|
02. 七年目のヒキコモリと最強ガール |
side 『夢主1』どうも今世の両親は金持ちだったらしい。 前世の記憶が戻ったせいか物事すべてにやる気をなくしたオレは、 いい具合に過保護らしい叔父――しかもなんと王様だそうだ。すごい身分なこったで――が、 外出禁止を言い渡してくれたものだから、それをありがたく受け取り、彼らが甘やかすままに……ひきこもった。 なんか「前のルーク様が」どうとか、よく聞こえるように噂する奴らがうざかった。 あれでわざとじゃないと言うなら、大人のくせにあれを“カゲグチ”と呼ぶなんて相当頭悪いんじゃねと笑ってやっただろう。 残念がら今のオレにはそんな気力も怒鳴り散らすほどの情熱ともる感情もなく、ただただひたすら内心で思っただけだ。 ――記憶がないんだから、前のルークがどんなのかもわかんねぇよ。 結論、オレが出した答えは、面倒だということだった。 言いたければ言わせておけばいい。 だってオレがそれでこの家を追い出されるわけでも衣食住を失うわけでもないのだ。 記憶はないから友達なんかいないし、何も気にするものがオレにはない。 使用人たちが悪口を言ったからと、それでオレの待遇がそれでわるくなるわけではないしな。 無視したぜ。 目が覚めてから、あれから七年。 どんどん前世の記憶は甦るのに、いっこうに十歳までの片鱗さえ思い出さず、すっかり記憶喪失だと言うことを忘れて過ごした。 動けば動くほど、それに連動した前世の記憶が呼び起されるのだ。 これ以上の知識も経験も要領オーバーだと、できるだけ前世の記憶が戻らないように動かず、優雅に日々のほとんどを寝てすごさせてもらった。 怠惰に暮らしたことの弊害は、筋肉がつかなかったことだろう。それにたぶん平均より身長が低いことぐらい。男としては悲しむべきなのだろう。 まぁ、ひきこもっていたのだから当然と言えば当然だ。自業自得だな。 さらにここ七年ですっかりやる気のなさが顔に出ているらしく、しかもここ連日の寝不足が続いているせいで、頬の赤みがなく――とにかく酷い顔だ。 顔に最近陰が出ているようだ。 鏡を見て驚いたよ。 死んだ魚のような虚ろな目に、疲れきった老人のようにたれぎみの目。 やべぇわ。マジでヒキコモリの顔だわこれ。 なにせこの七年、寝るか食べるか本でも読むかぐらいしかしてない。そのせいで日光にあまり当たっていないのだ。 おかげですっかり肌の色が白くなっちゃって。顔にやる気という生気がみあたらないせいで、いかにも死人様な青白い顔立ちになっている。 う〜む。病弱と評判の今の母とどっこいどっこいじゃないのかこれは。 ひきこもりすぎたかとは思うが、本当にやる気がないので仕方がない。 面倒事嫌いだし。なにより誰も勉強しろなんて言わないんだぜ。 それにこんな酷い顔をしていても誰も何も言わないんだ。 しかも『気にしてない』わけじゃないんだ。だってオレの存在さえ気にされてないなら、カゲグチだって言わず無視するだろう? それがないということはある程度は気にしてくれているということ。でも何も言わない。つまり放任主義。 ひゃっほーい☆と好き勝手過ごしたくなるのは当然じゃないか。 そんなこんなで好き勝手やっているうちに、面白いものを見つけたことだってある。 あれはここで目覚めて一年ほどぐらいのことで、図書館というか書物が山のようにある部屋の奥のさらに奥に隠し通路なんか見つけてしまって ――あっはは。今ではそこから抜け出して、夜とか『外』で遊んでるぜ。もちろん変装してだ。 前世の体験を経験として思い出しちゃったから、身体を鍛えてなくてもそこらの奴らには負けないし。生まれつき(前世だけど)気配には敏感なのだよ。 おかげで活動時間が最近では昼夜逆転しているが、誰も気付いてないから問題ない。 それにオレには王位とか関係なさそうなんだよね。だからよけい自由に遊んでられるんだと思う。 だって王位を継ぐならそれ相応の学問知識は必要だろう?なのに、だれもオレに勉強しろと言わないし。 軟禁に近い幽閉状態。知識はむしろ与えないようにしてる風にしか見えない現状では、オレって王族としては期待されてないんだろうな――と、思ったわけだ。 ここまで酷い寝不足ややる気のない顔でだというのに何も言われないってことは、本当にオレに王位は期待されてないってことだよね。 だから国とか王位とかどうでもいいし。 たとえば『全部の食糧を輸入に頼ってるのに何を悠長にしてるの?プラントでもつくれよ』とか。 『福祉施設に金だけ与えても意味ないよね。必要なのは運営の継続じゃないの』とか。 『陸続きで、国が二つしかないのなら、争うより協力して互いのよし悪しを吸収しあった方が断然効率よく反映するよね国は』とか。 『予言って悪いことを聞いた方が回避できていいよね?言わないのはダアトが国をのっとろうとしてるから?』とか…本気で思っても気にしないことにした。 たとえ突っ込みを入れても「予言にはない」とほざくバカどものせいで言葉はさえぎられるのだから。 ああいうの馬鹿の一つ覚えっていうんだよね。 なんだか予言預言と年がら年中聞かされて、いい加減飽きた。ついでに人間に幻滅したし、予言信者にはあきれて物も言う気にならない。 オレのなかで「予言」とは、聞くに堪えがたい単語となった。 その予言を語る奴を見たら目が腐る。予言を聞いたら耳がエイリアン語をキャッチする――そんな気分だ。なんか疲れた。 おかげで今ではすっかり、奴らに関わる気も失せてしまった。 とはいえ、はじめから『手伝う』とか『国を良くしよう』とかそんな感情はオレにはないけど。 オレが怠惰に過ごしいても誰もなにも言わないから、何にもかかわる気がないのだ。 だって前世のオレは巻き込まれすぎていたし、それで人間とかうぜぇって思ったほどだし。 平穏大好きだ。ちくしょー。 そんなわけで、そのまま引きこもりを決めたオレには、この七年のインドア生活は、とても有意義にして十分怠惰を満喫した素敵な生活であったと断言しよう。 っが、一つだけ、その幸せの中にも不満がある。 どううか物申させてくれ。 何があったかを語る前に、まず生前のオレの得意なものを聞いてほしい。 生前のオレは、記憶力も悪ければ家族運なんかないも同然で、あげくいつもトラブルに巻き込まれてばかりいたが、料理だけはできるほうだった。 ――そこで言わせてもらう。 アポなしに奇襲しかけてくる皇女殿下とやらが「約束を思い出せ」と騒がしいのもわずらわしいし、 スパッツなうさんくさい笑顔の男が夜這いをかけてきて安眠妨害だとオレがブチギレて殺気をぶつけてやったらひるんだとか。 そういうのはこれから話すことを思えば何でもない些細なことだ。ぶっちゃけどうでもいい。 相手にそれでおびえられようが気にしない。 面倒ではあるが、おいはらえばいいことだ。聞いている振りしてうなずいておけば十分だ。ああいうやつらは勝手にしゃべって満足するのだから。 問題はその猪突猛進皇女の“手料理”のことだ。 あれだけはどうしても食べる気にならず、ナタリアがおしつけてくるたびに食欲がないと嘘を言ってしょぶ、じゃなくて――ガイに食わせた。食べ物を残すなんてもったいないからな。 毎回断ってるのだからいい加減いらないのだと気づけよと思うたび、オレの口からは重いため息がこぼれた。 鬱が悪化している自覚があったので、表面で笑うのももう無理だった。むしろ笑えなくなった。だるい。 それでもやたらと手料理片手に迫りくる少女に、オレはある日ついにきれたのだ。 いつだかナタリアに味見をしたことはあるのかと問えば、「ある」というし「旨い」と言う。 なんという味覚音痴か。 これが人様の税金で食わせてもらっている者の舌なのかと嘆き、しまいには自分で料理をしてそれを彼女に突きつけていた。 突然の思いつきと勢いでキッチンにはじめて立ったが、前世万歳。おかげで料理とか意外と何とかなるものだった。 突然のオレの行動に、ファブレおかかえのシュフや使用人たち目玉が飛び出さんばかりに驚いて呆然としていたが、彼らがそうやって固まったり騒いだりしているその隙をついて厨房を勝手に漁らせてもらった。危ないとかおやめください!と悲鳴が聞こえたが、無視した。 ああ、それにしても貴族っていいな。 優雅に午後のティータイムとか普通にあるんだから、金持ちは大好きだ。 さすが王族。さすが貴族! 紅茶はいい葉を使用しているのかうまくて最高のひとときだ。 だが、しかし。 その最高のひと時に、いつも手作り菓子を持ってこようとするナタリアは勘弁してほしい。 あの謎の物体を持ってこさせないように、庭に置いてある机にはあまるほどの菓子を作って待ち構えたところ、それ以降ようやく彼女の手料理攻撃がやんだ。 よかったな残飯処がか、じゃなくてガイ。お前死なずにすみそうだぞ。 でも気がつけば、屋敷内でオレの趣味が菓子作りであると勘違いされていた。 いつどこでだれがそんな面倒くさいことを進んでやるものか。 これもすべてオレの平穏のため・・・だったはずなんだがなぁ。はぁ〜。 そういえばナタリア料理持ち込み阻止のために毎度テーブルが埋まるほど料理を作っていたのでいつもあまってしまい、屋敷の者に配っていた記憶がある。 噂が広がったのはそれが原因か。 どちらにせよ評判となったオレの料理だが、自分はあんまり食べてない。 それも当然。なにせ夜抜け出しては世話になっている食堂のおばちゃんのおいしい手料理を食べてきてるからねぇ。 あと、なんか前世では平民だったせいか、毎日が満干全席みたいなのが耐えられないんだ。 下町のご飯はうまいぞ。 それとどうも前世の記憶が戻ってからは甘いものが好きでないようだ。 あとニンジン。 あのオレンジが食べたくない。 なんでだ? 生前ウサギにのろわれた記憶はないんだが。 記憶?あ、いや、もしかすると、オレが記憶をなくす前の十年間で何かがあったのかもしれない。 おそろしい、十歳のオレ。動物いじめはダメだぞ。 ま、どうでもいいか。 嫌いなものは嫌。好きなものは好き。それだけわかれば日々は過ぎていく。 ああ今日もいい天気だ。 でもかったるい。 そうだ。 寝よう。 今日は木陰でお昼寝を決行した。 |