影と咲く陽だまりの奏
-HUNTER×HUNTER-



05. 影使い





その子供には自覚がないようだった。
けれど見た瞬間に、その 《念能力》 が欲しいと思った。








:: side クロロ ::








『なんじゃ?なんじゃ?ツバキのところに帰るんじゃよ〜離さんかい!』

「...気付いてないのか?」

『ちゃんと気付いておるよ。迷子になったのは自分のせいだって。
ツバキが動くなって言ったのに動いてはぐれたわしが悪いんじゃ、じゃからの、名誉を挽回しようと会場はこちらって矢印を追っておったんじゃて」

「そうか...」



今回の目的は、青い色硝子を使った手のひらに乗るほどの小さな亀の形をした硝子細工。

それは一見しただけでは、ただのすばらしい工芸品にすぎないが、それは類まれな念能力者でもあったあるカラクリ師が加工した一種の鍵だった。
鍵というのはあくまで比喩であり、本来亀はひとつではなにもならい。
この硝子細工の他にいくつもの部品が合わせると、これらは一つの巨大な装置となるのだ。

クロロはすでに残りの備品をすべて手に入れていた。
必要としているのはあと一つ。
亀をはめ込むことで、これでやっとカラクリ師の装置は本来の姿を取り戻す。

ゆえに亀が眠る美術館を訪れたが、いつも以上に警備を増やしていた。
しかしそれくらいでクロロの、幻影旅団の計画は変わらない。

だが、残念なことにに、幻影旅団が狙っているのは、あくまで亀の細工。
しかし警備員がはりきって守っているものは―――普通の宝だ。クロロが狙っているものではない。

もちろんそっちのお宝も頂くが、あくまでも狙いは青い亀のガラス細工。

クロロは前髪を下ろし、額の逆十字の刺青を布で隠しなにくわぬ顔をして客の一人として偵察と下準備を行なった。
今回の道楽につき合わせてしまい旅団の仲間には悪いと少しばかり思ったが、暇な彼らには問題なかったようで、雇われハンターたちもあっけなく宝を置いてこの世とお別れをしている。

「さすが団長」
「賊から客を逃がす誘導をするなんて絶対疑われねーな」
「手間が省けるだろう?」

やとわれたハンターや警護は弱かったが、途中同じ目的で侵入してきた賊らの方がそれなりに手ごたえがあった。
警護のハンターがそれをみてすぐに客に避難の指示を出しているいるのを見て、クロロはそれを利用しようと考え、騒がしい客の逃げる手助けをして、騒ぎにまぎれて外に出ようとした。

青い硝子細工の亀は、仲間の一人がとってくる手はずになっている。
そのままビルをでたところで、連絡が入り仲間より先に賊が盗み出していたらしく、盗られたたものがこちらに向かっていると知る。
クロロはしかたなく、ビルの中に引き返すと、そこで黒いいくつかの影が殺気だって何かを追っているのに気付いた。

「なんだ?」

驚いた。

なんとはなしに視線で後を追えば、小さな子供がいた。
まだ5,6歳ほどじゃないだろうか?
無防備すぎて、すぐに背後の奴らにやられて死ぬだろうと思えた。

クロロがみたのは、巻き込まれだけのただの子供だった。
どうやらあの子供が偶然彼らが狙う宝を拾ってしまったようだった。

しかし子供は子供でも、只者ではなかったようで、背後からの攻撃を見向きもせずに交わしていた。
さらに驚くことに子供は念能力者だったらしく、口封じにか一人の男が子供に念の攻撃を仕掛けたとたん、子供の影が突然大きく動き地面から盛り上げるとガバリと口を大きく開け仰天している男を飲み込んだ。
そのまま影は音もなくもとの大きさ、位置にもどる。
カランと男が持っていたナイフだけが、地面に落ちた。
それ以外は何も残っていない。
男の分の血痕一つない。

襲撃者たちは相手がただの子供でないと気付くと、逃げればいいものを、仲間を失ったことで激怒してしまい、まだ振り向いてもいない子供へと襲い掛かった。

「よくも仲間を!」

子供はその叫び声に驚いたのか、目を瞑って頭をかばうように腕を掲げた。

瞬間、再び影に念の力が加わり複数の男たちを一瞬でのみこんだ。

今度こそ絶叫が聞こえるかと思ったが、影は男たちが声をあげることも許さなかった。
残ったのは床に落ちた彼らの持ち物であったナイフと硝子細工のカメぐらいだろう。
子供が発現した影にのみこまれた男たちは、髪の毛一本戻ってはこなかった。

(なんだあれは、念、なのか?しかも念に…反応してるのか?
これはシズクと同じ具現化系か?特質系か?)

クロロは子供の念能力がどういったものであるか見極めようとしたが、みただけではいまいちよくわからない。
ある一定の距離に近づいた時、相手の念や敵意に反応することだけはわかった。

もしかするとあれはあの子供へ危害を加えようとしたものを食らう能力なのかもしれない。

そうすると無理やり能力を奪っても条件次第では、念は「主」ではなくあの子供しか守らないかもしれない。
ともすれば、逆に、コチラの能力をあの影に食われる可能性だってないとはいえない。
あの能力はどうやら取り込んだものを影の糧とするらしく、食べられてしまえば二度と還ってこないだろう。

クロロはほしいなと思ったが、一応確認のために少し殺気をちらつかせたとたん、影はざわめき襲い掛かってこようとした。
どうやら殺意以外の敵意にも反応するようで、無意識に出していたそれら殺意や悪意などを《絶》をもちいて消す。
ほぼ無心に近い状態で何も考えずに近づくと、あの念は発動しなかった。

たまにゆらりと影が陽炎のように揺らめいたが、その後もこれといって何もおきず、クロロはそのまま座り込んでいる子供を抱き上げた。

突然現れたクロロに、子供は不思議そうな顔をして鮮やかな緑の瞳をクロロへと向ける。
向けられた瞳に、クロロはほぅと一瞬目を細める。
いい目だと思った。
先程盗み出した宝石や細工品もかくやと思わせる鮮やかな青に、微笑みつつ、怖がらせないように笑みを浮かべてみせる。
逃げ遅れ、はぐれた子供を気遣う演技だ。

盗賊団にいるときとは違う髪形に違う服を着る。それだけでよく周囲からは別人のようにしか見えないといわれた。
それを利用して下調べやら、内側に入り込むのだ。
今回もフレンドリーなお兄さんっぽいといわれた笑顔と口調で、抱き上げた子供に話しかけるのだが――

「逃げ遅れたのかな?さっきまで盗賊が来ていてね、ここは危ないから外に出よう」

どうやら彼は聞いていないようでなぜか呆然として、クロロのほうを凝視したまま何かを考え込んでいるようだった。

「どうかしたの?」
『……』
「おーい。聞いてるかな?君は迷子なんだよね?
お母さんかお父さんときたのかな?一緒に探しにこう」

しかしクロロが何度か呼びかけても一向に返事がない。
あまりに無視が続くのでいい加減飽きてきたクロロはこのまま念能力だけ奪おうかと考えたが、そこでこの子供の念能力を発動させてもらわないとどうすることもできないのを思い出し、今度は少し脅すように表情を改める。


「さっき人が消えたけど……なにをした?」


殺気に反応したのか。
ただタイミングの問題だったのか。
クロロのその問いになにか思い当たることがあったのか、子供は我に返るなり『助けられたのではなく、いつものか…』とため息をついた。


その後、クロロは子供がやはり迷子であることをしる。
っが、それ以上に一挙一動が年寄りくさい。

「 “さっき” のは?」
『 “さっき” というのは、人が消えたことじゃな?
あれはわしにもわからん』

思い出したよな自然さを装ってクロロが、子供に念能力の話を持ちかけると、念という概念は理解していないようだが予想外の面白いことを聞き出すことができた。

『ツバキが言うには、 “煙が出ている奴” とわしは相性が悪くて、そういうのはわしに近づくと千切れたり消えたりするらしい。まったくもってわけがわからん』

どうやら子供は、自分が何をしたかもわかってないようだった。
それよりクロロには聞き捨てならない言葉をきき、つい聞き返していた。

「けむり?」
『うむ、けむりじゃ、けむり。さっきだと・・・お主、本のような形の煙を出そうとしたじゃろう?
今は奇麗におぬしの周りを流れてるおるがな』

にこにこと嬉しそうに告げる子供の示したものに、クロロはハッとする。
本――その言葉に、子供が無意識に見ているものが “なんなのか” 気付いたのだ。

「オーラか」

『は?オナラ?いやいや、わしはそんなものこいておらぬよ!!』

クロロは一瞬考えるそぶりを見せた後、派手な聞き間違いをして首をぶんぶんと横に振っている子供を目を細めて楽しげに観察する。

念をきちんと念として理解したら…。
例えば、このこどもを鍛えたらどうなるのだろうかと

―――面白そうだ。

クロロはそうして、そのままこどもと連れ帰ることにした。


「その “消える” っていうの、どんな念能力なんだい?」
『今度はねんど?っというか、消える方法なんて見たことないんじゃよ。死ぬ!とか思って目を閉じて目を開けたらもうなにもないんじゃ。
気がついたら消えてるんじゃから答えようが……って、そろそろ帰りたいんじゃが!!』



そして二人の会話は、冒頭まで戻る。





偶然居合わせただけの子供は面白かった。
興味がわき、この子供がきちんと念を学べばどうなるだろうかと思い、クロロは面白い土産ができたとばかりにそのままそれを旅団に持ち帰ることにしたのだった。















「あれ?団長、なにをみているんですか?」

楽しい土産ができたはずだった。
面白くなければ捨てればいいだけだと思っていた――。

しかし。

仲間との待ち合わせ場所までに、腕の中にいたはずの子供は人ごみのどこかでひっかけてしまったらしく、到着した時には腕の中にあの小さな子供のぬくもりはなく、子供用のコートと「」と名前の彫られた迷子札だけしか残っていなかった。

「まぁ、いい。いずれ会える」

クロロはクッっとのどを鳴らして、小さな鉄板に書かれた迷子の名前を覚えてそれを自分の服のポケットにいれた。








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