当たりできるなら苦労はいらないが、なまじ前世の記憶もある分中身は二十歳を超えているのだ。 そのため言葉一つでも相手が傷つくことがあるのをきちんと理解しているため、八つ当たりなんかもっての他だ。 まして現状で八つ当たりできる相手はせいぜいエースくらい。 だめじゃんそれ!? 二十歳杉のおっさんが子供、それも弟(4歳)をいじめるなんて…人としてだめだろ。 そんなわけで愚痴一つでさえ言うに言えない。 そのせいでさらに鬱憤はたまり、オレは部屋の隅に体育座りをして八つ当たりの代わりに、壁を相手に愚痴を全部吐き出すことにした。 壁なら何も問題はないだろう。 とりあえず周囲には聞こえないよう気をつけて。 「…みたかよあの笑顔」 平穏を望むオレにあのじじい航海術を覚えさせる気だぞ。絶対それだけのためにオレたちを海に流したんだ。血かなぁ?血だよな航海術がだめなのってだってルフィもタルで漂流…ブツブツブツブツ…… 壁に話しかけてみた。 ++++++++++ フーシャ村に無事戻るなり、オレはじいちゃんへなど無視してまっすぐにルフィのもとへとむかった。 この間からフーシャ村のダダンという奴のもとに預けられていたオレたち三人は、今は村長の家でよくたむろしていて、ルフィもそこにいた。 「ただいま!!」 扉を開けてすぐ、調理場で背にルフィを背負っている村長をみつけて飛びついた。 オレはひたすら癒しをもとめていたので、村長に何か言われるよりも先に、その背から赤ん坊を受け取る。 ずっと村長の背中で揺られていたルフィは突然抱きしめられてパチリと目を開けると、自分を抱いている相手が誰かわかったのかふにゃぁ〜と子供らしい笑顔を向けてきた。 すると 「にー」 まだまだ小さな手を、懸命に伸ばしてくるのは小さなルフィ。 オレもエースのことも小さなルフィはまだ「にー」と呼ぶ。 エースはなんだかんだいって、ルフィに呼ばれたことと笑いかけられたことに凄く嬉しそうだ。 オレとしてはルフィの大人の姿を知っているので、よけいこの小さくて可愛い姿とのギャップに笑ってしまっていた。 「にーちゃ」 必死に伸ばされる手。 一生懸命な小さな赤ん坊。 どれをとってもかわいい。 先程までじいちゃんの非道さに愚痴をつぶやいていたのだが、それのせいで荒スサみかけていた心が洗われるようだった。 癒された。 「にー?」 今オレはルフィを抱っこしているが、顔にかかるオレの黒い髪が気になるのか、追いかけるようにルフィの手がのびる。 「ほれほれつかまえてみろ〜」 ノリに乗じて自分の前髪をルフィの前で揺らしてみる。 顔に髪が当たってくすぐったそうに笑った。 無邪気な赤ん坊の笑顔は本当に癒される。 エースがうらやましそうにこっちをみていたので、ずいとルフィを押し付け「持つ?」と聞くと、勢い良く首を横に振られた。 落としそうで怖いらしい。 「って、いつまでお前がだいとるんじゃぁ!」 ふいに到着したばかりのじいちゃんが、我慢ができなくなったらしく大声を上げながらズンズン!とやってきて、オレの腕から赤ん坊をひったくった。 「ほらほらルフィ。じいちゃんですよぉ〜」 じいちゃんのでれ〜んとたれきった顔を見て、それに村長もダダンも通りすがりのマキノさんもあきれている。 チラリとこっちをみつめてきたじいちゃんの顔を見て―― うらやましいだろうという表情に逆に驚いた。 オレへのあてつけ? …そうか、嫉妬か。嫉妬なのか。 やっぱりじいちゃんも人の子だったんだな。 孫が可愛くてしょうがないらしい。 じいちゃんはさておき、ルフィをとられたことに関してはあんまりオレ自身気にしてはいなかったけど、ルフィは武骨なじいちゃんの腕の中がイヤだったのか大泣きし始めた。 ほれ、なくなとじいちゃんが高い高いをするもさらに泣き声がひどくなる。 あぁ、あれ。オレもやられたなぁ〜と遠い目をして見つめてしまう。 だって2メートル以上子供を投げるってどうよ。 うん、やっぱりあんた、人を超えてるね。 それじゃぁ、泣き止まないだろと、さらにため息をついて、ルフィを受け取り「もう怖くないからな」とあやしているとまた「にー」と笑った。 むかしどこかの本でネタとしてのっていたが、ネコの鳴き声と人間の赤ん坊の声は似ているらしい。 たしかに。ニーニー言っていると、なんだかネコみたいだ。 そのあと、お茶目心をもれなく発揮し、風船をルフィの背につけて飛ばそうとするバカをみつけて殴っておいた。 「なに考えてるんだよじじい!」 ジャングルで鍛えた脚力であわててジャンプして、風船ごとルフィをキャッチするもじいちゃんはキョトンとしている。 なぜオレがとめたかわかっていないようだ。 だけど次の瞬間にはニヤついていて…「いい拳じゃ」っと笑った。 本当に状況をわかっていないようだった。 せめて風船飛ばしは、いままでどおり3歳になってからやれよと思う。 それならなんとかなるんじゃないかと少し思うのだ。 考えるとか戦うとか…対応ができるようになるのがその頃だろうから。 ましてやルフィは現在1才。 うまく二足歩行できるか怪しい子供にこいつは何を考えているんだか。 だからこれからのことも考えて、きちんと赤ん坊の弱さを話して聞かせた。 だけど… 「だから小さいうちから鍛えておるんじゃ」と言われた。 風船でさよなら〜とか、鍛えるという言葉には与えしない! ましてや物心つく前の赤ん坊になんて非道なまねをしているとしか思えない。 「いまのうちから丹念を欠かさなければ最高の肉体ができる!!」 「んなわけあるかっ!!赤ん坊の身体は肉体云々以前に、先に壊れるってのっ!!」 「じゃぁ、お前がルフィのことも守ってやればいいじゃろうが」 まず、目下一番の敵はお前だ!! 「じゃぁ…じゃない!すでに守ってる! そもそもの原因はじいちゃんじゃないですか。オレが何からルフィたちを守っているかわかってます?」 あんたがわからなくとも、あんたに言われなくとも守るとも。 たとえめんどくさくとも譲れないときもある。 さすがに家族は守ってやるさ! もちろんできる範囲では!! ってか現在進行形だし!? それにしても本当にこの人は、いつどこでなにを始めるかわかったものではないので、こちらの気がまったく落ち着かない。 しかもじいちゃんとくれば―――六式でも使っているのか?―――あらん限りの力で殴ったはずが、まったくあの程度の攻撃では効かない。 殴ったオレの腕が痛かった。 むしろじいちゃんは、じいちゃんが言うような鍛え方をされたので、生身でも鋼の体を所持しているとか? ……ありえなくもない。このひとなら。 なんとなく。 本気で六式でも覚えないと、気付いたらルフィとエースの命が危なくなっていそうな気がしてきた。 まず一番は『剃』を覚えたい。 もっと、もっと早くたどり着かないと…いつか間違いなく、オレが助けよりもルフィとか風に飛ばされる方が早いから!!! 海賊にも海兵にもなりたくないオレは、いつも静かに影になっていればいいと思っていた。 そうすれば自然と原作どうりに物語りは進むと思っていたから。 だからオレがわざわざ手出しをする必要性を感じていなかったし、中身が20歳以上の精神年齢だったため、かなり普通の子供より一歩下がって物事を見ていた。 このまま原作のようなサバイバルやら激しいバトルやらせず、穏やかにフーシャ村からでも彼らを生暖かい目で見守っていようと思っていたわけだ。 なにせ前世は普通の学生で、日本はとても平和だったし、まともに戦ったことなんかなかったわけだ。 まぁ、この体になってからは物心ついた頃には爺ちゃんと命がけのサバイバルをしてたわけだけど。 うん、穏やかが一番だ。 ズボラとかいうな。本当に面倒ごとが嫌いなんだ。 だけどさ。 本気でヤバイとおもったんだよ。 爺ちゃんの子育ての仕方は!! 「だずげで〜!!」 「ぎゃー!じじいエースをかえせ!!」 …やべぇです。 ルフィに気を取られている隙に、エースがつかまった。 今にも売られていく子牛のような目でコチラに助けを求めてくる。 恐怖に顔は引きつり、鼻水と涙でボロボロのエース。 「リーズぅ〜!!」 「さぁ、いくぞい!お前らには立派な海軍になってもらうんじゃからな」 ガッハッハ!!とゴリラのような大声で笑って去っていこうとするじいちゃん。 待て待て待て!!そいつは白ひげ海賊団にいかなきゃなんねーんだから、そうしないとあいつの本当の家族ができなくなる! そうだよ、そいつは海賊に向いてるんだよ!! あ、話がずれた。 海賊になるから海軍に入れるなとか、そうじゃなくて。 鍛えるのはかまわないし、じいちゃんが孫と戯れたいのもかまわない。 でも、でも……せめて、命の安全だけは保障してくれぇ!! ぎゃぁ〜!!という悲鳴を上げて連れて行かれるエースを追って、オレはルフィをしっかりおんぶ紐で縛り付けて背に背負うとあわてて後を追った。 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・………」 しばらくするとやっぱりあのいつもの笑い声でじいちゃんはエースを放り投げた。 爺ちゃんが立っているところを見て顔が青ざめる。 そこって… 谷だよね? あぁ、遠くでどんどん小さくなっていくエースの声が聞こえる。 この日、この瞬間。 オレは本気で『剃』とか『月歩』を学ばないと…オレたち原作合流までに生きていられる自信がなくなってきた。 でも…めんどくさいからね〜という気持ちがあって。 その気持ちが歯止めとなってオレの動きを阻み、何かを本格的にオレに学ばせるということをさせなかった。 ★。、::。.::・'゜☆。.::・'゜★。、::。.::・'゜ side ガープ リースは聞き分けがいい子供だった。 生まれてから直ぐにしっかりとした自我を持っていたようで、ハイハイができない時から周囲を観察するようにいろんなものを見ていた。 ただ簡単に物事を理解してしまうらしく、すぐに興味を失うことがおおい。 そのせいか、子供特有の「なんで」攻撃が極端に少ない。 かわりに「めんどくさい」「だるい」があの子の口癖になった。 …なんだか、このだらっけっぷりを見ていると、部下のクザンという奴を思い出す。 あんな風にさせてたまるかと、リースがしっかり歩けるようになるとすぐに、海兵になれるよう鍛えることにした。 まだリースが3歳だったとき、ジャングルに放置した。 手渡したのは水筒とナイフ。 心配だったので、こっそり知り合いに頼んで後をつけさせていた。 何かあった場合や、生きるためのヒントが必要な場合など、小さな子供一人では到底ジャングルで生き抜くことは無理なのはわかっているので、いざというときに限り手出しをしていいと告げ、孫をたくした。 どうせつねにやる気のないリースのことだから、すぐに獣に襲われてパニックになるのではないかと考えていた。 だからそこで知人が素性をばらすのもかまわないし―――姿を見せなくともいいし見せてもいい―――できることならどんな状況でも生き抜けるようサバイバルの仕方でもリースに仕込んでくれればいいとさえ思っていた。 しかし予想外にもリースは一人で帰ってきた。 見張り役の人間は、ただ見ていていただけで、自分の手は必要なかったと言った。 彼は一切手出しも口出しもする必要性をまったく感じさせず、むしろこちらが感心するようなことをやってのけたと驚きの報告さえしてみせた。 リース帰宅より先にその報告を受けていたときは、まったく信じられなかったが、帰ってきたリースの姿を見て目を見開いた。 リースは誰の力も助力も借りず、たったひとりでジャングルからきちんと生還してきたのだ。 手には巨大な獲物を携えて…。 リースが持ち帰った獲物は優に3〜4メートル近くある巨大なカエルのような姿かたちをしていたが牙があり、ズラリとならんだ鮫のような鋭い歯の羅列からもわかるとおりあれは肉食の生物だったはずだ。 その身体には荒削りなものだったが細く鋭利にとがったた槍のような枝や丸太が、急所だけを狙った的確な位置で刺さっている。 それ以外の傷はない。 ただその獲物は子供には大きく巨大でただでさえ他の子供より体力がなさそうなリースには持ってこれるようなものではなかった。 その重量はキログロムでは図りきれないだろう。 ましてや小さな子供でなくとも手で運ぶことさえできないような巨大な化け物なのだが、リースはその身体の下に丸太を置いてそれを移動させることで地面を滑らしてもって帰ってきた。 これを…たった3歳の子供がやったというのか――。 呆然とするコチラに対し、リースは不思議そうに首をかしげていた。 しかも本人はあまり派手な怪我も汚れも見えなかったら、もしかすると罠でも仕掛けて頭脳だけで勝ったのかもしれない。 この様子には初め驚いたが、これで改めてわかったことがある。 リースの頭の回転のよさは、自分たちが思うよりも上であると。 この子は賢い。 やる気のなさそうな態度も、いつもめんどくさいと言うそれもきっと何か考えあっての演技だろうと思うようになった。 肉体労働よりも頭脳戦が得意なだけでは、今の時代はやっていけない。 海賊なんかにもさせたくない。あれはいくつ命があっても足りないから。 とりあえずリースもエースも二人とも海軍にはいれるだけの度胸をつけさせよう。 そうでもしないとこの大航海時代は、どこにもいけない。 「このくそじじい!!」 聞きなれたリースのきれたときの罵声が響く。 リースの怒りマックスな拳が、わしの腕を直撃する。 日を追うごとにリースの拳が強くなってくる。きれも良くなっている。 いいことだ。きっとわしのいい跡継ぎになってくれるであろう。 「じじい!なに、またルフィを殺そうとしてやがる!!」 「いや、まったく。そんなつまりはないんじゃが?」 「…あんなに高く投げてキャッチできなかったら、普通人は死にます」 鋭利なナイフで切り裂かれたかのようにキッパリハッキリ告げられる。 ふだんはじいちゃんと呼んでくれるのに、きれるとこれだからなぁ〜。 この変わりようは何なんだろう? 口調も態度もガラリと変わる。 というか、だれに似たのやら。 「…って、なんだそれは!?いい加減にしやがれ!!どれだけオレたちが苦労したと…!!」 「え〜。いやです。めんどくさい」 「体力?いらないですから昼寝する時間をください」 …などなど。 平凡な暮らしを求めるリースからは予想外の言葉がいつも返ってくるので、面白い。 本人に向かってそんな言葉をいえば、すぐにきれるので言わないが…。 本当にどっかの誰かに似てないか? …昼寝とか言ってるし。 それにしても―― うんうん。 日を追うごとにリースの口が悪くなっているな。 日を追うごとにリースのだらけっぷりが… 「お前口悪すぎじゃろう。あとそのやる気なさそうなの何とかならんか。 それよりも実の祖父をいたわらんか」 「……」 なぜか物凄くさげずむような目で見つめられた。 なんじゃ。わしがおぬしに何かしたとでもいうのか? 本当に何を考えているかわからん奴だ。 リースは普段からやる気がなさそうで、だれかれ問わず丁寧な言葉で話す。 きれるとかなり凶暴になり口も最高に悪くなるので、一瞬二重人格ではと何度疑ったことか。 まぁ、最近では家族(特にワシ)の前ではくだけた口調がメインになってきたので、それもまた愛情だと思えばいいだろう。 ただ、最近になってだらけた空気の他に、ブツブツと愚痴を言うことが多くなったのはさすがにどうかと思う。 言っている事はほとんどわからないが、この愚痴がやたらと長い。 ほうっておくとそれだけ続く。 どうやら普段怒らない分、たまった鬱憤を一気に吐き出すらしい。 我が孫ながら面白い奴じゃ。 今日もなにやらぶつぶつといっているが、空からでも地上を眺めて頭を冷やしてくればすっきりするだろうとふてくされているリースのかわりにルフィを空に飛ばしてやろうとしたら勢い良く殴られた。 ふん。まだまだ甘いが、さすがワシの孫。 いい感じでわしの技を覚え始めている。 ふとみると、エースが視界に入った。 わしでさえ何を考えているのかわからないリース。その傍にいつもいる一つ年下の子供。 リースは大人さえその口でだまらせてしまう頭脳派。 めんどくさいという口癖からもわかるとおり、あまり自分から動こうとしないのがたまに瑕だ。 根暗な部分もあり、愚痴をいったら止まらなくなるところなどまさしく室内生活が似合いそう。 そのわりには一旦キレルとスイッチが切り替わるように凶暴化するからやっかいだ。 愚痴も増えるし。 エースはそんなリースとは真逆の性格で明るく、人をひきつけるパワフルさがある。 リースほどではないがエースは呑み込みが早く頭もいい。それよりなにより動きに長け、体でどんどん物事を覚えていく。 怒るときは烈火のごとく起こるリースとは異なり、静かにその炎を揺らすのが常だ。 まったく対照的な二人だから、二人で互いの足りないところを補うように、リースの横にはいつもエースがいる。 そうやってエースはいつもリースのことを見ているから、リースのいいところとエースの明るさが交わって将来は礼儀正しい好青年になるだろうとみたてをたてる。 その未来予想図を思うと楽しみで仕方がない。 とことん父親には似ていないとエースを見て思う。 「父親…か……」 エースが自分の元へやってきたのは、もう随分前のことのようにも、昨日のことのようにも思う。 思い出すのは好敵手たる男の存在。 今でも鮮明に奴の言葉を思い出せる。 海賊王 ゴールド・ロジャー。 それがエースの父親であり、この海賊時代の幕をあけた本人だ。 奴が捕まったとき、その護送中で一つだけ頼まれごとをされた。 まさか逃げる側と捕らえる側の関係で、どうみても敵でしかない自分に奴は、奴にとって一番大切なものを託してきた。 ちょうどリースという初めての孫に浮かれていたから、頷いてしまった。 ――ロジャーの処刑前、そのロジャーから子供をたくされた。 けれど本来すでに生まれているはずの奴の子供は、まるで海軍の追っ手から逃れるようにそれから一年もあとに生まれた。 命と引き換えに子供を生んだルージュを、居合わせたリースはまっすぐに見つめていた。 それからリースの名をもじって子供には、エースと名付けた。 子供たちが二人そろったところで、イーストブルーにいる友人ダダンのもとに彼らをあずけた。 休暇をとってはフーシャ村で子供たちと過ごし、いつなんどき海軍に見つかるともわからないエースのために特訓を始めた。 そのときまだリースは3歳だった。 エースも3歳になったら、リースと一緒に密林に放置した。 そのせいか以前よりもリースはエースを気に入ったらしく、それ以降二人はいつもつるむようになった。 今思うと、あのリースのことだ。 もしかするとルージュの最後の言葉を聞いていたのかもしれない。 そうでなくとも、リースがあいつの横にいて良かったと思う。 リースは無邪気にロジャーの子に笑いかけ、エースも普通の子供のように笑っている。 二人は本当の兄弟のようで、海賊王の子だからという負目のあるあの子にはいい支えとなっているようで、血がつながっていなくともいい家族となるだろうと思った。 このまま何事もなく、エースが奴のことを苦痛に思わなければいい。 目を閉じればあの漣の音が聞こえてくる。 「もともとわかっていたことだ。オレにははじめから時間がない」 世界中を魅了してやまないそのギラギラとした目が言っていた。 やがてその一言で、世界中を自分の夢のために巻き込んだ男の目が、無言のうちに語っていた。 一目でもいいから会いたかった。 それは叶わぬことだとわかっていた。 会ってもきっとあいつにとって悪影響しか及ぼさないことも。 それでもあいつらは悪くない。 そんな海賊王の目に、このわしがすくんだ。 そこに覇気を交えてまで、奴はわしに託したのだ。 「あいつを!ルージュと生まれる子供を…」 たのむ。 「だれがいままでいがみあっていた者の子供の面倒など見るか!」 そう言ってはみたものの、たぶんあいつを追いかけるのはわしだけでいいとか思っていたから、好敵手としてはよい仲だったのだろう。 それを承知でだろう。 「お前だから言うんだ!」 ロジャーに逆に押されてしまった。 「生まれてきた子供に罪はないだろう!?」 ちょうど孫が生まれたばかりだったこともあり、その強い言葉に気がつけば頷いていた。 それにロジャーは笑っていた。 それはローグタウンで最後の瞬間にみせたものとは異なるもの―― 「ありがとう」と… |