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02. 終わりからはじめよう |
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:: side 綱吉成り代わり主 :: 「あぶないよけろ!!」 学校帰り、友達とだべりながら歩いていたら、ソレはやってきた。 工事現場の横を歩いていた時、突然大きな音がして、絶叫のような声が聞こえた。 とたん、自分の真上に大きな影ができた。 影の正体を突き止めようと見上げた時、そこにはすぐ目の前に迫った――鉄筋の山。 そして視界の端で呆然とたたずむ子供の姿。 気がつけば、勝手に体が動いていた。 ここからはなさないと。 逃げろという周囲の声が届いたかはわからない。 動けずにいる子供たちをとっさに影の下から押しやり―― ガラガラガラ!!ドォーン!! 激しい衝撃に体が地面となにかにはさまれたような? わからない。 そこらじゅうが文字通り死ぬほどの痛みに痙攣を起こす。 助けを呼ぼうにも口からこぼれるのは、鉄くさい赤いもの。 ゴボゴボとそれが溢れ、体からは命の炎を刈り取って行く。 あぁ、死ぬんだ。 それだけが鮮明で―― 最後に見たのは、憎らしいほどにどこまでも青く澄んだ・・・大空。 ********** いろんな小説なんかでよくあることだけど・・・。 子供をかばって、自分は逃げ損ねて死んでしまったらしい。 あの感触からいって、オレが死んだのは確実で、それは絶対のことで間違いはない。 別に子供のために死んでもいいと思ったわけじゃない。 体が勝手に動いた結果、逃げ遅れてしまったんだ。 身体は痛いのにもう感覚もなくて。 なのに最後の最後で意識があって、かけよってきた友人に名を呼ばれた。 ・・・生きたい・・・・・もっと、生きたかった。 そう思った。 死にたかったわけじゃない。 遣り残したことだってあった。 やりたいこともあった。 でも死んだ。 もう、この目を閉じたら二度と目覚めないだろうともわかっていた。 だから死んだと思った。 ――否、死んだはずだった。 なのに。 死んで目が覚めたら、なんだかもふもふした場所にいた。 女性の優しい歌声が聞こえて、重いまぶたを無理やりあけた。 そこで目に入ったのは、やたらとでかい赤ん坊。 しかもなんだか物凄く幸せそうな笑顔で、にへら〜と笑ったまま寝ていた。 あまりに気持ちよさそうで、こちとら生きたくても死んで腹がたっていたので、八つ当たりじゃないけど、そのぷくぷくとしたホッペを思いっきりつっねってやろうと思った。 「(あれ?)」 だけど想いとは裏腹にまったく体が動かなかった。 あまりの重さにまるで体を拘束されたガリバーにでもなったかのようだった。 ――そういえば自分は死んだはず。 なら、なぜこうして意識があるのだろう。 体には痛みもないことから、運良く助かって病院に運ばれたとは考えにくい。 なのになんで自分は意識があるのだろう? ここが病院ではないのなら、天国…というより、死後の世界だろうか。 薬品くさくもないし、むしろ温かい太陽のにおいがするからその通りなのだろう。 柔らかい何かに包まれているのは酷く気持ちがいい。 ポカポカ温かい陽だまりは太陽のにおいで・・・あれ?乳臭い。 そっか。目の前に赤ん坊がいるから赤ん坊くさいんだな。 ってか、こいつ本当にでかいな。 見上げたオレの視界をそのゆるんだ顔だけで覆うほどとは。 なんてジャイアントだ。 天国は巨人の国なのか。 「あらつっくん、おきたのね〜」 なんなんだこのバカでかい赤ん坊は。 そう思っていたら、今度はぬぅっとオレの真上に影がかかり、どこかで見たことのある女性がそこにいた。 一瞬、頭上に影ができたことで、先程の死ぬ間際のゾッとしたあの出来事を思い出し、背筋が凍った。 けれどそれも一瞬。すぐにひとだとわかり、緊張もとけほっと息が漏れる。 遠くで赤ん坊の泣き声がした。 耳につくソレはあまりに悲壮感漂っていて、甲高く、オレが最後に聞いた友達の悲鳴に似ていて・・・酷く耳障りだった。 「まぁまぁ。ほら、つっくん泣かないで〜ママですよぉ」 大きな女性は、くるみ色の瞳を柔らかく細め、オレを優しくだきあげた。 「(え!?“つっくん”てオレ!?)」 「こわいことなんかなんもないですからね〜。なっちゃっんもママも側にいますよぉ〜」 優しく揺さぶられ、自分が抱かれていると気付き、先程の赤ん坊の声は自分の口からでていたのだと気付き愕然とした。 周囲がでかいんじゃない。オレが小さいんだと…。 ――オレは赤ん坊になっていた。 間違いなく死の感覚が残っている。 だというのに、オレはそのまま天国にも地獄にも行くことはできず、また生まれ変わってしまったらしい。 「おはよう奈々。おうおう、でけぇー声だな」 「あら、アナタ。おはよう」 「なんだ綱吉も起きたのか」 ふわぁ〜と眠そうに欠伸をしながら現れた人物を視界に捕らえ、さらに目をむく。 その名前にも心当たりがありすぎて、オレは一瞬、妄想の激しい自分の脳を呪った。 目の前の少女のような可愛らしい女性は、奈々。 いかにもサラリーマンとは真逆でスポーツ選手もビックリな肉体を持つトゲトゲ頭の男が、沢田家光。 この二人のことは知っている。 その二人に呼ばれた名に、一瞬頭が真っ白になった。 誰が何だって? 今、“オレ”はなんと呼ばれた? 沢田綱吉。 この名は、オレが死ぬ前までいた場所ではやっていた少年漫画【家庭教ヒットマンREB0RN!!】の主人公の名前だ。 マフィアのボスになるために、赤ん坊な家庭教師と肉体バトルを繰り広げる苦労満載の話。 読む分には、それなりに面白いとは思った。 けどそれほど好きというわけでもなく、むしろ自分的には【0NE PIECE】の方が好みだった。 だから漫画の主人公なんかに生まれ変わらせるなら、オレよりもっと【家庭教ヒットマンREB0RN!!】が大好きな人間など山ほどいるだろうにと思った。 死んで気がつけば漫画の世界にいて――。 なぜ“オレ”なんだと思った。 オレがツナヨシ――それが本当なら、オレは本来の『沢田綱吉』の命を奪ってココにいるのだろうと思った。 そこで視界に入ったものに、これはどういうことだと疑問が浮かぶ。 自分のすぐ脇にいた赤ん坊の存在を思い出し首を傾げる。 原作【家庭教ヒットマンREB0RN!】では、沢田綱吉に兄弟はいなかったはずだ。 奈々や家光の話から、横にいる赤ん坊が自分の双子の弟らしいことをしり、ここは原作とはまた別の世界なのだろうかと不思議に思う。 ふと、あまりに綱吉に似たをみて、恐ろしい考えが浮かんだ。 原作にはいないはずのこいつの存在は、“オレ”がこの肉体から追い出した『本当の沢田綱吉』なんじゃないかと。 なぜか“オレ”が綱吉になりかわってしまったため、追い出された魂が双子の弟の姿をとったのではないかと…。 自分はイレギュラーだ。 そんな自分がここにいる。 なら本物が、双子として生まれてもおかしくはない。 だけどとっさに『ソレ』は違うと思った。 超直感。 某金色の魔界の子の漫画で登場した主人公は、すべてを見通す能力〈アンサートーカー〉をもっていた。 【家庭教ヒットマン REB0RN!】の沢田一家が初代から受け継ぐ血には、〈アンサートーカー〉によく似た優れすぎた直感力が生まれる。 それが混乱するオレに働いた。 “オレ”こそが『沢田綱吉』だと――血が騒ぐ。 目の前にいるのはあくまで弟で、綱吉はオレだと…。 それに納得してしまうのは血のなせる業だろう。 だけど残った理性がソレを拒否する。 だってオレは今までの友達のこともその名前も住んでいた町のことも覚えているのだから。 だからオレが漫画の主人公なんて、まだどこかで信じられなかった。 そうだ。それにオレは綱吉じゃない・・・・・・オレは―― そこでやっとオレは、前世の自分の姿やの名前を思い出せないのことに気付いた。 友達の名前も顔も覚えているのに、自分のことだけが思い出せない。 すかさず自分の名前を告げようとするが、何度やっても何もでてこない。 それが、決定打だった。 (生まれ変わったのか?オレが・・・綱吉に?) 矛盾した思いが二つ。真実と信じたくない!その思いがオレから否定の言葉を奪い、頭の中はぐちゃぐちゃだ。 混乱して、叫びたくなるなか、すでに心のどこかででていた解答が、一筋の光のように瞬いた。 簡単に考えればいいのだと血が語る。 沢田綱吉となるべく生まれるた存在が、偶然にも前世の記憶を思ったままここにいると… ただ、それだけのこと。 綱吉――そう、両親に呼ばれて、側にオレと同じ赤ん坊の温もりを感じて・・・。 オレは諦めた。 オレが“オレ”を認めたことで、それとともに胸のもやつきがほとんどなくなり、思考が幾分落ち着く。 ストンと何かがオレの中に落ち着くのを感じた。 先程までの荒れ狂った感情は一瞬で沈静してしまう。 穏やかなその感情は、やはり血のなせるわざなのだろう。 残ったのは、“オレ”が沢田綱吉であるという事実。 (じゃぁ、やっぱり『綱吉』はオレなのか) 前世の記憶があるという影響が、血に抗おうとし、 この先の未来をどうするべきかと再び悩んでいると、脇にいる子供へと意識がむく。 無邪気にニヘラ〜とゆるんだ顔をした弟は、ゴロンとこちらに寝返りを打って近づいてきた。 よだれまでたれて腹丸出しで・・・なんともまぁ、幸せそうな寝顔である。 オレは、前世の記憶を持ったままの沢田綱吉だから。 イレギュラーなオレには、イレギュラーで双子の弟がいてもまったくおかしくない。 漫画では、十年後に行くにあたりパラレル世界について入江正一が話していた。 もしかすると、ここはそんなパラレル世界の一つで、イレギュラーが集まった世界なのかもしれない。 弟の存在は、ここが原作とはまた違うリボーンの世界なのかもしれないと、オレに納得させるなにかがあった。 オレが沢田綱吉である事実はかわらない。 受け入れようと思った。 だって、この手を伸ばせばすぐのところにいるのが、本当にオレの血のつながった半身であるとわかるから。 しかたないなと。オレは沢田綱吉で、この隣の赤ん坊の双子の兄なんだと納得して。 だから―― オレも伸ばされたの腕を取ろうとして・・・ ガブリ!! 「っ!!!!」 何を間違ったか、突然顔を近づけてきたにオレは腕を噛まれた!! 「ふえっ」 赤ん坊の力で懸命に、手をふったり、やつの頭をたたいたりするのだが、は離れてはくれなくて、しまいにオレは泣いて奈々さんに助けを求めた。 はあらん限りの力でオレに抱きつき、おしゃぶりとでも間違っているのかオレの手から口が離れない。 お前はスッポンか!?しかもオレはお前のおしゃぶりか!! 結局、「仲良しさんね〜」とおかしな風に勘違いした母こと 奈々さんが笑いながら無理やり口をこじ開けたのだが、はまったく気にもせずそのまま寝ていた。 オレは、世界よりも何よりも今は目の前の弟が怖くて泣いた。 獲物でも逃がすまいとするような吸引力はすさまじかった。 おかげでオレは目覚めた早々、弟の涎による洗礼を受けた・・・。 これが世界がオレの誕生を祝う祝福だったら――なんか悲しい。 とりあえず。 まだ歯がなくて良かったと思ったのは秘密だ。 |