欝 な 君 の 屁 理 屈 論
[有り得ない偶然]  TOA



閑話. ちょっと聞いてくれるかい?





昼夜逆転した生活を送っていたから、昼太陽が真上にきたらくらくら来た。
“太陽”イコール“お庭で昼寝”もとい睡眠時間というサイクルができていたから、それはもう状況とか気にもならずに意識がブツリと途絶えた。

ふだんならどこで寝ようと家の者が必ず見つけて、オレの部屋に運んでくれる。
だが今日はそんなことは不可能で――「御身を労わりくだされ」と言ういつもの家臣のお言葉の代わりに、「そうたやすく倒れるような足手まとい不要です」とのたまわれ放置された。



「よかったのですか?」

なにが?オレ、さっさと楽園という名の自宅に引きこもりたいんだけど。

「彼等をおいていってですよ」

いやどうだろうね。置いていかれたのはオレで。
彼等はさっさと行ってしまっただろう。
戻ってくる理由がわからない。

だってよ。何度意味不明な女に「はやくして!」「おいていくわよ!」と言われ、その都度「おいてけぇ〜おいてけぇ〜」と訴えたかわからない。
俺の方があの貞子女より幽鬼がかっていたように思う。

速度が遅くなれば、なぜか置いていく宣言をしながらもオレをひっぱって歩く謎の女。
うぜぇー。
だからおいてきたいならそうすればいいんだ。

おれにとってもてめぇはいらねぇよとかおもいつつ、昼は無能なオレだ。昼夜逆転してるから、夜しか起きてられないし。
それになぜかタタル渓谷にいってから、体がいつも以上に重いんだよ。

「・・・それは、超振動のせいですよ」

超振動?
ああ、分解されなくてよかったね。って、あれか。

「え、ええ。まぁそういうことですね」

――超振動と第七音素の関係はご存知ですか。

あ゛ぁ?なんだったっけ。
そういえば誰かがその単語をやたら連呼していた気がする。
意味はしらん。いや、意味は少し前に思い出した気がするけど、それが今どういう関係あんのよ。

知識をあさるときに本で見たような気がするが、興味ないから資料庫の山積みの本に適当に投げた記憶ならある。
首をかしげれば、貴方は運がよかったのですよと告げられた。

たしかに、そうだったなぁ。

運がいい。生きてて万歳。
あの世から引き戻してくれた奴に感謝だね。
とはいえ、本当はひきとめてほしくなかった。
だって面倒事が嫌だったし。
でもさ〜。あの世を渡る川にいったら、追い返されちゃったんだよ。
七色に輝く川の向こうで、死んではならぬルーク!と、それで死にかけるたびに門番に追い出されて、オレ、じつはまいってるんだけど、どう思う?

「それは…音譜帯では?」
「門番って、音符帯の門番ってことは、まさかの音素意識集合体とかいわないよね?」

ああ、そういえば、うん。そんなことも言っていたような。

「「言ってたの!?」」

うん。七番目のなんたらロレなんとが戻ってきたから、今度は死なせはしないって言われてさー。
幸せになってくれなきゃここは通せないとか。
いや、それよりオレは、さっさとあの川を渡って、楽になりたかったんだけど。
それがオレの幸せだと思ったんだよ。

「“今度は”?戻って?どういうことだ?」
「川を渡るのが幸せって…だ、だめですよ!そんなのだめですって!本当にローレライに感謝ですね。あなた、どこまで逝こうとしてたんです!?」

いや、そのまま死んで楽になれないかと。

「!?まだだめですよ!?」

えー。でも、家督とかめんどいし、そもそもオレ期待されてないみたいだし。
王様になりたくないし。
その日暮らしができればいいと思ってたしな。

「すでに老後の引退生活満喫中!?」

いいだろう、べつに。
いい子で大人しくしてるんだから。迷惑は…まぁかけてるかもだけど。政治にかかわるほどの迷惑はかけてヌェ。
うん、それほどではないだろ。

「おとなしくって、寝てるだけですよね」

うん。まぁ、そうだったんだけど。
それもできなくなっててね。
昼夜逆転してるのは変わらないんだけど、最近、昼起こされてて体調悪化。
夜は目が覚めて寝れないから、いつオレは寝ればいいんだろうね?
目がお蔭ですっかりたれちゃって、隈が凄いのよ。

「それより、その手を離せ」
「うるさいですよあなた」
「!」

あれ?もうひとりいたっけ?だれ?
まぁ、いっか。

それよりきいてくれよ。



「―――そうですね。さぁ、もっと貴方の話を聞かせなさい」


話?話って、なんだっけ?

「始めからどうぞ。
そうですね。なら、そのタタル渓谷を出た後のことから――」


ああ、あれはひどかった。
言われて、事の次第を思い出していく。





なんだっけなぁ〜。
そうそう。目が覚めたら、(貞子のせいで)指が一本も動かなかったんだ。

「うごかない?乖離寸前だったのでしょうね。あなたのような脆い身でよく五体満足で」
「っ!?なんだと!?どういうことだ!こいつは健康体じゃなかったのか!」
「だから、あんたうるさいよ」

五体無事?いやいや。死にかけたよ。
指どころか同じように身体が(貞子が乗っていたせいで)動かなかったわけで。
首絞められるし、心臓圧迫されるし。

「「「は?――首?心臓?」」」

そうさ。
身体がさ、自分の言うことを効かないほどの痛み(主に貞子がその体重をひたすら押し付けるからその体重でオレの身体はつぶされてるし、背中が砂利を踏んでたから)が走って、肺は圧迫されて締め付けられるようで、息もできなかった。
のども渇いていたし、(貞子の髪が首に絡まっていたせいで)のどから空気は吸えるような状況じゃなかった。
(目覚めた女は女で何を勘違いしたのかキャァと悲鳴を上げて顔を赤くしておれを張り飛ばして上からどきやがったので)一番は(打った)頭が死ぬほど痛かったこと。

「劣化レプリカとはそれほど弱いものなのか?」
「導師のレプリカは体力がないだけだったよ」
「ふむ。身体の怠慢感に、痛み、動けなかったことといい、本当に乖離寸前だったのでしょうね。
よく無事で。一部も損なわずに再構築できたことを喜びなさい」


だろうな。いや、うん。でもむ。しろそのまま死んでいたかった。

「死ぬだって!?おまえは!!…っ!!ずっとあそこにいたのに!」

だからだよ。
何も触らせてもらえない。
(昼夜逆転してるから)何もできない。
何も望まれていない。

(――そんな発言をしたら何を言われるかわかったもんじゃないから、面倒ごとは避けるべきだ。説明がくそめんどい。から、細かいことは省いて説明しておこう)

「それでどうしたんです?」

ん、ああ。女がいたんだよ。

「おんな?」
「ああ、そういえばダアトの軍人がいたな」

そいつは兄を殺そうとして屋敷に忍び込んだらしいぜ。オレは寝てたからわからないけど。
計画も何もなく突っ込んで超振動で吹っ飛ばされたらしいな。庭でぶっ倒れてたオレ巻き込んで。

そういえばそのとき髭がいて、導師が誘拐されたこと密告にきてたんだと。
わざわざキムラスカにきたってことは、内情漏洩ってとこか。
ダアトがどうなろうと、所詮軍人育成と祈ってナンボの場所だし、交易に何も役に立たたない祈りで飯は食えんから、あそこがどうなろうとどうでもいいが。いっそ内部崩壊すればいい。

あとあの女が持ってた武器見せてもらったけど、あんな短い刃物で、いかつくごっついおっさんの心臓狙っても死なねぇよと思うんだけど、どう思う?あの女、マジ殺す気ないよね。
え?ヒゲのこと?もっと言ってほしいの?
ダアトの内情を他国にばらして公爵家がさも自分のものとばかりに敬語も何もしない礼儀知らずについて?

「もう十分わかったよ」
「十分それだけで礼儀知らずですよ」
「……師匠…」

なに?もっと聞く?あいつのこと話すとなると、かなりでるぜ。
だってあいつ来たのって、あれ一回じゃないしな。
めんどいからそこは置いとくよ。

「「「ぜひそうして(くれ)」」」

じゃぁ、次。

タタル渓谷で目が覚めた時の状況は話したな。
あの後は、疲れたよ。
道中に女がずっと騒ぐんだ。
胸ばかり見ないで!とか、貴方とキスしたのはたまたまよ!とか。

「キ、キス!?まさかしたのか?」

してねーっての。
わたしのからださわったでしょうとか。
胸をもんだ!とか。
指一本動けない状態だったんだぞオレは。
ありえぬぇーよ。
ただの胸筋が脂肪になっただけの物体に興味はありません。
むしろ家畜の乳の方が役に立つんじゃね?皆様の朝食に美味しいミルクを出してくれるでしょ。
何に役立つの?暗殺の時、ナイフが心臓までは届かないってぐらいじゃないのか?

「…きょ、きょうきん……凄い言われようだな」
「うん!わたし、も!そう、思う!」
「…事実だけど。現実味的だけど、そこを認めちゃだめじゃない人間として。
むしろそこで君は目を輝かせて賛同しないでよ!」


「あなたの言いようもひどいですが、相手の勘違いもはなはなしいですね。なんですそれ?身に覚えは?」

ないな。
発育不良による身長とヒールの差でオレの方が低いんだから、視線が胸の位置なのも当然だ。
自意識過剰女が勝手に勘違いしたあげく、オレが視線を向けるごとに顔を赤くして胸を隠す動作をするんだ。
ダアトの軍服って胸元開いてないから、照るような制服じゃないのにね。

「・・・再構成に失敗してあられもない格好をしていたとか?」

いや。みごとなまでに露出がない服だった。
身体のラインを強調するような服を着てる軍人てのもどうかと思うんだよ。男性の制服はそれはそれで、みんなビラビラしててうっとうしいし。
一番変なの髭だよな。何あのハートに毛が生えたような服。しかもうごきづらいっしょ。

「ぶっ!ハートに毛」
「竜のイメージって聞いたことあるような?」
「こうまでけなされると自信なくなりますねぇその話も」

ダアトの軍服おかしくない?

「まぁね。ダアトの女軍服って異常にミニスカ率たかいんだよね」
「あ、ああ。あと靴のかかとが凄まじく高い。あれで十分武器なるだろうってぐらいにはな」
「そういえば詠士はズボンあったっけ?でも十分体のラインが見えるようなのだったり、お上の煩悩がみえそうだよね」
「…目のやり場に困る」
「わたし、も?」
「君の場合はおいろけじゃなくて萌え狙い?だってそれ、結局は改造ナース服でしょ?コスプレに近いよね」
「やはりダアトは・・・」

「そこ。だまりなさい!!それで? あなたはどうしたんです?」

それで?女のせいで死にかけて、三回ほど賽の河原を追い出されて、女が勝手に喚いて――
やつは長袖長ズボンだからな。
草で肌を痛めることもなく、オレは葉っぱやらできずだらけになりつつ夜の道を歩いてたんだ。

「夜道を!?なんて無謀な」

それはオレも思う。
しかもおれは夜目が利くが、奴はきかなかったようで、やたらとモンスターに突っ込むんだ。

「バカなのそいつ?」

たぶん。
ばかみたいにわめくから、ひっきりなしに魔物は来るし。
オレは戦えないし、体力ないから隅の方で邪魔にならないようにしてたんだけど、そしたらわめくし、歌うし、魔物誘うし。

「ダアトの詠士の歌って、魔物をよぶんだっけ?」
「ちがう、です」
「…どんだけ音痴なんだそいつ」

だよねぇ。ってか、はっきり長い歌声を聞いたわけじゃないけどね。
だって歌ってる最中に、魔物に突進されまくってたから、あいつの歌を最後まで聞いたことがないし。
まぁ、さすがに見てられなくなって、森の中だったから枝はいくらでも手に入るし、とりあえずそこらの棒きれもってさ、手を貸そうか?といえば、変態扱い。
あげく私一人で大丈夫よ!とか貴族のお坊ちゃまは大人しくして!とか足手まといよ!と言われる始末。
オレ、やってできないことはないわけよ。
誰も教えてくれなかったけど、なぜか剣もバリバリ扱えるんだ。
聞かれなかったし、むしろ昼に起きてられなかったから、家でも誰も知らなかっただけでね。

「まさかの、すりこみ?」
「生まれたては赤ん坊なんだろう?」

記憶はなくしたけどね。誰にも言ったことはないし、誰も何も強要しないし話しかけても来なかったけど、できることはけっこうあるよ。

「興味深い。もしかすると被験者の能力の一部を継いでいるのかもしれませんね。
・・・それで女の方はそのことを知っていたのですか?」


こいつがまたひとのはなしをまったくきかなくてな。
オレもね、だんだん説明が面倒くさくなってきてたし、側でキンキン騒がれるのも、鬱陶しくなってから、そろそろ戦闘に乗じて離れようかな〜って少しだけ脇にそれるつもりで茂みをかき分けたら

「「「たら?」」」」

いたんだよ。
ひとがな。
それもタイミングよく馬車の御者らしくて、「漆黒の翼!」と勘違いされた挙句、勝手に怯えて騒いだ後、なんだか勝手に誤解を解いて納得して勝手に話はすすみ、女と御者が話していて――
そのころには朝が近づいてきたせいで、オレの意識はブラックアウト。

「え。そこで終わりなの?」
「どうやって女とそのまま馬車に乗った?」

ああ、気付いたら荷馬車に乗せられてゆられてた。
目的地?しらない。
だってようやく起きたのねとかいわれたときには、もうエンゲーブってとこについてたんだ。
日は高く上がってたから、意識がぐらぐらしてて。

そういえば『漆黒の翼』が、ボイン☆ベコボコの三人組って知ってるのに、つかまらないってのもわけわからない。
途中で本物の『漆黒の翼』がいたらしいんだけど、一目見てそれとわかって軍艦が追ったらしい。
義賊だろうが誰だろうがさ、そいつらが『漆黒の翼』で“奴らは男女の三人組”なんだって、みんな知っているくせに、なんでいままでつかまらなかったのかなぁって思った。
結局捕まえる気が誰にもないってことだと、オレは判断したね。
知ってるのに捕まらないってことは“そういう”ことだろう?
たぶんその軍艦の奴も同じだったんだろう。
義賊でも泥棒であるからには追うのが軍人の務め――それが正しいかはマルクトのルールしらないオレにはわからないけど――だから名目用は追ったけど、義賊だから捕まってほしくなくてわざと逃がしたのかもね。
まぁ、それにしては代償が「橋」とかとんでもないけど。

やっこさんが無理やり『漆国の…(以下略』をおいかけるから、ローテルロー橋が落ちたってきいた。
軍艦はものすごくばかでかくて、凄い騒音を立てて通ったのにあなたよく寝てられるわねって女に嫌味をいわれたから忘れないね。
オレの体内時計は正確なんだ。起きるわけないだろう。
朝なんか起きてるかよ。
体質が人と違うんだから仕方あるまい。

馬車をおりるときもうっかり足をふみはずして、そのまままた眠くなって寝たら、御者の人が物凄い心配してくれて、宿まで案内してもらったな。
意識がもうろうとしてたから覚えてないけど、村につけば、保護してもらえるのなかぁ〜と思ってたら、「漆黒の翼だ!!こいつらが盗んだに違いない!」っと、“ちがいない”ってあいまいなたかが感情論で、あげく噂にある『女が一人いる三人組』ってことでとっつかまった。
女、御者(オレを支えていただけ)、オレ。たしかに三人だな。
っで、捕まったのよオレ。

「「「「・・・・・・」」」」

「ねぇ、なにそれ?」
「過剰すぎませんか?」

でも本物の『漆黒の翼』はつかまらない。
ってことは、よほど下々の皆様は『漆黒の翼』を義賊として信頼していると――かばったんじゃねーの。
その村には、ちょうど橋が壊れる原因となったマルクト軍がいたんだ。
軍としては義賊といえど、賊であるからには捕まえたいだろう。
それに橋を落とされたという負い目がある。橋の責任はきっとマルクト軍がとることになるだろうから。
ちょうど泥棒騒ぎもあったから、そういうわけでオレたち三人は捕まった。

「たしかに。あの眼鏡軍人なら責任をなすりつけるぐらいしそう」
「……ジェイドの悪口を言うのは許せませんが。
これ、本当にあなたのレプリカですか?思考回路があなたのはるか上をいってませんか?」

「つくったお前が言うな」

――っと、思ったのはオレだけで。

「「「オチ、あんのかよ(あるんですか)!?」」」

オレが深読みしすぎただけで、実際は深い意味はなく。
商品が盗まれてイライラしてたところに不審な、軍人病人御者、なぁんてボイン&でこぼこがきたせいで、見事に勘違いされたらしいな。
『漆黒の翼』は女(ボイン)男(デコボコ)の三人組っていう話だから。

「ああ、ボインね」
「そこであの偽軍人女がつながるのかよ」
「きょう、きん…」
「やめて!そこでそういうこと言うの!なんか君に抱いた夢も何もかも崩れるから!」
「ヴァンの妹への夢は崩れないのですか?あれもボインですよ?」
「「「はじめから夢なんか抱いてない(よ/です)」」」

オレが『漆黒の…』の“ボインもとい女”っていうポジションにさたら泣いたが、とくに性別の誤解はなかったのでスルーする。
やはり義賊とはいえ盗まれたエンゲーブ側はたまらないらしく、今回の物取りも『漆黒の翼』じゃないにしても犯人は捕まえたくてしょうがなかったようだな。
まぁ、当然だな。営業妨害したんだ。
犯人は捕まるべきだ。
国の運営にさしさわる。

「まさに慧眼ですね。あのような些細な村でのいきさつさえも気に留めるとは」
「あーあ。屑屑言って自分のことしか見てないだれかさんとは大違い。
こんなめにあっても自分のことばっかじゃなくて、周りのことを考えて、国を心配するなんてね」

「いいこ、です」
「…ちっ」

いや。基本はオレの安定した生活のためであって、そこに物資、食料は欠かせないための考えに過ぎない。
結論的には最終的には“オレのための隠居生活”そこにしか辿り着かないしなオレは。

「そういえばタルタロスにのってたけど」
「どう、して?あそこに?」
「そこまでになにがあった?むしろいい加減この手を離せ」

えーっと。
導師と眼鏡の青い男がいて、ローズさんだかローザさんってひとの家にほうりこまれたとき、眠気がマックスになって意識飛んでからよくわかんないんだけど、たまたま導師が犯人はチーグルだって気付いたことで、泥棒とか勘違いってわかって解放されたらしい。
オレは日中のだるさとかもろもろの事情で意識がなかったので、導師がどんなやつかさえみてないがな。

でもさ。それって泥棒のせいで我を忘れていたにしても通りすがりの客でしかない導師じゃなくて、村人自身で見つけるべきだったと思うんだよ。
むしろなんで一回訪れただけの客が、チーグルの毛をみつけられて、毎日いる村人がきづけないのか不思議だよオレ。

「まぁ、トウダイモトグラシとは言いますからね」

なるほど。日常的にチーグルの毛をみてたから、そこにあることも気付かなかったってことか。

「?ママも。チーグルも、めったに森から、でませんよ?」
「「「・・・・・・」」」

ならそのイオンってやつがチーグルの毛でも持ってきたんじゃねーの。
服にくっついていたとか、はたまた実は犯人だから知ってたとかな。
むしろ毛でチーグルってわかるところが、導師が犯人ってことだろ。
違うなら、よっぽっど導師って暇なの?って言いたくなるわ。

「なんで?」

だってチーグルの毛が白かったら?髭の手入れをしたばかりのひとのもものかもしれない。髪の毛の一部かもしれない。床屋さんの付属品かもしれない。人の毛、あるいはそれ以外の毛がたまたま落ちていないとも限らない。
犬の毛かもしれない。
見みただけでなんの毛かわかるって、つまり毎日にその毛をさわっているかでなじみがあったか――毛の専門鑑定家とかか?
毛の、専門家――っぷ。笑える。
それとも魔物と戦いまくってめちゃくちゃ詳しいとか?暇を持て余して魔物狩りでもしてんの?なに、導師ってあんなナリで強いの?

「…なんかいろいろ真実味があって、僕、導師が犯人だって言われた方が正しい気がしてきた」
「い、イオン様は、そんなこと、しないです!・・・たぶん」
「以前の導師ならしたな。魔物狩り」
「…きかなかったことで」
「そ、そうですね。それでどうしてジェイドに?」

オレは夜行性だから、しばらく寝て目が覚めたら、宿のベッドの上で、女が寝ているのをいいことに逃げようと思ったんだ。
ほとんど関与されない、記憶もない、日中は起きてないようなオレでも、まぁ立場的には次期御王位継承権も持っちゃってる公爵家の嫡男――っていうことなので。
迎えに来ると思うんだよ。そうでなければすでに保護要請が入っているハズだ。そこがマルクトだというのはすでに聞いていたから、待ってれば、超振動の形跡をたどってファブレの迎えがくると思ったんだよ。

いや、絶対来るはずだったんだ。そこにいれば。

キムラスカ上層部で、たとえ緘口令が敷かれて、オレがいなくなったことが“はじめからなかったこと”になっていたとしても無駄だね。

なんか誘拐犯のダアトの女が、オレの名前をずーっと大声で連呼してるもん。それはもう見事な声音で、何度もな。
こうなってしまえば、オレの素性なんか隠し続けるより、早く身分をばらして誰かに見つけてもらった方が、早く身の安全を守れる。

それに、例えば…ファブレ侯爵は息子を愛していないとしよう。
その愛していない息子だとしても、世間的には立場がある。
ファブレ公爵、いや、公爵でなくとも王は、外分を気にするだろう?
“その立場”と、『世間一般の皆様がするであろう』キムラスカへの評価を彼らは何があっても守ろうとする――そういう立場にいるのだ。当然だな。
彼等は当然キムラスカの評価をおとしいれたくはないだろう。
そうすると、保身のため、キムラスカは必然的にオレを探す。
そうじゃないなら、嫌でも探さざるをえない風においこんでやるだけさ。

そもそもオレが“外”を歩いている時点で、キムラスカは動く。

外見的要因から“赤毛の16歳ほどの男”が“何者か”を理解した人々は、オレをとおして『キムラスカ人』というものをみるだろう。
そのときオレがした行動ひとつで、『キムラスカ』ってこうなんだなって、みんな思うだろう?
それにともない「なんでこんな場所にキムラスカの王族がいるんだ?」って疑問を持つ。
そうすれば上層部が隠していてもいずればれる。

内がダメなら、外堀から埋めるだけだ。

貴族が口をつぐもうと、先に平民の皆様に噂が広まればどうなる?どんなに愛していない息子だろうと、捜索隊を出すのが嫌でもファブレ侯爵は面目を守るためにはオレをさがさざるをえないってわけ。
つまりオレが赤い髪を隠さない限り、あるいはあの誘拐犯の女の口をふさがない限り、キムラスカはオレを探さなければいけない。

「あ、だから。髪、かくさないです?」

さて。どうだろうね。
わざわざかくすのも面倒だったというのもあるけど、時間がなかったってのもある。
まぁ、髪の色をさらしてれば、絶対に迎えが来るのがわかってるから、隠してないのも事実だけど。

「…とんでもないのが、よくあなたからうまれましたね。慧眼とかそういうのじゃなさそうですよ。これ。
はっきりいって怖いですよ将来が。いえ、今も十分怖いですが」

「……自分でもここまで違うことに驚いている」
「だろうね。あんた、周りも見えないほどに短気だったし。“違う”ことに気付かなくても仕方ないよ」

あのあと、とりあえずキムラスカになんんとか連絡を取って、やつらがいなくなるまでは、大人しくどっかでかくれてようとしたんだ。
だから夜に目が覚めてすぐに宿屋を出た。
その途中で馬車の御者にあって、オレが意識飛んでた間の顛末を聞いた。
こちらの事情も話せば、凄い驚いてたな。

馬車のひとが、あの女から逃げるのと、次の町にある領事館まで協力してくれると言ってくれたが、断った。
今は夜。明け方であろうと、まだはやさすぎた。こんな時間に馬車を出せば、またいらぬ疑いをかけられかねないからな。
疑心暗鬼の村をし毛するのは面倒だ。
だから、逃亡するなら徒歩だ。
目立たなくていい。
マルクトの軍人は、ほら、イオンが一緒にいるから近寄りたくなかったしな。

「なぜ?イオン様は導師ですよ。マルクトもキムラスカも関係ない中間の人間でしょう?それにあの温和な外見から敵と判断する者はすくない。むしろ考えもつかないと思いますが――ああ、あなた、そのときイオン様の顔を見ていなかったのでしたね」

そう。その時のオレは、イオンが盗みの犯人の一味だと思ってた。
まだ姿も見てなかったから。
そのイオンを連れてるマルクトの軍人なんか関わりたくもなかった。
キムラスカからの保護連絡がマルクトの方にあったはずだって?
あの陰険眼鏡の似非軍人がその一報を受け取ってたら、この赤い髪みてすぐに保護してくれるだろう。なんせ今のオレは隠してないんだから。
それがなかったってことは、その軍人は連絡を受けていないか、無視をしていたか。
はたまたマルクトのお偉いさんが、超振動でふっとんだ王族の息子の存在を隠蔽したか。
どちらにせよ、オレはそのマルクト軍人とは一緒に行く気はなかったんだ。

一時身を隠そうと森に入ったのが悪かったんだな。

「そこで森に入る選択をする貴方が信じられません。森には魔物もいるんですよ」

魔物の方が人間より安全だと思えたんだよ。
彼等は言葉ではなく、実力と感覚で理解する。まして、彼らの領域を侵さなければしかけてこないのはわかりきっていたし。

「なるほど」
「もしかしてそれぐらい実力あったりするのあんた?」

さぁてね。

それではいってすぐに、導師イオンがいた。
オレに何の恨みがあるんだと思うぐらいの絶妙なピンポイントの位置に。
最初はそれが導師だとか知らなくて、魔物に襲われかかってるのを目撃した。
ちなみに一人で倒してたよ魔物。
でも突然倒れたんだ。
面倒事にはかかわりたくなかったから、しばらくみてたけど魔物はそれ以上来なくて。
安心して近づいて、つついてみた。
それを不快に思ってか目を覚ましたそいつが、「僕のことを守ってくださったんですね!ありがとうございます!」と目をキラキラさせていってきて、意味わからなくて違うと言おうとしたら、

「今度はなんです?」

でたんだ。

「なにがさ?もったいづけて話すのやめてくれる?」
「オバ、ケ?」
「そこは魔物だろ。普通」

いや、違う。あのダアトの軍服きた片目が鬱陶しいキンキン声の勘違い女が。

「うわぁ・・・」
「このあとが目に見えるようですね」
「なんて間の悪い奴だ」
「です」

オレが呆然と抱き上げてるこどもが、そのとき初めて相手が導師だと知った。
オレは思ったね。導師が何でエンゲーブの森の中にいるのとか。なんで守護役もなく、ヒトリなのとか。
ああ、きっとこいつも自殺志願者なんだろうって思うことにしたよ。
むしろなんでマルクト軍となかよしこよししてんの、ダアトの軍人で誘拐犯のお前が?とかね!その場の謎の現象についてはつっこむところはいっぱいあったけど、ありすぎて言葉を発するのも面倒だからまたちょっと省くよ。
それに奴らの名前とか階級とか、オレが聞かなければ関わらないで済むと思ったから、とにかくやっこさんを追い払うべく、元凶たる導師イオンをたたせようとしたんだ。
自分で歩いてどっかいってくれって思ったわけ。
だってここまできたんだし、一人で帰れるか先に進めるだけの準備は当然してるはずだろうし。それに誘拐犯とはいえダアトでの地位を名乗ってダアトの軍部苦を着てる女もいるからオレが守る必要性は感じなかった。
ダアト滅びろ思考のオレに、導師を守る義理もない。たとえはた目に準備何もしてなさそうな導師と役立たずな女軍人であろうと。しったこっちゃない。
っで、立たせるべく手を伸ばせば、こんどはオレのような変態が触れているのは失礼だと女が騒ぎ、騒いだことで魔物が来た。
オレもさすがに馬鹿騒ぎしてこれ以上武器も何もない状態で戦うのもいやで、キャンキャンさわぐ女の腹ちょっと殴って気絶させて、イオンとやらがびっくりしてるのも無視して、二人をひきずって森の入口まで戻ったよ。
途中でチーグルみつけたからそれも捕まえて、チーグルが犯人だって言ってたから、途中で拾ったそいつを証拠物件としてそのままイオンとやらにもたせ、ローズさんだかロザンナさんだかの家に放り込んできた。
朝早くの来訪に彼女も村人もびっくりしてたけど、オレはまだ心優しい方だと思う。
偽軍人女にサンザンののしられたのもかかわらず、彼女が守るべきどうしを代わりに守ってやって、あげく安全地帯まで二人を連れてきてやったのだから。
あとはそっちでなんとかしてくれと、とにかく女が意識をなくしてるいまがチャンスだと、また森にいったんだ。
綺麗だなーって歩いてたら、ライガクイーンに出くわした。
途中にライガと何度か遭遇したが、これといって彼らが襲ってくる気配はなかったな。

「は?」
「なんでさ?」

やはり無意味に騒いだり、敵意を少しでもあるから襲ってくるんじゃネェの。
おれ。平気だったし。
あのイオンってやつでさえもすぐに攻撃なんかするから襲われたんだと思うぜ。
ああいうのは、流れに任せるに限る。

「お友達も、ママも、自分より上には近づかないです」
「上?君より各上なのこれが」
「(コクリ)」
「第七音素の影響かもしれませんね」
「あれ?じゃぁ、導師はなんで襲われたわけ?あれも第七音素の塊だよね」
「…魔物は、あまりに弱すぎるような死にたがりに近寄らなかっただけ…とかないか?」
「各上、です」
「「まじかよ」」

そこにいたライガクイーンにはこどもがいたんだ。
言葉はわかんなかったけど、子供を守ってるのを見て、さっきのライガたちもこの子と母親を守ってるんだなって納得した。
そう思ったら、生まれてくるこの子たちを見ていたいって思った。
でもそれには、あの場所は村が近すぎた。
人は見えないもの、知らないものを恐れる。
そこには“知ろう”とする欲求より、先に“恐怖”が先立つ。
恐怖が先立つと、人ってのは何するかわからないからな。
しかもいまエンゲーブは疑心暗鬼になっている。
ライガたちのことがみつかったら、そく討伐部隊が組まれるんじゃないかと思って、物は試しと話しかけてみた。

引っ越すなら手伝おうか?と。

ライガクイーンはキョトンしてたけど、すぐに笑てった。
いや、獣だからいまいちわかんないけど、あれはたぶん笑ってたな。ガハハってかんじで獣が咆哮すんの。

ここにいると危ないかもよ。
なんか村で盗難事件があって、毛のある動物がひととおり疑われてるから。
近いうちに人が森に入ってくるかもしれない。
そうするとライガが多いのに気付いて、討伐隊もくまれるかもしれない。
子供も一族も誰かが死ぬかもしれない。

そうつげたら、クイーンは少し考えるようなそぶりをした後、顔を摺り寄せてきた。
そのまま遠慮なく触らせてもらったけどな。
いや〜、あのもふもふは素晴らしかった。可愛かった。
あと、あの優しい目ね。
家では見たことないようなすっごい優しい目。同情と後悔の眼差ししかくれない目はいらない。ああ、母親ってこういうのなんだって思ったよ。

「わたしの、ママです」

ああ、あんたの。あんたのママ凄いきれいだな。
優しくて強くて。

――あったかかった。

「っ・・・おまえはずっとそれを手にしていたんじゃないのか?」

親の愛?――記憶をなくしたことへの同情が愛なのですか?「哀」の間違いじゃなくて?
それって愛じゃないよね?

「!?」

ガイなんかいつも殺気立ってるし。
眠りを妨げられるのは好きじゃないので、その小さな殺意さえへし折る気で潰してやったけど。いまじゃ大人しいよ。
父上は気付いてないのか知らないけど、ガイの暴挙れをほおっておくし。
父上が雇ってんじゃなかったから排除したよ。安眠妨害の罪としてさ。
そういえば父上に話しかけられたのも指でかぞえられるぐらいじゃないかな。
使用人とは話すなってうっさく言う執事もいるし。会話しなきゃ、頼みごとも命令もなにもできねぇよとツッコミかえしてやったがな。
母上?本当に会う機会少ない人No2だね。
オレもそうだけど、彼女も寝込むことが多いから、スレチガイが起きてるんだ。
ナタリアなんか一撃必殺で魔物が音素に還りそうな劇物という名の手料理をやたら持ってきて食わそうとするし。
それらのどこらへんが「愛」?

ああ、もう。オレいっそのこと穴の中とか、書庫の隅でいいから、存在忘れたような小さな場所でくらしたい。
人の目がめんどい。

「話ずれてますよ。ライガクイーンはどうしたんです。
近くにジェイドがいたならライガクイーンもただではすまなかったでしょうに」

「ママ、元気ですよ?」

そうだったな。うちの家庭の事情はともかく、厄介ごとが起きる前にと――クイーンにつげたら、卵を振り返るわけだ。
動かせないんだなってすぐにわかった。けど、討伐隊が組まれるのも時間がない。
へたすると村人たちがあの軍人に相談して、軍人がいる間にことがおきたら、ライガたちなどあっというまに駆逐されかねない。

馬車の御者からある程度の旅に必要なものは一式もらってたんだ。
もちろん金なんかないから、物々交換で、オレが持っていたもので高く売れそうなものと交換してもらってな。
多すぎるって言われたんだけど、彼には『赤い髪の貴族のこどもがうろついていた』と噂を流してもらう必要があったから、多い分はその分だってことにして頷いてもらった。
オレのボタンには、まるで迷子防止のようにファブレの紋がはいっている。それを市場にながせばすぐにどこで手に入れたかきくだろ?それを逆利用させてもらって、助けを呼ぼうと考えた。

まぁ、そんなわけで、いまある毛布とか服をやぶってつなぎあわせて、そこにその辺のつたとかで補強して、葉っぱをたくさんしきつめて、カゴをそくせきでつくった。
クイーンは頭がいいな。
すぐに意図を理解してくれて、それにたまごをいれて運んで行った。
最後までタマゴを心配してた。優しいな。
あ、あんた娘なんだっけ?あとでどこに移動したか教えてくれるか?また会いに行きたいから。

「わかったです。ママもよろこぶ、です」

ありがとう。
さぁ、荷もなくなったからどうしたものかと、森をみてたんだ。
さっきも言ったように、卵を補佐するような籠を作るだけの大きな葉も、小さな葉も蔦もある。
果物程度ならあるようだし、どうもオレの側に獣はこない。
なら、しばらくは死にはしないだろうと思ったんだ。

「なんてアウトドア派。あなた、本当に軟禁生活してたイイトコの坊ちゃんなんですか!?」
「宿を取ろうとしないところが凄いね。ダアトの兵だって、とまるなったら誰もが一番に宿!って思うよ」

そういうものなのか?実際に宿とか泊ったことないし、お金ないし。
世間のことなんかわかんねぇよ。

「・・・変な世間ずれんしかたしてますね」

街に戻って疑われたり騒がれたりするぐらいだったら、このまま森にいた方がいいかなって。
ライガクイーンがいた場所だから、へたな魔物もしばらくそこには近づかないと思ったんだ。
そこで数日やり過ごそうと枯れた枝を探しに焚火の用意をして洞窟に戻れば、そこへ青い軍人と導師とキャピキャピした変な子供と、あのダアトの軍人女と鉢合わせたんだ。
どうやらあのあとチーグルが「ダアトの聖獣だから!」というクソくだらないバカげた理由で導師が、森に再挑戦したようだ。

「導師をクソって言ったし!?」
「あんた…絶対予言狂いの連中に殺されるよ。いつかさ」

だったらそれはそれでいい。むしろそれで死後の門がくぐれるなら願ったりだ。

「――そういえば、あんた、あっちの門番に追い返され続けてるんだっけ」

導師なんだけど、さすがに目が覚めていた軍人やらに引き留められ、しかたなしに全員を引き連れて森のチーグルに会いにいったらしい。
そこにはアイテムでしゃべるチーグルがいて、チーグルのこどもがおふざけで森を燃やしたからライガに森を去るように話し合いに行く最中だったと言う。
聞けば、「ライガと交渉しましょう」ってことらしく、説得っていってもどうもなにもかんがえてなかったらしい。
でも話を聞くと悪いのはチーグルで、物を盗んでいたのもチーグル。しかもチーグルがそうした理由が、自分たちがライガの餌にされないためで。
でもイオンってやつはどうも「チーグルは食べないで!チーグルをゆるしてあげてください。ここからとにかくどいて!」って言うつもりだったとか。
ちなみに導師の後ろに控えていたあのダアトの女軍人とキャピキャピな子供軍人は、「イオン様はなんて心が広いの」とか「相手は肉食よ!このままでは人を襲うわ」「そうですよぅ!そんなやつらすぐに殺すべきですよ!」とかほざいていた。
被害者である彼らに逃げ場も用意せず、何たる体たらくか。
どこにいけとかもなくだ。

何も知らず危険が近づいてるから引っ越した方がいいよと言ったオレよりひどいんじゃないかね。

だって彼らはすべての事情を知ってなお、チーグルだけをかばい、人を襲うからライガあは殺せ。だよ。
しかもクイーンのところに一直線にきたということは、クイーンを殺すためだろ。
それってクイーンを殺したせいで、あとでライガが暴れてもいいのかよと思ったけど、あまりの煩い奴らに言葉を遮られて何も言えなかった。

あいつらの話おかしいんだよ。

ただ火災の難を逃れてきただけのクイーンやライガが(肉食だから)全面的に悪いの一点張りで、そこにいた導師一行いわく、チーグルは謝ってるから許してやれって。なにそれ?って感じじゃね。森が燃えたせいでどれだけの生き物が死んだかわかっているのだろうか。
なんとか生き延びて逃げ出したのもライガだけではないはずだ。
居場所を失ったものがどれだけいるだろう。それにくらべてチーグルは住処も残っていて安泰で――。動物たちの問題に人が入るのはひどくおかしいが、チーグルの罪の重さが異常に甘い。外見に騙されすぎじゃネェのと思ったね。

チーグルはよくて、だというのにライガは肉食だから殺さないとだめだと、騒ぐ軍人ども(とはいえそう叫ぶのはダアトの女軍人ズがメイン)。
森を燃やされ住まう場所を奪われた奴にそれはないだろう。

チーグルが何を盗んだか知ってるか?
果物とか果物とか、野菜だ。
もう一度言うけど、みんなのご存じのとおりライガは肉食なんだよ。

「ん?それではおかしくないですか?」
「食料を運ぶことを条件にチーグルはライガにみのがされていた。だけどエンゲーブでチーグルが盗んでまでかきあつめた食糧は・・・・・・野菜?肉食のライガに?」

チーグルが盗んだものをライガにささげてもライガの腹は満たされない。
もっぱら盗んだものを食べていたのはチーグルだった――ってことさ。

「なっ!?まさか…」
「ママ。チーグルたちをゆるした、です。起きてしまったことはどうしようもないと。だけど、人間がくるからそこにはいられなくなったて、言ってました」
「つまり全部悪いのはチーグルか」

謝罪のつもりだったチーグルのおこないのそのものが、ライガを破滅へおいやろうとしてたわけ。
オレからしたら、チーグルってすごく達が悪い…悪賢いと思うよ。
自分たちの身を守るために、先に人間の手を使ってライガを排除しようとしたんだろ。
だからエンゲーブから物を盗んだ。
―――オレにはそう聞こえたんだけど、どうなんだろうそこは。

チーグルはアイテムで人間と話ができる。いくらだって自分たちに有利なことを言って、人間を先導することができたからな。
さらには教団の聖獣っていう地位がある。
絶対的なその地位と、大人しく草食の獣。しかも言葉が通じる。そうなれば、人間は肉食の獣の言など信じるか?いや、言葉の通じない魔物の話より、聖なる獣の『言葉』を信じるだろう。

もう一度考えて、誰が悪い?

「「「「チーグルです(ね/だ)」」」」

そんな生き物を庇う導師やダアトの軍人をみて、オレはますますイオンってやつが信じられなくなったわけだ。
だから一緒にいたくなかったし、いくつもりもなかった。
でもからんできやがったんだよ。
オレがあのときイオンを放置したから怪我したとか。意味わかんねぇっていえば、あのときにさっさと事件を解決させなかったから、またイオンが飛び出したっていうじゃないか。
そこまで保証はできネェよ。
しかもオレが会った時にはすでに怪我をしていたとかで、なんですぐに回復しなかったと怒られた。
怪我してたのかよ。
アイテム無し。しかもひとりでいくとか――自分の地位を理解していない自殺志願者だったんだろうやっぱし。
それでどうこういわれても、なんでオレのせいなの?連れ帰ってやっただけありがたいと思えよな。
しかも僕が悪いんです。って言った導師が、被害者のような悲しげな表情でオレをみるってなんなの!?わけわかんねーよ。
おかげで「あんたのせいで導師様が怪我をしたのよ!」とわけをしりもしない女どもが叫び、あげくオレは女を殴った悪者。
なぜかオレを連れて歩くことが好きらしい自意識過剰ダアト女が、これまたおもしろおかしく、痴漢だのああだのないことばかり言いまくった。
オレをみる周囲の目が冷たくなったね。
しねばいいのに、というかオレが死のうってかんじだった。
じゃぁ死ねばいいんだろうと、ナイフをよこせとたのんだら、「死んで逃げる気!」とののしられた。

そこで眼鏡の青い軍服きたやろうに頭を地面にたたきつけられるかんじで、地面に押し付けられ「女性に暴行を加えるとは最低ですね」とこうオレをニヤニヤみて言うわけよ。

ああ、こいつオレの素性を知っていながらの暴挙だと直感したさ。

頭を押さえられて、地面についた頬が痛い。「いたい」と呟けば「女を辱めたんだから当然よ!」とはじめてみるツインテールの少女にけなされ、とりあえずそこで(昼夜逆転してるから)ついに体内時計が朝を示して限界で倒れた。

次に目を覚ましたら牢屋にいたかな。

「「「「だからタルタロスにいたのか」」」」

そういうこと。
そのあと、捕まったようだよ。たしか理由は、不法入国。
謎の第七音素発生源で、不法入港したから捕まったって。
でもオレを変態呼ばわりする勘違い女は、事故でオレと一緒にいるとか言って同情を引いて彼らに取り入ったようで、イオンと同じ貴賓室にいたらしい。
オレ、なんで牢だったのかな?

それで目覚めたことを知った大佐とやらがきて、牢から出たかったら協力しろと言われた。
断ったよ。だって理由がしりたかったら、でもあいつらまず協力に頷けっていうんだもん。アホかって思ったね。
しかも導師、「ルークに協力してもらえば!」って、なんかもうオレがどこのだれで地位もわかってる口ぶりで、みなさん平然と<b>牢の中にいるオレ</b>に、「オレがあいつらにお願いすること」を要求してくるわけで。
それ逆だと思わね?普通はあのジェイドってやつらが「オレにお願い」するならわかるんだけど、なんで『オレが』する側になってんの?
そもそもあれだけ派手でばかでかい軍艦にのっておいて、なにが極秘事項だよとか思ったね。

っで、断ったらそのまま置いてかれた。

最後まで悲しそうな顔のイオンをみて思った。いつまでテメェが悲劇のヒロインなんだよって。
オレは牢の中にいて、あげく全面的に被害者はオレだ。泣きたいのはこっちだ。

「うわー・・・・ないわ」
「導師も、な」
「言葉の重みと地位を理解しない…まぁ、まだ彼も子供ですからね」

それでなんやかんやで突如艦隊がとまって、その衝撃で牢の扉があいた。
ラッキーと思って、まじで逃げようと決意したら、めちゃくちゃ肩幅の広い髭づらの鎌もった大男に出くわして、オレは関係ねぇって言ってんのに人質のごとく首に腕を回され武器を押し付けられそのままお持ち帰りされた。
途中で扉から出てきたところの大佐さんとやらと、導師と、うっせーツインテールのガキとダアト女がいた。
ああ、類は友を呼ぶか。そうやって非常識共が一堂に邂逅して何をたくらんでるんだかと、思わずため息をついたね。
オレは人質としては役に立たなかったようで、そのままオレなんかどうでもいいと言わんばかりに、大男につかまったままなのに、大佐とやらが槍で攻撃してきてさ、死ぬかと思ったよ。現にオレをかすって、大男の身体を槍が貫いていたし。
よけなかったら「ああ、いたんですか」で穴をあけられてた気がするし。

ああだこうだして、甲板についたんだ。
そこではじめて「導師を返せ」って敵が言ってるのに気付いて、オレは言ったね。
「帰れよ」って。
帰せって言いにくるぐらいだから、正攻法でここにいるわけではないのだろうからな。
そうやって導師を敵さんというより、導師の同胞だろう?返すのが当然とダアト兵にすぐさま押し付けようとしたら、「貴方何してるの!ばかじゃないの!」「相手は敵よ!」とか女どもにののしられてなぁ。
敵も何もこの導師が属する組織の人間だろ。オレやマルクト軍艦の奴らはともかく、騒ぐ女ども二人にしてみても味方じゃねぇーのかよというのが本音。

なんで「オレが悪い」ってことになってんのって思ったよ。

ちょうどそこへ、



――― お前が降ってきた。



一目見て思ったね。同じ顔だ!って。

「きもちわるい、とかおもわなかったのか」

いいや。むしろ好都合だと思ったね。

「「「は?」」」
「?」

オレのかわりにオレの服でも着せてこの場に置いておけば、こいつがやつらの相手をしてくれるかも!ヨッシャー!逃がしてなるものかー!!と、オレは思っていた。
このまま捕まえて連れ帰れば、オレはあの屋敷から解放されて、はれて待望の隠居生活をできる!!
ご落胤?隠された双子の兄弟?ただの空似?被験者?レプリカ?なんでもいい!とにかく逃がしてなるのもか。って、思ったからには、何が何でも放すまいと、切りかかってくれたのをいいことにそのまま刃だけよけて側に来た腕を捕まえて、「屑!」といわれようがならばその屑の威力思い知れとばかりにしがみついていたわけだ。
っで、現在進行形もこうしてしがみついてるわけだ。


「もしかして、あのときの“あれ”はお前が?」

そうだよ。察しがいいね。
そのあとようやく導師を彼らの場所にかえせそうだったとき、邪魔するように現れたガイだね。
あれがいなければことはうまく進んだのにとか本気で腹が立ってね、殺気飛ばした。
あいつ年上なのをさかてにあることないこと言ってるは、人を見下してくるわ、いい加減腹がたってたんだよ。小さい頃は毎日夜中に侵入してくるから窓にも扉にも鍵かけて追い出してやった。
それでもあきたらず笑いながら殺気向けてくるから、オレも殺気で返すようにしてるんだ。
なんかオレの殺気って人も気絶させるぐらい強いらしいね。
血の気を引いて泡吹いて倒れたガイの笑えること。ざまぁ。

「だからガイが…」
「アリエッタ、おかげで助かったです」

そりゃぁ、よかった。
あのえせ軍人どもにいっぱい食わせられたようでスッキリだ。

「すえおそろしい…」
「ねぇ、ほんとうにレプリカって劣化するの?話聞いてると、あのヒゲよりぬきんでてるように感じるんだけど」
「そうですねぇ。いえ、もうこの際何があっても驚きませんよ私は」

おかげで導師もちゃんと奪還できてよかっただろ。
それでオレはこいつと離れたくなかったから、あんたらが帰るときも一緒に連れてってて頼んだわけ。





**********





そんなわけで、ただいま六神将の拠点で、シンク、アッシュ、アリエッタ・ディストと仲良く会話中。
リグレットはオレのことも含めて上に報告中のため不在。
ラルゴってのがあの大男の名前らしく、ただいま処置室で治療中。
オレも槍がかすったの治してもらったよ。いやぁ、ダアトの人って意外と優しいのね。
かすっただけとはいえ、オレも血が結構出てさ、血まみれのオレとラルゴをみてすぐに治療してくれたんだ。グミじゃないよ。治癒術だ!
なんてやさしい。あのダアト女はオレが怪我してもできるだけグミはケチって言うし、治癒術使えるくせに絶対かけてくれなかったもん。
むしろあいつの治癒さ歌う時間が長いくせに威力弱いんだよな。
いっそのことナタリアの方がはるかにうまいし威力も強い治癒術師だと思うな(すべてはあの有毒料理の被害者を治す旅に上達していった)。

それで六神将と話をしていてわかったんだけど、やっぱり導師はマルクトに誘拐されてて、そのせいで仕事がたまっていたんだって。
オレ、いいことしたね。

お礼とばかりに、ダアトの方からは、ちゃんとキムラスカに子息を保護したって連絡してもらったし。

もちろんその間もアッシュの腕は放さなかったよ。
ここまで似た顔の奴、そうはいない。逃がしてなるものかってね。



「あ、じゃぁ、キムラスカまで送ろうかルーク?アリエッタがお土産にそこのデコを一緒につけてくれるって」
『いいのかシンク!アリエッタ』
「よくない!オレはかえらねぇ!!」
「アッシュ、うるさい。うん、いい!ママ。助けてくれた、し。アリエッタ、ルークの役に立ちたい!」
『うんうん。ありがとなー。
あ、でも今度からこっちが“ルーク”な。
オレのかわりにこいつをキムラスカに送るんで、こいつがルーク。オレはどうしようかなぁ。アッシュなんて名乗ったらダアトでの軍人生活が決定してるから、じゃぁ適当に“アザナ”でいいや』

「“帰るか”って言ってる時点で、誰か何かをアッシュにつっこむべきでは?」

『「「え。めんどい」」』

「シンク、アリエッタ、あなたたちルークに感化されてますよ!!」









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